(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記弁開閉時期制御装置が、前記進角室と前記遅角室とで成る前記流体圧室を複数備えて構成されると共に、前記機関制御部は、複数の流体圧室の1つが前記回転軸芯より下側に位置する状態では、前記進角室と前記遅角室との一方が他方より高い位置にあるように当該内燃機関を停止させる請求項1記載の内燃機関。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の内燃機関は、クランクシャフトと同期駆動する駆動側回転体と、カムシャフトと同軸で一体回転する従動側回転体とで成る弁開閉時期制御装置が示されている。
【0003】
この特許文献1の弁開閉時期制御装置では、従動側回転体の外周にベーンを突出形成し、駆動側回転体と従動側回転体のとの間に形成される流体圧室をベーンで仕切ることにより進角室と遅角室とを形成している。また、従動側回転体の外周には凹部が形成され、この凹部に係脱するロック部材(文献ではロック片)を駆動側回転体の内周から出退可能に備えてロック機構が構成されている。
【0004】
また、特許文献1では、駆動側回転体と従動側回転体との相対回転位相を進角方向又は遅角方向に変化させるために進角室に接続する油路と遅角室に接続する油路とが形成され、更に、ロック状態において凹部に作動油を供給することでロック解除を行う油路が形成されている。
【0005】
特に、この特許文献1の弁開閉時期制御装置では、作動油が僅かにリークするように構成され、内燃機関が停止した状態で弁開閉時期制御装置の遅角室から作動油を積極的に排出するための空気流入機構が示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されるように空気流入機構を備えた弁開閉時期制御装置では、流体圧室に作動油が残留するものと比較すると、内燃機関を始動する際には、相対回転位相を短時間で変化させて必要とする相対回転位相への移行を容易にする。しかしながら、特許文献1に記載される空気流入機構は、弁開閉時期制御装置の回転時にはバネ力に抗して遠心力により閉塞し、回転の停止時にはバネ力により開放する構成であるため、部品点数が多く、作動不良が生じた場合には、空気の流入が損なわれる。
【0008】
特許文献1に記載されるように弁開閉時期制御装置に空気流入機構を備えているものであっても、故障状態にある場合には作動油が流体圧室に残留するため、中間位相への変更に時間が掛かることになる。従って、例えば、弁開閉時期制御装置の相対回転位相が最遅角位相にある内燃機関を始動する際に、弁開閉時期制御装置の回転位相を中間位相に変更する場合には、回転位相の変更に時間が掛かることになり改善の余地がある。
【0009】
本発明の目的は、内燃機関を始動する際には弁開閉時期制御装置の相対回転位相を所望の位相に迅速に変更することが可能な内燃機関を合理的に構成する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の特徴は、当該内燃機関のクランクシャフトから回転力が伝達されることにより回転軸芯を中心に回転する駆動側回転体と、前記駆動側回転体に内包されることにより前記駆動側回転体の内側表面との間に進角室及び遅角室で成る流体圧室を形成し、弁開閉用のカムシャフトと一体回転する従動側回転体と、前記駆動側回転体及び前記従動側回転体のうちの何れか一方に形成した凹部に対して係合・離脱可能となるように前記駆動側回転体及び前記従動側回転体のうちの何れか他方に備えたロック部材により構成されるロック機構とを有する弁開閉時期制御装置が備えられると共に、当該内燃機関を停止する停止制御を行う際には、前記弁開閉時期制御装置の前記ロック機構が形成された部位を
最下方に位置
させるように当該内燃機関を停止させる機関制御部が備えられている点にある。
【0011】
特許文献1にも記載される弁開閉時期制御装置のように、流体圧室の流体(通常は作動油)が僅かにリークする構成を有するものでは、流体圧室から流体がリークすることにより、流体圧室に対し外部から空気が侵入し、流体圧室の液面が徐々に低下する。また、弁開閉時期制御装置は、相対回転位相を変更する流体を供給するための流路が回転軸芯の近傍位置に形成され、この流路に給排する流体を制御する制御弁を装置の外部に備えている。このような構成から、内燃機関が停止する状況では、流路を介して流体圧室の流体が外部に流れ出す現象も発生する。従って、内燃機関の停止時には流体がリークする現象と、流路を介して流体が外部に流れ出す現象とにより流体圧室の液面が低下することになり、この液面の低下は、この液面が回転軸芯の近傍に達するまでは比較的速い。また、液面が回転軸芯より下側に達した後には、リークによってのみ流体が排出されるので低下の低下速度が鈍化する。また、温度低下により流体の粘性が高まるため、どうしても弁開閉時期制御装置の下側に流体が残存することになる。
また、内燃機関が停止する状態では、流体圧室を有しないロック機構の部位が回転軸芯より下側に位置するので、内燃機関が停止した後に温度の低下により流体の粘性が上昇して液面が充分に低下しない場合でも、ロック機構より高い位置の流体圧室の流体の排出を可能にする。そして、内燃機関の始動時には、弁開閉時期制御装置の相対回転位相を変更するために流体圧室に流体を供給した場合には、流体圧室に残留する流体から相対回転位相の変化を抑制する方向に作用する抵抗を小さくして相対回転位相を所望の位相に迅速に変更することが可能となる。
その結果、内燃機関を始動する際には弁開閉時期制御装置の相対回転位相を所望の位相に迅速に変更することが可能な内燃機関が構成された。
【0012】
本発明は、前記弁開閉時期制御装置が、前記進角室と前記遅角室とで成る前記流体圧室を複数備えて構成されると共に、前記機関制御部は、複数の流体圧室の1つが前記回転軸芯より下側に位置する状態では、前記進角室と前記遅角室との一方が他方より高い位置にある
ように当該内燃機関を停止させても良い。
【0013】
これによると、内燃機関の停止時には複数の流体圧室の少なくとも1つが、回転軸芯より下側にある場合でも、進角室と遅角室とのうち高い位置にあるものの流体をリークにより排出を行わせることが可能となる。これにより、進角室と遅角室とに流体が残留するものと比較すると、内燃機関の始動時には弁開閉時期制御装置の相対回転位相を迅速に変更することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔基本構成〕
図1及び
図2に示すように、吸気弁Vaの開閉時期(タイミング)を制御するように吸気カムシャフト7aと同軸芯上に配置され、クランクシャフト1と同期回転する弁開閉時期制御装置Aを備えて内燃機関としてのエンジンEが構成されている。
【0016】
エンジンEは、シリンダブロック2の上部にシリンダヘッド3を連結しており、シリンダブロック2に形成された複数のシリンダボアにピストン4を摺動自在に収容し、ピストン4をコネクティングロッド5によりクランクシャフト1に連結した4サイクル式に構成されている。
【0017】
シリンダヘッド3には、燃焼室の吸気を行う吸気弁Vaと、燃焼室の燃焼ガスの排気を行う排気弁Vbとが備えられると共に、吸気弁Vaを制御する吸気カムシャフト7aと、排気弁Vbを制御する排気カムシャフト7bとが備えられている。また、クランクシャフト1の出力スプロケット1Sと、弁開閉時期制御装置Aの外部ロータ20(駆動側回転体の一例)の駆動スプロケット22Sと、排気カムシャフト7bのシャフトスプロケット7Sとに亘ってタイミングチェーン6を巻回している。
【0018】
シリンダヘッド3には、吸気弁Vaを介して燃焼室に空気を供給するインテークマニホールド8と、排気弁Vbを介して燃焼室からの排気ガスを送り出すエキゾーストマニホールド9とが連結されている。また、シリンダヘッド3には、点火プラグ10が備えられ、インテークマニホールド8には燃料噴射ノズル11が備えられている。エンジンEの外部にはクランクシャフト1に回転力を作用させるスタータモータ12が備えられている。
【0019】
このエンジンEは、複数のピストン4が吸気行程、圧縮行程、燃焼行程、排気行程を順次行うように4サイクル式エンジンに構成されている。そして、これらの行程に連係してクランクシャフト1の回転力がタイミングチェーン6から吸気カムシャフト7aと排気カムシャフト7bとに伝えられ、吸気弁Vaと排気弁Vbとがクランクシャフト1の回転に同期して開閉する。
【0020】
なお、このエンジンEは、排気弁Vbの開閉時期を制御するため排気カムシャフト7bに弁開閉時期制御装置Aを併せて備えても良い。また、外部ロータ20に駆動スプロケット22Sを形成することに代えて、外部ロータ20にタイミングプーリを形成し、これにタイミングベルトによりクランクシャフト1の回転力を伝える構成を用いて良い。これと同様に、外部ロータ20の外面にギヤを形成し、これにギヤトレインによりクランクシャフト1の回転力を伝える構成を用いても良い。
【0021】
エンジンEは乗用車等の車両に備えられるものであり、エンジンEと弁開閉時期制御装置Aとは、ECUとして構成される機関制御部としてのエンジン制御ユニットBによって制御される。エンジンEにはクランクシャフト1の回転姿勢を検出するクランクセンサ13を備えており、弁開閉時期制御装置Aの近傍位置には外部ロータ20の回転姿勢と相対回転位相とを検出する開閉時期センサ14を備えている。
【0022】
〔弁開閉時期制御装置〕
図1〜
図5に示すように、弁開閉時期制御装置Aは、クランクシャフト1と同期回転する駆動側回転体としての外部ロータ20と、吸気カムシャフト7aに対して連結ボルト33により連結する従動側回転体としての内部ロータ30とを備えている。これらは吸気カムシャフト7aの回転軸芯Xと同軸芯上に配置され、回転軸芯Xを中心にして相対回転自在に支持されている。この弁開閉時期制御装置Aは、外部ロータ20と内部ロータ30との相対回転位相(以下、相対回転位相と称する)の変更により吸気弁Vaの開閉時期(開閉タイミング)を制御するように構成されている。
【0023】
外部ロータ20は、円筒状となるロータ本体21を有すると共に、回転軸芯Xに沿う方向でロータ本体21の一方の端部に当接して配置されるリヤブロック22と、回転軸芯Xに沿う方向でロータ本体21の他方の端部に当接して配置されるフロントプレート23とを複数の締結ボルト24により締結した構成を有している。また、リヤブロック22の外周には、クランクシャフト1から回転力が伝達される駆動スプロケット22Sが形成され、ロータ本体21には円筒状の内壁面と、回転軸芯Xに近接する方向(径方向内側)に突出する複数の突出部21Tとが一体的に形成されている。
【0024】
特に、リヤブロック22とフロントプレート23とのうち少なくとも一方は、締結ボルト24で締結された状態でロータ本体21との間に小さい隙間を形成している。これにより、流体圧室Cに貯留される作動油(流体の具体例)の僅かなリークを許容するように構成されている。
【0025】
1つの突出部21Tに対して回転軸芯Xから放射状となる姿勢で一対のガイド溝が形成され、これらのガイド溝にプレート状のロック部材25を出退自在に挿入している。また、ロータ本体21の内部にはロック部材25を回転軸芯Xに接近する方向に付勢する付勢手段としてのロックスプリング26を備えている。この構成から、一方のロック部材25と、これを突出方向に付勢するロックスプリング26とで第1ロック機構L1が構成され、他方のロック部材25と、これを突出方向に付勢するロックスプリング26とで第2ロック機構L2が構成されている。なお、ロック部材25の形状はプレート状に限るものではなく、例えば、ロッド状であっても良い。
【0026】
第1ロック機構L1と第2ロック機構L2との上位概念をロック機構Lと称する。また、複数の突出部21Tのうち、一対のロック部材25と、これに対応するロックスプリング26とが備えられた部位をロック機構配置部21Wと称する。
【0027】
内部ロータ30は、回転軸芯Xと同軸芯上でシリンダ内面状となる内周面30Sが形成されると共に、回転軸芯Xを中心とする外周面が形成され、この外周面には外方に突出する複数のベーン31が嵌め込まれている。この内部ロータ30のうち回転軸芯Xに沿う方向での一方の端部には鍔状部32が形成され、この鍔状部32の内周位置において回転軸芯Xと同軸芯に形成される孔部に挿通する連結ボルト33により内部ロータ30が吸気カムシャフト7aに連結されている。内部ロータ30には
図3〜
図5に示す進角室Caに連通する進角流路34と、遅角室Cbに連通する遅角流路35と、一対のロック解除流路36とが形成されている。
【0028】
内部ロータ30の外周面の外周径を、外部ロータ20のロータ本体21の複数の突出部21Tの突出端に密接する状態で嵌り込む値に設定し、複数のベーン31の突出端がロータ本体21の円筒状部位の内面に当接するように各々のベーン31の突出量を設定している。このような構成から、内部ロータ30を外部ロータ20に嵌め込むことでロータ本体21の内側表面(円筒状の内壁面及び複数の突出部21T)と内部ロータ30の外周面とで取り囲まれる領域に流体圧室Cが形成される。更に、この流体圧室Cをベーン31が仕切る形態となり進角室Caと遅角室Cbとが形成される。
【0029】
内部ロータ30の外周には前述した第1ロック機構L1のロック部材25の係合・離脱が可能な第1ロック凹部37と、第2ロック機構L2のロック部材25の係合・離脱が可能な第2ロック凹部38とが形成されている。この第1ロック凹部37と第2ロック凹部38とは内部ロータ30の外周面に対して回転軸芯Xの方向に窪む凹部として形成されている。第1ロック凹部37には一対のロック解除流路36のうちの一方が連通し、第2ロック凹部38には一対のロック解除流路36のうちの他方が連通している。また、進角室Caに連通する進角流路34が第1ロック凹部37に近接する位置に形成されている。
【0030】
第1ロック凹部37には、この第1ロック凹部37の深さより浅い第1ラチェット部37Aが連設され、第2ロック凹部38には、この第2ロック凹部38の深さより浅い第2ラチェット部38Aが連設されている。
【0031】
これらは、相対回転位相が遅角側から進角方向Saに変化した際に第1ロック機構L1のロック部材25が第1ラチェット部37Aに係合し、この後に第2ロック機構L2のロック部材25が第2ラチェット部38Aに係合するように位置関係が設定されている。この係合状態から、更に相対回転位相が進角方向Saに変化した場合には、第1ロック機構L1のロック部材25が第1ロック凹部37に係合し、この後に第2ロック機構L2のロック部材25が第2ロック凹部38に係合し、
図3に示す如く、相対回転位相が中間ロック位相に固定される。
【0032】
また、外部ロータ20のリヤブロック22と内部ロータ30とに亘って、トーションスプリング27が備えられる。このトーションスプリング27は、例えば、相対回転位相が最遅角にある状態から、少なくとも中間ロック位相に達するまで付勢力を作用させる。
【0033】
このように弁開閉時期制御装置Aは、外部ロータ20に内部ロータ30を内包することで流体圧室Cが形成されると共に、この流体圧室Cをベーン31が仕切ることで進角室Caと遅角室Cbとが形成される。また、進角室Caに対して進角流路34が連通し、遅角室Cbに対して遅角流路35が連通する状態に達する。更に、第1ロック機構L1のロック部材25と第2ロック機構L2のロック部材25とは、対応する第1ロック凹部37と第2ロック凹部38とに嵌合可能な位置関係に達する。
【0034】
この弁開閉時期制御装置Aでは、タイミングチェーン6から伝えられる駆動力により外部ロータ20が駆動回転方向Sの方向に回転する。また、外部ロータ20に対して内部ロータ30が駆動回転方向Sと同方向へ回転する方向を進角方向Saと称し、この逆方向への回転方向を遅角方向Sbと称する。この弁開閉時期制御装置Aでは、相対回転位相が進角方向Saに変位する際に、変位量の増大に伴い吸気圧縮比を高め、相対回転位相が遅角方向Sbに変位する際に変位量の増大に伴い吸気圧縮比を低減するようにクランクシャフト1と吸気カムシャフト7aとの関係が設定されている。
【0035】
また、進角室Caに作動油(流体の具体例)が供給されることで相対回転位相を進角方向Saに変位させ、遅角室Cbに作動油が供給されることで相対回転位相を遅角方向Sbに変位させる。ベーン31が進角方向Saの移動端(回転軸芯Xを中心にした回動限界)に達した状態での相対回転位相を最進角位相と称し、ベーン31が遅角側の移動端(回転軸芯Xを中心にした回動限界)に達した状態での相対回転位相を最遅角位相と称している。
【0036】
尚、最遅角位相とは遅角側の移動端に限るものではなく、この移動端の近傍を含む概念であり、前述した最遅角ロック位相を含んでいる。これと同様に、最進角とは進角側の移動端に限るものではなく、この移動端の近傍を含む概念である。
【0037】
〔弁ユニット〕
弁ユニットVUは、ユニットケースに対して位相制御弁41とロック制御弁42とを収容した構造を有しており、このユニットケースに一体的に形成した流路形成軸部43を内部ロータ30の内周面30Sに挿入する形態で備えられている。この流路形成軸部43の外周には、位相制御弁41のポートと連通する周状の溝状部と、ロック制御弁42のポートと連通する周状の溝状部とが形成され、これらの溝状部を分離するように流路形成軸部43の外周と、内部ロータ30の内周面30Sとの間には複数のリング状のシール44が備えられている。
【0038】
エンジンEには、オイルパンのオイルを作動油として供給するようにエンジンEで駆動される油圧ポンプPを備えており、この油圧ポンプPからの作動油を位相制御弁41とロック制御弁42とに供給する流路が形成されている。
【0039】
エンジン制御ユニットBは、電磁式の位相制御弁41と電磁式のロック制御弁42とを操作する(この操作による弁開閉時期制御装置の作動形態は後述する)ことにより吸気タイミングの制御を実現する。位相制御弁41とロック制御弁42とは単一の弁ユニットVUに収容され、この弁ユニットVUの一部が弁開閉時期制御装置Aに挿入される形態で備えられている。
【0040】
〔エンジン制御ユニット〕
エンジン制御ユニットBは、マイクロプロセッサやDSP等を用い、ソフトウエアによる制御を実現するものであり、ソフトウエアで構成されるエンジン始動部51と、相対回転位相設定部52と、エンジン停止制御部53とを備えている。これらエンジン始動部51と、相対回転位相設定部52と、エンジン停止制御部53とはハードウエアで構成されるものでも良く、ソフトウエアとハードウエアとの組み合わせにより構成されるものであっても良い。
【0041】
エンジン始動部51は、始動スイッチ15からの情報を取得することにより、スタータモータ12を作動させ、点火プラグ10と燃料噴射ノズル11とを制御してエンジンEの始動を行う。相対回転位相設定部52は、エンジンEの稼動時にエンジンEの回転速度やエンジン負荷に基づき、開閉時期センサ14から相対回転位相をフィードバックする状態で弁ユニットVUを制御して弁開閉時期制御装置Aの相対回転位相を必要とする値に設定する。この相対回転位相の設定により混合気を効率的に燃焼させ、燃費が良く効率的なエンジンEの稼動を実現する。
【0042】
この車両では、運転者がブレーキペダルを踏み込み操作した場合にエンジンEを自動的に停止させるアイドルストップ制御と、エンジンEの稼動時に運転者が始動スイッチ15を操作してエンジンEを停止させるマニュアル停止制御とを行えるように構成されている。エンジン停止制御部53は、アイドルストップ制御とマニュアルストップ制御との何れの制御であっても、弁開閉時期制御装置Aの相対回転位相をエンジンEの始動に適した位相に設定すると共に、複数のピストン4のうち特定のピストン4が吸気行程における下死点の近傍に達した状態でエンジンEを停止させる制御を行う。この制御を行う際には、点火プラグ10と燃料噴射ノズル11とを制御してエンジンEを停止させることになるが、ピストン4が所望の位置から外れる場合にはスタータモータ12の駆動によりピストン4を所望の位置にまで移動させて停止させる制御が行われる。
【0043】
〔エンジン停止時の弁開閉時期制御装置の回転姿勢〕
エンジンEの停止時には、
図6、
図7に示すように、複数のピストン4のうち特定のピストン4が吸気行程における下死点の近傍に達すると共に、ロック機構配置部21Wが回転軸芯Xの下方で、最も低い位置に配置される位置関係でエンジンEが停止することになる。これにより、リヤブロック22とフロントプレート23とのうち少なくとも一方とロータ本体21との間に形成される小さい隙間から作動油がリークにより排出される。
【0044】
また、弁開閉時期制御装置Aは、進角流路34と遅角流路35とに位相制御弁41から作動油を給排する流路と、ロック解除流路36に対してロック制御弁42から作動油を給排する流路とが回転軸芯Xの近傍に形成されている。この構成から、エンジンEが停止する状況では、回転軸芯Xの近傍に配置される流路を介して流体圧室Cの作動油が外部に流れ出すことになる。
【0045】
このように弁開閉時期制御装置Aでのリークと、流路からの流出とにより流体圧室Cから作動油が排出され、この排出に伴い流体圧室Cに空気が入り込み、流体圧室Cの液面Q(
図6を参照)が低下する。この液面Qの低下速度は回転軸芯Xの近傍に達するまでは比較的速いが、回転軸芯Xより下側まで低下した後には、作動油がリークによってのみ排出されるため、低下速度が鈍化する。また、液面の低下速度が鈍化した状態で、温度低下に伴う作動油の粘性の上昇により、
図6に示す如く、流体圧室Cの作動油の液面Qが回転軸芯Xより低いレベルに達した後に、そのレベルを維持し弁開閉時期制御装置Aの下側部分に作動油が残存する状態に陥ることもある。
【0046】
このような理由から、本発明のエンジンE(内燃機関)では、エンジンEの停止時に、ロック機構配置部21Wが回転軸芯Xの下方に位置することにより、弁開閉時期制御装置Aの内部に作動油が残存する状態でも、このロック機構配置部21Wより上方位置の流体圧室Cから作動油を完全に排出できるようにしている。そして、エンジンEを始動する際には、スタータモータ12の駆動によるクランキングに伴い、相対回転位相を変更するために進角室Ca又は遅角室Cbに作動油を供給した場合には、流体圧室Cでベーン31の作動を抑制する方向への作動油の影響が排除されるため相対回転位相を迅速に変更して最適な相対回転位相でのエンジンEの始動を実現する。
【0047】
なお、本発明のエンジンEでは、ロック機構配置部21Wが必ずしも回転軸芯Xの直下に位置する必要はない。また、回転軸芯Xの直下に流体圧室Cが配置される場合でも進角室Caと遅角室Cbとの一方が他方より高いレベルに配置されることが望ましく、このように配置されることにより進角室Caと遅角室Cbとの一方から作動油を排出することが可能となり、エンジンEの始動時には、相対回転位相の変更を迅速に行える。
【0048】
例えば、エンジンEが異常停止により最遅角位相でロックされた場合にも、流体圧室Cの作動油の殆どが排出されるため、冷間状態のエンジンEを始動する際には、スタータモータ12の駆動によるクランキングに伴い、相対回転位相を中間ロック位相に移行するために進角室Caに作動油を供給した場合には、流体圧室Cでベーン31の作動を抑制する方向への作動油の影響が排除されるため相対回転位相を迅速に変更して最適な相対回転位相でのエンジンEの始動を実現するのである。
【0049】
〔別実施形態〕
本発明は、上記した実施形態以外に以下のように構成しても良い。
【0050】
(a)ロック機構Lとして、外部ロータ20(駆動側回転体)に凹部を形成し、この凹部に係合・離脱可能なロック部材25を内部ロータ30(従動側回転体)に備えて構成する。また、ロック機構Lとして、外部ロータ20(駆動側回転体)と内部ロータ30(従動側回転体)との何れか一方に単一のロック部材25をロック機構配置部21Wに備える。このようにロック機構Lを構成したものであっても、エンジンEの停止時にはロック機構配置部21Wを回転軸芯Xより下側に位置させることにより、流体圧室Cの作動油の排出が実現する。
【0051】
(b)相対回転位相を最遅角に固定するように、この最遅角に対応する相対回転位相において第2ロック機構L2のロック部材25が係合する凹部を備えるとともに、ロック解除手段としての油圧源を備えて弁開閉時期制御装置Aを構成しても良い。このように構成したもので、例えば、弁開閉時期制御装置Aが最遅角位相にある状態からエンジンEを始動する場合に、相対回転位相を中間ロック位相へ変化させる場合の作動を迅速に行わせることも可能となる。
【0052】
(c)エンジンEの駆動力によりバッテリーの充電を行い、この充電が完了した場合には 弁開閉時期制御装置Aを最遅角位相でロック機構により固定した後に、エンジンを停止させる制御が行われるハイブリッドシステムを有する車両に本発明のエンジンEを搭載しても良い。このような制御を行うものであっても、例えば、バッテリーの充電が完了してエンジンEが停止した状態で、駐車場に停車させ、エンジンEが放熱して冷間状態に達している状況でも弁開閉時期制御装置Aの相対回転位相を迅速に進角方向Saに変化させて良好なエンジン始動が可能となる。