(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
鋼板の少なくとも片面にZn系めっき層を有し、そのZn系めっき層の上に、ケイ素化合物およびリン酸化合物を含有し、さらにZr、V、Ti、Coの化合物を1種以上含有する皮膜を有し、さらにその上層にリン酸化合物を主体とする皮膜を有しており、前記ケイ素化合物が有機ケイ素化合物であり、かつ前記有機ケイ素化合物が、分子中にアミノ基を1つ含有するシランカップリング剤(a)と、分子中にグリシジル基を1つ含有するシランカップリング剤(b)を固形分質量比〔(a)/(b)〕で0.5〜1.7の割合で配合して得られる、有機ケイ素化合物であり、前記ケイ素化合物およびリン酸化合物を含有し、さらにZr、V、Ti、Coの化合物を1種以上含有する皮膜が、Vの化合物とTiの化合物、もしくはVの化合物とZrの化合物、もしくはVの化合物とTiの化合物とCoの化合物を同時に含有する皮膜であって、当該皮膜の成分について、
リン酸化合物とケイ素化合物との固形分質量比が0.03〜0.12、
Vの化合物とケイ素化合物との固形分質量比が0.05〜0.17、
Tiの化合物とケイ素化合物、もしくはZrの化合物とケイ素化合物との固形分質量比が0.02〜0.07、
Vの化合物とZrの化合物もしくはVの化合物とTiの化合物との固形分質量比が1.3〜6.0、
であることを特徴とする燃料タンク用表面処理鋼板。
前記リン酸化合物を主体とする皮膜のP量が、前記ケイ素化合物およびリン酸化合物を含有し、さらにZr、V、Ti、Coの化合物を1種以上含有する皮膜中のP量に対し、0.5〜4倍であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料タンク用表面処理鋼板。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において適用可能な鋼板は特に限定されるものではなく、普通鋼、低炭素鋼、高強度鋼などが挙げられ、任意に適用可能である。ただ、燃料タンクは高度な加工性を要求されるだけに、加工性に優れたIF鋼の適用が望ましく、さらには溶接後の気密性、二次加工性等を確保するためにBを数ppm以上添加した鋼板が望ましい。
【0012】
また鋼板上の少なくとも片面に施すZn系のめっきとしては、例えば、Znめっき、Zn−Niめっき、Zn−Feめっき、Zn−Crめっき、Zn−Alめっき、Zn−Tiめっき、Zn−Mgめっき、Zn−Mnめっき、Zn−Al−Mgめっき、Zn−Al−Mg−Siめっき等のZn系めっき、さらにはこれらのめっきに少量の異種金属元素又は不純物としてCo、Mo、W、Ni、Ti、Cr、Al、Mn、Fe、Mg、Pb、Bi、Sb、Sn、Cu、Cd、Asの1種以上を含有したもの、シリカ、アルミナ、チタニア等の無機物を分散させたものが含まれる。更には以上のめっきと他の種類のめっき、例えばFeめっき、Fe−Pめっき、Niめっき、Coめっき等とを組み合わせた複層めっきも適用可能である。この中でも、特にZn−Niめっきを施した鋼板が耐食性、成形性、溶接性のバランスに優れるため好ましい。
【0013】
めっき方法は特に限定されるものではなく、公知の電気めっき法、溶融めっき法、蒸着めっき法、分散めっき法、真空めっき法等のいずれの方法でもよい。
【0014】
めっき付着量としては、Zn、もしくはZnとその合金を含めたトータルの付着量で、2g/m
2以上50g/m
2以下が好ましい。2g/m
2未満では耐食性が不十分であるし、50g/m
2超では耐食性は向上するものの加工時のめっき密着性、溶接性が低下する。好ましくは5g/m
2〜40g/m
2である。また、Zn−Ni合金めっきの場合は、Ni含有量として5mass%以上15mass%以下が好ましい。NiをZnに合金化することによりめっき層硬度が上がり、加工性や溶接性が向上するが、Ni含有率が5mass%未満ではそれらの向上効果が少なく、Niが15mass%超ではめっき層に大きなクラックが入りやすく剥離しやすくなる。より好ましいNi含有率は8mass%〜13mass%である。
【0015】
本発明の、ケイ素化合物およびリン酸化合物を含有し、さらにZr、V、Ti、Coの化合物を1種以上含有する皮膜の好ましい態様について以下に述べる。
【0016】
上記皮膜における必須成分であるケイ素化合物は、有機ケイ素化合物であることが好ましい。この有機ケイ素化合物は、単独で用いることができるが、分子中にアミノ基を1つ含有するシランカップリング剤(a) と、分子中にグリシジル基を1つ含有するシランカップリング剤(b)を特定の比率で配合することで更に好ましい特性が得られる。シランカップリング剤(a)とシランカップリング剤(b)の配合比率としては、固形分質量比〔(a)/(b)〕で0.5〜1.7であることが好ましく、0.7 〜1.7が更に好ましく、0.9〜1.1であることが最も好ましい。固形分質量比〔(a)/(b)〕が0.5未満であると、加工性向上効果が得られないため好ましくない。逆に1.7を超えると、耐水性が著しく低下し耐食性に悪影響を及ぼすため好ましくない。
【0017】
前記分子中にアミノ基を1つ含有するシランカップリング剤(a)としては、特に限定するものではないが、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシランなどを例示することができ、分子中にグリシジル基を1つ含有するシランカップリング剤(b)としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどを例示することができる。
【0018】
また、前記ケイ素化合物の製造方法は、特に限定するものではない。一例として、水に、前記シランカップリング剤(a)と、前記シランカップリング剤(b)を順次添加し、所定時間攪拌する方法が挙げられる。水は、pHを例えば3〜5、より好ましくは4程度に調整したものを用いることができる。
【0019】
前記ケイ素化合物はアルコキシ基を含有する官能基(アルコキシ基または水酸基を含む)を有し、その官能基の数は2個以上であることが必要である。官能基の数が1個である場合には、金属材料表面に対する皮膜の密着力および造膜性が低下するため、加工性が低下する。官能基のアルコキシ基の炭素数は特に制限されないが、1から6であるのが好ましく、1から4であるのがより好ましく、1又は2であるのがもっとも好ましい。また水酸基(前記官能基には含まれないもの)もしくはアミノ基から選ばれる少なくとも1種の親水性官能基が存在するのが好ましく、その存在割合としては、1分子内1個以上であればよい。
【0020】
有機ケイ素化合物の平均の分子量は、それがシランカップリング剤(a)と(b)を含む処理剤から得られる場合は、1000〜10000であることが好ましく、1300〜6000であることが更に好ましい。有機ケイ素化合物が単独のシランカップリング剤を含む処理剤から得られる場合は、その平均分子量は500〜10000が好ましく、1000〜6000であることが更に好ましい。ここでいう分子量は、特に限定するものではないが、TOF−MS法による直接測定およびクロマトグラフィー法による換算測定のいずれかを用いて求めることができる。平均の分子量が1000未満であると、形成された皮膜の加工性向上効果が得られないため好ましくない。一方、平均の分子量が10000より大きいと、皮膜形成のために前記有機ケイ素化合物を水に安定に溶解または分散させることが困難になる。
【0021】
また、本発明の皮膜の必須成分であるリン酸化合物としては、リン酸、リン酸のアンモニウム塩化合物、リン酸のNa塩化合物、リン酸のK塩化合物、リン酸のマグネシウム塩化合物を挙げることができ、例えば、リン酸、リン酸三アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸水素マグネシウム、リン酸二水素マグネシウムなどを挙げることができる。リン酸化合物の配合量に関しては、前記リン酸化合物と有機ケイ素化合物との固形分質量比(リン酸化合物/有機ケイ素化合物)が0.03〜0.12である必要があり、0.05〜0.12であることが好ましく、0.09〜0.1であることが最も好ましい。前記リン酸化合物と有機ケイ素化合物との固形分質量比が0.03未満であると添加効果が発現しないため好ましくない。逆に0.12を超えると、皮膜の水溶化が著しくなるため好ましくない。
【0022】
また、本発明では、ケイ素化合物及びリン酸化合物を含有する皮膜に、金属化合物としてZr、V、Ti、Coの化合物を1種以上含有することが必須要件であり、特にVの化合物とTiの化合物、もしくはVの化合物とZrの化合物、もしくはVの化合物とTiの化合物とCoの化合物を同時に含有することが好ましい。
【0023】
V化合物の配合量に関しては、前記V化合物とケイ素化合物との固形分質量比〔V化合物/ケイ素化合物〕が0.05〜0.17である必要があり、0.07〜0.15であることが好ましく、0.0 9〜0.14であることがさらに好ましく、0.11〜0.13であることが最も好ましい。前記V化合物とケイ素化合物との固形分質量比が0.05未満であると添加効果が発現しないため好ましくない。逆に0.17を超えると、安定性が極めて低下するため好ましくない。
【0024】
また、Ti化合物もしくはZr化合物の配合量に関しては、前記ケイ素化合物との固形分質量比〔Ti化合物/ケイ素化合物〕もしくは〔Zr化合物/ケイ素化合物〕が0.02〜0.07である必要があり、0.03〜0.06が好ましく、0.04〜0.05であることが最も好ましい。前記Ti化合物もしくはZr化合物とケイ素化合物との固形分質量比が0.02未満であると、添加効果が発現しないため好ましくない。逆に0.07より大きいと導電性が低下するため好ましくない。
【0025】
本発明におけるV化合物としては、特に限定するものではないが、五酸化バナジウムV
2O
5、メタバナジン酸HVO
3、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、オキシ三塩化バナジウムVOCl
3、三酸化バナジウムV
2O
3、二酸化バナジウムVO
2、オキシ硫酸バナジウムVOSO
4、バナジウムオキシアセチルアセトネートVO(OC(=CH
2)CH
2COCH
3))
2、バナジウムアセチルアセトネートV(OC(=CH
2)CH
2COCH
3))
3、三塩化バナジウムVCl
3、リンバナドモリブデン酸などを例示することができる。また、5価のバナジウム化合物を水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、1〜3級アミノ基、アミド基、リン酸基及びホスホン酸基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する有機化合物により、4価〜2価に還元したものも使用可能である。
【0026】
また本発明におけるTi化合物としては、ヘキサフルオロチタン酸あるいはその塩、例えばアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩などを例示することができる。
【0027】
また本発明におけるZr化合物としては、ヘキサフルオロジルコニウム酸など、あるいはその塩、例えばアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩などを例示することができる。
【0028】
本発明のV化合物とTi化合物もしくはZr化合物との配合量に関しては、前記V化合物とTi化合物もしくはZr化合物との固形分質量比〔V化合物/Ti化合物〕もしくは〔V化合物/Zr化合物〕が1.3〜6.0である必要があり、1.3〜3.5であることが好ましく、2.5〜3.3であることがさらに好ましく、2.8〜3.0であることが最も好ましい。前記V化合物とTi化合物もしくはZr化合物の固形分質量比〔V化合物/Ti化合物〕もしくは〔V化合物/Zr化合物〕が1.3未満であるとV化合物の添加効果が発現しないため好ましくない。逆に6.0を超えると、浴安定性、加工性が低下するため好ましくない。
【0029】
また、Co化合物の配合量に関しては、前記Co化合物とケイ素化合物との固形分質量比〔Co化合物/ケイ素化合物〕が0.01〜0.1である必要があり、0.02〜0.07であることが好ましく、0.03〜0.05であることが最も好ましい。前記Co化合物とケイ素化合物との固形分質量比〔Co化合物/ケイ素化合物〕が0.01未満であると、Co化合物の添加効果が発現しないため好ましくない。逆に0.1より大きいと耐食性が低下するため好ましくない。本発明の添加成分であるCo化合物としては、硫酸コバルト、硝酸コバルトおよび炭酸コバルトからなる群から選ばれる少なくとも1種のコバルト化合物が例示される。
【0030】
本発明の表面処理鋼板においては、前記ケイ素化合物およびリン酸化合物を含有し、さらにZr、V、Ti、Coの化合物を1種以上含有している皮膜の重量が0.05〜2.0g/m
2であることが好ましい。例えば、この皮膜は、鋼板のZnめっき層を有する少なくとも片面に、前記シランカップリング剤(a)とシランカップリング剤(b)を所定の固形分質量比配合し、前記リン酸化合物を含有するとともに、さらにZr、V、Ti、Coの化合物を1種以上含有している水系金属表面処理剤を塗布し、50℃より高く250℃未満の到達温度で乾燥を行って形成することにより得ることができる。乾燥温度については、到達温度で50℃より高く250℃未満であることが好ましく、70℃〜150℃であることが更に好ましく、100℃〜140℃であることが最も好ましい。到達温度が50℃以下であると、該水系金属表面処理剤の溶媒が完全に揮発しないため好ましくない。逆に250℃以上となると、該水系金属表面処理剤にて形成された皮膜の有機鎖の一部が分解するため好ましくない。皮膜重量に関しては、0.05〜2.0g/m
2であることが好ましく、0.2〜1.0g/m
2であることが更に好ましく、0.3〜0.6g/m
2であることが最も好ましい。皮膜重量が0.05g/m
2未満であると、該金属材の表面を十分に被覆できないため耐食性が著しく低下するため好ましくない。逆に2.0g/m
2より大きいと、加工性が低下するため好ましくない。
【0031】
本発明に用いる水系金属表面処理剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、塗工性を向上させるためのレベリング剤や水溶性溶剤、金属安定化剤、エッチング抑制剤およびpH調整剤などを使用することが可能である。レベリング剤としては、ノニオンまたはカチオンの界面活性剤として、ポリエチレンオキサイドもしくはポリプロピレンオキサイド付加物やアセチレングリコール化合物などが挙げられ、水溶性溶剤としてはエタノール、イソプロピルアルコール、t− ブチルアルコールおよびプロピレングリコールなどのアルコール類、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのセロソルブ類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、アセトン、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトンなどのケトン類が挙げられる。金属安定化剤としては、EDTA、DTPAなどのキレート化合物が挙げられ、エッチング抑制剤としては、エチレンジアミン、トリエチレンペンタミン、グアニジンおよびピリミジンなどのアミン化合物類が挙げられる。特に一分子内に2個以上のアミノ基を有するものが金属安定化剤としても効果があり、より好ましい。pH調整剤としては、酢酸および乳酸などの有機酸類、フッ酸などの無機酸類、それらのアンモニウム塩や、アミン類などが挙げられる。
【0032】
本発明の表面処理鋼板は、耐食性、加工性、溶接性、塗装性の全てをバランスよく満足する。この理由は以下のように推測されるが、本発明はかかる推測に縛られるものではない。本発明に用いる水系金属表面処理剤を用いて形成される皮膜は主にケイ素化合物によるものである。まず、耐食性は、処理剤中のシランカップリング剤成分が乾燥などにより濃縮されたときに互いに反応して連続皮膜を成膜すること、前記シランカップリング剤成分の一部が加水分解して生成した−Si−OH基が金属表面とSi−O−M結合(M:被塗物表面の金属元素)を形成することにより、著しいバリヤ効果を発揮することによると推定される。また、緻密な皮膜形成が可能なため皮膜の薄膜化が可能となり、導電性も良好になる。
【0033】
一方、本発明の皮膜はケイ素を基盤として形成され、その構造については、ケイ素−有機鎖の配列が規則的であり、また有機鎖が比較的短いことから、皮膜中の極めて微小な区域に、規則的かつ緻密にケイ素含有部と有機物部、すなわち無機物と有機物が配列しており、そのため、無機系皮膜が通常有する耐熱性、導電性に加え、加工性や塗装性を併せ持つ新規な皮膜の形成が可能になると推定される。なお、皮膜中のケイ素含有部においては、ケイ素の約80%がシロキサン結合を形成していることが分析で確認されている。
【0034】
このようなベース皮膜に、耐食性付与の目的から、溶出性インヒビターとしてのリン酸化合物、酸化還元反応によって耐食性を付与するZr、V、Ti、Coの化合物を1種以上添加することで、優れた耐食性、加工性、溶接性、塗装性を発現するものと推定される。
【0035】
また、本発明では、前記ケイ素化合物およびリン酸化合物を含有し、さらにZr、V、Ti、Co化合物の1種以上を含有する皮膜の上層に、更にリン酸化合物を主体とする皮膜を施すことにより、さらに耐食性を向上させることができる。この効果は、リン酸化合物皮膜のバリヤ効果及び防食効果にあるものと考えられる。すなわちリン酸化合物皮膜はそれ自身のバリヤ性とともに、下地の皮膜に浸透し、強固に反応しあうことで下層部を保護した上層皮膜を形成することができると考えられる。この上層皮膜中のP量は、ケイ素化合物およびリン酸化合物を含有し、さらにZr、V、Ti、Coの化合物を1種以上含有する皮膜中のP量に対し、0.5〜4倍であることが好ましい。この比率は、皮膜断面の走査型電子顕微鏡(SEM)の線分析、表面からのグロー放電発光分光分析、オージェ電子分光分析などによる深さ方向分析の検出強度比から求めることができる。0.5倍未満であると耐食性向上効果が見られず、また4倍超になると耐水性が低下する。より好ましくは1〜3倍である。皮膜重量に関しては、0.003〜0.1g/m
2であることが好ましく、0.005〜0.03g/m
2であることが更に好ましい。皮膜重量が0.003g/m
2未満であると、上層皮膜としての効果が発現しないため好ましくない。逆に0.1g/m
2より大きいと、皮膜の耐水性を低下させるため好ましくない。
【0036】
前記リン酸化合物を主体とする皮膜は、前記ケイ素化合物およびリン酸化合物を含有し、さらにZr、V、Ti、Coの化合物を1種以上含有する皮膜を形成後の鋼板を、リン酸化合物を含有する溶液に浸漬し、あるいは鋼板を浸漬した溶液を電解することにより形成させることができる。リン酸化合物の種類としては、リン酸、リン酸のアンモニウム塩化合物、リン酸のNa塩化合物、リン酸のK塩化合物、リン酸のマグネシウム塩化合物を挙げることができる。リン酸化合物を主体とする皮膜の形成に用いる溶液は、1種もしくは2種以上のリン酸化合物を含有することができる。また鋼板を浸漬する処理浴のpHは2〜7が好ましい。より好ましくは4〜7である。また処理浴の温度は20〜50℃であることが好ましい。また電解する場合は、鋼板を処理浴に浸漬時に、鋼板側をカソード、対極をアノードとして電解することにより皮膜を形成させることができる。電解条件は目的とする皮膜量に応じて任意に選択することが可能である。
【実施例】
【0037】
次に実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
(実施例I)
表1に示す成分の鋼を通常の転炉−真空脱ガス処理により溶製し、鋼片とした後、通常の条件で熱間圧延、冷延を行い、冷延鋼板A(板厚0.8mm)を得た。また、一部1240℃に加熱保持した後、熱延仕上げ温度860℃、巻き取り温度650℃の条件で熱間圧延し、その後酸洗した後冷間圧延を行い、冷延鋼板B(板厚0.8mm)を得た。これらを材料として、脱脂、酸洗の後、両面に電気Znめっきまたは電気Zn−Niめっきを行った。こうして製造した各種めっき鋼板に、表2に示す組成のクロメートフリー処理液をロールコーターにより所定の付着量塗布し、150℃の温風にて焼付乾燥を行った。さらにその後表3に示すリン酸化合物系処理浴に所定の時間浸漬し、水洗乾燥を行って皮膜を形成させた。こうして製造した各種表面処理鋼板の燃料タンクとしての適性を、下記に示す方法により評価した。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
(1)耐食性評価1
ガソリンに対する耐食性を評価した。方法は油圧成型試験機によりフランジ幅20mm、直径50mm、深さ25mmの平底円筒深絞りした試料に、試験液を入れて、シリコンゴム製リングを介してガラスで蓋をした。この試験後の腐食状況を目視観察した。
(試験条件)
試験液:ガソリン+蒸留水10%+ギ酸100ppm
試験期間:40℃で3ヶ月放置
(評価基準)
4:変化無し
3:白錆発生0.1%以下
2:赤錆発生5%以下、または白錆発生0.1%超、50%以下
1:赤錆発生5%超または白錆顕著
【0042】
(2)耐食性評価2
外面側を模擬した促進試験として、塩水噴霧に対する耐食性を評価した。70×150mmの試験片をJIS Z 2274に準じる試験機で評価し、5%塩水を120h噴霧した後の錆発生率で評価した。
(評価基準)
4:錆発生3%未満
3:錆発生3%以上10%未満
2:錆発生10%以上30%未満
1:錆発生30%以上
【0043】
(3)プレス加工性評価
油圧成型試験機により、直径50mmの円筒ポンチを用いて、絞り比2.3で成型試験を行った。このときのしわ抑え圧は500kgで行い、成形性の評価は次の指標によった。
(評価基準)
4:成型可能で、めっき層の欠陥なし。
3:成型可能で、めっき層にわずかに疵発生。
2:成型可能で、めっき層に剥離発生。
1:成型不可。
【0044】
(4)溶接性評価
溶接性はスポット溶接連続打点性、シーム溶接性により評価した。
(スポット溶接)
径6mmの電極を用い、溶接電流10kA、加圧力200kg、溶接時間12サイクルでスポット溶接を行い、ナゲット径が4√tを切った時点までの連続打点数を評価した。
(評価基準)
4:連続打点1000点以上
3:連続打点500〜1000点未満
2:連続打点250〜500点未満
1:連続打点250点未満
(シーム溶接)
R6mm−φ250mmの電極輪を用い、溶接電流13kA、加圧力400kg、通電2on−2offで10mのシーム溶接を行った後、JIS Z 3141に示す試験片を作製し、漏れ試験を実施した。
(評価基準)
評点4:漏れ無し
評点3:漏れ無いが、溶接部表面がやや荒れているもの
評点2:漏れ無いが、溶接部表面に割れなどの欠陥が発生しているもの
評点1:漏れ発生
【0045】
(5)塗装性
メラミンアルキッド系塗料を焼付け乾燥後の膜厚が25μmとなるようにバーコートで塗布し、120℃で20分焼付けた後、1mm碁盤目にカットし、密着性の評価を残個数割合(残個数/カット数:100個)にて行った。
(評価基準)
4=100%
3=95%以上
2=90%以上95%未満
1=90%未満
【0046】
評価試験の結果を表4に示す。
【0047】
【表4】
【0048】
【表5】
【0049】
【表6】
【0050】
表4に示すように、本発明の実施例は、いずれも良好な耐食性、加工性、溶接性、塗装性を示し、燃料タンク素材として十分使用に耐えうる性能を示す。
【0051】
(実施例II)
表4に示す実施例5、26、28、29、31、33、57、59、60、64、69、90、92、93、95、97、121、123、124、128について、めっきを片面とし、他は実施例Iと同様に処理して性能評価を実施した。試験はめっき面側を内面側として評価した。耐食性1(耐ガソリン)、耐食性2(耐塩水)、塗装性を評価した結果、表4に示す性能と同様の結果が得られた。また、めっき面の向きによらず、プレス成形性は表4と同等の結果であった。また、スポット溶接性、シーム溶接性については、板の組合せをめっき面を内面側と仮定して溶接試験を行った結果、いずれも評点4の良好な結果が得られた。
【0052】
以上、片面の場合でも、両面の場合と同様、良好な耐食性、加工性、溶接性、塗装性を示し、燃料タンク素材として十分使用に耐えうる性能を示す。