特許第6142767号(P6142767)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6142767
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】電子捕獲型検出器
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/64 20060101AFI20170529BHJP
   G01N 27/68 20060101ALI20170529BHJP
   G01N 30/70 20060101ALN20170529BHJP
【FI】
   G01N27/64 A
   G01N27/68 B
   !G01N30/70
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-218291(P2013-218291)
(22)【出願日】2013年10月21日
(65)【公開番号】特開2015-81785(P2015-81785A)
(43)【公開日】2015年4月27日
【審査請求日】2015年12月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100114030
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿島 義雄
(72)【発明者】
【氏名】武守 佑典
(72)【発明者】
【氏名】小櫻 優
【審査官】 伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−267896(JP,A)
【文献】 特開2007−292786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60−27/70
G01N 30/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアガスと試料ガスとが導入可能な検出セルと、
検出セル内に導入されたキャリアガスをイオン化して当該検出セル内に電子を生成させる電子生成部と、
所定の電流値で設定電流(Is)を流すための電流値設定部と、
前記検出セル内に設けられた陽極に対し波高値(h)が一定のパルス電圧(Vp)を後記のV/F変換部から出力された周波数(f)にて周期的に印加して前記検出セル内の電子の流れによるパルス電流(Id)を当該陽極に生じさせるパルス電圧発生部と、
前記電流値設定部からの設定電流(Is)と前記パルス電流(Id)との差電流(Ia)に応じた出力電圧(Vo)を出力する出力電圧検出部と、
前記出力電圧(Vo)を周波数(f)に変換して前記パルス電圧発生部に出力するV/F変換部とを備え、
キャリアガスのみが導入された状態とキャリアガスおよび試料ガスが導入された状態とのいずれの状態でも前記パルス電流(Id)が一定に維持されるように前記周波数(f)が制御される電子捕獲型検出器であって、
前記パルス電圧発生部は、前記陽極に印加するパルス電圧(Vp)の波高値(h)を切り替える波高値設定部を備えるとともに、当該波高値設定部に対して波高値を選択するための選択信号を送る入力装置を備え
導入される試料ガスの濃度範囲によって前記パルス電圧(Vp)の波高値(h)を切り替え可能にしたことを特徴とする電子捕獲型検出器。
【請求項2】
通常モードと高感度モードとを含む少なくとも2つ以上のモードのいずれかを選択的に設定するモード設定部を備え、前記波高値設定部は高感度モード設定時は通常モード設定時よりも前記波高値(h)が小さい値に変更する請求項1に記載の電子捕獲型検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスクロマトグラフ装置等の検出器として用いられる電子捕獲型検出器(以下「ECD(Electron Capture Detector)」とも称する)に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスクロマトグラフ装置等に用いる検出器の1つであるECDは、電子親和性物質(ハロゲン化合物、ニトロ化合物等)の選択的検出に優れており、例えば、水に含まれる塩素系化合物の検出に用いられたり、PCBの検出に用いられたりする。
【0003】
図6は従来のECDの基本構成を示す図である(特許文献1参照。ただし説明が不要な部分を一部省略)。検出セル10は気密構造にしてあり、ガスクロマトグラフ装置のカラムを介して試料ガスを導入する試料ガス導入流路と、キャリアガス(N等)の導入口と、排出口とが設けられている。検出セル10の内部には陽極11と、63Ni等の放射性同位元素を担持した放射線源(β線源)12が設けられている。検出セル10の壁面(陰極)は接地されている。陽極11はトランス13の二次側のコイル13aの一方端に接続され、このコイル13aの他端は差分アンプ14の入力側(+端子)に接続されている。差分アンプ14は積分回路を構成するようにしてあり、入力側に流れ込む電流を積分して出力電圧Voを出力する。差分アンプ14の出力側はV/F(電圧/周波数)変換器15に接続され、V/F変換器15はその入力電圧(=差分アンプ14の出力電圧Vo)に応じた周波数fのパルス信号Pfを出力する。V/F変換器15の出力側はパルス電圧発生部16に接続されている。パルス電圧発生部16はV/F変換器15から出力されたパルス信号Pfを、これと同じ周波数fを維持しながら一定の波高値hに整形したパルス電圧Vfにしてトランス13の一次側コイル13bに与えるようにしてある。トランス13では一次側コイル13bのパルス電圧Vfが二次側コイル13aに誘導され、陽極11に波高値hのパルス電圧Vpが周波数fで発生する。
【0004】
また、差分アンプ14の出力側はA/D変換器17を介してマイクロコンピュータからなる制御部18にも接続されており、差分アンプ14の出力電圧Voがデジタル信号に変換されて制御部18に送られる。後述するように、このデジタル信号はデータ処理装置18aに送られてクロマトグラムの表示に用いられることになる。
制御部18では入力装置(キーボード)18bからの入力によって電流値設定部19に対してデジタル信号を送り、電流値設定部19はこのデジタル信号をD/A変換し、この信号に応じた一定値の設定電流Isをトランス13の二次側コイル13aの差分アンプ14と接続された側に流すようにしてある。この設定電流Isは出力電圧Vo、周波数fの値に一定の「げた」を与えて出力電圧Voの値や周波数fの値を調整する役目を負うものである。
【0005】
続いてこのECDの動作について説明する。検出セル10にN等の不活性ガスからなるキャリアガスを流すと、放射線源12から発するβ線によりキャリアガスは電離されて自由電子が生成されるとともにN分子が正イオン化される。この状態で陽極11に電圧を印加すると、陽極11と検出セル壁面(陰極)との間に電界が発生し、自由電子が陽極11に取り込まれて電流が流れることになる。
【0006】
陽極11に印加する電圧をパルス電圧Vpとし、パルスの周波数f(単位時間あたりf個のパルス)とする。パルスがONの期間中だけ自由電子が陽極11に流れる。1つのパルスで陽極11に取り込まれる自由電子がQp個であるとすると、単位時間あたりでは総数がQp×f個の自由電子が陽極11に取り込まれることになる。すなわち、周波数fのパルス電圧Vpを印加することにより、(単位時間あたりQp×f個の電荷量が流れることによる)パルス電流Id(単位時間の積算値、すなわち平均値)が陽極11に流れるようになる。
この状態で、パルス電流Idと設定電流Isとの差電流が、積分器として作動する差分アンプ14の入力側(+端子)に流れて検出される。差分アンプ14の出力側にはパルス電流Idと設定電流Is(一定値)との差電流Ia(すなわちIa=Is−Id)に応じた出力電圧Voが現れる。
この差分アンプ14の出力電圧Voを、V/F変換器15に入力し、上記の差電流Iaに応じた周波数fのパルス信号Pfを出力させる。パルス電圧発生部16では、このパルス信号Pfに基づいて同じ周波数fを維持し、かつ、所定の波高値h(一定値)のパルス電圧に整形したパルス電圧Vfが生成され、一次側コイル13bに与えられる。この一次側コイル13bに与えられたパルス電圧Vfに応じて、陽極11にはトランス13を介して波高値h(一定値)、周波数fのパルス電圧Vpが印加され、陽極11に自由電子による単位時間あたりQp×f個の電荷量、すなわち、パルス電流Idが流れるようになる。
キャリアガスのみを流している間は、このようなループ制御によって検出セル10が定常状態になっている。
【0007】
次に、検出セル10内にキャリアガス以外にハロゲン等の親電子化合物(電子捕獲性物質)を含む試料ガスが導入されると、親電子性分子は不活性ガスから放出された自由電子を吸収するようになり、検出セル10内の自由電子密度が減少する。自由電子を吸収した親電子性分子の負イオンは自由電子よりも移動速度が遅いため、陽極11に到達する時間が長く、また、正イオンとの再結合の確率も高くなるので、自由電子の減少により1つのパルスによって陽極11に取り込まれる自由電子が当初のQp個よりも減少する。単位時間当たりf個のパルスが印加されているので、陽極11に取り込まれる単位時間あたりの電子総数もQp×f個よりも小さくなる。すなわちパルス電流Id(平均値)が減少するようになる。
その結果、差電流Ia(=Is−Id)が増加し、差分アンプ14の出力電圧Voが増加し、V/F変換器15の出力である周波数fが増大する。したがって、次回のループ制御の際に、1つのパルスで取り込まれる自由電子数Qpの減少分を補うようにパルスの周波数fが増大し、単位時間あたりに発生するパルス数が増加するようになる。
このようにして、単位時間あたりの電子総数(Qp×f)、つまりパルス電流Id(平均値)を一定に維持するように周波数fの増減によるループ制御が行われる。
そして、このようなループ制御を行うことによって、親電子性分子の濃度Aとパルス周波数fとは次式(1)のような関係を有することが知られている。
【0008】
Δf=f−f0=K・A ・・・(1)
f: パルスの周波数
f0: キャリアガスのみ流したときのパルスの周波数
K: 定数(親電子化合物分子に依存)
A: 試料ガス(親電子性分子)の濃度
【0009】
すなわち、キャリアガスのみを流しているときからのパルス周波数fの変化分Δfが、検出セル10に導入される試料ガス(親電子性分子)の濃度に比例する。
そして差分アンプ14の出力側の電圧Voは、パルス周波数fの変化分Δfを反映した値になることから、この電圧Voの時間変化をA/D変換器17を介して制御部18に送り、データ処理装置18aで表示させることにより、導入された親電子分子のクロマトグラムを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−292786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
一般にクロマトグラムの定量分析では、予め濃度既知の標準試料を用いて検量線を作成し、当該検量線と測定対象試料の信号強度との比較(例えばピーク面積の比較)によって定量分析が行われる。その際、正確な分析を行うためには試料濃度とクロマトグラムの信号強度とが比例関係になることを前提としている。
上述した従来のECDでは、パルス電圧発生部16から一次側コイル13bに印加するパルス電圧Vfの周波数fをV/F変換器15が出力する周波数fと同一周波数にするとともに、パルス電圧Vfの波高値h(したがってパルス電圧Vpの波高値h)を常に一定値にすることにより、周波数fの変化分Δf(すなわちクロマトグラムの信号強度に対応する値)と試料ガス濃度との比例関係が成立することになり、この比例関係が成り立つ範囲で正確な測定が行われることになる。
【0012】
しかしながら、さまざまな濃度の試料ガスを測定する場合、濃度によっては正確な測定ができない場合が生じた。具体的には、低濃度すぎる場合にはピークが小さすぎて検出困難となり、高濃度すぎる場合には検量線が直線にならないため、正確な測定ができないことがあった。
【0013】
そこで、本発明は非常に低濃度の試料ガスや、逆に高濃度の試料ガスを分析する場合であっても正確に分析することができ、広い測定範囲で正確な測定が可能になるECDを提供することを目的とする。
また、別の観点からなされた本発明は、導入される試料濃度に応じて、最適な条件で測定ができるECDを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
既述のように、ECDでは試料ガス導入による検出セル内の自由電子の濃度変化を検出するために、陽極に印加するパルス電圧Vpの周波数fを制御し、陽極に対して単位時間あたりに流れる電子総数(Qp×f)、つまりパルス電流Id(平均値)を一定に維持するようにループ制御を行うようにしている。
例えば、検出セル内に高濃度の試料ガスが導入された場合、自由電子の濃度が大きく減少することになる。このとき、単位時間あたりの電子総数(Qp×f)、すなわち、パルス電流Idを一定に維持するには、印加するパルス電圧の周波数fを大きく増大させる必要がある。しかしながら、従来の装置では、陽極に取り込まれる電子総数のループ制御を、V/F変換を利用して行っている関係上、たとえ高性能なV/F変換器を用いたとしても、ハード上の理由で周波数に上限があるため周波数fを無限に増大させることはできず、上限値で飽和してしまう。そこで、本発明では、従来よりも広い範囲の測定を可能にするために、高濃度の試料ガスを測定する場合には、陽極に印加するパルス電圧Vpの波高値を大きく設定することで、陽極に電荷が取り込まれるときの電界強度を大きくするとともに1つのパルスで陽極に取り込まれる電荷Qpを増加させ、単位時間あたりの電子総数(Qp×f)を一定に維持するために必要な周波数fの増加を抑えるようにした。
【0015】
また、上記とは逆に低濃度の試料ガスを測定する場合、自由電子濃度はわずかしか減少しないので、1つのパルスで陽極に取り込まれる電荷Qpは試料ガス導入前に比べてほとんど変化しない。そのため、単位時間あたりの電子総数(Qp×f)を一定に維持するために必要な周波数fの変動も小さくなり、十分な検出感度が得られない。
これらのことを鑑みて本発明では、低濃度の試料ガスの場合には、陽極に印加するパルス電圧Vpの波高値を小さくすることで、陽極に電荷が取り込まれるときの電界強度を小さくして1つのパルスで陽極に取り込まれる電荷Qpを減らし、単位時間あたりの電子総数(Qp×f)を一定に維持するために必要な周波数fの変化が大きくなるようにする。
このように、本発明では導入される試料ガスの濃度範囲によってパルス電圧(Vp)の波高値(h)が変更できるようにしている。
【0016】
すなわち、上記課題を解決するためになされた本発明の電子捕獲型検出器は、キャリアガスと試料ガスとが導入可能な検出セルと、検出セル内に導入されたキャリアガスをイオン化して当該検出セル内に電子を生成させる電子生成部と、所定の電流値で設定電流(Is)を流すための電流値設定部と、前記検出セル内に設けられた陽極に対し波高値(h)が一定のパルス電圧(Vp)を後記のV/F変換部から出力された周波数(f)にて周期的に印加して前記検出セル内の電子の流れによるパルス電流(Id)を当該陽極に生じさせるパルス電圧発生部と、前記電流値設定部からの設定電流(Is)と前記パルス電流(Id)との差電流(Ia)に応じた出力電圧(Vo)を出力する出力電圧検出部と、前記出力電圧(Vo)を周波数(f)に変換して前記パルス電圧発生部に出力するV/F変換部とを備え、キャリアガスのみが導入された状態とキャリアガスおよび試料ガスが導入された状態とのいずれの状態でも前記パルス電流(Id)が一定に維持されるように前記周波数(f)が制御される電子捕獲型検出器であって、前記パルス電圧発生部は、前記陽極に印加するパルス電圧(Vp)の波高値(h)を切り替える波高値設定部を備えるとともに、当該波高値設定部に対して波高値を選択するための選択信号を送る入力装置を備え、導入される試料ガスの濃度範囲によって前記パルス電圧(Vp)の波高値(h)の切り替えが可能となるようにしている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、測定対象の試料ガス(親電子性分子)の濃度に応じてパルス電圧Vpの波高値hを可変としたので、試料ガスの濃度域に適した波高値のパルスを印加することができ、これにより、高濃度試料ガスから低濃度試料ガスまで幅広い測定が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態である電子捕獲型検出器を示す構成図。
図2】陽極に流れ込む単位時間あたりの電荷総数やパルス電流を示す図。
図3】陽極に流れ込む単位時間あたりの電荷総数やパルス電流を示す図。
図4】陽極に流れ込む単位時間あたりの電荷総数やパルス電流を示す図。
図5】通常モードと高感度モードにおける試料濃度とピーク面積値の直線関係を示す図。
図6】従来の電子捕獲型検出器を示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。図1は本発明の一実施形態である電子捕獲型検出器(ECD)の構成を示す図である。本発明のECD1は、従来例として示した図6のECDを改良したものであるため、同じ構成部分については同符号を付すことにより説明の一部を省略する。
【0020】
ECD1の検出セル10は気密構造にしてあり、試料ガス導入流路と、キャリアガス(N等)の導入口と、排出口とが設けられている。検出セル10の内部には陽極11と、放射線源(β線源)12が設けられ、検出セル10の壁面(陰極)は接地されている。陽極11はトランス13の二次側コイル13aの一方端に接続され、このコイル13aの他端は差分アンプ14の入力側に接続されている。差分アンプ14は積分回路を構成するようにしてあり、入力側に流れ込む電流を積分して出力電圧Voを出力する。差分アンプ14の出力側はV/F変換器15に接続され、V/F変換器15はその入力電圧(=差分アンプ14の出力電圧Vo)に応じた周波数fのパルス信号Pfを出力する。V/F変換器15の出力側はパルス電圧発生部16に接続されている。パルス電圧発生部16はV/F変換器15から出力されたパルス信号Pfを、これと同じ周波数fを維持しながら一定の波高値hに整形したパルス電圧Vfにしてトランス13の一次側コイル13bに与えるようにしてある。トランス13では一次側コイル13bのパルス電圧Vfが二次側コイル13aに誘導され、陽極11に波高値hのパルス電圧Vpが周波数fで発生する。
【0021】
差分アンプ14の出力側はA/D変換器17を介して制御部18にも接続されており、差分アンプ14の出力電圧Voがデジタル信号に変換されて制御部18に送られる。このデジタル信号はデータ処理装置18aに送られてクロマトグラムの表示に用いられる。
制御部18では入力装置18bからの入力によって電流値設定部19に対し、所定の電流を設定するためのデジタル信号を送り、電流値設定部19はこのデジタル信号をD/A変換し、この信号に応じた一定値の設定電流Isをトランス13の二次側コイル13aの差分アンプ14と接続された側に流すようにしてある。この設定電流Isは出力電圧Vo、周波数fの値に一定の「げた」を与えて出力電圧Voの値や周波数fの値を調整する役目を負うものである。
【0022】
本発明のECD1では、パルス電圧発生部16に接続される波高値設定部20が設けられている。波高値設定部20はパルス電圧発生部16から出力されるパルス電圧Vfの波高値hを、高濃度測定用(通常モード)の波高値h0Hと低濃度測定用(高感度モード)の波高値h0L(ただしh0H>h0L)とに切り替える。すなわち波高値設定部20は制御部18に接続され、制御部18の(モード設定部として機能する)入力装置18bから「通常モード」と「高感度モード」とのいずれかを選択するモード選択信号が送られると、これに応じて波高値h0Hと波高値h0Lとのいずれかが選択され、パルス電圧発生部16は選択されたいずれかの波高値でパルス電圧Vfが出力されるようにしてある。なお、波高値設定部20で波高値を切り替えるための具体的な回路構成は特に限定されないが、例えば波高値設定部20にDC/DCコンバータを用いたり、抵抗分割回路を設けたりすることで波高値を切り替えるようにすることができる。
【0023】
そして、トランス13の一次側コイル13bに対し、高濃度測定用(通常モード)の波高値h0H、又は、低濃度測定用(高感度モード)の波高値h0Lのパルス電圧Vfが印加されると、二次側コイル13aにパルスが誘導され、陽極11には、前者のときに波高値hのパルス電圧Vp、後者のときに波高値hのパルス電圧Vp(ただしh>h)が発生する。これにより、前者は1つのパルスで取り込まれる電荷Qpが多い状態、後者は電荷Qpが少ない状態でループ制御が行われるようになる。
【0024】
次に、陽極11に流れ込む単位時間あたりの電荷総数やパルス電流について説明する。
図2(a)は、キャリアガスのみを導入した状態での単位時間あたり陽極11に流れ込む電荷総数とパルス電流との関係を示している。
1つのパルス(波高値h)でQp個の電荷が陽極11に流れ込み、単位時間あたりf個のパルスが発生している。したがって、単位時間あたりの電荷総数(Qp×f)が陽極11に流れ込み、また、このときパルス電流Idは陽極に流れている。
図2(b)は、図2(a)の状態からキャリアガスとともに試料ガスが導入された状態での電荷総数とパルス電流の関係を示している。
試料ガスの導入による自由電子の減少に伴って、1つのパルスで陽極11に流れ込む電荷数がQpからQpに減少する。このとき陽極11に流れる単位時間あたりの電荷総数を一定に維持すべく、パルス数fがfに増加するようにループ制御されることから、次式(2)が成立する。
Qp×f= Qp×f (ただし、Qp<Qp) ・・・(2)

例えば、図2(b)では6つの破線部分による電子総数の減少分((Qp−Qp)×6)を補うために、新たに3つのパルスが増加している。
【0025】
次に、パルス電圧Vpの波高値を高めた場合(波高値をhよりも大きいhに変更した場合)について説明する。図3(a)は、図2(a)に比べて波高値を高め、キャリアガスのみを導入した状態での単位時間あたり陽極11に流れ込む電荷総数とパルス電流の関係を示している。
波高値を高めることにより陽極11近傍の電界強度が大きくなるので、1つのパルスで陽極11に流れ込む電荷数Qpは図2(a)に比べて増加している。このとき図2(b)と同じ濃度の試料ガスを導入すると、図3(b)に示すようにQpに減少する。また、破線で示すように単位時間あたりの減少量((Qp−Qp)×6)は、図2(b)と同じである。この場合、6つの破線部分の減少量((Qp−Qp)×6)を補うために、新たに増加するパルス数は(電荷数Qpが増加しているため)減ることになる。例えば図3(b)では、6つの破線部分による電子総数の減少分((Qp−Qp)×6)を補うために、新たに増加するパルスは1つだけでよい。
このように波高値をhに高めることにより、増加するパルスの数を減らすことができるので、高濃度試料ガスを導入した場合でも(図2の波高値hの場合よりも)飽和しにくくすることができる。したがって、高濃度試料ガスの分析については波高値をhに高めて測定すればよい(通常モード)。
【0026】
次に、パルス電圧Vpの波高値を小さくした場合(波高値をhよりも小さいhに変更した場合)について説明する。図4(a)は、図2(a)に比べて波高値を小さくし、キャリアガスのみを導入した状態での単位時間あたり陽極11に流れ込む電荷総数とパルス電流との関係を示している。
波高値を小さくすることにより陽極11近傍の電界強度が小さくなるので、1つのパルスで陽極11に流れ込む電荷数Qpは図2(a)に比べて減少している。このとき図2(b)と同じ濃度の試料ガスを導入すると、図4(b)に示すようにQpに減少する。また、破線で示すように単位時間あたりの減少量((Qp−Qp)×6)は、図2(b)と同じである。この場合、6つの破線部分の減少量((Qp−Qp)×6)を補うために、新たに増加するパルス数は(電荷数Qpが減少しているため)増えることになる。例えば図4(b)では、6つの破線部分による電子総数の減少分((Qp−Qp)×6)を補うために、新たに6つのパルスを増加することになる。
このように波高値をhまで小さくすることにより、減少分を補うために必要なパルスの数を増やすことができるので、高濃度試料ガスを導入した場合でも(図2の波高値hの場合よりも)検出感度を高めることができる。したがって、低濃度試料ガスの分析については波高値をhに抑えて測定すればよい(高感度モード)。
【0027】
図5は通常モードと高感度モードにおける「試料濃度」と「ピーク面積値」とが直線関係になる領域を示す図である。ここで「ピーク面積値」は、データ処理装置18aから出力されるクロマトグラムのピーク部分が示す面積であり、クロマトグラムの信号強度(ピーク強度)を示している。
「通常モード」では高濃度領域での直線性に優れ、「高感度モード」では低濃度領域での直線性に優れている。このようにモードの切り替えを行うことにより、これまでよりも幅広く検量線を用いた正確な分析が可能になる。
【0028】
なお、実際の分析では、濃度が未知のサンプルを測定する場合がある。その場合は、まず初めに「通常モード」での測定を行う。そして、濃度が低すぎて「通常モード」での検出が不可能な場合には「高感度モード」に切り替えて測定を行うようにする。
【0029】
以上、一実施形態について説明したが、本発明はこれらに限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変形して実施することができる。
例えば、上記実施形態では、波高値をhとhとの2段に切り替えることで「高感度モード」と「通常モード」との2つのモードに切り替えるようにしているが、波高値の切り替えの段数を増やして多段に切り替えるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0030】
1 ECD(電子捕獲型検出器)
10 検出セル
11 陽極
12 放射線源(電子生成部)
13 トランス
13a 二次側コイル
13b 一次側コイル
14 差分アンプ(出力電圧検出部)
15 V/F変換器
16 パルス電圧発生部
18 制御部
19 電流値設定部
20 波高値設定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6