(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6142868
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極活物質粒子粉末並びにその製造方法、及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/505 20100101AFI20170529BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20170529BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/62 Z
H01M4/36 A
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-500940(P2014-500940)
(86)(22)【出願日】2013年2月22日
(86)【国際出願番号】JP2013054462
(87)【国際公開番号】WO2013125668
(87)【国際公開日】20130829
【審査請求日】2015年12月21日
(31)【優先権主張番号】特願2012-37134(P2012-37134)
(32)【優先日】2012年2月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000166443
【氏名又は名称】戸田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097928
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 数彦
(72)【発明者】
【氏名】古賀 一路
(72)【発明者】
【氏名】正木 竜太
(72)【発明者】
【氏名】梶山 亮尚
(72)【発明者】
【氏名】升國 広明
【審査官】
小川 知宏
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−202702(JP,A)
【文献】
特開2011−233234(JP,A)
【文献】
特表2005−502161(JP,A)
【文献】
特開2009−152197(JP,A)
【文献】
Yong-Mao Lin et al.,Enhanced High-Rate Cycling Stability of LiMn2O4 Cathode by ZrO2 Coating for Li-Ion Battery,Journal of The Electrochemical Society,米国,2005年,Vol.152, No.8,p.A1526-A1532
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/505
H01M 4/131
H01M 4/36
H01M 4/62
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物と少なくともLiとZrの酸化物とから成り、両酸化物がバルクとして存在する非水電解質二次電池用正極活物質粒子粉末であって、少なくともLiとZrの酸化物が少なくとも2相以上の混相を形成し、且つ、該正極活物質粒子粉末中の少なくともLiとZrの酸化物の含有量が0.1〜4wt%であり、前記の少なくともLiとZrの酸化物がLi2ZrO3を主の相とし、Li4ZrO4、Li6Zr2O7、Li8ZrO6の少なくとも一種以上と混相を形成しており、且つその混相の存在比が、99:1〜92:8の割合であり、前記の少なくともLiとZrの酸化物の結晶子サイズが100〜600nmであることを特徴とする非水電解質二次電池用正極活物質粒子粉末。
【請求項2】
前記非水電解質二次電池用正極活物質粒子粉末を正極として使用し、対極にリチウム金属を使用して成る二次電池において、前記リチウムマンガン複合酸化物のみからなる粒子粉末を正極として使用し、対極にリチウム金属を使用して成る二次電池との比較において、レート特性改善率が1%以上であり、且つサイクル特性改善率が1%以上である請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極活物質粒子粉末。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用正極活物質粒子粉末の製造方法であって、スピネル構造を有し少なくともLiとMnを含有するリチウムマンガン複合酸化物に、少なくともLiとZrの酸化物を0.1〜4wt%の範囲で乾式混合することを特徴とする非水電解質二次電池用正極活物質粒子粉末の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用正極活物質粒子粉末を使用した非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用正極活物質粒子粉末に関し、詳しくは、高出力で高温安定性に優れたマンガン酸リチウム粒子粉末から成る非水電解質二次電池用正極活物質粒子粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、AV機器やパソコン等の電子機器のポータブル化、コードレス化が急速に進んでおり、これらの駆動用電源として小型、軽量で高エネルギー密度を有する二次電池への要求が高くなっている。このような状況下において、充放電電圧が高く、充放電容量も大きいという長所を有するリチウムイオン二次電池が注目されている。
【0003】
従来、4V級の電圧をもつ高エネルギー型のリチウムイオン二次電池に有用な正極活物質としては、スピネル型構造のLiMn
2O
4、岩塩型構造のLiMnO
2、LiCoO
2、LiCo
1−XNi
XO
2、LiNiO
2等が一般的に知られており、なかでもLiCoO2は高電圧と高容量を有する点で優れているが、コバルト原料の供給量が少ないことによる製造コスト高の問題や廃棄電池の環境安全上の問題を含んでいる。そこで、供給量が多く低コストで環境適性の良いマンガンを原料として作られるスピネル構造を有するマンガン酸リチウム粒子粉末(基本組成:LiMn
2O
4−以下、同じ−)の研究が盛んに行われている。
【0004】
周知の通り、スピネル構造であるマンガン酸リチウム粒子粉末は、マンガン化合物とリチウム化合物とを所定の割合で混合し、700〜1000℃の温度範囲で焼成することによって得ることができる。
【0005】
しかしながら、マンガン酸リチウム粒子粉末をリチウムイオン二次電池の正極活物質として用いた場合、高電圧と高エネルギー密度を有するものの、充放電サイクル特性が劣るという問題がある。この原因は、充放電の繰り返しに伴う結晶構造中のリチウムイオンの脱離・挿入挙動によって結晶格子が伸縮して、結晶の体積変化によって格子破壊が生じることや電解液中へマンガンが溶解することと考えられている。
【0006】
マンガン酸リチウム粒子粉末を用いたリチウムイオン二次電池にあっては、充放電の繰り返しによる充放電容量の劣化を抑制し、特に高温、低温での充放電サイクル特性を向上させることが現在最も要求されている。
【0007】
充放電サイクル特性を向上させるためには、マンガン酸リチウム粒子粉末からなる正極活物質が充填性に優れ、適度な大きさを有すること、更にマンガン溶出を抑制することが必要である。その手段としては、マンガン酸リチウム粒子の粒子径及び粒度分布を制御する方法、焼成温度を制御して高結晶のマンガン酸リチウム粒子粉末を得る方法、異種元素を添加して結晶の結合力を強化する方法、表面処理を行うことや、添加物を混ぜることでマンガンの溶出を抑制する方法等が行われている。
【0008】
これまで、マンガン酸リチウム粒子粉末にアルミニウムを含有させることが知られている(特許文献1)。また、マンガン酸リチウムを作製する際に、焼結助剤として酸化ホウ素、ホウ酸、ホウ酸リチウム、ホウ酸アンモニウム等を添加することで、焼結助剤効果を得られることが知られている(特許文献2)。また、マンガン酸リチウムの硫黄含有量を低減することが知られている(特許文献3)。
【0009】
また、Zr酸化物を添加剤やコート剤として用いるによりマンガン酸リチウムの特性を向上させる試みが種々為されている。例えば、Li
2ZrO
3をマンガン酸リチウムの粒子表層にコアシェル構造のように形成させることにより特性向上させる手法が示されている(特許文献4)。また、電池の中にLi
2ZrO
3を含有させたシート状のものを入れることでガス吸着剤とし、ガス発生を抑制することが記載されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−146425号公報
【特許文献2】特開2001−48547号公報
【特許文献3】特開2002−198047号公報
【特許文献4】特表2004−536420号公報
【特許文献5】特開2004−152619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
非水電解質二次電池用の正極活物質として出力特性と高温特性を改善する材料が、現在最も要求されているところであるが、未だ必要十分な要求を満たす材料や製造方法が得られていない。
【0012】
即ち、前記特許文献1〜3には、それぞれ、金属元素をマンガンの一部をAl元素で置換したマンガン酸リチウム、焼結助剤を少量添加したマンガン酸リチウム、硫黄量を低減したマンガン酸リチウムが記載されているが、電池の高温特性が満足するものではなく実用的にまだ不十分であった。
【0013】
また、前記特許文献4では、Li
2ZrO
3をマンガン酸リチウム粒子表層にコアシェル構造のようにコートしてあるが、該文献の製造方法ではLi
2ZrO
3中のLiがスピネル構造のマンガン酸リチウム構造に取り込まれてしまい、ZrO
2化してしまう。それに、Liイオン輸率が落ちてしまい、必要とされるレート特性が得られなくなってしまう。また、前記特許文献5では、電池内で発生するガスを吸収し抑制する効果について記載されているが、電池特性を向上させることについては述べていない。
【0014】
そこで、本発明では、高温特性に優れた非水電解質二次電池用正極活物質粒子粉末並びにその製造方法、及び非水電解質二次電池を提供することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0016】
即ち、本発明は、
スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物と少なくともLiとZrの酸化物とから成り、両酸化物がバルクとして存在する非水電解質二次電池用正極活物質粒子粉末であって、少なくともLiとZrの酸化物が少なくとも2相以上の混相を形成し、且つ、該正極活物質粒子粉末中の少なくともLiとZrの酸化物の含有量が0.1〜4wt%であり、前記の少なくともLiとZrの酸化物がLi
2ZrO
3を主の相とし、Li
4ZrO
4、Li
6Zr
2O
7、Li
8ZrO
6の少なくとも一種以上と混相を形成しており、且つその混相の存在比が、99:1〜92:8の割合であり、前記の少なくともLiとZrの酸化物の結晶子サイズが100〜600nmであることを特徴とする非水電解質二次電池用正極活物質粒子粉末である(本発明1)。
【0019】
また、本発明は、前記非水
電解質二次電池用正極活物質粒子粉末を正極として使用し、対極にリチウム金属を使用して成る二次電池において、
前記リチウムマンガン複合酸化物のみからなる粒子粉末を正極として使用し、対極にリチウム金属を使用して成る二次電池との比較において、レート特性改善率が1%以上であり、且つサイクル特性改善率が1%以上である本発明1に記載の
非水電解質二次電池用正極活物質粒子粉末である(本発明2)。
【0020】
また、本発明は、本発明1又は2に記載の非水電解質二次電池用正極活物質粒子粉末の製造方法であって、スピネル構造を有し少なくともLiとMnを含有するリチウムマンガン複合酸化物に、少なくともLiとZrの酸化物を0.1〜4wt%の範囲で
乾式混合することを特徴とする非水電解質二次電池用正極活物質粒子粉末の製造方法である(本発明3)。
【0021】
また、本発明は、本発明1
又は2に記載の非水電解質二次電池用正極活物質粒子粉末を使用した非水電解質二次電池である(本発明
4)。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る非水電解質二次電池用正極活物質粒子粉末は、高出力であり、高温安定性に優れているので、非水電解質二次電池用の正極活物質として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は実施例で合成したLiとZrの酸化物のXRD回折である((a)1000℃で焼成したもの、(b)1200℃で焼成したもの)。
【
図2】
図2は実施例1で得られた正極活物質粒子粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の構成をより詳しく説明すれば次の通りである。
【0025】
先ず、本発明に係る非水電解質二次電池用正極活物質粒子粉末について述べる。
【0026】
本発明に係る正極活物質粒子粉末は、スピネル構造を有し少なくともLiとMnを主成分とする酸化物と、少なくともLiとZrの酸化物により構成される正極活物質粒子粉末である。なお、「少なくともLiとZrの酸化物」とは、少なくともLi及びZrを含有する複合酸化物を意味し、「少なくとも」を省略することもある。
【0027】
スピネル構造を有し少なくともLiとMnを主成分とする酸化物は、例えばマンガン酸リチウムや5V領域で電池作動するニッケル置換マンガン酸リチウムがある。本発明における該マンガン酸リチウムは、Mnが遷移金属で一部置換されていてもよい。また、XRD回折にて異相が見られない限りは、出発原料や製造方法は問わない。
【0028】
本発明における少なくともLiとZrの酸化物はXRD回折より相を同定したときに2相以上を有する混相を形成する。その主の相はLi
2ZrO
3であり、主の相以外は例えばLi
4ZrO
4、Li
6Zr
2O
7、Li
8ZrO
6がある。本発明においては好ましくはLi
6Zr
2O
7である。
【0029】
本発明に係る非水電解質二次電池用正極活物質粒子粉末において、LiとZrの酸化物の含有量は0.1〜4.0wt%である。0.1wt%未満のとき、添加効果、すなわち電池特性にて出力特性やサイクル特性の改善が見られない。4.0wt%を超えるときは電池特性が悪化してしまう。また、Mn溶出量が大きくなってしまう。好ましい範囲は、0.5〜3.5wt%である。
【0030】
また、本発明に係るLiとZrの酸化物の主の相であるLi
2ZrO
3と主の相以外の相の存在比率は99:1〜92:8が好ましい。本発明の範囲より外れると電池特性が悪化してしまう。より好ましい範囲は、99:1〜94:6であり、更に好ましくは99:1〜96:4である。
【0031】
本発明に係るLiとZrの酸化物の結晶子サイズは100〜600nmが好ましい。100nmより小さいときはLiとZrの酸化物以外の相が発生していて特性が悪化する。600nmを超えるときはLiとZrの酸化物による特性向上効果が弱まってしまう。より好ましい範囲は200〜600nmである。
【0032】
一般的にZrO
2は、高温において電子が空孔を伝わる電子ホッピングにより電子伝導性が向上することが知られている。LiとZrの酸化物は、この電子ホッピングを室温にて発揮させることができるのではないかと発明者は考えている。そのため、本発明における該非水電解質二次電池用正極活物質粒子粉末のように、LiとZrの酸化物が本発明に記載の範囲で存在することで、電池として電子伝導性を向上させることができると考えられる。
【0033】
また、本発明に係るLiとZrの酸化物は、非水電解質二次電池用正極活物質粒子に対してコアシェルであったりアイランド状で存在する必要は無いことがわかった。これは、前記特許文献4で記載されていることとは全くの反対の結果である。すなわち、本発明においては、スピネル構造を有し少なくともLiとMnを主成分とする酸化物とLiとZrの酸化物とは、それぞれ独立した粒径を有する粒子であり、それらが単純に所定の比率で混合している構成を有する。発明者らの鋭意検討の結果、本発明において重要であることは、LiとZrの酸化物が本発明の範囲にあるような混相を形成し、本発明にある結晶子サイズを持っており、該正極活物質粒子粉末と所定の量で存在していることを見出した。
【0034】
本発明に係る正極活物質粒子粉末の平均粒径D50が2μm未満の場合、電解液との接触面積が上がりすぎることによって電解液との反応性が高くなり、充電時の安定性が低下する可能性がある。平均粒径D50が20μmを超えると、電極内の抵抗が上昇して、充放電レート特性が低下する可能性がある。
【0035】
次に、正極活物質粒子粉末の製造法について述べる。
【0036】
本発明に係る非水電解質用二次電池正極活物質粒子粉末は、スピネル構造を有し少なくともLiとMnを主成分とする酸化物に対して、少なくともLiとZrを主成分とする酸化物を0.1〜4wt%の範囲で混合させることで得ることができる。
【0037】
上記のスピネル構造を有し少なくともLiとMnを主成分とする酸化物を製造する方法としては、特に制限はなく、例えば、マンガン原料、リチウム原料、必要により異種元素の原料を所定のモル比で混合した後、750℃〜1000℃で焼成して得ることができる。本発明におけるスピネル構造を有し少なくともLiとMnを主成分とする酸化物の平均粒径D50は、通常2〜20μm、好ましくは3〜18μmである。
【0038】
上記の少なくともLiとZrの酸化物を製造する方法としては、特に制限はなく、例えば、Li化合物には炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、酸化リチウム、水酸化Liなどを使用できる。また、Zr化合物には酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、酢酸ジルコニウムなどを使用できる。前記Li化合物と前記Zr化合物とをLi/Zr=2:1となるように秤量・混合し、920℃〜1200℃の範囲で焼成することにより、上記の結晶子サイズを有し、2相以上を有する混相を形成したLiとZrの酸化物を製造できる。
【0039】
次いで、マンガン酸リチウムを代表とした少なくともLiとMnを主成分とする酸化物に、少なくともLiとZrの酸化物を混合させる。混合方法としては、特に制限はなく、例えば、ボールミル、サンドミル、ミックスマーラーを使用した方法で混合できる。
【0040】
仮に、LiとZrの酸化物を用意して、マンガン酸リチウム合成時に添加剤として添加し焼成したとすると、Liがマンガン酸リチウムに取り込まれ、その結果LiとZrの酸化物はZrO
2といったZr酸化物となってしまう。そのため、本発明では、マンガン酸リチウムを代表とした少なくともLiとMnを主成分とする酸化物に、少なくともLiとZrの酸化物を混合させる必要がある。
【0041】
次に、本発明に係る非水電解質二次電池用正極活物質粒子粉末からなる正極活物質を用いた正極について述べる。
【0042】
本発明に係る正極活物質粒子粉末を含有する正極を製造する場合には、常法に従って、導電剤と結着剤とを添加混合する。導電剤としてはアセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛等が好ましく、結着剤としてはポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等が好ましい。
【0043】
本発明に係る正極活物質粒子粉末を含有する正極を用いて製造される二次電池は、前記正極、負極及び電解質から構成される。
【0044】
負極活物質としては、リチウム金属、リチウム/アルミニウム合金、リチウム/スズ合金、グラファイトや黒鉛等を用いることができる。
【0045】
また、電解液の溶媒としては、炭酸エチレンと炭酸ジエチルの組み合わせ以外に、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル等のカーボネート類や、ジメトキシエタン等のエーテル類の少なくとも1種類を含む有機溶媒を用いることができる。
【0046】
さらに、電解質としては、六フッ化リン酸リチウム以外に、過塩素酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム等のリチウム塩の少なくとも1種類を上記溶媒に溶解して用いることができる。
【0047】
本発明に係る正極活物質粒子粉末を含有する正極を用いて製造した非水電解質二次電池は、後述する評価法でレート特性改善率が1%以上で、且つサイクル特性改善率が1%以上である。
【0048】
本発明に係る正極活物質粒子粉末を用いたとき、LiとZrの酸化物の電子伝導性が向上する効果とともに、電解液中に発生するHFをトラップし正極活物質の劣化を抑える効果があると考えられる。また、活物質粒子表層にコアシェル構造ではなくバルクとして存在していることにより、正極活物質のバルク/界面におけるイオンの輸率も低下することなく、寧ろ電子伝導性の低下やHFによる劣化を防ぐことができるために、レート特性やサイクル特性が向上すると考えられる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。以下の実施例および比較例における評価方法を示す。
【0050】
組成は、0.2gの試料を20%塩酸溶液25mlの溶液で加熱溶解させ、冷却後100mlメスフラスコに純水を入れ調整液を作製し、測定にはICAP[SPS−4000
セイコー電子工業(株)製]を用いて各元素を定量して決定した。
【0051】
Mn溶出量は、グローブボックス内で2gの試料に20mlの電解液(1M LiPF6/EC:DEC(3:7))を添加し封をし、80℃の恒温槽で7日間放置した後に、上澄み液を抽出、フィルタリングしてICAP[SPS−4000 セイコー電子工業(株)製]を用いて測定した。
【0052】
試料のX線回折は、株式会社リガク製 SmartLabで、ターゲットにCuを用いて、0.02度ステップスキャン(0.6秒ホールド)により測定した。
【0053】
結晶子サイズは、前記粉末X線回折結果からリートベルト法(RIETAN2000)で算出した。
【0054】
LiとZrの酸化物の相の同定は、前記粉末X線回折結果からPDXL(リガク製)にあるRIR法を用いて算出した。
【0055】
粒子の平均粒径D50は レーザー式粒度分布測定装置マイクロトラックHRA[日機装(株)製]を用いて湿式レーザー法で測定した。
【0056】
本発明に係る正極活物質粒子粉末については、2032型コインセルを用いて電池評価を行った。
【0057】
電池評価に係るコインセルについては、正極活物質粒子粉末として複合酸化物を92重量%、導電材としてアセチレンブラックを2.5重量%、グラファイトを2.5重量%、バインダーとしてN−メチルピロリドンに溶解したポリフッ化ビニリデン3重量%とを混合した後、Al金属箔に塗布し120℃にて乾燥した。このシートを14mmΦに打ち抜いた後、1.5t/cm
2で圧着したものを正極に用いた。負極は16mmΦに打ち抜いた厚さが500μmの金属リチウムとし、電解液は1mol/LのLiPF
6を溶解したECとDMCを体積比1:2で混合した溶液を用いて2032型コインセルを作製した。
【0058】
レート特性について、25℃とした環境下で0.1Cで4.3VまでCC−CV条件で充電し、その後3.0VまでCC条件で放電した(そのときの放電容量をaとする)。その後、0.1Cで4.3VまでCC−CV条件で充電し、3.0Vまで10CでCC条件で放電した(そのときの放電容量をbとする)。このとき、レート特性=100×b/aとした。
【0059】
また、レート特性向上率について、本発明におけるLiとZrの酸化物を添加していないもの(参考例1、参考例2)のレート特性をv%として、本発明にあるようなLiとZrの酸化物を適宜添加されているもののレート特性をw%としたときに、レート特性向上率=w−vとした。
【0060】
サイクル特性について、60℃とした環境下で1サイクル目において1Cで4.3VまでCC−CV条件で充電し、その後3.0VまでCC条件で放電した(そのときの放電容量をcとする)。その後、1Cで3.0−4.3Vまで充電はCC−CV条件で放電はCC条件で行い、同条件を30サイクルまで繰り返し操作した。それから31サイクル目に1Cで4.3VまでCC−CV条件で充電し、その後3.0VまでCC条件で放電した(そのときの放電容量をdとする)。このとき、サイクル特性=100×d/cとした。
【0061】
また、サイクル特性向上率について、本発明におけるLiとZrの酸化物を添加していないもの(参考例1、参考例2)のサイクル特性をx%として、本発明にあるようなLiとZrの酸化物を適宜添加されているもののサイクル特性をy%としたときに、レート特性向上率=y−xとした。
【0062】
以下に本発明によるスピネル構造でLiとMnが主成分である酸化物の例として、マンガン酸リチウムの例ついて述べる。
【0063】
参考例1(マンガン酸リチウム粒子粉末の製造1):
窒素通気のもと、3.5モルの水酸化ナトリウムに0.5モルの硫酸マンガンを加え全量を1Lとし、得られた水酸化マンガンを90℃で1時間熟成させた。熟成後、空気を通気させ90℃で酸化させ、水洗、乾燥後することで酸化マンガン粒子粉末を得た。
【0064】
前記酸化マンガン粒子粉末、炭酸リチウム及び水酸化アルミニウムをLi:Mn:Al=1.07:1.83:0.10の割合になるようにボールミルにて1時間混合し、均一な混合物を得た。得られた混合物50gをアルミナるつぼに入れ、空気雰囲気で960℃、3時間保持することでマンガン酸リチウム粒子粉末を得た。
【0065】
ここで得たマンガン酸リチウム粒子粉末のMn溶出量は577ppmであり、当該粒子粉末からなる正極活物質を用いて作製したコイン型電池は、初期放電容量が105mAh/gであった。レート特性は95.9%でサイクル特性は96.6%であった。
【0066】
(LiとZrの酸化物の製造):
炭酸リチウムとZrO
2(D50:0.6μm)をLi/Zr=2:1となるように秤量して乳鉢で1時間混合した。この混合物を大気中で1000℃、1200℃、1400℃で5時間焼成した。
【0067】
このとき1000℃で焼成したもの(
図1の(a))は、XRD測定の結果主相がLi
2ZrO
3で、それ以外の相としてLi
6Zr
2O
7があり、存在比率をRIR法により算出すると、97:3の比であった。また、1200℃で焼成したもの(
図1の(b))はXRD測定の結果主相がLi
2ZrO
3で、それ以外の相としてLi
6Zr
2O
7があり、RIR法により算出すると、99:1の比であった。また、1400℃で焼成したものはXRD測定の結果主相がLi
2ZrO
3で、それ以外の相は見当たらなかった。
【0068】
実施例1:
参考例1で得られたマンガン酸リチウムに対し、1000℃で焼成したLiとZrの酸化物を該マンガン酸リチウムに対し1wt%秤量添加し、両粉末をボールミルにて1hr乾式混合した。得られたマンガン酸リチウム粒子粉末のMn溶出量は423ppmで、当該粒子粉末からなる正極活物質を用いて作製したコイン型電池は、レート特性は97.7%でサイクル特性は99.0%であった。得られた正極活物質粒子粉末の諸特性を表1に示す。
【0069】
実施例2:
参考例1で得られたマンガン酸リチウムに、1000℃で焼成したLiとZrの酸化物を2wt%秤量添加し、ボールミルにて1hr乾式混合した。得られた正極活物質粒子粉末の諸特性を表1に示す。
【0070】
実施例3:
参考例1で得られたマンガン酸リチウムに、1000℃で焼成したLiとZrの酸化物
を4wt%秤量添加し、ボールミルにて1hr乾式混合した。得られた正極活物質粒子粉末の諸特性を表1に示す。
【0071】
実施例4:
参考例1で得られたマンガン酸リチウムに、1200℃で焼成したLiとZrの酸化物を2wt%秤量添加し、ボールミルにて1hr乾式混合した。得られた正極活物質粒子粉末の諸特性を表1に示す。
【0072】
比較例1:
参考例1で得られたマンガン酸リチウムに、1000℃で焼成したLiとZrの酸化物を6wt%秤量添加し、ボールミルにて1hr乾式混合した。得られた正極活物質粒子粉末の諸特性を表1に示す。
【0073】
比較例2:
参考例1で得られたマンガン酸リチウムに、1400℃で焼成したLiとZrの酸化物を2wt%秤量添加し、ボールミルにて1hr乾式混合した。得られた正極活物質粒子粉末の諸特性を表1に示す。
【0074】
比較例3:
参考例1で得られたマンガン酸リチウムに、ZrO
2(D50:0.6μm)を1wt%添加した。得られた正極活物質粒子粉末の諸特性を表1に示す。
【0075】
参考例2(マンガン酸リチウム粒子粉末の製造2):
窒素通気のもと、3.5モルの水酸化ナトリウムに0.5モルの硫酸マンガンを加え全量を1Lとし、得られた水酸化マンガンを90℃で1時間熟成させた。熟成後、空気を通気させ90℃で酸化させ、水洗、乾燥後することで酸化マンガン粒子粉末を得た。
【0076】
前記酸化マンガン粒子粉末、炭酸リチウム及び酸化マグネシウムをLi:Mn:Mg=1.07:1.88:0.05の割合になるようにボールミルにて1時間混合し、均一な混合物を得た。得られた混合物50gをアルミナるつぼに入れ、空気雰囲気で870℃、3時間保持することでマンガン酸リチウム粒子粉末を得た。
【0077】
ここで得たマンガン酸リチウム粒子粉末からなる正極活物質を用いて作製したコイン型電池は、初期放電容量が107mAh/gであった。レート特性は94.8%でサイクル特性は95.7%であった。
【0078】
実施例5:
参考例2で得られたマンガン酸リチウムに、1000℃で焼成したLiとZrの酸化物を2wt%秤量添加し、ボールミルにて1hr乾式混合した。
【0079】
ここで得たマンガン酸リチウム粒子粉末からなる正極活物質を用いて作製したコイン型電池は、レート特性は97.1%でサイクル特性は97.1%であった。得られた正極活物質粒子粉末の諸特性を表1に示す。
【0080】
比較例4:
参考例2で得られたマンガン酸リチウムに、1200℃で焼成したLiとZrの酸化物を6wt%秤量添加し、ボールミルにて1hr乾式混合した。得られた正極活物質粒子粉末の諸特性を表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
実施例1で得られた正極活物質粒子粉末の走査型電子顕微鏡写真を
図1に示す。
図1から明らかなとおり、実施例1の正極活物質粒子は、マンガン酸リチウム粒子とLiとZrの酸化物とが単独で存在していることが分かる(コアシェル構造であったり、アイランド構造ではない)。
【0083】
LiとZrの酸化物がこのような存在形態であるために、電池としてLiの移動における輸率の低下が発生することもなく、しかしながらマンガン酸リチウム粒子との接点があることで電子伝導性が向上すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明に係る非水電解質二次電池用正極活物質粒子粉末は、電池としたときにHFをトラップしたり電子伝導性を向上させることにより、レート特性が高く、サイクル特性に優れた二次電池用の正極活物質として好適である。