【文献】
KHAZANOV,E. et al.,Compensation of Thermally Induced Modal Distortions in Faraday Isolators,IEEE JOURNAL OF QUANTUM ELECTRONICS,2004年10月,VOL.40,NO.10,1500-1510
【文献】
SNETKOV,I. et al.,Compensation of thermally induced depolarization in Faraday isolators for high average power lasers,OPTICS EXPRESS,2011年 3月28日,Vol.19,No.7,6366-6376
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の基準軸に沿った厚みが異なる矩形部分が隣接するように前記第2の基準軸に沿って複数の矩形部分が配置された形状は、階段状の形状または櫛型形状を含むことを特徴とする請求項4記載のレーザ光源。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。以下の説明では、まず従来の構成について説明し、その構成における問題点を示した後に、本願発明における実施形態を説明する。
【0016】
図1は、一般的なレーザ光源で用いられるISO(Isolator)の配置および構成を示す図である。
図1(A)に示されたように、ISO(Isolator)60は、光源部10Aの後段に設けられる。光源部10Aは、レーザ光源の主機能を有する部分であり、パルス光(レーザ光)を出射する種光源、種光を増幅する増幅手段としてのファイバレーザ、パルス光の波形制御を行う波形制御手段が含まれる。なお、光源部10AとISO60との間は、デリバリーファイバ53により接続され、さらにISO60の前段にはコリメータレンズ55も設けられている。
【0017】
一般的にレーザ加工を行う装置には、大出力や高ピークパワーのレーザ光源、集光光学系を含む外部光学系、レーザ制御系、ソフトウェア等が含まれる。レーザ加工の加工対象物によっては戻り光が顕著である。そのため、戻り光によるレーザ光源破損を保護する目的で、ISO60には、TGG(Tb
3Ga
5O
12)結晶、あるいは、TSAG(Tb
3(ScAl)
5O
12)結晶等が用いられる。なお、ISO60は、
図1(B)に示されたように、レーザ光が入射される入射端面60aとレーザ光が出射される出射端面60bを有するとともに、入射端面60aと出射端面60bとの間に配置された、上記TGG結晶やTSAG結晶などのファラデー回転結晶601、複屈折結晶602を有する。
【0018】
ここで、光源部10Aからのレーザ光の出力パワーやピーク値の増大とともにISOにおける熱レンズ効果の影響が顕著に表れ、レーザ光の伝搬状態(ビーム径やビームの断面形状など)が変化する。この点について
図2で説明する。ISO60として用いられるTGG結晶やTSAG結晶は熱光学定数dn
1/dTが正の符号を有している。そのため、これらファラデー回転結晶の熱レンズ効果により凸形状のグリンレンズ(GRIN)と同様に、レーザ光の伝搬状態が変更される。この結果、ISO60があることによりビーム伝搬はL1からL2へ変化し、ISO60後のビームウエスト位置は
図2のWαからWβへシフトすることになる。そして、
図2に示されたたように、測定点Pで両者を比較すると、ISO60が設けられることで、ビーム径が拡大する。このように異なる伝搬状態(L1,L2)のレーザ光をレンズで集光した場合、入射波面が異なるため焦点位置の変動等が生じ、精密なレーザ加工には大きな問題となる。
【0019】
正の熱光学定数dn
1/dTに起因する熱レンズ効果を補償する方法の一つに、負の熱光学定数dn
2/dTを有する非線形光学結晶を、レーザ光の光路上に設ける方法がある。すなわち、符号の異なる非線形光学結晶を配置することにより、熱光学定数はdn
1/dT−dn
2/dTとなり、熱レンズ効果が相殺される。実際には熱光学定数の絶対値が一致している逆符号の結晶は存在しないが、結晶長さ等を調整することで、ある程度の補償は可能である。例えば、DKDP結晶は−dn
2/dTの物性値を有する非線形光学結晶であるため、
図3に示されたように、デリバリーファイバ53の後段であって、TGG結晶またはTSAG結晶を用いたISO60の前段または後段に設置することは有効である。なお、
図3(A)では、ISO60の後段にDKDP結晶70が配置された例を示し、
図3(B)は、コリメータレンズ55とISO60との間にDKDP結晶70が配置された例を示す。また、DKDP結晶70は、レーザ光が入社される入射端面70aとレーザ光が出射される出射端面70bを有する。
【0020】
しかしながら、上記のビーム拡光を補償する方法はレーザ光源の偏光に依存するため、ランダム偏光のレーザ光源には不向きであった。また、ARコート(反射防止膜)されたDKDP結晶を用いることで、出射光に対する戻り光の割合が0.1%以下となるように抑制できたとしても、レーザ光源からのレーザ光の出力パワー(光強度)やピーク値が大きい場合には、その影響が大きい。特に、レーザ光の入射前伝搬軸に対して入射端面70aが垂直となるようにDKDP結晶70が配置されると、光源要素を破損させる可能性があった。
【0021】
そこで、以下の実施形態では、ランダム偏光のレーザ光を出射するレーザ光源においてもビーム拡大を抑制しつつレーザ光源内への戻り光の影響を回避する方法として、入射面70aをレーザ光の入射前伝搬軸に対して傾斜させた状態でDKDP結晶70を配置する構成について説明する。
【0022】
図4には、MOPA(Master oscillator power amplifier)構造のレーザ光源1の構成例が示されている。
図4に示されたように、レーザ光源1は、種光源10、パルスジェネレータ15(波形制御手段)、アイソレータ20、光ファイバ増幅部(ファイバレーザ)30、出力コネクタ50、デリバリーファイバ53、コリメータレンズ55及びISO60を備える。パルスジェネレータ15により種光源10をコントロールして出射されたパルス光は、光ファイバ増幅部30において増幅される。このため、パルス光の繰り返し周波数は、パルスジェネレータ15の性能に依存するが、数十kHzから1MHz程度の広い範囲で設定することができる。また、パルス波形は、パルスジェネレータ15及び種光源10の性能に依存し、パルス光の発振条件によっては、複数のピークを有したパルス波形を生成することが可能である。
図4中の領域45では、必要に応じてYbDF増幅器が挿入された構成や、特定の波長の光のみを通過させるためのフィルタが挿入された構成も適用可能である。
【0023】
種光源10から出射されたパルス光は、アイソレータ20を経て光ファイバ増幅部30において増幅される。
図4に示されたレーザ光源1において、光ファイバ増幅部30は、励起用LD31,35、光コンバイナ33,37、YbDF(Yb添加光ファイバ)41,42、アイソレータ43により構成されている。アイソレータ20を経て光ファイバ増幅部30に入射した光は、励起用LD31により励起光がYbDF41に供給されることで該YbDF41において増幅される。さらに、YbDF41において増幅された光は、アイソレータ43を経た後に、複数の励起用LD35により励起光がYbDF42に供給されることで、YbDF42においてさらに増幅される。このように、種光源10からのパルス光は、光ファイバ増幅部30において増幅された後に出射される。なお、YbDF41とアイソレータ43との間に設けられている領域45では、上述のようにYbDF増幅器やフィルタを設けることも可能である。
【0024】
次に、このレーザ光源1の後段に配置されるDKDP結晶70について説明する。すなわち、DKDP結晶70は、
図3(A)に示された位置に配置される。
図5では、ISO60の出射端面60bから出射されたレーザ光がDKDP結晶70に垂直に入射した場合の、DKDP結晶70における結晶方位と配置を示す。DKDP結晶70は正方晶系に分類され、一軸性の光学異方性を有している。そのために、DKDP結晶70へ入射されるレーザ光がランダム偏光である場合、いずれの偏波に対しても同じ屈折率となるように、DKDP結晶70の光学軸に沿ってレーザ光を入射させる必要がある。
図5には、ランダム偏光のレーザ光とDKDP結晶70の光学軸の関係を示しており、レーザ光の入射前伝搬軸および結晶内伝搬軸の双方ともDKDP結晶70の光学軸は一致している。なお、DKDP結晶70は、一軸性の正方晶系であるため、一つの光学軸を有するとともに、その光学軸はc軸(結晶軸)と一致している。
【0025】
なお、DKDP結晶70にARコートが付与されたとしても、大出力レーザ光や高ピークレーザ光を利用している限り、DKDP結晶70の入射端面70aがレーザ光の入射前伝搬軸に対して垂直であると、DKDP結晶の入射端面70aからの戻り光の影響は排除できないと考えられる。そこで、
図6に示されたように、入射端面70aをレーザ光の入射前伝搬軸に対して傾けた状態でDKDP結晶70を配置し、戻り光による光源要素への影響を無くす方法を検討する。
図6(A)〜(C)では、前提としてDKDP_0°は立方体であり、DKDP_0°の光学軸(c軸:G00)は、レーザ光の入射前伝搬軸と平行である。次に、
図6(A)に示されるように、DKDP結晶70の角度をレーザ光の入射前伝搬軸に対してθ
1度傾けた場合をDKDP_θ
1(θ
c1)とする。この場合、DKDP結晶70をθ
1だけレーザ光の入射前伝搬軸に対して傾けたので、DKDP結晶70のc軸G01の角度(θ
c1)もレーザ光の入射前伝搬軸に対してθ
1だけ傾いている。
【0026】
次に、
図6(B)を用いて、DKDP_θ
1(θ
c1)に波長λ
1のレーザ光が入射された場合について説明する。入射レーザ光I
inを、該入射レーザ光の入射前伝搬軸に対してθ
1だけ傾けられたDKDP_θ
1(θ
c1)結晶70(レーザ光I
inの入射角がθ
1)に入射させる。この場合、スネルの法則に従い、入射レーザ光I
inは、DKDP_θ
1(θ
c1)結晶70の入射端面70aの垂線に対して式(1)の屈折角θ
2で屈折し結晶内を伝搬する。
【数1】
【0027】
DKDP結晶70から出射される出射レーザ光I
outと入射レーザ光I
inとの間には、DKDP結晶70厚さ(レーザ光の結晶内伝搬軸に沿った厚み)に依存したオフセット(入射前伝搬軸と出射後伝搬軸とのずれ)が生じるが、出射レーザ光I
outは入射レーザ光I
inと平行に出射される。ここで重要な点として、DKDP結晶70のc軸は、屈折したレーザ光がDKDP_θ
1(θ
2)結晶70内を伝搬している結晶内伝搬軸と一致または平行である必要がある。すなわち、
図6(B)に示されたように、DKDP_θ
1(θ
c2)結晶70の光学軸は、ランダム偏光のレーザ光の結晶内伝搬軸と一致または平行である必要がある。
図6(C)は、
図6(B)に記載された情報のうち一部を抜き出したものである。ここで、DKDP_θ
1(θ
2)結晶70に角度θ
1でレーザ光が入射された場合、屈折角θ
2は式(1)により導かれる。ここで、DKDP結晶70のc軸(G02)の、入射端面70aの垂線に対する角度(θ
c2)は、屈折角θ
2と同じ向きに調整される。
【0028】
図7(A)に、ISO60から出射されたレーザ光がDKDP結晶70に入射された場合の概略図を示す。DKDP結晶70の入射端面70aや出射端面70bからのフレネル反射を防ぐために、DKDP結晶70は、レーザ光の入射前伝搬軸に対して傾き角がθ
crystalになるよう設置される(DKDP_θ
crystal(θ
c))。このとき、入射端面70aの垂線に対するc軸の角度(θ
c)が式(1)から求められた屈折角θ
2と同じ角度となるようにDKDP結晶70を配置をすることで、当該DKDP結晶70は、偏光無依存のビーム拡光補償素子と成り得る。このことは、
図7(B)に示されたように、DKDP結晶70がISO60の前段に設置された場合も同様である。
【0029】
このように、幾何光学的観点からは、以下のように配置されたDKDP結晶70をランダム偏光のレーザ光が通過することで、該レーザ光に対する偏波依存性の発生が抑制されるとともに、戻り光の発生も抑制され得る。なお、DKDP結晶70は、レーザ光の入射前伝搬軸に対する入射端面70aの傾斜角(入射端面70aに対する垂線とレーザ光の入射前伝搬軸とのなす入射角)θ
crystalが0°<θ
crystal<90°の条件を満たし、かつ、DKDP結晶70中を伝搬するレーザ光の結晶内伝搬軸とDKDP結晶70の光学軸(c軸)とが平行となるように、配置される。
【0030】
しかしながら、傾斜角θ
crystal(入射角)が0°付近では戻り光パワーが透過光パワーに比べ大きくなる。また、ランダム偏光においても同等の戻り光パワー(s波、p波いずれも同等の透過光パワー)で、かつ、垂直反射を避ける必要がある。そのため、現実的な傾斜角θ
crystalの範囲としては、1°以上10°以下であることが好ましい。
【0031】
ここで、
図4に示されたMOPA型レーザ光源1を用いた上記実施形態の実施例を示す。このとき、レーザ光の平均出力は20W程度とし、繰り返し周波数は数十kHzから1MHzに可変である。また、レーザ光源1は、パルスジェネレータ15によりパルス波形を自在に制御することができる。また、メインの発振波長は1.06μmであり、ランダム偏光である。
図8〜
図11は、繰り返し周波数は100kHz〜1MHzとし、ピーク値を80kW程度となるように設定し、パルス波形を制御したときのパルス発振特性を示す。
【0032】
図8は、繰り返し周波数を200kHz一定、パルス光(レーザ光)のピーク値を約80kW一定とした上で、種々のパルスエネルギーについてパルス幅を制御した結果を示す。なお、
図8(A)はパルスエネルギーが10μJの場合、
図8(B)はパルスエネルギーが50μJの場合、
図8(C)はパルスエネルギーが100μJの場合を示す。
図9は、パルス光のピーク値を約80kW一定とし、種々の繰り返し周波数について平均出力がおよそ20W一定となるようにパルス波形を制御した結果を示す。なお、
図9(A)は繰り返し周波数が500kHzの場合、
図9(B)は繰り返し周波数が300kHzの場合、
図9(C)は繰り返し周波数が200kHzの場合を示す。
図10(A)および
図10(B)は、それぞれ異なるパルス幅に制御しながら繰り返し周波数300kHzでマルチパルスを生成した例である。
図10(A)の全パルスエネルギーは61μJ、
図10(B)の全パルスエネルギーは59μJである。また、
図11(A)および
図11(B)は、それぞれ異なるパルス幅に制御しながら繰り返し周波数100kHzでマルチパルスを生成した例である。
図11(A)の全パルスエネルギーは174μJであり、
図11(B)の全パルスエネルギーは50μJである。なお、マルチパルス生成時は、8パルスでいずれの例でもパルス間隔は10nsであるが、
図10(A)および
図10(B)、
図11(A)および
図11(B)のぞれぞれでは、パルス間隔は0.5nsで表示されている。このように、MOPA型レーザ光源1は、パルスジェネレータ15を独立して制御することができることから、様々なパルス波形を生成させられる。なお、図中の倍率とは、1.5m先で計測した熱レンズ効果により拡大したビーム径の倍率を指し、平均出力が数百mW以下の熱レンズ効果が生じないLowパワーのビーム径に対するレーザ光のピーク値を80kW(平均出力16W以上)としたときのビーム径の比率である。このビーム径の測定には
図12と
図13に示す光学測定系を用いた。
【0033】
図12の光学測定系100では、光源部10A、減衰光学系80及びビームプロファイラ90が含まれる。光源部10Aには、種光源10、パルスジェネレータ15、アイソレータ20、光ファイバ増幅部(ファイバレーザ)30及び出力コネクタ50が含まれる。出力コネクタ50から出射されたレーザ光は、デリバリーファイバ53を通過した後にコリメータレンズ55に入射される。そして、コリメータレンズ55からのレーザ光はISO60の出射端面60bから出射される。また、
図13の光学測定系101では、
図12の光学測定系において、ISO60の後段にDKDP_θ
crystal(θ
c)結晶70が配置されている。いずれの測定光学系100、101においても、ISO60(又はDKDP_θ
crystal(θ
c)結晶70)から出射されたレーザ光は、例えばフレネル反射を用いた減衰光学系80により所定の光強度となるまで減衰される。そして、所定の光強度に減衰されたレーザ光がビームプロファイラ90に入射される。したがって、ビームプロファイラ90は、ISO60の出射端面60bから1.5m離れた地点でのビーム径を測定している。
【0034】
ここで、
図14(A)にTGG結晶を用いたTGG型ISOにおける1.5m先のビーム径測定結果を示す。この測定は、
図12の光学測定系100が利用される(すなわち、DKDP結晶は用いていない)。
図14(A)における縦軸のビーム径の拡大倍率とは、各発振条件の80kWピーク値でのビーム径と、数百mW程度、すなわちLowパワーでのビーム径の比率である。また、代表的なパルス発振条件を6種類(P1〜P6)用意し、ビーム拡光率は、繰り返し周波数100kHzから1MHzの範囲で調査された。その結果、低周波側で拡大倍率が増大するケース、200〜300kHzでピークが現れるケース、周波数増大に伴って拡大倍率が増加するケースの主に3タイプの拡光条件が観察された。
図14(A)の結果から、パルス波形に依存して熱レンズ効果が変わっていることが分かる。このケースにおいては、最大で160%の拡光率が得られた。その他の条件においては、200%を超える場合もあった。すなわち、TGG型ISOを用いることで、ビーム径の変化が生じていることが確認された。
【0035】
次に、TGG型ISOによって生じた熱レンズ効果によるビーム伝搬の変化に対して、DKDP結晶を用いて補償する検証実験について説明する。拡光補償素子の結晶配置は、前述したDKDP_θ
crystal(θ
c)とし、
図13に示された光学測定系101を用い、他の条件は
図14(A)と同様である。
図14(B)はその測定結果を示す。DKDP_θ
crystal(θ
c)結晶70を光路上に配置することにより、ビーム径の拡大倍率を110%以下に抑制することができた。DKDP結晶の厚さを最適化することにより、さらに抑制することが可能であると考えられる。
【0036】
なお、DKDP結晶70の入射端面70aに入射されるレーザ光のビーム径は、0.5mm以上であるのが好ましい。また、レーザ光の結晶内伝搬軸に沿った、DKDP結晶70の厚みは、5mm以上30mm以下であるのが好ましい。さらに、レーザ光の結晶内伝搬軸に直交する、DKDP結晶70の断面の一辺の長さは、0.7mm以上、20mm以下であるのが好ましい。
【0037】
図15では、TGG型ISO(ISO60)の後段に拡光補償素子であるDKDP_θ
crystal(θ
c)結晶(DKDP結晶70)を配置した場合と配置しない場合のビームプロファイルの測定結果を示す。
図15の左側は、TGG型ISOのみ(DKDP結晶を配置しない場合)の構成におけるビームプロファイル(繰り返し周波数200kHzで、Lowパワーのパルス光とピーク値80kWの場合)を示し、
図15の右側は、TGG型ISOの直後にDKDP_θcrystal(θc)結晶が配置された構成におけるビームプロファイル(繰り返し周波数200kHzで、Lowパワーのパルス光とピーク値80kWの場合)である。
図15から分かるように、DKDP_θ
crystal(θ
c)結晶を配置することによりビーム拡光は抑制されるとともに、Lowパワーと同様の真円度を得ることが確認された。このことから、DKDP_θ
crystal(θ
c)結晶を用いることにより、高いビーム品質を保持しつつ抑制できることが確認された。
【0038】
さらに、DKDP結晶が挿入された場合のビーム伝搬特性を調べた結果を
図16に示す。TGG型ISO(パルスピーク値80kW)は、TGG型ISO(Lowパワー)に比べてビームウエスト位置がTGG型ISO側へシフトし(
図16の左方へ向かう矢印)、ウエストが収縮している(
図16の下方へ向かう矢印)。その結果ビーム伝搬が変化し、TGG型ISOからの距離が1.5mとなる位置では、ビーム径が大幅に拡大していることが分かった。一方、TGG型ISOに加えてDKDP結晶を配置した場合(パルスピーク値80kW)では、DKDP結晶が補償素子としての効果が働き、TGG型ISO(Lowパワー)と同程度のビーム伝搬であることが分かった。
【0039】
以上のように、様々なパルス波形とISOの組み合わせにより熱レンズ効果の強弱が現れ、拡光が発生する条件及び拡光率に関して種々のケースがあることが確認された。これに対して、DKDP_θ
crystal(θ
c)結晶を用いることにより、それら全ての拡光条件において拡光の抑制を達成することが確認できた。以上のことから、DKDP_θ
crystal(θ
c)結晶は、ランダム偏光無依存の拡光補償素子として機能することが明らかになった。
【0040】
次に、DKDP結晶の断面形状とビーム径の拡大抑制との関係について説明するための図である。
【0041】
DKDP結晶は正方晶系であるため、当該DKDP結晶の光学軸(結晶c軸に一致)に直交する断面において全方向の熱伝導率は同じ値を有する。すなわち、DKDP結晶の断面をx−y平面と仮定すれば、x軸方向の熱伝導率σ
xは、y軸方向の熱伝導率σ
yと等価である。したがって、
図17(A)に示されたように断面が正方形のDKDP結晶70では、x軸方向およびy軸方向における放熱能力は同等である。この場合、DKDP結晶70において、x軸方向およびy軸方向のビーム拡大の補償能力は等しい。例えば、レーザ光が伝搬軸AXに沿ってDKDP結晶70に入射される場合、当該DKDP結晶70の入射端面70a上におけるビーム形状B
inが真円であれば、出射端面70bから出射されるレーザ光の断面形状(出射端面70b上におけるビーム形状B
out)も真円が維持される。そのため、
図17(A)のDKDP結晶70は、ビーム断面形状の真円状態を保持しつつビーム拡大を補償することを可能にする。なお、
図17(A)に示されたビーム径は、結晶サイズに対する相対的なサイズの一例として示されている。また、ビーム径はe
−1/2とする。
【0042】
なお、
図17(A)に示されたDKDP結晶70では、x軸方向の厚みは入射レーザ光のビーム径と同程度(但し、入射レーザ光のパワーロスが無い状態)である。これに対して、
図17(B)に示されたDKDP結晶70Aでは、y軸方向の厚みは入射レーザ光のビーム径に比べて十分に大きく、当該DKDP結晶70Aにおける入射端面と出射端面以外の全ての面、あるいは、y―z平面に平行な両面のみが、当該DKDP結晶70Aよりも高い熱伝導率を有した材料700で覆われている。この場合、入射端面上におけるレーザ光の入射領域付近の実効熱伝導率は、σ
x>σ
yの関係が成り立つ。周囲の材料700には、例えば、導電性Siゴムが挙げられ、レーザ光の入射領域付近の実効熱伝導率の関係(Siゴムで覆われたDKDP結晶70Aのx軸方向の熱伝導率とy軸方向の熱伝導率の関係)は、σ
DKDP+Six>σ
yである。この条件下では、x軸方向の放熱能力はy軸方向のそれに比べて高いために、DKDP結晶70A内でのレーザ照射による定常的な発熱分布はx軸方向に拡がった様相となる。その結果、DKDP結晶70Aのx軸方向のビーム拡大補償能力は、y軸方向のそれに比べて低くなる。ただし、伝搬軸AXに沿って入射されるレーザ光のビーム形状がDKDP結晶70Aの入射端面上において真円であっても、DKDP結晶70Aの出射端面から出射されるレーザ光の断面形状はx軸方向に伸びた楕円形状となる。
【0043】
一方、DKDP結晶70Aの周囲を当該DKDP結晶70Aよりも低い導電率を有した材料、あるいは気体とした場合、DKDP結晶70Aにおけるx軸方向の熱伝導率とy軸方向の熱伝導率の関係はσ
x<σ
yとなる。例えば、DKDP結晶70Aの周囲を空気雰囲気とした場合(空気雰囲気の熱伝導率はDKDP結晶70Aの熱伝導率に比べて2桁小さい)、レーザ光の入射領域付近の実効熱伝導率の関係(空気雰囲気中のDKDP結晶70Aのx軸方向の熱伝導率とy軸方向の熱伝導率の関係)は、σ
DKDP+Airx<σ
yとなる。すなわち、x軸方向の放熱能力はy軸方向のそれに比べて低下する。その結果、x軸方向のビーム拡大補償能力が向上することになる。ただし、伝搬軸AXに沿って入射されるレーザ光のビーム形状がDKDP結晶70Aの入射端面上において真円であっても、DKDP結晶70Aの出射端面から出射されるレーザ光の断面形状はy軸方向に伸びた楕円形状となる。
【0044】
このように、z軸の結晶厚みとともに、x−y平面(DKDP結晶の断面)の形状、および周囲を覆う材料により、x軸およびy軸のビーム拡大補償能力の比率を制御することが可能である。
【0045】
なお、DKDP結晶の断面形状は、上述のような正方形や長方形には限定されない。例えば、x軸(第1の基準軸)に沿った厚みが異なる矩形領域が隣接するようにy軸(第2の基準軸)に沿って複数の矩形領域が配置された形状(
図18(B)、
図19(A)参照)、あるいは、x軸に沿った厚みがy軸に沿って連続的に変化する形状(
図19(B)参照)であってもよい。DKDP結晶の断面形状を任意の形状とし、DKDP結晶へのレーザ光入射位置を変更することにより、x軸方向のビーム拡大補償能力とy軸方向のビーム拡大補償能力の比率を自在に調整できる。この場合、DKDP結晶の断面の一辺の長さは、0.7mm以上、20mm以下であるのが好ましい。
【0046】
図18(A)は、DKDP結晶へのレーザ光の入射位置を調整するための位置決めステージ(位置制御機構)800を示す。この位置決めステージ800は、DKDP結晶が設置される第1ステージ801と、第1ステージを移動可能な状態で保持する第2ステージ802と、第2ステージ803を移動可能な状態で保持する支柱部803を、少なくとも備える。第1ステージ801は、DKDP結晶70Bが設置された状態で、第2ステージ802に対してy軸(水平方向S)に沿って移動可能である。第2ステージ802は、第1ステージ801を保持した状態で、支柱部803に対してx軸(垂直方向H)に沿って移動可能である。
図18(A)では、位置決めステージ800の一部として、x−y面上においてDKDP結晶70Bを移動させるための構造が示されているが、位置決めステージ800は、支柱部803をz軸に沿って移動させるための機構、更には、支柱部803をx軸に対して傾けるための機構も含まれる。
【0047】
以下、x−y面(DKDP結晶の断面)でのレーザ光入射領域付近の実効熱伝導率の異方性制御について説明する。
【0048】
図18(B)は、DKDP結晶の他の例を示す図であり、
図18(B)に示されたDKDP結晶70Bの断面は、y軸方向に沿ってx軸方向の厚みが異なる複数の矩形領域I〜IIIが配置された構造を有する。すなわち、領域Iは、x軸方向の厚みがβ
1、y軸方向の厚みがαの矩形領域、領域IIは、x軸方向の厚みがβ
2、y軸方向の厚みがαの矩形領域、領域IIIは、x軸方向の厚みがβ
3、y軸方向の厚みがαの矩形領域である。なお、DKDP結晶70Bの外周面は熱伝導率の低い材質で覆われるか、あるいは、空気雰囲気にさらされる。また、
図18(B)において、領域I〜IIIにおける入射ビーム形状B
in1、B
in2、B
in3は、結晶板サイズと相対的な寸法で描かれており、一例にすぎない。領域Iにおける熱伝導率σ
x1とσ
y1は、α=β
1であるため等しい(σ
x1=σ
y1)。一方、領域II、領域IIIは、α>β
2>β
3の関係であるため、領域IIおよび領域IIIにおける入射ビーム領域付近の実効熱伝導率は、σ
DKDP+Airx2<σ
y1、σ
DKDP+Airx3<σ
y1であり、σ
DKDP+Airx3<σ
DKDP+Airx2の関係が成り立つ。すなわち、領域Iではx軸方向およびy軸方向のビーム拡大補償能力は等価であるが、x軸方向の長さとy軸方向の長さの比(アスペクト比)の異なる領域II、領域IIIへ入射することにより、x軸方向のビーム拡光補償能力が向上する。領域IIIのx軸方向のビーム拡大補償能力は、領域IIに比べて高いため、DKDP結晶への入射ビーム径が真円であっても、DKDP結晶から出射したビーム形状は、
図18(C)のようにx軸方向に潰れた楕円となる。なお、
図18(C)のビーム形状の測定位置は、例えば、DKDP結晶70Bの出射端面70b(レーザ光の出射直後)である。
【0049】
さらに、
図19(A)および
図19(B)に、DKDP結晶における断面形状の更に他の例を示す。
図19(a)に示されたDKDP結晶70Cは、x軸方向の厚さがβ
1であるDKDP結晶板を用意し、ドライエッチングやダイシングソー等で切削加工することで得られる(
図19(A)に示された所定の形状が実現できる)。なお、ダイシングソーを用いる場合、
図18(B)の領域IIおよび領域IIIと同等の形状を作製するには、γ’
2、γ’
3のように切削深さをコントロールしつつ、所定のα’の幅が得られるまでy軸方向にブレード幅程度毎にずらしながら切削する。また、深さ方向のコントロールには、必要に応じて多段切削をしても構わない。上記手法を用いることで、
図18(B)の領域IIおよび領域IIIと等価な領域IVおよび領域Vが得られる。なお、領域IVは、x軸方向の厚みがβ
’2、y軸方向の厚みがα
’の矩形領域、領域Vは、x軸方向の厚みがβ
’3、y軸方向の厚みがα
’の矩形領域である。領域IVおよび領域Vにおける入射ビーム領域付近の実効熱伝導率は、σ
DKDP+Airx4<σ
y1、σ
DKDP+Airx5<σ
y1であり、σ
DKDP+Airx5<σ
DKDP+Airx4の関係が成り立つ。なお、
図19(A)に示されたような断面形状を実現するためには異なる結晶厚のDKDP結晶の張り合わせでも対応できるが、微小サイズではハンドリングが難しくなる。上記手法を用いれば、ハンドリングの問題は解消される。なお、入射面と出射面を除いた結晶周囲は、ステージ等に保持される箇所以外は空気雰囲気中にさらされるか、あるいは、導電性を有したSiゴムで覆われてもよい。
【0050】
この手法は、レーザ入射領域の形状として、アスペクト比の異なる複数種類の形状を一枚のDKDP結晶板から得られる。すなわち、
図18(A)に示された位置決めステージ800で、DKDP結晶へのレーザ入射位置を面内方向に走査制御することで、ビーム拡大に関して、x軸方向の補償能力とy軸方向の補償能力の比率を簡便に変更することが可能である。よって、レーザ光源固有のビーム形状(断面形状)の歪み、ISOを構成する結晶の形状や内部に存在する欠陥、DKDP結晶の形状や内部に存在する欠陥、DKDP結晶の保持方法等の影響により、ビーム形状が真円から崩れてしまう場合において、上記手法を用いることは大変有効である。なお、
図19(B)に示された楔型形状の断面を有するDKDP結晶70Dにおいても、
図19(A)と同様に異方性を有したビーム拡大補償を実現することが可能である。
図19(B)に示されたDKDP結晶70Dは、σ
x1=σ
y1となる領域Iからσ
DKDP+AirxN<σ
y1となるN個の領域が、y軸方向に沿って配置された断面構造を有する。また、各領域のx軸方向の厚みはy軸方向に沿って連続的に変化する一方、y軸方向の厚みはy1に設定されている。
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、種々の変更を行うことができる。