(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6142880
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】シリコンエッチング液およびエッチング方法並びに微小電気機械素子
(51)【国際特許分類】
H01L 21/308 20060101AFI20170529BHJP
B81B 7/02 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
H01L21/308 B
B81B7/02
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-557438(P2014-557438)
(86)(22)【出願日】2014年1月10日
(86)【国際出願番号】JP2014050279
(87)【国際公開番号】WO2014112430
(87)【国際公開日】20140724
【審査請求日】2016年10月6日
(31)【優先権主張番号】特願2013-4410(P2013-4410)
(32)【優先日】2013年1月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】藤音 喜子
【審査官】
齊田 寛史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−060394(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/040484(WO,A1)
【文献】
特公平01−024231(JP,B2)
【文献】
特開平09−241612(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/308
B81B 7/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶シリコンを異方性に溶解するシリコンエッチング液であって、(1)水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウム、(2)ヒドロキシルアミン、および(3)チオ尿素基を有しN,N’を繋いだ下記一般式(I)で表される環状化合物を含有す
るシリコンエッチング液
であって、
前記(3)チオ尿素基を有しN,N’を繋いだ一般式(I)で表される環状化合物が、エチレンチオ尿素、プロピレンチオ尿素、2−チオウラシル、2−チオバルビツル酸、6−メチル−2−チオウラシル、5−ブチル−6−エチル−2−チオウラシル、5−ブチル−6−メチル−2−チオウラシル、5−ブチル−6−プロピル−2−チオウラシル、5,6−ジメチル−2−チオウラシル、6−メチル−5−プロピル−2−チオウラシル、5−プロピルチオウラシル、5−メチル−6−ブチル−2−チオウラシル、5−へキシル−2−チオウラシル、5−エチル−2−チオウラシル、1−メチル−2−チオウラシル、3−メチル−2−チオウラシル、1,3−ジメチル−2−チオウラシル、1,5−ジメチル−2−チオウラシル、チオバルビタール、5−(2−メチルプロピル)−5−エチル−2−チオバルビツル酸、1,3−ジエチル−2−チオバルビツル酸、1,3,5−トリメチル−2−チオバルビツル酸、および1,3‐ジメチル−2−チオバルビツル酸からなる群より選ばれる1種以上である、前記シリコンエッチング液。
【化1】
(一般式(I)中、Qは、飽和または不飽和の炭素−炭素結合を有する有機基を表す。)
【請求項2】
前記(3)チオ尿素基を有しN,N’を繋いだ一般式(I)で表される環状化合物が、エチレンチオ尿素、プロピレンチオ尿素、2−チオウラシル、および2−チオバルビツル酸からなる群より選ばれる1種以上である請求項1に記載のシリコンエッチング液。
【請求項3】
前記(1)水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムの濃度が7〜45質量%であり、前記(2)ヒドロキシルアミンの濃度が5〜15質量%であり、前記(3)チオ尿素基を有しN,N’を繋いだ一般式(I)で表される環状化合物の濃度が0.00001〜1.5質量%である請求項1または2に記載のシリコンエッチング液。
【請求項4】
単結晶シリコンを異方性に溶解するシリコンエッチング方法であって、(1)アルカリ金属水酸化物、(2)ヒドロキシルアミン、および(3)チオ尿素基を有し、N,N’を繋いだ下記一般式(I)で表される環状化合物を含有するシリコンエッチング液を用いる
工程を含み、
前記(3)チオ尿素基を有しN,N’を繋いだ一般式(I)で表される環状化合物が、エチレンチオ尿素、プロピレンチオ尿素、2−チオウラシル、2−チオバルビツル酸、6−メチル−2−チオウラシル、5−ブチル−6−エチル−2−チオウラシル、5−ブチル−6−メチル−2−チオウラシル、5−ブチル−6−プロピル−2−チオウラシル、5,6−ジメチル−2−チオウラシル、6−メチル−5−プロピル−2−チオウラシル、5−プロピルチオウラシル、5−メチル−6−ブチル−2−チオウラシル、5−へキシル−2−チオウラシル、5−エチル−2−チオウラシル、1−メチル−2−チオウラシル、3−メチル−2−チオウラシル、1,3−ジメチル−2−チオウラシル、1,5−ジメチル−2−チオウラシル、チオバルビタール、5−(2−メチルプロピル)−5−エチル−2−チオバルビツル酸、1,3−ジエチル−2−チオバルビツル酸、1,3,5−トリメチル−2−チオバルビツル酸、および1,3−ジメチル−2−チオバルビツル酸からなる群より選ばれる1種以上である、前記シリコンエッチング方法。
【化2】
(一般式(I)中、Qは、飽和または不飽和の炭素−炭素結合を有する有機基を表す。)
【請求項5】
前記(1)アルカリ金属水酸化物が水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムから選ばれる1種以上である請求項4に記載のシリコンエッチング方法。
【請求項6】
前記(1)アルカリ金属水酸化物の濃度が7〜45質量%であり、前記(2)ヒドロキシルアミンの濃度が5〜15質量%であり、前記(3)チオ尿素基を有しN,N’を繋いだ一般式(I)で表される環状化合物の濃度が0.00001〜1.5質量%である請求項4または5に記載のシリコンエッチング方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載のシリコンエッチング液を用いて製造された微小電気機械素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシリコンのエッチング加工に関し、特に微小電気機械素子(MEMS)部品や半導体デバイスの製造に用いるシリコンエッチング液ならびにシリコンエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にシリコン単結晶基板を化学薬液にてエッチングする場合、フッ酸と硝酸等の成分を加えた混合水溶液である酸系エッチング液を用いてエッチングする方法、または水酸化カリウム(KOH)、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)等の水溶液であるアルカリ系エッチング液を用いてエッチングする2つの方法がある。
【0003】
酸系エッチング液を用いた場合、硝酸等の酸化作用をもった成分によってシリコン表面が酸化されて酸化ケイ素が生成し、この酸化ケイ素はフッ酸等によってフッ化シリコンとして溶解されることによってエッチングが進行する。酸系エッチング液でエッチングを行った際の特徴は、エッチングが等方的に進行することにある。酸系エッチング液のエッチング速度は、フッ酸と硝酸の混合比によって異なり、1〜100μm/分程度である。しかし、酸系エッチング液は、銅やアルミニウムなどの金属配線を腐食するため、金属が共存する工程においては使用しづらい。
【0004】
一方、アルカリ系エッチング液を用いた場合、液中のヒドロキシアニオンによってシリコンはケイ酸イオンとして溶解し、この際、水が還元されて水素を発生する。アルカリ系エッチング液でエッチングを行うと、酸系エッチング液とは異なり、単結晶シリコンでのエッチングは異方性を示しながら進行する。これはシリコンの結晶面方位ごとにシリコンの溶解速度に差があることに基づいており、結晶異方性エッチングとも呼ばれる。多結晶でも微視的に見れば異方性を保持しつつエッチングが進行するが、結晶粒の面方位はランダムに分布していることから、巨視的には等方性のエッチングが進行するように見える。非晶質では微視的にも巨視的にも等方性にエッチングが進行する。
【0005】
アルカリ系エッチング液としては、KOH、TMAHの水溶液以外にも水酸化ナトリウム(NaOH)、アンモニア、ヒドラジンなどの水溶液が使用される。これらの水溶液を用いた単結晶シリコン基板のエッチング加工においては、目的とする加工形状や処理を行う温度条件等にもよるが、数時間から数十時間という長い加工時間を要する場合が多い。
【0006】
上記の加工時間を短縮することを目的に、高いエッチング速度を示す薬液が開発されている。例えば、特許文献1にはTMAHにヒドロキシルアミン類を添加した水溶液をエッチング液として使用する技術が開示されている。
特許文献2には、TMAHに鉄、塩化鉄(III)、水酸化鉄(II)などの特定の化合物を添加した水溶液をエッチング液として使用する技術が開示されている。エッチング速度は、鉄とヒドロキシルアミンを併用する組み合わせが特に好適であることが開示されている。
特許文献3には、KOHにヒドロキシルアミン類を添加した水溶液をエッチング液として使用する技術が開示されている。
特許文献4には、アルカリ還元性化合物と防食剤(糖、糖アルコール、カテコール等)からなるエッチング液が開示されている。
特許文献5には、アルカリに酸を添加することでヒドロキシルアミンの分解を抑制する技術が開示されている。
特許文献6には、アルカリとヒドロキシルアミンにアルカリ塩を添加することでヒドロキシルアミンの分解を抑制する技術が開示されている。
KOH、ヒドロキシルアミン、尿素を含む特許として特許文献7があるが、フォトレジストの現像に関する特許であり、シリコンエッチング液およびエッチング方法に関する記載は一切ない。また、チオ尿素基を有しN,N’を繋いだ特定構造を有する環状化合物に関する記載も一切ない。
特許文献8には、単結晶シリコンを異方性に溶解するシリコンエッチング液であって、(1)水酸化カリウム、水酸化ナトリウムおよび水酸化テトラメチルアンモニウムから選ばれる1種以上のアルカリ性水酸化物、(2)ヒドロキシルアミン、および(3)チオ尿素基を含有したアルカリ性水溶液であることを特徴とするシリコンエッチング液が開示されているが、チオ尿素基を有しN,N’を繋いだ特定構造を有する環状化合物に関する記載は一切ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−054363号公報
【特許文献2】特開2006−186329号公報
【特許文献3】特開2006−351813号公報
【特許文献4】特開2007−214456号公報
【特許文献5】特開2009−117504号公報
【特許文献6】特開2009−123798号公報
【特許文献7】特開2000−516355号公報
【特許文献8】WO2011−040484号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】田中、阿部、米山、井上、「ppbオーダの不純物を制御したシリコン異方性エッチング」デンソーテクニカルレビュー、Vol.5、No1、2000、p56−61
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に示されるようなヒドロキシルアミンを含有したアルカリエッチング液は、ヒドロキシルアミンを含有しないアルカリエッチング液と比較して、エッチング速度が大幅に向上するという特長を有するが、エッチング液を長時間加温するとヒドロキシルアミンが分解する恐れがある。
また、Si(110)のエッチングにおいて、銅もしくは銅イオンが存在するとエッチング速度が大きく低下することが知られている(非特許文献1)。
近年半導体デバイスやMEMS部品の製造工程において、配線材料として銅が使われることが多くなり、ヒドロキシルアミンを含有するアルカリ系エッチング液は、シリコンのエッチング速度が高いという特長を有するが、銅配線等を有する半導体基板をエッチング液中に浸漬すると、シリコンのエッチング速度が著しく低下するという欠点を有する。
【0010】
本発明は、上記従来における問題点の少なくとも1つを解決することを課題とする。本発明は、特に、ヒドロキシルアミンを含有するエッチング液を用いてシリコンをエッチングする際、半導体基板に銅が存在する場合においても、エッチング速度が高く保持され、かつエッチング液の安定性が損なわれないエッチング液を提供することを課題とする。更には該エッチング液を用いたエッチング方法により加工されたシリコン基板を有する半導体基板並びにMEMSを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、アルカリ金属水酸化物、ヒドロキシルアミン、およびチオ尿素基を有しN,N’を繋いだ特定構造を有する環状化合物を含有するエッチング液が、銅および/または銅イオンが存在してもシリコンのエッチング速度が低下せず、かつ該エッチング液の安定性が損なわれないことを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明はシリコンエッチング液およびエッチング方法並びにMEMSに関するものであり、以下のとおりである。
<1> 単結晶シリコンを異方性に溶解するシリコンエッチング液であって、(1)水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウム、(2)ヒドロキシルアミン、および(3)チオ尿素基を有しN,N’を繋いだ下記一般式(I)で表される環状化合物を含有することを特徴とするシリコンエッチング液である。
【化1】
(一般式(I)中、Qは、飽和または不飽和の炭素−炭素結合を有する有機基を表す。
<2> 前記(3)チオ尿素基を有しN,N’を繋いだ一般式(I)で表される環状化合物が、エチレンチオ尿素、プロピレンチオ尿素、2−チオウラシル、2−チオバルビツル酸、6−メチル−2−チオウラシル、5−ブチル−6−エチル−2−チオウラシル、5−ブチル−6−メチル−2−チオウラシル、5−ブチル−6−プロピル−2−チオウラシル、5,6−ジメチル−2−チオウラシル、6−メチル−5−プロピル−2−チオウラシル、5−プロピルチオウラシル、5−メチル−6−ブチル−2−チオウラシル、5−へキシル−2−チオウラシル、5−エチル−2−チオウラシル、1−メチル−2−チオウラシル、3−メチル−2−チオウラシル、1,3−ジメチル−2−チオウラシル、1,5−ジメチル−2−チオウラシル、チオバルビタール、5−(2−メチルプロピル)−5−エチル−2−チオバルビツル酸、1,3−ジエチル−2−チオバルビツル酸、1,3,5−トリメチル−2−チオバルビツル酸、および1,3‐ジメチル−2−チオバルビツル酸からなる群より選ばれる1種以上である上記<1>に記載のシリコンエッチング液である。
<3> 前記(3)チオ尿素基を有しN,N’を繋いだ一般式(I)で表される環状化合物が、エチレンチオ尿素、プロピレンチオ尿素、2−チオウラシル、および2−チオバルビツル酸からなる群より選ばれる1種以上である上記<1>に記載のシリコンエッチング液である。
<4> 前記(1)水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムの濃度が7〜45質量%であり、前記(2)ヒドロキシルアミンの濃度が5〜15質量%であり、前記(3)チオ尿素基を有しN,N’を繋いだ一般式(I)で表される環状化合物の濃度が0.00001〜1.5質量%である上記<1>〜<3>のいずれかに記載のシリコンエッチング液である。
<5> 単結晶シリコンを異方性に溶解するシリコンエッチング方法であって、(1)アルカリ金属水酸化物、(2)ヒドロキシルアミン、および(3)チオ尿素基を有し、N,N’を繋いだ下記一般式(I)で表される環状化合物を含有するシリコンエッチング液を用いることを特徴とするシリコンエッチング方法である。
【化2】
(一般式(I)中、Qは、飽和または不飽和の炭素−炭素結合を有する有機基を表す。)
<6> 前記(1)アルカリ金属水酸化物が水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムから選ばれる1種以上であり、前記(3)チオ尿素基を有しN,N’を繋いだ一般式(I)で表される環状化合物が、エチレンチオ尿素、プロピレンチオ尿素、2−チオウラシル、2−チオバルビツル酸、6−メチル−2−チオウラシル、5−ブチル−6−エチル−2−チオウラシル、5−ブチル−6−メチル−2−チオウラシル、5−ブチル−6−プロピル−2−チオウラシル、5,6−ジメチル−2−チオウラシル、6−メチル−5−プロピル−2−チオウラシル、5−プロピルチオウラシル、5−メチル−6−ブチル−2−チオウラシル、5−へキシル−2−チオウラシル、5−エチル−2−チオウラシル、1−メチル−2−チオウラシル、3−メチル−2−チオウラシル、1,3−ジメチル−2−チオウラシル、1,5−ジメチル−2−チオウラシル、チオバルビタール、5−(2−メチルプロピル)−5−エチル−2−チオバルビツル酸、1,3−ジエチル−2−チオバルビツル酸、1,3,5−トリメチル−2−チオバルビツル酸、および1,3−ジメチル−2−チオバルビツル酸からなる群より選ばれる1種以上である上記<5>に記載のシリコンエッチング方法である。
<7> 前記(1)アルカリ金属水酸化物の濃度が7〜45質量%であり、前記(2)ヒドロキシルアミンの濃度が5〜15質量%であり、前記(3)チオ尿素基を有しN,N’を繋いだ一般式(I)で表される環状化合物の濃度が0.00001〜1.5質量%である上記<5>または<6>に記載のシリコンエッチング方法である。
<8> 上記<1>〜<4>のいずれかに記載のシリコンエッチング液を用いて製造された微小電気機械素子である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、ヒドロキシルアミンを含有するアルカリ性水溶液を用いて、シリコン基板内に銅および銅配線を含む、もしくはシリコン基板上に銅および銅配線を有するシリコンをエッチングする際に、さらにエッチング液中に銅および/または銅イオンが存在する場合においても、高いシリコンエッチング速度を発現し、かつエッチング液の安定性が損なわれないエッチング液を提供することができる。これは、本発明で使用されるチオ尿素基を有する化合物が環状構造を有し、その結果、分解し難いためと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に用いるヒドロキシルアミンの濃度は、所望のシリコンエッチング速度に応じて適宜決定することが可能であり、シリコンエッチング液の全量に対して好ましくは5〜15質量%の範囲で用いられる。さらに好ましくは7〜13質量%の範囲であり、9〜11質量%が特に好ましい。5〜15質量%であれば、効果的にシリコンをエッチングすることができる。
【0014】
本発明に用いるアルカリ金属水酸化物は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムおよび水酸化カルシウムが好ましく、特に水酸化カリウムが好ましい。本発明に用いるアルカリ金属水酸化物の濃度は、所望のエッチング特性を得られる従来のアルカリ化合物濃度でよいが、アルカリ金属水酸化物の水への溶解度並びにエッチング液中のヒドロキシルアミンの濃度およびチオ尿素類の濃度によって適宜決定することも可能であり、シリコンエッチング液の全量に対して好ましくは7〜45質量%の範囲、更に好ましくは、10〜40質量%、特に好ましくは15〜35質量%の範囲で使用される。7〜45質量%の範囲であれば、効果的にシリコンをエッチングすることができる。
【0015】
本発明では、チオ尿素基を有しN,N’を繋いだ下記一般式(I)で表される環状化合物を使用する。
【化3】
一般式(I)中、Qは、飽和または不飽和の炭素−炭素結合を有する有機基を表す。
チオ尿素基を有しN,N’を繋いだ前記一般式(I)で表される環状化合物の具体例としては、エチレンチオ尿素、プロピレンチオ尿素、2−チオウラシル、2−チオバルビツル酸、6−メチル−2−チオウラシル、5−ブチル−6−エチル−2−チオウラシル、5−ブチル−6−メチル−2−チオウラシル、5−ブチル−6−プロピル−2−チオウラシル、5,6−ジメチル−2−チオウラシル、6−メチル−5−プロピル−2−チオウラシル、5−プロピルチオウラシル、5−メチル−6−ブチル−2−チオウラシル、5−へキシル−2−チオウラシル、5−エチル−2−チオウラシル、1−メチル−2−チオウラシル、3−メチル−2−チオウラシル、1,3−ジメチル−2−チオウラシル、1,5−ジメチル−2−チオウラシル、チオバルビタール、5−(2−メチルプロピル)−5−エチル−2−チオバルビツル酸、1,3−ジエチル−2−チオバルビツル酸、1,3,5−トリメチル−2−チオバルビツル酸、及び1,3−ジメチル−2−チオバルビツル酸が好ましく挙げられ、更に好ましくは、以下の構造式で表されるエチレンチオ尿素、プロピレンチオ尿素、2−チオウラシル、及び2−チオバルビツル酸が挙げられる。
【0017】
本発明に用いるチオ尿素基を有し、N,N’を繋いだ前記一般式(I)で表される環状化合物の濃度は、シリコンエッチング液の全量に対して0.00001質量%〜1.5質量%が好ましく、さらに0.00005質量%〜0.5質量%が好ましく、特に0.0001質量%〜0.1質量%が好ましい。0.00001質量%〜1.5質量%の範囲であれば、効果的にシリコンをエッチングすることができる。
【0018】
本発明のシリコンエッチング方法は、通常、加温されたエッチング液中にエッチング対象物を浸漬し、所定時間経過後に取り出し、対象物に付着しているエッチング液を水等で洗い流した後、付着している水を乾燥するという方法が採られている。エッチング温度は、40℃以上沸点未満の温度が好ましく、さらに好ましくは50℃から90℃、特に70℃から90℃が好ましい。エッチング温度がこの範囲であれば効果的にシリコンをエッチングすることができる。エッチング液の温度を高くすることで、エッチング速度は上昇するが、エッチング液の組成変化を小さく抑えることなども考慮した上で、適宜好適な処理温度を決定すればよい。
【0019】
エッチング時間は、エッチング条件およびエッチング対象物により適宜選択することができる。通常、1〜300分であり、好ましくは10〜180分であり、さらに好ましくは10〜120分で、特に好ましくは20〜90分であるが、適宜好適な処理時間を決定すればよい。
【0020】
本発明におけるエッチング処理の対象物は、単結晶シリコンを含んだ基板であり、基板の全域または一部領域に単結晶シリコンが存在しているものである。
なお、本発明によれば、配線材料である銅が、基板表面に初めから露出していても、シリコンのエッチングによって基板内部の銅が表面に露出しても、どちらの場合でもシリコンエッチング速度の低下を抑制することができる。単結晶シリコンは単層でも多層に積層された状態でも構わない。これらの基板の全域または一部領域にイオンドープしたものもエッチング処理の対象物となる。また、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、シリコン有機膜等の材料や、アルミニウム膜、クロム膜、金膜などの金属膜が上記のエッチング対象物の表面や対象物内部に存在しているものについても、本発明におけるエッチング処理の対象物に含まれる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に具体的に説明する。評価に用いたエッチング対象物は、単結晶シリコン(100)(単にシリコン(100)という場合がある)ウェハである。このシリコン(100)ウェハの片側の面は、その全面がシリコン熱酸化膜からなる保護膜によって覆われた状態となっており、もう片側の面ではシリコン熱酸化膜の一部をドライエッチングにより除去し、シリコン面(0.25cm×0.25cm)が規則的に露出したパターン形状を有している。このシリコン(100)ウェハはエッチング処理をする直前に23℃の1質量%のフッ化水素酸水溶液に15分間浸漬し、その後超純水によるリンスを施し、乾燥を行った。このフッ化水素酸水溶液処理によって、パターン形状のシリコン面が露出した部分の表面に生成しているシリコン自然酸化膜を除去した後、次のエッチング処理を行った。
【0022】
単結晶シリコン(100)ウェハのエッチング処理方法およびエッチング速度(SiE.R.)の算出方法
エッチング液(後述)40gをポリテトラフルオロエチレン製の容器に入れ、この容器を湯浴中に浸してエッチング液の温度を80℃に加温した。エッチング液の温度が80℃に達した後、単結晶シリコン(100)ウェハ(1cm×1cm)と0.5cm×0.5cmの銅薄片(銅の厚みは6000Å)をエッチング液の中に同時に浸し、30分間浸漬処理を行い、その後、単結晶シリコン(100)ウェハを取り出して超純水によるリンスおよび乾燥を行った。エッチング処理を行った単結晶シリコン(100)ウェハは、単結晶シリコンのエッチングに伴いパターン部分が周囲よりも窪んだ状態になり、エッチングされた部分とエッチングされていない部分との高低差を測定することによって、30分間での単結晶シリコン(100)面のエッチング深さを求めた。このエッチング深さを30で割った値を単結晶シリコン(100)面のエッチング速度(単位はμm/分)として算出した。
【0023】
実施例1〜13と比較例1〜4
表1記載のエッチング液を用いてエッチング処理を行い、結果を表1に記した。実施例1〜13で使用した「チオ尿素基を有しN,N’を繋いだ一般式(I)で表される環状化合物」の構造式を以下に示す。チオ尿素基を有し、N,N’を繋いだ一般式(I)で表される環状化合物を含まない比較例1〜4は、対応する実施例1〜13より明らかにエッチング速度が小さかった。
【化5】
【0024】
【表1】
【0025】
実施例14〜20と比較例5
表2記載のエッチング液に硫酸銅を0.0001質量%含有させた(銅薄片は含まず)以外は、実施例1〜13と同様に行い、結果を表2にまとめた。
実施例14〜20は、チオ尿素基を有しN,N’を繋いだ一般式(I)で表される環状化合物が、銅薄片がエッチング液中に共存している場合だけでなく、エッチング液中に銅が溶解している場合においても、エッチング速度の低下を抑制する性能を有していた。
しかし、比較例5(チオ尿素基を有しN,N’を繋いだ一般式(I)で表される環状化合物を添加していない)では、チオ尿素基を有しN,N’を繋いだ一般式(I)で表される環状化合物を添加している実施例14〜20より明らかにエッチング速度が小さかった。
【0026】
【表2】
【0027】
実施例21〜26と比較例6
銅薄片のエッチング処理方法およびエッチング速度の算出方法
表3記載のエッチング液40gをポリテトラフルオロエチレン製の容器に入れ、この容器を湯浴中に浸してエッチング液の温度を80℃に加温した。エッチング液の温度が80℃に達した後、あらかじめ膜厚を蛍光X線分析装置で測定済みの2cm×2cmの銅ベタ膜(銅の厚みは6000Å)をエッチング液の中に同時に浸し、60分間浸漬処理を行い、その後、銅薄片を取り出して超純水によるリンスおよび乾燥を行った。銅薄片の膜厚を再度蛍光X線分析装置で測定し、処理前後の膜厚の差を求めることによって、60分間での銅薄片のエッチング深さを求めた。このエッチング深さを60で割った値を銅のエッチング速度(単位はÅ/分)として算出した。エッチング液にチオ尿素基を有しN,N’を繋いだ一般式(I)で表される環状化合物を含む場合は、銅のエッチング速度は1Å/min未満であるが、チオ尿素基を有しN,N’を繋いだ一般式(I)で表される環状化合物を含まない場合は、銅のエッチング速度は10Å/min以上となった。このことから、チオ尿素基を有しN,N’を繋いだ一般式(I)で表される環状化合物は、配線材料として銅が共存していてもシリコンのエッチング速度を低下させない効果だけでなく、配線材料である銅の溶解を防ぐという効果もあることがわかった。因みに、シリコンエッチング速度は表1および2と同等の値であった(表中記載略)。
【0028】
【表3】
【0029】
実施例27〜31と比較例7〜8
エッチング液中の加温保管する前後のチオ尿素基を有する化合物の濃度測定方法
表4記載のエッチング液の一部を分取し、超純水で希釈後(濃度約0.00001質量%)、高速液体クロマトグラフィー測定を行い、エッチング液中のチオ尿素基を有する化合物の濃度を測定し、加温保管前の添加剤濃度とした。その後、エッチング液100gをポリテトラフルオロエチレン製の容器に入れ、この容器を50℃の湯浴中に浸し、72時間保持した。72時間後、エッチング液を取り出し、高速液体クロマトグラフィーを用いて、加温保管後のエッチング液中のチオ尿素基を有する化合物の濃度を測定し、加温保管中に減少したチオ尿素基を有する化合物の濃度を求めた。
実施例27〜31で使用したチオ尿素基を有しN,N’を繋いだ一般式(I)で表される環状化合物の場合は、加温保管中に濃度の変化はごくわずかであったが、比較例7〜8で使用したチオ尿素基を有するN,N’が繋がっていない化合物の場合は、大幅な濃度低下が見られた。このことから、実施例では、エッチング液の安定性が損なわれないエッチング液を提供することができることがわかる。これは、本発明で使用されるチオ尿素基を有する化合物が環状構造を有し、その結果、分解し難いためと考えられる。
【0030】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によれば、配線材料として銅を含むシリコンエッチングにおいて、シリコンのエッチング速度を低下させることがなく、かつ配線材料である銅をエッチングすることがなく、更に安定性が損なわれないエッチング液を提供することができ、産業上有用である。