特許第6142950号(P6142950)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6142950
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】フェライト組成物および電子部品
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/30 20060101AFI20170529BHJP
   H01F 1/34 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
   C04B35/30
   H01F1/34
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-194621(P2016-194621)
(22)【出願日】2016年9月30日
【審査請求日】2016年10月17日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】芝山 武志
(72)【発明者】
【氏名】村井 明日香
(72)【発明者】
【氏名】高橋 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝志
(72)【発明者】
【氏名】田之上 寛之
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 聖樹
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−093667(JP,A)
【文献】 特開平09−063826(JP,A)
【文献】 特開平08−051011(JP,A)
【文献】 特開平08−051012(JP,A)
【文献】 特開2002−134312(JP,A)
【文献】 特開2006−206347(JP,A)
【文献】 特開2000−203846(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分と副成分とを有するフェライト組成物であって、
前記主成分が、酸化鉄をFe換算で18〜30モル%、酸化銅をCuO換算で4〜14モル%、酸化亜鉛をZnO換算で0〜6モル%、残部が酸化ニッケルで構成され、
前記主成分100重量部に対して、前記副成分として、ケイ素化合物をSiO換算で0.30〜1.83重量部、コバルト化合物をCo換算で2.00〜10.00重量部、ビスマス化合物をBi換算で1.00〜3.00重量部、含有し、
Co換算した前記コバルト化合物の含有量を、SiO換算した前記ケイ素化合物の含有量で割った値が、5.5〜30.0であることを特徴とするフェライト組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のフェライト組成物で構成されるフェライト焼結体を有する電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層型インダクタなどの製造に好適なフェライト組成物と、該組成物で構成されるフェライト焼結体を有する電子部品とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、DC−DCコンバータの小型化、高周波化が進み、数十MHz〜数百MHz程度の周波数で駆動するものも登場している。小型化、高周波化したDC−DCコンバータに適用するインダクタとして、高周波領域においてもインダクタとして動作する周波数特性と、大電流を印加しても動作がほとんど変化しない直流重畳特性とが求められる。
【0003】
DC−DCコンバータに適用するインダクタに用いられるフェライト組成物として、コバルトを添加したNiCuZnフェライトが以前より提案されている。NiCuZnフェライトに対してコバルト添加を行うことで、磁気異方性を向上させ、透磁率の周波数特性を向上させる手法が検討されている。
【0004】
しかし、コバルトを添加したNiCuZnフェライトは、コバルトを添加しないNiCuZnフェライトと比較して焼結性が低下し、温度特性が劣化する傾向があることが以前より知られている。上記のコバルト添加の欠点を克服する手法として以下に示す手法が提案されている。
【0005】
特許文献1では、NiCuZnフェライトにコバルト化合物とともに酸化ビスマス等のビスマス化合物を添加することで焼結性低下を克服している。さらに、ジルコニウム化合物を添加することで温度特性を改善しようとしている。
【0006】
特許文献2では、NiCuZnフェライトにCo、SiO、Biを添加することで、高いQ値と良好な温度特性と高い抗応力特性を得ようとしている。
【0007】
特許文献3では、NiCuZnフェライト中のFe量とZnO量とを比較的少なくし、さらに、CoOを添加することで周波数特性に優れたフェライト組成物を得ようとしている。
【0008】
しかし、特許文献1の実施例では、初透磁率μの値は示されているものの、どの程度の高い周波数まで透磁率の値が保持されるのかについては記載がない。スネークの限界によれば、一般的には初透磁率μの値が低いほど高い周波数まで透磁率の値が保持される。しかし、添加物を添加した場合には、スネークの限界以上に高い周波数まで透磁率が保持されたり、逆に、スネークの限界以下の低い周波数で透磁率が低下したりする。そのため、初透磁率μは周波数特性の目安にはなるが、周波数特性の評価基準としては根拠に乏しい。したがって、特許文献1の実施例では周波数特性が不明である。
【0009】
なお、スネークの限界は以下の式(1)により表される。なお、fは回転磁化共鳴周波数、μは初透磁率、γはジャイロ磁気定数、Mは飽和磁化である。
(μ−1)=|γ|×(M/3π) …式(1)
【0010】
また、特許文献1では、酸化ジルコニウムを添加した場合における透磁率の温度変化について、20℃での初透磁率と85℃での初透磁率との比を示している。しかし、特許文献1の実施例に示されている20℃での初透磁率と85℃での初透磁率との比で最も小さいものが1.45倍である。この結果は、温度変化に対する初透磁率の変化を抑制したというには大きすぎる。
【0011】
また、特許文献2では、初透磁率の値が示されておらず、周波数特性が不明である。特許文献3では、温度特性が不明である。さらに、特許文献1〜3は、いずれも直流重畳特性が不明である。
【0012】
以上より、特許文献1〜3のNiCuZnフェライトが周波数特性、直流重畳特性および温度特性の全てが優れているか否かは不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2000−252112号公報
【特許文献2】特開2006−206347号公報
【特許文献3】特開2008−300548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、初透磁率,比抵抗,周波数特性および温度特性が良好なフェライト組成物と、前記フェライト組成物を用いた電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明に係るフェライト組成物は、主成分と副成分とを有するフェライト組成物であって、
前記主成分が、酸化鉄をFe換算で18〜30モル%、酸化銅をCuO換算で4〜14モル%、酸化亜鉛をZnO換算で0〜6モル%、残部が酸化ニッケルで構成され、
前記主成分100重量部に対して、前記副成分として、ケイ素化合物をSiO換算で0.30〜1.83重量部、コバルト化合物をCo換算で2.00〜10.00重量部、ビスマス化合物をBi換算で1.00〜3.00重量部、含有し、
Co換算した前記コバルト化合物の含有量を、SiO換算した前記ケイ素化合物の含有量で割った値が、5.5〜30.0であることを特徴とする。
【0016】
本発明に係るフェライト組成物は、主成分を構成する酸化物の含有量を上記の範囲とし、さらに副成分としてケイ素化合物、コバルト化合物およびビスマス化合物を上記の範囲で含有させることにより、焼結後の初透磁率μ,比抵抗ρ,周波数特性および初透磁率μの温度特性が良好である。
【0017】
このような効果が得られる理由は、主成分を所定範囲とし、さらに各成分の含有量を特定の範囲とすることで得られる複合的な効果と考えられる。
【0018】
本発明に係る電子部品は、上記のフェライト組成物で構成されるフェライト焼結体を有する。
【0019】
なお、本発明に係るフェライト組成物で構成されるフェライト焼結体は、積層型インダクタ、積層型L―Cフィルタ、積層型コモンモードフィルタ、その他の積層工法による複合電子部品等に好適に用いられる。たとえばLC複合電子部品、NFCコイル、積層型インピーダンス素子、積層型トランスにも本発明に係るフェライト組成物が好適に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は本発明の一実施形態に係る積層型インダクタの断面図である。
図2図2は本発明の一実施形態に係るLC複合電子部品の断面図である。
図3図3はNiCuZnフェライトにおける透磁率の周波数特性の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る積層型インダクタ1は、素子2と端子電極3とを有する。素子2は、フェライト層4を介してコイル導体5が3次元的かつ螺旋状に形成されたグリーンの積層体を焼成して得られる。フェライト層4は、本発明の一実施形態に係るフェライト組成物で構成してある。素子2の両端に端子電極3を形成し、引出電極5a、5bを介して端子電極3と接続することで積層型インダクタ1が得られる。素子2の形状に特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0022】
コイル導体5および引出電極5a、5bの材質としては、特に限定はなく、Ag、Cu、Au、Al、Pd、Pd/Ag合金などが用いられる。なお、Ti化合物、Zr化合物、Si化合物などを添加しても良い。
【0023】
本実施形態に係るフェライト組成物は、Ni−Cu系フェライトまたはNi−Cu−Zn系フェライトであり、主成分として、酸化鉄、酸化銅および酸化ニッケルを含有し、さらに酸化亜鉛を含有してもよい。
【0024】
主成分100モル%中、酸化鉄の含有量は、Fe換算で、18.0〜30.0モル%である。酸化鉄の含有量が多すぎても少なすぎても、焼結性が劣化し、特に低温焼結時の焼結密度が低下する傾向にある。また、酸化鉄が少なすぎる場合には、初透磁率μが低下する傾向にある。酸化鉄が多すぎる場合には、周波数特性が悪化し、後述するμ’’立ち上がり周波数が低下する傾向にある。さらに、初透磁率μの温度特性も悪化する傾向にある。
【0025】
主成分100モル%中、酸化銅の含有量は、CuO換算で、4〜14モル%である。酸化銅の含有量が少なすぎると、焼結性が劣化し、特に低温焼結時の焼結密度が低下する傾向にある。その結果、比抵抗ρおよび初透磁率μの温度特性が悪化する傾向にある。多すぎると、初透磁率μが低下する傾向にある。
【0026】
主成分100モル%中、酸化亜鉛の含有量は、ZnO換算で、0〜6.0モル%である。すなわち、主成分として酸化亜鉛を含有してもしなくてもよい。なお、酸化亜鉛の含有量が多いほど初透磁率が上昇する傾向にあり、初透磁率が高くなるほどインダクタに適する。しかし、酸化亜鉛の含有量が多すぎると、キュリー温度およびμ’’立ち上がり周波数が低下する傾向にある。
【0027】
主成分の残部は、酸化ニッケルから構成される。
【0028】
本実施形態に係るフェライト組成物は、上記の主成分に加え、副成分として、ケイ素化合物、コバルト化合物およびビスマス化合物を含有している。なお、各化合物の種類としては、酸化物の他、焼成後に酸化物となるものであれば特に限定はない。
【0029】
ケイ素化合物の含有量は、主成分100重量部に対して、SiO換算で、0.30〜1.83重量部である。ケイ素化合物を特定の範囲内で含有させると、フェライト組成物の温度特性が向上する。ケイ素化合物の含有量が少なすぎると、初透磁率μの温度特性が低下する傾向にある。多すぎると、焼結性が劣化し、特に低温焼結時の焼結密度が低下する傾向にある。さらに、初透磁率μ および比抵抗ρが低下する傾向にある。
【0030】
ケイ素化合物の添加により温度特性が向上する理由を説明する。酸化ケイ素等のケイ素化合物はNiCuZnフェライト粒子と比較して線膨張係数が小さい。すなわち、NiCuZnフェライトにケイ素化合物を添加してフェライト組成物を形成する場合には、添加したケイ素化合物がNiCuZnフェライトに予め応力を加えている。ケイ素化合物の存在によって生じる応力が存在するために、温度変化によって生じる応力の影響が緩和され、温度特性が向上すると本発明者らは考えている。
【0031】
ビスマス化合物の含有量は、主成分100重量部に対して、Bi換算で、1.00〜3.00重量部である。前述したケイ素化合物および後述するコバルト化合物は焼結性を低下させる効果がある。これに対し、ビスマス化合物は焼結性を高め、900℃以下の温度での焼成を可能とする。ビスマス化合物の含有量が少なすぎると、焼結性が劣化し、特に低温焼結時の焼結密度が低下する傾向にある。さらに、焼結性の劣化に伴い、比抵抗ρも低下する傾向にある。ビスマス化合物の含有量が多すぎると、比抵抗ρが低下する傾向にある。
【0032】
コバルト化合物の含有量は、主成分100重量部に対して、Co換算で、2.00〜10.00重量部である。コバルト化合物を特定の範囲内で含有させると、周波数特性が向上し、μ’’立ち上がり周波数が向上する。さらに、直流重畳特性も向上する。すなわち、直流電流重畳時のインダクタンス低下が小さくなる。コバルト化合物の含有量が少なすぎると、周波数特性が悪化し、μ’’立ち上がり周波数が低下する傾向にある。さらに、比抵抗ρも低下する傾向にある。多すぎると、焼結性が劣化し、特に低温焼結時の焼結密度が低下する傾向にある。その結果、初透磁率μも低下する傾向にある。さらに、初透磁率μの温度特性が悪化する傾向にある。
【0033】
さらに、本実施形態に係るフェライト組成物においては、重量基準でCo換算したコバルト化合物の含有量を、重量基準でSiO換算したケイ素化合物の含有量で割った値(以下、Co/Siと表記する)が5.5〜30.0である。
【0034】
上記のCo/Siの限定は、コバルト化合物の含有量の許容範囲が、ケイ素化合物の含有量によって増減することを示している。コバルト化合物の含有量が10.0重量部以下であっても、ケイ素化合物の添加量が少ないために、Co/Siが30.0を超える場合には、初透磁率μの温度特性が悪化する傾向にある。また、コバルト化合物の含有量が2.0重量部以上であってもCo/Siが5.5を下回る場合には、比抵抗ρおよび初透磁率μが低下する傾向にある。さらに、同等の透磁率を持つ試料と比較して周波数特性が低下し、μ’’立ち上がり周波数が低下する。
【0035】
本実施形態に係るフェライト組成物においては、主成分の組成範囲が上記の範囲に制御されていることに加え、副成分として、上記のケイ素化合物、ビスマス化合物およびコバルト化合物が全て本発明の範囲内で含有されている。その結果、焼結温度を低下させることができ、一体焼成される内部導体として、たとえばAgなどの比較的低融点な金属を用いることができる。さらに、低温焼成によって得られるフェライト焼結体は、初透磁率が高く、周波数特性が良好であり、比抵抗ρが高く、直流重畳特性が良好であり、温度特性が良好である。特に、コバルト化合物とケイ素化合物との相互作用によりμ’’立ち上がり周波数および初透磁率μの温度特性が良好となる。
【0036】
なお、ケイ素化合物、ビスマス化合物およびコバルト化合物のうち、いずれかが一つ以上が含有されていない場合、または含有量が本発明の範囲外である場合には、上記の効果は十分に得られない。すなわち、上記の効果は、ケイ素化合物、ビスマス化合物およびコバルト化合物が同時に特定量含有された場合に初めて得られる複合的な効果であると考えられる。
【0037】
また、本実施形態に係るフェライト組成物は、上記副成分とは別に、さらにMnなどのマンガン酸化物、酸化ジルコニウム、酸化錫、酸化マグネシウム、ガラス化合物などの付加的成分を本発明の効果を阻害しない範囲で含有してもよい。これらの付加的成分の含有量は、特に限定されないが、例えば0.05〜10重量%程度である。
【0038】
さらに、本実施形態に係るフェライト組成物には、不可避的不純物元素の酸化物が含まれ得る。
【0039】
具体的には、不可避的不純物元素としては、C、S、Cl、As、Se、Br、Te、Iや、Li、Na、Mg、Al、Ca、Ga、Ge、Sr、Cd、In、Sb、Ba、Pb等の典型金属元素や、Sc、Ti、V、Cr、Y、Nb、Mo、Pd、Ag、Hf、Ta等の遷移金属元素が挙げられる。また、不可避的不純物元素の酸化物は、フェライト組成物中に0.05重量%以下程度であれば含有されてもよい。
【0040】
本実施形態に係るフェライト組成物は、フェライト粒子と、隣り合う結晶粒子間に存在する結晶粒界とを有している。結晶粒子の平均結晶粒子径は、好ましくは0.2〜1.5μmである。
【0041】
次に、本発明のフェライト組成物の周波数特性について説明する。
【0042】
本発明のフェライト組成物の周波数特性は、高周波数まで透磁率を保持できるか否かを示す。
【0043】
本発明のフェライト組成物の周波数特性について説明するために、一般的なNiCuZnフェライトについて、周波数を横軸にとり、複素透磁率の実部μ’と虚部μ’’とを縦軸にとった場合の概略図を図3に示す。
【0044】
低周波数領域では、周波数を変化させてもμ’はほぼ一定であり、μ’’は、0付近でほぼ一定である。周波数を上昇させ、特定の周波数以上にするとμ’’が0から立ち上がる挙動を示す。本願ではμ’’>0.1となる周波数をμ’’立ち上がり周波数とする。
【0045】
μ’’立ち上がり周波数以上の周波数の領域では、Q値が低下し、インダクタとしての使用が困難となる。したがって、本発明のフェライト組成物は、μ’’立ち上がり周波数が高いほど、インダクタとしての使用が可能な周波数の上限が高くなる。本発明のフェライト組成物は、μ’’立ち上がり周波数が高いほど、周波数特性が良好である。以下、μ’’立ち上がり周波数をfと表記する場合がある。
【0046】
次に、本実施形態に係るフェライト組成物の製造方法の一例を説明する。まず、出発原料(主成分の原料および副成分の原料)を、所定の組成比となるように秤量して混合し、原料混合物を得る。混合する方法としては、たとえば、ボールミルを用いて行う湿式混合や、乾式ミキサーを用いて行う乾式混合が挙げられる。なお、平均粒径が0.05〜1.0μmの出発原料を用いることが好ましい。
【0047】
主成分の原料としては、酸化鉄(α−Fe )、酸化銅(CuO)、酸化ニッケル(NiO)、必要に応じて酸化亜鉛(ZnO)、あるいは複合酸化物などを用いることができる。さらに、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物等を用いることができる。焼成により上記した酸化物になるものとしては、たとえば、金属単体、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、ハロゲン化物、有機金属化合物等が挙げられる。
【0048】
副成分の原料としては、酸化珪素、酸化ビスマスおよび酸化コバルトを用いることができる。副成分の原料となる酸化物については特に限定はなく、複合酸化物などを用いることができる。さらに、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物等を用いることができる。焼成により上記した酸化物になるものとしては、たとえば、金属単体、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、ハロゲン化物、有機金属化合物等が挙げられる。
【0049】
なお、酸化コバルトの一形態であるCoは、保管や取り扱いが容易であり、空気中でも価数が安定していることから、酸化コバルトの原料として好ましい。
【0050】
次に、原料混合物の仮焼きを行い、仮焼き材料を得る。仮焼きは、原料の熱分解、成分の均質化、フェライトの生成、焼結による超微粉の消失と適度の粒子サイズへの粒成長を起こさせ、原料混合物を後工程に適した形態に変換するために行われる。こうした仮焼きは、好ましくは500〜900℃の温度で、通常2〜15時間程度行う。仮焼きは、通常、大気(空気)中で行うが、大気中よりも酸素分圧が低い雰囲気で行っても良い。なお、主成分の原料と副成分の原料との混合は、仮焼きの前に行なってもよく、仮焼き後に行なってもよい。
【0051】
次に、仮焼き材料の粉砕を行い、粉砕材料を得る。粉砕は、仮焼き材料の凝集をくずして適度の焼結性を有する粉体とするために行われる。仮焼き材料が大きい塊を形成しているときには、粗粉砕を行ってからボールミルやアトライターなどを用いて湿式粉砕を行う。湿式粉砕は、粉砕材料の平均粒径が、好ましくは0.1〜1.0μm程度となるまで行う。
【0052】
得られた粉砕材料を用いて、本実施形態に係る積層型インダクタを製造する。該積層型インダクタを製造する方法については制限されないが、以下では、シート法を用いる。
【0053】
まず、得られた粉砕材料を、溶媒やバインダ等の添加剤とともにスラリー化し、ペーストを作製する。そして、このペーストを用いてグリーンシートを形成する。次いで、形成されたグリーンシートを所定の形状に加工し、脱バインダ工程、焼成工程を経て、本実施形態に係る積層型インダクタが得られる。焼成は、コイル導体5および引出電極5a,5bの融点以下の温度で行う。例えば、コイル導体5および引出電極5a,5bがAg(融点962℃)の場合、好ましくは850〜920℃の温度で行う。焼成時間は、通常1〜5時間程度行う。また、焼成は、大気(空気)中で行ってもよく、大気中よりも酸素分圧が低い雰囲気で行っても良い。このようにして得られる積層型インダクタは本実施形態に係るフェライト組成物から構成されている。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様で実施し得ることは勿論である。たとえば、図2に示すLC複合電子部品10におけるフェライト層4として、本発明のフェライト組成物を用いてもよい。なお、図2において、符号12に示す部分がインダクタ部であり、符号14に示す部分がコンデンサ部である。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0056】
まず、主成分の原料として、Fe、NiO、CuO、ZnOを準備した。副成分の原料として、SiO、Bi、Coを準備した。
【0057】
次に、準備した主成分を、焼結体として表1〜表4に記載の組成になるように秤量した後、ボールミルで16時間湿式混合して原料混合物を得た。
【0058】
次に、得られた原料混合物を乾燥した後に、空気中において500℃〜900℃で仮焼して仮焼き粉とした。仮焼き粉および副成分の原料粉末を鋼鉄製ボールミルで72時間湿式粉砕して粉砕粉を得た。
【0059】
次に、この粉砕粉を乾燥した後、粉砕粉100重量部に、バインダとしての6wt%濃度のポリビニルアルコール水溶液を10.0重量部添加して造粒して顆粒とした。この顆粒を、加圧成形して、成形密度3.20Mg/m3 となるようにトロイダル形状(寸法=外径13mm×内径6mm×高さ3mm)の成形体、およびディスク形状(寸法=外径12mm×高さ2mm)の成形体を得た。
【0060】
次に、これら各成形体を、空気中において、Agの融点(962℃)以下である900℃で2時間焼成して、焼結体としてのトロイダルコアサンプルを得た。さらにサンプルに対し以下の特性評価を行った。試験結果を表1〜表4に示す。なお、表1〜表4に記載した各成分の含有量は、それぞれFe、NiO、CuO、ZnO、SiO、Co、Biに換算した値である。
【0061】
初透磁率μ
トロイダルコアサンプルに銅線ワイヤを10ターン巻きつけ、インピーダンスアナライザー(アジレントテクノロジー社製4991A)を使用して、初透磁率μを測定した。測定条件としては、測定周波数1MHz、測定温度25℃とした。本実施例では、初透磁率μは1.5以上である場合を良好とした。
【0062】
周波数特性(μ’’立ち上がり周波数)
初透磁率μを測定したトロイダルコアサンプルについて、測定周波数を1MHzから増加させながらμ’’を測定した。μ’’が0.1を超えたときの周波数をμ’’立ち上がり周波数とした。μ’’立ち上がり周波数fが600MHz以上である場合を周波数特性が良好とした。
【0063】
比抵抗ρ
ディスクサンプルの両面にIn−Ga電極を塗り、直流抵抗値を測定し、比抵抗ρを求めた(単位:Ω・m)。測定はIRメーター(HEWLETT PACKARD社製4329A)を用いて行った。本実施例では、比抵抗ρが10Ω・m以上である場合を良好とした。
【0064】
初透磁率μiの温度特性
室温25℃を基準とし、25℃〜125℃における初透磁率μの変化率を求めた。本実施例では、μの変化率が±30%以内である場合を良好とした。
【0065】
【表1】
【0066】
表1の試料は、CoおよびSi以外の全ての組成を本発明の範囲内で同一とし、Siの含有量を0.33,0.36または0.40重量部で固定した上で、Coの含有量のみを変化させた試料である。
【0067】
表1より、全ての主成分および副成分の組成が本発明の範囲内である場合には、初透磁率μ,比抵抗ρ,周波数特性および初透磁率μの温度特性が良好となった。
【0068】
それに対し、副成分としてCoの含有量が少なすぎる試料1,11および21は、周波数特性または比抵抗ρが好ましくない。Coの含有量は本発明の範囲内であるが、Co/Siが小さすぎる試料22も、比抵抗ρが好ましくない。
【0069】
また、Coの含有量が多すぎる試料7,17および27は、初透磁率μの温度特性が好ましくない。試料27は初透磁率μも好ましくない。さらに、Coの含有量は本発明の範囲内であるが、Co/Siが大きすぎる試料6も、初透磁率μの温度特性が好ましくない。
【0070】
【表2】
【0071】
表2の試料は、CoおよびSi以外の全ての組成を本発明の範囲内で同一とし、Coの含有量を2.00,4.80,9.00または10.00重量部で固定した上で、Siの含有量のみを変化させた試料である。
【0072】
表2より、全ての主成分および副成分の組成が本発明の範囲内である場合には、初透磁率μ,比抵抗ρ,周波数特性および初透磁率μの温度特性が良好となった。
【0073】
それに対し、副成分としてSiの含有量が少なすぎる試料31,36,41および46は、初透磁率μの温度特性が好ましくない。また、Siの含有量は本発明の範囲内であるが、Co/Siが大きすぎる試料47も、初透磁率μの温度特性が好ましくない。
【0074】
また、Siの含有量が多すぎる試料50は、初透磁率μおよび比抵抗ρが好ましくない。さらに、Siの含有量は本発明の範囲内であるが、Co/Siが小さすぎる試料22,40および45は比抵抗ρが好ましくない。試料40および45は初透磁率μも好ましくない。
【0075】
【表3】
【0076】
表3の試料は、試料12から主成分の含有量を変化させた試料である。
【0077】
表3より、全ての主成分および副成分の組成が本発明の範囲内である場合には、初透磁率μ,比抵抗ρ,周波数特性および初透磁率μの温度特性が良好となった。
【0078】
これに対し、主成分の含有量が本発明の範囲外である比較例は、比抵抗ρ,周波数特性,初透磁率μの温度特性および/または初透磁率μが好ましくない値となった。
【0079】
【表4】
【0080】
表4の試料91〜95は、Bi以外の組成を試料12と同一とし、Biの含有量のみを変化させた試料である。また、表4の試料12および91〜95については、焼結性を確認するため相対密度の測定も行った。
【0081】
相対密度の測定は、ディスク形状に成形して得られた焼結体について、焼成後の焼結体の寸法および重量から、焼結体密度を算出し、理論密度に対する焼結体密度を相対密度として算出した。本実施例では、相対密度は95%以上を良好とした。
【0082】
表4より、全ての主成分および副成分の組成が本発明の範囲内である場合には、初透磁率μ,比抵抗ρ,相対密度(焼結性),周波数特性および初透磁率μの温度特性が良好となった。
【0083】
これに対し、Biの含有量が少なすぎる試料91は、相対密度が低くなった。すなわち、試料91は焼結性が極端に低下した。その結果、初透磁率μおよび比抵抗ρが好ましくない値となった。また、Biの含有量が多すぎる試料95は比抵抗ρが悪化した。
【符号の説明】
【0084】
1… 積層型インダクタ
2… 素子
3… 端子電極
4… 積層体
5… コイル導体
5a、5b… 引出電極
10… LC複合電子部品
12… インダクタ部
14… コンデンサ部
【要約】      (修正有)
【課題】小型DC−DCコンバータに用いる、高周波領域におけるインダクタとして動作する周波数特性と大電流を印加しても、殆んど変化しない直流重畳特性を有する、初透磁率,比抵抗,周波数特性及び温度特性が良好なフェライト組成物と、前記フェライト組成物を用いた電子部品の提供。
【解決手段】主成分が、酸化鉄をFe換算で18〜30モル%、酸化銅をCuO換算で4〜14モル%、酸化亜鉛をZnO換算で0〜6モル%、残部が酸化ニッケルで構成され、主成分100重量部に対して、副成分として、ケイ素化合物をSiO換算で0.30〜1.83重量部、コバルト化合物をCo換算で2.00〜10.00重量部、ビスマス化合物をBi換算で1.00〜3.00重量部、含有し、Co換算したコバルト化合物の含有量を、SiO換算したケイ素化合物の含有量で割った値が、5.5〜30.0であるフェライト組成物。
【選択図】なし
図1
図2
図3