特許第6142953号(P6142953)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6142953
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】鋳造方法、および、一対の鋳型
(51)【国際特許分類】
   B22C 9/02 20060101AFI20170529BHJP
   B22C 9/06 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
   B22C9/02 103H
   B22C9/06 A
   B22C9/02 103B
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-208827(P2016-208827)
(22)【出願日】2016年10月25日
【審査請求日】2016年10月31日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596144919
【氏名又は名称】株式会社アクティ
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅田 康史
【審査官】 川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−116775(JP,A)
【文献】 特開2004−001024(JP,A)
【文献】 特開2004−017075(JP,A)
【文献】 実開昭62−034949(JP,U)
【文献】 特開平08−071732(JP,A)
【文献】 特開2007−185696(JP,A)
【文献】 特開平08−206814(JP,A)
【文献】 特開昭58−009758(JP,A)
【文献】 米国特許第04147201(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 9/00
B22D 17/00,18/00,27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
型合わせされることにより間に注湯空間を形成する一対の鋳型を用いて製品を鋳造する鋳造方法であって、
a)前記注湯空間を形成する注湯面領域を有する金型の該注湯面領域が砂層で覆われた一対の鋳型を準備する準備工程と、
b)前記一対の鋳型を型合わせする型合わせ工程と、
c)前記型合わせ工程の後に、前記注湯空間に溶湯を注入する注湯工程と、
d)前記注湯工程の前あるいは後に、前記金型と前記砂層の間に隙間を形成する隙間形成工程と、
e)前記注湯工程および前記隙間形成工程の後に、前記金型を前記砂層から完全に離間させる離間工程と、
を備える、鋳造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の鋳造方法であって、
前記隙間形成工程を前記注湯工程の前に行う、
鋳造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の鋳造方法であって、
前記隙間形成工程を前記注湯工程の後に行う、
鋳造方法。
【請求項4】
型合わせされることにより間に注湯空間を形成する一対の鋳型であって、各鋳型が、
前記注湯空間を形成する注湯面領域を有する金型と、
前記注湯面領域を覆う砂層と、
前記注湯面領域に対して出没可能に設けられたピン部材と、
を備え
前記一対の鋳型が型合わせされた状態から、両金型を互いに離間する向きに相対移動させて前記ピン部材を前記注湯面領域から突出させた場合に、各鋳型の金型と砂層の間に隙間が形成されるように構成されている、
一対の鋳型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、型合わせされることにより間に注湯空間を形成する一対の鋳型を用いて製品を鋳造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造方法として、一対の鋳型を見切り面において型合わせして、これらの間に形成される注湯空間(製品形状を有する空間)に液体状の金属(溶湯)を注入(注湯)し、その状態で注湯空間内の溶湯が自然冷却されて固化するのを待ち、溶湯が固化した後に、両鋳型を分離して造形された製品を取り出す、というものがよく知られている。
【0003】
この鋳造方法では、金属の種類によっては、溶湯が固化する際の温度プロファイルが、出来上がった製品の状態に大きな影響を与える。例えば最も一般的に用いられる鋳鉄の場合、溶湯の冷却速度が速すぎると、得られる製品が硬くて脆いものとなってしまう。これを回避するためには、溶湯の冷却速度を十分小さなものとしなければならない。
【0004】
溶湯の冷却速度を小さくするためには、鋳型が、熱伝導率の小さな材料によって形成されていることが好ましい。鋳型として、金属製の金型や、砂(鋳物砂)を用いて形成される砂型がよく知られているが、溶湯の冷却速度を小さくするためには、金型よりも砂型の方が好ましいといえる。
【0005】
しかしながら、砂型は、鋳造の度に新たに形成する必要があり、鋳物砂を循環して使用するために砂処理設備が必要となる上に作業環境が悪い。また、注入された溶湯の冷却のコントロールが困難なため冷却に長時間を要し、作業効率が悪いという問題がある。
【0006】
そこで、例えば特許文献1には、金属製の母体の製品キャビティ面に、砂の被覆層(砂層)を形成した鋳型が記載されている。この鋳型を用いれば、溶湯が、金属製の母体ではなく、これよりも熱伝導率が小さい砂層に接触することになるので、鋳型の全体を金属で形成する通常の金型と比べて、溶湯の冷却速度を小さくすることができる。一方で、鋳型の主要部は繰り返し使用することができる金属で形成されるので、鋳型の全体を砂で形成する通常の砂型と比べて、短時間で効率よく砂層を形成することができ、一度の鋳造に必要な砂の量も少なくてすむ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-1024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の鋳型によると、溶湯を覆う砂層の厚みが薄いため、冷却速度を十分小さくすることができず、従来の砂型で製造していた製品と比較すると多くの場合未だ硬く、脆いという問題がある。また、砂層の厚みが薄くその断熱効果が弱いために、金属製の母体が溶湯によって受ける熱ダメージが大きい。したがって、母体を繰り返し利用することができる回数が少なくなってしまうという問題もある。
一方で、断熱効果を高めるために砂層の厚みを大きくしようとすると、一度の鋳造に必要な砂の量が多くなるとともに、砂層の形成に要する時間も長くなってしまう。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、砂層の厚みを大きくしなくとも、十分に小さな冷却速度と鋳型の劣化防止を実現できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明は、
型合わせされることにより間に注湯空間を形成する一対の鋳型を用いて製品を鋳造する鋳造方法であって、
a)前記注湯空間を形成する注湯面領域を有する金型の該注湯面領域が砂層で覆われた一対の鋳型を準備する準備工程と、
b)前記一対の鋳型を型合わせする型合わせ工程と、
c)前記型合わせ工程の後に、前記注湯空間に溶湯を注入する注湯工程と、
d)前記注湯工程の前あるいは後に、前記金型と前記砂層の間に隙間を形成する隙間形成工程と、
e)前記注湯工程および前記隙間形成工程の後に、前記金型を前記砂層から完全に離間させる離間工程と、
を備える。
【0011】
金型とその注湯面領域を覆う砂層の間に隙間が形成されることによって、注湯面領域と砂層の間に空気の層が形成される。空気は砂よりも熱伝導率が小さいため、この空気の層は、注湯工程で注湯空間に注入された溶湯と金型の間における主要な断熱層として作用する。したがって、砂層の厚みが薄くても、溶湯の冷却速度を十分に小さなものとすることができるとともに、金型が溶湯の熱でダメージを受けることも抑制される。すなわち、砂層の厚みを大きくしなくとも、十分小さな冷却速度と鋳型の劣化防止を実現できる。
【0012】
隙間形成工程において形成される隙間の大きさ(空気層の厚さ)は、その断熱効果を得るためには0.1mm以上であればよい。ただし、この隙間が過度に大きくなると、注湯空間に注入された溶湯を砂層だけで独立して確実に保持できるように砂層の厚みを大きくする必要が出てくる。この隙間が3mm以下であれば、注湯空間が砂層だけで保持できない不測の事態が生じたとしても、すぐに金型を閉じて注湯空間を閉鎖することができるので、このような不測の事態に備えて砂層の厚みを大きくしておく必要がない。
また、隙間形成工程においては、砂層の少なくとも一部と金型の間に隙間が形成されていればよく、必ずしも砂層の全体と金型の間に隙間が形成されなくともよい。
また、ここで用いられる一対の鋳型における砂層の厚みは、10mm以下とすることができ、特に2mm程度であることが好ましい。
【0013】
上記の鋳造方法において、隙間形成工程を注湯工程の前に行えば、注湯開始の瞬間から、溶湯の冷却速度を十分小さなものに抑えることができるので、溶湯が注入されてから固化するまでの冷却プロファイルを特に好ましいものとすることができる。また、この構成によると、金型が溶湯によって熱的ダメージを受けることが十分に回避できるので、金型の劣化を十分に抑制することができる。
【0014】
一方、上記の鋳造方法において、隙間形成工程を注湯工程の後に行えば、溶湯が注入される間は砂層と金型の間に隙間が形成されておらず、砂層が金型によってバックアップされた状態となっているので、注入された溶湯が注湯空間から漏れ出る、また、溶湯を注入した際の衝撃で砂層が損傷する、等といった事態を回避できる。
【0015】
なお、隙間形成工程を、注湯工程の後に行う場合、当該隙間形成工程を行うタイミングは、注湯空間に注入された溶湯の状態が変化するタイミングに応じて規定することが好ましい。
例えば溶湯が鋳鉄の溶湯である場合、隙間形成工程を、黒鉛膨張が終了するタイミングで行ってもよい。この場合、黒鉛膨張が生じている間は砂層が金型によってバックアップされた状態となっているので、黒鉛膨張による引け巣発生の抑制効果を期待することができる。
また例えば、隙間形成工程を、溶湯が初晶温度に達する前に行ってもよい。この場合、溶湯が液体状態の段階から、溶湯の冷却速度を十分小さなものに抑えることができるので、溶湯が注入されてから固化するまでの冷却プロファイルを十分に好ましいものとすることができる。
また例えば、隙間形成工程を、溶湯が初晶温度に達した以後であって共晶温度に達する前に行ってもよいし、溶湯が共晶温度に達した以後であってA1変態点に達する前に行ってもよい。
【0016】
また、本発明は、製品の鋳造に用いられる一対の鋳型にも向けられている。当該一対の鋳型は、
型合わせされることにより間に注湯空間を形成する一対の鋳型であって、各鋳型が、
前記注湯空間を形成する注湯面領域を有する金型と、
前記注湯面領域を覆う砂層と、
前記注湯面領域に対して出没可能に設けられたピン部材と、
を備え
前記一対の鋳型が型合わせされた状態から、両金型を互いに離間する向きに相対移動させて前記ピン部材を前記注湯面領域から突出させた場合に、各鋳型の金型と砂層の間に隙間が形成されるように構成されている。
【0017】
この構成によると、一対の鋳型が型合わせされた状態において、金型に設けられたピン部材を、注湯面領域から突出する方向に押して砂層に当接させてこれに押しつけることによって、一対の砂層を型合わせされた状態に支持することができる。そして、この状態から、複数のピン部材に対して一対の金型だけを互いに離間する向きに相対移動させることによって、当該型合わせされた状態の砂層と金型の間に隙間を形成することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、金型とその注湯面領域を覆う砂層の間に隙間が形成されることによって、注湯面領域と砂層の間に空気の層が形成される。空気は砂よりも熱伝導率が小さいため、この空気の層は、注湯空間に注入された溶湯と金型の間における主要な断熱層として作用する。したがって、砂層の厚みが薄くても、溶湯の冷却速度を十分に小さなものとすることができるとともに、金型が溶湯の熱でダメージを受けることも抑制される。すなわち、砂層の厚みを大きくしなくとも、十分小さな冷却速度と鋳型の劣化防止を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態に係る一対の鋳型を模式的に示す図。
図2】一対の鋳型が型合わせされた状態、および、金型と砂層の間に隙間が形成された状態を模式的に示す図。
図3】一対の鋳型の製造方法を説明するための図。
図4】一対の鋳型を用いて製品を鋳造する方法を説明するための図。
図5】溶湯の冷却曲線を模式的に示す図。
図6】金型の温度変化を模式的に示す図。
図7】一対の鋳型を用いて製品を鋳造する別の方法を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0021】
<1.鋳型の構成>
実施形態に係る一対の鋳型の構成について、図1図2を参照しながら説明する。図1は、一対の鋳型100,100を模式的に示す側断面図である。図2は、一対の鋳型100,100が型合わせされた状態および金型1と砂層2の間に隙間が形成された状態を模式的に示す側断面図である。
【0022】
一対の鋳型100,100は、対向配置されて型合わせされることにより、間に注湯空間Vを形成するものであり、各鋳型100は、金型1と、これに形成された薄肉の砂層2と、金型1に設けられた複数のピン部材3と、を備える。
【0023】
金型1は、金属(具体的には例えば鋳鉄)により形成され、主面10側に、注湯空間Vを形成する面領域(注湯面領域)11と、これに連なる見切り面12とが形成されている。注湯面領域11は、製品の外形を模しつつ、それよりも一回り大きい形状となっている。また、注湯面領域11の一部は、注湯空間V内に溶湯を注ぎ入れるための湯口を形成している。一方、見切り面12は、注湯面領域11を取り囲むように形成され、平坦な形状となっている。
【0024】
砂層2は、砂(すなわち鋳物砂であり、ここでは例えばレジンコーテッドサンド)を焼成することにより形成される(具体的な形成方法については後に説明する)。
砂層2は、注湯面領域11を被覆する。砂層2における注湯面領域11を被覆する部分は、表面が製品の外形を模した形状となっている。なお、砂層2は、注湯面領域11だけでなく、金型1の見切り面12の少なくとも一部分をさらに覆ってもよい。図示の例では、見切り面12の全体を被覆するように砂層2が形成されている。もっとも、砂層2は、必ずしも見切り面12を被覆していなくともよく、注湯面領域11のみを被覆するように形成されてもよい。
また、砂層2の厚みは、10mm以下とすることができ、特に2mm程度であることが好ましい。
【0025】
複数のピン部材3は、金型1と砂層2の間に隙間を形成するための部材である。各ピン部材3は、例えば、細長い棒状の部材であり、金型1に形成されたピン挿通孔13に挿通されている。
ピン挿通孔13は、その内径がピン部材3の外径よりも僅かに大きく、一端において金型1の主面10側(すなわち、注湯面領域11、あるいは、見切り面12)に開口し、直線状に延在して、他端において金型1の背面(主面10とは反対側の面)に開口している。金型1には、ピン部材3と同数個のピン挿通孔13が形成されている。複数のピン挿通孔13は、金型1に対して満遍なくレイアウトされていることが好ましい。
複数のピン部材3の各々は、複数のピン挿通孔13のいずれかに挿通されて、一端が注湯面領域11、あるいは、見切り面12と一致する(面一となる)ように配置された状態で、他端において(すなわち、金型1の背面側において)連結部材30を介して互いに連結されている。この構成において、連結部材30を、金型1の背面に対して近接あるいは離間させる方向に移動させることによって、各ピン部材3の先端を、注湯面領域11、あるいは、見切り面12に対して同期して出没させることができる。
【0026】
このような構成を備える一対の鋳型100を型合わせすると(図2の左側)、間に注湯空間Vが形成される。この注湯空間Vは、砂層2で囲まれるとともにその外側が金型1で囲まれた空間(つまり、砂層2と金型1で二重に囲まれた空間)となっている。この状態において、複数のピン部材3を注湯面領域11、あるいは、見切り面12から突出する方向に押して砂層2に当接させてこれに押しつけることによって、一対の砂層2を型合わせされた状態(すなわち、互いの周縁が密着した状態)に支持することができる。そして、この状態から、複数のピン部材3を固定しつつ、これらに対して一対の金型1だけを互いに離間する向きに相対移動させることによって、砂層2(すなわち、型合わせされた状態の砂層2)と金型1の間に隙間Qを形成することができる。
【0027】
<2.鋳型100,100の製造方法>
鋳型100,100を製造する方法の一例について、図1図2に加え、図3を参照しながら説明する。図3は、当該方法を説明するための図である。
【0028】
ステップS1:まず、一対の金型1と、鋳造目的製品の模型7を準備する。金型1の主面10には、上述したとおり、注湯面領域11とこれに連なる見切り面12とが形成されている。また、金型1には、主面10側から背面側に貫通するピン挿通孔13(図3では図示省略)が複数個形成されており、各ピン挿通孔13にピン部材3が挿通されている。
模型7は、薄板平板部分71を備える。薄板平板部分71の各主面には、製品形状を模した形状部分(製品形状部分)72,73が形成されている。また、模型7には、ヒータが内蔵されている。
【0029】
ステップS2:次に、模型7を挟んで、一対の金型1を、見切り面12を介して対向配置する。ここで、模型7(好ましくは、模型7の薄板平板部分71)には、棒状の突起711が間隔をあけて複数個設けられており、この突起711によって、各金型1と模型7との間に隙間20が形成された状態となる。
この隙間20の大きさ(具体的には、注湯面領域11と模型7の製品形状部分72,73の間の離間距離)は、形成したい砂層2の厚みに応じて規定すればよい。例えば厚みが2mmの砂層2を形成したい場合、当該隙間20の大きさを2mm程度とすればよい。隙間20の大きさは、突起711の寸法で調整することができる。
なお、この隙間20は、見切り面12と模型7の薄板平板部分71の間にまで亘っていてもよい。この場合、見切り面12と薄板平板部分71の間の寸法は、0.3mm程度であることが好ましい。隙間20が、見切り面12と薄板平板部分71の間にまで亘るものとなっている場合、注湯面領域11だけでなく見切り面12を覆うような砂層2が形成されることになる。もっとも、見切り面12と薄板平板部分71は隙間無く接触していてもよく、この場合は、注湯面領域11だけを覆うような砂層2が形成されることになる。
なお、薄板平板部分71の側面の全体(ただし、上側の側面の一部分と下側の側面の一部分を除く全体)には外側に張り出したフランジ部712が形成されており、フランジ部712が金型1の外周面に当接することによって、当該隙間20が、上下に開口部を形成しつつ閉鎖された空間となる。
【0030】
ステップS3:次に、金型1と模型7の間の隙間20に砂80を充填する。ここで用いられる砂80は、鋳物砂であり、具体的には、骨材(例えば、硅砂、山砂、アルミナ砂、オリビン砂、クロマイト砂、ジルコン砂、ムライト砂、人工砂、中空の粒子(具体的には例えば、中空のセラミックス粒子)、等)を、フェノール系樹脂等の熱硬化性樹脂等でコーティングしたものであり、所謂「レジンコーテッドサンド(RCS)」である。骨材として中空の粒子を用いることによって、砂層2を、高い断熱効果を有する断熱層とすることができる。
隙間20に砂80を充填するにあたっては、具体的には、当該隙間20の上側の開口部に砂供給カップ81をセットすると共に、下側の開口部に吸引装置82をセットする。そして、砂供給カップ81から上側の開口部を介して隙間20に向けて砂80を供給しつつ、下側の開口部に吸引装置82で吸引圧を形成する。これによって、隙間20に砂80が充填されていく。もっとも、隙間20に砂80を充填する方法はこれに限られるものではなく、例えばブロー方式(吹き込み方式)で行ってもよい。
【0031】
ステップS4:隙間20の全体に砂80が充填されると、続いて、模型7に内蔵されたヒータ等を用いて隙間20に充填された砂80を加熱する。すると、隙間20に充填された砂80が、熱硬化反応により金型1に付着し、焼成される。これによって、金型1に、これを被覆する砂層2が形成される。隙間20の大きさが2mmの場合、形成される砂層2の厚みは約2mmとなる。また、隙間20が、見切り面12と模型7の間にも亘っている場合、注湯面領域11だけでなく見切り面12を覆うような砂層2が形成される。
【0032】
ステップS5:次に、各金型1(すなわち、砂層2が形成された金型1)を模型7から完全に離間させる。これによって、一対の鋳型100,100が得られる。
【0033】
<3.製品9の製造方法>
次に、一対の鋳型100,100を用いて製品(鋳物製品)9を鋳造する方法について、図4を参照しながら説明する。図4は、当該方法を説明するための図である。
【0034】
ステップS101:まず、例えば上記の製造方法で製造された一対の鋳型100,100を準備し(準備工程)、これを型合わせする(型合わせ工程)。具体的には、各金型1を、見切り面12を介して対向配置して、一対の鋳型100,100の間に注湯空間Vが形成された状態とする。このとき、複数のピン部材3を注湯面領域11、あるいは、見切り面12から突出する方向に押して砂層2に当接させてこれに押しつけることによって、一対の砂層2が型合わせされた状態に支持する。上述したとおり、各金型1の注湯面領域11は砂層2で覆われているので、この注湯空間Vは、砂層2と金型1で二重に囲まれた空間となっている。
【0035】
ステップS102:次に、金型1と砂層2の間に隙間Qを形成する(隙間形成工程)。具体的には例えば、上述したとおり、複数のピン部材3(すなわち、一対の砂層2を型合わせされた状態に支持している複数の支持ピン3)を固定しつつ、これらに対して一対の金型1だけを互いに離間する向きに相対移動させることによって、砂層2(すなわち、型合わせされた状態の砂層2)と金型1の間に隙間Qを形成する。この隙間Qは、砂層2の少なくとも一部と金型1の間に形成されていればよく、必ずしも砂層2の全体と金型1の間に隙間Qが形成されなくともよい。例えば、図4の2段目の図において支持ピン3に平行な砂層2の面(金型1側の面)201と金型1の間には隙間Qが形成されないが、これでも、他の箇所に設けられた隙間Qにより十分な断熱効果を得ることができる。もちろん、砂層2のこのような面201にのみテーパー(勾配)を付け(溶湯90側の面はそのままとし)、金型1を離間させたときにこの面201と金型1の間にも隙間を設けるようにしてもよい。
ただし、ここで形成される隙間Qの大きさ(空気層の厚さ)は、後述する断熱効果を得るためには0.1mm以上であればよい。ただし、この隙間Qが過度に大きくなると、注湯空間Vに注入される溶湯90を砂層2だけで独立して確実に保持できるように砂層2の厚みを大きくする必要が出てくる。この隙間Qが3mm以下であれば、注湯空間Vが砂層2だけで保持できない不測の事態が生じたとしても、すぐに金型1を閉じて注湯空間Vを閉鎖することができるので、このような不測の事態に備えて砂層2の厚みを大きくしておく必要がない。
【0036】
ステップS103:次に、湯口を介して注湯空間Vに溶湯(例えば、鋳鉄の溶湯)90を注入する(注湯工程)。ここでは、溶湯90が、熱伝導率が比較的小さい砂で形成された砂層2に接触する。さらに、ここでは、砂層2と金型1の間に隙間Qが形成されているので、金型1と砂層2の間に空気の層が形成されている。空気は砂よりもさらに熱伝導率が小さいため、この空気の層は、注湯工程で注湯空間Vに注入された溶湯90と金型1の間における主要な断熱層として作用する。したがって、砂層2の厚みが薄くても、溶湯90の冷却速度を十分に小さなものとすることができるとともに、金型1が溶湯90の熱でダメージを受けることも十分に抑制される。なお、この明細書の説明において、「溶湯90」は液体状のものばかりでなく、それが固化した後のものも指すこととする。
【0037】
図5には、溶湯90の冷却曲線(ここでは例えば、炭素当量(CE)が3.8以上であって4.3以下である鋳鉄の溶湯の冷却曲線)が模式的に示されている。ここにおいて実線で示される冷却曲線Opは、隙間Qを形成しない場合の冷却曲線である。注湯工程の前に隙間形成工程を行った場合、溶湯90は冷却曲線Xpに示される形で降温していく。すなわちここでは、注湯工程の前に隙間Qを形成するので、注湯開始の瞬間から、溶湯90の冷却速度が十分小さなものに抑えられ、溶湯90が注入されてから固化するまでの冷却プロファイルを特に好ましいものとすることができる。
【0038】
また、図6には、隙間Qを形成しない場合の金型1(ただし、2mmの砂層2で被覆された金型1)の注湯に伴う温度変化のプロファイルと、注湯工程の前に隙間Qを形成した場合の金型1の該温度変化のプロファイルが、それぞれ示されている。ただしこの温度変化のプロファイルは、溶湯90としてスズを用いた場合に得られたものである。
この図に示されるように、注湯工程の前に隙間Qが形成されることによって、金型1の温度変化率(特に、注湯の瞬間の温度変化率)が小さくなり、金型1の急激な昇温が抑制されていることがわかる。すなわち、注湯工程の前に隙間Qが形成されることによって、金型1が溶湯90の熱でダメージを受けることが効果的に抑制されるといえる。
また、この図から、隙間Qの大きさが大きいほど、金型1の温度変化率が小さくなり、また、最高到達温度も低く抑えられることもわかる。すなわち、隙間Qの大きさが大きいほど、金型1が受ける熱ダメージが小さくなるといえる。
【0039】
ステップS104:注湯工程から所定の時間が経過すると、注湯空間V内の溶湯90が自然冷却によって所定温度まで冷却されて溶湯90が固化する。そこで、当該所定の時間が経過した後、金型1を砂層2から完全に離間させて、固化した溶湯90(すなわち、製品9)を脱型する(離間工程)。多くの場合、この脱型のときに、砂層2は崩壊して製品9から剥離する。残った金型1は、清掃された後、再びステップS1(図3)の金型1として用いられる。
【0040】
<5.変形例>
上記の実施形態では、注湯工程の前に隙間形成工程を行っている。この場合、上述したとおり、注湯開始の瞬間から溶湯90の冷却速度を十分小さなものに抑えることができるので、溶湯90が注湯されてから固化するまでの冷却プロファイルを特に好ましいものとすることができ、金型1が溶湯90によって熱的ダメージを受けることを十分に回避して金型1の劣化を十分に抑制することができる。一方で、場合によっては、注湯工程と隙間形成工程の順序を逆にしてもよい。
【0041】
この場合、図7に示されるように、ステップS101の工程の後、隙間Qを形成する前に、湯口を介して注湯空間Vに溶湯90を注入することになる(注湯工程)(ステップS102a)。
ここでは、金型1の注湯面領域11が砂層2で被覆されているので、溶湯90が、熱伝導率が比較的小さい砂で形成された砂層2に接触する。したがって、注湯の間の溶湯90の冷却速度をある程度小さいものとすることができる。また、金型1が溶湯90と直接に接触しないので、注湯の際に金型1が溶湯90の熱でダメージを受けることもある程度抑制される。
特にここでは、溶湯90が注入される間は砂層2と金型1の間に隙間Qが形成されておらず、砂層2が金型1によってバックアップされた状態となっているので、注入された溶湯90が注湯空間Vから漏れ出る、また、溶湯90を注入した際の衝撃で砂層2が損傷する、等といった事態を回避できる。
【0042】
そして、注湯工程の後、金型1と砂層2の間に隙間Qを形成する(隙間形成工程)(ステップS103a)。具体的には例えば、上述したとおり、複数のピン部材3に対して一対の金型1だけを互いに離間する向きに相対移動させることによって、砂層2と金型1の間に隙間Qを形成する。上述したとおり、砂層2と金型1の間に隙間Qが形成されることによって、金型1と砂層2の間に空気の層が形成される。これによって、隙間Qが形成された後の溶湯90の冷却速度を十分に小さなものとすることができるとともに、金型1が溶湯90の熱でダメージを受けることを抑制できる。
【0043】
この変形例のように注湯工程の後に隙間形成工程を実行する場合、隙間形成工程を実行するタイミング(すなわち、隙間Qを形成するタイミング)は、注湯空間Vに注入された溶湯90が状態変化するタイミングに応じて規定することが好ましい。
【0044】
例えば、溶湯90が、鋳鉄の溶湯である場合、注湯空間Vに注湯された直後の溶湯90は液体であり(図5に示す時間帯A)、これが冷却されてある温度(初晶温度:ここでは約1200℃)に達した後は、液体とオーステナイトが共存する状態となる(図5に示す時間帯B)。さらにある温度(共晶温度:ここでは約1153℃)に達した後は、オーステナイトと黒鉛が共存する状態となる(図5に示す時間帯C)。さらにある温度(A1変態点:ここでは約738℃)に達した後は、黒鉛とフェライトが共存する状態となる(図5に示す時間帯D)。
【0045】
隙間形成工程は、溶湯90が初晶温度に達する前(時間帯A)に行ってもよい。この場合、冷却曲線Apに示されるように、溶湯90が液体状態の段階から、溶湯90の冷却速度を十分小さなものに抑えることができるので、溶湯90が注入されてから固化するまでの冷却プロファイルを十分に好ましいものとすることができる。
また例えば、隙間形成工程を、溶湯90が初晶温度に達した以後であって共晶温度に達する前(時間帯B)に行ってもよい。この場合、冷却曲線Bpに示されるように、溶湯90が共晶温度に達する前から、溶湯90の冷却速度を十分小さなものに抑えることができる。
また例えば、隙間形成工程を、溶湯90が共晶温度に達した以後であってA1変態点に達する前(時間帯C)に行ってもよい。この場合、冷却曲線Cpに示されるように、溶湯90がA1変態点に達する前から、溶湯90の冷却速度を十分小さなものに抑えることができる。
また例えば、溶湯90は、黒鉛が析出する間は膨張する(黒鉛膨張)ため、隙間形成工程を、黒鉛膨張が終了するタイミングで行ってもよい。この場合、黒鉛膨張が生じている間は、砂層2が金型1によってバックアップされた状態となっているので、黒鉛膨張による引け巣発生の抑制効果を期待することができる。
【符号の説明】
【0046】
100…鋳型
1…金型
10…主面
11…注湯面領域
12…見切り面
13…ピン挿通孔
2…砂層
3…ピン部材
30…連結部材
7…模型
71…薄板平板部分
711…突起
712…フランジ部
72…製品形状部分
80…砂
81…砂供給カップ
82…吸引装置
9…製品
90…溶湯
Q…隙間
V…注湯空間
【要約】
【課題】砂層の厚みを大きくしなくとも、十分に小さな冷却速度と鋳型の劣化防止を実現できる技術を提供する。
【解決手段】型合わせされることにより間に注湯空間Vを形成する一対の鋳型100,100を用いて製品を鋳造する鋳造方法において、まず、注湯空間Vを形成する注湯面領域11を有する金型1の該注湯面領域11が砂層2で覆われた一対の鋳型100,100を準備し(準備工程)、当該一対の鋳型100,100を型合わせする(型合わせ工程)(ステップS101)。そして、注湯空間Vに溶湯を注入する(注湯工程)(ステップS103)。この注湯工程の前あるいは後に、金型1と砂層2の間に隙間Qを形成する(隙間形成工程)を行う(ステップS102)。そして、注湯工程および隙間形成工程の後に、金型1を砂層2から完全に離間させる(離間工程)(ステップS104)。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7