(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記遊離工程の後に、固液分離によって前記遊離生成物を含む分離液を得る分離工程を更に含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の糖タンパク質の糖鎖を調製する方法。
前記標識工程の後に、固液分離によって前記糖鎖の標識体を含む分離液を得る分離工程を更に含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の糖タンパク質の糖鎖を調製する方法。
糖タンパク質を固定するための固相、前記固相を保持し糖鎖の遊離及び標識を行うための容器、並びに糖鎖遊離酵素を備え、前記固相が、プロテインA、プロテインG、プロテインL、プロテインH、プロテインD、プロテインArpからなる群より選ばれるリガンドを表面に有する、糖タンパク質の糖鎖を調製するキット。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1実施形態において、本発明は、容器内で、固相に固定された糖タンパク質を含む試料に糖鎖遊離酵素(糖鎖分解酵素)を作用させ、糖鎖を含む遊離生成物を得る遊離工程と、前記容器内の前記遊離生成物に標識試薬(標識反応液)を加え、前記糖鎖の標識体を含む標識生成物を得る標識工程と、を含む、糖タンパク質の糖鎖を調製する方法を提供する。
【0011】
本実施形態の方法によれば、固相に固定された糖タンパク質を溶出することなく、固相上で糖鎖遊離を行い、かつ、遊離生成物を分離することなく標識試薬(標識反応液)を重ねて加えることで、糖タンパク質から糖鎖を分析用試料の態様(標識された態様)で極めて迅速に調製することができる。
【0012】
なお、本実施形態の方法において、遊離工程に供される糖タンパク質は固相に固定されている。この場合における固定の態様としては、特異的結合による非共有結合(水素結合及びイオン結合)、並びに共有結合が含まれ、例えば泳動ゲルへのアプライ又はブロッティングメンブレンへ転写されることより単に保持されるに過ぎない態様は含まない。
【0013】
[遊離工程]
遊離工程では、固相に固定された糖タンパク質に糖鎖遊離酵素を作用させて糖鎖を遊離し、遊離生成物を得る。好ましくは、脱糖鎖促進剤の存在下で糖鎖遊離酵素を作用させる。本工程は、化学的断片化又は酵素学的断片化等によるタンパク質の断片化工程を実質的に含まない。
【0014】
(固相に固定された糖タンパク質を含む試料)
《糖タンパク質》
糖タンパク質は、少なくとも糖鎖を複合成分として含むタンパク質であればよい。糖タンパク質の糖鎖部分は、N−結合型であってもよく、O−結合型であってもよい。また、糖鎖部分は、天然の構造を有していてもよいし、人工的に改変されていてもよい。また、糖鎖部分は、中性糖鎖であってもよいし、酸性糖鎖であってもよい。また、糖タンパク質における糖鎖結合部位は、天然物と同じ部位であってもよいし、天然物では糖鎖が結合していない部位であってもよい。
【0015】
糖タンパク質のタンパク質部分は、変性前の状態において、糖鎖部分をその内部に取り込むようにフォールディングしていてもよい。このようなタンパク質部分の分子量は、例えば1kDa以上であってもよく、10kDa以上であってもよい。タンパク質部分の分子量範囲内の上限は特に限定されず、例えば1000kDaであってもよい。
【0016】
具体的な糖タンパク質としては、例えば、抗体、ホルモン、酵素及びこれらを含む複合体からなる群より選ばれる生理活性物質が挙げられる。ここで、複合体としては、抗原と抗体との複合体、ホルモンと受容体との複合体、酵素と基質との複合体等が挙げられる。これらの糖タンパク質は細胞培養工学的に調製される生理活性物質であることから、得られる糖鎖部分は不均一な状態であり、糖鎖分析の時間を短縮することの意義が特に大きい。
【0017】
また、糖タンパク質が抗体を含む場合は、糖鎖解析の重要性が特に高い。この場合、抗体の活性等に影響を及ぼす糖鎖を迅速に遊離することができる。抗体としては、IgG、IgM、IgA、IgD、IgE等の免疫グロブリン;Fab、F(ab’)、F(ab’)
2、一本鎖抗体(scFv)、二重特異性抗体(diabody)等の低分子抗体;Fc領域と他の機能性タンパク質又はペプチドとの融合により構成されるFc融合タンパク質又はペプチド等のFc含有分子;放射性同位元素配位性キレート、ポリエチレングリコール等の化学修飾基を付加した化学的修飾抗体等が挙げられる。また、抗体は、モノクローナル抗体であってもよく、ポリクローナル抗体であってもよい。
【0018】
また、抗体は、抗体医薬品候補又は抗体医薬品であってもよい。抗体医薬品候補は、抗体医薬品の開発途上にある物質であり、抗体医薬品としての活性及び安全性等の評価に供される物質である。抗体医薬品候補から糖鎖遊離を行う場合は、抗体医薬品の開発を迅速化することができ、抗体医薬品から糖鎖遊離を行う場合は、抗体医薬品の品質管理を迅速化することができる。
【0019】
《固相》
本実施形態の方法において、糖タンパク質は、固相に固定されている。固定の態様としては、特異的結合による非共有結合(水素結合及びイオン結合)、並びに共有結合が含まれ、例えば泳動ゲルにアプライ又はブロッティングメンブレンに転写されることより単に保持されるに過ぎない態様は含まれない。非共有結合による固定である場合、結合速度定数ka(単位M
−1s
−1)が、例えば10
3以上、例えば10
4以上、例えば10
3〜10
5、例えば10
4〜10
5の親和性を有することが好ましい。
【0020】
糖タンパク質を固定している固相は、糖タンパク質のタンパク質部分と非共有結合的又は共有結合的に連結しているリンカーを表面に有する担体であれば特に限定されない。
【0021】
担体がその表面に有するリンカーとしては、例えば、糖タンパク質のタンパク質部分を捕捉可能なリガンドが挙げられる。リガンドとしては、糖タンパク質のタンパク質部分に親和性のある分子(以下、単に糖タンパク質に親和性のある分子という場合がある。)、イオン交換基又は疎水性基が表面に化学的に修飾された担体が挙げられる。
【0022】
糖タンパク質に親和性のある分子は特に限定されず、捕捉すべき糖タンパク質に応じて当業者が容易に決定することができる。例えば、ペプチド性又はタンパク質性リガンド、アプタマー(糖タンパク質に特異的に結合可能な合成DNA、合成RNA又はペプチド)、化学合成性リガンド(チアゾール誘導体等)が挙げられる。
【0023】
例えば、糖タンパク質が抗体である場合、糖タンパク質に親和性のある分子は、抗体又は抗体の定常領域であるFc含有分子に特異的に結合するものであってもよい。より具体的には、ペプチド性又はタンパク質性リガンドとして、プロテインA、プロテインG、プロテインL、プロテインH、プロテインD、プロテインArp等の微生物由来リガンド;それらのリガンドの組換え発現により得られる機能的改変体(類縁物質);抗体のFcレセプター等の組換えタンパク質等が挙げられる。これにより、糖鎖解析の重要性が特に高い抗体について、スループット性の高い糖鎖試料調製及び解析が可能となる。
【0024】
イオン交換基は、イオン交換機能により糖タンパク質を捕捉可能であり、かつ、カウンターイオンによってイオン強度依存的に糖タンパク質を脱離可能である官能基であれば特に限定されない。好ましくは、カルボキシル基(より具体的には、カルボキシメチル基等)、スルホン酸基(より具体的には、スルホエチル基、スルホプロピル基等)等の陽イオン交換基が挙げられ、四級アミノ基等の陰イオン交換基であってもよい。
【0025】
疎水性基としては、例えば、炭素数2〜8のアルキル基又はアリール基が挙げられる。より具体的には、ブチル基、フェニル基、オクチル基等が挙げられ、これらの基は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
担体がその表面に有するリンカーとしては、上記の他、糖タンパク質のタンパク質部分の構成要素であるC末端アミノ酸残基のC末端と共有結合した連結基であってもよい。このような連結基としては、ペプチド固相合成で用いられる固相表面修飾試薬であるアミノ基含有化合物から誘導される連結基が挙げられる。
【0027】
担体は、水に不溶な基材であって、上記のリンカーを固定化できるものであれば特に限定されず、有機担体、無機担体及びそれらの複合担体が挙げられる。有機担体としては、架橋ポリビニルアルコール、架橋ポリアクリレート、架橋ポリアクリルアミド、架橋ポリスチレン等の合成高分子;架橋セファロース、結晶性セルロース、架橋セルロース、架橋アミロース、架橋アガロース、架橋デキストラン等の多糖類からなる担体が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。無機担体としては、ガラスビーズ、シリカゲル、モノリスシリカ等が挙げられる。
【0028】
有機担体が水を含みやすい性質であるのに対して、無機担体は水を含みにくい。本実施形態の方法では、固相上で種々の反応を行うため、水を含みにくい無機担体を用いることが好ましい。これにより、酵素及び/又は試薬の効果を希釈させないため好ましい。酵素及び/又は試薬の効果の希釈防止は、分析における不要なシグナルの検出の防止に寄与する。したがって、担体は無機担体であることが好ましい。また、担体が無機担体であると、例えば、糖鎖遊離酵素により担体の一部が遊離することがなく、糖由来の樹脂を使用した場合に初めから樹脂に残存する糖の溶出が起こることがない。このため、遊離された糖鎖の分析において、不要なシグナルの出現を抑制しやすい。
【0029】
担体の形状としては特に限定されず、粒子状であってもよく、非粒子状であってもよい。粒子状の担体(ビーズ)の場合、多孔質担体であってもよい。粒子状の担体の場合、平均粒子径は例えば1〜100μmであってもよい。平均粒子径が上記下限値以上であることは、通液性の点で好ましく、上記上限値以下であることは、理論断数の低下を防ぐ点で好ましい。
【0030】
非粒子状の担体としては、モノリスタイプのシリカゲル及び膜体等が挙げられる。モノリスタイプのシリカゲルは、マイクロメートルサイズの三次元網目状細孔(マクロ孔)と、ナノメートルサイズの細孔(メソ孔)とを有する、シリカゲルのバルク体である。マクロ孔の径は例えば1〜100μmであってもよく、1〜50μmであってもよく、1〜30μmであってもよく、1〜20μmであってもよい。マクロ孔が上記下限値以上であることは通液性の点で好ましく、上記上限値以下であることは、理論断数の低下を防ぐ点で好ましい。メソ孔の径は例えば1〜100nmであってもよく、1〜50nmであってもよい。これによって糖を効率的に捕捉することができる。
【0031】
担体の使用体積(粒子状担体にあっては、担体自体の体積に、充填時の空隙の体積も含み、非粒子状担体にあっては、担体自体の体積に、メソ孔及びマクロ孔の体積も含む)は、例えば0.001〜0.1cm
3であってもよく、例えば0.001〜0.01cm
3であってもよい。上記下限値以上であることは、理論断数の低下を防ぐ点で好ましく、上記上限値以下であることは、通液性の点で好ましい。また、上記の体積であることにより、溶出後の分離液を、HPLC分析に適した濃度で得ることも容易となる。
【0032】
固相は、カラム、マルチウェルプレートの各ウェル、フィルタープレートの各ウェル、マイクロチューブ等の容器の中に充填された状態で使用されてもよい。
【0033】
(固相に固定された糖タンパク質を含む試料の調製)
固相に固定された糖タンパク質を含む試料は、例えば、糖タンパク質を含む試料を上記の固相に接触させて捕捉することにより得ることができる。固相に接触させるべき糖タンパク質を含む試料は、糖鎖調製を迅速に行う観点から、糖タンパク質の精製(糖タンパク質をその夾雑物から分離すること)が行われていないものであってもよい。例えば、血液(例えば、血清、血漿)、リンパ液、腹腔浸出液、組織間液、脳脊髄液、腹水等の体液;B細胞、ハイブリドーマ、CHO細胞等の抗体産生細胞の培養上清;抗体産生細胞を移植した動物の腹水等が挙げられる。試料は、培養上清等の細胞培養工学的な糖タンパク質の調製物のように、タンパク質部分が均一であり、かつ糖鎖部分が非均一である、糖タンパク質のバリエーションの混合物であってもよい。
【0034】
固相に固定されたタンパク質を含む試料は、上記の他に、糖タンパク質の固相合成によって得られる生成物であってもよい。
【0035】
固相に接触させるべき糖タンパク質を含む試料における糖タンパク質の濃度は特に限定されず、例えば、0.1μg/mL〜50mg/mLであってもよい。上記下限値以上であることは、検出の点で好ましく、上記上限値以下であることは、定量性の点で好ましい。
【0036】
固相に接触させるべき糖タンパク質は、容器1つあたり0.001μg〜100mgであってもよく、0.001μg〜5mgであってもよい。糖タンパク質の量が上記下限値以上であることは検出の点で好ましい。本実施形態の方法は工程数が少なく試料のロスが非常に少ないため、糖タンパク質が小スケール(特に0.001〜500μg)である場合に特に有用である。糖タンパク質の量が上記上限値以下であることは、定量性の点で好ましい。
【0037】
固相に固定された糖タンパク質を含む試料は、固相に固定された糖タンパク質が液体成分中に分散された状態で用意されてもよいし、液体成分が分離された状態で用意されてもよい。
【0038】
また、固相に固定された糖タンパク質を含む試料は、上記の糖タンパク質を含む試料を固相に接触させ糖タンパク質の捕捉が完了した時点、又は固相合成が完了した時点で、夾雑物を含み得る。夾雑物としては、固相に固定すべき糖タンパク質を含む試料に含まれていた成分、糖タンパク質の固相合成に用いた試薬等が挙げられ、より具体的には、塩、低分子化合物、タンパク質(当該固相への結合性を有さないタンパク質)その他の生体分子が挙げられる。
【0039】
したがって、固相に固定された糖タンパク質を含む試料は、糖タンパク質の捕捉が完了した後、又は固相合成が完了した後に、洗浄処理が行われたものであってよい。これによって、糖タンパク質を固相に固定したまま、共雑物を除去することができる。洗浄は、固相に洗浄液を通液させることによって行うことができる。通液の方法としては、自然落下、吸引、加圧、遠心等の方法が挙げられる。
【0040】
洗浄液としては、糖タンパク質のタンパク質部分と固相表面のリンカーとの結合を切断しない液性及び組成のものが当業者によって適宜選択される。具体的には、緩衝液その他の水溶液又は水であってもよい。水溶液を用いる場合、pHが5〜10であるものが好ましい。水溶液のpHがこの範囲内であれば、後の工程で用いる糖鎖遊離酵素の活性を保ちやすい。また、糖タンパク質が非共有結合によって固相に固定されている場合には、糖タンパク質の遊離を防止しやすい。緩衝液を用いる場合、緩衝剤としては、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、塩化アンモニウム、クエン酸水素二アンモニウム、カルバミン酸アンモニウム等のアンモニウム塩;トリスヒドロキシメチルアンモニウム等のトリス緩衝剤;リン酸塩等が挙げられる。
【0041】
(容器)
固相に固定された糖タンパク質を含む試料は、容器内に用意される。固相に固定された糖タンパク質は、当該容器内で調製されることが効率的で好ましい。容器は、液体及び固相の保持並びに固相を保持した状態での液体の分離(通液)が可能な容器であれば特に限定されず、例えば、カラム、マルチウェルプレートの各ウェル、フィルタープレートの各ウェル、マイクロチューブ等が挙げられる。
【0042】
(糖鎖遊離酵素)
糖タンパク質に作用させる糖鎖遊離酵素としては、ペプチドN−グリカナーゼ(PNGase F、PNGase A)、エンド−β−N−アセチルグルコサミニダーゼ(Endo−H、Endo−F、Endo−A、Endo−M)等が挙げられる。
【0043】
糖鎖遊離酵素は、水又は緩衝液中に分散された状態で用意されてもよい。緩衝液を用いる場合、緩衝剤としては、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、塩化アンモニウム、クエン酸水素二アンモニウム、カルバミン酸アンモニウム等が挙げられる。緩衝液は、pHが5〜10であるものが好ましい。緩衝液のpHがこの範囲内であると、糖鎖遊離酵素の活性を保ちやすい。水又は緩衝液は、糖鎖遊離酵素とともに、金属塩等の塩類、グリセロール等のタンパク質の安定化剤等の成分を含有していてもよい。
【0044】
(脱糖鎖促進剤)
遊離工程は、脱糖鎖促進剤の存在下で行われてもよい。これによって、糖タンパク質からの糖鎖試料の回収率を向上させることができる。脱糖鎖促進剤は、酸由来型陰イオン性界面活性剤を含有することが好ましい。酸由来型陰イオン性界面活性剤により、糖タンパク質のタンパク質部分が変性して三次構造が変化し、糖鎖遊離酵素が分解標的部位に作用しやすくなる。これによって、糖部分が容易に分解されて遊離する。
【0045】
酸由来型陰イオン性界面活性剤は、有機酸から誘導される陰イオン性界面活性剤である。例えば、カルボン酸型陰イオン性界面活性剤、スルホン酸型陰イオン性界面活性剤、硫酸エステル型陰イオン性界面活性剤、リン酸エステル型陰イオン性界面活性剤等が挙げられる。中でも、カルボン酸型陰イオン性界面活性剤が好ましい。酸由来型陰イオン性界面活性剤がカルボン酸型陰イオン性界面活性剤であると、糖タンパク質のタンパク質部分を変性させるが、糖鎖遊離酵素を変性させにくい傾向にあると考えられる。
【0046】
《酸由来型陰イオン性界面活性剤−カルボン酸型陰イオン性界面活性剤》
カルボン酸型陰イオン性界面活性剤としては、R
1−COOX(ここで、R
1は有機基を表し、Xは水素原子又は陽イオンを表す。)で表されるカルボン酸及びカルボン酸塩、並びに、R
1CON(R
2)−R
3−COOX(ここで、R
1は有機基を表し、−N(R
2)−R
3−COO−はアミノ酸残基を表し、Xは水素原子又は陽イオンを表す。)で表されるアミノ酸及びその塩(N−アシルアミノ酸系界面活性剤)等が挙げられる。中でも、R
1CON(R
2)−R
3−COOX(ここで、R
1は有機基を表し、−N(R
2)−R
3−COO−はアミノ酸残基を表し、Xは水素原子又は陽イオンを表す。)で表されるアミノ酸及びその塩(N−アシルアミノ酸系界面活性剤)が好ましい。
【0047】
陽イオンXとしては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属イオン、トリエタノールアミンイオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。なお、以下の全ての酸由来型陰イオン性界面活性剤の例示において、「塩」は少なくともナトリウム塩、カリウム塩、トリエタノールアミン塩、アンモニウム塩を例示するものとする。
【0048】
《カルボン酸型陰イオン性界面活性剤−カルボン酸及びカルボン酸塩》
R
1−COOXで示されるカルボン酸塩において、有機基R
1は、少なくとも炭素を有する基であり、高級アルキル基、高級不飽和炭化水素基、オキシアルキレン基が介在した炭化水素基、フッ素置換された高級アルキル基が挙げられる。
【0049】
高級アルキル基及び高級不飽和炭化水素基の炭素数は6〜18であってもよい。このような高級アルキル基又は高級不飽和炭化水素基を有するカルボン酸型陰イオン性界面活性剤の具体例としては、オクタン酸塩、デカン酸塩、ラウリン酸塩、ミリスチン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、オレイン酸塩、リノール酸塩等が挙げられる。また、上記の高級アルキル基及び高級不飽和炭化水素基は置換されていてもよく、置換基は炭素数が例えば1〜30のアルキル基又はアルコキシカルボニル基であってもよい。
【0050】
オキシアルキレン基が介在した炭化水素基においては、1以上のオキシアルキレン基が主鎖に含まれていてもよい。オキシアルキレン基は、オキシエチレン基、オキシ−n−プロピレン基、オキシイソプロピレン基等が挙げられる。オキシアルキレン基が介在している炭化水素基としては、例えば、R
4−(CH
2CH
2O)
n−R
5−で表される基が挙げられる。
【0051】
ここで、R
4は、高級アルキル基、高級不飽和炭化水素基、又は置換若しくは無置換のアリール基であってもよい。高級アルキル基及び高級不飽和炭化水素基の炭素数は6〜18であってもよい。アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。置換アリール基の場合、置換基は直鎖又は分岐のアルキル基であってもよく、当該直鎖又は分岐のアルキル基の炭素数は1〜30であってもよい。特にフェニル基の場合、当該置換基はスルホニル基に対してパラ位で置換されていてもよい。また、nは、1〜10であってもよい。また、R
5は、シグマ結合、又は、エチレン基、メチレン基、n−プロピレン基等のアルキレン基であってもよい。このようなカルボン酸塩の具体例としては、ラウレスカルボン酸塩(例えば、ラウレス−4−カルボン酸塩、ラウレス−6−カルボン酸塩)トリデセスカルボン酸塩(例えば、トリデセス−4−カルボン酸塩、トリデセス−6−カルボン酸塩)等が挙げられる。
【0052】
フッ素置換された高級アルキル基においては、1以上の水素原子がフッ素原子で置換されている。フッ素置換された高級アルキル基は、全ての水素原子がフッ素で置換されたペルフルオロアルキル基であってもよい。また炭素数は、6〜18であってもよい。このようなペルフルオロアルキルカルボン酸及びペルフルオロアルキルカルボン酸塩の具体例としては、ペルフルオロオクタン酸、ペルフルオロノナン酸、ペルフルオロオクタン酸塩、ペルフルオロノナン酸塩等が挙げられる。
【0053】
《カルボン酸型陰イオン性界面活性剤−アミノ酸及びその塩》
R
1CON(R
2)−R
3−COOXで示されるアミノ酸又はその塩において、有機基R
1及び陽イオンXは、上記のカルボン酸又はカルボン酸塩における有機基R
1及び陽イオンXと同様である。
【0054】
また、R
2は、水素原子又はアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基等)である。R
3は、置換又は無置換のエチレン基、メチレン基、n−プロピレン基等であってもよく、N末端側の窒素原子と共に環を形成していてもよい。したがって、−N(R
2)−R
3−COO−で示されるアミノ酸残基は、α−アミノ酸残基、β−アミノ酸残基、γ−アミノ酸残基等であってもよく、天然アミノ酸由来の残基であってもよく、非天然アミノ酸由来の残基であってもよい。例えば、サルコシン残基、グルタミン酸残基、グリシン残基、アスパラギン酸残基、プロリン残基、β−アラニン残基等のアミノ酸由来の残基が挙げられる。
【0055】
R
2が水素原子である場合の当該アミノ酸又はその塩(つまりN−アシルアミノ酸系界面活性剤)の具体例としては、N−ラウロイルアスパラギン酸塩、N−ラウロイルグルタミン酸、N−ラウロイルグルタミン酸塩、N−ミリストイルグルタミン酸塩、N−ココイルアラニン塩、N−ココイルグリシン塩、N−ココイルグルタミン酸塩、N−パルミトイルグルタミン酸塩、N−パルミトイルプロリン、N−パルミトイルプロリン塩、N−ウンデシレノイルグリシン、N−ウンデシレノイルグリシン塩、N−ステアロイルグルタミン塩等が挙げられる。酸由来型陰イオン性界面活性剤がN−アシルアミノ酸系界面活性剤であると、糖タンパク質のタンパク質部分をより変性させやすく、糖鎖遊離酵素を変性させにくい傾向がある。
【0056】
R
2がアルキル基である場合の当該アミノ酸又はその塩(つまりN−アシル−N−アルキルアミノ酸系界面活性剤)の具体例としては、N−ココイル−N−メチルアラニン、N−ココイル−N−メチルアラニン塩、N−ミリストイル−N−メチル−β−アラニン、N−ミリストイル−N−メチル−β−アラニン塩、N−ミリストイルサルコシン塩、N−ラウロイル−N−メチルアラニン、N−ラウロイル−N−メチルアラニン塩、N−ラウロイル−N−エチルグリシン、N−ラウロイル−N−イソプロピルグリシン塩、N−ラウロイル−N−メチル−β−アラニン、N−ラウロイル−N−メチル−β−アラニン塩、N−ラウロイル−N−エチル−β−アラニン、N−ラウロイル−N−エチル−β−アラニン塩、N−ラウロイルサルコシン、N−ラウロイルサルコシン塩、N−ココイルサルコシン、N−ココイルサルコシン塩、N−オレオイル−N−メチル−β−アラニン、N−オレオイル−N−メチル−β−アラニン塩、N−オレオイルサルコシン、N−オレオイルサルコシン塩、N−リノレイル−N−メチル−β−アラニン、N−パルミトイル−N−メチル−β−アラニン、N−パルミトイルサルコシン塩等が挙げられる。酸由来型陰イオン性界面活性剤がN−アシル−N−アルキルアミノ酸系界面活性剤であると、糖タンパク質のタンパク質部分をさらに変性させやすく、糖鎖遊離酵素を変性させにくい傾向がある。
【0057】
《酸由来型陰イオン性界面活性剤−スルホン酸型陰イオン性界面活性剤》
スルホン酸型陰イオン性界面活性剤は、R
1−SO
3X(ここで、R
1は有機基を表し、Xは水素原子又は陽イオンを表す。)で表されるスルホン酸又はスルホン酸塩である。有機基R
1は、少なくとも炭素を有する基であり、高級アルキル基、高級不飽和炭化水素基、オキシアルキレン基が介在した炭化水素基、フッ素置換された高級アルキル基、置換又は無置換のアリール基、二価の連結基(例えば、−O−、−CO−、−CONH−、−NH−等)が介在した高級アルキル基又は高級不飽和炭化水素基等が挙げられる。
【0058】
有機基R
1のうち、高級アルキル基、高級不飽和炭化水素基、オキシアルキレン基が介在した炭化水素基、フッ素置換された高級アルキル基、及び陽イオンXについては、上記のカルボン酸又はカルボン酸塩における有機基R
1及び陽イオンXと同様である。
【0059】
具体的には、1−ヘキサンスルホン酸塩、1−オクタンスルホン酸塩、1−デカンスルホン酸塩、1−ドデカンスルホン酸塩;ペルフルオロブタンスルホン酸、ペルフルオロブタンスルホン酸塩、ペルフルオロオクタンスルホン酸、ペルフルオロオクタンスルホン酸塩;テトラデセンスルホン酸塩;アルファスルホ脂肪酸メチルエステル塩(CH
3(CH
2)
nCH(SO
3X)COOCH
3)等(nは、1〜30の整数)が挙げられる。
【0060】
有機基R
1が置換又は無置換のアリール基である場合、アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。置換アリール基の場合、置換基は直鎖又は分岐のアルキル基であってもよく、当該直鎖又は分岐のアルキル基の炭素数は1〜30であってもよい。特にフェニル基の場合、当該置換基はスルホニル基に対してパラ位で置換されていてもよい。このような芳香属系スルホン酸塩としては、トルエンスルホン酸塩、クメンスルホン酸塩、オクチルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンジスルホン酸塩、ナフタレントリスルホン酸塩、ブチルナフタレンスルホン酸塩等が挙げられる。
【0061】
有機基R
1が、二価の連結基(例えば、−O−、−CO−、−CONH−、−NH−等)が介在した高級アルキル基又は高級不飽和炭化水素基である場合のスルホン酸型界面活性剤としては、当該高級アルキル基又は高級不飽和炭化水素基でO−置換されたイセチオン酸塩、当該高級アルキル基又は高級不飽和炭化水素基でN−置換されたタウリン塩等が挙げられる。当該高級アルキル基又は高級不飽和炭化水素基の炭素数は、6〜18であってもよい。このようなスルホン酸型界面活性剤の具体例としては、ココイルイセチオン酸塩、ココイルタウリン塩、ココイル−N−メチルタウリン、N−オレオイル−N−メチルタウリン塩、N−ステアロイル−N−メチルタウリン塩、N−ラウロイル−N−メチルタウリン塩等が挙げられる。
【0062】
《酸由来型陰イオン性界面活性剤−硫酸エステル型陰イオン性界面活性剤》
硫酸エステル型陰イオン性界面活性剤は、R
1−OSO
3X(ここで、R
1は有機基を表し、Xは陽イオンを表す。)で表される硫酸エステル塩である。有機基R
1は、少なくとも炭素を有する基であり、高級アルキル基、高級不飽和炭化水素基、オキシアルキレン基が介在した炭化水素基、フッ素置換された高級アルキル基であり、それぞれ、上述のカルボン型界面活性剤におけるR
1と同じである。陽イオンXとしては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属イオン、トリエタノールアミンイオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。
【0063】
硫酸エステル塩の具体例としては、ラウリル硫酸塩、ミリスチル硫酸塩、ラウレス硫酸塩(C
12H
25(CH
2CH
2O)
nOSO
3X、ここで、nは1〜30の整数)、ポリオキシエチレンアルキルフェノールスルホン酸ナトリウム(C
8H
17C
6H
4O[CH
2CH
2O]
3SO
3X)等が挙げられる。
【0064】
《酸由来型陰イオン性界面活性剤−リン酸エステル型陰イオン性界面活性剤》
リン酸エステル型陰イオン性界面活性剤は、R
1−OSO
3X(ここで、R
1は有機基を表し、Xは水素原子又は陽イオンを表す。)で表されるリン酸エステル又はリン酸エステル塩である。有機基R
1は、少なくとも炭素を有する基であり、高級アルキル基、高級不飽和炭化水素基、オキシアルキレン基が介在した炭化水素基、フッ素置換された高級アルキル基であり、それぞれ、上述のカルボン型界面活性剤におけるR
1と同様である。陽イオンXとしては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属イオン、トリエタノールアミンイオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。
【0065】
リン酸エステル又はリン酸エステル塩の具体例としては、ラウリルリン酸、ラウリルリン酸塩等が挙げられる。
【0066】
《脱糖鎖促進剤の組成》
脱糖鎖促進剤は、水又は緩衝液中に酸由来型陰イオン性界面活性剤が溶解又は分散された状態で用意されてもよい。緩衝液を用いる場合、緩衝剤としては、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、塩化アンモニウム、クエン酸水素二アンモニウム、カルバミン酸アンモニウム等のアンモニウム塩;トリスヒドロキシメチルアンモニウム等のトリス緩衝剤;リン酸塩等が挙げられる。緩衝液は、pHが5〜10であるものが好ましい。緩衝液のpHがこの範囲内であると、糖鎖遊離酵素の活性を保ちやすい。脱糖鎖促進剤において、水又は緩衝液中に含まれる酸由来型陰イオン性界面活性剤以外の成分としては、界面活性剤以外の金属塩等の塩類が挙げられる。
【0067】
(遊離工程の操作及び反応条件)
遊離工程では、糖鎖遊離酵素の至適条件(温度及びpH)が満たされた、糖タンパク質と糖鎖遊離酵素とを含む遊離反応液が調製されればよい。
【0068】
脱糖鎖促進剤を用いる場合は、糖鎖遊離酵素の至適条件(温度及びpH)が満たされた、糖タンパク質と酸由来型陰イオン性界面活性剤と糖鎖遊離酵素とを含む遊離反応液が調製されればよい。したがって、脱糖鎖促進剤を用いる場合には、固定された糖タンパク質を含む試料(以下、単に糖タンパク質を含む試料という場合がある。)、脱糖鎖促進剤、及び糖鎖遊離酵素はどのような操作手順で混合されてもよい。
【0069】
例えば、糖タンパク質を含む試料と、脱糖鎖促進剤と、糖鎖遊離酵素とを同じタイミングで互いに混合して遊離反応液を調製してもよい。また、先に脱糖鎖促進剤を加え、その後に糖鎖遊離酵素を加えることで遊離反応液を調製してもよい。さらに、固相に固定された糖タンパク質が後述する前処理を経て得られたものである場合で、かつ、脱糖鎖促進剤と前処理に用いられる界面活性剤とが同一物質である場合には、前処理の時に、脱糖鎖促進剤に相当する分量の界面活性剤を、前処理剤に相当する分量の界面活性剤に上乗せして先に加えておき、引き続く遊離工程で(すでに脱糖鎖促進剤が存在している状態であるため)糖鎖遊離酵素のみを加えてもよい。
【0070】
具体的には、すべての成分を混合させた遊離反応液を調製し、その後、至適温度に設定して、糖タンパク質から糖鎖を遊離させる反応を行うことができる。この場合、反応時間は例えば5秒〜24時間であってもよい。
【0071】
脱糖鎖促進剤を用いる場合には、糖タンパク質を含む試料と、酸由来型陰イオン性界面活性剤とを先に混合して糖タンパク質のタンパク質部分を変性させた後に、糖鎖遊離酵素と混合してもよい。この場合、変性時間は例えば5秒〜24時間であってもよく、糖鎖遊離時間は例えば5秒〜24時間であってもよい。
【0072】
遊離反応液において、糖タンパク質の濃度は、例えば0.1μg/mL〜100mg/mLであってもよく、例えば1μg/mL〜10mg/mLであってもよい。遊離反応液中の糖タンパク質の濃度が上記下限値以上であることは、検出性の点で好ましく、上記上限値以下であることは、定量性の点で好ましい。
【0073】
脱糖鎖促進剤を用いる場合、遊離反応液において、酸由来型陰イオン性界面活性剤の濃度は、例えば0.01〜30質量%であってもよく、例えば0.2〜1.0質量%であってもよく、例えば0.2〜0.3質量%であってもよく、例えば0.22〜0.27質量%であってもよい。あるいは、酸由来型陰イオン性界面活性剤は、糖タンパク質1μgに対して0.001μg〜100mg以下となるように用いてもよい。
【0074】
酸由来型陰イオン性界面活性剤の使用量を上記の範囲に設定することによって、糖鎖遊離酵素の活性維持の点及び遊離糖鎖の回収量の点で良好となり、かつ、回収量の安定性の点でも良好となる。また、例えば遊離糖鎖の精製を固相担体によって行う場合に、乾燥時間の冗長を防止する点でも好ましい。
【0075】
遊離反応液において、糖鎖遊離酵素の濃度は、例えば0.001μU/mL〜1000mU/mLであってもよく、例えば0.01μU/mL〜100mU/mLであってもよい。あるいは、糖鎖遊離酵素を糖タンパク質1μgに対して0.001μU〜1000mUとなるように用いてもよい。糖鎖遊離酵素の使用量を上記の範囲に設定することによって、効率的な糖鎖遊離が可能となる。
【0076】
反応pHは、糖鎖遊離酵素の至適pHに合わせればよいが、例えば5〜10であってもよい。反応温度も、糖鎖遊離酵素の至適温度に合わせればよいが、例えば4〜90℃であってもよい。
【0077】
反応時間は、糖タンパク質のスケール等にもよるが、例えば5秒〜24時間であってもよい。好ましくは、遊離工程の反応系を開放系にして溶媒が蒸発するように加熱する。加熱温度としては、例えば40℃以上、例えば45℃以上であってもよい。これによって、遊離工程の進行中に溶媒が蒸発して反応液の濃度が徐々に上昇するため、本実施形態の方法に供された糖タンパク質のスケールにかかわらず、糖鎖遊離が効率的に進む濃度に供することが容易である。さらに、遊離反応とともに溶媒除去が併せて行われるため、遊離工程と別に溶媒除去工程を行うための時間が短縮され又は不要となり、更に迅速な糖鎖調製が可能となる。加熱温度の範囲内の上限としては、糖鎖遊離酵素の変性を防ぐ観点から、例えば80℃であってもよい。
【0078】
(遊離生成物)
遊離工程によって得られる遊離生成物は、遊離した糖鎖と、固相に結合したタンパク質とを含む。固相に結合したタンパク質は、糖タンパク質を構成していたタンパク質部分におけるアミノ酸残基間のペプチド結合が切断されていない。遊離生成物は、溶媒を含む状態で得てもよいし、特に遊離工程において開放系かつ加熱条件に供する場合には、溶媒が完全に蒸発した蒸発乾固物の状態で得てもよい。
【0079】
本実施形態の方法では、糖鎖が遊離する一方、タンパク質部分は固相に固定されたままであるため、当該固相を分離するだけでタンパク質部分が除去される。一方で固相を分離して得られる分離液は、遊離した糖鎖とともに前処理工程で用いられた界面活性剤及び遊離工程で用いられた脱糖促進剤が共に溶存した混合液となっている。糖鎖の分析手法によっては、糖鎖が上述の界面活性剤等と共存している混合液の状態で分析に供してもよい場合もあるが、例えば質量分析等で分析する場合には、分析前に混合液から糖鎖を精製することが好ましい。
【0080】
糖鎖を精製する場合、例えば、ヒドラジド基を有するポリマーを精製用固相担体として用い、当該精製用固相担体に混合液を接触させることができる。混合液中では、遊離糖鎖は環状のヘミアセタール型と非環状のアルデヒド型との平衡状態を生じており、このアルデヒド基−CHOとヒドラジド基−NH−NH
2とが特異的に反応し、安定的な結合−C=N−NH−を形成する。これによって、精製用固相担体に遊離糖鎖を捕捉することができる。
【0081】
精製用固相担体に捕捉された糖鎖は、再遊離させられてもよい。再遊離の手法としては、酸と有機溶媒との混合溶媒又は酸と水と有機溶媒の混合溶媒を固相担体に接触させて反応させることが挙げられる。当該混合溶媒のpHは例えば2〜9であってもよく、2〜7であってもよく、2〜6であってもよい。弱酸性から中性付近で反応させる場合には、シアル酸残基の脱離等、糖鎖の加水分解を抑制することができる点で好ましい。しかしながら、さらにpHが低い強酸条件も許容される。
【0082】
後述するように、遊離させた糖鎖は、低分子化合物(標識化合物)で修飾することができる。低分子化合物は、分析手法に応じて適宜選択することができる。なお、低分子化合物とは、固相担体を構成する高分子化合物と区別されるものであり、好ましくは水又は緩衝液、有機溶媒に溶解可能な化合物であることが好ましい。
【0083】
[前処理工程]
本実施形態の方法において、遊離工程の前に前処理工程を更に備えていてもよい。これにより、タンパク質部分の分解処理を行うことなく、糖タンパク質からの糖鎖の遊離が容易になる。その結果、糖鎖遊離処理に要する時間を大幅に短縮することができる。
【0084】
前処理工程では、固相に固定された糖タンパク質を含む試料に界面活性剤を含む前処理剤を接触させる。前処理工程は、糖タンパク質を含む試料を固相に接触させ糖タンパク質の捕捉が完了した後、又は、固相合成が完了した後若しくは更に洗浄処理が行われた後であって、糖鎖遊離酵素に接触させられる前に行われてもよい。前処理工程を実施することにより、遊離工程において糖タンパク質に糖鎖遊離酵素が作用しやすくなる。
【0085】
前処理剤に含まれる界面活性剤は、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、及び非イオン界面活性剤のいずれであってもよい。
【0086】
陰イオン界面活性剤としては特に限定されず、石鹸等の脂肪酸の塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、α−スルホ脂肪酸エステル、α−オレフィンスルホン酸塩、モノアルキルリン酸エステル塩、アルキルスルホン酸塩等が挙げられるが、後の糖鎖遊離工程で用いられる脱糖鎖促進剤として用いることができる陰イオン性界面活性剤(本明細書では、脱糖鎖促進剤としても用いることができる陰イオン性界面活性剤を、特に酸由来型陰イオン性界面活性剤という。)であることが好ましい。酸由来型陰イオン性界面活性剤を前処理工程で用いる場合、糖鎖遊離工程で用いられる脱糖鎖促進剤として挙げた界面活性剤と同じ界面活性剤であってもよいし、異なる界面活性剤であってもよい。
【0087】
陽イオン界面活性剤としては特に限定されず、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アミン塩系等が挙げられる。両性界面活性剤としては特に限定されず、アルキルアミノ脂肪酸塩、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシド等が挙げられる。非イオン界面活性剤としては特に限定されず、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アルキルグルコシド、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー等が挙げられる。
【0088】
前処理剤は、界面活性剤が、水又は緩衝液中に溶解した状態で用いられてもよい。緩衝液を用いる場合、緩衝剤としては、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、塩化アンモニウム、クエン酸水素二アンモニウム、カルバミン酸アンモニウム等のアンモニウム塩;トリスヒドロキシメチルアンモニウム等のトリス緩衝剤;リン酸塩等が挙げられる。緩衝液は、pHが5〜10であるものが好ましい。緩衝液のpHがこの範囲内であると、後の工程で用いる糖鎖遊離酵素の活性を保ちやすい。糖タンパク質を含む試料において、水又は緩衝液中に含まれる糖タンパク質以外の成分としては、金属塩等の塩類、グリセロール等のタンパク質の安定化剤等が挙げられる。
【0089】
前処理剤中の界面活性剤の濃度は、例えば0.01〜30質量%であってもよく、例えば0.2〜1.0質量%であってもよく、例えば0.2〜0.3質量%であってもよく、例えば0.22〜0.27質量%であってもよい。当該濃度が上記下限値以上であること、及び上記上限値以下であることによって、後の糖鎖遊離工程において遊離させた糖鎖を、良好な回収率で得ることができる。
【0090】
前処理剤は、固相に接触させた後は、固相に固定された糖タンパク質から分離される。分離は、所定の使用量の全てを容器内に入れた後に一度に行ってもよいし、所定の使用量の一部を何回かに分けて入れ、その都度行ってもよい。前処理剤の分離は、減圧又は遠心分離等によって行うことができる。
【0091】
前処理工程を終えた固相に固定された糖タンパク質は、迅速調製の観点で、洗浄されることなく後述の遊離工程に供することができる。しかしながら、前処理工程の後、遊離工程の前に洗浄操作を行ってもよい。
【0092】
[標識工程]
標識工程は、遊離工程を行った容器と同じ容器を用いて行われる。したがって、標識工程では、遊離工程を行った容器中の遊離生成物に標識化合物を含む標識試薬(標識反応液)を加え、糖鎖の標識体を含む標識生成物を得る。
【0093】
(標識化合物)
標識化合物は、糖鎖に対する反応性基と、糖鎖に付すべき修飾基とを有するものであれば特に限定されない。糖鎖に対する反応性基としては、オキシルアミノ基、ヒドラジド基、アミノ基等が挙げられる。修飾基は、糖鎖の分析手法に応じて当業者が適宜選択することができる。
【0094】
例えば、標識化合物が、糖鎖への反応性基としてオキシルアミノ基又はヒドラジド基を有する場合、糖鎖に付すべき修飾基としては、例えば、アルギニン残基、トリプトファン残基、フェニルアラニン残基、チロシン残基、システイン残基、リジン残基からなる群より選ばれるアミノ酸残基を選択することができる。
【0095】
標識化合物がアルギニン残基を含む場合、修飾された糖鎖のMALDI−TOF−MS測定時にイオン化が促進され、検出感度が向上する点で好ましい。標識化合物がトリプトファン残基を含む場合、当該残基は蛍光性かつ疎水性であることから、修飾された糖鎖の逆相HPLC検出時に、分離性が向上及び蛍光検出感度が向上する点で好ましい。標識化合物がフェニルアラニン残基及び/又はチロシン残基を含む場合、修飾された糖鎖のUV吸収による検出に適する点で好ましい。標識化合物がシステイン残基を含む場合、当該残基の−SH基を標的としてICAT試薬(米国ABI社)等のラベル化試薬によるラベル化ができる。標識化合物がリジン残基を含む場合、当該残基のアミノ基を標的としてiTRAQ試薬(米国Applied Biosystems社)、ExacTag試薬(米国Perkin社)等のラベル化試薬によるラベル化ができる。標識化合物がトリプトファン残基を含む場合、当該残基のインドール基を標的としてNBS試薬(日本国、島津製作所)によるラベル化ができる。
【0096】
また、例えば、標識化合物が糖鎖への反応性基としてアミノ基を有する場合、糖鎖に付すべき修飾基としては、芳香族基が挙げられる。アミノ基及び芳香族基を有する標識化合物の使用では、還元アミノ化による修飾が行われる。芳香族基は、紫外可視吸収特性又は蛍光特性を有するため、UV検出又は蛍光検出での検出感度が向上する点で好ましい。
【0097】
このような芳香族基を与える標識化合物としては、具体的には、8−aminopyrene−1,3,6−trisulfonate,8−aminonaphthalene−1,3,6−trisulphonate,7−amino−1,3−naphtalenedisulfonic acid,2−amino9(10H)−acridone,5−aminofluorescein,dansylethylenediamine,2−aminopyridine,7−amino−4−methylcoumarine,2−aminobenzamide,2−aminobenzoic acid,3−aminobenzoic acid,7−amino−1−naphthol,3−(acetylamino)−6−aminoacridine,2−amino−6−cyanoethylpyridine,ethyl p−aminobenzoate,p−aminobenzonitrile及び7−aminonaphthalene−1,3−disulfonic acidが挙げられる。
【0098】
中でも、2−aminobenzamideは、反応スケールが大きい場合であっても夾雑物(例えば、塩、タンパク質その他の生体分子)の影響を比較的受けにくい点で好ましい場合がある。一方、本実施形態の方法は、反応スケールが小さい場合に特に有用である。反応スケールが小さいほど夾雑物の影響を受けにくくなるため、より多種多様の標識試薬(標識反応液)へ適用することができる。なお、標識化合物としての機能が維持される限りにおいて、上述の化合物の誘導体もまた好ましく用いられる。
【0099】
標識化合物は、水、緩衝液及び/又は有機溶媒に溶解させて使用される。緩衝液としては、前述の遊離工程で用いられるものと同様の緩衝剤の水溶液が挙げられる。有機溶媒としては、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)及び酢酸等の極性有機溶媒、並びにヘキサン等の非極性溶媒が挙げられる。
【0100】
還元アミノ化による修飾においては、糖鎖の還元末端に形成されるアルデヒド基と標識化合物のアミノ基とを反応させ、形成されたシッフ塩基を還元剤により還元することで糖鎖の還元末端に修飾基が導入されることで、効率的な標識が可能となる。
【0101】
還元剤としては、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、水素化トリアセトキシホウ素ナトリウム、メチルアミンボラン、ジメチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、ピコリンボラン、ピリジンボラン等が挙げられる。
【0102】
中でも、安全性及び反応性の両方の観点から、ピコリンボラン(2−ピコリン−ボラン)を用いることが好ましい。同様の観点から、ピコリンボランを還元剤として用いる場合、標識化合物としては例えば2−アミノベンズアミドを用いることが好ましい。
【0103】
(標識工程の操作及び反応条件)
標識工程では、遊離生成物に対して標識試薬(標識反応液)を加える。還元アミノ化による修飾を行う場合、標識試薬は、アミノ基及び芳香族基を有する標識化合物、還元剤、及び溶媒を含んでいてもよい。標識工程においては、遊離工程が行われた容器を引き続いて用いるが、標識試薬を加える際に、遊離生成物に対して洗浄等、その相対的組成(溶媒以外の成分比)を変化させる処置は行われない。なお、遊離生成物に対して、水、緩衝液及び/又は有機溶媒を加えて溶解又は希釈することは許容される。
【0104】
標識化反応系は、水、緩衝液及び/又は有機溶媒を溶媒とし、当該溶媒中に糖鎖及び標識化合物を含む標識反応液が、固相に固定されたタンパク質、その他遊離工程の残存物と混在した状態で構築される。
【0105】
緩衝液としては、前述の遊離工程で用いられるものと同様の緩衝剤の水溶液が挙げられる。有機溶媒としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン(NMP)等の非プロトン性極性有機溶媒、有機酸(ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等)及びアルコール(メタノール、エタノール、プロパノール等)等のプロトン性極性有機溶媒、並びにヘキサン等の非プロトン性非極性溶媒が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0106】
標識化反応液において、標識試薬(標識反応液)は、例えば担体の使用体積の0.1〜10倍体積で用いてもよく、例えば0.5〜5倍体積で用いてもよい。また、標識試薬中の標識化合物の濃度は、例えば1〜20Mであってもよく、例えば2〜15Mであってもよい。標識化合物の量が上記下限値以上であることは標識が定量的に行われる点で好ましく、上記上限値以下であることは過剰試薬の除去が容易になる点で好ましい。
【0107】
標識反応液中の還元剤の濃度は、例えば0.5〜10Mであってもよく、例えば1〜7.5Mであってもよい。還元剤の量が上記下限値以上であることは標識が定量的に行われやすい点で好ましく、上記上限値以下であることは過剰試薬の除去が容易になる点で好ましい。
【0108】
溶媒の量は、担体の使用体積の0.5〜10倍体積で用いてもよく、例えば1〜5倍体積で用いてもよい。溶媒の量が上記下限値以上であることは溶解性の点で好ましく、上記上限値以下であることは標識が定量的に行われる点で好ましい。
【0109】
標識反応液の反応温度は例えば4〜80℃であってもよく、例えば25〜70℃であってもよい。反応温度が上記下限値以上であることは反応時間が短くなる点で好ましく、上記上限値以下であることは高温による糖鎖の部分分解が抑制される点で好ましい。標識反応液の反応時間は、例えば5〜600分であってもよく、例えば30〜300分であってもよい。反応時間が上記下限値以上であることは定量的な標識の点で好ましく、上記上限値以下であることは糖鎖の部分分解が抑制される点で好ましい。
【0110】
標識化反応は常温で速やかに進むため、標識試薬(標識反応液)を加えたときから標識化合物が作用して糖鎖標識体が生成する。したがって、標識試薬を加えた後、当該反応の完了の如何によらず任意のタイミングで後述の分離工程を行うことができる。あるいは、遊離工程後に後述する分離工程を行って分離液を得、その後、分離液に標識試薬を加えてもよい。
【0111】
以下、還元剤としてピコリンボランを用いた場合について説明する。還元剤としてピコリンボランを用いた場合は、溶媒としてプロトン性溶媒を含むことが好ましい。これによって、標識化合物(好ましくは2−アミノベンズアミド。ピコリンボランを用いる場合において以下同様。)及びピコリンボランを高濃度で溶解することができるため、標識工程に要する時間が短縮される。
【0112】
すなわち、標識試薬(標識反応液)は、2−アミノベンズアミド、ピコリンボラン及び溶媒を含んでいてもよい。毒性の低いピコリンボランを用いることにより、安全性の高い標識が可能となる。
【0113】
標識工程に要する時間の短縮効果をより好ましく得る観点から、プロトン性溶媒は、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の有機酸であることが好ましい。また、有機酸は標識反応系中で液体であることが好ましい。中でも、操作容易性の観点から、有機酸は酢酸であることが好ましい。
【0114】
溶媒中のプロトン性溶媒の濃度は、例えば40〜100体積%であってもよい。これによって、良好な標識効率が得られる。より良好な標識効率を得る観点から、溶媒中のプロトン性溶媒の濃度は、50〜100%以下であってもよく、75〜100体積%であってもよい。
【0115】
上述したプロトン性溶媒の沸点が比較的低い場合(例えば沸点が140℃未満である場合)、プロトン性溶媒に加えて、当該プロトン性溶媒よりも沸点が高い溶媒を併用してもよい。これによって、標識工程における上記の比較的沸点が低いプロトン性溶媒の揮発速度を遅延させることができる。その結果、標識工程中に未反応物の不所望の析出を抑制することができる。このことによって、収量よく標識糖鎖を得ることができる。このような沸点が高い溶媒(以下、高沸点溶媒と記載する。)を併用する態様は、糖鎖のスケールが小さい場合、溶媒の量が少ない場合、及び/又は、反応時間が長くなる場合に選択することができる。
【0116】
上述の高沸点溶媒としては、例えば沸点140〜200℃の非プロトン性溶媒であってもよい。具体的な高沸点溶媒としては、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等が挙げられる。
【0117】
高沸点溶媒を併用する場合、その量は、前記標識化合物である2−アミノベンズアミド及び前記還元剤の溶解性・反応性を向上させるという観点から、プロトン性溶媒よりも体積%が低いことが好ましく、プロトン性溶媒の4体積%以上100体積%未満であってもよく、4〜70体積%であってもよい。高沸点溶媒の量が上記下限値以上であることは、プロトン性溶媒の揮発速度を遅延させやすい点で好ましく、上記上限値以下であることは、プロトン性溶媒の効果(前記標識化合物である2−アミノベンズアミド及び前記還元剤の溶解性・反応性を向上させる効果)を得やすい点で好ましい。
【0118】
還元剤としてピコリンボランを用いる場合には、溶媒として酢酸とジメチルスルホキシドとの混合溶媒を用いることが最も好ましい。
【0119】
還元剤としてピコリンボランを用いる場合には、標識試薬(標識反応液)中の標識化合物の濃度は1〜20Mであってもよく、2〜15Mであってもよい。標識化合物の濃度が上記下限値以上であることは標識工程の時間短縮の点で好ましく、上記上限値以下であることは過剰試薬の除去が容易になる点で好ましい。
【0120】
標識反応液中のピコリンボランの量は、例えば0.5〜10Mであってもよく、例えば1〜7.5Mであってもよい。ピコリンボランの量が上記下限値以上であることは標識工程の時間短縮の点で好ましく、上記上限値以下であることは過剰試薬の除去が容易になる点で好ましい。
【0121】
還元剤としてピコリンボランを用いた場合は、溶媒の量は、担体の使用体積の0.1〜10倍体積であってもよく、0.5〜5倍体積であってもよい。溶媒の量が上記下限値以上であることは溶解性の点で好ましく、上記上限値以下であることは標識工程の時間短縮の点で好ましい。
【0122】
標識反応液の反応温度は例えば4〜80℃であってもよく、例えば25〜70℃であってもよい。反応温度が上記下限値以上であることは反応時間が短くなる点で好ましく、上記上限値以下であることは高温による糖鎖の部分分解が抑制される点で好ましい。標識反応液の反応時間は、例えば2〜120分であってもよく、例えば5〜40分であってもよい。反応時間が上記下限値以上であることは定量的な標識の点で好ましく、上記上限値以下であることは糖鎖の部分分解が抑制される点で好ましい。
【0123】
(標識生成物)
標識工程後の容器内には、糖鎖の標識体及び固相に結合したタンパク質が存在する。したがって、標識工程によって得られる標識生成物は、糖鎖の標識体及び固相に結合したタンパク質を含むということもできる。固相に結合したタンパク質は、糖タンパク質を構成していたタンパク質部分におけるアミノ酸残基間のペプチド結合が依然として切断されていない。標識生成物は、水、緩衝液及び/又は有機溶媒中に含まれていてよい。
【0124】
[分離工程]
(糖鎖標識体の溶出)
標識工程の後、標識生成物から固液分離によって糖鎖の標識体を含む分離液を得る分離工程を行ってもよい。これにより、糖鎖の標識体を容易に分離することができる。例えば、標識生成物に溶離液を通液することで、糖鎖の標識体を溶出することができる。この場合に用いる溶離液は、水、水溶液、コロイド溶液等の水系溶液であってよい。溶離液として、固相とタンパク質部分との結合に対する切断能を有する性質を具備するものを選択してもよい(標識糖鎖の分析を例えばクロマトグラフィーによって行う場合等)し、そのような性質を具備しないものを選択してもよい(標識糖鎖の分析を例えば質量分析によって行う場合等)。これによって、糖鎖の標識体を含む分離液が得られる。
【0125】
分離液中には、糖鎖の標識体とともに、標識工程で用いた余剰の標識化合物、及び遊離工程で脱糖鎖促進剤を用いた場合には酸由来型陰イオン性界面活性剤等の不要物が存在している。溶離液として、固相とタンパク質部分との結合に対する切断能を有するものを選択した場合は、分離液中にタンパク質も混入する。溶離液として、固相とタンパク質部分との結合に対する切断能を有さないものを選択した場合は、分離液中にタンパク質は実質的に含まれない。
【0126】
(精製)
糖鎖の分析手法によっては、分離液から不要物を除去することで標識糖鎖を精製してもよい。不要物の除去は、分離液を精製用固相に通液して糖鎖の標識体を捕捉し、捕捉された糖鎖の標識体を再溶出することで行われてよい。
【0127】
精製用固相の一例として、標識糖鎖を非共有結合によって捕捉する固相が挙げられる。具体的には、シリカゲルカラム、アミノカラム、その他の順相固相を用いることができる。
【0128】
精製用固相の他の例として、標識糖鎖を共有結合によって捕捉する固相が挙げられる。これによって、タンパク質が混在している場合等において標識糖鎖の精製度を向上させることができる。具体的には、ヒドラジド基を有するポリマーを精製用固相担体として用いることができる。分離液中では、遊離糖鎖は環状のヘミアセタール型と非環状のアルデヒド型との平衡状態を生じているため、このアルデヒド基−CHOとヒドラジド基−NH−NH
2とが特異的に反応し、安定的な結合−C=N−NH−を形成する。これによって、精製用固相担体に遊離糖鎖を捕捉することができる。再遊離では、酸と有機溶媒との混合溶媒又は酸と水と有機溶媒の混合溶媒を固相担体に接触させて反応させることができる。当該混合溶媒のpHは、例えば2〜9であってもよく、2〜7であってもよく、2〜6であってもよい。弱酸性から中性付近で反応させると、シアル酸残基の脱離等糖鎖の加水分解を抑制することができる点で好ましい。しかしながら、更にpHが低い強酸条件も許容される。
【0129】
[分析工程]
本実施形態の方法によって調製された糖鎖の標識体は、質量分析法(例えば、MALDI−TOF MS)、クロマトグラフィー(例えば、高速液体クロマトグラフィーやHPAE−PADクロマトグラフィー)、電気泳動(例えば、キャピラリ電気泳動)等の公知の方法により、定性的及び/又は定量的に分析することができる。糖鎖の分析においては、各種データベース(例えば、GlycoMod、Glycosuite、SimGlycan(登録商標)等)を利用することができる。
【0130】
このような糖タンパク質の糖鎖分析によって、例えば、抗体医薬品の研究開発、製造及び品質保証等の際に行われる抗体医薬品の糖鎖修飾分析;糖鎖バイオマーカーの検索研究等の際に行われる血清等の検体中の糖タンパク質の分析;幹細胞の糖鎖分析;電気泳動ゲルバンド中の糖鎖分析;植物組織の糖鎖分析等を迅速に行うことが可能となる。
【0131】
[キット]
1実施形態において、本発明は、糖タンパク質を固定するための固相、前記固相を保持し糖鎖の遊離及び標識を行うための容器、並びに糖鎖遊離酵素を備える、糖タンパク質の糖鎖を調製するキットを提供する。
【0132】
本実施形態のキットは、上述した糖タンパク質の糖鎖を調製する方法を実施するためのものである。本実施形態のキットは、キット使用のためのプロトコル情報を含んでいてもよい。キット使用のためのプロトコル情報は、上述の本発明の糖タンパク質の糖鎖を調製する方法が示された印刷物であってもよいし、当該方法が示されたウェブ上の情報へのアクセスを可能とするアクセス情報であってもよい。
【0133】
また、本実施形態のキットは、界面活性剤を含む前処理剤、酸由来型陰イオン性界面活性剤を含む脱糖鎖促進剤、標識試薬、クリーンアップ用固相、クリーンアップ用固相を充填するための容器のいずれか1つ又は全部を更に備えていてもよい。
【0134】
ここで、前処理剤に含まれる界面活性剤と脱糖鎖促進剤に含まれる酸由来型陰イオン界面活性剤とは同一の化合物であってもよい。この場合には、前処理剤と脱糖鎖促進剤とが区別されずに1つの容器に収容されていてもよい。
【0135】
糖タンパク質を固定するための固相固相を保持し糖鎖の遊離及び標識を行うための容器、又はクリーンアップ用固相を充填するための容器は、カラム、マルチウェルプレート、フィルタープレート、マイクロチューブ等であってよいが、好ましくはスピンカラムである。スピンカラムは、遠心分離により固液分離された分離液を回収するコレクションチューブを更に備えていてもよい。容器は、固相を充填した状態でキットに含まれていてもよいし、固相と別個のアイテムとして含まれていてもよい。
【0136】
糖タンパク質を固定するための固相は、糖タンパク質と結合可能な特異的結合性の非共有結合性基(水素結合性基及びイオン結合性基)及び共有結合性基等の結合性官能基を表面に有する固相である。固相としては、例えば、陽イオン交換担体、疎水性相互作用担体、無機担体等が挙げられ、例えば電気泳動ゲル又は転写用メンブレン等、単に糖タンパク質を保持するに過ぎない固相は含まない。
【0137】
固相は、無機担体であってもよい。担体が無機担体であると、例えば、糖鎖遊離酵素により担体の一部が遊離することがない。このため、遊離された糖鎖の分析において、不要なシグナルの出現を抑制しやすい。
【0138】
糖タンパク質が抗体である場合、固相は、プロテインA、プロテインG、プロテインL、プロテインH、プロテインD、プロテインArpからなる群より選ばれるリガンドを表面に有していてもよい。これにより、糖鎖解析の重要性が特に高い抗体について、スループット性の高い糖鎖試料調製及び解析が可能となる。
【0139】
また、標識試薬は、2−アミノベンズアミド、還元剤及び溶媒を含んでいてもよい。また、2−アミノベンズアミド、還元剤及び溶媒は別々の容器に収容されており、使用時に混合されてもよい。
【0140】
本実施形態のキットによって、タンパク質部分の分解処理を行うことなく、糖タンパク質からの糖鎖の遊離が可能となる。したがって、糖鎖遊離処理にかかる時間を大幅に短縮することができる。また、糖鎖遊離処理において糖鎖遊離酵素を作用しやすくすることができる。
【0141】
また、キットが標識試薬を含む場合には、遊離生成物を分離することなく標識試薬を重ねて加えることで、糖タンパク質から糖鎖を分析用試料(標識された態様)で極めて迅速に調製することができる。
【0142】
[装置]
1実施形態において本発明は、固相に固定された糖タンパク質を含む試料が収容される容器を保持する容器保持部と、前記容器に試薬を導入する試薬導入部と、を備え、前記試薬導入部が、前記容器に糖鎖遊離酵素を導入する糖鎖遊離酵素導入部と、前記容器に標識試薬を導入する標識試薬導入部とを含む、糖タンパク質の糖鎖を調製する装置を提供する。なお、以下で説明する装置の構成はあくまで一例であり、本発明の権利範囲はこの構成に拘束されるものではない。
【0143】
図24は、本実施形態の装置を説明する模式図である。装置100は、固相10に固定された糖タンパク質を含む試料が収容される容器15を保持する容器保持部20と、前記容器15に試薬を導入する試薬導入部30と、を備え、前記試薬導入部30が、前記容器15に糖鎖遊離酵素31を導入する糖鎖遊離酵素導入部35と、前記容器に標識試薬32を導入する標識試薬導入部35とを含む。本例においては、糖鎖遊離酵素導入部及び標識試薬導入部は同一の部材から構成されている。
【0144】
容器保持部20は、固相10に固定された糖タンパク質を含む試料を収容すべき反応容器15を保持するためのものである。容器保持部20が容器15を保持する態様は特に限定されず、例えば、容器保持部20の保持穴又は保持孔に容器の大部分を嵌入させて保持する態様が挙げられる。このほかにも、容器保持部の係合凸部(係合凹部)に容器の係合凹部(係合凸部)を係合させて保持する態様、容器保持部の挟持部で容器を挟持保持する態様等が挙げられる。
【0145】
試薬導入部30は、容器保持部20に保持された容器15内に液体類を導入するためのものである。液体導入部30は、少なくとも、遊離工程で用いられる糖鎖遊離酵素31を導入する糖鎖遊離酵素導入部35と、標識工程で用いられる標識試薬32を導入する標識試薬導入部35とを含む。
【0146】
図24の例では、試薬導入部30は、糖鎖遊離酵素31、標識試薬32、前処理剤/脱糖鎖促進剤33を収容したタンク34と、タンク34が収容した各試薬を送液する送液管35aと、各試薬の送液を制御する弁(36,37,38)と各試薬を容器15の内部に導入する導入部35とを備えている。
【0147】
糖鎖遊離酵素導入部35及び標識試薬導入部35は、同一の反応容器15内に糖鎖遊離酵素31と標識試薬32とを添加する。試薬導入部30が反応容器15内へ液体を導入する態様は特に限定されず、例えば、送液すべき液体が貯留されている送液源(31,32,33)から管状部材を介して反応容器15内へ送液する態様が挙げられる。このほかにも、管状部材中に採取した液体を反応容器内へ注入する態様等が挙げられる。
【0148】
糖鎖遊離酵素導入部35と標識試薬導入部35とは、別個独立した構成部材として構成されてよい。この場合、糖鎖遊離酵素31と標識試薬32とは、この順番で逐次的に導入されてもよいし、同じタイミングで導入されてもよい。標識試薬導入部35は自動制御されてよく、両試薬が逐次的に導入される場合、標識試薬導入部35の作動のタイミングは、遊離工程に要する反応時間等に基づいて制御されてよい。
【0149】
あるいは、糖鎖遊離酵素導入部35と標識試薬導入部35とは、同一の構成部材として構成されてもよい。この場合、糖鎖遊離酵素31と標識試薬32とは混合された状態で導入されてもよいし、この順番でそれぞれ逐次的に導入されてもよい。両試薬が逐次的に導入される場合、標識試薬が送液されるタイミング、つまり液体導入部を標識試薬導入部として機能させるタイミングは、遊離工程に要する反応時間等に基づいて制御されてよい。
【0150】
装置100は、容器15の収容物を固液分離する固液分離部40を更に備えていてもよい。装置100が固液分離部40を含む場合、固液分離部40は、容器15中に含まれる収容物から固体と液体とを分離する。固体は容器15中に残されるものであり、実質的には、固相10及びそれに固定されている物質である。この場合、容器15としては、固液分離可能なフィルタを具えるもの(例えばスピンカラム、フィルタ付きマイクロプレート等)が用いられる。さらに、容器15には、回収容器16(例えばコレクションチューブ、コレクションプレート等)が装着されて用いられてよい。さらにこの場合、容器保持部20は、容器15に装着された回収容器16を保持する回収容器保持部を含んで構成されてよい。
図24の例では、回収容器保持部と容器保持部20は同一の部材から構成されている。
【0151】
固液分離部40の具体的な分離形式としては特に限定されず、遠心ろ過、減圧ろ過、加圧ろ過のいずれであってもよい。
図24の例では、固液分離部40の分離形式は遠心ろ過である。固液分離部40は、容器15(又は16)を保持するラック41と、ドライブシャフト42と、モーター43とを備えている。
【0152】
図24の例のように、固液分離部40は、遊離工程及び標識工程が行われる容器保持部20から独立した構成部材として構成されていてもよい。この場合、装置100は、容器保持部20から固液分離部40へ、容器15(及び16)を自動移送させる容器移送部50を含んでいてもよい。容器移送部50は、容器15(及び16)の移送において、容器15のみが移送されるように構成されてもよいし、容器15が回収容器16を装着した状態で移送されるように構成されてもよい。容器移送部50は、容器15を直接的又は間接的に(つまり回収容器16を介して)把持及び開放し、かつ移動するように作動するアームと、当該アームの作動を制御するアーム制御部とを含んで構成されていてもよい。
【0153】
固液分離部40を作動させることで、液体が回収容器16に回収される。したがって、例えば糖鎖遊離酵素31と標識試薬32とを導入することによって得られた反応容器中の反応物(つまり反応後の反応容器の収容物)から、減圧ろ過、加圧ろ過、遠心分離等によって、糖鎖の標識体を含む分離液を回収容器16中に回収することができる。また、例えば固相10に固定された糖タンパク質を含む試料を調製する工程において、糖タンパク質を含む試料を固相に接触させて捕捉することによって得られる調製物から、固相10に固定された糖タンパク質を容器15内に残すとともに液体成分を回収容器16内に廃棄することができる。
【0154】
また、装置100が固液分離部40を有する場合、上述の液体導入部35が、さらに洗浄液を容器15内に導入可能となるように構成されてもよい。これによって、容器15に洗浄液を通液することができる。
【0155】
装置100は、容器15の収容物の温度を調節する温度調節部60を更に備えていてもよい。装置100が温度調節部60を含む場合、温度調節部60は、少なくともヒータ機能を有していればよい。温度調節部60は、容器15を、遊離工程及び標識工程それぞれに必要な温度に加温する。さらに、装置100は、反応容器内部の空間と連通する開放空間が確保されるように構成されていてもよい。これによって、遊離工程を開放系で行った場合に容器15内の溶媒が蒸発するため、糖タンパク質の量にかかわらず、糖鎖遊離が効率的に進む濃度に供することが容易である。さらに、遊離反応とともに溶媒除去が併せて行われるため、遊離工程と別に溶媒除去工程を行うための時間が不要となり、さらに迅速な糖鎖調製が可能となる。
【0156】
装置100は、標識工程後の固液分離によって回収容器内に回収された糖鎖の標識体を含む分離液を、精製用固相を収容した精製用カラムに自動移送する液体移送部50を含んでいてもよい。精製用カラムは、上述の固液分離部40に設置して用いてもよい。
【0157】
装置100は、作動しうる構成部分(例えば、液体導入部35、アーム50、固液分離部40、温度調節部60、液体移送部50)の少なくともいずれか、好ましくは全てが自動制御されてもよい。これによって、糖タンパク質の糖鎖の調製をより迅速に行うことができる。
【実施例】
【0158】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。しかしながら本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0159】
[比較例1]
(トリプシン消化による糖鎖遊離及び遊離糖鎖精製後の糖鎖標識)
水中に1mg/mLのヒトIgG(シグマ社製)を含む抗体液10μLに、1M重炭酸アンモニウム水溶液1μLと、120mMジチオスレイトール水溶液1μLとを加え、60℃で30分間静置した。続いて、120mMヨードアセトアミド水溶液2μLを加え、室温(25℃)、遮光下で60分間静置した。続いて、3mg/mLのトリプシン液(シグマ社製)4μLを加え、37℃で16時間トリプシン消化を行った。続いて、100℃で5分間処理してトリプシンを失活させた。
【0160】
続いて0.5mU/mLのPNGase F液(Takara社製)2.5μLを加え、50℃で10分間糖鎖遊離反応を行い、糖鎖を遊離させた。反応後の混合液を、糖鎖精製キットBlotGlyco(登録商標)ビーズ(住友ベークライト製)を用いて遊離糖鎖を捕捉し、その後、再遊離(遊離糖鎖の精製)及び2−アミノベンズアミド(以下、「2AB」という場合がある。)による標識を行い、粗2AB標識糖鎖を含む分離液を得た。
【0161】
続いて、得られた粗2AB標識糖鎖を含む分離液にアセトニトリルを加えクリーンアップカラムにアプライし、洗浄して余剰の標識試薬の除去を行った後、純水で溶出し、精製2AB標識糖鎖を含む分離液を得た。トリプシン消化から精製2AB標識糖鎖を得るまでにかかった時間は約30時間であった。
【0162】
続いて、2AB標識糖鎖をHPLCで検出した。得られたHPLCスペクトルを
図1に示す。
図1に示されるように、2AB標識糖鎖のピークとして、図中1〜6の番号で示したピークとともに矢印で示したピークが検出された。矢印で示したピークはシアロ糖鎖に由来する。以下、2AB糖鎖のピークのそれぞれは、
図1における番号1〜6を用いて表記する。また、下記表1に、ピーク番号1から6までのピーク面積の和を100とした場合の各々のピークの面積比率を示す。番号6の面積比率には、
図1で矢印を付したシアロ糖鎖のピークのうち、番号6のピークにわずかに遅れて溶出することで番号6のピークに重なって検出されたピークの面積比率も加算されている。
【0163】
【表1】
【0164】
[実施例1]
(Protein A−Sepharose上での糖鎖遊離及び糖鎖標識)
リン酸緩衝液(PBS)に20μgのヒトIgG(シグマ社製)を溶解させた液を、25μLのProtein A−Sepharose(GEヘルスケア社製)に供し、PBSで洗浄した。
【0165】
続いて、9μLの0.5mU/mL PNGase F溶液(Takara社製)及び1μLの1M重炭酸アンモニウム水溶液を加え、50℃で15分間、糖鎖遊離反応を行い、糖鎖を遊離させた。
【0166】
その後、50μLの2AB溶液(50mgの2−aminobenzamide、60mgのsodium cyanoborohydride、300μLの酢酸、及び700μLのDimethyl sulfoxideを混合した溶液)を加え、60℃で2時間反応させた。
【0167】
続いて、卓上遠心機で遠心し、粗2AB標識糖鎖を含む分離液を得た。得られた粗2AB標識糖鎖を含む分離液にアセトニトリルを加えモノリスシリカスピンカラムにアプライし、洗浄した後、50μLの純水で溶出し、精製2AB標識糖鎖を含む分離液を得た。
【0168】
続いて、得られた精製2AB標識糖鎖を含む分離液1μLについて、下記表2に示す条件でHPLC測定を行った。
【0169】
【表2】
【0170】
表2のA液及びB液は、それぞれ移動相を構成する液体であり、これらA液とB液とを混合して移動相の極性を調整した。また、表2において、「B:a%(T
1分)→B:b%(T
2分)」という記載は、B溶液の濃度を、(T
2−T
1)分間で、a%からb%まで変化させたことを意味する。ただし、T
1,T
2,a,bはそれぞれ実数を表わす。また、表2において%は体積%を表わす。
【0171】
得られたHPLCスペクトルを
図2に示す。
図2に示すように、2AB標識糖鎖が検出されたことが確認された。なお、全工程(抗体のProtein A−Sepharoseへの吸着からHPLC検出まで)にかかった時間は約3時間であった。
【0172】
[実施例2]
(Protein A結合モノリスシリカ上での糖鎖遊離及び糖鎖標識)
固相を、Protein Aを結合させたモノリスシリカ(使用体積は約25μL)に変更した点以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0173】
得られたHPLCスペクトルを
図3に示す。
図3に示すように、2AB標識糖鎖が検出されたことが確認された。また、実施例1で2AB標識糖鎖より保持時間が短い範囲に検出されたノイズが本実施例ではほとんど検出されず、かつ、2AB標識糖鎖の検出範囲においてもノイズが低減した。なお、全工程(抗体のProtein A−モノリスシリカへの吸着からHPLC検出まで)にかかった時間は約3時間であった。
【0174】
[実施例3]
(前処理されたProtein A結合モノリスシリカ上での脱糖鎖促進剤を用いた糖鎖遊離及び糖鎖標識)
固相を、Protein Aを結合させたモノリスシリカ(使用体積は約5μL)に変更した点と、PNGase Fを作用させる前に500μLの0.4質量%N−ラウロイルサルコシンナトリウム(以下、「NLS」という場合がある。)水溶液を通液させた点と、糖鎖遊離時に用いた9μLのPNGase F溶液及び1μLの1M重炭酸アンモニウム水溶液を、2μLのPNGase F溶液及びNLSを含む2μLの0.2M重炭酸アンモニウム水溶液(PNGase F溶液と混合された後のNLSの終濃度は0.2質量%)に変更した点と、を除いて、実施例1と同様の操作を行った。
【0175】
得られたHPLCスペクトルを
図4に示す。
図4に示すように、2AB標識糖鎖が検出されたことが確認された。さらに、本実施例では、
図1で矢印を付したシアロ糖鎖に相当するシアロ糖鎖も検出された。
【0176】
また、下記表3に、ピーク番号1からピーク番号6までのピーク面積の和を100とした場合の各々のピークの面積比率を示す。番号6の面積比率には、
図1で矢印を付したシアロ糖鎖に相当するシアロ糖鎖のピークのうち、番号6のピークにわずかに遅れて溶出することで番号6のピークに重なって検出されたピークの面積比率も加算されている。
【0177】
【表3】
【0178】
本実施例では、全工程(抗体のProtein A−モノリスシリカへの吸着からHPLC検出まで)にかかった時間はたった3時間であるにも拘らず、後述する参考例1と遜色ない良好な回収率が達成された。なお、
図1で矢印を付したシアロ糖鎖に相当するシアロ糖鎖のピークについては、トリプシン消化を行って糖鎖遊離を行った比較例1と同様の好ましい強度で検出された。
【0179】
[参考例1]
(Protein A結合モノリスシリカ上での脱糖鎖促進剤を用いた糖鎖遊離及び糖鎖精製後の糖鎖標識)
固相を、Protein Aを結合させたモノリスシリカ(使用体積は約5μL)に変更し、糖鎖遊離時に用いた9μLのPNGase F溶液及び1μlの1M重炭酸アンモニウム水溶液を、2μLのPNGase F溶液及びNLSを含む2μLの0.2M重炭酸アンモニウム水溶液(PNGase F溶液と混合された後のNLSの終濃度は0.2質量%)に変更した点以外は、実施例1と同様の操作により、糖鎖の遊離まで行った。
【0180】
次に、卓上遠心機で遠心して粗遊離糖鎖を含む分離液を得、当該分離液を、糖鎖精製キットBlotGlyco(登録商標)ビーズ(住友ベークライト製)と接触させて遊離糖鎖を捕捉し、更に捕捉された糖鎖の再遊離(遊離糖鎖の精製)及び2−アミノベンズアミド(2AB)による標識を行い、粗2AB標識糖鎖を含む分離液を得た。得られた粗2AB標識糖鎖を含む分離液にアセトニトリルを加えモノリスシリカスピンカラムにアプライし、洗浄して余剰の標識試薬の除去を行った後、50μLの純水で溶出し、精製2AB標識糖鎖を含む分離液を得た。
【0181】
得られたHPLCスペクトルを
図5に示す。
図5に示すように、2AB標識糖鎖が検出されたことが確認された。さらに、本参考例では、
図1で矢印を付したシアロ糖鎖に相当するシアロ糖鎖も検出された。
【0182】
また、下記表4に、ピーク番号1からピーク番号6までのピーク面積の和を100とした場合の各々のピークの面積比率を示す。番号6の面積比率の導出においては、番号6のピーク部分から、
図1で矢印を付したシアロ糖鎖に相当するシアロ糖鎖のピークのうち、番号6のピークにわずかに遅れて溶出することで番号6のピークに重なって検出されたピークの面積比率も加算されている。
【0183】
【表4】
【0184】
表4が示すように、良好な回収率が達成された。しかし、本参考例では、全工程(抗体のProtein A−モノリスシリカへの吸着からHPLC検出まで)に7時間もの時間がかかった。
【0185】
[実施例4]
(粗抗体からの前処理Protein A結合モノリスシリカ上での脱糖鎖促進剤を用いた糖鎖遊離及び糖鎖標識)
PBSに20μgのヒトIgG(シグマ社製)を溶解させた液の代わりに、細胞培養液に20μgのヒトIgG(シグマ社製)を溶解させた粗抗体液を用いた点以外は実施例3と同様の操作を行った。
【0186】
得られたHPLCスペクトルを
図6に示す。
図6に示すように、2AB標識糖鎖が検出されたことが確認された。さらに、本実施例では、
図1で矢印を付したシアロ糖鎖に相当するシアロ糖鎖も検出された。
【0187】
本実施例では、精製されていない抗体を用いたにもかかわらず、全工程(抗体のProtein A−モノリスシリカへの吸着からHPLC検出まで)で3時間要しただけで、実施例2、3及び参考例1と同様の良好なスペクトルが検出された。なお、
図1で矢印を付したシアロ糖鎖に相当するシアロ糖鎖のピークについては、トリプシン消化を行って糖鎖遊離を行った比較例1と同様の好ましい強度で検出された。
【0188】
また、下記表5に、ピーク番号1からピーク番号6までのピーク面積の和を100とした場合の各々のピークの面積比率を示す。番号6の面積比率には、
図1で矢印を付したシアロ糖鎖に相当するシアロ糖鎖のピークのうち、番号6のピークにわずかに遅れて溶出することで番号6のピークに重なって検出されたピークの面積比率も加算されている。
【0189】
【表5】
【0190】
[再現性の検証]
実施例4を3回行い、番号1から番号7のピーク面積及び面積比率の変動係数CV(100×(標準偏差/平均値))を導出した。その結果を表6に示す。表6により、実施例の調製方法の再現性が良好であることが示された。つまり実施例の調製方法の信頼性が高いことが示された。
【0191】
【表6】
【0192】
[ピークパターンの検証]
比較例1(全工程30時間)、参考例1(全工程7時間)、実施例3(3時間)の番号1から番号6のピーク面積比を比較したグラフを
図7に示す。
図7において、横軸はピーク番号を表し、縦軸はピーク面積比率を表す。
図7により、比較例1からみて実施例3は驚異的な時間短縮を達成しているにもかかわらず、良好なピークパターンが維持されたことが示された。
【0193】
[実施例5]
2AB溶液を、48mgのsodium cyanoborohydride、80mgの2−aminobenzamide、240μLの酢酸、及び560μLのDimethyl sulfoxideを混合した溶液にした点以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られたHPLCスペクトルを
図8に示す。
【0194】
[実施例6]
2AB溶液を、48mgのsodium cyanoborohydride、80mgの2−aminobenzamide、120μLの酢酸、及び40μLのDimethyl sulfoxideを混合した溶液とし、かつ、2AB標識にかかる反応時間を40分とした点以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られたHPLCスペクトルを
図9に示す。
【0195】
[実施例7]
2AB溶液を、40mgの2−ピコリンボラン、80mgの2−aminobenzamide、120μLの酢酸、及び40μLのDimethyl sulfoxideを混合した溶液(酢酸濃度75体積%)とし、かつ、2AB標識にかかる反応時間を40分とした点以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られたHPLCスペクトルを
図10に示す。
【0196】
[ピーク面積値合計の検証(還元剤及び濃度との関係)]
実施例5(反応時間2時間、低濃度NaBH
3CN)、実施例6(反応時間40分、高濃度NaBH
3CN)及び実施例7(反応時間40分、高濃度ピコリンボラン)のHPLCスペクトルにおける番号1から番号6(
図1参照)のピーク面積値の合計を比較したグラフを
図11に示す。
図11において、縦軸はピーク面積値の合計を示す。さらに、それぞれのグラフには、実施例7のピーク面積値合計を100%とした場合の相対的なピーク面積値合計の比率も示している。
図11により、還元剤NaBH
3CNを高濃度とすることで反応速度の向上がみられた。さらに、還元剤としてNaBH
3CNを用いた場合と比較して、還元剤としてピコリンボランを用いた場合の反応速度の向上効果が極めて高いことが示された。
【0197】
[実施例8]
2AB溶液を、40mgの2−ピコリンボラン、80mgの2−aminobenzamide、64μLの酢酸、及び96μLのDimethyl sulfoxideを混合した溶液(酢酸濃度40体積%)とし、かつ、2AB標識にかかる反応時間を40分とした点以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0198】
[実施例9]
2AB溶液を、40mgの2−ピコリンボラン、80mgの2−aminobenzamide、80μLの酢酸、及び80μLのDimethyl sulfoxideを混合した溶液(酢酸濃度50体積%)とし、かつ、2AB標識にかかる反応時間を40分とした点以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0199】
[実施例10]
2AB溶液を、40mgの2−ピコリンボラン、80mgの2−aminobenzamide、96μLの酢酸、及び64μLのDimethyl sulfoxideを混合した溶液(酢酸濃度60体積%)とし、かつ、2AB標識にかかる反応時間を40分とした点以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0200】
[実施例11]
2AB溶液を、40mgの2−ピコリンボラン、80mgの2−aminobenzamide、112μLの酢酸、及び48μLのDimethyl sulfoxideを混合した溶液(酢酸濃度70体積%)とし、かつ、2AB標識にかかる反応時間を40分とした点以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0201】
[実施例12]
2AB溶液を、40mgの2−ピコリンボラン、80mgの2−aminobenzamide、128μLの酢酸、及び32μLのDimethyl sulfoxideを混合した溶液(酢酸濃度80体積%)とし、かつ、2AB標識にかかる反応時間を40分とした点以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0202】
[実施例13]
2AB溶液を、40mgの2−ピコリンボラン、80mgの2−aminobenzamide、144μLの酢酸、及び16μLのDimethyl sulfoxideを混合した溶液(酢酸濃度90体積%)とし、かつ、2AB標識にかかる反応時間を40分とした点以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0203】
[実施例14]
2AB溶液を、40mgの2−ピコリンボラン、80mgの2−aminobenzamide、152μLの酢酸、及び8μLのDimethyl sulfoxideを混合した溶液(酢酸濃度95体積%)とし、かつ、2AB標識にかかる反応時間を40分とした点以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0204】
[ピーク面積値合計の検証(酢酸濃度との関係)]
実施例8(酢酸濃度40体積%)〜実施例14(酢酸濃度95体積%)で得られたHPLCスペクトルを、実施例7(酢酸濃度75体積%)のHPLCスペクトルとともに
図12及び
図13に示す。さらに、実施例7〜14のHPLCスペクトルにおける番号1から番号6(
図1参照)のピーク面積値の合計を比較したグラフを
図14に示す。
図14において、縦軸はピーク面積値の合計を示し、横軸は酢酸濃度を示す。さらに、それぞれのグラフには、実施例7のピーク面積値合計を100%とした場合の相対的なピーク面積値合計の比率も示している。
【0205】
図14に示すように、酢酸濃度が40体積%の場合でも、ピーク面積値の合計の比率は酢酸濃度75体積%の場合の44.7%もあるため、
図11を参照しても反応速度の向上効果が高いことが示された。酢酸濃度60体積%以上では更に向上した反応速度が安定して得られたことが示された(酢酸濃度75体積%の場合の7割以上のピーク面積値が確保された)。特に、酢酸濃度75体積%以上では極めて向上した反応速度が安定して得られたことが示された(酢酸濃度75体積%の場合の約9割以上のピーク面積値が確保された)。
【0206】
[実施例15]
実施例7と同じ2AB溶液(40mgの2−ピコリンボラン、80mgの2−aminobenzamide、120μLの酢酸、及び40μLのDimethyl sulfoxideを混合した溶液(酢酸濃度75体積%))を用い、2AB標識にかかる反応時間を5分、10分、15分、20分、25分、30分及び40分として場合それぞれについて、HPLCスペクトルを得た。得られたHPLCスペクトルを
図15に示す。
【0207】
[ピーク面積値合計の検証(反応時間との関係)]
実施例15で得られたHPLCスペクトルにおける番号1から番号6(
図1参照)のピーク面積値の合計を比較したグラフを
図16に示す。
図16において、縦軸はピーク面積値の合計を示し、横軸は反応時間を示す。さらに、それぞれのグラフには、反応時間40分の場合のピーク面積値合計を100%とした場合の相対的なピーク面積値合計の比率も示している。
【0208】
図16に示すように、反応時間5分の場合でもピーク面積値の合計の比率は反応時間40分の場合の46.6%もあるため、
図11を参照しても反応速度の向上効果が高いことが示された。反応時間10分以上では更に向上した反応速度が安定して得られたことが示された(反応時間40分の場合の約8割以上のピーク面積値が確保された)。特に、反応速度25分以上では極めて向上した反応速度が安定して得られたことが示された(反応時間40分の場合の9.5割以上のピーク面積値が確保された)。
【0209】
[比較例2]
(トリプシン消化による糖鎖遊離)
水中に1mg/mLのヒトIgG(シグマ社製)を含む抗体液10μLに1M重炭酸アンモニウム水溶液1μLと120mMジチオスレイトール水溶液1μLを加え、60℃で30分間静置した。続いて、120mMヨードアセトアミド水溶液2μLを加え、室温(25℃)、遮光下で60分間静置した。続いて、3mg/mLのトリプシン液(シグマ社製)4μLを加え、37℃で16時間トリプシン消化を行った。続いて100℃で5分間処理してトリプシンを失活させた。
【0210】
続いて0.5mU/mLのPNGase F液(Takara社製)2.5μLを加え、50℃で10分間糖鎖遊離反応を行い、糖鎖を遊離させた。反応後の混合液を、糖鎖精製キットBlotGlyco(登録商標)ビーズ(住友ベークライト製)を用いて遊離糖鎖を捕捉し、その後、再遊離及び2−アミノベンズアミド(2AB)による蛍光標識を行った。トリプシン消化から標識された遊離糖鎖を得るまでにかかった時間は約30時間であった。
【0211】
修飾された遊離糖鎖を、HPLCで検出した。得られたHPLCスペクトルを
図17に示す。
図17には、それぞれのピークの同定結果も示す。
図17に示されるように、種々のシアロ糖鎖及び中性糖鎖のピークが検出された。シアロ糖鎖の中でも、特に矢印で示されるシアロ糖鎖のピークが検出された。
【0212】
[比較例3]
(前処理なし、脱糖鎖促進剤の非存在下での糖鎖遊離)
PBSに20μgのヒトIgG(シグマ社製)を溶解させた液を、Protein Aカラム(モノリスシリカの表面にProtein Aが固定された担体。担体の体積:約5μL。なお、体積には、シリカ自体の体積に、メソ孔及びマクロ孔の体積も含む。)に供し、PBSで洗浄した。続いて、0.5mU/mLのPNGase F溶液(Takara社製)1.5μL、0.1M重炭酸アンモニウム1.5μLをProtein Aカラムに加え、50℃で10分間、糖鎖遊離反応を行い、糖鎖を遊離させた。
【0213】
続いて、Protein Aカラムに10μLの2AB溶液(50mgの2−aminobenzamide、60mgのsodium cyanoborohydride、300μLの酢酸、及び700μLのDimethyl sulfoxideを混合した溶液)を加え、60℃で2時間反応させた。チューブにProtein Aカラムを入れて卓上遠心機で遠心し、2AB標識生成物を得た。得られた2AB標識生成物にアセトニトリルを加え、溶出液を得た。この溶出液をモノリスシリカスピンカラムにアプライし、洗浄した後、50μLの純水で溶出し、溶出液を得た。
【0214】
(HPLC測定)
得られた溶出液1μLについて、上述した表1に示す条件でHPLC測定を行った。得られたHPLCスペクトルを
図18に示す。
図18に示すように、
図17において矢印で示されるバイセクティングGlcNAcを有するシアロ糖鎖及びさらにジシアロ糖鎖を含むピーク(
図8中矢印で示されるピーク)が検出されなかった。
【0215】
[参考例2]
(前処理なし及び脱糖鎖促進剤存在下での糖鎖遊離)
PBSに20μgのヒトIgG(シグマ社製)を溶解させた液を、Protein Aカラム(モノリスシリカの表面にProtein Aが固定された担体。担体の体積:約5μL)に供し、PBSで洗浄した。
【0216】
続いて、0.5mU/mLのPNGase F溶液(Takara社製)1.5μLと、NLSを含む0.1M重炭酸アンモニウム溶液1.5μLとをProtein Aカラムに加え(NLSの終濃度は、0.2質量%、0.4質量%又は0.8質量%であった)、50℃で10分間、糖鎖遊離反応を行い、糖鎖を遊離させた。
【0217】
続いて、Protein Aカラムに10μLの2AB溶液(50mgの2−aminobenzamide、60mgのsodium cyanoborohydride、300μLの酢酸、及び700μLのDimethyl sulfoxideを混合した溶液)を加え、60℃で2時間反応させた。
【0218】
続いて、チューブにProtein Aカラムを入れ卓上遠心機で遠心し、2AB標識生成物を得た。得られた2AB標識生成物にアセトニトリルを加え、溶出液を得た。この溶出液をモノリスシリカスピンカラムにアプライし、洗浄した後、50μLの純水で溶出し、溶出液を得た。得られた溶出液に対し、比較例3と同じ条件でHPLC測定を行った。
【0219】
得られたHPLCスペクトルを
図19に示す。
図19に示すように、参考例2ではペプチド消化を行っていないにも関わらず、
図17において矢印で示したシアロ糖鎖のピークが検出された。
【0220】
[実施例16]
(前処理あり及び脱糖鎖促進剤存在下での糖鎖遊離)
PBSに20μgのヒトIgG(シグマ社製)を溶解させた液を、Protein Aカラム(モノリスシリカの表面にProtein Aが固定された担体。担体の体積:約5μL)に供し、PBSで洗浄した。
【0221】
続いて、前処理として500μLの0.2質量%NLS水溶液を通液し、その後、0.5mU/mLのPNGase F溶液(Takara社製)1.5μLと、NLSを含む0.1M重炭酸アンモニウム溶液1.5μLとをProtein Aカラムに加え(NLSの終濃度は、0.2重量%であった)50℃で10分間、糖鎖遊離反応を行い、糖鎖を遊離させた。
【0222】
続いて、Protein Aカラムに10μLの2AB溶液(50mgの2−aminobenzamide、60mgのsodium cyanoborohydride、300μLの酢酸、及び700μLのDimethyl sulfoxideを混合した溶液)を加え、60℃で2時間反応させた。
【0223】
続いて、チューブにProtein Aカラムを入れ卓上遠心機で遠心し、2AB標識生成物を得た。得られた2AB標識生成物にアセトニトリルを加え、溶出液を得た。この溶出液をモノリスシリカスピンカラムにアプライ及び通液し、洗浄した後、50μLの純水で溶出し、溶出液を得た。糖鎖遊離反応から標識された遊離糖鎖を得るまでにかかった時間は約3時間であった。得られた溶出液に対し、比較例3と同じ条件でHPLC測定を行った。
【0224】
得られたHPLCスペクトルを
図20に示す。
図20に示すように、本実施例ではペプチド消化を行っていないにもかかわらず、
図17において矢印で示したシアロ糖鎖のピークが検出された。さらに、前処理を行ったため、当該シアロ糖鎖のピークは、参考例2と比べて強い強度で検出された。
【0225】
[実施例17]
(前処理剤濃度の変動による回収率の検討)
前処理に用いたNLSの濃度を0.4重量%又は0.8重量%に変更したことを除いて、実施例16と同様の操作を行い、糖鎖をHPLCで検出した。
【0226】
得られたHPLCスペクトルを
図21に示す。
図21においては、前処理工程でNLSが0質量%の場合(参考例2に相当)と、NLSが0.2質量%の場合(実施例16に相当)との結果を併せて示す。さらに、
図21のそれぞれのHPLCにおけるピークの総面積を相対的に表したグラフを
図22に示す。
図22に示すように、前処理を行うことによって、糖鎖の回収率が向上した。
【0227】
[実施例18]
(前処理剤量の変動による回収率の検討)
前処理に用いたNLS溶液のNLS濃度を0.4質量%とし、NLS溶液の量を10μL、50μL、200μL又は500μLとしたことを除いて、実施例16と同様の操作を行い、糖鎖をHPLCで検出した。
【0228】
得られたHPLCスペクトルを
図23に示す。さらに、表7に、得られたHPLCスペクトルにおける番号1から番号7(
図17参照)のピークの面積の合計に対する各ピークの面積の比率(%)を示す。なお、番号7のピークの面積には、それにわずかに遅れて溶出するシアロ糖鎖のピーク(番号7のピークに重なって検出されている矢印で示したピーク)の面積が含まれている。したがって、表7では、番号7のピーク面積でシアロ糖鎖の回収率を判断する。表7に示すように、特に0.4質量%のNLS溶液の量を50μL以上用いることで、シアロ糖鎖の回収率が上がることが明らかとなった。
【0229】
【表7】
【解決手段】容器内で、固相に固定された糖タンパク質を含む試料に糖鎖遊離酵素を作用させ、糖鎖を含む遊離生成物を得る遊離工程と、前記容器内の前記遊離生成物に標識試薬を加え、前記糖鎖の標識体を含む標識生成物を得る標識工程と、を含み、前記糖タンパク質が抗体であり、前記固相が、プロテインA、プロテインG、プロテインL、プロテインH、プロテインD、プロテインArpからなる群より選ばれるリガンドを表面に有する、糖タンパク質の糖鎖を調製する方法。