特許第6143102号(P6143102)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6143102
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】建物の制振構造及びこれを備えた建物
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20170529BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20170529BHJP
   F16F 15/02 20060101ALN20170529BHJP
   F16F 15/023 20060101ALN20170529BHJP
【FI】
   E04G23/02 D
   E04H9/02 311
   !F16F15/02 L
   !F16F15/02 C
   !F16F15/023 A
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-206394(P2013-206394)
(22)【出願日】2013年10月1日
(65)【公開番号】特開2015-68155(P2015-68155A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2016年6月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(72)【発明者】
【氏名】中島 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】田中 初太郎
【審査官】 津熊 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−122228(JP,A)
【文献】 特開2004−156236(JP,A)
【文献】 特開2005−048393(JP,A)
【文献】 特開平10−037481(JP,A)
【文献】 特開2006−183250(JP,A)
【文献】 特開2012−219538(JP,A)
【文献】 特開平11−350777(JP,A)
【文献】 特開2001−140498(JP,A)
【文献】 実開平04−111870(JP,U)
【文献】 特開2000−160873(JP,A)
【文献】 特開2013−044155(JP,A)
【文献】 特開平08−068233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E04H 9/02
F16F 15/02
F16F 15/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の柱部材と梁部材で囲まれた架構面内に設置され、建物に作用した振動エネルギーを吸収して建物の応答を低減するための建物の制振構造であって、
前記梁部材に固着するとともに前記梁部材に沿って配設される固定部、及び前記固定部の両端部側にそれぞれ一端部を接続し、前記柱部材に押圧させた状態で前記柱部材に沿って配設される一対の変位伝達部とを備えてなる変位伝達フレームと、
前記変位伝達フレームに端部を接続して前記架構面内に配設されるV型ブレースと、
一端を前記V型ブレースに、他端を前記変位伝達フレームの前記変位伝達部の他端部側に接続して配設される制振装置とを備えて構成されていることを特徴とする建物の制振構造。
【請求項2】
請求項1記載の建物の制振構造において、
前記変位伝達フレームが断面略U字状に形成された補強部を備えて構成され、
前記補強部は、一端側を、前記架構面を形成する一方の柱部材に当接あるいは近接させつつ前記変位伝達フレームの一方の変位伝達部の他端部側に固着させ、他端側を、前記架構面を形成する他方の柱部材に当接あるいは近接させつつ前記変位伝達フレームの他方の変位伝達部の他端部側に固着させ、前記制振装置を内部に収容するように配設されていることを特徴とする建物の制振構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の建物の制振構造において、
前記変位伝達フレームの前記変位伝達部が前記柱部材に固着されていることを特徴とする建物の制振構造。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の建物の制振構造を備えていることを特徴とする建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震などによって建物に作用した振動エネルギーを減衰させて建物の応答を低減させるための建物の制振構造及びこれを備えた建物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば中高層建物が特大地震を受けると、建物の最弱層に損傷が生じて耐力が低下し始め、この層に地震エネルギー(振動エネルギー)が集中して層崩壊が生じ、他の層は健全性が確保されているにもかかわらず、層崩壊モードによって建物が崩壊に至るという現象が発生する。また、崩壊に至らない場合においても、最弱層の被害が甚大となり、補修による復旧が困難になる。
【0003】
これに対し、従来から、建物の柱と梁で囲まれた架構面内などに種々の制振装置(制振ダンパー、エネルギー吸収機構)を設置することにより地震時や強風時の建物の応答を低減させる対策が多用されている。
【0004】
例えば図6に示すように、建物Tの架構面T1内にV型ブレース(エネルギー伝達部材)1を設置するとともに、V型ブレース1と架構(柱部材2、梁部材3)にオイルダンパーなどの制振装置4を接続して構成した制振構造Aが多用されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0005】
そして、このような制振構造Aを設置した場合には、建物Tに振動エネルギーが作用して層間変形が生じると、V型ブレース1から制振装置4にこの層間変形(変位、振動エネルギー)が伝達され、制振装置4によって振動エネルギーが吸収される。これにより、制振構造Aによって建物Tに作用した振動エネルギーが減衰され、建物Tの応答が低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−122228号公報
【特許文献2】特開2007−126830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の制振構造を建物の耐震改修に適用する際には、一般に既存建物の鉄骨架構にブレースや制振装置を現場溶接によって取り付けるようにしている。そして、このように現場溶接でブレースや制振装置を取り付けるため、その設置時に火花が飛び散ったり、煙が発生する。
【0008】
このため、場合によっては建物の制振構造を設置する箇所の使用者や入居者の立ち入りを制限しながら耐震改修工事を行う必要があった。さらに、耐震改修工事を行う際に建物の柱周辺の作業が必要になるため、柱を挟んだ制振構造の設置箇所と反対側のスパン(建物空間)にも使用の制約が生じるケースもある。
【0009】
上記事情に鑑み、本発明は、例えば既存建物の耐震改修に適用する場合であっても、建物の使用者や入居者に対する立ち入りの制約を少なくして建物に優れた耐震性能を付与することを可能にする建物の制振構造及びこれを備えた建物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0011】
本発明の建物の制振構造は、建物の柱部材と梁部材で囲まれた架構面内に設置され、建物に作用した振動エネルギーを吸収して建物の応答を低減するための建物の制振構造であって、前記梁部材に固着するとともに前記梁部材に沿って配設される固定部、及び前記固定部の両端部側にそれぞれ一端部を接続し、前記柱部材に押圧させた状態で前記柱部材に沿って配設される一対の変位伝達部とを備えてなる変位伝達フレームと、前記変位伝達フレームに端部を接続して前記架構面内に配設されるV型ブレースと、一端を前記V型ブレースに、他端を前記変位伝達フレームの前記変位伝達部の他端部側に接続して配設される制振装置とを備えて構成されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の建物の制振構造においては、前記変位伝達フレームが断面略U字状に形成された補強部を備えて構成され、前記補強部は、一端側を、前記架構面を形成する一方の柱部材に当接あるいは近接させつつ前記変位伝達フレームの一方の変位伝達部の他端部側に固着させ、他端側を、前記架構面を形成する他方の柱部材に当接あるいは近接させつつ前記変位伝達フレームの他方の変位伝達部の他端部側に固着させ、前記制振装置を内部に収容するように配設されていることが望ましい。
【0013】
さらに、本発明の建物の制振構造においては、前記変位伝達フレームの前記変位伝達部が前記柱部材に固着されていることがより望ましい。
【0014】
本発明の建物は、上記のいずれかの建物の制振構造を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の建物の制振構造及びこれを備えた建物においては、柱部材と梁部材で囲まれた架構面内に、梁部材に固定部を固着し、且つ柱部材に変位伝達部を押圧させた状態で変位伝達フレームを設け、この変位伝達フレームにV型ブレースと制振装置を接続して制振構造を構成したことにより、柱部材と変位伝達フレームの変位伝達部との間で作用する圧縮力や摩擦力によって、地震や強風等で建物に作用した力(振動エネルギー、層間変位)を伝達させることができる。
【0016】
そして、このように、建物に作用した力を、変位伝達フレームを通じて、また、変位伝達フレームからV型ブレースを通じて、回転慣性質量ダンパーやオイルダンパー、鋼材ダンパー等の制振装置に伝達させることができ、制振装置によって吸収・減衰させることができる。
【0017】
これにより、確実且つ効果的に、建物の応答を低減させることができ、建物の制振性能(耐震性能)を高めることが可能になる。
【0018】
また、本発明の建物の制振構造及びこれを備えた建物においては、柱部材と梁部材で囲まれた架構面内に、梁部材に固定部を固着し、且つ柱部材に変位伝達部を押圧させた状態で変位伝達フレームを設け、この変位伝達フレームにV型ブレースと制振装置を接続して制振構造を構成したことにより、制振構造を設置する際に、柱部材を挟んだ隣のスパンでの作業を不要にすることができる。
【0019】
これにより、架構面内、すなわちスパン間で全ての工事を完結させることができ、柱部材を挟んで隣接する室、梁部材を挟んで隣接する上下階の室の使用者、入居者等への影響を最小限にとどめて、耐震改修工事(制振構造の設置作業)を行うことが可能になる。
【0020】
また、溶接作業を全く行わずに、あるいはほとんど行わずに制振構造を形成することができ、火災の危険性が少なく、且つ騒音が少なく、好適に耐震改修工事を行うことが可能になる。
【0021】
よって、本発明の建物の制振構造及びこれを備えた建物によれば、例えば既存建物の耐震改修に適用する場合であっても、建物の使用者や入居者に対する立ち入りの制約を少なくして建物に優れた耐震性能を付与することが可能になる。
【0022】
また、本発明の建物の制振構造及びこれを備えた建物においては、変位伝達フレームが断面略U字状に形成された補強部を備え、この補強部が両端側をそれぞれ柱部材に当接あるいは近接させつつ制振装置を内部に収容するように配設されていることにより、地震や強風等で建物に作用した力(振動エネルギー、層間変位)を、この補強部と柱部材の間で作用する圧縮力や摩擦力によって伝達させることが可能になる。これにより、より確実且つ効果的に、建物の応答を低減させることができ、建物の制振性能(耐震性能)を高めることが可能になる。
【0023】
また、このように耐震性能の向上に寄与する補強部を断面略U字状に形成し、制振装置を収容(内包)するように配設することで、建物の窓台程度の高さ範囲に補強部を収めることが可能になる。これにより、補強部を備えることによって、また、補強部を備えて変位伝達フレームを構成した場合であっても、外観の低下を招くことなく、建物の制振性能の向上を図ることが可能になる。
【0024】
さらに、本発明の建物の制振構造及びこれを備えた建物においては、変位伝達フレームの変位伝達部を柱部材に、例えば溶接やボルト接合などによって固着することで、柱部材と変位伝達フレームの変位伝達部との間で作用する圧縮力や摩擦力だけでなく、せん断力によって、地震や強風等で建物に作用した力(振動エネルギー、層間変位)を伝達させることができる。
【0025】
これにより、さらに確実且つ効果的に、建物の応答を低減させることができ、建物の制振性能(耐震性能)を高めることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態に係る建物の制振構造及びこれを備えた建物を示す正面図(側面図)である。
図2図1のX1−X1線矢視図である。
図3図1のX2−X2線矢視図である。
図4図1のX3−X3線矢視図である。
図5】本発明の一実施形態に係る建物の制振構造の設置方法の説明に用いた図である。
図6】従来の建物の制振構造を示す正面図(側面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図1から図5を参照し、本発明の一実施形態に係る建物の制振構造及びこれを備えた建物について説明する。
【0028】
本実施形態の建物の制振構造Bは、図1に示すように、例えばオフィスビルやマンションなどの多層構造の建物Tの柱部材2と梁部材3(架構)で囲まれた架構面T1内に設置されて、地震時(あるいは強風時)に建物Tに作用した地震エネルギー(振動エネルギー)を吸収して減衰させ、建物Tの応答を低減させるためのものである。
【0029】
具体的に、本実施形態の制振構造Bは、架構面T1を形成する上階の梁部材3に固着するとともにこの梁部材3に沿って、すなわち横方向S1(梁部材3の材軸方向/延設方向)に沿って配設される固定部5、及び固定部5の両端部側にそれぞれ一端部を接続し、柱部材2の側面に横方向S1側に向けて押圧させた状態で柱部材2に沿って、すなわち上下方向(柱部材2の材軸方向/延設方向)S2に沿って配設される一対の変位伝達部6とを備えてなる変位伝達フレーム7を備えて構成されている。
【0030】
さらに、本実施形態の制振構造Bは、固定部5と変位伝達部6を接続した変位伝達フレーム7の一対の角部側にそれぞれ端部(上端部)を接続して配設されるV型ブレース8と、V型ブレース8の下端部に一体に設けられた取付部材9と、一端を取付部材9を介してV型ブレース8に、他端を変位伝達フレーム7の変位伝達部6の他端部側にそれぞれ接続して配設される制振装置10、11とを備えて構成されている。
【0031】
また、本実施形態の変位伝達フレーム7は、固定部5と変位伝達部6にH形鋼などの鉄骨が用いられており、固定部5は、一端部を梁部材3の柱部材2との接合部付近に固着して設けられている。なお、固定部5は、中間部分を高力ボルトなどの固定手段12を用いて梁部材3に固着するようにしてもよい(図5参照)。
【0032】
一方、本実施形態の変位伝達フレーム7の変位伝達部6は、図1及び図2に示すように、その側面(ウェブ)を柱部材2の架構面T1側を向く側面に押圧させた状態で配設されるとともに、柱部材2との間に鋼板13を設け、この鋼板13を介し溶接して柱部材2に固着されている。
【0033】
なお、変位伝達部6は、必ずしも柱部材2に溶接などで固着せず、柱部材2に押圧力によって密着させた状態で配設されていてもよい。また、変位伝達部6は、柱部材2に固着させる場合において、溶接を用いず、高力ボルトなどの固定手段12を用いて柱部材2に固着するようにしてもよい(図5参照)。さらに、変位伝達部6と柱部材2の間にクサビなどの介装部材15を介装し、柱部材2と変位伝達部6の間の圧縮力、摩擦力を確保するようにしてもよい(図5参照)。
【0034】
制振装置10、11は、例えば回転慣性質量ダンパー、オイルダンパー、鋼材ダンパー等であり、図1図3及び図4に示すように、V型ブレース8の下端部に取り付けられた取付部材9と左右の変位伝達部6との間にそれぞれ設置されている。このとき、回転慣性質量ダンパー及び付加ばねを備えてなる制振装置10を一方に設置し、オイルダンパーなどの制振装置11を他方に設置すると、すなわち、異なる種類の制振装置10、11を並設して制振構造Bを構成すると、各制振装置10、11の性能、特長を活かし、効果的に制振性能の向上を図ることができる。
【0035】
さらに、本実施形態の制振構造Bにおいては、図1図3及び図4に示すように、変位伝達フレーム7が断面略U字状に形成された補強部14を備えて構成されている。この補強部14は、一端側を、架構面T1を形成する一方の柱部材2に当接あるいは近接させつつ変位伝達フレーム7の一方の変位伝達部6の他端部側に固着させ、他端側を、架構面T1を形成する他方の柱部材2に当接あるいは近接させつつ変位伝達フレーム7の他方の変位伝達部6の他端部側に固着させ、制振装置10、11を内部に収容するように配設されている。
【0036】
次に、上記構成からなる建物の制振構造Bを建物に設置する方法(例えば、既存建物の耐震改修を行う方法)の一例について説明する。図5に示すように、固定部5の中間部分を切断した形の分離された変位伝達フレーム7を所定位置に配置する。
【0037】
そして、分割した各変位伝達フレーム7の固定部5の中間部にジャッキを配設し、このジャッキによって各固定部5に圧縮力を加え、各変位伝達部6を柱部材2に押圧させる。この状態で、既存の柱部材2や梁部材3に変位伝達部6や固定部5を溶接、ボルト接合で固着させる。
【0038】
また、固定部5同士を接続するとともに、下端部に取付部材9を一体に備えたV型ブレース8の上端部を変位伝達フレーム7に接続し、架構面T1内にV型ブレース8を設置する。そして、各変位伝達部6の自由端の他端部と取付部材9にそれぞれ接続して、回転慣性質量ダンパー、ばね部材、オイルダンパー、鋼材ダンパー等の制振装置10、11を設置する。また、これとともに補強部14を設置する。
【0039】
そして、上記構成からなる本実施形態の建物の制振構造B(及びこれを備えた建物T)においては、地震や強風などによって建物Tに振動エネルギーが作用した際に、建物Tの梁部材3や柱部材2の変位に応じて変位伝達フレーム7の固定部5及び変位伝達部6が変位し、これら固定部5及び変位伝達部6の変位が制振装置10、11に伝達され、振動エネルギーが吸収される。また、上階の梁部材3に接続した固定部5からV型ブレース8を介して振動エネルギーが制振装置10、11に伝達され、吸収・減衰される。
【0040】
さらに、このとき、変位伝達フレーム7の変位伝達部6が柱部材2に押圧され、さらに溶接やボルト接合で固着されているため、固着力や摩擦力によって建物Tに作用した力が確実に柱部材2と制振構造Bの間で伝達される。これにより、確実に制振装置10、11に振動エネルギーが伝達されて吸収され、建物Tの応答を低減させることが可能になる。
【0041】
したがって、本実施形態の建物の制振構造B及びこれを備えた建物Tにおいては、柱部材2と梁部材3で囲まれた架構面T1内に、梁部材3に固定部5を固着し、且つ柱部材2に変位伝達部6を押圧させた状態で変位伝達フレーム7を設け、この変位伝達フレーム7にV型ブレース8と制振装置10、11を接続して制振構造Bを構成したことにより、柱部材2と変位伝達フレーム7の変位伝達部6との間で作用する圧縮力や摩擦力によって、地震や強風等で建物Tに作用した力(振動エネルギー、層間変位)を伝達させることができる。
【0042】
そして、このように、建物Tに作用した力を、変位伝達フレーム7を通じて、また、変位伝達フレーム7からV型ブレース8を通じて、回転慣性質量ダンパーやオイルダンパー、鋼材ダンパー等の制振装置10、11に伝達させることができ、制振装置10、11によって吸収・減衰させることができる。
【0043】
これにより、確実且つ効果的に、建物Tの応答を低減させることができ、建物Tの制振性能(耐震性能)を高めることが可能になる。
【0044】
また、本実施形態の建物の制振構造B及びこれを備えた建物Tにおいては、柱部材2と梁部材3で囲まれた架構面T1内に、梁部材3に固定部5を固着し、且つ柱部材2に変位伝達部6を押圧させた状態で変位伝達フレーム7を設け、この変位伝達フレーム7にV型ブレース8と制振装置10、11を接続して制振構造Bを構成したことにより、制振構造Bを設置する際に、柱部材2を挟んだ隣のスパンでの作業を不要にすることができる。
【0045】
これにより、架構面T1内、すなわちスパン間で全ての工事を完結させることができ、柱部材2を挟んで隣接する室、梁部材3を挟んで隣接する上下階の室の使用者、入居者等への影響を最小限にとどめて、耐震改修工事(制振構造Bの設置作業)を行うことが可能になる。
【0046】
また、溶接作業を全く行わずに、あるいはほとんど行わずに制振構造Bを形成することができ、火災の危険性が少なく、且つ騒音が少なく、好適に耐震改修工事を行うことが可能になる。
【0047】
よって、本実施形態の建物の制振構造B及びこれを備えた建物Tによれば、例えば既存建物Tの耐震改修に適用する場合であっても、建物Tの使用者や入居者に対する立ち入りの制約を少なくして建物Tに優れた耐震性能を付与することが可能になる。
【0048】
また、本実施形態の建物の制振構造B及びこれを備えた建物Tにおいては、変位伝達フレーム7が断面略U字状に形成された補強部14を備え、この補強部14が両端側をそれぞれ柱部材2に当接あるいは近接させつつ制振装置10、11を内部に収容するように配設されていることにより、地震や強風等で建物Tに作用した力(振動エネルギー、層間変位)を、この補強部14と柱部材2の間で作用する圧縮力や摩擦力によって伝達させることが可能になる。これにより、より確実且つ効果的に、建物Tの応答を低減させることができ、建物Tの制振性能(耐震性能)を高めることが可能になる。
【0049】
また、このように耐震性能の向上に寄与する補強部14を断面略U字状に形成し、制振装置10、11を収容(内包)するように配設することで、建物Tの窓台程度の高さ範囲に補強部14を収めることが可能になる。これにより、補強部14を備えることによって、また、補強部14を備えて変位伝達フレーム7を構成した場合であっても、外観の低下を招くことなく、建物Tの制振性能の向上を図ることが可能になる。
【0050】
さらに、本実施形態の建物の制振構造B及びこれを備えた建物Tにおいては、変位伝達フレーム7の変位伝達部6を柱部材2に、例えば溶接やボルト接合などによって固着することで、柱部材2と変位伝達フレーム7の変位伝達部6との間で作用する圧縮力や摩擦力だけでなく、せん断力によって、地震や強風等で建物Tに作用した力を伝達させることができる。
【0051】
これにより、さらに確実且つ効果的に、建物Tの応答を低減させることができ、建物Tの制振性能(耐震性能)を高めることが可能になる。
【0052】
以上、本発明に係る建物の制振構造及びこれを備えた建物の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 V型ブレース
2 柱部材
3 梁部材
4 制振装置
5 固定部
6 変位伝達部
7 変位伝達フレーム
8 V型ブレース
9 取付部材
10 制振装置
11 制振装置
12 固定手段
13 鋼板
14 補強部
15 介装部材
A 従来の建物の制振構造
B 建物の制振構造
S1 横方向
S2 上下方向
T 建物
T1 架構面
図1
図2
図3
図4
図5
図6