(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
例えば、原子力発電所などの原子力炉施設が古くなるなどし、廃止措置を行う場合には、原子炉圧力容器などの燃料が存在する構造領域は勿論、その周囲にある生体遮蔽コンクリート等の遮蔽体や、各種配管・ダクト、機器等が配設された遮蔽体領域の放射化の程度、すなわち、放射能インベントリ(放射性核種濃度、放射化量)をできるだけ精度よく捉えて評価することが重要になる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
そして、従来、原子力施設の放射化量を解析・評価する際には、例えば、原子炉などから放出される中性子スペクトルを用いて、原子炉圧力容器や配管・ダクト、設備機器、遮蔽体などの構造物(解体対象物)の中性子束を計算し、次に各構造物の中性子束を用いて放射能インベントリ計算を行い放射化量(放射化量分布)を求め、評価するようにしている。
【0004】
また、このとき、特に原子力発電所などの大型の原子力施設の放射化量分布を求める際には、2次元多群中性子輸送計算コードにより、2次元平面を中心軸で回転させた円柱体系として構造物をモデル化するようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の方法、すなわち、原子炉などから放出される中性子スペクトルを用いて構造物の中性子束を計算し、この中性子束を用いて放射能インベントリ計算を行って放射化量(放射化量分布)を求める方法では、各構造物(解体対象物)の代表的な中性子束を使用するため、コンクリート製の遮蔽体などの大型の構造物内部における放射化量の分布を捉えることができない。
【0007】
具体的に、上記従来のように、2次元多群中性子輸送計算コードにより、2次元平面を中心軸で回転させた円柱体系として構造物をモデル化すると、回転方向における非均質構造や球面形状などを正しく取り扱うことができず、且つ、数十cm以上の大きな空間要素が必要で、この数十cm未満のサイズの機器や構造物の部位(細部)を反映して放射化量の分布を求めることができないケースがある。特に、数十cm未満のサイズの開口部がある遮蔽体などの構造物では、開口部の影響が反映されず、正確に放射化量の分布を求めることができないおそれがある。
【0008】
このため、遮蔽体内部の放射化量の区分が大雑把なものとなり、放射能濃度による区分に基づく廃棄物の物量評価も不正確なものになるという問題が生じる。また、放射能インベントリ計算は広く行われているが、施設の構造物全体を対象とするケースがなく、これに対応する手法が強く望まれていた。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み、原子力施設の放射化の程度(放射化量、放射化量の分布)をより高精度で解析し、評価することを可能にする原子力施設の放射化量解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0011】
本発明の原子力施設の放射化量解析方法は、原子力施設の各構造物に対し優先順位を設定し、優先順位に応じたメッシュサイズでメッシュタリーデータを作成し、3次元モンテカルロ計算を行ってメッシュタリー毎の中性子束を求め、各メッシュタリーの中性子束を用いて放射能インベントリ計算を行い、構造物毎の放射化量の空間分布データを作成するとともに、優先順位が異なり、重複するメッシュタリーデータを読み込み、優先順位が低い一方のメッシュタリーの重複部分を除外し、優先されるメッシュタリーを重複部分に組み込んで重複空間のない放射化量データを作成するようにしたことを特徴とする。
ここで、本発明における原子力施設の構造物とは、原子力施設を構成する物を示し、あらゆる部材、機器、配管などを意味する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の原子力施設の放射化量解析方法においては、原子力施設の各構造物に対し優先順位を設定するとともに、優先順位に応じたメッシュサイズでメッシュタリーデータを作成し、3次元モンテカルロ計算を行ってメッシュタリー毎の中性子束を求め、各メッシュタリーの中性子束を用いて放射能インベントリ計算を行い、構造物毎の放射化量の空間分布データを作成する。
【0013】
そして、優先順位が異なり、重複するメッシュタリーデータを読み込み、メッシュタリー毎の優先順位に応じて、優先順位が低い一方のメッシュタリーの重複部分を除外し、優先されるメッシュタリーを重複部分に組み込んで重複空間のない放射化量データを作成する。
【0014】
これにより、従来の2次元多群中性子輸送計算コードにより2次元平面を中心軸で回転させた円柱体系として構造物をモデル化する方法と比較し、非均質構造や球面形状などを正しく取り扱うことができ、且つ、数十cm未満のサイズの機器や構造物の部位(細部)を反映して放射化量の分布を求めることが可能になる。
【0015】
よって、本発明の原子力施設の放射化量解析方法によれば、原子力施設の放射化の程度をより高精度で解析することができ、原子力施設を廃止する場合等、構造物を解体することで発生する放射性廃棄物の放射化量を正確に捉え、放射能濃度区分によってそれらの物量を正確に評価することができる。これにより、廃止コストなどを最適化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る原子力施設の一例を示す図である。
【
図2】本発明の原子力施設の放射化量解析方法を示すフロー図である。
【
図3】本発明の原子力施設の放射化量解析方法において、原子力施設の構造物の放射化量の空間分布データを可視化した図である。
【
図4】本発明の原子力施設の放射化量解析方法において、原子力施設の構造物の任意の選択部位の放射化量の空間分布データを可視化した図である。
【
図5】本発明の原子力施設の放射化量解析方法において、原子力施設の構造物の任意の選択部位の放射化量の空間分布データを可視化した図である。
【
図6】本発明の原子力施設の放射化量解析方法において、原子力施設の構造物の任意の選択部位の放射化量の空間分布データを可視化した図である。
【
図7】本発明の原子力施設の放射化量解析方法において、優先順位が低い一方のメッシュタリーの重複部分を除外し、優先されるメッシュタリーを重複部分に組み込んだ状態を示す図である。
【
図8】本発明の原子力施設の放射化量解析方法において、優先順位が低い一方のメッシュタリーの重複部分を除外し、優先されるメッシュタリーを重複部分に組み込み、精度よく放射化量の空間分布データを作成し、可視化した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、
図1から
図8を参照し、本発明の一実施形態に係る原子力施設の放射化量解析方法について説明する。なお、本実施形態では、例えば、原子力施設の廃止措置を行うにあたり、原子炉圧力容器などの燃料が存在する炉心構造領域の周囲にある原子炉機器、遮蔽体などを含む遮蔽体領域の構造物の放射化の程度、すなわち、放射能インベントリ(放射性核種濃度、放射化量)を精度よく求めるものとして説明を行う。
【0018】
はじめに、本実施形態の原子力施設1は、
図1に示すように、原子力発電所などの原子炉施設であり、例えば、基礎スラブ2の上に設けられた円筒状のペデスタル3に支持されて原子炉圧力容器4が設置され、この原子炉圧力容器4を囲むように格納容器、遮蔽体5等が配設されている。また、基礎スラブ2、ペデスタル3を含め、特に格納容器や遮蔽体5は、普通コンクリートや重晶石コンクリートを用いて構築されるとともに、ステンレス鋼板などを一体に備え、放射線の遮蔽能力が高まるように構築されている。
【0019】
また、遮蔽体5には開口部5aが貫通形成され、この開口部5aにダクト(配管)6が挿通して配設されており、このダクト6を通じて遮蔽体5の内側の原子炉圧力容器や格納容器などと、遮蔽体5の外側の蒸気発生器や加圧器、制御機器など(原子炉機器)とが接続されている。
【0020】
そして、上記のような原子力施設1の廃止措置を行うにあたり、この原子力施設1の放射化量を解析・評価する際には(本実施形態の原子力施設の放射化量解析方法においては)、
図2に示すように、ダクト6、各種機器、遮蔽体5などの原子力施設1の解体対象物である各構造物の形状データから、この原子力施設1の構造物を3次元的に取り扱える3次元モンテカルロコード用の幾何形状モデルを作成する。
【0021】
また、各構造物の放射化量の内部分布を評価するため、必要な空間要素のサイズに細分化したメッシュタリーを作成する。このとき、予め構造物形状データ等に基づいてメッシュタリーの優先順位を指定し、この優先順位に応じ、各構造物、部位のメッシュタリーのメッシュサイズを設定する。
【0022】
このとき、メッシュタリーの優先順位、ひいてはメッシュタリーのメッシュサイズは、原子力施設1の構造に合わせて設定することになる。メッシュタリーは、直方体と扇形立体の2種類があり、中性子束の変化が大きい遮蔽体5の開口部5aやダクト(配管)6などにそれぞれ個別に対応させて、そのサイズ設定を行う。
【0023】
ここで、本願の発明者らによる研究等により、原子炉の放射化量分布評価のために許容できる最大空間サイズは、径方向(横方向)が10cm、軸方向(上下方向)が30cmであることが知見として得られている。これに基づき、本実施形態において、遮蔽体5に対しては径方向と軸方向のメッシュタリーの設定サイズ(メッシュのサイズ)を30〜50cmとし、ダクト6に対しては径方向10cm、軸方向30cmの設定サイズにしてメッシュタリーを作成する。
【0024】
そして、原子炉の運転履歴、燃焼集合体と制御棒の配置履歴、燃料の燃焼度履歴、物質組成(燃料組成分布)などの線源データを予め取得しておき、この線源データ、3次元モンテカルロコード用の幾何形状モデルを基にして3次元モンテカルロ計算を行い、メッシュタリー毎の中性子束を求める。
【0025】
さらに、各メッシュタリーの中性子束(中性子束ファイル)を用いて放射能インベントリ計算を行い、メッシュ点毎の放射化量を求めるとともに、構造物毎の空間分布データを作成する。また、この空間分布データから可視化ツールで放射化量の空間分布を3次元的にカラー等で識別できるように描画する。
【0026】
ここで、例えば
図3は放射化量の空間分布データを3次元的に可視化した一例であり、
図4から
図6は任意に選択した部位を表示した一例である。
【0027】
図4に示すように、遮蔽体(遮蔽壁)5を貫通するダクト(配管)6が左右それぞれ2カ所ずつあり、この段階では、それぞれメッシュサイズが異なる円筒状の遮蔽体5内部のメッシュタリーと、ダクト部分のメッシュタリーの空間分布データがダクト6、開口部5a部分で重複している。
【0028】
このため、本実施形態の原子力施設の放射化量解析方法では、
図2に示すように、重複するメッシュタリーデータを読み込み、メッシュタリー毎の優先順位に応じて一方のメッシュタリーを除外して重複空間のない放射化量データを作成する。
【0029】
具体的に、例えば、
図7に示すように、遮蔽体5の領域では遮蔽体5のメッシュタリーからダクト6部分を除外し、ダクト6部分の領域では、このダクト6部分のメッシュタリーを抽出し、遮蔽体5の領域のダクト6部分に、ダクト6部分の領域で抽出したダクト6部分のメッシュタリーを組み込む。
【0030】
このとき、重複したタリーを排除する際には、優先順位が異なり、重複する2つのメッシュタリーデータを読み込む。そして、重複部分が取り除かれる一方のメッシュタリー(
図7では遮蔽体5に相当)をM1、優先されるメッシュタリー(
図7ではダクト6に相当)をM2とすると、M2の表面メッシュを抽出し、その表面メッシュの法線ベクトルを求める。
【0031】
さらに、M2の表面メッシュからの距離を陰関数で表現する。また、M1の各メッシュ点からM2の表面メッシュまでの距離を上記の陰関数で求める。そして、距離がゼロになる位置(M2の表面メッシュ)を線形補間により推定する。
【0032】
この距離がゼロになる位置を持つM1のメッシュを重複メッシュとして設定し、M1からこの重複メッシュを除外する。また、M1の重複メッシュを除外することで発生する中間部分(M2の重複メッシュとの隙間)を3次元Delaunary四面体分割により充填し直す。これにより、タリーの重複をなくしたデータファイルが好適に作成されるとともに、詳細に放射化量の空間分布データが作成された優先タリーを組み込んだデータファイルが作成される。
【0033】
このように各構造物や開口部5aなどに対応して複数存在するメッシュタリーは空間的に重複しているため、本実施形態の原子力施設の放射化量解析方法では、
図2及び
図8に示すように、指定した優先順位に基づいて空間的な重複を排除することにより、重複しない一義的に定まる空間座標を持った中性子束や放射能量の分布データファイルを作成する。また、このデータファイルを基に、可視化ツールで放射化量分布を3次元的にカラー等で識別できるように描画する。これにより、任意の切断面での内部領域の放射化量分布を容易に把握できるようになる。
【0034】
さらに、可視化ツールを用い、細分化した空間座標の放射化量分布から任意のレベル区分毎に構造物の体積や重量の物量を求めることで、精度よく放射能濃度区分による物量評価が行なえる。
【0035】
なお、本実施形態の原子力施設の放射化量解析方法において、上記線源データは、次のようにして求めることができる。例えば、原子炉の運転履歴と、原子炉の幾何形状データ、及び燃焼集合体と制御棒の配置履歴、燃料の燃焼度履歴と、物質組成(燃料組成分布)のデータを予め取得する。
【0036】
そして、燃料の燃焼度履歴と集合体の配置履歴の時間変化毎の炉心構成に対応した中性子スペクトルを、3次元モンテカルロ計算によって算出する(時間変化条件毎の中性子スペクトル算出)。この3次元モンテカルロ計算では、原子炉の運転履歴と、原子炉の幾何形状データ、及び燃焼集合体と制御棒の配置履歴、燃料の燃焼度履歴と、物質組成(燃料組成分布)の輸送計算に必要なデータを用い、モンテカルロ輻射伝達臨界モード方法、モンテカルロ輻射伝達連続臨界モード及び固定ソースモード方法を選択的に用いて、時間変化条件毎の中性子スペクトル(及びガンマスペクトル)を求める。
【0037】
そして、線源データとして、物質組成(燃料組成分布)の放射化計算に必要なデータとともに、時間変化条件毎の中性子スペクトル算出で求めた時間と領域別の中性子スペクトル、放射化断面積、運転履歴のデータを入力すればよい。
【0038】
したがって、本実施形態の原子力施設の放射化量解析方法においては、原子力施設の各構造物に対し優先順位を設定するとともに、優先順位に応じたメッシュサイズでメッシュタリーデータを作成し、3次元モンテカルロ計算を行ってメッシュタリー毎の中性子束を求め、各メッシュタリーの中性子束を用いて放射能インベントリ計算を行い、構造物毎の放射化量の空間分布データを作成する。
【0039】
そして、優先順位が異なり、重複するメッシュタリーデータを読み込み、優先順位が低い一方のメッシュタリーの重複部分を除外し、優先されるメッシュタリーを重複部分に組み込んで重複空間のない放射化量データを作成する。
【0040】
これにより、従来の2次元多群中性子輸送計算コードにより2次元平面を中心軸で回転させた円柱体系として構造物をモデル化する方法と比較し、非均質構造や球面形状などを正しく取り扱うことができ、且つ、数十cm未満のサイズの機器や構造物の部位(細部)を反映して放射化量の分布を求めることが可能になる。
【0041】
よって、本実施形態の原子力施設の放射化量解析方法によれば、原子力施設の放射化の程度をより高精度で解析することができ、原子力施設を廃止する場合等、構造物を解体することで発生する放射性廃棄物の放射化量を正確に捉え、放射能濃度区分によってそれらの物量を正確に評価することができる。これにより、廃止コストなどを最適化することができる。
【0042】
また、可視化ツールにより、構造物の放射化量が高い領域と低い領域を視覚的に正しく認識することができ、適切な解体工事計画の立案やPA(パブリックアクセプタンス)活動に資することが可能になる。
【0043】
以上、本発明に係る原子力施設の放射化量解析方法の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0044】
例えば、本実施形態では、原子力施設が、原子力発電所などの原子炉施設であるものとして説明を行ったが、本発明は、放射化される構造物が存在するあらゆる施設に対し適用可能である。