【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ファージ表面ディスプレイ技術を用いて、多回のバイオパニング(bio-panning)により、大容量全合成ヒト単鎖抗体ライブラリーから特異性抗ヒトEGFRの単鎖遺伝子工学抗体(single chain variable fragment, scFv)を選ぶことである。本発明の実施例において、前記抗体の軽重鎖可変領域をそれぞれを哺乳類動物細胞の完全抗体一過性発現ベクターpABL及びpABG1に導入し、コトランスフェクション(cotransfection)HEK 293T細胞の一過性な分泌発現により、完全抗体Ame55を得る。
【0007】
本発明が提供する抗体可変領域アミノ酸配列パターンはFR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4である。ここで、FR1〜4は4つのフレームワーク領域を表示し、CDR1〜3は3つの超可変領域を表示する。FR1〜4は定常領域配列から分離されたもの(例えばヒト免疫グロブリン軽重鎖類、亜類または亜ファミリの最も一般なアミノ酸)であってもよく、個々の抗体フレームワーク領域から分離されたもの、または異なるフレームワーク領域遺伝子から組み合わされたものであってもよい。例えば、Kabatなどのライブラリに収録された無数のヒト抗体フレームワーク領域配列が挙げられる。
【0008】
その中に、重鎖可変領域がヒト免疫グロブリン亜群ヒト重鎖VH Vファミリであり、軽鎖可変領域がLambda IIIファミリであるものがある。軽重鎖のCDR領域について、アラニンスキャニング及びその他の同類アミノ酸突然変異により大量の突然変異体を得て、軽鎖CDR1、CDR2及びCDR3の突然変異体を評価した結果によれば、CDRL1の配列が SGDX1LGDKYX2X3(SEQ ID NO 1)である。ここで、X1がAla、Gly、Asn、Lysであってもよく、Lys及びGlyが好ましい;X2がAla、Val及びIleであってもよく、Alaが好ましい;X3がSer及びTyrであってもよく、Serが好ましい。CDR2Lの配列がEDX1KRPS(SEQ ID NO 2)であり、X1がSer、Thr、Ala及びGlyであってもよく、Serが好ましい。CDRL3の配列がX1X2WDX3DWX4MP(SEQ ID NO 3)であってもよく、ここで、X1がSer、Ala、Gly、Leu、Asn、Tyr及びGlnであり、Serが好ましい;X2がVal、Ser、Ala及びLeuであってもよく、SerまたはAlaが好ましい;X3がGly、Ala及びProであってもよく、Glyが好ましい;X4がGly及びSerであってもよく、Glyが好ましい。重鎖CDR2及びCDR3の突然変異体を評価する結果によれば、CDRH2の配列がX1IIYPX2DSDTRYSPSFQ(SEQ ID NO 5)であり、ここで、X1がGly及びSerであってもよく、Glyが好ましい;X2がGly及びSerであってもよく、Glyが好ましい。CDR3Hの配列がGIIYPSNVX1V(SEQ ID NO 6)であり、ここで、X1がAla、Ser及びGlyであってもよく、SerまたはAlaが好ましい。該抗体の軽重鎖CDR領域に対してアラニンスキャニングを行った結果、抗体とEGFRの結合に対して、軽重鎖CDR3及び軽鎖CDR1と重鎖CDR2が極めて重要であることが示され、一つのみのアミノ酸の変化により、親和力の数倍ないし数十倍の変更が起きる。具体的には実施例5を参照する。
【0009】
本発明が提供するヒト抗ヒトEGFR抗体は、その軽鎖可変領域がSEQ ID NO 3に示されるアミノ酸配列を含む。
【0010】
更に、その軽鎖可変領域は、SEQ ID NO 1及びSEQ ID NO 2に示されるアミノ酸配列を含む。
【0011】
更に、その軽鎖可変領域は、SEQ ID NO 7に示されるアミノ酸配列を含む。
【0012】
更に、本発明が提供するヒト抗ヒトEGFR抗体は、その重鎖可変領域が、SEQ ID NO 5及びSEQ ID NO 6に示されるアミノ酸配列を含む。
【0013】
更に、その重鎖可変領域は、SEQ ID NO 4に示されるアミノ酸配列も含む。
【0014】
更に、その重鎖可変領域はSEQ ID NO 8に示されるアミノ酸配列も含む。
【0015】
本発明が提供するヒト抗ヒトEGFR抗体は、単鎖抗体、Fab、微型抗体、キメラ抗体または全長抗体免疫グロブリンIgG1、IgG2、IgA、IgE、IgM、IgG4、IgDを含む。
【0016】
本発明が提供するヒト抗ヒトEGFR抗体Ame55は、その重鎖可変領域がVH5に由来し、その軽鎖可変領域がVλ
3に由来し、その抗体亜型がIgG1である。
【0017】
本発明が提供するヒト抗ヒトEGFR抗体は、その軽鎖可変領域がSEQ ID NO 3に示されるアミノ酸配列を含み、その重鎖可変領域がSEQ ID NO 6に示されるアミノ酸配列を含む。
【0018】
本発明が提供するヒト抗ヒトEGFR抗体は、その軽鎖可変領域がSEQ ID NO 3に示されるアミノ酸配列を含み、その重鎖可変領域がSEQ ID NO 5及びSEQ ID NO 6に示されるアミノ酸配列を含む。
【0019】
本発明が提供するヒト抗ヒトEGFR抗体は、その軽鎖可変領域がSEQ ID NO 7に示されるアミノ酸配列を含み、その重鎖可変領域がSEQ ID NO 8に示されるアミノ酸配列を含むことが好ましい。
【0020】
本発明が提供するヒト抗ヒトEGFR抗体は、少なくとも約10
-8Mの親和力でヒトEGFRと結合する。該抗体はEGFRリガンドとヒトEGFRの結合を抑制する。該抗体はEGFRを発現する細胞と結合する。前記の細胞は、ヒト皮膚癌細胞、ヒト肝癌細胞、ヒト結腸癌細胞、ヒト子宮頚癌細胞、卵巣癌細胞、ヒト肺癌細胞、膀胱癌細胞、乳癌細胞、腎癌細胞、前立腺癌細胞、頭頚部腫瘍鱗状細胞、膵臓癌細胞、滑膜線維芽細胞またはケラチノサイトである。
【0021】
本発明は、前記抗体をコードする遺伝子を提供する。
【0022】
その中に、軽鎖可変領域をコードする遺伝子のヌクレオチド配列は、
1)、SEQ ID NO 9に示されるDNA配列、
2)、ストリンジェントな条件下で、1)に限定されたDNA配列とハイブリダイズし、且つ前記の軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列、
3)、1)に限定されたDNA配列と比べて70%以上のホモロジーを有し、且つ前記の軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列
である。
【0023】
本発明において、「ストリンジェントな条件」ということは、(1)低いイオン強度及び高い温度でのハイブリダイズ及び溶出、例えば0.2×SSC、0.1%SDS、60℃;または(2)交配する時に変性剤を添加する、例えば50%(V/V)のホルムアミド、0.1%仔牛血清/0.1Ficoll、42℃など;または(3)2つの配列の間に、相同性が少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上の場合にハイブリダイズすることを意味する。
【0024】
その中に、重鎖可変領域をコードする遺伝子のヌクレオチド配列は:
1)、SEQ ID NO 10に示されるDNA配列、
2)、ストリンジェントな条件下で、1)に限定されたDNA配列とハイブリダイズし、且つ前記の重鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列、
3)、1)に限定されたDNA配列と比べて70%以上のホモロジーを有し、且つ前記の重鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列
である。
【0025】
なお、コドンの縮退を考えれば、本発明に記載の抗体をコードする遺伝子はSEQ ID NO 9およびSEQ ID NO 10に限定されず、例えば、そのコード領域において、アミノ酸配列を変えない場合、前記の抗体をコードする遺伝子配列を改変し、抗体コードが同じな遺伝子を獲得してもよい。当業者は、抗体が発現される宿主のコドンの偏向に応じて改造遺伝子を人工的に合成することにより、抗体の発現効率を向上することができる。
【0026】
本発明は前記遺伝子を含む発現ベクターも提供する。
【0027】
本発明は前記発現ベクターを含む宿主菌、宿主細胞または発現カセットを提供する。
【0028】
本発明は、ファージディスプレイ抗体ライブラリー技術を利用して抗EGFR特異性単鎖抗体を選別して、抗体軽鎖、重鎖可変領域遺伝子を取り、且つそれを完全抗体発現ベクターにクローン化して、哺乳動物発現系またはその他の発現系により完全抗体の発現を行い、完全抗体タンパク質を取ることを含む前記抗体の製造方法を提供する。
【0029】
前記抗体がEGFRを標的とする疾病治療薬物の製造における応用を提供する。
【0030】
前記の薬物が抗腫瘍薬、抗炎症薬物または自己免疫性疾病を治療するための薬物である。
【0031】
前記抗体を含有する薬物または検出試薬も本発明の保護範囲に含まれる。
【0032】
更に、前記抗体を含有する薬物または検出試薬は、他の一種または多種の抗体と本発明の前記抗体を組み合わせて形成された混合製剤であってもよい。該抗体混合物における他の一種抗体または多種抗体は、他の一種の抗原またはEGFRの異なるエピトープに対する他の抗体であってもよい。疾病に関する複数の標的に対する複合製剤は、治療性抗体の重要な研究方向であることが報告されている。例えば、EGFR及びVEGFRという2つの標的、EGFR及びErbB2という2つの標的に対する抗体を組み合わせて使用すると、抗腫瘍の相乗効果を有する(Pennell NA, Lynch TJ. The Oncologist. 2009, 14: 399-411; Galer CE, Corey CL, Wang ZY, et al. Head Neck. 2011, 33(2): 189-198; Kawaguchi Y, Kono K, Mimura K, et al. British J Cancer, 2007, 97,494-501);EGFRの異なるエピトープに対する抗体を組み合わせて使用することも、抗腫瘍の明確的な相乗効果をもたらすため(Pedersen MW, Jacobsen HJ, Koefoed K, et al. Cancer Res. 2010, 70: 588-597)、本発明に記載の抗体と他の抗体との複合製剤も、本発明が保護しようとするものである。
【0033】
本発明は、各種の方法で細胞毒性剤と連結される前記ヒト化抗ヒトEGFR抗体を含有する抗体標的薬物を提供する。
【0034】
前記の各種の連結方法は、抗体の標識化、体外架橋または分子カップリングである。
【0035】
前記の細胞毒性剤は、化学分子、放射性同位体、ポリペプチド、毒素及び細胞への殺傷力を持つものまたはアポトーシスを誘導する特性を有するものを含む。
【0036】
本発明が提供する抗体は、完全抗体、または各種の他の形式の遺伝子工学抗体である。例えば、抗EGFR抗体として、完全抗体または抗体断片であってもよい。抗体分子の自身は治療及び診断に用いることができる。抗体は、標識化、架橋またはカップリング、及び他のタンパク質やポリペプチド分子と融合発現して複合物(例えば細胞毒性物質、放射性毒素及び/または化学分子など)を形成することにより、診断及び治療に用いることができる。
本発明は、抗体をコードする独立遺伝子、発現ベクター、ベクターにて宿主細胞をトランスフェクションする関連制御技術及び宿主細胞、抗体発現工程及び細胞培養の上澄みから抗体を回収することを更に提供する。本発明は抗体を含有する組成物及び薬理学的に許可されるデリバリー分子または溶液も提供する。当該治療用組成物は無菌のものであり、低温で凍結乾燥されることができる。
【0037】
本発明は、EGFRが誘導する一種または多種の生物学活性を抑制できる抗EGFR抗体を提供する。この抗体は、EGFRがそのリガンドとの結合を阻害することにより機能を発揮し、EGFRを発現する細胞を殺傷することにより機能を発揮し、または、EGFRと結合して複合物が内化されることで細胞表面のEGFRを消耗することにより機能を発揮することができる。EGFR拮抗剤のあらゆる阻害機能は、同様に本発明の目的と認められるべきである。
【0038】
ここで開示の保護しようとするSEQ ID NO.1〜8に示される配列は、「保存配列改変」を含み、即ち、前記抗体または前記アミノ酸配列を含有する抗体の結合特性を明らかに影響・変更しないヌクレオチド及びアミノ酸配列改変である。前記の保存配列改変は、ヌクレオチドまたはアミノ酸の置換、添加または欠落を含む。例えば部位特異的突然変異誘発及びPCR介在変異誘発などの本分野の標準技術により修飾をSEQ ID NO.1〜8に導入することは、保存配列改変の具体例であり、例えば、本発明の実施例において抗体CDR領域に対してアラニンスキャニングをすること、及び一部の部位に対してアミノ酸突然変異をすることなどである。保存的アミノ酸置換は、アミノ酸残基が相似な側鎖を有するアミノ酸残基またはその他アミノ酸残基に置換されることを含む。本分野において、相似な側鎖を有するアミノ酸残基ファミリはすでに定義された。これらのファミリは、アルカリ性側鎖を有するアミノ酸(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非電荷的な極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、シスチン、トリプトファン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、 フェニルアラニン、メチオニン)、β分岐側鎖を有するアミノ酸(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)及び芳香側鎖を有するアミノ酸(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を含む。このため、同じ側鎖ファミリに由来の他のアミノ酸残基でヒト抗EGFR抗体の非必須アミノ酸残基を置換することが好ましい。
【0039】
このため、ほとんど保存配列が改変された類似的な配列にコードされ、または保存配列が改変された類似的な配列を有する抗体を含める上記に開示のヌクレオチド配列にコードされた抗体及び/または上記に開示のアミノ酸配列を含有する抗体は、いずれも本発明の保護範囲にあると認められるべきである。
【0040】
本発明は、本発明の前記抗体または抗体の抗原結合部位の分子を含有する二重特異性または多重特異性分子を提供する。
【0041】
本発明は、抗体と他のタンパク質及び/またはポリペプチドとの融合タンパク質を提供し、本発明の前記抗体とある機能を有する他のタンパク質またはポリペプチド分子との複合物を含む。
【0042】
更に、前記の融合タンパク質は、抗体遺伝子が他の抗体または抗体断片、免疫毒素またはサイトカイン遺伝子と連結し組み換え発現ベクターを構築して、哺乳動物細胞または他の発現系を通して獲得される組み替え融合タンパク質分子である。
【0043】
本発明に記載の抗体Ame55は、良好な治療または応用の見通しを有し、主に組み換えヒトEGFRと特異的に結合する活性を有し、かつA431細胞の表面の天然EGFRと特異的に結合すると表現されている。ELISA及び免疫組織化学実験によって、該抗体は特異性が優れたことを確認した。Western Blotの結果によれば、それは非還元型EGFRのみと特異的に結合し、還元型EGFRと結合しない、または弱く結合することを確認した。
【0044】
Biacore系によって、該抗体が種々の形状のEGFRと結合する能力を計測した結果、該抗体の組み換えEGFR細胞外領域-Fc融合タンパク質との親和力K
Dが0.23nM(Biacore3000)である。フローサイトメトリーの解析によると、該抗体がA431細胞表面のEGFRと結合する相対親和力は、市販の抗体であるニモツズマブより高く、市販の抗体であるアービタックスに相当する。本発明の実施例によれば、本発明のEGFR抗体がヒトEGFRと結合する親和力は1nM以下であり、その突然変異体の親和力は10nM以下である。
【0045】
該抗体は体外でアービタックスとEGFRの結合を抑制することができ、逆に、アービタックスも該抗体とEGFRの結合を抑制することができる。該抗体とアービタックスのエピトープは空間構造の一部が重ねる可能性があると示されている。該抗体は、EGFとEGFRの結合を競争的に抑制することができる。
【0046】
該抗体はA431細胞の遊走活性を明らかに抑制することができる。細胞スクラッチヒーリングテストの結果によれば、抗体は5-50μg/ml濃度下でA431細胞スクラッチのヒーリングを著しく抑制できる。その同時に、該抗体はA431細胞生長を抑制する機能を明らかに有する。
【0047】
該抗体は、A431移植腫瘍の腫瘍生長を明らかに抑制する機能を有し、マウス一匹ごとに1mg/3dの投与量で与える場合、腫瘍の抑制率が90%以上であり、一匹ごとに0.2mg/3dの投与量で与える場合、腫瘍抑制率が60%以上である。
【0048】
該抗体に対して定向及び部位特異的に突然変異を行い、親和力が5倍以上に上がった突然変異体抗体を多株取り、突然変異体抗体の体内腫瘍抑制活性が更に改善され、例えばAmeA2、AmeA2C3、AmeA2C3-HI2、AmeA2C1、AmeA1C1のような複数の抗体の投与量は0.2mg/3dである場合、腫瘍抑制活性が80%以上である。
【0049】
本発明は、大容量の全長合成抗体ライブラリー技術により、抗EGFRの全ヒト抗体の1株及び一連の親和力が変わらない、または親和力が向上した突然変異体抗体を選別し、且つ発明した抗体は全てEGFRと特異的に結合し、その生物学的機能を抑制することができることを確認した。前記の完全ヒト抗EGFR遺伝子工学抗体の可変領域遺伝子、及び抗体遺伝子の特徴を有する完全抗体遺伝子を使用して、原核細胞、酵母細胞、真核細胞及びいずれかの組み替え系において、該抗体を発現及び生産し、または、これを基礎として再構成され、該抗体遺伝子を含有するあらゆる他の遺伝子を使用して、EGFRの生物学活性を抑制する抗体生成物を取得し、または、体外標識化または架橋の方法で取得された複合物を使用して、臨床でEGFRを過乗発現するまたは突然変異的に発現する悪性腫瘍及び/または自己免疫性疾病を治療するための特異的抗体薬物を製造することができる。