(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の表面被覆部材について第1の実施形態を用いて詳細に説明し、本発明の表面被覆部材の製造方法について第2の実施形態および第3の実施形態を用いて詳細に説明する。
【0020】
≪第1の実施形態≫
<表面被覆部材>
本発明の表面被覆部材は、基材と、その表面に形成された硬質被膜とを含む構成を有する。このような硬質被膜は、基材の全面を被覆することが好ましいが、基材の一部がこの硬質被膜で被覆されていなかったり、硬質被膜の構成が部分的に異なっていたとしても本発明の範囲を逸脱するものではない。
【0021】
このような本発明の表面被覆部材としては、切削工具、耐摩工具、金型部品、自動車部品などが挙げられる。なかでも、ドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップなどの切削工具として好適に使用することができる。
【0022】
<基材>
本発明の表面被覆部材に用いられる基材は、この種の基材として従来公知のものであればいずれのものも使用することができる。たとえば、超硬合金(たとえばWC基超硬合金、WCの他、Coを含み、あるいはTi、Ta、Nb等の炭窒化物を添加したものも含む)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの)、高速度鋼、セラミックス(炭化チタン、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウムなど)、立方晶型窒化硼素焼結体、又はダイヤモンド焼結体のいずれかであることが好ましい。
【0023】
これらの各種基材の中でも、特にWC基超硬合金、サーメット(特にTiCN基サーメット)を選択することが好ましい。これは、これらの基材が特に高温における硬度と強度とのバランスに優れ、上記用途の表面被覆部材の基材として優れた特性を有するためである。
【0024】
なお、表面被覆部材が刃先交換型切削チップ等である場合、このような基材は、チップブレーカを有するものも、有さないものも含まれ、また、刃先稜線部は、その形状がシャープエッジ(すくい面と逃げ面とが交差する稜)、ホーニング(シャープエッジに対してアールを付与したもの)、ネガランド(面取りをしたもの)、ホーニングとネガランドとを組み合せたもののいずれのものも含まれる。
【0025】
<硬質被膜>
本発明の硬質被膜は、1または2以上の層により構成され、該層のうち少なくとも1層は、CVD法により形成され、第1単位層と第2単位層とが交互に積層された多層構造を含む。本発明の硬質被膜は、上記の多層構造を含む層を少なくとも1層含む限り、他の層を含んでいてもよい。他の層としては、たとえばAl
2O
3層、TiB
2層、TiBN層、AlN層(ウルツ鉱型)、TiN層、TiCN層、TiBNO層、TiCNO層、TiAlN層、TiAlCN層、TiAlON層、TiAlONC層等を挙げることができる。
【0026】
たとえば、下地層としてTiN層、TiC層、TiCN層、TiBN層を基材の直上に含むことにより、基材と硬質被膜との密着性を高めることができる。また、Al
2O
3層を含むことにより、硬質被膜の耐酸化性を高めることができる。また、TiN層、TiC層、TiCN層、TiBN層等からなる最外層を含むことにより、表面被覆部材の刃先が使用済か否かの識別性を有することができる。なお、本発明において、硬質被膜を構成する各層の組成を「TiN」、「TiCN」等の化学式を用いて表わす場合、その化学式において特に原子比を特定していないものは、各元素の原子比が「1」のみであることを示すものではなく、従来公知の原子比が全て含まれるものとする。
【0027】
本発明の硬質被膜は、3〜30μmの厚みを有することが好ましい。その厚みが3μm未満では、耐摩耗性が不十分となる場合があり、30μmを超えると、断続加工において硬質被膜と基材との間に大きな応力が加わった際に硬質被膜の剥離または破壊が高頻度に発生する場合がある。なお、本発明の多層構造を含む層以外の他の層は、通常0.1〜10μmの厚みで形成することができる。
【0028】
<多層構造を含む層>
本発明の硬質被膜は、1または2以上の層により構成され、該層のうち少なくとも1層は、CVD法により形成され、第1単位層と第2単位層とが交互に積層された多層構造を含む。この多層構造を含む層(以下、「多層構造含有層」ともいう。)において、第1単位層は、Tiと、B、C、NおよびOからなる群より選ばれる1種以上の元素とを含む第1化合物を含み、第2単位層は、Alと、B、C、NおよびOからなる群より選ばれる1種以上の元素とを含む第2化合物を含む。
【0029】
具体的には、第1化合物として、TiC、TiN、TiCN、TiNO、TiCNO、TiB
2、TiO
2、TiBN、TiBNO、TiCBNなどを挙げることができ、第2化合物として、Al
2O
3、AlN、AlCN、AlCNO、AlNOなどを挙げることができる。Tiを含む第1化合物は高い硬度を有し、Alを含む第2化合物は優れた摺動特性を有する。
【0030】
本発明において、多層構造含有層が基材を被覆することによって表面被覆部材の耐摩耗性、耐溶着性および耐熱衝撃性等の諸特性が向上する理由については明確ではないが、たとえば、次のことが考えられる。すなわち、多層構造含有層において、第1単位層と第2単位層との間で各層を構成する組成が急激に変化することにより、構造中には大きな歪が蓄積される。さらに、特許文献2に開示されるような均一な組成を有するTi
1-xAl
xN被膜と比べ、熱的に安定な層として存在することができるため、熱衝撃による変態が起こり難い。したがって、本発明の多層構造含有層においては、変態に起因するチッピング、欠損等の発生が抑制されるとともに、第1化合物の有する高い硬度と、第2化合物の有する高い摺動特性とを十分に維持することができ、結果的に、本発明の表面被覆部材における耐摩耗性、耐溶着性および耐熱衝撃性等の諸特性が向上する。
【0031】
本発明の多層構造含有層は、0.5μm以上20μm以下の厚みを有することが好適であり、より好ましくは2μm以上18μm以下である。その厚みが0.5μm未満では、耐摩耗性が不十分となる場合があり、20μmを超えると単位層間の歪みが緩和されてしまい、硬質層としての優れた性質を失う場合がある。なお、多層構造含有層は、部分的に多層構造以外の構成、たとえばアモルファス相、fcc型結晶構造を有するTi
1-xAl
xN(0≦x≦1)などの構成を含んでいたとしても、本発明の効果を発揮する限りにおいて本発明の範囲を逸脱するものではない。
【0032】
上記多層構造含有層の多層構造において、その積層周期の厚みは20nm以上500nm以下であることが好ましく、より好ましくは100nm以上300nm以下である。積層周期を20nm未満にすることは製造技術上困難であり、積層周期が500nmを超える場合は第1単位層と第2単位層との密着強度が低下して剥離が生じてしまい、結果として上記の諸特性が低下する。なお、第1単位層および第2単位層の各層の厚みを薄くするほど上記の密着強度が高くなるが、各層の厚みを0.01μm以下とすることは製造技術上困難である。
【0033】
ここで、積層周期の厚みとは、1つの第1単位層から、該1つの第1単位層に隣接する第2単位層(第1単位層と第2単位層との間に後述する中間層を含む場合は、第2単位層に隣接する中間層を含む)を挟んで隣接する他の第1単位層までの距離をいう。なお、この距離は、第1単位層および他の第1単位層の各層の厚み方向の中点を結ぶ距離とする。
【0034】
なお、多層構造含有層を構成する層の積層数(合計積層数)は、特に限定されるものではないが、通常10層以上1000層以下とすることが好ましい。10層未満の場合は、各単位層が粗大化することから多層構造含有層の硬度が低下する場合があり、1000層を超えると各単位層が薄くなり過ぎ各層が混合する傾向を示すためである。
【0035】
また、本発明の多層構造含有層は、第1単位層と第2単位層との間に中間層を含むことができる。本発明の中間層の組成は、その厚み方向において、第1単位層と接する側から第2単位層と接する側に向けて、第1化合物の組成から第2化合物の組成へと連続的に変化する。
【0036】
たとえば、第1化合物がTiNであり、第2化合物がAlNである場合、その間に介在する中間層は、第1単位層と接する側から第2単位層と接する側に向けて、Tiの原子比が連続的に減少するとともにAlの原子比が連続的に増加する構成を有することができる。また、たとえば、第1化合物がTiAlNであり、第2化合物がAlNである場合、中間層は第1単位層と接する側から第2単位層と接する側に向けて、少なくともTiの原子比が連続的に減少する構成を有することができる。
【0037】
多層構造含有層が中間層を含むことにより上記の諸特性が向上する理由については明確ではないが、次のことが考えられる。すなわち、第1単位層と第2単位層との間に中間層を有することによって、第1単位層と第2単位層との間で組成が連続的に変化するため、多層構造含有層にさらに大きな歪が蓄積される。また、熱的により安定な層となるため、熱衝撃による変態がさらに起こり難くなる。加えて、中間層が存在することにより、第1単位層と第2単位層との密着強度が高くなる。これにより、中間層を有する多層構造含有層は、第1化合物が有する高い硬度と、第2化合物が有する高い摺動特性をさらに効果的に維持することができ、結果的に、耐摩耗性、耐溶着性および耐熱衝撃性等の諸特性がさらに向上する。
【0038】
本発明の中間層の厚みは特に限定されない。たとえば、第1単位層および/または第2単位層の厚みと同程度でもよく、それよりも極めて薄くてもよい。また、第1単位層または第2単位層のそれぞれの厚みに比して極めて厚い、換言すれば、第1単位層および/または第2単位層の厚みが中間層に比して極めて薄くてもよい。
【0039】
また、中間層を第1単位層および/または第2単位層と捉えることもできる。たとえば、第1化合物がTiNであり、第2化合物がAlNであり、中間層の組成がTi
xAl
yNであって、第1単位層と接する側から第2単位層と接する側に向けて、Tiの原子比xが1から0まで連続的に減少するとともにAlの原子比yが0から1まで連続的に増加する場合を仮定する。この場合、たとえば、中間層のうち、TiとAlとの原子比x/yが1以上の領域を第1単位層と捉え、該原子比x/yが1未満の領域を第2単位層と捉えることができる。この場合には、第1単位層と第2単位層とは明確な境界を有さないこととなる。なお、第1単位層および/または第2単位層の厚みが中間層に比して極めて薄い場合、第1単位層中の第1化合物が含まれる領域は、積層周期の厚み方向に関するTi濃度の極大点となり、第2単位層中の第2化合物が含まれる領域は、積層周期の厚み方向に関するAl濃度の極大点となる。
【0040】
また、本発明の多層構造含有層において、第1化合物がfcc型結晶構造を有し、第2化合物がhcp型結晶構造を有することが好ましい。TiNなどのTiを含む化合物に関し、hcp型結晶構造を有する化合物に比べ、fcc型結晶構造を有する化合物の方がより高い硬度を有することができる。また、AlNなどのAlを含む化合物は、fcc型結晶構造、hcp型結晶構造のいずれの構造を有する化合物においても高い摺動特性が発揮されるものの、CVD法によって形成される場合には、hcp型結晶構造を有する化合物のほうがその形成が容易である。このため、第1化合物がfcc型結晶構造を有し、第2化合物がhcp型結晶構造を有する多層構造含有層は、より高い硬度を有することができるだけでなく、より簡便に高い歩留まりでの製造が可能となり、もって、上記の諸特性がさらに向上した表面被覆部材を安価に市場に提供することができる。
【0041】
また、一般的に、CVD法によって組成の異なる層を積層する際に、各層の結晶構造が異なる場合、各層間での密着力が低下することが知られている。しかしながら、本発明者らは、鋭意検討の結果、第1単位層と第2単位層との間に中間層が存在する場合、または第1単位層と第2単位層とが明確な境界を有さない場合、すなわち、1つの積層周期の厚み方向において、第1化合物から第2化合物へとその組成が連続的に変化する構成を有する場合、各層の結晶構造が異なることに起因する密着力の低下が抑制されることを知見した。したがって、本発明の多層構造含有層において、第1単位層と第2単位層との間に中間層が存在する場合、または第1単位層と第2単位層とが明確な境界を有さない場合であって、かつ、第1化合物がfcc型結晶構造を有し、第2化合物がhcp型結晶構造を有する場合に、各層の密着力を低下させることなく、上述の効果を発揮することができる。
【0042】
また、第1化合物は、Alをさらに含んでもよい。この場合、第1化合物として、TiAlN、TiAlC、TiAlCN、TiAlCNO、TiAlNOなどを挙げることができる。第1単位層がAlをさらに含むことにより耐酸化性が向上するためである。
【0043】
なお、本発明の多層構造含有層における第1単位層、第2単位層、中間層等の組成、積層周期、第1化合物および第2化合物の結晶構造等は、走査型電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)、波長分散型X線分析(EPMA;Electron Probe Micro Analysis)、X線回折法などによって確認することができる。
【0044】
以上、詳述したように、本発明の表面被覆部材によれば、上述の多層構造含有層を含む硬質被膜で被覆されることによって、表面被覆部材の耐摩耗性、耐溶着性および耐熱衝撃性等の諸特性が向上する。したがって、本発明によって、安定化、長寿命化された表面被覆部材を提供することができる。
【0045】
≪第2の実施形態≫
<表面被覆部材の製造方法>
本発明の表面被覆部材の製造方法は、基材と、その表面に形成された、1または2以上の層により構成される硬質被膜とを含む表面被覆部材の製造方法であって、該層のうちの少なくとも1層をCVD法により形成するCVD工程を含む。該CVD工程は、Tiと、B、C、NおよびOからなる群より選ばれる1種以上の元素とを含む第1ガスを基材の表面に向かって噴出する第1工程と、Alと、B、C、NおよびOからなる群より選ばれる1種以上の元素とを含む第2ガスを基材の表面に向かって噴出する第2工程と、を含み、第1工程および第2工程は交互に繰り返される。なお、本発明の表面被覆部材の製造方法は、上記のCVD工程を行なう限り、他の工程を含むことができる。他の工程としては、たとえば、多層構造含有層以外の層を形成する工程、洗浄工程などを挙げることができる。以下、第2の実施形態における各工程について詳述する。
【0046】
<CVD工程>
本発明のCVD工程は、本発明の硬質被膜を構成する層のうちの少なくとも1層をCVD法により形成する工程である。このCVD工程においては、
図1に示すCVD装置を用いることができる。
【0047】
図1において、CVD装置1内には、基材2を保持した基材セット治具3を複数設置することができ、これらは耐熱合金鋼製の反応容器4でカバーされる。また、反応容器4の周囲にはヒータ5が配置されており、このヒータ5により、反応容器4内の温度を制御することができる。また、CVD装置1内には複数の貫通孔が形成された導入管6が配置されており、導入口7から導入管6内に導入されたガスは貫通孔を経て反応容器4内に噴出される。また、この導入管6はその軸を中心として回転することができる(図中回転矢印参照。)。反応容器4にはさらに排気管8が配置されており、反応容器4内に噴出されたガスは、排気管8の排気口9から外部へ排出される。なお、反応容器4内の治具類等は、通常黒鉛により構成される。
【0048】
本工程において、
図1に示すようなCVD装置1を用いて、以下の第1工程および第2工程を交互に繰り返すことによって、本発明の表面被覆部材の硬質被膜を構成する層の1つとしての多層構造を含有する層(以下、「多層構造含有層」ともいう。)を形成することができる。
【0049】
<第1工程>
本工程では、上記のCVD装置1を用いて、Tiと、B、C、NおよびOからなる群より選ばれる1種以上の元素とを含む第1ガスを基材の表面に向かって噴出する。
【0050】
具体的には、
図1において、Tiと、B、C、NおよびOからなる群より選ばれる1種以上の元素とを含む第1ガスを導入口7から導入管6内に導入する。導入口7から導入された第1ガスは、導入管6の複数の貫通孔から反応容器4内に噴出される。このとき、導入管6はその軸を中心として回転しているため、第1ガスは、導入管6の周囲に配置された基材2の表面に向かって均一に噴出される。
【0051】
Tiと、B、C、NおよびOからなる群より選ばれる1種以上の元素とを含む第1ガスとしては、Tiを含む金属系ガスと、B、C、NおよびOからなる群より選ばれる1種以上の元素を含む非金属系ガスとの混合ガスを用いることができる。Tiを含む金属系ガスとしては、TiCl
4などの塩化チタンガスを挙げることができる。また、B含む非金属系ガスとしては、BCl
3などの塩化ホウ素ガスを、Cを含む非金属系ガスとしては、CH
2CH
2などの炭化水素ガスを、Nを含む非金属系ガスとしては、NH
3、N
2H
4、N
2などの窒素含有ガスを、Oを含む非金属系ガスとしてはH
2O(水蒸気)などを挙げることができる。たとえば、TiとBとCとを含む第1ガスを用いる場合、金属系ガスとしてのTiCl
4と、非金属系ガスとしてのBCl
3およびCH
2CH
2とが混合された混合ガスを用いることができる。なお、Cを含む非金属系ガスとしての炭化水素ガスは、好ましくは不飽和炭化水素からなる炭化水素ガスである。
【0052】
本工程において、反応容器4内の温度は700〜900℃の範囲が好ましく、反応容器4内の圧力は0.1〜10kPaであることが好ましい。また、第1ガスとともにN
2、H
2、Arなどのキャリアガスを導入口7から導入することもできる。
【0053】
<第2工程>
本工程では、上記のCVD装置1を用いて、Alと、B、C、NおよびOからなる群より選ばれる1種以上の元素とを含む第2ガスを基材の表面に向かって噴出する。
【0054】
具体的には、
図1において、Alと、B、C、NおよびOからなる群より選ばれる1種以上の元素とを含む第2ガスを導入口7から導入管6内に導入する。導入口7から導入された第2ガスは、導入管6の複数の貫通孔から反応容器4内に噴出される。このとき、導入管6はその軸を中心として回転しているため、第2ガスは、導入管6を中心とした周囲に配置された基材2の表面に向かって均一に噴出される。
【0055】
Alと、B、C、NおよびOからなる群より選ばれる1種以上の元素とを含む第2ガスとしては、Alを含む金属系ガスと、B、C、NおよびOからなる群より選ばれる1種以上の元素を含む非金属系ガスとの混合ガスを用いることができる。Alを含む金属系ガスとしては、AlCl
3などの塩化アルミニウムガスを挙げることができる。なお、B、C、NおよびOのいずれかを含む非金属系ガスは上述の第1工程で列挙されるガスと同様であるため、その説明は繰り返さない。したがって、たとえば、AlとBとCとを含む第2ガスを用いる場合、金属系ガスとしてのAlCl
3と、非金属系ガスとしてのBCl
3およびCH
2CH
2とが混合された混合ガスを用いることができる。
【0056】
本工程において、反応容器4内の温度は700〜900℃の範囲が好ましく、反応容器4内の圧力は0.1〜10kPaであることが好ましい。また、第2ガスとともにN
2、H
2、Arなどのキャリアガスを導入口7から導入することもできる。
【0057】
<第1工程および第2工程の繰り返し>
本発明の製造方法において、上記第1工程および上記第2工程は交互に繰り返される。すなわち、導入管6には、第1ガスと第2ガスとが交互に導入され、これにより、基材2の表面に向かって第1ガスと第2ガスとが交互に噴出されることになる。
【0058】
以上詳述した工程を行うことにより、基材2の表面には、第1ガスに起因する第1単位層と、第2ガスに起因する第2単位層とが交互に積層された多層構造含有層を形成することができる。具体的には、Tiと、B、C、NおよびOからなる群より選ばれる1種以上の元素とを含む第1化合物を含む第1単位層と、Alと、B、C、NおよびOからなる群より選ばれる1種以上の元素とを含む第2化合物を含む第2単位層とが交互に積層された多層構造含有層を形成することができる。したがって、当該製造方法を用いて硬質被膜を形成することにより、耐摩耗性、耐溶着性および耐熱衝撃性等の諸特性が向上した表面被覆部材を製造することができ、もって、安定化、長寿命化された表面被覆部材を製造することができる。
【0059】
なお、第1単位層および第2単位層の組成は、金属系ガスおよび非金属系ガスの混合割合によって制御することができ、第1単位層および第2単位層の厚みは成膜時間によって制御することができ、積層周期および層数は導入管6の回転速度によって制御することができる。また、成膜温度を制御することによって、第1化合物および第2化合物のそれぞれの結晶構造(fcc型結晶構造またはhcp型結晶構造)を制御することができる。また、中間層の組成、厚みは、金属系ガスおよび非金属系ガスの導入速度を制御することによって制御できる。具体的には、上述のCVD工程において、金属系ガスおよび非金属系ガスを比較的遅い速度で導入することにより、厚みの大きい中間層を形成することができ、金属系ガスおよび非金属系ガスを比較的早い速度で導入することにより厚みの小さい中間層を形成することができる。
【0060】
<変形例>
本発明の第1工程において、第1ガスはAlをさらに含んでもよい。すなわち、上記第1工程および第2工程が交互に繰り返されている間、Alを含む金属系ガスは、その導入量(mol/min)については一定である場合と変化する場合とがあるものの、少なくとも反応容器4内に常時導入されることになる。換言すれば、CVD工程において、Alを含む金属系ガスと、B、C、NおよびOからなる群より選ばれる1種以上の元素を含む非金属系ガスとが反応容器4内に常時導入され、Tiを含む金属系ガスが反応容器4内に間欠的に反応容器4内に導入されることになる。
【0061】
この場合、形成される多層構造含有層において、第1単位層は、Tiと、Alと、B、C、NおよびOからなる群より選ばれる1種以上の元素とを含む第1化合物を含み、第2単位層は、Alと、B、C、NおよびOからなる群より選ばれる1種以上の元素とを含む第2化合物を含む層となる。
【0062】
≪第3の実施形態≫
<表面被覆部材の製造方法>
本発明の表面被覆部材の製造方法は、基材と、その表面に形成された、1または2以上の層により構成される硬質被膜とを含む表面被覆部材の製造方法であって、該層のうちの少なくとも1層をCVD法により形成するCVD工程を含む。該CVD工程は、Tiと、B、C、NおよびOからなる群より選ばれる1種以上の元素とを含む第1ガスを基材の表面に向かって噴出する第1工程と、Alと、B、C、NおよびOからなる群より選ばれる1種以上の元素とを含む第2ガスを基材の表面に向かって噴出する第2工程と、を含み、第1工程および第2工程は交互に繰り返される。以下、本実施形態においては、上述した第2の実施形態と異なる部分を主に説明する。
【0063】
<CVD工程>
本発明のCVD工程は、本発明の硬質被膜を構成する層のうちの少なくとも1層をCVD法により形成する工程である。このCVD工程においては、
図2に示すCVD装置を用いることができる。
【0064】
図2において、CVD装置11内には、基材12を保持した基材セット治具13を複数設置することができ、これらは耐熱合金鋼製の反応容器14でカバーされる。また、反応容器14の周囲にはヒータ15が配置されており、このヒータ15により、反応容器14内の温度を制御することができる。また、CVD装置11内には複数の貫通孔が形成された導入管16が配置されており、該導入管16は二つの導入口17、18を有する。導入口17、18のそれぞれから導入管16内に導入されたガスは、導入管16内においても混合されることなく、それぞれ異なる貫通孔を経て反応容器14内に噴出される。また、この導入管16はその軸を中心として回転することができる(図中回転矢印参照。)。反応容器14にはさらに排気管19が配置されており、反応容器14内に噴出されたガスは、排気管19の排気口20から外部へ排出される。なお、反応容器14内の治具類等は、通常黒鉛により構成される。
【0065】
本工程において、
図2に示すようなCVD装置11を用いて、以下の第1工程および第2工程を交互に繰り返すことによって、本発明の、表面被覆部材の表面を被覆する硬質被膜を構成する層の1つとしての多層構造含有層を形成することができる。
【0066】
<第1工程>
本工程では、上記のCVD装置11を用いて、Tiと、B、C、NおよびOからなる群より選ばれる1種以上の元素とを含む第1ガスを基材の表面に向かって噴出する。
【0067】
具体的には、
図2において、Tiを含む金属系ガスを導入口17から導入管16内に導入する。これと同時に、B、C、NおよびOからなる群より選ばれる1種以上の元素を含む非金属系ガスを導入口18から導入管16内に導入する。導入口17から導入された金属系ガスと、導入口18から導入された非金属系ガスとは、それぞれ異なる複数の貫通孔から反応容器14内に噴出される。このとき、導入管16はその軸を中心として回転しているため、金属系ガスと非金属系ガスとは反応容器14内に噴出された直後に混合される。そして、この混合されたガスは、第1ガスとして導入管16の周囲に配置された基材12の表面に向かって均一に噴出される。
【0068】
Tiを含む金属系ガス、B、C、NおよびOからなる群より選ばれる1種以上の元素を含む非金属系ガスとしては、第2の実施形態において列挙したガスと同様のガスを用いることができる。また、本工程において、反応容器14内の温度は600〜900℃の範囲が好ましく、反応容器14内の圧力は0.1〜10kPaであることが好ましい。また、第1ガスとともにN
2、H
2、Arなどのキャリアガスを導入口17、18のそれぞれから導入することもできる。
【0069】
<第2工程>
本工程では、上記のCVD装置11を用いて、Alと、B、C、NおよびOからなる群より選ばれる1種以上の元素とを含む第2ガスを基材の表面に向かって噴出する。
【0070】
具体的には、
図2において、Alを含む第2ガスを導入口18から導入管16内に導入する。これと同時に、B、C、NおよびOからなる群より選ばれる1種以上の元素を含む非金属系ガスを導入口18から導入管16内に導入する。導入口17から導入された金属系ガスと、導入口18から導入された非金属系ガスとは、それぞれ異なる複数の貫通孔から反応容器14内に噴出される。このとき、導入管16はその軸を中心として回転しているため、金属系ガスと非金属系ガスとは反応容器14内に噴出された直後に混合される。そして、この混合されたガスは、第2ガスとして導入管16の周囲に配置された基材12の表面に向かって均一に噴出される。
【0071】
Alを含む金属系ガス、B、C、NおよびOからなる群より選ばれる1種以上の元素を含む非金属系ガスとしては、第2の実施形態において列挙したガスと同様のガスを用いることができる。また、本工程において、反応容器14内の温度は600〜900℃の範囲が好ましく、反応容器14内の圧力は0.1〜10kPaであることが好ましい。また、第2ガスとともにN
2、H
2、Arなどのキャリアガスを導入口17、18のそれぞれから導入することもできる。
【0072】
<第1工程および第2工程の繰り返し>
本発明の製造方法において、上記第1工程および上記第2工程は交互に繰り返される。すなわち、導入口17より、Tiを含む金属系ガスとAlを含む金属系ガスとが交互に導入され、導入口18より、B、C、NおよびOからなる群より選ばれる1種以上の元素を含む非金属系ガスが連続的に導入される。このとき、導入管16が回転することにより、導入口17からTiを含む金属系ガスが導入されている場合には、反応容器14内に第1ガスが分散され、導入口17からAlを含む金属系ガスが導入されている場合には、反応容器14内に第2ガスが分散されることになる。
【0073】
以上詳述した工程を行うことにより、基材2の表面には、第1ガスに起因する第1単位層と、第2ガスに起因する第2単位層とが交互に積層された多層構造含有層を形成することができる。具体的には、Tiと、B、C、NおよびOからなる群より選ばれる1種以上の元素とを含む第1化合物を含む第1単位層と、Alと、B、C、NおよびOからなる群より選ばれる1種以上の元素とを含む第2化合物を含む第2単位層とが交互に積層された多層構造含有層を形成することができる。したがって、当該製造方法を用いて硬質被膜を形成することにより、摩耗性、耐溶着性および耐熱衝撃性等の諸特性が向上した表面被覆部材を製造することができ、もって、安定化、長寿命化された表面被覆部材を製造することができる。
【0074】
なお、第1単位層および第2単位層の組成は、金属系ガスおよび非金属系ガスの混合割合によって制御することができ、第1単位層および第2単位層の厚みは成膜時間によって制御することができ、積層周期および層数は導入管6の回転速度によって制御することができる。また、成膜温度を制御することによって、第1化合物および第2化合物のそれぞれの結晶構造(fcc型結晶構造またはhcp型結晶構造)を制御することができる。また、中間層の組成、厚みは、金属系ガスおよび非金属系ガスの導入速度を制御することによって制御できる。具体的には、上述のCVD工程において、金属系ガスおよび非金属系ガスを比較的遅い速度で導入することにより、厚みの大きい中間層を形成することができ、金属系ガスおよび非金属系ガスを比較的早い速度で導入することにより厚みの小さい中間層を形成することができる。
【0075】
また、本実施形態に係る製造方法は、非金属系ガスとして、N
2、NH
3、N
2H
4からなる群より選ばれる1種以上を含む第1ガスおよび/または第2ガスを用いて多層構造含有層を形成する場合に好適に用いることができ、なかでも、非金属系ガスとして、NH
3およびN
2H
4の少なくともいずれか一方を用いることが好ましい。その理由は次の通りである。
【0076】
すなわち、NH
3およびN
2H
4はTiCl
4、AlCl
3などのハロゲン化合物との反応性が高いため、非金属系ガスとしてこれらを用いることによって、短時間でより均質な窒化チタニウム層、窒化アルミニウム層を形成することができるという利点を有する。しかし、その一方で、その反応性の高さ故に、上記のハロゲン化合物と不要な反応を起こすという欠点を有する。この不要な反応に伴う反応物が、CVD装置の導入管や貫通孔の詰まりの原因となるために、これらのガスはCVD法における取り扱いが困難なのが実情であった。これに対し、本実施形態に係る製造方法によれば、金属系ガスと非金属系ガスとは反応容器内に噴出された直後に混合されるため、導入管、貫通孔通過時に不要な反応が起こることがない。したがって、本実施形態に係る製造方法によれば、NH
3およびN
2H
4の少なくともいずれか一方を用いて、短時間でより均質な多層構造含有層を形成することができる。
【0077】
また、本実施形態に係る製造方法は、非金属系ガスとして、NH
3およびN
2H
4の少なくともいずれか一方とN
2とを混合したガスを用いることが好ましい。NH
3およびN
2H
4の少なくともいずれか一方とN
2とを混合することにより、混合しない場合と比較して、200〜300℃低い温度環境下での多層構造含有層の形成が可能となる。
【0078】
<変形例>
本発明の第1工程において、第1ガスはAlをさらに含んでもよい。すなわち、上記第1工程および第2工程が交互に繰り返されている間、Alを含む金属系ガスは、その導入量(mol/min)については一定である場合と変化する場合とがあるものの、少なくとも反応容器4内に常時導入されることになる。換言すれば、CVD工程において、Alを含む金属系ガスと、B、C、NおよびOからなる群より選ばれる1種以上の元素を含む非金属系ガスとが反応容器4内に常時導入され、Tiを含む金属系ガスが反応容器4内に間欠的に反応容器4内に導入されることになる。
【実施例】
【0079】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0080】
<基材の調製>
以下の表1に記載の基材Aおよび基材Bを準備した。具体的には、表1に記載の配合組成からなる原料粉末を均一に混合し、所定の形状に加圧成形した後、1300〜1500℃で1〜2時間焼結することにより、形状がCNMG120408NUXとSEET13T3AGSN−Gとの2種類の形状の超硬合金製の基材を得た。すなわち、各基材毎に2種の異なった形状のものを作製した。なお、表1の「残り」とは、WCが配合組成(質量%)の残部を占めることを示している。
【0081】
上記2種の形状はいずれも住友電工ハードメタル社製のものであり、CNMG120408NUXは旋削用の刃先交換型切削チップの形状であり、SEET13T3AGSN−Gは転削(フライス)用の刃先交換型切削チップの形状である。
【0082】
【表1】
【0083】
<多層構造含有層の形成>
上記で得られた基材に対してその表面に多層構造含有層を形成した。具体的には、
図2に示すCVD装置11を用い、基材を反応容器14内にセットし、CVD法を行うことにより、基材上に多層構造含有層を形成した。各多層構造含有層の形成条件は以下の表2に記載した通りである。
【0084】
表2を参照し、多層構造含有層の形成条件はa〜gの7通りである。形成条件a〜gにおいては、Tiを含む金属系ガスとしてTiCl
4を、Alを含む金属系ガスとしてAlCl
3を用い、これらの金属系ガスをH
2およびN
2からなるキャリアガスとともに導入口17から導入管16に導入した。また、Nを含む非金属系ガスとしてNH
3およびN
2を用い、該非金属系ガスを導入口18より導入管16に導入した。そして、導入管16を回転させて金属系ガスおよび非金属系ガスをそれぞれ異なる貫通孔から噴出させることによって、導入口17からTiCl
4が導入されている際にはTiCl
4、NH
3およびN
2が混合された第1ガスが基材の表面に噴出され、導入口17からAlCl
3が導入されている際にはAlCl
3、NH
3およびN
2が混合された第2ガスが基材の表面に噴出される構成とした。
【0085】
具体的には、たとえば、形成条件aにおいては、0.1mol/minのAlCl
3、2.9mol/minのH
2、および1.0mol/minのN
2を導入口17から反応容器14内に導入するとともに、0.025mol/minのTiCl
4を10秒のインターバルをもって導入口17から導入した。また、NH
3およびN
2が0.09mol/minおよび0.9mol/minとなるように混合した非金属系ガスを導入口18から反応容器14内に導入した。なお、表2における「TiCl
4流量(mol/min)」の欄の「0→0.025」とは、TiCl
4を0.025mol/minの流量で10秒間導入した後、10秒間導入を停止し、その後、再度0.025mol/minの流量で10秒間導入する、という繰り返しを行ったことを示している。そして、導入口17および導入口18から各ガスを導入するとともに、導入管16を5rpmで回転させることによって、TiCl
4、NH
3およびN
2が混合された第1ガスと、AlCl
3、NH
3およびN
2が混合された第2ガスとを基材の表面に交互に噴出させた。このときの反応容器14内は圧力1.3kPa、温度800℃の条件に保持されていた。これを30分間行うことにより、厚み5.0μmの多層積層含有層を形成した。
【0086】
各形成条件において、多層構造含有層の厚みは成膜時間でもって制御し、多層構造含有層におけるTiNとAlNとの積層周期は導入管16の回転速度(rpm)および非金属系ガスの導入量(mol/min)でもって制御した。
【0087】
【表2】
【0088】
<多層構造含有層の確認>
形成された各多層構造含有層の構成を、SEM、EPMAおよびX線回折法を用いて確認した。この結果を表3に示す。表3中、形成条件aにおいて、「fcc−TiN(50nm)/hcp−AlN(100nm)」とあるが、これは、第1単位層を構成する第1化合物がfcc結晶構造のTiNであってその厚みが50nmであり、第2単位層を構成する第2化合物がhcp結晶構造のAlNであってその厚みが100nmであり、各層が交互に積層されていることを示している。また、「積層周期」とは、TiN層の厚み方向の中点から1つのAlN層を介して隣接するTiN層の厚み方向の中点までの距離、すなわち、1つのTiN層の厚みと1つのAlN層の厚みとの和を示しており、「厚み(μm)」は多層構造含有層の厚みを示している。また、表3に、比較例として形成条件x、yにより形成した層を示した。形成条件xにおいては特許文献1に開示されるPVD法を用いて硬質被膜を形成し、形成条件yにおいては特許文献2に開示されるCVD法を用いて硬質被膜を形成した。
【0089】
【表3】
【0090】
<多層構造含有層の摺動特性>
形成条件a〜gのそれぞれで形成された多層構造含有層、形成条件x、yのそれぞれで形成された層について、以下の条件でピンオンディスク試験を行って摩擦力を求め、これにより摩擦係数(摩擦力/荷重)を算出した。また、ピンオンディスク試験後の各層の各表面について、試験後の摺動溝を横切る形で触針式表面粗さ計にて各々4回ずつ測定し、これにより、摺動部への溶着量(μm
2)を求めた。なお、溶着量(μm
2)は被膜最表面よりも上に凸となった部分の面積、すなわち、摺動溝断面での上凸部面積を溶着量とした。
【0091】
<ピンオンディスク試験条件>
ボール材質:SUS304
ボール半径:2mm
荷重:1N
回転速度:3m/min
摺動距離:3m
環境:大気圧環境下
摩擦係数および溶着量の結果を表3に示す。表3から明らかなように、形成条件a〜gにより形成された本発明の多層構造含有層は、形成条件xおよびyにより形成された従来の各層に比し、摩擦係数が小さく、また、溶着量が少ない、すなわち耐溶着性が高く、もって、高い摺動特性を有していた。
【0092】
<表面被覆部材の作製>
上記の表2および下記の表4の条件により基材上に硬質被膜を形成することにより、以下の表5に示した実施例1〜15および比較例1〜6の表面被覆部材としての切削工具を作製した。表4に記載した各層については、表4に示す各ガスを表4に示した容積%の比となるように混合した混合ガスを、表4に示した全ガス量(L/min)となるように導入口17から導入し、表4に示す環境下でCVD工程を行うことにより形成した。なお、表4中の「残り」とは、H
2が原料ガス(反応ガス)の残部を占めることを示している。また、「全ガス量」とは、標準状態(0℃、1気圧)における気体を理想気体とし、単位時間当たりに反応容器14内に導入された全体積流量を示す。
【0093】
たとえば実施例13の切削工具は、基材として表1に記載の基材Bを採用し、その基材Bの表面に下地層として厚み1.0μmのTiN層を表4の条件で形成し、その下地層上に厚み3.0μmのTiCN層を表4の条件で形成し、そのTiCN層上に厚み3.0μmの多層構造含有層を表2の形成条件fで形成し、その多層構造含有層上に厚み0.5μmのTiN層を表4の条件で形成することにより、基材上に合計厚み7.5μmの硬質被膜を形成した構成であることを示している。なお、表5中の空欄(ハイフン)は、該当する層が形成されていないことを示す。
【0094】
【表4】
【0095】
【表5】
【0096】
<切削試験>
上記で得られた切削工具のそれぞれを用いて、以下の4種類の切削試験を行った。
【0097】
<切削試験1>
以下の表6に記載した実施例および比較例の切削工具(基材の形状がCNMG120408NUXであるものを使用)について、以下の切削条件により逃げ面摩耗量(Vb)が0.20mmとなるまでの切削時間を測定するとともに刃先の最終損傷形態を観察した。その結果を表6に示す。切削時間が長いもの程、耐摩耗性に優れていることを示す。また、最終損傷形態が正常摩耗に近いもの程、耐溶着性に優れていることを示す。
【0098】
<切削条件>
被削材:SUS316丸棒外周切削
周速:180m/min
送り速度:0.15mm/rev
切込み量:1.0mm
切削液:あり
【0099】
【表6】
【0100】
表6より明らかなように、本発明の実施例の切削工具は、比較例の切削工具に比し、耐摩耗性および耐溶着性の両者に優れており、もって、安定化、長寿命化されていた。なお、表6の最終損傷形態において、「正常摩耗」とはチッピング、欠けなどを生じず、摩耗のみで構成される損傷形態(平滑な摩耗面を有する)を意味し、「チッピング」とは切れ刃部に生じた微小な欠けを意味する。
【0101】
<切削試験2>
以下の表7に記載した実施例および比較例の切削工具(基材の形状がCNMG120408NUXであるものを使用)について、以下の切削条件により逃げ面摩耗量(Vb)が0.20mmとなるまでの切削時間を測定するとともに刃先の最終損傷形態を観察した。その結果を表7に示す。切削時間が長いもの程、耐摩耗性に優れていることを示す。また、最終損傷形態が正常摩耗に近いもの程、耐溶着性に優れていることを示す。
【0102】
<切削条件>
被削材:FCD700丸棒外周切削
周速:200m/min
送り速度:0.15mm/rev
切込み量:1.0mm
切削液:あり
【0103】
【表7】
【0104】
表7より明らかなように、本発明の実施例の切削工具は、比較例の切削工具に比し、耐摩耗性および耐溶着性の両者に優れており、もって、安定化、長寿命化されていた。なお、表7の最終損傷形態において、「正常摩耗」とはチッピング、欠けなどを生じず、摩耗のみで構成される損傷形態(平滑な摩耗面を有する)を意味し、「欠損」とは切れ刃部に生じた大きな欠けを意味する。
【0105】
<切削試験3>
以下の表8に記載した実施例および比較例の切削工具(基材の形状がSEET13T3AGSN−Gであるものを使用)について、以下の切削条件により欠損または逃げ面摩耗量(Vb)が0.20mmになるまでの切削距離を測定するとともに刃先の最終損傷形態を観察した。その結果を表8に示す。切削距離が長いもの程、耐溶着性に優れていることを示す。また、最終損傷形態が正常摩耗に近いもの程、耐熱衝撃性に優れていることを示す。
【0106】
<切削条件>
被削材:SUS304ブロック材
周速:200m/min
送り速度:0.3mm/s
切込み量:2.0mm
切削液:なし
カッタ:WGC4160R(住友電工ハードメタル社製)
【0107】
【表8】
【0108】
表8より明らかなように本発明の実施例の切削工具は、比較例の切削工具に比し、耐溶着性および耐熱衝撃性の両者に優れており、もって、安定化、長寿命化されていた。なお、表8の最終損傷形態において、「正常摩耗」とはチッピング、欠けなどを生じず、摩耗のみで構成される損傷形態(平滑な摩耗面を有する)を意味し、「欠損」とは切れ刃部に生じた大きな欠けを意味し、「チッピング」とは、切れ刃部に生じた微小な欠けを意味する。
【0109】
<切削試験4>
以下の表9に記載した実施例および比較例の切削工具(形状がSEET13T3AGSN−Gであるものを使用)について、以下の切削条件により欠損または逃げ面摩耗量(Vb)が0.20mmになるまでの切削距離を測定するとともに刃先の最終損傷形態を観察した。その結果を表9に示す。切削距離が長いもの程、耐溶着性に優れていることを示す。また、最終損傷形態が正常摩耗に近いもの程、耐熱衝撃性に優れていることを示す。
【0110】
<切削条件>
被削材:SCM435ブロック材
周速:300m/min
送り速度:0.3mm/s
切込み量:2.0mm
切削液:あり
カッタ:WGC4160R(住友電工ハードメタル社製)
【0111】
【表9】
【0112】
表9より明らかなように本発明の実施例の切削工具は、比較例の切削工具に比し、少なくとも耐溶着性に優れており、もって、安定化、長寿命化されていた。なお、表9の最終損傷形態において、「正常摩耗」とはチッピング、欠けなどを生じず、摩耗のみで構成される損傷形態(平滑な摩耗面を有する)を意味する。
【0113】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0114】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。