(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6143165
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】船舶の摩擦抵抗低減装置
(51)【国際特許分類】
B63B 1/38 20060101AFI20170529BHJP
【FI】
B63B1/38
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-64798(P2013-64798)
(22)【出願日】2013年3月26日
(65)【公開番号】特開2014-189094(P2014-189094A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2016年3月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】593005644
【氏名又は名称】JFE物流株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】502116922
【氏名又は名称】ジャパンマリンユナイテッド株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】長井 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】田中 寿夫
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 啓市
(72)【発明者】
【氏名】日夏 宗彦
(72)【発明者】
【氏名】岸本 雅裕
【審査官】
川村 健一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−227675(JP,A)
【文献】
特開2013−010394(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体の供給源である送気部と、
船舶の内部の底部に設けられ、前記船舶の船底を貫通して設けられた複数の空気吹出孔と、
複数のロンジを跨いで設けられ、前記空気吹出孔に連通すると共に、前記送気部から気体が供給されるチャンバとを有し、
前記チャンバには、前記船舶の船底に設けられた開口部と、該開口部に嵌合し、かつ固定された前記空気吹出孔を有する蓋部とを有し、
前記蓋部の前記チャンバ側の面には、前記送気部から前記チャンバに供給された気体を前記チャンバ内に拡散させるための拡散板が設けられたことを特徴とする船舶の摩擦抵抗低減装置。
【請求項2】
前記蓋部は、前記開口部の内側に突出して設けられた係止部に周縁部を重畳させて、該係止部に固定されたことを特徴とする請求項1に記載の船舶の摩擦抵抗低減装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の摩擦抵抗低減装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、船舶においては、航行時に船舶の底面を気泡で覆うことにより、船舶の底面における摩擦を低減する船舶の摩擦抵抗低減装置が提案されている(例えば、特許文献1〜7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−214061号公報
【特許文献2】特開2011−105185号公報
【特許文献3】特開平10−109685号公報
【特許文献4】特開平11−301570号公報
【特許文献5】特開平11−227675号公報
【特許文献6】特開2010−023764号公報
【特許文献7】特開2013−10394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような摩擦抵抗低減機構を備えた船舶においては、空気吹出孔に連通するチャンバ内を定期的にメンテナンス(点検、清掃、塗装)しないと、空気吹出の効果が低下する可能性があった。このようなチャンバ内のメンテナンス方法について、特許文献1〜5に記載の船舶の摩擦抵抗低減装置等には、特に記載されていないが、特許文献6において吹出孔金具(メンテナンス目的ではない)自体のフランジ部が保持プレートに固着されたことが記載されているのみである(同文献段落〔0026〕及び
図4参照)。
そして、特許文献7においては、ロンジ間に取り外し可能なチャンバを設けることで当該チャンバの内部のメンテナンスを行うことができる旨記載されている。
【0005】
しかしながら、特許文献7に開示された構造を採用した場合、チャンバを取り外して当該チャンバ内をメンテナンスする必要があることから、作業自体が大がかりとなり、例えば、ドック内でチャンバ内のメンテナンスをする際、船底に相応のスペースを要するため、効率が悪い。また新造船及び既存船へ文献7に記載のチャンバを装着する際は、費用、工期とも掛かる欠点がある。
従って、本発明は上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、チャンバ内のメンテナンス時に効率よく作業できる船舶の摩擦抵抗低減装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題を解決するため、本発明のある船舶の摩擦抵抗低減装置は、気体の供給源である送気部と、
船舶の内部の底部に設けられ、前記船舶の船底を貫通して設けられた複数の空気吹出孔と、
複数のロンジを跨いで設けられ、前記空気吹出孔に連通すると共に、前記送気部から気体が供給されるチャンバとを有し、
前記チャンバには、前記船舶の船底に設けられた開口部と、該開口部に嵌合し、かつ固定された前記空気吹出孔を有する蓋部とを有
し、
前記蓋部の前記チャンバ側の面には、前記送気部から前記チャンバに供給された気体を前記チャンバ内に拡散させるための拡散板が設けられている。
【0007】
ここで、上記船舶の摩擦抵抗低減装置は、上記蓋部が、上記開口部の内側に突出して設けられた係止部に周縁部を重畳させて、該係止部に固定されてもよい
。
【発明の効果】
【0008】
本発明の船舶の摩擦抵抗低減装置によれば、チャンバ内のメンテナンス時に効率よく作業できる船舶の摩擦抵抗低減装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る船舶の摩擦抵抗低減装置のある実施形態における構成を示す平面図である。
【
図2】本発明に係る船舶の摩擦抵抗低減装置のある実施形態における構成を示す側面概略図である。
【
図3】本発明に係る船舶の摩擦抵抗低減装置のある実施形態における前側のチャンバの構成を示す図であり、(a)は底面図、(b)は正面図、(c)は平面図である。
【
図4】本発明に係る船舶の摩擦抵抗低減装置のある実施形態における後側のチャンバの構成を示す図であり、(a)は底面図、(b)は正面図である。
【
図5】本発明に係る船舶の摩擦抵抗低減装置のある実施形態における蓋部の構成を示す図であり、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る船舶の摩擦抵抗低減装置の一実施形態について、図面を参照して説明する。なお、本実施形態の説明において、「正面図」は船舶の船首側から当該船舶を見た図を示す。
【0011】
(船舶の摩擦抵抗低減装置の構造)
図1は、本実施形態の摩擦抵抗低減装置における構成を示す平面図であり、船首部における船底の形状に沿って摩擦抵抗低減装置が配置された構成を甲板側からみた模式図である。また、
図2は、本実施形態の摩擦抵抗低減装置における構成を示す側面概略図である。また、
図3は、本実施形態の摩擦抵抗低減装置における前側のチャンバ(10A,10B)の構成を示す図であり、(a)は底面図(船底側から見た図)、(b)は正面図(
図3(a)の3b矢視図)、(c)は(船体内部における)平面図である。また、
図4は、本実施形態の摩擦抵抗低減装置における後側のチャンバ(10C,10D)の構成を示す図であり、(a)は底面図(船底側から見た図)、(b)は正面図(
図4(a)の4b矢視図)である。なお、
図3(b)及び
図4(b)に示すチャンバ10A〜10Dのそれぞれの構成は、あくまでも一例であって、
図3(a)及び
図4(a)に示すチャンバ10A〜10Dのそれぞれの配置に制限されるものではない。また、
図5は、本実施形態の摩擦抵抗低減装置における蓋部の構成を示す図であり、(a)は平面図、(b)は船底に設けた際の断面図である。
【0012】
図1に示すように、船舶100の上甲板の裏面や船側及び船底外板の内面には、例えば、船体の前後方向の補強材としてガーダー50やロンジ60(
図3(b)参照)が設けられている。また、ガーダー50やロンジ60と直交して、船体外板及び上甲板の補強材としてフレーム40が設けられており、平面的に見ると格子状の骨組み構造になっている。そして、前後方向及び幅方向の補強材は、互いに貫き通され、外板内面に、又は補強材同士が溶接によって接合されている。
【0013】
本実施形態の船舶の摩擦抵抗低減装置1は、船舶100の船底110に複数設けられたチャンバ10と、チャンバ10内に空気を供給する送気部20と、空気吹出孔31(
図3参照)と、船底110に形成された開口部130に嵌合固定された蓋部140とを有する。
【0014】
<チャンバ>
チャンバ10は、
図1及び
図2に示すように、船舶100の内部の底部(船底)に設けられ、船底が当該チャンバ10の底部を兼ねて仕切られた区画である。チャンバ10は、船底に複数設けられ、例えば、船首前方から左右1対ずつ2箇所に当該船舶100の船型に沿ってチャンバ10A,10B,10C,10Dが設けられる。それぞれのチャンバ10(10A,10B,10C,10D)は複数のロンジ60を跨いで(有して)設けられている。なお、
図1では、チャンバ10A,10B,10C,10Dをハッチング表示している。
【0015】
<送気部>
送気部20は、
図1及び
図2に示すように、空気を取り込むブロア21と、このブロア21と各チャンバ10A,10B,10C,10Dとを連結して、図示しないモータによってブロア21から取り込まれた空気を各チャンバ10A,10B,10C,10Dに提供する供給管22とを有する。例えば、供給管22は、その一端部22aがブロア21に連結され、他端部22bが各チャンバ10A,10B,10C,10D内に挿通されている。
このように構成された送気部20は、図示しない制御部によって、上述のモータを駆動させてブロア21による空気の供給先や、噴出量が制御される。
【0016】
<空気吹出孔>
空気吹出孔31は、チャンバ10に供給された空気を船外(海中)に吹き出すために船底110を穿孔してなる貫通孔である。具体的に、空気吹出孔31は、
図3(a)及び
図4(a)に示すように、複数の空気吹出孔31(例えば3つ)が船舶100の幅方向の軸に沿って前後方向に非対称の形状をなすと共に、船舶100の幅方向の軸に沿って前後方向に互い違いの形状(zig−zag形状)で繰り返して形成されることが好ましい。ここで、空気吹出孔31は、例えば、
図3(a)に示すように、三角形状をなす板状の空気吹出孔ユニット30に3つずつ穿孔されて設けられてもよい。この空気吹出孔ユニット30は、チャンバ10と外部とを連通するように船底110を貫通した開口部に嵌合する板状の部材である。なお、
図3(a)では、一部の空気吹出孔31(図中左側の3つの空気吹出孔31)のみ空気吹出孔ユニット30に形成した態様を示している。
【0017】
<蓋部>
蓋部140は、
図3(a),(c)及び
図4(a)に示すように、船底の幅方向に、空気吹出孔31と並ぶようにして少なくとも1つのチャンバ10につき、1つ以上設けられ、チャンバ10と外部とを連通するように船底110を貫通した開口部130に嵌合する板状の部材である。蓋部140には、上述した空気吹出孔31が設けられている。また、
図3(b)及び
図4(b)に示すように、開口部130は、船舶100のロンジ60,60間に設けられていることが好ましい。
【0018】
なお、蓋部140の内側(チャンバ側)には、前述の拡散板70が他端部22bの開口部(チャンバ10と供給管22との連結部分)に対向するように設けられてもよい。また、拡散板70は、空気吹出孔31が設けられない蓋部140の内側(チャンバ側)に設けられてもよい。拡散板70は例えば、円盤状をなして、他端部22bの開口部との距離及び複数の空気吹出孔31への気体の配分を勘案した長さに規定された脚部を介して蓋部140に固定されている。特に、拡散板70の高さはロンジ60の高さよりも高く設定されている。このため、他端部22bの開口部から供給された気体が、ロンジ60が邪魔になって均等性が妨げられることなく空気吹出孔31から吹き出すことが可能となる。また、脚部はその平面面積が蓋部140の平面面積よりも小さいことが好ましい。面積の小さい脚部であることにより、メンテナンス時に邪魔になることなく作業が可能となる。拡散板70は、他端部22bの開口部がロンジ60に対向する位置にある場合、
図4(b)に示すように、ロンジ60上に設けられてもよい。
【0019】
また、
図5(b)に示すように、蓋部140は、開口部130の内側に突出して設けられた係止部135に周縁部を重畳させて、該係止部135にボルト32などで固定されることが好ましい。
さらに、開口部130の平面(開口)形状は、作業者がチャンバ10内の作業に差し支えない形状であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択され、例えば、頂点が円弧状とされた四角形状や円形状が採用される。なお、当該開口部130に設置される蓋部140に拡散板70が設けられる場合の開口部130の平面(開口)形状は、拡散板70の平面視の大きさより大きく設定される。
【0020】
以上のような構成とすることにより、本実施形態の船舶の摩擦抵抗低減装置は、船底に着脱可能に設けられた蓋部を取り外すことによって、容易にチャンバ内に作業員が入り込むことができる。さらに、船舶が海上に係留中であれば潜水作業者により船底に潜り、蓋を外すことによりチャンバ内の点検がドックに入らなくても可能である。
よって、チャンバ内のメンテナンス時に効率よく作業できる船舶の摩擦抵抗低減装置を提供することができる。
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されずに、種々の変更、改良を行うことができる。
【符号の説明】
【0021】
1 船舶の摩擦抵抗低減装置
10(10A,10B,10C,10D) チャンバ
20 送気部
31 空気吹出孔
60 ロンジ
100 船舶
110 船底
130 開口部
140 蓋部