(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
(膵臓癌)
膵の悪性腫瘍で、80〜90%は膵外分泌腺の膵管上皮から発生する膵管癌である。膵管癌の多くは小型の管状腺癌で悪性度が高い。拡大手術に術中照射療法、化学療法、温熱療法、免疫療法等の集学的治療を加える試みがなされているが、成績は他の消化器癌に比して非常に悪い。
【0003】
(GSK3β阻害剤)
GSK3β阻害剤とは、GSK3βの機能を物理的あるいは化学的に阻害する物質又は化合物を意味する。このようなGSK3β阻害剤については、既に多くの化合物が同定されているが、その構造と作用メカニズムは多岐にわたる(参照:非特許文献1)。
GSK3βの活性は種々の段階:(a)翻訳後修飾(翻訳後の第9セリンと第216チロシン残基のリン酸化による制御)、(b)タンパク複合体との相互作用、(c)基質プライミング、(d)細胞内局在、で制御されており、上記したGSK3β阻害剤はそのいずれかの段階でGSK3βに作用するものと思われる(参照:非特許文献1)。
【0004】
特許文献1は、「GSK3β阻害剤を併用した脳腫瘍治療剤」を開示している。しかし、該文献では、膵臓癌の治療方法、さらにはゲムシタビンの併用投与を開示又は示唆をしていない。
【0005】
(ゲムシタビン)
ゲムシタビンは、シチジンアナログ(2',2'-ジフルオロデオキシシチジン)であり、様々な癌の治療に広く使用されている。また、ゲムシタビンは、膵臓癌の標準的な治療薬である。しかし、膵臓癌患者の1年後の生存率は約18%であり、ゲムシタビンの単独での使用効果には限界がある。
【0006】
(抗癌剤の併用投与)
上記の低い生存率の改善のための抗癌剤の併用投与治療又は抗癌剤と放射線療法の組み合わせた併用治療は、単独抗癌剤の多量使用の限界を解消して、治療効果を上げるものである。特定の癌の治療剤又は治療法を組合せることにより、腫瘍細胞の死滅効果が大幅に上昇することが報告されている。
よって、新たな抗癌剤の組み合わせによる癌の治療方法の開発が望まれている。
【0007】
特許文献2は、「膵臓癌に対する治療を必要とする対象に対して、グルフォスファミドおよびゲムシタビンを併用して投与する方法」を開示している。しかし、該文献では、GSK3β阻害剤を併用することを開示又は示唆をしていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、膵臓癌、特に進行性膵臓癌は、進行も早く、予後も極めて悪く及び悪性度が高い。実際の腫瘍は手術で完全摘出できないことが多く、既存の抗癌剤治療や放射線照射治療に対しても耐性を示し、極めて難治性である。このように、本腫瘍に対する有効な治療法がないことから、その生命予後は改善されていない実情であり、進行性膵臓癌に対する新しい治療剤の開発が切望されている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために、ゲムシタビンに複数のGSK3β阻害剤を組わせて投与することを特徴とする膵臓癌治療剤及び膵臓癌治療用キットを提供した。
【0012】
すなわち、本発明は、上記の課題を解決するものとして以下のことを特徴としている。
「1.有効成分であるゲムシタビン、有効成分であるシメチジン及び有効成分であるバルプロ酸ナトリウムを組み合わせたことを特徴とする膵臓癌治療剤。
2.前記膵臓癌治療剤は、進行性膵臓癌治療剤であることを特徴とする請求項1に記載の膵臓癌治療剤。
3.以下の投与形態であることを特徴とする前項1又は2に記載の膵臓癌治療剤、
(1)ゲムシタビン:100〜1500mg/m
2の週1回投与を3週連続し、4週目は休薬する又は、週1回投与を2週連続し、3週目は休薬する、
(2)シメチジン:100〜3200mgを1日に2回に分けて連日投与、数日に1回投与又は隔週に数回投与する、
(3)バルプロ酸ナトリウム:100〜3000mgを1日に2回に分けて連日投与、数日に1回投与又は隔週に数回投与する。
4.さらに、有効成分であるオランザピンを組み合わせたことを特徴とする前項1〜3のいずれか1に記載の膵臓癌治療剤。
5.5〜60mgのオランザピンを連日投与、数日に1回投与又は隔週に数回投与する投与形態であることを特徴とする前項4に記載の膵臓癌治療剤。
6.前記進行性膵臓癌は、糖尿病併発進行性膵臓癌である前項1〜5のいずれか1に記載の膵臓癌治療剤。
7.有効成分であるゲムシタビン、有効成分であるシメチジン及び有効成分であるバルプロ酸ナトリウムを含む膵臓癌治療用キット。
8.前記膵臓癌治療用キットは、進行性膵臓癌治療用キットであることを特徴とする前項7に記載の膵臓癌治療剤。
9.さらに、有効成分であるオランザピンを含むことを特徴とする前項7又は8に記載の膵臓癌治療用キット。」
【発明の効果】
【0013】
本発明の膵臓癌治療剤及び膵臓癌治療用キットでは、進行を停めることすら非常に困難であった進行性膵臓癌の進行を遅延、停めるだけでなく、腫瘍を縮小させることができた。
すなわち、本発明の進行性膵臓癌治療剤及び進行性膵臓癌治療用キットは、従来の進行性膵臓癌治療剤と比較して、顕著な効果を示した。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は「膵臓癌治療剤及び膵臓癌治療用キット、さらには進行性膵臓癌治療剤及び進行性膵臓癌治療用キット」に関する。以下に、本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
本発明の膵臓癌治療剤及び膵臓癌治療用キット(特に、進行性膵臓癌治療剤及び進行性膵臓癌治療用キット)は、癌組織及び/又は腫瘍の大きさを縮小、維持、腫瘍細胞の増殖を停止、遅延、及び/又は消滅させることを提供する。
腫瘍の大きさの縮小及び/又は増殖の抑制は、固形腫瘍における応答評価基準(RECIST)の指針によって測定できる。
【0017】
本発明における「進行性膵臓癌患者」とは、臨床的に進行期(性)であると診断された、ヒトを含む哺乳動物を対象とする。なお、進行性膵臓癌患者は、再発性膵臓癌、転移性膵臓癌、化学療法抵抗性の膵臓癌を含む。
なお、臨床的に進行期(性)の診断方法は、自体公知の方法を使用できるが、例えば、「日本膵臓学会が発行する膵臓癌取扱い規約」を基にして判断できる。
さらに、必要に応じて、下記の疾患患者を対象とする。
(1)年齢が15歳以上、90歳以下。
(2)投与薬剤にアレルギーがない。
(3)適切な臓器機能を有する。
(4)経口薬の服用を妨げる病状がない。
【0018】
(GSK3β阻害剤)
本発明で使用するGSK3β阻害剤は下記に列挙されるが、下記のGSK3β阻害剤と同じ作用機序を持つGSK3β阻害剤も利用可能である。
(1)シメチジン
(2)バルプロ酸ナトリウム
(3)オランザピン
(4)炭酸リチウム
【0019】
(膵臓癌治療剤)
本発明の「膵臓癌治療剤(特に、進行性膵臓癌治療剤)」は、有効成分であるゲムシタビン、有効成分であるシメチジン及び有効成分であるバルプロ酸ナトリウムを組み合わせたことを特徴とし、さらに好ましくは、有効成分であるオランザピンを組わせたことを特徴とする治療剤である。加えて、必要に応じて、炭酸リチウム製剤を組み合わせることを特徴とする治療剤である。
【0020】
(ゲムシタビン)
本発明の膵臓癌治療剤及び膵臓癌治療用キット(特に、進行性膵臓癌治療剤及び進行性膵臓癌治療用キット)におけるゲムシタビンの投与方法は下記を参照にして適宜設定できる。
(1)非小細胞肺癌、膵臓癌、胆道癌、尿路上皮癌、がん化学療法後に増悪した卵巣癌
通常、成人にはゲムシタビンとして1回1000mg/m
2を30分かけて点滴静注し、週1回投与を3週連続し、4週目は休薬する。これを1コースとして投与を繰り返す。なお、患者の状態により適宜減量する。
(2)手術不能又は再発乳癌の場合
通常、成人にはゲムシタビンとして1回1250mg/m
2を30分かけて点滴静注し、週1回投与を2週連続し、3週目は休薬する。これを1コースとして投与を繰り返す。なお、患者の状態により適宜減量する。
ゲムシタビンは、ジェムザール
(R)として日本イーライリリー株式会社から販売されている。
【0021】
(シメチジン)
本発明の膵臓癌治療剤及び膵臓癌治療用キット(特に、進行性膵臓癌治療剤及び進行性膵臓癌治療用キット)におけるシメチジンの投与方法は下記を参照にして適宜設定できる。
一般名:シメチジン,Cimetidine (JAN)
化学名:2-cyano-1-methyl-3-{2-[(5-methyl-1H-imidazol-4-yl)methylsulfanyl] ethyl} guanidine
分子式:C
10H
16N
6S
分子量:252.34
効能・効果:胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、Zollinger-Ellison症候群、逆流性食道炎、上部消化管出血(消化性潰瘍、急性ストレス潰瘍、出血性胃炎による)、急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期の胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、浮腫)の改善
(胃潰瘍、十二指腸潰瘍の用法・用量)
通常、成人にはシメチジンとして1日800mgを2回(朝食後及び就寝前)に分割して経口投与する。また、1日量を4回(毎食後及び就寝前)に分割もしくは1回(就寝前)投与することもできる。なお、年齢・症状により適宜増減する。
{吻合部潰瘍、Zollinger-Ellison症候群、逆流性食道炎、上部消化管出血(消化性潰瘍、急性ストレス潰瘍、出血性胃炎による)の用法・用量}
通常、成人にはシメチジンとして1日800mgを2回(朝食後及び就寝前)に分割して経口投与する。また、1日量を4回(毎食後及び就寝前)に分割して投与することもできる。なお、年齢・症状により適宜増減する。ただし、上部消化管出血の場合には、通常注射剤で治療を開始し、内服可能となった後は経口投与に切りかえる。
{急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期の胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、浮腫)の改善の用法・用量}
通常、成人にはシメチジンとして1日400mgを2回(朝食後及び就寝前)に分割して経口投与する。また、1日量を1回(就寝前)投与することもできる。なお、年齢・症状により適宜増減する。
シメチジンは自体公知の化合物であり、大日本住友製薬株式会社よりタガメット
(R)錠として製造販売されている。
加えて、シメチジン注射液(大日本住友製薬株式会社)も利用可能である。
【0022】
(バルプロ酸ナトリウム)
本発明の膵臓癌治療剤及び膵臓癌治療用キット(特に、進行性膵臓癌治療剤及び進行性膵臓癌治療用キット)におけるバルプロ酸ナトリウムの投与方法は下記を参照にして適宜設定できる。
一般名:バルプロ酸ナトリウム Sodium Valproate
化学名:Monosodium 2-propylpentanoate
分子式:C
8H
15NaO
2
分子量:166.19
効能・効果:各種てんかん(小発作・焦点発作・精神運動発作ならびに混合発作)及びてんかんに伴う性格行動障害(不機嫌・易怒性等)の治療。 躁病及び躁うつ病の躁状態の治療。
用法・用量:通常1日量バルプロ酸ナトリウムとして400〜1200mgを1日1〜2回に分けて経口投与する。ただし、年令・症状に応じ適宜増減する。
バルプロ酸ナトリウムは自体公知の化合物であり、協和発酵キリン株式会社よりデパケン
(R)として製造販売されている。
加えて、バルプロ酸ナトリウム徐放性顆粒剤(第一三共株式会社)、バルプロ酸ナトリウムシロップ(日医工ファーマ株式会社)、バルプロ酸ナトリウム細粒(エルメッドエーザイ株式会社)も利用可能である。
【0023】
(オランザピン)
本発明の膵臓癌治療剤及び膵臓癌治療用キット(特に、進行性膵臓癌治療剤及び進行性膵臓癌治療用キット)におけるオランザピンの投与方法は下記を参照にして適宜設定できる。
一般名: オランザピン(JAN)
化学名:2-methyl-4-(4-methylpiperazin-1-yl)-10H-thieno[2,3-b][1,5]benzodiazepine
分子式:C
17H
20N
4S
分子量:312.43
効能・効果:統合失調症
用法・用量:通常、成人にはオランザピンとして5〜10mgを1日1回経口投与により開始する。維持量として1日1回10mg経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。
オランザピンは自体公知の化合物であり、日本イーライリリー株式会社よりジプレキサ
(R)錠として製造販売されている。
【0024】
(炭酸リチウム)
本発明の膵臓癌治療剤及び膵臓癌治療用キット(特に、進行性膵臓癌治療剤及び進行性膵臓癌治療用キット)における炭酸リチウムの投与方法は下記を参照にして適宜設定できる。
一般名:炭酸リチウム, Lithium Carbonate(JAN)
化学名:lithium carbonate
分子式:Li
2CO
3
分子量:73.89
効能・効果:躁病及び躁うつ病の躁状態
用法・用量:炭酸リチウムとして、成人では通常1日400〜600mgより開始し、1日2〜3回に分割経口服用する。以後、3日ないし1週間毎に、1日通常1200mgまでの治療量に漸増する。改善がみられたならば症状を観察しながら、維持量1日通常200〜800mgの1〜3回分割経口服用に漸減する。なお、年齢、症状により適宜増減する。
炭酸リチウムは自体公知の化合物であり、大正製薬株式会社よりリーマス
(R)錠として製造販売されている。
【0025】
(本発明の膵臓癌治療用キット)
本発明の膵臓癌治療用キット(特に、進行性膵臓癌治療用キット)は、有効成分であるゲムシタビン、オランザピン、シメチジン、バルプロ酸ナトリウム及び炭酸リチウム、を同時に、別々に、又は逐次的に投与可能とするために、各有効成分が別々に複数の容器に収納されているか、又は、各有効成分が空間的に隔離可能な複数の領域を有する1つの容器に収納されている。
さらに、本発明の膵臓癌治療用キットは、各有効成分の投与に関する説明書を含んでも良い。なお、該説明書は、下記で示す本発明の膵臓癌治療方法における各有効成分の投与スケジュールが記載されている。
特に、本発明の膵臓癌治療用キットにおける各有効成分は、経口投与可能な錠剤が好ましいが、徐放性顆粒剤、シロップ、細粒、及び/又は注射剤とすることも可能である。
【0026】
(本発明の膵臓癌治療剤及び膵臓癌治療用キットを使用した治療方法)
本発明の膵臓癌治療剤及び膵臓癌治療用キット(特に、進行性膵臓癌治療剤及び進行性膵臓癌治療用キット)を使用した治療方法において、ゲムシタビン、オランザピン、シメチジン、バルプロ酸ナトリウム及び炭酸リチウムの投与量、投与回数及び投与間隔は、特に限定されず、予防(特に再発防止)及び/又は臨床的治療の目的、疾患のタイプ、患者の体重、年齢、疾患の重篤さなどのような条件に応じて適宜選定される。
例えば、以下の投与形態を利用することができるが、特に限定されない。
ゲムシタビン:100〜1500mg/m
2、好ましくは300〜1400mg/m
2、500〜1300mg/m
2を10〜60分かけて点滴静注し、週1回投与を3週連続し、4週目は休薬する、又は、週1回投与を2週連続し、3週目は休薬する。これを1コースとして投与を繰り返す。なお、患者の状態により適宜減量する。
オランザピン:5〜60mg、好ましくは6〜50mg、より好ましくは7〜40mg、最も好ましくは8〜15mgを1日に1回又は1日数回(朝、昼、夕)に分けて投与する。加えて、連日投与が好ましいが、数日に1回投与又は隔週に数回投与とすることもできる。
シメチジン:100〜3200mg、好ましくは200〜2500mg、より好ましくは300〜2000mg、最も好ましくは400〜1800mgを1日に1回又は1日数回(朝、昼、夕)に分けて投与する。加えて、連日投与が好ましいが、数日に1回投与又は隔週に数回投与とすることもできる。
バルプロ酸ナトリウム:100〜3000mg、好ましくは200〜2500mg、より好ましくは300〜2000mg、最も好ましくは400〜1600mgを1日に1回又は1日数回(朝、昼、夕)に分けて投与する。加えて、連日投与が好ましいが、数日に1回投与又は隔週に数回投与とすることもできる。
炭酸リチウム:50〜1500mg、好ましくは100〜1300mg、より好ましくは200〜1000mg、最も好ましくは300〜500mgを1日に1回又は1日数回(朝、昼、夕)に分けて投与する。加えて、連日投与が好ましいが、数日に1回投与又は隔週に数回投与とすることもできる。
【0027】
(膵臓癌治療剤及び膵臓癌治療用キットを使用した治療スケジュール)
本発明の膵臓癌治療剤及び膵臓癌治療用キット(特に、進行性膵臓癌治療剤及び進行性膵臓癌治療用キット)を使用した治療スケジュールは、一般に以下の通りであるが、患者の症状に応じて適宜変更することができる。
(1)治療スケジュールのアウトライン
膵臓癌又は進行性膵臓癌と診断されかつ本治療方法を希望した患者に、GSK3β阻害作用のある医薬品とゲムシタビン{ジェムザール
(R)}を投与する(参照:下記表1)。
(2)投与量及び投与方法(参照:下記表2)
ゲムシタビン{ジェムザール
(R)}:1000mg/m
2投与量を週1回投与を3週連続し、4週目は休薬する
オランザピン{商品名:ジプレキサ
(R)}: 1錠/夕 2錠まで増量可(1錠は10mg)
シメチジン{商品名:タガメット
(R)}:4錠/朝・夕 8錠まで増量可(1錠は200mg)
バルプロ酸ナトリウム{商品名:デパケン
(R)}:4錠/朝・夕 6錠まで増量可(1錠は200mg)
リチウム製剤{商品名:リーマス
(R)}:2錠/朝・夕 6錠まで増量可(1錠は200mg)
(3)治療の評価方法
診察、神経学的所見、血液学的検査、薬剤血中濃度、画像評価を一般的に臨床において使用されている方法に従い評価する。
なお、当技術分野で理解されているように、癌治療剤による治療は、毒性が観察されたならば、または患者の便宜に応じて、本発明の範囲を逸脱しない範囲で一時的に中止し、その後に再開することができる。
【0030】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
なお、以下の症例は金沢医科大学治験審査委員会の承認を得て、実施されている。
【実施例1】
【0031】
(臨床例1)
症例 77歳女性 切除不能膵体尾部癌
(現病歴)
平成2X年11月に切除不能進行性膵癌(Stage IV)と診断され、放射線化学療法が行われたが治療抵抗性となり、ジェムザール
(R)に変更となったが無効であったため、今回の治療方法を希望されてジェムザール
(R)とGSK3β阻害剤の併用治療が開始された。
(治療スケジュール)
平成2Y年5月より、ジェムザール
(R)とGSK3β阻害剤{リーマス
(R)、タガメット
(R)、デパケン
(R)、ジプレキサ
(R)}の投与を開始した。1週間後の採血検査にてCre軽度上昇(1.19)を認めたため、1週間休薬した。その後、ジェムザール
(R)とGSK3β阻害剤の併用療法を再開したが、食欲不振、全身倦怠感強く、治療中止となった。
【0032】
(治療評価)
治療評価を
図1に示す。
ジェムザール
(R)とGSK3β阻害剤を併用投与している時期は、癌マーカーであるCA19-9値の上昇を抑えていた。しかし、該併用投与を中止した後に、CA19-9値が急激に上昇した。
すなわち、ジェムザール
(R)とGSK3β阻害剤の併用療法は、進行性膵臓癌の進行を遅延させることを確認した。
【0033】
(臨床例2)
症例 72歳 女性 進行性膵臓癌
(現病歴)平成2X年11月に進行性膵臓癌(Stage IV)と診断され,TS1(テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)からジェムザール
(R)に変更投与されるもPD(進行)となり、今回の治療方法を希望されてジェムザール
(R)とGSK3β阻害剤{リーマス
(R)、タガメット
(R)、デパケン
(R)、ジプレキサ
(R)}の併用治療が開始された。
(治療スケジュール)
平成2Y年8月に入り、不明熱を認め、ジェムザール
(R)とGSK3β阻害剤の併用治療による発熱を疑い中止した。しかし、中止後も発熱は持続し、後に腫瘍随伴症候群と診断した。
【0034】
(治療評価)
治療評価を
図2に示す。
ジェムザール
(R)とGSK3β阻害剤を併用投与により、癌マーカーであるCA19-9値及びSpan-1値を下降させた。しかし、該併用投与を中止した後に、CA19-9値及びSpan-1値が急激に上昇した。
すなわち、ジェムザール
(R)とGSK3β阻害剤の併用療法は、進行性膵臓癌の進行を遅延させるだけでなく、抑えることができることを確認した。
【0035】
(臨床例3)
症例 72歳 女性 進行性膵臓癌、糖尿病(インスリン治療)
(現病歴)平成2X年11月に進行性膵臓癌(Stage IV)と診断され、ジェムザール
(R)からTS1に変更投与されるもPDとなり、今回の治療方法を希望されてジェムザール
(R)とGSK3β阻害剤{タガメット
(R)、デパケン
(R)}の併用治療が開始された。
(治療スケジュール)
現在、ジェムザール
(R)とGSK3β阻害剤の併用治療中である。
【0036】
(治療評価)
治療評価を
図3〜
図5に示す。
図3に関し、ジェムザール
(R)とGSK3β阻害剤の併用投与により、癌マーカーであるCA125値の上昇を抑えている。また,オランザピンの副作用である糖尿病を悪化させることなく,膵臓癌の治療を行うことができた。
図4に関し、SUV max(standardized uptake value:ETやSPECTにて放射線薬剤の腫瘍や臓器への集積の強さを表すための指標)が短時間で急激に下降した。このような短時間での急激な低下は、進行性膵臓癌では当業者では容易に予測できない結果である。
図5に関し、ジェムザール
(R)とGSK3β阻害剤の併用療法の開始3ヶ月後のCT画像では、腫瘍が縮小していることを確認した。
すなわち、ジェムザール
(R)とGSK3β阻害剤の併用療法は、進行性膵臓癌の腫瘍を縮小させることができることを確認した。
【0037】
(総論)
以上の臨床例1〜3の結果により、ジェムザール
(R)とGSK3β阻害剤の併用投与治療は、進行性膵臓癌の進行を遅延、抑えるだけでなく、腫瘍を縮小させることもできることを確認した。さらに、糖尿病併発の進行性膵臓癌の患者の糖尿病を悪化させることもなかった。