(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6143171
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】発電機用電力変換器
(51)【国際特許分類】
H02M 5/297 20060101AFI20170529BHJP
H02M 5/293 20060101ALI20170529BHJP
H02P 9/48 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
H02M5/297
H02M5/293 B
H02P9/48 A
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-98699(P2013-98699)
(22)【出願日】2013年5月8日
(65)【公開番号】特開2014-220917(P2014-220917A)
(43)【公開日】2014年11月20日
【審査請求日】2016年3月8日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 電気学会研究会資料、半導体電力変換研究会SPC−13−001〜014(2013年1月25日)一般社団法人電気学会発行、第33〜38ページに発表
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000109819
【氏名又は名称】デンヨー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100103263
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 康
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100077609
【弁理士】
【氏名又は名称】玉真 正美
(72)【発明者】
【氏名】藤 田 英 明
(72)【発明者】
【氏名】川 畑 健太郎
【審査官】
東 昌秋
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭49−50437(JP,A)
【文献】
実開昭57−192740(JP,U)
【文献】
特開平9−28038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/00−7/98
H02P 9/00−9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ独立した複数の相巻線を有する交流発電機に接続されて交流−交流変換を行う発電機用電力変換器において、
前記交流発電機の各相巻線の各一端に接続される第1の交直変換器と、
前記交流発電機の各相巻線の各他端に接続される第2の交直変換器と、
前記第1の交直変換器の直流出力端間に接続される第1のコンデンサと、
前記第2の交直変換器の直流出力端間に接続される第2のコンデンサと
をそなえ、前記第1および第2の交直変換器における一方の同極出力端間に交流負荷を接続して他方の同極出力端間を相互接続し、前記第1および第2の交直変換器を、位相が反転された正弦波成分が重畳した直流電力を出力するように制御することを特徴とする発電機用電力変換器。
【請求項2】
請求項1記載の発電機用電力変換器において、
前記交流負荷に並列に接続されたコンデンサをそなえることを特徴とする発電機用電力変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流発電機の出力を電力変換する変換器に係り、とくにその低コスト化、高効率化および小型軽量化に適した発電機用電力変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、三相発電機を用いて単相交流電力を供給する場合、交流−交流電力変換器を用いる。この種の電力変換器は、半導体スイッチング素子を用いて三相/単相変換を行っている。この場合、半導体素子のスイッチング動作に伴い、電圧、電流のリップルが生じ、このリップルを除去するために交流インダクタを用いる(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008‐92786号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
交流インダクタは、電力変換器を構成する他の要素に比べて重量、体積が遥かに大きく、また高価であるため、問題とされている。
【0005】
そして、ポータブルな比較的小型のエンジン発電機の場合であると、設置すべき場所へ人が移動させる上で、重量の大小は可搬性に大きく影響する。
【0006】
そこで、軽量化策として、インダクタの小型化を図る観点からスイッチング周波数を高周波化することが考えられる。しかし、インダクタは高周波化により鉄損が増すため、鉄心材料を周波数特性に優れたものとする、等の他の対策を要することになる。
【0007】
本発明は上述の点を考慮してなされたもので、交流インダクタを必要としない発電機用電力変換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的達成のため、本発明では、
それぞれ独立した複数の相巻線を有する交流発電機に接続されて交流−交流変換を行う発電機用電力変換器において、
前記交流発電機の各相巻線の各一端に接続される第1の交直変換器と、
前記交流発電機の各相巻線の各他端に接続される第2の交直変換器と、
前記第1の
交直変換器の直流出力端間に接続される第1のコンデンサと
、
前記第2の
交直変換器の直流出力端間に接続される第2のコンデンサと
をそなえ、前記第1および第2の
交直変換器
における一方の同極出力端間に交流負荷を接続して他方の同極出力端間を相互接続し、前記第1および第2の交直変換器を、位相が反転された正弦波成分が重畳した直流電力を出力するように制御することを特徴とする発電機用電力変換器、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は上述のように、交流インダクタを含まない構成であるため、機器全体を小型化、軽量化、低価格化することができる。そして、スイッチング周波数を高周波化することにより高効率化も達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1(a)は本発明の一実施例の構成を示す回路図、
図1(b)は
図1(a)の回路における発電機PMSGの巻線構成を示す説明図。
【
図2】
図1に示した実施例の回路各部の電圧、電流を示した波形図。
【
図3】発電機起電力と単相出力電圧との関係を示す波形図。
【
図4】発電機を無負荷起電力と同期インダクタンスとを用いて表した等価回路図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【実施例1】
【0012】
図1(a)は、本発明の一実施例の構成を示す回路図である。この実施例は、発電機として永久磁石交流発電機PMSGを用い、この発電機PMSGに2台の交直変換器としてのブリッジ型コンバータCON1,CON2が組み合わされている。
【0013】
そして、各コンバータCON1,CON2の交流側端子は発電機PMSGに接続され、直流側端子はコンデンサC1,C2に接続されるとともに、各コンバータCON1,CON2の一方の極性端子、この場合、P端子相互間に負荷が接続され、他方の極性端子、この場合N端子は相互に接続されている。なお、負荷には、フィルタコンデンサCfが並列接続されている。
【0014】
ここで、コンデンサC1,C2は、出力フィルタコンデンサとして作用するものであり、コンデンサC1,C2の容量は、発電機PMSGの出力、換言すれば負荷の大きさに応じて定まるものである。また、フィルタコンデンサCfの容量は、負荷に供給される電力の中に含まれるリップルの大小に応じて定まるものである。
【0015】
図1(b)は発電機PMSGの巻線構成を示すもので、発電機PMSGは、それぞれ独立した三相巻線を有し、各巻線が第1のコンバータCON1の交流側端子と第2のコンバータCON2の交流側端子との間に接続されている。
【0016】
そして、各巻線w
a,w
b,w
cの各電圧端子v1a,v1b,v1cは、
図1(a)に示すように、第1のコンバータCON1の交流端子に接続され、もう一つの各電圧端子v2a,v2b,v2cは、第2のコンバータCON2の交流端子に接続されて発電機電流ia,ib,icを出力する。
【0017】
再び
図1(a)に戻り、各コンバータCON1,CON2において、ブリッジ回路を構成するスイッチング素子S(Sa11,Sa12,Sb11,Sb12,Sc11,Sc12,Sa21,Sa22,Sb21,Sb22,Sc21,Sc22)はIGBTであり、それぞれフリーホイールダイオードDが接続されている。
【0018】
図2(a)−(e)は、
図1に示した実施例における回路各部の電圧、電流波形を示した無負荷時波形タイミングチャートである。
【0019】
具体例を挙げれば、永久磁石式発電機PMSGは、相電圧実効値120V、定格出力3kW、出力周波数50Hzのものを用い、直流コンデンサC1,
C2は30μF、負荷に並列接続したフィルタコンデンサCfは10μFとした。
【0020】
この条件で、負荷を無負荷から1kW、2kW、3kWと増していったところ、発電機電流ia,ib,ic,負荷電圧vL、負荷電流iLに含まれるスイッチング歪は漸増していく傾向はあるものの、実用上の問題が生じることはなかった。
【0021】
発電機起電力ea,eb,ecは、
図2(a)に示すように、電気角120度ずつ位相のずれた3相交流正弦波電圧であり、発電機PMSGの3相巻線w
a,w
b,w
cの電圧端子v1a,v2a間、v1b,v2b間、およびv1c,v2c間に発生する。そして、各巻線w
a,w
b,w
cからコンバータCON1,CON2に対して発電機電流ia,ib,icが供給される。
【0022】
発電機電流の制御は、コンバータ1つに6個ずつで、2つのコンバータでは合計12個のスイッチング素子S(Sa11,Sa12,Sb11,Sb12,Sc11,Sc12,Sa21,Sa22,Sb21,Sb22,Sc21,Sc22)のスイッチングにより行われて、例えば商用周波数の交流電流となる。この発電機電流には、
図2(b)に示すように、発電機PMSGの起電力周波数成分に負荷電圧周波数成分の零相電流が重畳した波形となる。
【0023】
そして、コンバータCON1,CON2におけるスイッチング素子Sの動作により、各コンバータCON1,CON2の直流端子P,N間には直流出力が送出され、
図2(c)に示すように直流コンデンサC1,C2に畜電され、かつ
図2(d)に示すように負荷に給電される。
【0024】
すなわち、コンデンサC1,C2それぞれに蓄積される2つのコンデンサ電圧v1d,v2dは、位相が互いに180°ずれたものであるから(
図2(c))、2つのコンデンサC1,C2間に接続された負荷には、これら2つの電圧の差分である正弦波電圧vLが加わる(
図2(d))。
【0025】
この結果、負荷に流れる電流iLは、
図2(e)に示すような正弦波電流となる。発電機電流に重畳した零相電流は、直流コンデンサ電圧v
1d,v
2dを制御するものであり、零相電流は負荷電流iLの振幅にほぼ比例する。
【0026】
このように構成することにより、本発明によれば、電力変換器に必須の構成要素と考えられてきたインダクタを一切用いることなく変換器を構成でき、交流負荷に所望の交流給電を行うことができる。
【0027】
図3は、発電機PMSGの起電力と単相出力電圧との関係を示す波形図である。この波形図に示すように、2つの直流コンデンサC1,C2の電圧v
1d,
v
2dの差が単相出力電圧になるので、各直流コンデンサC1,C2の電圧を互いに位相が反転した正弦波成分を有する脈流に制御する。
【0028】
一方、三相ブリッジ構成のコンバータCONが適切に電流制御を行うには、三相入力端子電圧である発電機起電力は、常に直流コンデンサ電圧v
1d v
2d以下であることが必要である。したがって、直流コンデンサ電圧v
1d,v
2dの最大値は、発電機起電力の相電圧波高値と出力電圧波高値との和である√2E+√2vLとなる。
【0029】
実際の動作実験には、三相永久磁石同期発電機PMSGとして14極型のものを3000rpmで運転したとき、出力相電圧(実効値)100V、周波数350Hzであり、このとき直流コンデンサ電圧v
1d,v
2dの最大値は283[V]であった。
【0030】
図4は、発電機PMSGを、無負荷起電力e
a,e
b,e
cおよび同期インダクタンスL、抵抗rを用いて表した等価回路である。
【0031】
以上、
図2に示した各部波形に基づき回路動作を説明したが、続いて
図4および数式を用いて本発明に係る変換器の動作を説明する。
【0032】
動作原理
図4に示した等価回路各部の電圧、電流につき
、発電機PMSGの起電力e
a, e
b, e
cを、
【数1】
と仮定し、発電機PMSGの出力電流i
a, i
b ,i
c を、
【数2】
【0033】
このとき、発電機の端子電圧va,vb,vcは、
【数3】
【0034】
ここで、二台のコンバータCON1,CON2で発電機PMSGの端子電圧v
1a, v
1b, v
1cおよびv
2a, v
2b, v
2cを均等に分担したとすれば、
【数4】
および
【数5】
【0035】
【数6】
【0036】
負荷電圧v
Lについても、2台のコンバータCON1,CON2で分担すると、
【数7】
【0037】
【数8】
【0038】
制御法
以上より、コンバータの電圧指令値v
1a*,v
1b*,v
1c* およびv
2a*,v
2b*,v
2c* を
【数9】
および
【数10】
【数11】
となる。上式のa相に注目すると、
【数12】
であるので、コンバータCONの出力電圧が指令値によく追従すると仮定すれば、
【数13】
となる。上式をラプラス変換して整理すると、
【数14】
となる。このため、発電機PMSGの電流は電流指令値に対して一次遅れ応答で追従する。したがって、二台のコンバータCON1,CON2の電圧指令値v
1a*,v
2a*の差、
【数15】
によって、発電機電流を制御できる。
【0039】
次に、電流指令値I* にコンデンサ電圧v
1d,v
2dのフィードバック項を付加して以下のように与える。
【数16】
このとき、
【数17】
となり、コンバータCON1の直流コンデンサC1へ流入する電力とコンバータCON2の直流コンデンサC2へ流入する電力とを,それぞれ独立に制御できる。
【0040】
このとき、コンバータCON1の直流コンデンサC1の電圧v
1d に関して
【数18】
であるので、
【数19】
と定義し、ラプラス変換すると、
【数20】
であるので、正弦波電圧に制御できる。
【0041】
そして、負荷に対して正弦波電力を給電することができる。
【0042】
上記実施例では、発電機として永久磁石同期発電機PMSGを用いたが、発電機は各種同期発電機でよく、たとえば高い周波数の起電力が得易い誘導子型発電機であってもよい。
【0043】
また、スイッチング素子Sは、IGBT以外にもMOSFET等の電力制御用スイッチングを用いてもよい。
【0044】
さらに、負荷に並列に接続したフィルタコンデンサCfは、リップル分を除去する上では有効であるが必須ではない。
【符号の説明】
【0045】
PMSG 交流発電機、CON コンバータ、S スイッチング素子、
D フリーホイールダイオード、C コンデンサ、w 発電機巻線、
e 起電力、v 発電機電圧、i 発電機電流、p 電力。