(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6143190
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】ランプ信号発生回路及びCMOSイメージセンサ
(51)【国際特許分類】
H03M 1/74 20060101AFI20170529BHJP
H03M 1/56 20060101ALI20170529BHJP
H03K 4/501 20060101ALI20170529BHJP
H04N 5/378 20110101ALI20170529BHJP
H04N 5/374 20110101ALI20170529BHJP
H01L 27/146 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
H03M1/74
H03M1/56
H03K4/501
H04N5/335 780
H04N5/335 740
H01L27/14 A
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-544302(P2013-544302)
(86)(22)【出願日】2012年11月14日
(86)【国際出願番号】JP2012079535
(87)【国際公開番号】WO2013073585
(87)【国際公開日】20130523
【審査請求日】2015年11月6日
(31)【優先権主張番号】特願2011-250777(P2011-250777)
(32)【優先日】2011年11月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100108257
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 伊知良
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【弁理士】
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(74)【代理人】
【識別番号】100177633
【弁理士】
【氏名又は名称】土居 猛
(72)【発明者】
【氏名】川人 祥二
(72)【発明者】
【氏名】今井 快多
【審査官】
及川 尚人
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−309811(JP,A)
【文献】
特開2009−130828(JP,A)
【文献】
特開2010−109888(JP,A)
【文献】
特開2007−243324(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0164277(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03M 1/00−1/88
H01L 27/146
H03K 4/501
H03M 1/56
H04N 5/374
H04N 5/378
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端の電位が固定されたキャパシタと、前記キャパシタの他端に接続される電流源と、を有する複数の単位回路を備え、
前記複数の単位回路が有する前記キャパシタの前記他端の各々が互いに配線部材によって接続されており、
前記複数の単位回路がそれぞれランプ信号を発生する、ランプ信号発生回路。
【請求項2】
前記キャパシタの前記他端を基準電位線に接続するためのスイッチをさらに備える、請求項1に記載のランプ信号発生回路。
【請求項3】
前記複数の単位回路が有する前記キャパシタの容量値は全て等しくなるように設計されており、
前記複数の単位回路が有する前記電流源が流す電流の大きさは全て等しくなるように設計されている、請求項1または2に記載のランプ信号発生回路。
【請求項4】
複数行複数列の2次元に配列された画素を有する画素アレイと、
請求項1〜3のいずれか一項に記載のランプ信号発生回路を有する列並列ADCと、
を備え、
前記ランプ信号発生回路が備える複数の単位回路のそれぞれが、前記画素アレイの各列に対応して設けられている、CMOSイメージセンサ。
【請求項5】
前記列並列ADCは、前記画素アレイの各列の画素に接続される列ADCを備え、
前記列ADCは、
前記ランプ信号発生回路が備える前記単位回路と、
前記画素アレイの各列の画素の出力と前記単位回路の出力とを比較する電圧比較器と、
前記電圧比較器の出力が変化するまでの時間を計数するカウンタと、
を備える請求項4に記載のCMOSイメージセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランプ信号発生回路及びCMOSイメージセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
アナログ信号を処理するための技術として、ランプ信号発生回路によってランプ信号を発生し、ランプ信号を参照信号としてアナログ信号と比較することによりアナログ信号の処理を行う技術が知られている。例えば、下記特許文献1には、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサの分野において、各画素から出力されるアナログ信号をAD変換するための技術が記載されている。コンパレータにランプ状の参照電圧を供給すると同時にクロック信号でのカウントを開始する。そして、受光素子を有する画素から入力されるアナログ信号と参照電圧とが等しくなると、カウント動作を停止し、その時点のカウント値を画素データとしてラッチする。これによって、アナログ信号に応じたデジタル値を出力可能にされる。また、非特許文献1および非特許文献2にも同様の技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−88971号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Yong Lim et al., "A 1.1e- Temporal Noise 1/3.2-inch 8Mpixel CMOS Image Sensor Using Pseudo-Multiple Sampling", ISSCC 2010 Dig. Tech. Papers, pp.396-398
【非特許文献2】Sakkarapani Balagopal et al., "An On-chip Ramp Generator for Single-Slope Look Ahead Ramp(SSLAR) ADC", IEEE MWSCAS 2009, pp.373-376
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1に記載の技術においては、二次元の格子状に配列される画素の各列に対してそれぞれ1個のコンパレータが配置される。また、全てのコンパレータに対して、1個の参照電圧生成部から参照電圧が供給される。このような構成をとった場合、参照電圧が各列のコンパレータに到達するまでのタイミングに差が生じる。また、特に参照電圧生成部からの距離が遠いコンパレータにおいては波形のひずみが大きくなる。イメージセンサの精度を向上させるためには、これらのタイミングの差や波形のひずみを小さくすることが必要であるが、そのためには、参照電圧生成部の消費電力を大きくしなければならない。
【0006】
そこで、各列のコンパレータ1個に対して、そのコンパレータに参照電圧を供給するランプ信号発生回路を1個ずつ配置するという方法が考えられる。このような構成により、上記のタイミングの差や波形のひずみの問題を解消することができる。
【0007】
しかしながら、コンパレータ1個に対してランプ信号発生回路を1個配置する構成をとった場合には、ランプ信号発生回路ごとのばらつきの問題が生じる。ランプ信号発生回路は、例えば、定電流源とキャパシタとを接続し、定電流源を用いてキャパシタを充放電する回路として構成することができる。この場合、定電流源を構成するトランジスタのばらつきやキャパシタのばらつきにより、ランプ信号発生回路の発生するランプ信号の勾配にばらつきが生じる。特に、消費電力を小さく抑えるために定電流源の流す電流を小さくすると、トランジスタやキャパシタのサイズを小さくしなければならないため、トランジスタやキャパシタのばらつきが一層大きくなり、その結果、ランプ信号の勾配のばらつきも大きくなる。
【0008】
そこで、本発明は、上記の問題を解決するためのものであって、発生するランプ信号の勾配のばらつきが小さいランプ信号発生回路及びこれを用いたCMOSイメージセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の一側面に係るランプ信号発生回路は、一端の電位が固定されたキャパシタと、キャパシタの他端に接続される電流源と、を有する複数の単位回路を備え、複数の単位回路が有するキャパシタの他端の各々が互いに配線部材によって接続されている。
【0010】
このようなランプ信号発生回路によれば、複数の単位回路が有するキャパシタの他端の各々が互いに配線部材によって接続されているため、キャパシタの容量値や電流源が流す電流の大きさのばらつきにかかわらず、各キャパシタの電圧が等しくなるように、複数の単位回路が有するキャパシタの他端同士を接続する配線を電流が通る。したがって、複数の単位回路が発生するランプ信号の勾配のばらつきが小さくなる。
【0011】
また、本発明の一側面に係るランプ信号発生回路においては、キャパシタの他端を基準電位線に接続するためのスイッチをさらに備えていてもよい。これによれば、キャパシタの他端を基準電位線に接続することにより、ランプ信号を発生する際の電圧の初期値を定めることが可能となる。
【0012】
また、本発明の一側面に係るランプ信号回路においては、複数の単位回路が有するキャパシタの容量値は全て等しくなるように設計されており、複数の単位回路が有する電流源が流す電流の大きさは全て等しくなるように設計されていてもよい。これによれば、全ての単位回路の有するキャパシタの容量値と電流源の電流値がほぼ等しくなるため、各単位回路が発生するランプ信号の勾配がほぼ等しくなる。
【0013】
また、本発明の一側面に係るCMOSイメージセンサは、複数行複数列の2次元に配列された画素を有する画素アレイと、上記のランプ信号発生回路を有する列並列ADCと、を備え、ランプ信号発生回路が備える複数の単位回路のそれぞれが、画素アレイの各列に対応して設けられている。
【0014】
このようなCMOSイメージセンサによれば、画素アレイの各列に対応する複数の単位回路のそれぞれが発生するランプ信号の傾きのばらつきが小さくなるため、ランプ信号に基づいてAD変換を行う列並列ADCの特性の列ごとのばらつきが小さくなり、CMOSイメージセンサの特性の列ごとのばらつきが小さくなる。
【0015】
本発明の一側面に係るCMOSイメージセンサにおいて、列並列ADCは、画素アレイの各列の画素に接続される列ADCを備え、列ADCは、ランプ信号発生回路が備える単位回路と、画素アレイの各列の画素の出力と単位回路の出力とを比較する電圧比較器と、電圧比較器の出力が変化するまでの時間を計数するカウンタと、を備えていてもよい。このようなCMOSイメージセンサによれば、複数の単位回路のそれぞれが発生して出力するランプ信号の傾きのばらつきが小さい。したがって、単位回路の出力と画素アレイの各列の画素の出力を比較する電圧比較器の出力、及びこの電圧比較器の出力に基づくカウンタの出力の列ごとのばらつきも小さくなる。このため、列並列ADCの特性の列ごとのばらつきが小さくなり、CMOSイメージセンサの特性の列ごとのばらつきが小さくなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のランプ信号発生回路によれば、勾配のばらつきの小さいランプ信号を発生することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係るランプ信号発生回路を備えるCMOSイメージセンサの構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るランプ信号発生回路の回路図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るランプ信号発生回路の発生するランプ信号の勾配の相対誤差を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るランプ信号発生回路の発生するランプ信号の勾配の相対誤差と配線抵抗の関係を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係るランプ信号発生回路の発生するランプ信号の勾配の相対誤差と回路素子のばらつきの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら、本発明によるランプ信号発生回路の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係るランプ信号発生回路を備えるCMOSイメージセンサの構成を示すブロック図である。このCMOSイメージセンサ1は、画素ごとに受光される光信号を電気信号に変換して出力するための装置である。CMOSイメージセンサ1は、画素アレイ10と列並列ADC(Analog to Digital Converter)20とを備えて構成されている。
【0020】
画素アレイ10は、光を受光し、受光強度に応じたアナログ信号を後段の列並列ADC20に出力する。画素アレイ10は、M行N列の2次元に配列された画素11
11〜11
1N、11
21〜11
2N、・・・、11
M1〜11
MNを備えている。それぞれの画素11は、例えばフォトダイオードとMOSトランジスタを用いた公知の構成を有している。第i行第j列に配置されている画素11
ij(iは1以上M以下の整数、jは1以上N以下の整数)には、それぞれスイッチ12
ijが接続されている。画素11
ijからの電気信号は、このスイッチ12
ijをオン状態にすることによって読み出され、後段の列並列ADC20のうち第j列の列ADC20
jへと出力される。
【0021】
列並列ADC20は、画素アレイ10のN列の画素11からアナログ電気信号を読み出し、それらをAD変換してデジタル値として出力するための部分である。列並列ADC20は、いわゆる積分型ADコンバータと呼ばれるAD変換器であり、ランプ信号発生回路21と、電圧比較器23
1〜23
Nと、カウンタ24
1〜24
Nと、を備えて構成されている。また、列並列ADC20は、N列の列ADC20
1〜20
Nに分かれて構成されている。列ADC20
j(jは1以上N以下の整数)は、第j列の画素11
1j〜11
Mjに接続され、それぞれ単位回路22
j、電圧比較器23
j、カウンタ24
jを含んで構成されている。
【0022】
ランプ信号発生回路21は、N個の単位回路22
1〜22
Nを備えて構成されている。単位回路22
1〜22
Nは、それぞれ同じ列の電圧比較器23
1〜23
Nの入力端子に接続されている。単位回路22
1〜22
Nは、それぞれキャパシタ26と電流源27を備えて構成されている。それぞれの単位回路22
1〜22
Nのキャパシタ26は、容量値が等しくなるように設計されている。キャパシタ26の一端26aは、電源ラインVDDに接続されており、電位が固定されている。また、キャパシタ26の他端26bは、電流源27に接続されている。キャパシタ26の他端26bにはスイッチ25の一端が接続され、スイッチ25の他端は電源ラインVDD(基準電位線)に接続されている。スイッチ25は、キャパシタ26の他端26bを電源ラインVDDに接続するためのスイッチである。スイッチ25は、ランプ信号発生回路21がランプ信号発生動作を始める前にキャパシタ26の一端26aと他端26bとを短絡し、他端26bの電位を電源ラインVDDの電位にリセットする。また、単位回路22
1〜22
Nが有するキャパシタの他端26bの各々は互いに金属配線(配線部材)Wによって接続されている。また、それぞれの単位回路22
1〜22
Nの電流源27
1〜27
Nは、流す電流の大きさが全て等しくなるように設計されている。
【0023】
なお、本明細書において、「等しくなる」とは、キャパシタの容量値や電流源の電流値が製造ばらつきなどにより変動しうる範囲内でばらつく場合を含んでいる。具体的には、素子値のばらつきが20%程度の範囲内であれば、好適に本実施形態の効果が得られる。
【0024】
電圧比較器23
1〜23
Nは、画素アレイ10が出力するアナログ信号と、ランプ信号発生回路21が出力するランプ信号とを比較し、アナログ信号とランプ信号の大小関係に応じて、2種類の電圧レベルの信号を出力する。カウンタ24
1〜
Nは、電圧比較器23
1〜
Nの出力する信号の電圧レベルが変化するまでの時間を計数し、計数した結果を出力する。
【0025】
以上のように構成されるCMOSイメージセンサ1における読み出し時の動作を説明する。CMOSイメージセンサ1においては、一般的には1行分の画素11について同時に読み出しが行われる。以下の説明では、i行目の画素11
i1〜11
iNの読み出しを行う場合について説明する。まず、スイッチ25をONにして、キャパシタ26の他端26bの電圧をVDDにリセットする。次に、i行目のスイッチ12
i1〜12
iNをオンにするとともにi行目以外のスイッチ12をオフにして、画素11
i1〜11
iNの出力を電圧比較器23
1〜23
Nの一方の入力にそれぞれ接続する。そして、スイッチ25をオフにして単位回路22
1〜22
Nでのランプ信号発生動作を開始し、電圧比較器23
1〜23
Nのもう一方の入力にランプ信号を参照信号として入力する。また、単位回路22
1〜22
Nでのランプ信号発生動作の開始と同時にカウンタ24
1〜24
Nでの計数を開始する。単位回路22
1〜22
Nは単調減少するランプ信号を発生する。そのため、最初は単位回路22
1〜22
Nの出力するランプ信号の方が画素11
i1〜11
iNの出力するアナログ信号よりも電圧が高いが、ランプ信号の電圧が低下していくと、ランプ信号の方が画素11
i1〜11
iNの出力するアナログ信号よりも電圧が低くなる。このとき電圧比較器23
1〜23
Nの出力が変化する。カウンタ24
1〜24
Nは、電圧比較器23
1〜23
Nの出力が変化したところで計数をやめ、計数結果をデジタル信号として出力する。画素11
i1〜11
iNの出力するアナログ信号の電圧が低ければ、電圧比較器23
1〜23
Nの出力が変化するまでの時間がより長くなるため、カウンタ24
1〜24
Nが出力するデジタル信号の値はより大きくなる。このようにして、画素11
i1〜11
iNの出力するアナログ信号がAD変換され、カウンタ24
1〜24
Nによって出力される。
【0026】
上記のような動作により、画素11からのアナログ信号がデジタル信号に変換されるため、ランプ信号発生回路21から電圧比較器23に供給されるランプ信号の勾配にばらつきがあると、そのままカウンタ24が出力する値のばらつきにつながる。したがって、列並列ADC20の列ごとのばらつきを抑えて精度を高めるためには、ランプ信号発生回路21の発生するランプ信号の勾配のばらつきを小さく抑えることが必要になる。
【0027】
次に、
図2を用いて、ランプ信号発生回路21について、より詳細に説明する。ランプ信号発生回路21は、N個の単位回路22
1〜22
Nを並べて構成される。i番目の単位回路22
iは、キャパシタ26
iと電流源27
iとを含んで構成される。キャパシタ26
iは、電源ラインVDDとノード28
iとの間に接続される。電流源27
iは、ノード28
iとグラウンドラインGNDとの間に接続される。この電流源27
iは、例えばMOSトランジスタなどの素子を定電流動作させることによって実現される。また、ノード28
iとノード28
i+1とは、金属配線Wで接続されている。この金属配線Wの持つ電気抵抗を
図2では配線抵抗29
iとして表している。
【0028】
以上で説明したランプ信号発生回路21が発生するランプ信号のばらつきについて、以下で説明する。ノード28
iの電位をV
Ri、電流源27
iの流す電流をI
Bi、キャパシタ26
iから流れ出す電流をI
Ci、ノード28
iからノード28
i+1へ流れる電流をI
Riとする。また、キャパシタ26
iの容量値をC
i、ノード28
iとノード28
i+1の間の配線抵抗の逆数(コンダクタンス)をg
iとする。このとき、ノード28
1〜28
Nに発生するランプ信号の電位を要素とするベクトルV
R、電流源27
1〜27
Nの流す電流を要素とするベクトルI
Bをそれぞれ次の式(1)のように定義できる。
【数1】
【0029】
このとき、ノード28
iにおけるキルヒホッフの電流則から、ノード28
1〜28
Nに発生するランプ信号の電位の勾配を要素とするベクトルdV
R/dtは、以下のように計算される。
【数2】
【0030】
ただし、CとGは、それぞれ次の式(3)および式(4)で表される行列である。
【数3】
【数4】
【0031】
以上の式(2)〜(4)から、ランプ信号の電位の勾配のばらつきは、キャパシタ26
iの容量値C
iのばらつき、電流源27
iの電流値I
Biのばらつき、そしてノード28
iとノード28
i+1の間の配線抵抗g
iによって変化することがわかる。
【0032】
以上のように構成されるランプ信号発生回路21が発生するランプ信号の勾配のばらつきの数値シミュレーション結果を
図3〜
図5に示す。以下では、N=1024としている。また、
図3〜
図5の説明における配線抵抗値は、隣り合うノード28
iとノード28
i+1との間の抵抗値である。また、
図3および
図4においては、キャパシタ26
1〜26
1024の容量値および電流源27
1〜27
1024の電流値の標準偏差を、それぞれの平均値の5%として計算している。
【0033】
図3は、ランプ信号発生回路21が発生するランプ信号の勾配の相対誤差を示す図である。横軸は単位回路22の列番号を示している。縦軸は、各単位回路22の発生するランプ信号の勾配の相対的な誤差を示している。配線抵抗が1MΩのときは、ランプ信号の勾配の相対誤差が最大で2.5%程度生じている。一方、配線抵抗を小さくして1kΩとすると、ランプ信号の勾配の相対誤差は0.1%程度まで小さくなる。さらに配線抵抗を小さくして1Ωとすると、ランプ信号の勾配の相対誤差はほぼ0となり、ランプ信号の勾配のばらつきがほぼなくなっている。なお、この配線抵抗の1Ωという値は、回路を実際に作製する場合にも十分に実現可能な値である。
【0034】
図4は、配線抵抗とランプ信号の勾配の相対誤差を示す図である。配線抵抗が大きい領域、特に1×10
9Ω以上のところでは、ランプ信号の勾配の相対誤差はほぼ0.07となっている。この0.07という値は、ほぼ0.05のルート2倍であり、キャパシタ26
1〜26
1024の容量値および電流源27
1〜27
1024の電流値という2つの量のそれぞれの標準偏差の相対値0.05から誤差伝播の法則により計算される値である。一方、配線抵抗を小さくしていくと、ランプ信号の勾配の相対誤差は小さくなっていく。例えば配線抵抗を1Ωとした場合、ランプ信号の勾配の相対誤差は2.7×10
−6となり、配線抵抗を1GΩとした場合と比べて、26000分の1まで小さくなる。
【0035】
図5は、キャパシタ26
1〜26
1024の容量値および電流源27
1〜27
1024の電流値の標準偏差の相対値と、ランプ信号の勾配の相対誤差の関係を示す図である。ここでは、配線抵抗値を1μΩから1GΩまで変化させて計算を行っている。
図5に示されるように、キャパシタ26
1〜26
1024の容量値および電流源27
1〜27
1024の電流値の標準偏差が大きくなると、ランプ信号の勾配の相対誤差も大きくなる傾向がある。しかしながら、配線抵抗を小さくすることにより、ランプ信号の勾配の相対誤差を小さくすることができることも、この
図5には示されている。例えば、キャパシタ26
1〜26
1024の容量値および電流源27
1〜27
1024の電流値の標準偏差の相対値をそれぞれ0.2、すなわち20%というかなり大きな値としても、配線抵抗を1Ωとしたときには、ランプ信号の勾配の相対誤差は1×10
−6程度という極めて小さな値に抑えられている。このため、低消費電力化のためにキャパシタ26を小さくし、電流源27の電流値を小さくすることにより、キャパシタ26および電流源27のばらつきが大きくなっても、各ノード28を低抵抗の金属配線Wで接続することにより、ランプ信号の勾配の相対誤差を小さく抑えることができる。したがって、必要な精度を確保しつつ、電流源27の電流値を小さくして低消費電力化を図ることができ、同時にキャパシタ26のサイズや電流源27を構成する素子のサイズを小さくして小面積化を図ることができる。
【0036】
以上で説明したように、本実施形態においては、ランプ信号発生回路21は、一端の電位が固定されたキャパシタ26と、キャパシタ26の他端に接続される電流源27と、を有する複数の単位回路22を備え、複数の単位回路が有するキャパシタ26の他端の各々が互いに接続されている。そのため、キャパシタ26の容量値や電流源27が流す電流の大きさのばらつきにかかわらず、各キャパシタ26の電圧が等しくなるように、複数の単位回路22が有するキャパシタ26の他端同士を接続する配線を電流が通る。したがって、複数の単位回路22が発生するランプ信号の勾配のばらつきが小さくなる。
【0037】
なお、本発明に係るランプ信号発生回路は、上記の実施形態に限られない。例えば、単位回路22において、キャパシタ26をノード28とグラウンドラインGNDの間に接続し、電流源27を電源ラインVDDとノード28の間に接続して、単位回路22が発生するランプ信号を単調増加する信号としてもよい。
【0038】
また、本発明に係るランプ信号発生回路は、CMOSイメージセンサ用に限定されるものではなく、ランプ信号を参照信号として利用する各種の回路において、本発明に係るランプ信号発生回路を使用することができる。また、ノード28
iとノード28
i+1とを接続する配線部材の材料としては金属だけでなく、例えばポリシリコンなどの公知の種々の材料を使用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、勾配のばらつきの小さいランプ信号を発生することのできるランプ信号発生回路及びこれを用いたCMOSイメージセンサが提供される。
【符号の説明】
【0040】
1…CMOSイメージセンサ、10…画素アレイ、11…画素、12…スイッチ、20…列並列ADC、20
1〜20
N…列ADC、21…ランプ信号発生回路、22…単位回路、23…電圧比較器、24…カウンタ、25…スイッチ、26…キャパシタ、27…電流源、28…ノード、29…配線抵抗、VDD…電源ライン(基準電位線)、W…金属配線(配線部材)。