特許第6143229号(P6143229)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社トキワの特許一覧

<>
  • 特許6143229-多種ペンシル 図000002
  • 特許6143229-多種ペンシル 図000003
  • 特許6143229-多種ペンシル 図000004
  • 特許6143229-多種ペンシル 図000005
  • 特許6143229-多種ペンシル 図000006
  • 特許6143229-多種ペンシル 図000007
  • 特許6143229-多種ペンシル 図000008
  • 特許6143229-多種ペンシル 図000009
  • 特許6143229-多種ペンシル 図000010
  • 特許6143229-多種ペンシル 図000011
  • 特許6143229-多種ペンシル 図000012
  • 特許6143229-多種ペンシル 図000013
  • 特許6143229-多種ペンシル 図000014
  • 特許6143229-多種ペンシル 図000015
  • 特許6143229-多種ペンシル 図000016
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6143229
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】多種ペンシル
(51)【国際特許分類】
   A45D 40/20 20060101AFI20170529BHJP
   B43K 21/00 20060101ALI20170529BHJP
   B43K 21/08 20060101ALI20170529BHJP
   B43K 27/04 20060101ALI20170529BHJP
   B43K 24/18 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
   A45D40/20 D
   A45D40/20 F
   B43K21/00 F
   B43K21/08
   B43K27/04
   B43K24/18
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-114690(P2014-114690)
(22)【出願日】2014年6月3日
(65)【公開番号】特開2015-228883(P2015-228883A)
(43)【公開日】2015年12月21日
【審査請求日】2016年6月2日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591147339
【氏名又は名称】株式会社トキワ
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100182006
【弁理士】
【氏名又は名称】湯本 譲司
(72)【発明者】
【氏名】谷 仁一
【審査官】 遠藤 邦喜
(56)【参考文献】
【文献】 実開平05−039418(JP,U)
【文献】 登録実用新案第3122198(JP,U)
【文献】 実開昭63−103778(JP,U)
【文献】 特開2007−029386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A45D 40/20
B43K 21/00
B43K 21/08
B43K 24/18
B43K 27/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の本体と、
前記本体に係合される筒状の先筒と、
前記先筒の内部で保持される複数の描画材のそれぞれに連結されて前記本体に対して一定量摺動可能に設けられる複数のスライド部と、を備え、
前記複数のスライド部のうち任意の一の前記スライド部が前記本体に対して一定量前進することで任意の一の前記スライド部に連結された前記描画材が前記先筒から露出し、この状態で前記先筒と前記本体とを一方向に相対回転させることによって前記描画材が前進する多種ペンシルであって、
前記先筒と前記本体との前記一方向の相対回転を許容し、前記一方向の反対方向である他方向の相対回転を規制するラチェット機構を備え、
前記一方向の前記先筒と前記本体との相対回転による前記描画材の前進のみに規制され
前記本体の前側に位置する中筒を備え、
前記ラチェット機構は、前記中筒の外面から突出する突部と、前記先筒の内面に設けられて前記突部と回転可能に係合する凹凸部と、を備え、
前記中筒の前記突部は、径方向に弾性を有し、前記先筒の前記凹凸部に常時当接し、前記中筒と前記先筒との間で常時抵抗を発生させる、
多種ペンシル。
【請求項2】
前記先筒の内部に配置されて且つ前記描画材が装填されるパイプ材と、
前記描画材の後側で軸線方向に延在し且つ外周に微小ピッチの雄螺子を備えた移動体と、
前記パイプ材の後側に同期回転可能に係合されて且つ内周に前記雄螺子を螺合する雌螺子を備えた螺子筒と、を備え、
前記スライド部が前記本体に対して一定量前進することによって、前記パイプ材が前進すると共に前記先筒と回転方向に係合し、この状態で前記先筒と前記本体とを前記一方向に相対回転させることによって、前記雄螺子と前記雌螺子との螺合作用で前記移動体が前記描画材と共に前進する、
請求項1に記載の多種ペンシル。
【請求項3】
前記移動体の前端は平坦な底面を有する円柱状となっており、前記底面が前記描画材を前方に押し込むことによって前記描画材が前進する、
請求項に記載の多種ペンシル。
【請求項4】
前記螺子筒の後側に配置されて且つ前記移動体を内部で保持する保持体を備え、
前記移動体の断面は非円形状となっており、
前記保持体は、前記移動体の断面形状に対応した非円形状の穴部を有する、
請求項又はに記載の多種ペンシル。
【請求項5】
前記保持体は、前記穴部に挿入された前記移動体に対して外側から弾性力を付与する弾性部を備えている、
請求項に記載の多種ペンシル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の描画材のうちの一つを押し出して使用する多種ペンシルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の多種ペンシルとしては、例えば実開平5−39418号公報に記載されたものが知られている。この公報には、複数の縦孔を有する筒状の本体と、本体の前部に回動可能に嵌着されて前部が縮小するように形成されたテーパ筒とを外観構成として具備した化粧料繰出容器が記載されている。この化粧料繰出容器の内部には、本体の縦孔から突出させる押釦を有する複数の押出片と、各押出片の前部に連結される複数の螺旋筒と、各螺旋筒の前部に回動可能に連結される複数の連結管と、各連結管の前部に設けられた複数の保持筒とが設けられている。テーパ筒の先端部には角形の挿通孔が設けられており、保持筒はテーパ筒の挿通孔に挿入可能な角形に形成されている。また、螺旋筒及び連結管の内部には突出部を有する押棒が挿入されており、この押棒の突出部は螺旋筒内の螺旋に螺合している。押棒の前部には、棒状の化粧料が装着された芯チャックが連結されている。
【0003】
上記公報の化粧料繰出容器において、一つの押出片を縦孔に沿って前進させると、螺旋筒、連結管、保持筒、押棒及び芯チャックが一体となって前進する。そして、保持筒は、テーパ筒の内面に沿って進み、螺旋筒及び連結管を撓ませた状態で挿通孔に回動不能に挿入される。この状態で本体に対してテーパ筒を一方向に回転させると、テーパ筒と共に保持筒、連結管及び押棒が回転する。そして、螺旋筒に対して押棒が前進し、これに伴い芯チャックも前進することによって、化粧料が保持筒から前方に押し出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平5−39418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したような化粧料繰出容器では、本体に対してテーパ筒を他方向に回転させると、螺旋筒に対して押棒が後退する。押棒の前部に連結されている芯チャックは棒状化粧料等の描画材を把持しているので、押棒の後退に伴って芯チャックに把持された描画材も後方に引き戻される。このように芯チャックが描画材を把持した状態で描画材を後退させる構成となっているため、描画材はある程度硬い材料で構成されていなければならず、柔らかい材料で構成された描画材を用いることができないという問題がある。また、上述したような化粧料繰出容器では、描画材を必要以上に後退させてしまうという事態が想定され、この場合、次回の使用時に余分に描画材を前進させなければならないので使用性の点で改善の余地がある。
【0006】
そこで、本発明は、柔らかい材料で構成された描画材を用いることができると共に、使用性を向上させることが可能な多種ペンシルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明に係る多種ペンシルは、筒状の本体と、本体に係合される筒状の先筒と、先筒の内部で保持される複数の描画材のそれぞれに連結されて本体に対して一定量摺動可能に設けられる複数のスライド部と、を備え、複数のスライド部のうち任意の一のスライド部が本体に対して一定量前進することで任意の一のスライド部に連結された描画材が先筒から露出し、この状態で先筒と本体とを一方向に相対回転させることによって描画材が前進する多種ペンシルであって、先筒と本体との一方向の相対回転を許容し、一方向の反対方向である他方向の相対回転を規制するラチェット機構を備え、一方向の先筒と本体との相対回転による描画材の前進のみに規制され、本体の前側に位置する中筒を備え、ラチェット機構は、中筒の外面から突出する突部と、先筒の内面に設けられて突部と回転可能に係合する凹凸部と、を備え、中筒の突部は、径方向に弾性を有し、先筒の凹凸部に常時当接し、中筒と先筒との間で常時抵抗を発生させる
【0008】
この多種ペンシルでは、各スライド部に描画材が連結されており、本体に対して任意の一のスライド部が一定量前進することによって任意の一のスライド部に連結された描画材が先筒から露出する。そして、この状態で先筒と本体とを一方向に相対回転させることによって描画材が前進する構造となっており、更に描画材の前進のみに規制される。このように一方向への相対回転による描画材の前方側への押し出しを考慮すればよい構成となっている。よって、例えば描画材を把持した状態で後退させる構成が不要となるため、把持し難い柔らかい材料の描画材であっても多種ペンシルに用いることができる。また、本発明の多種ペンシルでは、描画材が後退しないので、次回の使用時に余分に描画材を前進させなければならないという問題は生じない。従って、使用性を向上させることができる。
【0010】
また、中筒の外面から突出する突部と先筒の内面に設けられた凹凸部とをラチェット機構として利用することができる。
【0011】
また、中筒の外面から突出する突部と先筒の内面に設けられた凹凸部とを常時当接させ、中筒の外面と先筒の内面との間で常時抵抗を発生させることが可能となるので、中筒と先筒とのがたつきを抑制することが可能となる。
【0012】
また、先筒の内部に配置されて且つ描画材が装填されるパイプ材と、描画材の後側で軸線方向に延在し且つ外周に微小ピッチを有する雄螺子を備えた移動体と、パイプ材の後側に同期回転可能に係合されて且つ内周に雄螺子を螺合する雌螺子を備えた螺子筒と、を備え、スライド部が本体に対して一定量前進することによって、パイプ材が前進すると共に先筒と回転方向に係合し、この状態で先筒と本体とを一方向に相対回転させることによって、雄螺子と雌螺子との螺合作用で移動体が描画材と共に前進してもよい。この場合、移動体の外周に形成された雄螺子が微小ピッチを有しているので、一方向への相対回転による移動体の前進量を微小とすることができる。従って、前方に押し出す描画材の微調整が可能になると共に、押し出された描画材が折れる等の不具合を生じにくくすることができるので、使用性を一層向上させることができる。
【0013】
また、移動体の前端は平坦な底面を有する円柱状となっており、当該底面が描画材を前方に押し込むことによって描画材が前進してもよい。この場合、描画材を把持する芯チャックを不要とし、円柱状の移動体前端における底面で描画材を前方に押し出す構成とすることが可能となる。
【0014】
また、螺子筒の後側に配置されて且つ移動体を内部で保持する保持体を備え、移動体の断面は非円形状となっており、保持体は、移動体の断面形状に対応した非円形状の穴部を有してもよい。この場合、非円形状の穴部に断面非円形の移動体を挿入させることによって、保持体による移動体の回転方向への係合が可能となり、保持体を移動体の回り止めとして機能させることができる。
【0015】
また、保持体は、穴部に挿入された移動体に対して外側から弾性力を付与する弾性部を備えていてもよい。この場合、弾性部による外側からの弾性力によって穴部内の移動体を保持することが可能となるため、弾性力の付与によって移動体を保持体に取り付けると共に弾性力の解除によって移動体を保持体から取り外すことが可能となり、保持体に対して移動体を着脱自在とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、柔らかい材料で構成された描画材を用いることができると共に、使用性を向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態に係る多種ペンシルを示す側面図である。
図2図1の多種ペンシルから先筒とカートリッジとを外した状態を示す斜視図である。
図3図1の多種ペンシルを示す断面斜視図である。
図4図1の多種ペンシルにおいてスライド部を前方に移動させた状態を示す断面斜視図である。
図5図1の多種ペンシルの内側に配置される各部品を示す斜視図である。
図6図1の多種ペンシルの外観を構成する各部品を示す斜視図である。
図7】先筒を示す断面斜視図である。
図8】(a)は中筒を示す斜視図、(b)は中筒を示す断面斜視図である。
図9図1のA−A線断面図である。
図10】保持体の部分断面斜視図とOリングの斜視図である。
図11】移動体の斜視図である。
図12】螺子筒の断面斜視図である。
図13】パイプ材と描画材とを示す斜視図である。
図14】スライド部を示す斜視図である。
図15】(a)は本体を示す斜視図、(b)は本体を示す断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明において同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0019】
図1は本実施形態に係る多種ペンシルの外観を示す側面図であり、図2図1の多種ペンシルから先筒とカートリッジとを外した状態を示す斜視図である。図1及び図2に示されるように、本実施形態の多種ペンシル100は、4本のパイプ材1A〜1Dそれぞれの内部に装填された複数の描画材M1〜M4のいずれかを使用者の操作により適宜吐出する(押し出す)ものである。本実施形態において、描画材M1〜M4は、色が互いに異なる描画材を示している。
【0020】
描画材M1〜M4としては、例えば、リップスティック、リップグロス、アイライナー、アイブロー、リップライナー、チークカラー、コンシーラー、美容スティック、ヘアカラー、ネイルアート等を始めとした種々の棒状化粧料、又は文房具等の棒状の芯等を用いることが可能である。更に、非常に柔らかい(半固形状、軟固形状、軟質状、ゼリー状、ムース状及びこれらを含む練り状等の)棒状物を用いるのが好適である。また、外径が1mm以下の細径棒状物、外径が1.5mmから3.0mmの一般棒状物、又は外径が4.0mm以上の太めの棒状物を使用可能である。
【0021】
多種ペンシル100は、描画材M1〜M4が装填されるパイプ材1A〜1Dを内部に備える先筒2と、先筒2の後端部に連結されると共に先筒2に相対回転可能に係合される本体3と、を外観構成として具備している。以下の説明において、「軸線」とは、多種ペンシル100の前後に延びる多種ペンシル100の中心線を示し、「軸線方向」とは、前後方向であって軸線に沿った方向を示している。また、描画材M1〜M4の繰り出し方向を前方(前進する方向)とし、その反対方向を後方としている。
【0022】
パイプ材1Aの後部には、螺子筒4Aが同期回転可能に係合されており、螺子筒4Aの内部には、雄螺子5aを有する棒状の移動体5Aが螺合されている。これらのパイプ材1Aと螺子筒4Aと移動体5Aとによって、本体3に対して交換可能なカートリッジ10Aが構成されている。パイプ材1B〜1Dはパイプ材1Aと同様の構成となっており、パイプ材1B〜1Dと螺子筒4B〜4Dと移動体5B〜5Dとによって、それぞれカートリッジ10B〜10Dが構成されている。
【0023】
図2図4に示されるように、カートリッジ10Aの後部には、移動体5Aを保持する筒状の保持体6Aと、保持体6Aに対して外側から弾性力を付与するOリング(弾性部)7Aと、保持体6Aの後部で保持体6Aに同期回転可能に係合されるスライド部8Aと、スライド部8Aを後方に付勢するスプリング9Aと、が設けられている。また、図3図5に示されるように、カートリッジ10B〜10Dそれぞれの後部にも、上記同様、保持体6B〜6Dと、Oリング7B〜7Dと、スライド部8B〜8Dと、スプリング9B〜9Dと、が設けられている。
【0024】
以上のように、先筒2及び本体3の内部には、描画材M1〜M4が装填されたパイプ材1A〜1Dと、移動体5A〜5Dと、螺子筒4A〜4Dと、Oリング7A〜7Dと、保持体6A〜6Dと、スプリング9A〜9Dと、スライド部8A〜8Dと、が設けられる。なお、パイプ材1A〜1D、移動体5A〜5D、螺子筒4A〜4D、Oリング7A〜7D、保持体6A〜6D、スプリング9A〜9D及びスライド部8A〜8Dにあっては、互いに異なる描画材M1〜M4が装填されること以外は同一の構成である。
【0025】
よって、以下の説明では、パイプ材1A〜1D、移動体5A〜5D、螺子筒4A〜4D、Oリング7A〜7D、保持体6A〜6D、スプリング9A〜9D及びスライド部8A〜8Dのそれぞれを、単にパイプ材1、移動体5、螺子筒4、Oリング7、保持体6、スプリング9及びスライド部8と称する。また、カートリッジ10A〜10D、描画材M1〜M4のそれぞれを、単にカートリッジ10、描画材Mと称する。
【0026】
図3図4及び図6に示されるように、本体3の前端には中筒11が同期回転可能に係合されており、この中筒11の内部に4本の保持体6が保持される。また、中筒11及び先筒2には、先筒2と本体3(中筒11)との相対回転を一方向にのみ許容するラチェット機構12が設けられている。このラチェット機構12によって、上記一方向の反対方向である他方向における先筒2と本体3との相対回転が規制される。
【0027】
図7は、図6の先筒2を拡大させた断面斜視図である。図7に示されるように、先筒2は、ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレンの共重合合成樹脂)で成形され、筒状を呈し、前端にパイプ材1の前側部分を出現させるための開口部2aを有する。先筒2の内部には、4本のカートリッジ10と4本の保持体6とを収容する収容領域2bが設けられており、収容領域2b内に設けられた4本のパイプ材1のうちのいずれかが使用者の操作に従って開口部2aから前方に露出される。
【0028】
先筒2の外周面の前方側には、前方に向かうに従って先細りとなるように傾斜する傾斜面2cが設けられている。先筒2における前方側の内周面2dも前方側に向かうに従って先細りとなっている。内周面2dには、パイプ材1を回転方向(軸線回りの方向)に係合するためのものとして、周方向に多数の凸部が並設されて当該凸部が内周面2dの傾斜方向に所定長延びる突条2eが設けられている。この突条2eにおける突部間の間隔は前方側に向かうに従って短くなっている。
【0029】
先筒2の内周面の後部側には、ラチェット機構12の一方を構成するものとして、周方向に24個の凹凸が並設されて当該凹凸が軸線方向に所定長延びる凹凸部2fが設けられている。また、先筒2の内周面における凹凸部2fの後側には、中筒11を先筒2の後部で軸線方向に係合するための環状凹部2g,2hが設けられている。
【0030】
図8(a)は図6の中筒11を拡大させた斜視図であり、図8(b)は図6の中筒11を拡大させた断面斜視図である。中筒11は、POM(ポリアセタール)による射出成形品とされており、段付き円筒状の外形を呈している。中筒11は、前端筒部11aと、前端筒部11aよりも大径外形を有する中央筒部11bと、前端筒部11a及び中央筒部11bよりも小径外形を有する後端筒部11cと、を前方から後方に向かってこの順に有している。
【0031】
前端筒部11aは、その内周面11dにおいて互いに対向する一対の位置に、ラチェット機構12の他方を構成する突部11eを備えている。この突部11eは、先筒2の凹凸部2fに回転方向に係合するものであり、径方向外側に突出するように設けられている。前端筒部11aにおける突部11eの周囲には、中筒11の内外を連通するコの字状の切欠き11fが形成されており、この切欠き11fによって突部11eは径方向に弾性を有している。中筒11の突部11eは、先筒2の凹凸部2fに常時当接する。
【0032】
図9は、図1のA−A線断面図である。図9に示されるように、ラチェット機構12の一方を構成する先筒2の凹凸部2fは、先筒2の内周面に対して傾斜している傾斜面2f1と、先筒2の内周面に対して略垂直となるように形成された側面2f2と、を有する。また、ラチェット機構12の他方を構成する中筒11の突部11eは、中筒11の外周面に対して傾斜している傾斜面11e1と、中筒11の外周面の接線に対して略垂直となるように形成された側面11e2と、を有する。
【0033】
図8に示されるように、中筒11の切欠き11fは、前端筒部11aにおける突部11eの軸線方向両脇に穿設されて周方向に延びる一対のスリット11g,11hと、前端筒部11aにおける突部11eの周方向一方側に穿設されスリット11g,11hに連続して軸線方向に延びるスリット11jと、を含んでいる。前端筒部11aで切欠き11fに囲まれた壁部は、径方向に可撓性を有するアーム11kを成している。よって、アーム11kの先端部の外面に配置された突部11eは、径方向に弾性力(付勢力)を有している。
【0034】
中筒11の中央筒部11bの外周面には、先筒2の環状凹部2gに係合される突起11mと、先筒2の環状凹部2hに後方から入り込む環状凸部11nとが設けられている。中央筒部11bの外周面における環状凸部11nの後部には円環状の鍔部11pが設けられており、この鍔部11pより前側の円筒部が先筒2に後方から挿入される挿入部とされている。
【0035】
中筒11の後端筒部11cには、本体3に対して回転方向に係合するための突条11qが軸線方向に延びるように形成されている。この突条11qは、後端筒部11cの外周面で周方向四等配の位置に形成されている。また、鍔部11pの後側には、本体3に対して軸線方向に係合するための凸部11rが形成されており、この凸部11rは突条11q間で周方向に延在している。
【0036】
中筒11は、その鍔部11pの内側において、4本の保持体6を軸線方向に挿通させる円板状の部位である保持体収容部11sによって図示左右に仕切られている。この保持体収容部11sには、周方向四等配の位置に、保持体6を軸線方向に挿通させるための円形の開口11tが設けられている。
【0037】
中筒11において、前端筒部11a及び中央筒部11bは、先筒2の後側から先筒2に内挿される。このとき、前端筒部11aの突部11eが先筒2の凹凸部2fに回転方向に係合され、中央筒部11bの突起11mが先筒2の環状凹部2gに係合されると共に、中央筒部11bの環状凸部11nが先筒2の環状凹部2hに入り込む。
【0038】
図10は、Oリング7と保持体6とを示す部分断面斜視図である。保持体6は、全体として棒状の外形を呈している。保持体6の材料としては、例えばPOMが用いられる。保持体6は、その前側に設けられて移動体5を収容する穴部6aを有する円筒状の移動体保持部6bと、移動体保持部6bの後部で軸線方向に延在する丸棒状の棒状部6cと、を備える。
【0039】
保持体6の移動体保持部6bは、前端から後方に所定長延在して移動体保持部6bの内周面で互いに対向するように一対に形成されたスリット6dを備えている。このスリット6dによって、移動体保持部6bの前端は径方向外側に拡径可能となっている。移動体保持部6bのスリット6dが設けられる部位の外周面には、Oリング7を入れ込むための環状凹部6eが設けられている。この環状凹部6eにOリング7が入れ込まれることによって、移動体保持部6bに保持される移動体5が内側に締め付けられ、移動体保持部6bからの移動体5の抜けが防止される。
【0040】
保持体6における移動体保持部6bの内側で互いに対向する一対の位置には、移動体5を同期回転させるための平面部6jが設けられている。この平面部6jによって、軸線方向に直交する平面で移動体保持部6bを切断したときの穴部6aの断面形状は、非円形状となっている。また、平面部6jには、成形時に射出の圧力でコアピンが傾かないようにコアピンを支持するものとして、軸線方向に延びる長円状の3個の貫通孔6kが保持体6の内外を貫通するように設けられている。以上のように構成される移動体保持部6bの後方の棒状部6cは、中筒11の保持体収容部11sの開口11tに、軸線方向に挿通される。
【0041】
保持体6における棒状部6cの後側には、スライド部8に回転方向に係合される突条6fが軸線方向に延びるように形成されており、この突条6fは棒状部6cの外周面で周方向四等配の位置に形成されている。また、棒状部6cの後側には、スライド部8に対して軸線方向に係合される凸部6gが形成されており、この凸部6gは突条6f間で周方向に延在している。また、棒状部6cの後端には、突条6fが設けられる部位から縮径された状態で更に後方に突出する棒状の突出部6hが設けられており、この突出部6hはスプリング9と共にスライド部8に組み立てやすくするための案内として用いられる。
【0042】
図11は、移動体5の斜視図である。移動体5は、棒状の外形を呈している。移動体5の材料としては、例えばPOMが用いられる。移動体5は、その外周面において、雄螺子5aと、保持体6の平面部6j(図9参照)に押さえつけられる平面部5bと、を備えている。この平面部5bによって、軸線方向に直交する平面で雄螺子5a及び平面部5bを切断したときの形状は、保持体6の穴部6aに対応した非円形状となっている。
【0043】
移動体5における雄螺子5aのピッチ(軸線方向における雄螺子5aの螺子山間の距離)は、0.3mm以上かつ1.0mm以下となっており、より好ましくは0.4mmとなっている。従来の雄螺子のピッチは一般的に2.0mm以上かつ6.0mm以下となっているので、雄螺子5aのピッチは、一般的な雄螺子のピッチよりも短い微小ピッチとなっている。
【0044】
移動体5の平面部5bは、雄螺子5aが設けられる部位で軸線方向に延在するように設けられており、移動体5の外周面で互いに対向する一対の位置に設けられている。移動体5における雄螺子5a及び平面部5bは、平面部5bが移動体保持部6bの平面部6jにクリアランスをもって移動体保持部6bに前方から挿入される。そして、移動体保持部6bの内側に設けられた突起と移動体5の雄螺子5aとが嵌合することによって、移動体保持部6bに対し移動体5が保持される。また、移動体5の前端には、パイプ材1内の描画材Mを前方に押し出す円柱状の押出部5cが設けられている。押出部5cは、その前端に位置する平坦状の底面5dと、周方向に延在する側面5eと、底面5dに対して傾斜し底面5d及び側面5eに連続するテーパ面5fとを備えている。押出部5cにおける平坦状の底面5dは、描画材Mを前方に押し出すための面である。
【0045】
図12は、螺子筒4の断面斜視図である。螺子筒4は、略円筒状を呈している。螺子筒4の材料としては、例えばPOMが用いられる。螺子筒4の内周面における後側には、移動体5を移動させるための雌螺子4aが形成されている。螺子筒4における雌螺子4aのピッチ(軸線方向における雌螺子4aの螺子山間の距離)は、移動体5の雄螺子5aと同様、一般的な雌螺子のピッチよりも短い微小ピッチとなっている。また、螺子筒4の前側には、螺子筒4の前端でパイプ材1の後端を係合させるための凹部4bが設けられており、この凹部4bは、螺子筒4の前端を所定長だけ後方に切り欠いた台形状とされている。凹部4bは、螺子筒4の内周面で互いに対向する一対の位置に設けられている。
【0046】
螺子筒4における凹部4bの後方には、パイプ材1の後端を係合させるための孔部4cが設けられており、この孔部4cは、螺子筒4の内外を貫通するように設けられている。孔部4cは、周方向に延在する形状となっており、螺子筒4の内周面において互いに対向する一対の位置に設けられている。
【0047】
図13は、パイプ材1及び描画材Mの斜視図である。パイプ材1は略円筒状を呈している。パイプ材1の材料としては、例えばPP(ポリプロピレン)が用いられる。パイプ材1は、描画材Mと同じ色に着色したり透明材料にしたりすることによって、描画材Mの色を識別しやすくすることも可能である。パイプ材1の内面(描画材Mの装填領域)は段差を有しない平坦な形状となっているので、吸引等によってパイプ材1の内面全体に亘って簡単に描画材Mを装填させることが可能となっている。パイプ材1の外周面における前端部分には、先筒2の突条2eに回転方向に係合されるものとして、周方向に多数の凹部が並設されて当該凹部が軸線方向に所定長延びる長円形の凹溝1aが設けられている。
【0048】
パイプ材1の外周面における後側には、円環状の鍔部1bと、鍔部1bの後部で螺子筒4の凹部4bが係合する突出部1cと、突出部1cの後方で螺子筒4の孔部4cに嵌め込まれる突起1dと、が設けられている。それにより、パイプ材1と螺子筒4とが軸線方向に係合すると共に同期回転可能となる。パイプ材1の外周面に対する鍔部1bの高さと、パイプ材1の外周面に対する突出部1cの高さと、当該外周面に対する係合された螺子筒4の高さと、は略同一となる。
【0049】
パイプ材1の突出部1cは、パイプ材1の鍔部1bから所定長だけ後方に延びる台形状とされている。突出部1cは、パイプ材1の外周面で互いに対向する一対の位置に設けられている。パイプ材1の突起1dは、周方向に延在する形状となっており、パイプ材1の外周面において互いに対向する一対の位置に設けられている。このように構成されるパイプ材1には後方から螺子筒4が係合されるようになっており、このとき、パイプ材1の突出部1cが螺子筒4の凹部4bに嵌り込むと共に、パイプ材1の突起1dが螺子筒4の内側から螺子筒4の孔部4cに嵌合する。
【0050】
図14は、スライド部8の斜視図である。スライド部8の材料としては、例えばABS樹脂が用いられる。スライド部8の色は、例えば、対応する描画材Mの色と同一となっており、所望の色のスライド部8を前方に一定量摺動させることによって、所望の色の描画材Mを先筒2の開口部2aから前方に露出させることが可能となっている。
【0051】
スライド部8は、軸線方向に延びる形状となっている。スライド部8の前側には、保持体6の突出部6hが前方から挿入される穴部8aが設けられており、この穴部8aには、保持体6の凸部6gが軸線方向に係合されると共に保持体6の突条6fが回転方向に係合される突出部8b及び窓部8cが設けられている。穴部8aには、軸線方向に延びる切欠き8dが連通するように設けられている。また、スライド部8の前端には、スプリング9の一端が当接される平坦面8eが設けられている。
【0052】
スライド部8における窓部8cの後方には、他のスライド部8を後方に引き戻すための突出部8fが設けられており、この突出部8fは、本体3の内側に突出し軸線方向に延在している。スライド部8の後端には、本体3の外側に突出する突出部8gと、スライド部8の後端で後方に突出して本体3に引っ掛けられる後端部8hと、本体3の内側に突出し他のスライド部8の突出部8fが当接される傾斜面8jを有する突出部8kと、が設けられている。
【0053】
このように構成されるスライド部8には、その前方から保持体6が係合されるようになっており、このとき、スライド部8の穴部8aに保持体6の突出部6hが挿入されると共に、スライド部8の突出部8bを保持体6の凸部6gが乗り越えて突出部8b及び窓部8cに突条6f及び凸部6gが係合することにより、スライド部8の前側に保持体6が同期回転可能に係合される。
【0054】
図15(a)は本体3の斜視図であり、図15(b)は本体3の断面斜視図である。本体3は、ABS樹脂による射出成形品とされており、有底円筒状を呈している。本体3の後側には、軸線方向に延びてスライド部8の突出部8gを外方に突出させる切り欠き部3aが設けられており、この切り欠き部3aは周方向四等配の位置に設けられている。
【0055】
本体3における切り欠き部3aの内側には、切り欠き部3aから内側に延びる平坦部3bと、平坦部3bの後側で軸線方向に延びる突出部3cと、が設けられている。突出部3cの後側は、本体3の底面3dにまで延びている。本体3の切り欠き部3aに沿ってスライド部8の突出部8gを前方に移動させると、スライド部8の後端部8hが突出部3cに沿って前進する。後端部8hが突出部3cの前端に達するとスライド部8が切り欠き部3aの内側に入り込んで、突出部3cの前端に後端部8hが引っ掛けられる。また、一のスライド部8(例えば図4のスライド部8A)における後端部8hが突出部3cの前端に引っ掛けられた状態において、一のスライド部8の傾斜面8jには他のスライド部8(例えば図4のスライド部8B,8C,8D)の突出部8fが近接した状態となる。
【0056】
本体3の内周面における前側には、中筒11の突条11qに回転方向に係合する凹溝3eと、中筒11の凸部11rが軸線方向に係合する環状凹部3fと、が設けられている。凹溝3eは、本体3の前端から後方に所定長延びるように形成されており、本体3の内周面で周方向四等配の位置に配置されている。また、環状凹部3fは、凹溝3e間で周方向に延在している。
【0057】
本体3には、その前側から4個のスライド部8が挿入され、スライド部8の突出部8gは切り欠き部3aから外方に突出された状態となる。また、本体3の前端には中筒11が入り込むようになっており、このとき、本体3の凹溝3eに中筒11の突条11qが入り込み、本体3の環状凹部3fに中筒11の凸部11rが嵌り込むことによって、本体3に中筒11が同期回転可能に係合される。
【0058】
図3及び図4に示されるように、スプリング9は、保持体6の棒状部6cの外径とクリアランスを持って巻き付けられている。スプリング9は、その一端(前端)が中筒11における保持体収容部11sの後壁に当接し、その他端(後端)がスライド部8の前端に位置する平坦面8eに当接した状態とされている。このスプリング9によりスライド部8が後方に付勢された状態とされる。
【0059】
以上のように構成される多種ペンシル100の使用時の動作について以下で説明する。図3に示される初期状態の多種ペンシル100にあっては、4個のスライド部8が本体3の切り欠き部3aの後端に位置した状態となっており、4本のパイプ材1が先筒2の内側に位置している。この状態でスライド部8Aを切り欠き部3aに沿って一定量前進させると、図4に示されるように、スライド部8Aに軸線方向に係合された保持体6A、螺子筒4A、パイプ材1A及び描画材M1が前進し、描画材M1が先筒2の開口部2aから前方に露出する。
【0060】
このとき、パイプ材1Aの前側部分が先筒2の内周面2dに入り込むことによって、保持体6Aが軸線方向に対して傾斜するように撓み、パイプ材1の凹溝1aが先筒2の突条2eに回転方向に係合する。そして、スライド部8Aの後端部8hが本体3の突出部3cの前端に引っ掛かった状態となる。
【0061】
この状態において、例えば使用者が先筒2に対して本体3を一方向(例えば、時計回り)に相対回転させると、中筒11、4個のスライド部8、4個の保持体6及び4個の移動体5が一方向への回転を開始する。ここで、先筒2の突条2eに凹溝1aが係合されていないパイプ材1B〜1D及び螺子筒4B〜4Dは、上記一方向への相対回転に伴って回転する。
【0062】
一方、先筒2の突条2eに凹溝1aが係合されたパイプ材1Aに螺子筒4Aを介して連結されている保持体6Aは、上記一方向への相対回転に伴って、撓み、弾性変形しながら共に一方向への回転を開始する。また、先筒2の突条2eに凹溝1aが係合されたパイプ材1A及び螺子筒4Aは、移動体5Aの一方向への回転と共には回転せず、パイプ材1A及び螺子筒4Aに対して移動体5Aが相対回転することとなる。よって、上記一方向への相対回転によって、移動体5の雄螺子5aと螺子筒4の雌螺子4aとの間で螺合作用が働き、パイプ材1A及び螺子筒4Aに対して移動体5Aが前進を開始する。そして、移動体5Aにおける押出部5cの底面5dがパイプ材1Aに装填された描画材M1を前方に押し出すことによって、移動体5Aと描画材M1とが共にパイプ材1Aに対して前進を開始する。
【0063】
また、上記一方向への相対回転の際、図9に示されるように、ラチェット機構12を構成する中筒11の突部11eが先筒2の凹凸部2fに回転方向に係合すると共に、切欠き11fによる弾性力で突部11eが径方向に付勢されることから、突部11eと凹凸部2fとの係合及び係合解除(噛合及び噛合解除)が繰り返される。すなわち、突部11eと凹凸部2fとが回転方向に係合した状態で上記一方向への相対回転が行われると、突部11eの傾斜面11e1が、凹凸部2fの傾斜面2f1に当接し、この状態で傾斜面2f1を駆け上がるように摺動する。
【0064】
そして、突部11eが凹凸部2fの凸部を乗り越えた後、再び突部11eと凹凸部2fとが回転方向に係合する。その結果、突部11eと凹凸部2fとの係合及び係合解除の度に、使用者にクリック感が付与される。なお、凹凸部2fでは、周方向に24個の凹凸が並設されているので、一方向に15°相対回転させる度に使用者にクリック感が付与される。
【0065】
一方、使用者が先筒2に対して本体3を上記一方向の反対方向である他方向(例えば、反時計回り)に相対回転させようとすると、ラチェット機構12を構成する突部11eの側面11e2が凹凸部2fの側面2f2に当接し、上記他方向への相対回転が規制される。よって、先筒2と本体3とは他方向に相対回転しないこととなる。すなわち、一方向の相対回転における回転力(トルク)は容易に回転できる力に設定して、他方向の相対回転における回転力は容易に回転できない力に設定する。例えば、本体3の外径を14mm程度に設計した場合、一方向の相対回転のトルクは0.1N・m(ニュートン・メートル)以下に設定し、他方向の相対回転のトルクは0.2N・m以上に設定することが好ましい。
【0066】
また、図4に示されるようにスライド部8Aの前進によってパイプ材1Aを前進させ描画材M1を前方に露出させた状態において、スライド部8B〜8Dのいずれか(以下、他のスライド部8と称する)を一定量前進させると、スライド部8Aの傾斜面8jに近接していた他のスライド部8の突出部8fが傾斜面8jに当接する。他のスライド部8の突出部8fがスライド部8Aの傾斜面8jに当接すると、スライド部8Aが本体3の外側に押し出されて、スライド部8Aの後端部8hと突出部3cの前端との引っ掛かりが解除される。よって、スプリング9Aの後方への付勢力によってスライド部8Aが切り欠き部3aの後端位置に戻されることとなる。
【0067】
以上、多種ペンシル100では、4個のスライド部8のそれぞれに描画材Mが連結されており、本体3に対して任意の一のスライド部8Aが一定量前進することによってスライド部8Aに連結された描画材M1が先筒2から露出する。そして、この状態で先筒2と本体3とを一方向に相対回転させることによって描画材M1が前進する構造となっており、更に描画材M1の前進のみに規制される。
【0068】
このように一方向への相対回転による描画材Mの前方側への押し出しを考慮すればよい構成となっている。よって、描画材Mを把持した状態で後退させる構成が不要であるため、把持し難い柔らかい材料の描画材Mであっても多種ペンシル100に用いることができる。また、多種ペンシル100では、パイプ材1に対して描画材Mが後退しないので、次回の使用時に余分に描画材Mを前進させなければならないという問題は生じない。従って、使用性を向上させることができる。
【0069】
本実施形態の多種ペンシル100では、先筒2と本体3との一方向の相対回転のみを許容するラチェット機構12が設けられている。また、多種ペンシル100は本体3の前側に位置する中筒11を備え、中筒11の外面から突出し径方向に弾性を有する突部11eと、先筒2の内面に設けられて突部11eと回転可能に係合する凹凸部2fと、によってラチェット機構12が構成されている。このように、中筒11の外面から突出する突部11eと先筒2の内面に設けられた凹凸部2fとをラチェット機構12として利用することができる。
【0070】
また、中筒11の突部11eは先筒2の凹凸部2fに常時当接しているので、中筒11の外面と先筒2の内面との間で常時抵抗を発生させることが可能となり、中筒11と先筒2とのがたつきを抑制することが可能となる。
【0071】
また、移動体5の外周に形成された雄螺子5aが微小ピッチを有しているので、一方向への相対回転による移動体5の移動量も微小となる。従って、前方に押し出す描画材Mの微調整が可能であると共に、誤って多量に押し出された描画材Mが折れる等の不具合を生じにくくすることができるので、使用性が一層向上されている。
【0072】
また、移動体5の前端は平坦な底面5dを有する円柱状となっており、この底面5dが描画材Mを後方から押し込むことによって描画材Mが前進する。よって、描画材Mを把持する芯チャックのような構造が不要となり、円柱状の移動体5前端における底面5dで描画材Mを押し出す構成とすることが可能となる。
【0073】
また、保持体6は、移動体5の断面形状に対応した非円形状の穴部6aを有しており、非円形状の穴部6aに断面非円形の移動体5が挿入される。よって、保持体6による移動体5の回転方向への係合が可能となり、保持体6を移動体5の回り止めとして機能させることができる。
【0074】
また、保持体6は、穴部6aに挿入された移動体5に対して外側から弾性力を付与するOリング7を備えている。よって、Oリング7による外側からの弾性力によって穴部6a内の移動体5を保持することが可能となるため、弾性力の付与によって移動体5を保持体6に取り付けると共に弾性力を適宜設定することによって移動体5を保持体6から取り外すことが可能となる。従って、保持体6に対して移動体5(カートリッジ10)を着脱自在とすることができる。
【0075】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。すなわち、多種ペンシル100を構成する各部品の構成や形状は上記の要旨を変更しない範囲で適宜変更可能である。
【0076】
例えば、上記実施形態では、ラチェット機構12によって他方向における先筒2と本体3との相対回転を規制したが、ラチェット機構を構成する突部又は凹凸部の形状や配置態様は適宜変更可能である。また、ラチェット機構12に代えて、例えば、螺子部の螺合作用を利用した機構、摩擦力を利用した機構又は弾性力を利用した機構等を採用することも可能である。更に、一方向の相対回転で描画材Mの繰り出しが行われ、他方向の相対回転は螺合作用を解除するクラッチ機構(空回り)により繰り出しが行われない構成を採用してもよい。要は、一方向の先筒2と本体3との相対回転による描画材Mの前進のみに規制されればよい。
【0077】
また、上記実施形態では、移動体5を内側に締め付けるOリング7を備えていたが、Oリング7を省略してもよい。例えば、Oリング7に代えて、移動体保持部における樹脂の弾性力によって移動体5を内側に締め付けてもよい。
【0078】
また、上記実施形態において、保持体6は、その前側に位置する円筒状の移動体保持部6bと、後側に位置する棒状部6cと、を備えていたが、移動体保持部と棒状部とを別体としてもよい。そして、例えば、移動体保持部と棒状部とを同期回転可能に嵌合させる嵌合構造を備えていてもよい。
【0079】
また、上記実施形態において、パイプ材1と螺子筒4とは別体であったが、パイプ材と螺子筒とを一体としてもよい。更に、保持体6とスライド部8とは別体であったが、例えば、保持体6の棒状部6cとスライド部8とを一体とすることも可能である。
【0080】
また、上記実施形態では、色が互いに異なる描画材M1〜M4を備えた多種ペンシル100について説明したが、太さが互いに異なる描画材を備えた多種ペンシルであってもよいし、更に、材料が互いに異なる描画材を備えた多種ペンシルであってもよい。また、描画材の本数は4本に限定されず、2本、3本又は5本以上の描画材を備えていてもよい。要は、複数の描画材を備えた多種ペンシルであれば、本発明を適用可能である。
【符号の説明】
【0081】
1,1A〜1D…パイプ材、2…先筒、2f…凹凸部、3…本体、4,4A〜4D…螺子筒、4a…雌螺子、5,5A〜5D…移動体、5a…雄螺子、5d…底面、6,6A〜6D…保持体、6a…穴部、7…Oリング(弾性部)、8,8A〜8D…スライド部、11…中筒、11e…突部、12…ラチェット機構、100…多種ペンシル、M,M1〜M4…描画材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15