特許第6143268号(P6143268)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6143268ヒト多能性幹細胞から中間中胚葉細胞への分化誘導方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6143268
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】ヒト多能性幹細胞から中間中胚葉細胞への分化誘導方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0735 20100101AFI20170529BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20170529BHJP
   C12N 5/073 20100101ALI20170529BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20170529BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20170529BHJP
【FI】
   C12N5/0735
   C12N5/10
   C12N5/073
   C12N5/077
   !C12N15/00 A
【請求項の数】17
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2014-529741(P2014-529741)
(86)(22)【出願日】2012年12月19日
(65)【公表番号】特表2015-500630(P2015-500630A)
(43)【公表日】2015年1月8日
(86)【国際出願番号】JP2012083762
(87)【国際公開番号】WO2013094771
(87)【国際公開日】20130627
【審査請求日】2015年11月27日
(31)【優先権主張番号】61/577,345
(32)【優先日】2011年12月19日
(33)【優先権主張国】US
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度文部科学省、「科学技術試験研究委託事業」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100169579
【弁理士】
【氏名又は名称】村林 望
(72)【発明者】
【氏名】長船 健二
(72)【発明者】
【氏名】荒岡 利和
【審査官】 小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】 The 42nd Annual Meeting of the Japanese Society for Clinical Molecular Morphology,2010年,p.44
【文献】 Chem.Biol.,2011年 4月,Vol.18,p.413-424
【文献】 Nature,2008年,Vol.453,p.338-344
【文献】 Kidney Int.,2010年 5月,Vol.77, No.5,p.407-416
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/0735
C12N 5/073
C12N 5/077
C12N 1/00− 7/08
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程
(i)ヒト多能性幹細胞を、GSK-3β阻害剤、又はGSK-3β阻害剤とレチノイン酸誘導体とを含む培地で培養する工程;及び、
(ii)工程(i)後に得られた細胞を、レチノイン酸誘導体を含む培地で培養する工程
を含む、ヒト多能性幹細胞から中間中胚葉細胞の製造方法であって、前記レチノイン酸誘導体が、天然のレチノイン酸が有する機能を保持しながら人工的に修飾されたレチノイン酸である、前記方法。
【請求項2】
前記GSK-3β阻害剤が、CHIR99021である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記レチノイン酸誘導体が、AM580、TTNPB、パルミチン酸レチノール、レチノール、レチナール、3-デヒドロレチノイン酸、3-デヒドロレチノール及び3-デヒドロレチナールから成る群より選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記レチノイン酸誘導体が、AM580又はTTNPBである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ヒト多能性幹細胞がヒトiPS細胞又はヒトES細胞である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記中間中胚葉細胞がOSR1陽性細胞である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記工程(i)において、前記ヒト多能性幹細胞を単一細胞へ解離させることを含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記工程(i)において使用する培地がROCK阻害剤をさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ROCK阻害剤がY-27632である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記工程(i)の培養期間が2日以下であり、且つ、前記工程(ii)の培養期間が3日以上である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記工程(i)の培養期間が2日間であり、且つ、前記工程(ii)の培養期間が8日間である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法でヒト多能性幹細胞から中間中胚葉細胞へ分化誘導することを含む、後腎細胞の製造方法。
【請求項13】
前記後腎細胞が、後腎間葉細胞、後腎間質細胞、尿管芽細胞ポドサイト及び近位尿細管細胞から成る群より選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記中間中胚葉細胞を、Wnt3a及びBMP7を含む培地で培養する工程をさらに含む、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法で製造された中間中胚葉細胞から成るスフェアを形成する工程を含む、腎細管細胞で構成された管腔構造の製造方法。
【請求項16】
中間中胚葉細胞を後腎細胞と共に培養する工程を含む、腎細管細胞で構成された管腔構造の製造方法であって、前記中間中胚葉細胞は、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法で製造されたものである、前記方法。
【請求項17】
前記後腎細胞がE11.5のマウス胚から得られたものである、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多能性幹細胞から中間中胚葉細胞を分化誘導する方法に関する。本発明はまた、そのようにして得られた中間中胚葉細胞から後腎細胞を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腎臓は、生体内における代謝活動により生じる有害物質などの老廃物を血中から濾過することで除去し、身体の健康維持を図るべく機能する重要な臓器の一つである。
【0003】
腎臓の疾患として、腎不全等が挙げられ、治療方法としては人工透析を挙げることができる。しかし、この治療に要する医療費負担が大きいことから、医学的のみならず医療経済面からも依然として世界的な問題である。また、他の治療として腎移植が挙げられるが、深刻なドナー臓器不足の状態である。
【0004】
一方、胚性幹細胞(ES細胞)や、体細胞へ未分化細胞特異的遺伝子を導入することで得られる人工多能性幹細胞(iPS細胞)など多能性を有する細胞がこれまでに報告されている(特許文献1及び2)。そこで、腎不全の治療方法として、これらの多能性幹細胞から分化誘導された腎細胞を移植する治療法が検討されている。さらに、これらの多能性幹細胞由来の均一な腎細胞を用いて治療薬の開発を行うことも視野に入れられている。
【0005】
哺乳類の腎臓は前腎、中腎、後腎の3段階の発生を経て形成されており、これらの段階の中で、後腎は、中間中胚葉の後方領域に生じることが知られている。そこで、腎形成のためにマウス多能性幹細胞から中間中胚葉への分化誘導方法が検討されており(非特許文献1)、さらにアクチビンA、Wnt及びBMPを用いてヒト多能性幹細胞から中間中胚葉細胞への分化誘導に成功している(国際出願第PCT/JP2011/067181号(WO 2012/011610))。これらの増殖因子を用いる方法は、コストが非常に高いなどの問題を抱えているが、現在までのところ、増殖因子を用いることなくヒト多能性幹細胞から中間中胚葉細胞を分化誘導する方法については報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】USP 5,843,780
【特許文献2】WO 2007/069666
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Mae S, et al. (2010), Biochem. Biophys. Res. Commun., 393:877-882
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した実情に鑑み、本発明は、増殖因子を用いることなくヒト多能性幹細胞から中間中胚葉細胞を分化誘導する方法を提供することを目的とする。より具体的には、本発明は、増殖因子を特定の化合物で置換して、ヒト多能性幹細胞から中間中胚葉細胞を分化誘導する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、特定の化合物を含む培地で培養を行うことにより、ヒト多能性幹細胞から中間中胚葉細胞を分化誘導できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下を包含する。
(1)以下の工程を含む、ヒト多能性幹細胞から中間中胚葉細胞の製造方法:
(i)ヒト多能性幹細胞を、GSK-3β阻害剤、又はGSK-3β阻害剤とレチノイン酸誘導体とを含む培地で培養する工程;及び、
(ii)工程(i)において得られた細胞を、レチノイン酸誘導体を含む培地で培養する工程。
(2)前記GSK-3β阻害剤が、CHIR99021である、(1)に記載の方法。
(3)前記レチノイン酸誘導体が、AM580又はTTNPBである、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)前記ヒト多能性幹細胞がヒトiPS細胞又はヒトES細胞である、(1)〜(3)のいずれか1に記載の方法。
(5)前記中間中胚葉細胞がOSR1陽性細胞である、(1)〜(4)のいずれか1に記載の方法。
(6)前記工程(i)において、前記ヒト多能性幹細胞を単一細胞へ解離させることを含む、(1)〜(5)のいずれか1に記載の方法。
(7)前記工程(i)において使用する培地がROCK阻害剤をさらに含む、(6)に記載の方法。
(8)前記ROCK阻害剤がY-27632である、(7)に記載の方法。
(9)前記工程(i)の培養期間が2日以下であり、且つ、前記工程(ii)の培養期間が3日以上である、(1)〜(8)のいずれか1に記載の方法。
(10)前記工程(i)の培養期間が2日間であり、且つ、前記工程(ii)の培養期間が8日間である、(9)に記載の方法。
(11)GSK-3β阻害剤及びレチノイン酸誘導体を含むヒト多能性幹細胞から中間中胚葉細胞を製造するためのキット。
(12)前記GSK-3β阻害剤が、CHIR99021である、(11)に記載のキット。
(13)前記レチノイン酸誘導体が、AM580又はTTNPBである、(11)又は(12)に記載のキット。
(14)ヒト多能性幹細胞のための細胞解離試薬をさらに含む、(11)〜(13)のいずれか1に記載のキット。
(15)ROCK阻害剤をさらに含む、(11)〜(14)のいずれか1に記載のキット。
(16)前記ROCK阻害剤が、Y-27632である、(15)に記載のキット。
(17)(1)〜(10)のいずれか1に記載の方法でヒト多能性幹細胞から中間中胚葉細胞へ分化誘導することを含む、後腎細胞の製造方法。
(18)前記後腎細胞が、後腎間葉細胞、後腎間質細胞、尿管芽細胞ポドサイト及び近位尿細管細胞から成る群より選択される、(17)に記載の方法。
(19)前記中間中胚葉細胞を、Wnt3a及びBMP7を含む培地で培養する工程をさらに含む、(17)又は(18)に記載の方法。
(20)(1)〜(10)のいずれか1に記載の方法で製造された中間中胚葉細胞から成るスフェアを形成する工程を含む、腎細管細胞で構成された管腔構造の製造方法。
(21)中間中胚葉細胞を後腎細胞と共に培養する工程を含む、腎細管細胞で構成された管腔構造の製造方法であって、前記中間中胚葉細胞は、(1)〜(10)のいずれか1に記載の方法で製造されたものである、前記方法。
(22)前記後腎細胞がE11.5のマウス胚から得られたものである、(21)に記載の方法。
【0011】
本件出願は、2011年12月19日に出願された米国特許仮出願第61/577,345号の利益を請求するものであり、当該仮出願は、本明細書においてその全体を参照により組み込まれる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に示す方法により、増殖因子を用いることなくヒト多能性幹細胞から中間中胚葉細胞を分化誘導することが可能となる。また本発明は、下記に列挙する効果を有する:
1. シンプルな誘導法であり、煩雑さが少ない;
2. AM580やTTNPB等のレチノイン酸誘導体はレチノイン酸の核内受容体(RAR)を活性化させ、レチノイン酸経路を介し効果を発揮すると考えられるが、同様の効果のある全トランスレチノイン酸(ATRA)と比べて化合物の活性が強く、低濃度でも効果を発揮できる;
3. ATRAと比べて細胞毒性が弱いため、AM580やTTNPB等のレチノイン酸誘導体を高濃度で使用することで、中間中胚葉細胞への分化誘導効果をさらに強く発揮できる;
4. RARは、3種類のサブタイプ(例えば、α、β及びγ)を有し、AM580やTTNPB等のレチノイン酸誘導体は中間中胚葉細胞への分化に関わるRARのサブタイプを選択的に活性化できるため、不必要なシグナルを排除することで副作用を防ぐことができる;
5. 下記の実施例で示す新誘導法3によれば、分化誘導日数を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、CHIR99021(図1〜3における表示は「CHIR」である)及びアクチビンAの含有培地からCHIR99021及びBMP7含有培地へ交換した方法(左上図:従来法)、DMSOを添加した培地を用いた対照方法(左下図:DMSOコントロール)、並びにCHIR99021含有培地からAM580(右上図)又はTTNPB(右下図)の含有培地に交換した方法(新誘導法1)でiPS細胞を分化誘導した11日目の細胞を、OSR1(GFP)の発現を指標として、フローサイトメトリーにより解析した結果を示す。図中の数字は、OSR1陽性細胞の含有率を示す。
図2図2は、CHIR99021及びアクチビンAの含有培地からCHIR99021及びBMP7の含有培地へ交換した方法(左上図:従来法)、DMSOを添加した培地を用いた対照方法(左下図:DMSOコントロール)、並びにCHIR99021及びAM580又はTTNPBの含有培地からAM580(右上図)又はTTNPB(右下図)の含有培地に交換した方法(新誘導法2)でiPS細胞を分化誘導した11日目の細胞を、OSR1(GFP)の発現を指標として、フローサイトメトリーにより解析した結果を示す。図中の数字は、OSR1陽性細胞の含有率を示す。
図3図3は、CHIR99021及びアクチビンAの含有培地からCHIR99021及びBMP7の含有培地へ交換した方法(左上図:従来法)、DMSOを添加した培地を用いた対照方法(左下図:DMSOコントロール)、並びにCHIR99021及びAM580又はTTNPBの含有培地からAM580(右上図)又はTTNPB(右下図)の含有培地に交換した方法(新誘導法3)でiPS細胞を分化誘導した6日目の細胞を、OSR1(GFP)の発現を指標として、フローサイトメトリーにより解析した結果を示す。図中の数字は、OSR1陽性細胞の含有率を示す。
図4図4は、幾つかの条件における細胞数を示すグラフである。「DMSO」は陰性コントロールである。「OSR1」はOSR1陽性細胞を意味する。「全体」はOSR1陽性細胞とOSR1陰性細胞とを含む全ての細胞を意味する。「新誘導法」は、CHIR99021及びTTNPBの含有培地からTTNPBの含有培地に交換した方法を意味する。「日目」は培養期間を示す。
図5図5は、各iPS細胞クローン又はESクローンからの分化後のOSR1発現レベルを示すグラフである。白色バーはAM580を用いた結果を示す。黒色バーはTTNPBを用いた結果を示す。灰色バーはAM580もTTNPBも用いない従来法の結果を示す。
図6図6Aは、新誘導法2(6日間)及び新誘導法3(11日間)で分化した細胞についてのPCR分析結果を示す。図6Bは、新誘導法2(6日間)で分化した細胞についてのin situハイブリダイゼーション(上のパネル)及び免疫染色(下のパネル)の結果を示す。
図7図7Aは、長期間培養(13日間として示される)で分化した細胞についてのPCR分析結果を示す。図7Bは、免疫染色結果を示す。
図8図8は、浮遊培養で分化した細胞についての免疫染色結果を示す。
図9図9は、器官培養で分化した細胞についての免疫染色結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を以下に詳細に説明する。
【0015】
本発明は、多能性幹細胞から中間中胚葉細胞を分化誘導する方法に関する。本発明はまた、そのようにして得られた中間中胚葉細胞から後腎細胞を製造する方法に関する。
【0016】
<多能性幹細胞>
本発明で使用可能な多能性幹細胞は、生体に存在する全ての細胞に分化可能である多能性を有し、且つ、増殖能をも併せもつ幹細胞である。このような多能性幹細胞には、以下のものに限定されないが、例えば胚性幹(ES)細胞、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹(ntES)細胞、精子幹細胞(「GS細胞」)、胚性生殖細胞(「EG細胞」)、人工多能性幹(iPS)細胞などが含まれる。好ましい多能性幹細胞は、ES細胞、ntES細胞、及びiPS細胞である。
【0017】
(A) 胚性幹細胞
ES細胞は、ヒトやマウスなどの哺乳動物の初期胚(例えば胚盤胞)の内部細胞塊から樹立された、多能性と自己複製による増殖能を有する幹細胞である。
【0018】
ES細胞は、受精卵の8細胞期、桑実胚期の胚である胚盤胞の内部細胞塊に由来する胚由来の幹細胞である。ES細胞は、成体を構成するあらゆる細胞に分化する能力、いわゆる分化多能性と、自己複製による増殖能とを有している。ES細胞は、マウスで1981年に最初に発見された(M.J. Evans and M.H. Kaufman (1981), Nature 292:154-156)。その後、ヒト、サルなどの霊長類でもES細胞株が樹立された(J.A. Thomson et al. (1998), Science 282:1145-1147; J.A. Thomson et al. (1995), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:7844-7848; J.A. Thomson et al. (1996), Biol. Reprod., 55:254-259;及びJ.A. Thomson and V.S. Marshall (1998), Curr. Top. Dev. Biol., 38:133-165)。
【0019】
ES細胞は、対象動物の受精卵の胚盤胞から内部細胞塊を取出し、内部細胞塊を線維芽細胞のフィーダー上で培養することによって樹立することができる。また、継代培養によるES細胞の維持は、白血病抑制因子(leukemia inhibitory factor (LIF))、塩基性線維芽細胞成長因子(basic fibroblast growth factor (bFGF))などの物質を添加した培地を用いて行うことができる。ヒト及びサルのES細胞の樹立と維持の方法については、例えばH. Suemori et al. (2006), Biochem. Biophys. Res. Commun., 345:926-932; M. Ueno et al. (2006), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103:9554-9559; H. Suemori et al. (2001), Dev. Dyn., 222:273-279;及びH. Kawasaki et al. (2002), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99:1580-1585などに記載されている。
【0020】
ES細胞作製のための培地として、例えば0.1mM 2-メルカプトエタノール、0.1mM 非必須アミノ酸、2mM L-グルタミン酸、20% KSR及び4ng/ml bFGFを補充したDMEM/F-12培地を使用し、37℃、5% CO2湿潤雰囲気下でヒトES細胞を維持することができる。また、ES細胞は、3又は4日おきに継代する必要がある。このとき、継代は、例えば1mM CaCl2及び20% KSRを含有するPBS中の0.25% トリプシン及び0.1mg/mlコラゲナーゼIVを用いて行うことができる。
【0021】
ES細胞の選択は、一般に、アルカリホスファターゼ、Oct-3/4、Nanogなどの遺伝子マーカーの発現を指標にして行うことができる。特に、ヒトES細胞の選択では、OCT-3/4、NANOGなどの遺伝子マーカーの発現をReal-Time PCR法で検出すること、及び/又は細胞表面抗原であるSSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、TRA-1-81を免疫染色法にて検出することで行うことができる(Klimanskaya I, et al. (2006), Nature. 444:481-485)。
【0022】
ヒトES細胞株である例えばKhES-1、KhES-2及びKhES-3は、京都大学再生医科学研究所(京都、日本)から入手可能である。
【0023】
(B) 生殖幹細胞
生殖幹細胞は、精巣由来の多能性幹細胞であり、精子形成のための起源となる細胞である。この細胞は、ES細胞と同様に、種々の系列の細胞に分化誘導可能であり、例えばマウス胚盤胞に移植するとキメラマウスを作出できるなどの性質をもつ(M. Kanatsu-Shinohara et al. (2003) Biol. Reprod., 69:612-616; K. Shinohara et al. (2004), Cell, 119:1001-1012)。生殖幹細胞は、神経膠細胞系由来神経栄養因子(glial cell line-derived neurotrophic factor (GDNF))を含む培地で自己複製可能であるし、またES細胞と同様の培養条件下で継代を繰り返すことによって、生殖幹細胞を得ることができる(竹林正則ら(2008),実験医学,26巻,5号(増刊),41〜46頁,羊土社(東京、日本))。
【0024】
(C) 胚性生殖細胞
胚性生殖細胞は、胎生期の始原生殖細胞から樹立される、ES細胞と同様な多能性をもつ細胞である。胚性生殖細胞は、LIF、bFGF、幹細胞因子(stem cell factor)などの物質の存在下で始原生殖細胞を培養することによって樹立しうる(Y. Matsui et al. (1992), Cell, 70:841-847; J.L. Resnick et al. (1992), Nature, 359:550-551)。
【0025】
(D) 人工多能性幹細胞
人工多能性幹(iPS)細胞は、ある特定の核初期化物質を、DNA又はタンパク質の形態で体細胞に導入するか、又は薬剤によって当該核初期化物質の内在性のmRNA及びタンパク質の発現レベルを上昇させることによって作製することができる。iPS細胞は、ES細胞とほぼ同等の特性、例えば分化多能性と自己複製による増殖能、を有する体細胞由来の人工の幹細胞である(K. Takahashi and S. Yamanaka (2006) Cell, 126: 663-676; K. Takahashi et al. (2007) Cell, 131: 861-872; J. Yu et al. (2007) Science, 318: 1917-1920; M. Nakagawa et al. (2008) Nat. Biotechnol., 26: 101-106; 国際公開WO 2007/069666;及び国際公開WO 2010/068955)。核初期化物質は、ES細胞に特異的に発現している遺伝子又はES細胞の未分化維持に重要な役割を果たす遺伝子若しくはその遺伝子産物であればよい。特に限定されないが、核初期化物質として例えば、Oct3/4, Klf4, Klf1, Klf2, Klf5, Sox2, Sox1, Sox3, Sox15, Sox17, Sox18, c-Myc, L-Myc, N-Myc, TERT, SV40 Large T antigen, HPV16 E6, HPV16 E7, Bmil, Lin28, Lin28b, Nanog, Esrrb, Esrrg及びGlis1が例示される。これらの初期化物質は、iPS細胞樹立の際には、組み合わされて使用されてもよい。例えば、上記初期化物質を、少なくとも1つ、2つ若しくは3つ含む組み合わせであり、好ましくは4つを含む組み合わせである。
【0026】
上記の各核初期化物質のマウス又はヒトcDNAのヌクレオチド配列並びに当該cDNAにコードされるタンパク質のアミノ酸配列情報は、WO 2007/069666に記載のNCBIアクセッション番号を参照しNCBIデータベースから得ることができる。またL-Myc、Lin28、Lin28b、Esrrb、Esrrg及びGlis1のマウス及びヒトのcDNA配列及びアミノ酸配列情報については、それぞれ表1に記載のNCBIアクセッション番号を参照しNCBIデータベースから取得できる。当業者は、当該cDNA配列又はアミノ酸配列情報に基づいて、常法により所望の核初期化物質を調製することができる。
【0027】
【表1】
【0028】
これらの核初期化物質は、タンパク質の形態で、例えばリポフェクション、細胞膜透過性ペプチドとの結合、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入してもよいし、あるいは、DNAの形態で、例えば、ウイルス、プラスミド、人工染色体などのベクター、リポフェクション、リポソーム、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入することができる。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター(以上、Cell, 126, pp.663-676, 2006; Cell, 131, pp.861-872, 2007; Science, 318, pp.1917-1920, 2007)、アデノウイルスベクター(Science, 322, 945-949, 2008)、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクター(Proc. Jpn. Acad. Ser. B. Phys. Biol. Sci., 85, 348-62, 2009)などが例示される。また、人工染色体ベクターとしては、例えばヒト人工染色体(HAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC/PAC)などが含まれる。プラスミドとしては、哺乳動物細胞用プラスミドを使用しうる(Science, 322:949-953, 2008)。ベクターには、核初期化物質が発現可能なように、プロモーター、エンハンサー、リボゾーム結合配列、ターミネーター、ポリアデニル化サイトなどの制御配列を含むことができる。使用されるプロモーターとしては、例えばEF1αプロモーター、CAGプロモーター、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、MoMuLV(モロニーマウス白血病ウイルス)LTR、HSV-TK(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)プロモーターなどが用いられる。なかでも、特に好ましいプロモーターとしては、EF1αプロモーター、CAGプロモーター、MoMuLV LTR、CMVプロモーター、SRαプロモーターなどが挙げられる。さらに、必要に応じて、ベクターは、薬剤耐性遺伝子(例えばカナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子など)、チミジンキナーゼ遺伝子、ジフテリアトキシン遺伝子などの選択マーカー配列、緑色蛍光タンパク質(GFP)、βグルクロニダーゼ(GUS)、FLAGなどのレポーター遺伝子配列などを含むことができる。また、上記ベクターには、体細胞への導入後、核初期化物質をコードする遺伝子若しくはプロモーターとそれに結合する核初期化物質をコードする遺伝子を共に切除するために、それらの前後にLoxP配列を有してもよい。別の好ましい一実施態様においては、トランスポゾンを用いて染色体に導入遺伝子を組み込んだ後に、プラスミドベクター若しくはアデノウイルスベクターを用いて細胞に転移酵素を作用させ、導入遺伝子を完全に染色体から除去する方法が用いられ得る。好ましいトランスポゾンとしては、例えば、鱗翅目昆虫由来のトランスポゾンであるpiggyBac等が挙げられる(Kaji, K. et al., (2009), Nature, 458: 771-775; Woltjen et al., (2009), Nature, 458: 766-770; WO 2010/012077)。さらに、ベクターには、染色体への組み込みがなくとも複製されて、エピソーマルに存在するように、リンパ指向性ヘルペスウイルス(lymphotrophic herpes virus)、BKウイルス及び牛乳頭腫ウイルス(Bovine papilloma virus)の複製起点の配列とその複製に係る配列を含んでいてもよい。例えば、ベクターにEBNA-1及びoriP若しくはLarge T及びSV40ori配列を含むことが挙げられる(WO 2009/115295、WO 2009/157201及びWO 2009/149233)。また、2以上の核初期化物質を同時に導入するために、ポリシストロニックに発現させる発現ベクターを用いてもよい。ポリシストロニックに発現させるためには、遺伝子をコードする配列の間は、IRES又は口蹄病ウイルス(FMDV)2Aコード領域の配列により結合されていてもよい(Science, 322:949-953, 2008並びにWO 2009/092042及びWO 2009/152529)。
【0029】
核初期化に際して、iPS細胞の誘導効率を高めるために、上記の因子の他に、例えば、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤[例えば、バルプロ酸(VPA)(Nat. Biotechnol., 26(7): 795-797 (2008))、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム、MC 1293、M344等の低分子阻害剤、HDACに対するsiRNA及びshRNA(例えば、HDAC1 siRNA Smartpool(登録商標) (Millipore)、HuSH 29mer shRNA Constructs against HDAC1 (OriGene)等)等の核酸性発現阻害剤など]、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば5'-アザシチジン)(Nat. Biotechnol., 26(7): 795-797 (2008))、G9aヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤[例えば、BIX-01294 (Cell Stem Cell, 2: 525-528 (2008))等の低分子阻害剤、G9aに対するsiRNA及びshRNA(例えば、G9a siRNA(human) (Santa Cruz Biotechnology)等)等の核酸性発現阻害剤など]、L-チャネルカルシウムアゴニスト(例えばBayk8644) (Cell Stem Cell, 3, 568-574 (2008))、p53阻害剤(例えばp53に対するsiRNA及びshRNA)(Cell Stem Cell, 3, 475-479 (2008))、Wntシグナリングアクチベーター(例えば可溶型Wnt3a)(Cell Stem Cell, 3, 132-135 (2008))、LIF又はbFGFなどの増殖因子、ALK5阻害剤(例えば、SB431542)(Nat. Methods, 6: 805-8 (2009))、マイトジェン活性化プロテインキナーゼシグナリング阻害剤、グリコーゲンシンターゼキナーゼ-3阻害剤(PloS Biology, 6(10), 2237-2247 (2008))、miR-291-3p、miR-294、miR-295などのmiRNA(R.L. Judson et al., Nat. Biotech., 27:459-461 (2009))等を使用することができる。
【0030】
薬剤によって核初期化物質の内在性タンパク質の発現レベルを上昇させる方法における薬剤としては、6-ブロモインジルビン-3'-オキシム、インジルビン-5-ニトロ-3'-オキシム、バルプロ酸、2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-lH-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン、1-(4-メチルフェニル)-2-(4,5,6,7-テトラヒドロ-2-イミノ-3(2H)-ベンゾチアゾリル)エタノンHBr(ピフィトリン-α)、プロスタグランジンJ2及びプロスタグランジンE2等が例示される(WO 2010/068955)。
【0031】
iPS細胞誘導のための培養培地としては、例えば、(1)10〜15%FBSを含有するDMEM、DMEM/F12又はDME培地(これらの培地にはさらに、LIF、ペニシリン/ストレプトマイシン、ピューロマイシン、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、β-メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)、および(2)bFGF又はSCFを含有するES細胞培養用培地、例えばマウスES細胞培養用培地(例えばTX-WES培地、トロンボX社)又は霊長類ES細胞培養用培地(例えば霊長類(ヒト&サル)ES細胞用培地(リプロセル、京都、日本)、mTeSR-1)などが含まれる。
【0032】
培養法の例としては、例えば、37℃、5%CO2存在下にて、10%FBS含有DMEM又はDMEM/F12培地中で体細胞と核初期化物質(DNA又はタンパク質)を接触させ約4〜7日間培養し、その後、細胞をフィーダー細胞(例えば、マイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞等)上にまきなおし、体細胞と核初期化物質の接触から約10日後からbFGF含有霊長類ES細胞培養用培地で培養し、該接触から約30〜約45日又はそれ以上の後にES細胞様コロニーを生じさせることができる。また、iPS細胞の誘導効率を高めるために、5-10%と低い酸素濃度の条件下で細胞を培養してもよい。
【0033】
あるいは、その代替培養法として、フィーダー細胞(例えば、マイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞等)上で10%FBS含有DMEM培地(これにはさらに、LIF、ペニシリン/ストレプトマイシン、ピューロマイシン、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、β-メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)で培養し、約25〜約30日又はそれ以上の後にES様コロニーを生じさせることができる。
【0034】
上記培養の間には、培養開始2日目以降から毎日1回新鮮な培地と培地交換を行う。また、核初期化に使用する体細胞の細胞数は、限定されないが、培養ディッシュ100cm2あたり約5×103〜約5×106細胞の範囲である。
【0035】
マーカー遺伝子として薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子を用いた場合は、対応する薬剤を含む培地(選択培地)で培養を行うことによりマーカー遺伝子発現細胞を選択することができる。またマーカー遺伝子が蛍光タンパク質コード遺伝子の場合は蛍光顕微鏡で観察することによって、発光酵素コード遺伝子の場合は発光基質を加えることによって、また発色酵素コード遺伝子の場合は発色基質を加えることによって、マーカー遺伝子発現細胞を検出することができる。
【0036】
本明細書中で使用する「体細胞」は、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、サル、ブタ、ラット等)由来の生殖細胞以外のいかなる細胞であってもよく、例えば、角質化する上皮細胞(例えば、角質化表皮細胞)、粘膜上皮細胞(例えば、舌表層の上皮細胞)、外分泌腺上皮細胞(例えば、乳腺細胞)、ホルモン分泌細胞(例えば、副腎髄質細胞)、代謝・貯蔵用の細胞(例えば、肝細胞)、境界面を構成する内腔上皮細胞(例えば、I型肺胞細胞)、内鎖管の内腔上皮細胞(例えば、血管内皮細胞)、運搬能をもつ繊毛のある細胞(例えば、気道上皮細胞)、細胞外マトリックス分泌用細胞(例えば、線維芽細胞)、収縮性細胞(例えば、平滑筋細胞)、血液と免疫系の細胞(例えば、Tリンパ球)、感覚に関する細胞(例えば、桿細胞)、自律神経系ニューロン(例えば、コリン作動性ニューロン)、感覚器と末梢ニューロンの支持細胞(例えば、随伴細胞)、中枢神経系の神経細胞とグリア細胞(例えば、星状グリア細胞)、色素細胞(例えば、網膜色素上皮細胞)、及びそれらの前駆細胞(組織前駆細胞)等が挙げられる。細胞の分化の程度や細胞を採取する動物の齢などに特に制限はなく、未分化な前駆細胞(体性幹細胞も含む)であっても、最終分化した成熟細胞であっても、同様に本発明における体細胞の起源として使用することができる。ここで未分化な前駆細胞としては、例えば神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)が挙げられる。
【0037】
本発明において、体細胞を採取する由来となる哺乳動物個体は特に制限されないが、好ましくはヒトである。
【0038】
(E) 核移植により得られたクローン胚由来のES細胞
nt ES細胞は、核移植技術によって作製されたクローン胚由来のES細胞であり、受精卵由来のES細胞とほぼ同じ特性を有している(T. Wakayama et al. (2001), Science, 292:740-743; S. Wakayama et al. (2005), Biol. Reprod., 72:932-936; J. Byrne et al. (2007), Nature, 450:497-502)。すなわち、未受精卵の核を体細胞の核と置換することによって得られたクローン胚由来の胚盤胞の内部細胞塊から樹立されたES細胞がnt ES(nuclear transfer ES)細胞である。nt ES細胞の作製のためには、核移植技術(J.B. Cibelli et al. (1998), Nat. Biotechnol., 16:642-646)とES細胞作製技術(上記)との組み合わせが利用される(若山清香ら(2008),実験医学,26巻,5号(増刊), 47〜52頁)。核移植においては、哺乳動物の除核した未受精卵に、体細胞の核を注入し、数時間培養することで再プログラム化することができる。
【0039】
(F) 融合幹細胞
融合幹細胞は、体細胞と卵子若しくはES細胞とを融合させることにより、融合させたES細胞と同様な多能性を有し、さらに体細胞に特有の遺伝子も有する幹細胞である(Tada M et al. Curr Biol. 11:1553-8, 2001; Cowan C.A. et al. Science. 2005, Aug. 26, 309(5739):1369-73)。
【0040】
<多能性幹細胞からの中間中胚葉細胞の分化誘導法>
本発明によれば、ES細胞、iPS細胞などの多能性幹細胞から中間中胚葉細胞への分化誘導に際して、以下の工程を含む方法を用いることができる:
(i)ヒト多能性幹細胞等の多能性幹細胞を、GSK-3β(グリコーゲンシンターゼキナーゼ3β)阻害剤、又はGSK-3β阻害剤とレチノイン酸誘導体とを含む培地で培養する工程(第1工程);及び、
(ii)工程(i)後に得られた細胞を、レチノイン酸誘導体を含む培地で培養する後続の工程(第2工程)。
【0041】
本発明において、「中間中胚葉細胞」とは、前腎、中腎、中腎管、後腎、副腎皮質及び生殖腺へ分化し得る細胞を意味し、好ましくは、OSR1(odd-skipped related 1)を発現する細胞、すなわちOSR1陽性細胞を意味する。
【0042】
本発明において、分化誘導された中間中胚葉細胞は、他の細胞種が含まれる細胞集団として提供されてもよく、あるいは純化された細胞集団であってもよい。
倫理上の観点から、好ましい多能性幹細胞はiPS細胞である。
【0043】
(A) 多能性幹細胞(例えば、ヒト多能性幹細胞)を、GSK-3β阻害剤、又はGSK-3β阻害剤とレチノイン酸誘導体とを含む培地で培養する工程(第1工程)
本工程では、前述のように得られたヒト多能性幹細胞を、任意の方法で分離し、浮遊培養により培養してもよく、あるいはコーティング処理された培養皿を用いて接着培養してもよい。本発明における培養方法として、好ましくは接着培養が採用される。ここで、ヒト多能性幹細胞の解離方法としては、例えば力学的に解離する方法、プロテアーゼ活性とコラゲナーゼ活性を有する解離溶液(例えば、Accutase(TM)及びAccumax(TM)が挙げられる)又はコラゲナーゼ活性のみを有する解離溶液(これらは、本発明におけるヒト多能性幹細胞を単一分散させる試薬に相当する)を用いた解離方法が挙げられる。好ましくは、プロテアーゼ活性とコラゲナーゼ活性を有する解離溶液を用いて、ヒト多能性幹細胞を解離し、解離した細胞を力学的に細かく単一細胞へ分散する方法である。ここで、用いるヒト多能性幹細胞として、使用したディッシュに対して80%コンフルエントになるまで培養されたコロニーを用いることが好ましい。
【0044】
ここで浮遊培養とは、細胞を培養皿へ非接着の状態で培養することであり、特に限定はされないが、細胞との接着性を向上させる目的で人工的に処理(例えば、細胞外マトリックス等によるコーティング処理)されていない培養皿、若しくは、人工的に接着を抑制する処理(例えば、ポリヒドロキシエチルメタクリル酸(poly-HEMA)によるコーティング処理)した培養皿を使用して行うことができる。
【0045】
接着培養においては、細胞を、コーティング処理された培養皿にて、任意の培地中で培養する。コーティング剤としては、例えば、マトリゲル(BD)、コラーゲン、ゼラチン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、又はエンタクチン、及びこれらの組み合わせが挙げられる。好ましくは、ゼラチンである。
【0046】
本工程における培地は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えばMEM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、及びこれらの混合培地などが包含される。好ましくは、DMEMとF12の1:1の混合培地である。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清でもよい。必要に応じて、培地は、例えば、アルブミン、トランスフェリン、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3'-チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよい。培地は、さらに、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、GlutamaxTM(Invitrogen)、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有しうる。
【0047】
低分子化合物は、例えば、GSK-3β阻害剤、レチノイン酸誘導体などを含むがこれらに限定されない。
【0048】
GSK-3β阻害剤は、GSK-3βタンパク質のキナーゼ活性(例えば、βカテニンに対するリン酸化能)を阻害する物質として定義され、既に多数のものが知られているが、例えば、インジルビン誘導体であるBIO(別名、GSK-3β阻害剤IX;6-ブロモインジルビン-3'-オキシム)、マレイミド誘導体であるSB216763(3-(2,4-ジクロロフェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-1H-ピロール-2,5-ジオン)、フェニルαブロモメチルケトン化合物であるGSK-3β阻害剤VII(4-ジブロモアセトフェノン)、細胞膜透過型のリン酸化ペプチドであるL803-mts(別名、GSK-3βペプチド阻害剤;Myr-N-GKEAPPAPPQSpP-NH2)及び高い選択性を有するCHIR99021(6-[2-[4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(4-メチル-1H-イミダゾール-2-イル)ピリミジン-2-イルアミノ]エチルアミノ]ピリジン-3-カルボニトリル)が挙げられる。これらの化合物は、例えばCalbiochem社やBiomol社等から市販されており容易に利用することが可能であるが、他の入手先から入手してもよく、あるいはまた自ら作製してもよい。
【0049】
本発明で使用されるGSK-3β阻害剤は、好ましくは、下記の式Iで示されるCHIR99021であり得る。
【0050】
【化1】
【0051】
培地におけるCHIR99021の濃度は、例えば、100nM、500nM、750nM、1μM、2μM、3μM、4μM、5μM、6μM、7μM、8μM、9μM、10μM、15μM、20μM、25μM、30μM、40μM、50μMであるがこれらに限定されない。好ましくは、3μMである。
【0052】
一方、「レチノイン酸誘導体」は、天然のレチノイン酸が有する機能を保持しながら人工的に修飾されたレチノイン酸を意味し、例えば、AM580(4-[[(5,6,7,8-テトラヒドロ-5,5,8,8-テトラメチル-2-ナフタレニル)カルボニル]アミノ]-安息香酸)(Tamura K,et al., Cell Differ. Dev. 32: 17-26 (1990))、TTNPB(4-[(1E)-2-(5,6,7,8-テトラヒドロ-5,5,8,8-テトラメチル-2-ナフタレニル)-1-プロペン-1-イル]-安息香酸)(Strickland S, et al., Cancer Res. 43: 5268-5272 (1983))、パルミチン酸レチノール、レチノール、レチナール、3-デヒドロレチノイン酸、3-デヒドロレチノール、3-デヒドロレチナール、及びAbe, E., et al., Proc. Natl. Acad. Sci., U.S.A., 78: 4990-4994 (1981); Schwartz, E. L.et al., Proc. Am. Assoc. Cancer Res., 24: 18 (1983); Tanenaga, K. et al., Cancer Res. 40: 914-919 (1980)に記載されている化合物が挙げられる。
【0053】
本発明で使用されるレチノイン酸誘導体は、好ましくは、下記の式IIで示されるAM580又は式IIIで示されるTTNPBであり得る。
【0054】
【化2】
【0055】
【化3】
【0056】
培地におけるAM580の濃度は、例えば、1nM、10nM、25nM、50nM、100nM、500nM、750nM、1μM、2μM、3μM、4μM、5μM、6μM、7μM、8μM、9μM、10μM、15μM、20μM、25μM、30μM、40μM、50μMであるがこれらに限定されない。好ましくは、1μMである。
【0057】
また、培地におけるTTNPBの濃度は、例えば、1nM、10nM、25nM、50nM、100nM、500nM、750nM、1μM、2μM、3μM、4μM、5μM、6μM、7μM、8μM、9μM、10μM、15μM、20μM、25μM、30μM、40μM、50μMであるがこれらに限定されない。好ましくは、1μMである。
【0058】
本工程における培地はさらに、ROCK(Rho関連コイルド-コイル形成キナーゼ(Rho-associated coiled-coil forming kinase))阻害剤を含んでいてもよい。特に、本工程が多能性幹細胞を単一細胞へ分散させることを含む場合には、培地にROCK阻害剤が含まれていることが好ましい。
【0059】
ROCK阻害剤は、Rho-キナーゼ(ROCK)のキナーゼ活性を阻害する物質として定義され、例えば、Y-27632(4-[(1R)-1-アミノエチル]-N-ピリジン-4-イルシクロヘキサン-1-カルボキサミド)又はその2塩酸塩(例えば、Ishizaki et al., Mol. Pharmacol. 57, 976-983 (2000);Narumiya et al., Methods Enzymol. 325,273-284 (2000)参照)、Fasudil/HA1077(1-(5-イソキノリンスルホニル)ホモピペラジン)又はその2塩酸塩(例えば、Uenata et al., Nature 389: 990-994 (1997)参照)、H-1152((S)-(+)-2-メチル-1-[(4-メチル-5-イソキノリニル)スルホニル]-ヘキサヒドロ-1H-1,4-ジアゼピン)又はその2塩酸塩(例えば、Sasaki et al., Pharmacol. Ther. 93: 225-232 (2002)参照)、Wf-536((+)-(R)-4-(1-アミノエチル)-N-(4-ピリジル)ベンズアミド1塩酸塩)(例えば、Nakajima et al., Cancer Chemother. Pharmacol. 52(4): 319-324 (2003)参照)及びそれらの誘導体、並びにROCKに対するアンチセンス核酸、RNA干渉誘導性核酸(例えば、siRNA)、ドミナントネガティブ変異体、及びそれらの発現ベクターが挙げられる。また、ROCK阻害剤としては他の低分子化合物も知られているので、本発明においてはこのような化合物又はそれらの誘導体も使用できる(例えば、米国特許出願公開第20050209261号、同第20050192304号、同第20040014755号、同第20040002508号、同第20040002507号、同第20030125344号、同第20030087919号、及び国際公開第2003/062227号、同第2003/059913号、同第2003/062225号、同第2002/076976号、同第2004/039796号参照)。本発明では、少なくとも1種のROCK阻害剤が使用され得る。
【0060】
本発明で使用されるROCK阻害剤は、好ましくは、下記の式IVで示されるY-27632であり得る。
【0061】
【化4】
【0062】
培地におけるY-27632の濃度は、例えば、100nM、500nM、750nM、1μM、2μM、3μM、4μM、5μM、6μM、7μM、8μM、9μM、10μM、15μM、20μM、25μM、30μM、40μM、50μMであるがこれらに限定されない。好ましくは、10μMである。
【0063】
低分子化合物の置換基は、当業者により容易に置換することが可能であり、例えば上記した化合物(例えば、GSK-3β阻害剤、レチノイン酸誘導体及びROCK阻害剤)の性質を保持し得る限りにおいて任意に変更することができる。
【0064】
本工程において好ましい培地として、Glutamax(Invitrogen)、FBS(Hyclone)、PenStrep、Y-27632及びCHIR99021を含有するDMEM/F12培地、並びにGlutamax(Invitrogen)、FBS(Hyclone)、PenStrep、Y-27632、CHIR99021及びAM580若しくはTTNPBを含有するDMEM/F12培地が例示される。
【0065】
培養は、限定されないが、約30〜40℃、好ましくは約37℃で、CO2含有空気の雰囲気下で行われる。CO2濃度は、約2〜5%、好ましくは5%である。培養時間は、例えば2日以下の培養であり、好ましくは2日である。ヒト多能性幹細胞の浮遊培養によって、細胞集団(細胞塊)が形成される。
【0066】
(B) 多能性幹細胞(例えば、ヒト多能性幹細胞)を、レチノイン酸誘導体を含む培地で培養する工程(第2工程)
本工程では、前述の第1工程で得られた浮遊培養後の細胞集団をそのままコーティング処理された培養皿にて、任意の培地中で培養してもよい。コーティング剤としては、例えば、コラーゲン、ゼラチン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、又はエンタクチン、及びこれらの組み合わせが挙げられる。好ましくは、ゼラチンである。
【0067】
あるいは、本工程では前述の第1工程で接着培養により得られた細胞を、培地の交換により培養を続けてもよい。
【0068】
本工程の培地は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えばIMDM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、及びこれらの混合培地などが包含される。好ましくは、DMEMとF12との混合培地(1:1)である。培地には、血清が含まれていないことが望ましい。必要に応じて、培地は、例えば、アルブミン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、ITS-X(Invitrogen)(インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム含有)、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3'-チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよい。培地は、さらに、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、Glutamax、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有しうる。低分子化合物は、例えば、レチノイン酸誘導体であり得るがこれに限定されない。
【0069】
「レチノイン酸誘導体」は、天然のレチノイン酸が有する機能を保持しながら人工的に修飾されたレチノイン酸を意味し、例えば、AM580(4-[[(5,6,7,8-テトラヒドロ-5,5,8,8-テトラメチル-2-ナフタレニル)カルボニル]アミノ]-安息香酸)(Tamura K,et al., Cell Differ. Dev. 32: 17-26 (1990))又はTTNPB(4-[(1E)-2-(5,6,7,8-テトラヒドロ-5,5,8,8-テトラメチル-2-ナフタレニル)-1-プロペン-1-イル]-安息香酸)(Strickland S, et al., Cancer Res. 43: 5268-5272 (1983))、及び、Abe, E., et al., Proc. Natl. Acad. Sci., U.S.A., 78: 4990-4994 (1981); Schwartz, E. L.et al., Proc. Am. Assoc. Cancer Res., 24: 18 (1983); Tanenaga, K. et al., Cancer Res. 40: 914-919 (1980)に記載されている化合物が挙げられる。
【0070】
本発明で使用されるレチノイン酸誘導体は、好ましくは、下記の式Vで示されるAM580又は式VIで示されるTTNPBであり得る。
【0071】
【化5】
【0072】
【化6】
【0073】
培地におけるAM580の濃度は、例えば、1nM、10nM、25nM、50nM、100nM、500nM、750nM、1μM、2μM、3μM、4μM、5μM、6μM、7μM、8μM、9μM、10μM、15μM、20μM、25μM、30μM、40μM、50μMであるがこれらに限定されない。好ましくは、1μMである。
【0074】
また、培地におけるTTNPBの濃度は、例えば、1nM、10nM、25nM、50nM、100nM、500nM、750nM、1μM、2μM、3μM、4μM、5μM、6μM、7μM、8μM、9μM、10μM、15μM、20μM、25μM、30μM、40μM、50μMであるがこれらに限定されない。好ましくは、1μMである。
【0075】
本工程において好ましい培地として、2-メルカプトエタノール、Glutamax、KNOCKOUTTMSR、MEM NEAA、PenStrep及びAM580若しくはTTNPBを含有するDMEM/F12培地が例示される。
【0076】
培養は、約30〜40℃、好ましくは約37℃で、CO2含有空気の雰囲気下で行われる。CO2濃度は、約2〜5%、好ましくは5%である。培養時間は、例えば3日以上の培養であり、好ましくは3日又は8日である。8日間培養する場合に、培地は、3日ごとに交換することが望ましい。この接着培養によって中間中胚葉細胞が誘導される。
【0077】
<後腎細胞の製造方法>
本発明において、さらに接着培養を継続することで、誘導された中間中胚葉細胞を後腎細胞へ分化誘導させてもよい。
【0078】
本明細書で使用する「後腎細胞」は、後腎内に含有される細胞を意味し、好ましくは後腎間葉細胞、後腎間質細胞、尿管芽細胞、ポドサイト及び近位尿細管細胞から成る群より選択される細胞を意味する。本発明において、好ましくは、後腎間葉細胞は、SIX2 (例えばNCBIアクセッション番号: NM_016932)及び/又はHOXD11(例えばNCBIアクセッション番号: NM_021192)を発現し;好ましくは、後腎間質細胞は、FOXD1 (例えばNCBIアクセッション番号: NM_004472)を発現し;好ましくは、尿管芽細胞は、SALL4 (例えばNCBIアクセッション番号: NM_020436)及び/又はC-RET (例えばNCBIアクセッション番号: NM_020630)及び/又はHOXB7(例えばNCBIアクセッション番号: NM_004502)を発現し;好ましくは、ポドサイトは、ポドカリキシン(例えばNCBIアクセッション番号: NM_005397又はNM_001018111)を発現し;且つ、好ましくは、近位尿細管細胞は、E-カドヘリン(例えばNCBI アクセッション番号: NM_004360)を発現する。
【0079】
接着培養で使用される培地は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えばMEM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、及びこれらの混合培地などが包含される。好ましくは、DMEMとF12との混合培地(1:1)である。培地には、血清が含まれていないことが望ましい。必要に応じて、培地は、例えば、アルブミン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、ITS-X(Invitrogen)(インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム含有)、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3'-チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよい。培地は、さらに、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、Glutamax、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有しうる。増殖因子の例としては、限定されないが、Wnt3a 及びBMP7が挙げられる。本工程で好ましく使用される培地の例としては、KSR、Glutamax、アミノ酸、Wnt3a及びBMP7を含有するDMEM/F12培地が挙げられる。
【0080】
培養は、約30〜40℃、好ましくは約37℃で、CO2含有空気の雰囲気下で行われる。CO2濃度は、約2〜5%、好ましくは5%である。培養時間は、例えば5日以下の培養であり、好ましくは5、6、7、8日間又はそれ以上である。より好ましくは、培養期間は8日間である。
【0081】
本発明においては、更なる接着培養前に、誘導された中間中胚葉細胞を、OSR1をマーカーとして用いて他の種類の細胞から単離してもよい。本単離工程では、限定されないが、フローサイトメーターを用いることができる。
【0082】
<スフェアを形成することによる、腎細管細胞で構成された管腔構造の製造方法>
一実施形態においては、上記の誘導された中間中胚葉細胞から成るスフェアを形成することにより、腎細管細胞で構成された管腔構造を製造することができる。
【0083】
本明細書で使用する「腎細管細胞」は、LTL (ローツステトラゴノロブスレクチン(Lotus Tetragonolobus Lectin))と結合するか、及び/又はE-カドヘリン(例えばNCBIアクセッション番号: NM_004360)を発現する細胞を意味する。より好ましくは、腎細管は近位尿細管である。
【0084】
本製造工程では、中間中胚葉細胞を浮遊培養(懸濁培養)に供することでスフェアを形成させることができる。浮遊培養においては、細胞を、培養皿に接着させることなく培養する。特に限定はされないが、細胞との接着性を向上させる目的で人工的に処理(例えば、細胞外マトリックス等によるコーティング処理)されていない培養皿、又は、人工的に接着を抑制する処理(例えば、ポリヒドロキシエチルメタクリル酸(poly-HEMA)又はPrimeSurface (Sumitomo Bakelite co.)によるコーティング処理)した培養皿を使用して、浮遊培養を行うことができる。
【0085】
浮遊培養で使用される培地は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えばMEM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、及びこれらの混合培地などが包含される。好ましくは、DMEMとF12との混合培地(1:1)である。培地には、血清が含まれていないことが望ましい。必要に応じて、培地は、例えば、アルブミン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、ITS-X(Invitrogen)(インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム含有)、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3'-チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよい。培地は、さらに、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、Glutamax、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有しうる。本工程で好ましく使用される培地の例としては、KSR、Glutamax及びアミノ酸を含有するDMEM/F12培地が挙げられる。
【0086】
浮遊培養は、約30〜40℃、好ましくは約37℃で、CO2含有空気の雰囲気下で行われる。CO2濃度は、約2〜5%、好ましくは5%である。培養時間は、例えば5日以下の浮遊培養であり、好ましくは5、6、7、8日間又はそれ以上である。より好ましくは、浮遊培養は8日間行われる。
【0087】
本発明においては、更なる接着培養前に、誘導された中間中胚葉細胞を、OSR1をマーカーとして用いて他の種類の細胞から単離してもよい。本単離工程では、限定されないが、フローサイトメーターを用いることができる。
【0088】
<器官培養による腎細管細胞で構成された管腔構造の製造方法>
別の実施形態においては、上記の誘導された中間中胚葉細胞を、マウス胚に由来する後腎細胞と共に培養することにより、腎細管細胞で構成された管腔構造を製造することができる。
【0089】
本製造工程では、中間中胚葉細胞を、マウス胚に由来する後腎細胞との共培養に供することができる。当該共培養では、細胞クラスターを形成させるために、細胞を、培養皿に接着させることなく培養する。特に限定はされないが、細胞との接着性を向上させる目的で人工的に処理(例えば、細胞外マトリックス等によるコーティング処理)されていない培養皿、又は、人工的に接着を抑制する処理(例えば、ポリヒドロキシエチルメタクリル酸(poly-HEMA)又はPrimeSurface (Sumitomo Bakelite co.)によるコーティング処理)した培養皿を使用して、共培養を行うことができる。
【0090】
細胞クラスターの形成後、当該細胞クラスターを、器官培養法で培養する。器官培養法は、当業者に周知の従来方法で、例えばKanwar YS et al., Am J Physiol Renal Physiol. 282, F953-965, 2002に記載の方法で行うことができる。好ましくは、細胞クラスターを、孔を有するフィルター上で培養することができる(当該フィルターは、培地上で浮遊している)。
【0091】
共培養及び器官培養で使用される培地は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えばMEM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、及びこれらの混合培地などが包含される。好ましくは、MEM培地である。必要に応じて、培地は、血清、又は例えば、アルブミン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、ITS-X(Invitrogen)(インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム含有)、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3'-チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよい。培地は、さらに、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、Glutamax、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有しうる。本工程で好ましく使用される培地の例としては、血清を含有するMEM培地が挙げられる。
【0092】
培養は、約30〜40℃、好ましくは約37℃で、CO2含有空気の雰囲気下で行われる。CO2濃度は、約2〜5%、好ましくは5%である。細胞クラスターを形成するための共培養は、例えば1日以下で行われ、好ましくは1、2、3、4日間又はそれ以上である。細胞クラスターのための器官培養は、例えば5日以下で行われ、好ましくは5、6、7、8、9、10日間又はそれ以上である。より好ましくは、器官培養は、7日間行われる。
【0093】
共培養において、マウス胚に由来する後腎細胞に対する誘導した中間中胚葉細胞の比率は1〜10であってよい。好ましい中間中胚葉細胞数の例は1x104個の細胞であり、対応する後腎細胞数は1x105個の細胞である。
【0094】
本発明において、マウス胚に由来する後腎細胞は、E11.5、E12.5、E13.5又はE14.5のマウス胚から得ることができる。より好ましくは、E11.5のマウス胚を本工程で使用する。
【0095】
本発明においては、共培養前に、誘導された中間中胚葉細胞を、OSR1をマーカーとして用いて他の種類の細胞から単離してもよい。本単離工程では、限定されないが、フローサイトメーターを用いることができる。
【0096】
<多能性幹細胞からの中間中胚葉細胞の分化誘導用キット>
本発明は、多能性幹細胞から中間中胚葉細胞を分化誘導するためのキットを提供する。本キットには、上述した分化誘導に用いる化合物、培養液、解離溶液(ヒト多能性幹細胞を単一分散させる試薬を含む)、及び培養皿のコーティング剤を含んでもよい。本キットには、さらに分化誘導の手順を記載した書面や説明書を含んでもよい。
【0097】
<中間中胚葉細胞>
本発明は、上述した分化誘導法によって作製された中間中胚葉細胞を提供する。中間中胚葉細胞は、OSR1、PAX2、WT1、EYA1及びSIX2などの中間中胚葉細胞のマーカーによって同定されうる。
【0098】
<腎細管細胞で構成された管腔構造>
本発明において提供される腎細管細胞で構成された管腔構造を、薬物スクリーニングアッセイ又は移植治療に使用することができる。
【実施例】
【0099】
本発明を以下の実施例でさらに具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はそれら実施例に限定されないものとする。
【0100】
<OSR1-GFPノックインヒトiPS細胞株の樹立>
ヒトiPS細胞(201B7)は、京都大学の山中教授より受領し、従来の方法で培養した(Takahashi, K. et al., Cell. 131:861-872)。続いて、BACクローン(RP11-458J18)(BACPAC RESOURCES)のOSR1の開始コドンの下流へpRed/ET(Gene Bridges GmbH)を用いてGFP-PGK-Neoカセットを挿入し、OSR1-GFP BAC導入遺伝子を作製した。この作製した改変BACクローンを上述したヒトiPS細胞へ導入し、内在性のOSR1の発現と連動してGFPを発現するOSR1-GFPレポーターiPS細胞株を樹立した。
【0101】
〔比較例1:中間中胚葉細胞への分化誘導(従来法:国際出願第PCT/JP2011/067181号(WO 2012/011610))〕
上述のOSR1-GFPレポーターiPS細胞を、SNL細胞(McMahon, A.P. and Bradley, A., (1990) Cell 62;1073-1085)をフィーダー細胞として用いて10cmディッシュ上でコンフルエントになるまで培養した。該細胞にCTK溶液を加えて解離させ、フィーダー細胞を除去し、Accutaseを加えてiPS細胞を単一細胞へ分散させた。
【0102】
次いで、Glutamax(Invitrogen)、2%FBS(Hyclone)及びPenStrepを含有するDMEM/F12培地にiPS細胞を懸濁し、10μM Y-27632、3μM CHIR99021及び100ng/mlアクチビンAを添加した。続いて、0.1%ゼラチンでコーティングしたディッシュに上記細胞懸濁液を移し、2日間培養した。
【0103】
その後、培地を除去し、培養物をPBSで洗浄後、2-メルカプトエタノール、Glutamax、10% KNOCKOUT SR(Invitrogen)、0.1mM MEM NEAA及びPenStrepを含有するDMEM/F12培地へ3μM CHIR99021及び100ng/ml BMP7を添加した培地へ交換し、iPS細胞をさらに8日間培養した。この時、3日に1度培地交換を行った。
【0104】
〔実施例1:中間中胚葉細胞への分化誘導(新誘導法1)〕
上述のOSR1-GFPレポーターiPS細胞を、SNL細胞(McMahon, A.P. and Bradley, A., (1990) Cell 62;1073-1085)をフィーダー細胞として用いて10cmディッシュ上でコンフルエントになるまで培養した。該細胞にCTK溶液を加えて解離させ、フィーダー細胞を除去し、Accutaseを加えてiPS細胞を単一細胞へ分散させた。
【0105】
次いで、Glutamax、2%FBS及びPenStrepを含有するDMEM/F12培地にiPS細胞を懸濁し、10μM Y-27632と3μM CHIR99021を添加した。続いて、0.1%ゼラチンでコーティングしたディッシュに上記細胞懸濁液を移し、2日間培養した。
【0106】
その後、培地を除去し、培養物をPBSで洗浄後、2-メルカプトエタノール、Glutamax、10%KNOCKOUT SR、0.1mM MEM NEAA及びPenStrepを含有するDMEM/F12培地へ1μM AM580又は1μM TTNPBを添加した培地へ交換し、iPS細胞をさらに8日間培養した。この時、3日に1度培地交換を行った。
【0107】
8日間の培養後、OSR1の発現を指標として、細胞をフローサイトメトリー(FACS)により解析した。その結果、上記の方法によりOSR1陽性細胞への誘導が成功したことが確認された(図1)。
【0108】
〔実施例2:中間中胚葉細胞への分化誘導(新誘導法2及び3)〕
上述のOSR1-GFPレポーターiPS細胞を、SNL細胞(McMahon, A.P. and Bradley, A., (1990) Cell 62;1073-1085)をフィーダー細胞として用いて10cmディッシュ上でコンフルエントになるまで培養した。該細胞にCTK溶液を加えて解離させ、フィーダー細胞を除去し、Accutaseを加えてiPS細胞を単一細胞へ分散させた。
【0109】
次いで、Glutamax、2%FBS及びPenStrepを含有するDMEM/F12培地にiPS細胞を懸濁し、(1)10μM Y-27632(ROCK阻害剤)、3μM CHIR99021及び1μM AM580又は(2)10μM Y-27632(ROCK阻害剤)、3μM CHIR99021及び1μM TTNPBの組み合わせを添加した。続いて、0.1%ゼラチンでコーティングしたディッシュに上記細胞懸濁液を移し、2日間培養した。
【0110】
2日間の培養後、培地を除去し、培養物をPBSで洗浄後、2-メルカプトエタノール、Glutamax、10%KNOCKOUT SR、0.1mM MEM NEAA及びPenStrepを含有するDMEM/F12培地へ1μM AM580又は1μM TTNPBを添加した培地へ交換し、iPS細胞をさらに8日間(新誘導法2)又は3日間(新誘導法3)培養した。この時、新誘導法2の場合においては、3日に1度培地交換を行った。
【0111】
8日間又は3日間の培養後、OSR1の発現を指標として、細胞をフローサイトメトリー(FACS)により解析した。その結果、上記の方法によりOSR1陽性細胞への誘導が成功したことが確認された(図2及び3)。
【0112】
次に、培地交換からの時間の長さを検討した。簡潔に言えば、培地を、2-メルカプトエタノール、Glutamax、10%KNOCKOUT SR、0.1mM MEM NEAA及びPenStrepを含有するDMEM/F12培地へ1μM AM580又は1μM TTNPBを添加した培地へ交換した後、3日間(新誘導法3)、5日間、8日間(新誘導法2)又は12日間で、OSR1陽性細胞数及び総細胞数を測定した(図4)。OSR1陽性細胞の増殖が、培地交換後8日間でプラトーであった。
【0113】
幾つかのiPS細胞クローン(201B6、253G1、263G4及び585A1)並びにES細胞クローン(KhES1、KhES3及びH9)を、新誘導法3により中間中胚葉細胞に分化できた(図5)。
【0114】
さらに、他の中間中胚葉細胞マーカー(PAX2、LIM1、WT1、SALL1、CITED2及びEYA1等)が、新誘導法2又は3により製造したOSR1陽性細胞において発現した(図6A及びB)。
【0115】
〔実施例3:長期間培養〕
上述のOSR1-GFPレポーターiPS細胞を、実施例2に記載の方法と同様の方法で単一細胞へ解離させた。次いで、Glutamax、2%FBS及びPenStrepを含有するDMEM/F12培地にiPS細胞を懸濁し、10μM Y-27632、3μM CHIR99021及び1μM TTNPBの組み合わせを添加した。続いて、0.1%ゼラチンでコーティングしたディッシュに上記細胞懸濁液を移し、2日間培養した。2日間の培養後、培地を除去し、培養物をPBSで洗浄後、2-メルカプトエタノール、Glutamax、10%KNOCKOUT SR、0.1mM MEM NEAA及びPenStrepを含有するDMEM/F12培地へ1μM TTNPBを添加した培地で、iPS細胞をさらに3日間培養した(新誘導法3)。フローサイトメーターで得られた細胞からGFP陽性細胞を単離した後、当該GFP陽性細胞を、マトリゲル(BD)でコーティングしたディッシュに移し、10μM Y-27632、100 ng/ml BMP7、100 ng/ml Wnt3a、2-メルカプトエタノール、Glutamax、10%KNOCKOUT SR、0.1mM MEM NEAA及びPenStrepを含有するDMEM/F12培地で8日間培養した。この時、3日に1度培地交換を行った。得られた細胞を、RT-PCR (図7A)及び免疫染色(図7B)で分析した。結果として、得られたOSR1陽性細胞を、後腎間葉、後腎間質又は尿管芽を含む腎臓前駆細胞にさらに分化させることができた。さらに、長期間の分化後、ポドサイト、近位尿細管、上皮、中腎輸管及び集合管等の、腎臓を構築する細胞又は発生プロセスで生じる細胞が存在した。OSR1陽性細胞が腎臓細胞への発生能を有することが確認された。
【0116】
〔実施例4:浮遊培養〕
上述のOSR1-GFPレポーターiPS細胞を、実施例2に記載の方法と同様の方法で単一細胞へ分散させた。次いで、Glutamax、2%FBS及びPenStrepを含有するDMEM/F12培地にiPS細胞を懸濁し、10μM Y-27632、3μM CHIR99021及び1μM TTNPBの組み合わせを添加した。続いて、0.1%ゼラチンでコーティングしたディッシュに上記細胞懸濁液を移し、2日間培養した。2日間の培養後、培地を除去し、培養物をPBSで洗浄後、2-メルカプトエタノール、Glutamax、10%KNOCKOUT SR、0.1mM MEM NEAA及びPenStrepを含有するDMEM/F12培地へ1μM TTNPBを添加した培地で、iPS細胞をさらに3日間培養した(新誘導法3)。フローサイトメーターで得られた細胞からGFP陽性細胞を単離した後、1x105個のGFP陽性細胞を、低細胞接着プレート(PrimeSurface, Sumitomo Bakelite co.)に移し、10μM Y-27632、2-メルカプトエタノール、Glutamax、10%KNOCKOUT SR、0.1mM MEM NEAA及びPenStrepを含有するDMEM/F12培地で浮遊培養し、細胞スフェアを形成させた。この時、3日に1度培地交換を行った。
【0117】
得られた細胞を、免疫染色で分析した(図8)。スフェアを形成させることにより、OSR1陽性細胞から分化した腎細管で、管腔構造を構築できることが確認された。
【0118】
〔実施例5:器官培養〕
上述のOSR1-GFPレポーターiPS細胞を、実施例2に記載の方法と同様の方法で単一細胞へ解離させた。次いで、Glutamax、2%FBS及びPenStrepを含有するDMEM/F12培地にiPS細胞を懸濁し、10μM Y-27632、3μM CHIR99021及び1μM TTNPBの組み合わせを添加した。続いて、0.1%ゼラチンでコーティングしたディッシュに上記細胞懸濁液を移し、2日間培養した。2日間の培養後、培地を除去し、培養物をPBSで洗浄後、2-メルカプトエタノール、Glutamax、10%KNOCKOUT SR、0.1mM MEM NEAA及びPenStrepを含有するDMEM/F12培地へ1μM TTNPBを添加した培地で、iPS細胞をさらに3日間培養した(新誘導法3)。フローサイトメーターで得られた細胞からGFP陽性細胞を単離した後、1x104個のGFP陽性細胞を、低細胞接着プレート(PrimeSurface)上で、E11.5のマウス胚から得られた1x105個のマウス後腎細胞と混合した。次の日に、10μM Y-27632、10%FBS及びPenStrepを含有するImprove MEM培地で浮遊したIsoporeTMメンブレンフィルター(Merck Millipore)上に、細胞スフェアを移した。この時、3日に1度培地交換を行った。得られた細胞を、浮遊培養後7日間において免疫染色で分析した(図9)。器官との混合培養により、OSR1陽性細胞から分化した腎細管細胞で、管腔構造を構築できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明により、ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞から、増殖因子を使用することなく中間中胚葉細胞を作製することが可能になる。中間中胚葉細胞は、腎疾患の治療を目的とした再生医療の分野で使用することができる細胞へ分化誘導するために大変有用である。
【0120】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9