特許第6143282号(P6143282)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6143282核酸の伸長・固定デバイス、該デバイスを用いた核酸の伸長・固定方法、核酸固定部材、及び核酸の伸長・固定デバイスを用いて作製した核酸標本
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6143282
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】核酸の伸長・固定デバイス、該デバイスを用いた核酸の伸長・固定方法、核酸固定部材、及び核酸の伸長・固定デバイスを用いて作製した核酸標本
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20170529BHJP
   C12Q 1/68 20060101ALI20170529BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
   C12M1/00 A
   C12Q1/68 Z
   C12N15/00 A
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-43361(P2013-43361)
(22)【出願日】2013年3月5日
(65)【公開番号】特開2014-168449(P2014-168449A)
(43)【公開日】2014年9月18日
【審査請求日】2016年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】小野島 大介
(72)【発明者】
【氏名】矢崎 啓寿
(72)【発明者】
【氏名】安井 隆雄
(72)【発明者】
【氏名】加地 範匡
(72)【発明者】
【氏名】馬場 嘉信
【審査官】 西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/040219(WO,A1)
【文献】 特開2004−121096(JP,A)
【文献】 特開2006−337261(JP,A)
【文献】 特開2011−237277(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−3/10
C12N 15/00−15/90
C12Q 1/00−3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸を固定する固定部を含む核酸固定部材、
核酸を含む溶液を注入するための注入口、前記溶液の流路、及び前記溶液を吸引する吸引口を含む流路部材、
を含み、
前記固定部が、対となる溝部を含むことを特徴とする核酸の伸長・固定デバイス。
【請求項2】
核酸を含む溶液の流路及び該流路に形成された核酸を固定する固定部を含む核酸固定部材、
核酸を含む溶液を注入するための注入口、及び前記溶液を吸引する吸引口を含む蓋部材、
を含み、
前記固定部が、対となる溝部を含むことを特徴とする核酸の伸長・固定デバイス。
【請求項3】
前記対となる溝部が、ホール型、ライン型、又はジグザグ型から選ばれる形状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の核酸の伸長・固定デバイス。
【請求項4】
前記溶液を所定のスピードで吸引できる吸引具を更に含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の核酸の伸長・固定デバイス。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載されている核酸の伸長・固定デバイスの注入口から注入した核酸を含む溶液を、吸引口から所定のスピードで吸引することで、核酸固定部材の固定部に核酸を伸長・固定することを特徴とする核酸の伸長・固定方法。
【請求項6】
流路、及び該流路に形成された核酸を固定する固定部を含み、前記固定部が対となる溝部を含むことを特徴とする核酸固定部材。
【請求項7】
前記対となる溝部が、ホール型、ライン型、又はジグザグ型から選ばれる形状であることを特徴とする請求項6に記載の核酸固定部材。
【請求項8】
請求項1に記載の核酸の伸長・固定デバイス、
前記核酸の伸長・固定デバイスの核酸固定部材の固定部に伸長・固定され且つ染色された核酸、及び、
前記核酸固定部材を密閉したカバーガラス、
を含むことを特徴とする核酸標本。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸の伸長・固定デバイス、該デバイスを用いた核酸の伸長・固定方法、核酸固定部材、及び核酸の伸長・固定デバイスを用いて作製した核酸標本に関するもので、特に、DNAやRNAを含んだ溶液を所定の速度で流すことができる流路を設け、該流路に面する部分に核酸を固定する固定部を設けることで、伸長した核酸を効率的に固定することができる核酸の伸長・固定デバイス、該デバイスを用いた核酸の伸長・固定方法、前記デバイスに用いることができる核酸固定部材、及び核酸の伸長・固定デバイスを用いて作製した核酸標本に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、SNPsやDNAメチル化の解析は、生活習慣病、癌、老化、あるいは薬剤の効果や副作用発現の研究分野で注目されている。SNPsやDNAメチル化の解析には、DNAの1分子イメージングやDNAとタンパク質の相互作用の1分子解析が有効であり、そのため、個々のDNA分子を伸長・固定化する研究が20世紀末から国内外で精力的に進められている。
【0003】
DNAを伸長・固定化する技術としては、(1)融解したアガロース中でDNA分子を伸長し、ゲル化の際に固定する方法(非特許文献1参照)、及び(2)交流電場をかけることによりDNA分子を濃縮されたアクリルアミド溶液中で伸長する方法(非特許文献2参照)等が知られている。しかしながら、上記(1)及び(2)に記載されている方法は、ゲル中でDNAを伸長させるため、DNAの直線性が悪く、且つ取扱いが困難であり、意図しないDNAの切断に伴って精度が低下する等の問題がある。また、電場をかけてDNAを伸長させる方法は、電場をかけることを中止すると、伸長したDNAが元の形態に戻ってしまうという問題もある。
【0004】
一方、DNAを伸長・固定化する際に、ゲルを使用しない技術も知られており、例えば、(3)溶液と気体のメニスカスの原理を用いた例として、DNAを溶解した水溶液にガラス基板を浸し、次いで、ガラス基板を引き上げる過程で水相と気相の界面移動を利用してDNAを伸長・固定する方法(非特許文献3参照)が知られている。前記(3)に記載された方法は、上記(1)及び(2)に記載されたゲルを用いる方法と比較して、DNAの安定した伸長が可能で高いスループットが得られるが、DNAを固定する場所が制御できずにランダムな配置となる問題がある。また、DNAを固定するためにはDNA末端と基板表面の化学修飾が必要であり、そのため、一端固定したDNAを他の媒体に移動できないという問題もある。
【0005】
また、ゲルを用いない方法として、(4)核酸分子の一端を、アミノ基を介して基板に固定し、回転による遠心力を利用してDNAを基板上に固定する方法も知られている(特許文献1参照)。しかしながら、上記(4)に記載されている方法は、アミノ基による修飾が必要であり、更に遠心装置が必要であるという問題がある。
【0006】
上記(3)及び(4)に記載されている方法と異なり、(5)修飾をすることなく、DNA分子を基板上に伸長・固定する方法も知られている。前記(5)に記載されている方法は、図1に示すように、凹型マイクロホール構造を持つ樹脂製基板とカバーガラスの間にDNA溶液を挟み、基板をスライドさせながら溶液を蒸発させることよって基板上にDNAを伸長・固定する方法である(非特許文献4参照)。しかしながら、上記(5)に記載されている方法は、所定の位置にDNAを効率よく伸長・固定することは可能であるが、DNAを伸長・固定するためには、基板とカバーガラスの間隔を一定にし、且つカバーガラスの移動速度等を調整する特殊な装置と技術が必要で汎用性に欠けるという問題がある。また、上記(5)に記載されている方法は、図1の1〜3の矢印が示すように、カバーガラスの移動に伴いDNA溶液の気液界面の溶液が気化することでDNAを伸長・固定していることから、DNA溶液が乾燥する時間が必要で迅速にDNAを固定することができないという問題がある。更に、カバーガラスを移動した後には基板上に一定量のDNA溶液が残り、前記残ったDNA溶液の気化にともない、実際には図1の4.に示されている補足部位に固定されたDNA以外に、基板上にDNAが残存するという問題がある。
【0007】
更に、DNA断片から標本を作製し顕微鏡で病理観察を行う際の精度を高めるためには、複数本の同じ断片長のDNAを取得する必要がある。また、病理学的に有利な統計データを取得する観点からは、目的とするDNA断片を少なくとも100本以上、望ましくは200本以上解析することが望ましいが、上記(3)〜(5)に記載されている方法では、溶液に含まれている様々な断片長のDNAを単に固定しているに過ぎず、溶液中に含まれている様々な断片長のDNAを選択的に固定することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−67921号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Schwartz DC. et al.,“Ordered restriction maps of Saccharomyces cerevisiae chromosomes constructed by optical mapping”, Science, 1993, 262, 110−4
【非特許文献2】Washizu et al.,“Visualization of a specific sequence on a single large DNA molecule using fluorescence microscopy based on a new DNA−stretching method”, Biochem. Biophys. Res. Comm., 1999, 265, 140−3
【非特許文献3】Bensimon et al.,“Dynamic Molecular Combing: Stretching the Whole Human Genome for High−Resolution Studies”, Science, 1997, 277, 1518−1523
【非特許文献4】Craighead HG et al.,“Transfer−printing of single DNA molecule arrays on graphene for high−resolution electron imaging and analysis”, Nano Lett., 2011 Oct 12, 11(10), 4232−4238
【非特許文献5】Bensimon, A. et al.,“Alignment and sensitive detection of DNA by a moving interface”, Science 265, 2096−2098 (1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来の問題を解決するためになされた発明であり、鋭意研究を行ったところ、核酸を含む溶液を流すことができる流路を設け、該流路に面する部分に核酸を固定する固定部を設けるとともに、核酸を含む溶液を前記流路に注入する注入口及び前記溶液を吸引する吸引口を設け、前記吸引口から前記溶液を所定のスピードで吸引することで、修飾処理及び乾燥工程を必要とせず、効率的且つ高い再現性で核酸を伸長・固定できることを新たに見出した。また、核酸を伸長・固定する固定部に設ける対となる溝部と溝部の間隔を調整することで、溶液中に含まれている様々な断片長のDNAを選択的に固定できることを新たに見出した。更に、伸長・固定した核酸を蛍光染色等を行うことで核酸分子単体を標本化することができ、細胞や血液に含まれる異常なDNAを直接観察できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明の目的は、核酸の伸長・固定デバイス、該デバイスを用いた核酸の伸長・固定方法、核酸固定部材、及び核酸の伸長・固定デバイスを用いて作製した核酸標本を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下に示す、核酸の伸長・固定デバイス、該デバイスを用いた核酸の伸長・固定方法、核酸固定部材、及び核酸の伸長・固定デバイスを用いて作製した核酸標本に関する。
【0013】
(1)核酸を固定する固定部を含む核酸固定部材、
核酸を含む溶液を注入するための注入口、前記溶液の流路、及び前記溶液を吸引する吸引口を含む流路部材、
を含むことを特徴とする核酸の伸長・固定デバイス。
(2)核酸を含む溶液の流路及び該流路に形成された核酸を固定する固定部を含む核酸固定部材、
核酸を含む溶液を注入するための注入口、及び前記溶液を吸引する吸引口を含む蓋部材、
を含むことを特徴とする核酸の伸長・固定デバイス。
(3)前記固定部が、対となる溝部を含むことを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の核酸の伸長・固定デバイス。
(4)前記対となる溝部が、ホール型、ライン型、又はジグザグ型から選ばれる形状であることを特徴とする上記(3)に記載の核酸の伸長・固定デバイス。
(5)前記溶液を所定のスピードで吸引できる吸引具を更に含むことを特徴とする上記(1)〜(4)の何れか一に記載の核酸の伸長・固定デバイス。
(6)上記(1)〜(5)に記載されている核酸の伸長・固定デバイスの注入口から注入した核酸を含む溶液を、吸引口から所定のスピードで吸引することで、核酸固定部材の固定部に核酸を伸長・固定することを特徴とする核酸の伸長・固定方法。
(7)核酸を固定する固定部を含み、前記固定部が対となる溝部を含むことを特徴とする核酸固定部材。
(8)前記対となる溝部が、ホール型、ライン型、又はジグザグ型から選ばれる形状であることを特徴とする上記(7)に記載の核酸固定部材。
(9)前記核酸固定部材が流路を有し、前記核酸を固定する固定部が前記流路に形成されていることを特徴とする上記(7)又は(8)に記載の核酸固定部材。
(10)上記(6)に記載されている方法により核酸固定部材の固定部に伸長・固定され且つ染色された核酸を含み、核酸固定部材をカバーガラスで密閉したことを特徴とする核酸標本。
【発明の効果】
【0014】
本発明の核酸の伸長・固定デバイスは、例えば、シリンジポンプ等の簡単な装置を用いて、固定部上を通過する核酸を含む溶液のスピードを一定にすることができるので、従来のカバーガラスを移動する方法と比較して、操作が簡単である上、再現性を高くすることができる。また、本発明のデバイスは、カバーガラスを移動する方法と違い核酸を含む溶液を乾燥する工程が不要であることから、処理時間を短縮し効率的に核酸を固定することができる。
【0015】
本発明は、吸引口から核酸を含む溶液を吸引することから、固定された核酸以外の核酸を溶液とともに回収することができ、また、核酸固定部材上に溶液が残らないことから固定部以外に核酸(残留物)が非特異吸着することが無いので、貴重な生体試料を効率的に使用することができる。更に、核酸の固定に修飾処理を用いないことから、固定した核酸を他の基板へ転写することが可能で、観察用の専用基板を要する顕微鏡検査に用いることができるので非常に高い応用性がある。特に、後述するように、本発明では、固定部を特定の形状にすることで、所期の核酸を複数本纏めて固定することができるので、固定した複数本の核酸を纏めて基板に転写・観察することで、検査・統計学的データの取得に有効である。
【0016】
本発明の核酸固定部材の固定部は対となる溝部を含み、該溝部と溝部の間隔より長い核酸断片は固定されないことから、固定したい核酸断片を伸長した時の長さに基づき溝部と溝部の間隔を調整することで、様々な断片を含む核酸溶液の中から、目的とする核酸断片を効率的に固定することができる。
【0017】
本発明の固定部には、核酸分子単体が伸長した状態で固定しているので、そのまま核酸標本として用いることができ、蛍光染色等を施し、直接観察して病理学的検査をすることができる。また、対となる溝部を複数及び/又はライン、ジグザグ形状に設けることで、同じ長さの核酸断片を複数本纏めて一度の操作で伸長・固定することができ、病理学的検査の精度が上がるとともに、統計学的データを効率的に取得することができる。
【0018】
そして、本発明の固定部及び流路は、CAD等により設計されたマイクロパターンを使用し、フォトリソグラフィー技術により作製した鋳型に樹脂を流し込んで作るキャスティング製法で安価に大量作製することが可能であるので、固定したい核酸のサイズや用途に合わせた多様なマイクロパターンの核酸固定部材を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、従来のDNA伸長・固定方法を示す概念図である。
図2図2は、本発明の核酸の伸長・固定デバイスの使用方法の1例を示した概略図である。
図3図3は、本発明の核酸固定部材10の固定部30の断面を拡大した模式図である。
図4図4(a)は、本発明の核酸の伸長・固定デバイスの概略構成を表す図である。図4(b)は本発明の核酸の伸長・固定デバイスの実施形態の一例を表す断面図で、図4(c)は本発明の核酸の伸長・固定デバイスの他の実施形態の一例を表す断面図である。
図5図5は、本発明の核酸を固定する固定部30を含む核酸固定部材10の作成手順の一例を示したフローチャートである。
図6図6は、固定部30を作製するためのフォトマスクのCADデータ例を示しており、(a)はホール型、(b)はライン型、(c)はジグザグ型の例を示す。
図7図7は、図面代用写真で、(a−1)及び(a−2)は実施例1、(b)は実施例2、(c)は実施例3で作製した核酸固定部材10の固定部30を拡大した光学顕微鏡写真である。
図8図8は、図面代用写真で、実施例4で作製した核酸の伸長・固定デバイスの写真である。
図9図9は、実施例4で作製したDNA標本の固定部に伸長・固定されたDNA断片の分布図である。
図10図10は、図面代用写真で、実施例5で得られたDNA標本の蛍光顕微鏡写真である。
図11図11は、図面代用写真で、実施例6で得られたDNA標本の蛍光顕微鏡写真である。
図12図12は、図面代用写真で、実施例7で得られたDNA標本の蛍光顕微鏡写真である。
図13図13は、図面代用写真で、実施例8で得られたDNA標本の蛍光顕微鏡写真である。
図14図14は、図面代用写真で、実施例9で得られたDNA標本の蛍光顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の核酸の伸長・固定デバイス、該デバイスを用いた核酸の伸長・固定方法、核酸固定部材、及び核酸の伸長・固定デバイスを用いて作製した核酸標本について詳しく説明する。
【0021】
図2は、本発明の核酸の伸長・固定デバイス1(以下、単に「デバイス」と記載することもある。)の使用方法の1例を示す概略図である。核酸を含む溶液(以下、単に「溶液」と記載することもある。)50は注入口20から流路40に注入され、吸引具60により溶液50を所定のスピードとなるように吸引口23からすると、溶液50が核酸を固定する固定部(以下、単に「固定部」と記載することもある。)30上を通過する際に、溶液50に含まれる核酸を固定部30に伸長・固定することができる。点線は固定部30を拡大した図である。
【0022】
図3は、固定部30の断面を拡大した模式図である。本発明において「固定部」とは、対となる溝部35を少なくとも1以上有し、核酸36を固定する領域のことを意味する。また、固定部30において、「深さ」とは溝部35の深さ37、「幅」とは溝部35の幅38、「間隔」とは溝部35と溝部35の間隔で核酸36が伸長・固定する部分の長さ39、を意味する。
【0023】
図4(a)は、デバイス1の概略構成を示す図である。デバイス1は、核酸固定部材10と該核酸固定部材10に被せられるようにして用いられる流路部材20又は蓋部材21を含んでいる。流路部材20又は蓋部材21の上部には、溶液50を注入するための注入口22及び前記溶液50を吸引するための吸引口23が形成されており、注入口22及び吸引口23は流路40と連通している。
【0024】
図4(b)はデバイス1の実施形態の一例を表す断面図で、核酸固定部材10上に固定部30を有している。流路部材20には溶液を流すための流路40が形成されており、更に、図示しない注入口22及び吸引口23が前記流路40に貫通するように形成されている。したがって、核酸固定部材10及び流路部材20を液密的に組合せることで、固定部30上に溶液50を流すことができる。
【0025】
図4(c)は本発明のデバイス1の他の実施形態を表す断面図で、核酸固定部材10には溶液50を流すための流路40が形成され、該流路40上に固定部30が形成されている。一方、蓋部材21には、図示しない注入口22及び吸引口23が蓋部材21を貫通するように形成されている。したがって、核酸固定部材10及び蓋部材21を液密的に組合せることで、固定部30上に溶液50を流すことができる。
【0026】
前記核酸固定部材10の材料は、固定部30を形成できるもの、又は流路40を形成し該流路40上に固定部30を形成ができるものであれば特に制限はなく、PDMS(poly(dimethylsiloxane))、PMMA(Poly(methyl methacrylate))、PC(polycarbonate)、硬質ポリエチレン製等のプラスチック、シリコン、ガラス等が挙げられる。前記材料の中で、固定部30、並びに流路40及び該流路40上に形成する固定部30は、後述するフォトリソグラフィー技術を用いて先ず鋳型を作製し、該鋳型に材料を押し付けて作製すると安価で大量に高性能な核酸固定部材10を作製できることから、プラスチック、シリコン系材料が好ましい。また、核酸を伸長・固定後に顕微鏡観察することから光透過性(透明度)が高く、更に、吸引後は溶液50が流路40内に残留しない方が核酸の残留物がなく好ましいことから、疎水性のPDMSが特に好ましい。
【0027】
流路部材20及び蓋部材21の材料も、前記核酸固定部材10と同様の材料を用いることができ、上記と同様の理由で、PDMSが特に好ましい。流路部材20に形成する流路は、核酸固定部材10と同様に、後述するフォトリソグラフィー技術を用いて作製することができる。また、流路部材20及び蓋部材21に形成する注入口22及び吸引口23は、流路40と連通していればサイズ・形状等は特に制限はなく、パンチ、超音波ドリル、サンドブラスター等を用いて作製すればよい。
【0028】
図5は、図4(b)に示す固定部30を含む核酸固定部材10の作成手順の一例を示したフローチャートである。
(1)先ず基板31を準備する。
(2)基板31にフォトレジスト32をスピンコートし、ホットプレート上でプリベイクする。
(3)固定部30の形状に対応する図示しないフォトマスクを用いて露光し、ホットプレート上でポストエクスポージャーベイクを行う。
(4)現像液を用いて現像した後、超純水を用いてリンスし、スピンドライヤー等で水分を飛ばし乾燥させ、鋳型33を作製する。
(5)鋳型33を、上記の核酸固定部材10用の材料34に転写し、次いで、鋳型33を分離することで、フォトマスクの形状に対応した溝部を含む固定部30が形成された核酸固定部材10を作製する。
【0029】
上記手順に用いられる基板31としては、シリコン、シリコンカーバイド、サファイア、リン化ガリウム、ヒ化ガリウム、リン化ガリウム、窒化ガリウム等、フォトリソグラフィーの分野で一般的に用いられている材料であれば特に制限は無い。
【0030】
フォトレジスト32は、固定部30を作製するためのフォトマスクの形状に応じて、ポジ型又はネガ型を適宜選択すればよい。ポジ型フォトレジストとしてはPMER、AZ等、ネガ型のフォトレジストとしては、SU−8、KMPR等、フォトリソグラフィーの分野で一般的に用いられている材料であれば特に制限は無い。また、現像液としては、選択したフォトレジストをエッチングできるものであれば特に制限は無い。
【0031】
図4(b)に示す流路部材20は、図5(3)の手順のフォトマスクとして、流路40に対応する形状のフォトマスクを用いる以外は、図5と同様の手順で作製することができる。
【0032】
図4(c)に示す、流路40上に固定部30を形成した核酸固定部材10を作製する場合は、図5(1)、(2)の手順の後に、
(a)流路40を作製するためのフォトマスクを用いて露光、ホットプレート上でポストエクスポージャーベイクを行う。
(b)現像液を用いて現像した後、超純水を用いてリンスし、スピンドライヤー等で水分を飛ばし乾燥させ、流路40に相当する凸部を有する基板31を作製する。
(c)フォトレジスト32を、再びスピンコートして、次いで、前記流路40に相当する凸部の部分に、固定部30の形状に対応する図示しないフォトマスクを配置し、その後は、図5(3)〜(5)の手順にしたがって作製することができる。
【0033】
固定部30は、図3に示すように、溶液50が流れる面に設けられた対となる溝部35から構成されている。溝部35の形状及び配置は、核酸が伸長・固定できれば特に制限は無い。一方、本発明のデバイス1を用いて核酸を固定部30に伸長・固定する場合、溝部35と溝部35の間隔39を調整すると、伸長・固定する核酸の長さを変えることができる。したがって、例えば、ホール型の溝部35をランダムに設けると、溶液50の流れ方向にある任意の対となるホール型の溝部35と溝部35の間隔39に応じて、伸長・固定する核酸の長さが変わる。また、対となる溝部35を、溶液50の流れ方向に対して一定の間隔39となるように設けたホール型、溶液50の流れ方向に対して直交する方向に設けたライン型、ジグザグ型にすることで、溝部35と溝部35の間隔39に長さが一定の核酸を一回の操作で複数本固定することもできる。前記対となる溝部35は1対に限定されず、複数設けてもよく、その場合、複数の対となる溝部35と溝部35の間隔39を等間隔にしてもよいし、対毎に間隔39を変化させてもよい。また、溝部35を階段型に設け、長さの異なる核酸を伸長・固定するようにしてもよい。
【0034】
図6は固定部30を作製するためのフォトマスク用のCADデータの例で、図6(a)はホール型、(b)はライン型、(c)はジグザグ型の例を示す。
【0035】
固定部30の溝部35の形状、深さ37、幅38及び本数、並びに流路40の幅、深さ及び長さは、本発明が実施できる大きさであれば特に制限はなく、フォトマスクの形状及び大きさ、並びにレジストを積層する厚さにより調整することができる。また、溝部35と溝部35の間隔39は、伸長・固定したい核酸のサイズに応じて、フォトマスクの幅を適宜調整すればよい。
【0036】
本発明のデバイス1は、上記の手順により作製した核酸固定部材10と流路部材20又は蓋部材21を張り合わせることで作製することができる。核酸固定部材10と流路部材20又は蓋部材21をPDMS等の樹脂を用いて作製した場合は、樹脂自体が持つ密着機能により単に張り合わせるのみでよい。また、ガラス等、部材同士の密着性が弱い材料で核酸固定部材10と流路部材20又は蓋部材21を作製した場合は、シリコンオイル等を部材の縁部に塗布して張り合わせればよい。溶液50は、注入口21上に直接液滴を滴下してもよいし、溶液50を貯めた図示しない容器にチューブを接続し、該チューブの他端を注入口21に接続してもよく、注入口21に溶液50が導入できるものであれば特に制限は無い。また、吸引具60は、シリンジポンプ等、一定速度で溶液50を吸引できるものであれば特に制限は無い。
【0037】
溶液50を流した後は、核酸固定部材10と流路部材20又は蓋部材21を分離し、固定部30に伸長・固定された核酸を、YOYO−1、PI、Pyronin Y、SYBR GreenI等の公知の蛍光色素で染色することで核酸標本を作製し、カバーガラスで覆い、顕微鏡で観察することができる。なお、溶液50を流す際には、核酸を予め染色してもよい。
【0038】
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。
【実施例】
【0039】
[フォトマスク形成用の作製]
フォトマスクの材料としては、クロムマスクブランクス(クリーンサアフェイス社製、厚さ2.3mm)を用いた。図6に示した(a)ホール型、(b)ライン型、(c)ジグザグ型のCADデータから、マスクレス露光機(株式会社ナノシステムソリューションズ)を用い、100mJ/cmで露光してフォトマスク(クロムマスク)を作製した。
【0040】
[本発明の核酸固定部材の作製]
(ホール型の核酸固定部材の作製)
<実施例1>
本発明の核酸固定部材は以下の手順により作製した。先ず、シリコン基板(フェローテックシリコン社製、直径76mm、厚さ600μm)上に、SU−8 3005(MICRO CHEM社製)をスピンコータにより、厚さが6μmになるように塗布し、ホットプレート(AS ONE社製)上で、95℃で2分間プリベイクした。次いで、上記〔フォトマスクの作製〕で作製したホール型のフォトマスクを基板に被せ、紫外線照射装置(MIKASA社製)を用い、100mJ/cmで露光後、65℃で1分間、95℃で1分間ポストエクスポージャーベイクを行い、SU−8 developer(MICRO CHEM)を用いて現像した。現像後は、超純水を用いてリンスし、スピンドライヤーで水分をとばして乾燥させ、鋳型を作製した。作製した鋳型に、ポリジメチルシロキサン(東レ社製、SILPOT184)を流し込み、PDMSを硬化後、硬化したPDMSを鋳型から取り外すことで、核酸固定部材を作製した。図7(a−1)は実施例1で作製した核酸固定部材の固定部を拡大した光学顕微鏡写真で、図7(a−2)は(a−1)を更に拡大した光学顕微鏡写真である。ホール型の溝部の深さは6μm、直径は5.3μm、溶液の流れ方向のホールとホールの間隔は、9.5μmであった。
【0041】
(ライン型の核酸固定部材の作製)
<実施例2>
実施例1のフォトマスクに代え、上記[フォトマスクの作製]で作製したライン型のフォトマスクを用いた以外は、実施例1と同様の手順で核酸固定部材を作製した。図7(b)は実施例2で作製した核酸固定部材の固定部を拡大した光学顕微鏡写真で、ライン型の溝部の深さは6μm、ライン型の溝部の幅は15μm、溝部と溝部の間隔は15μmであった。
【0042】
(ジグザグ型の核酸固定部材の作製)
<実施例3>
実施例1のフォトマスクに代え、上記[フォトマスクの作製]で作製したジグザグ型のフォトマスクを用いた以外は、実施例1と同様の手順で核酸固定部材を作製した。図7(c)は実施例3で作製した核酸固定部材の固定部を拡大した光学顕微鏡写真で、ジグザグ型の溝部の深さは6μm、溝部の幅(ジグザグの頂点を結んだ短い距離)は30μm、溝部と溝部の間隔(ジグザグの頂点を結んだ短い距離)は15μm、ジグザグの一つの頂点とその隣の頂点の頂点間距離は7.3μmであった。
【0043】
[流路部材の作製]
実施例1のSU−8 3050の厚さを50μmとなるように塗布し、更に、実施例1のフォトマスクに代え、流路形状(幅650μm、長さ0.8cm)を施したフォトマスクを用いた以外は、実施例1と同様の手順で流路部材を作製した。得られた流路部材の流路は幅650μm、深さ50μm、長さ0.8cmであった。次いで、溶液を注入する注入口及び吸引する吸引口を、パンチ(Harris社製)により作製した。注入口の直径は1.5mm、吸引口の直径は1mmであった。
【0044】
〔サンプルの調整〕
48.5kbpのλDNA(ニッポンジーン社製)をTEバッファー(ニッポンジーン社製、pH8.0)に濃度が50ng/μlとなるように溶解し、次いで1mMのYOYO−1で染色した。なお、48.5kbpのλDNAを伸長した時の長さの理論値は約16.5μmであるが、染色して伸長した場合の実測値は21.5±0.5μmである(非特許文献5参照)。
【0045】
(伸長・固定されたサンプルλDNA断片の断片長分布)
<実施例4>
先ず、本発明のデバイスを用いて伸長・固定されるDNA断片長の分布について調べた。上記のとおり、染色したDNAサンプル中に含まれるλDNAの実測値は約21.5±0.5μmであることから、その長さより十分長い溝部と溝部の間隔(ジグザグの頂点を結んだ短い距離)が30μmとなるようなフォトマスクを作製し、上記実施例1の手順にしたがって、ジグザグ型の固定部を有する核酸固定部材を作製した。なお、ジグザグ型の溝部の深さは6μm、溝部の幅(ジグザグの頂点を結んだ短い距離)は30μm、ジグザグの一つの頂点とその隣の頂点の頂点間距離は7.3μmであった。
【0046】
次に、作製した核酸固定部材、及び[流路部材の作製]で作製した流路部材を張り合わせて本発明の核酸の伸長・固定デバイスを作製した。図8は作製した核酸の伸長・固定デバイスである。次いで、TEバッファー10μlを注入口に滴下し、吸引口とシリコンチューブで接続したシリンジ(HAMILTON社製(500μL))を、シリンジポンプ(AS ONE社製)を用いて吸引することで流路内を洗浄した。その後、上記〔サンプルの調整〕で作製したサンプル10μlを注入口に滴下し、シリンジポンプの流速が1.0μl/minとなるように吸引口から吸引した。溶液を吸引してシリンジに回収した後は、核酸固定部材と流路部材を分離し、カバーガラスを被せてDNA標本を作製した。
【0047】
図9は、実施例4で作製したDNA標本の固定部に伸長・固定されたDNA断片の分布図である。図9から明らかなように、伸長・固定されたDNA断片は、20μm及び21μmをピークに、7μm〜33μmに分布していた。ピーク値は、ほぼ理論値に近い値が得られたが、ピーク値より短い断片は、λDNA溶液の作製中及び/又は本発明のデバイスを用いて伸長・固定している間に切断されたためと考えられる。一方、理論値より長いDNA断片は、断片同士が絡まって見かけ上一本のDNAのように伸長・固定されたものと考えられる。なお、本発明のλDNAサンプルは、上記非特許文献5に記載されている方法と同様の手順で作製したが、図1と同様の原理でDNA断片を固定した場合、非特許文献5のFig.2に示されるようにDNA断片は約21μmにピークがあるものの、3〜12μmの間にもやや大きなピークが見られ、伸長・固定中にDNA断片が切断されたことがわかる。しかしながら、実施例4の方法で伸長・固定したDNA断片は、切断された断片が少ないことから、本発明のDNAの伸長・固定方法は、サンプル中のDNA断片が切断されにくいという効果を奏することが明らかとなった。
【0048】
(固定部の形状を変えたデバイスの作製及び該デバイスを用いた核酸の伸長・固定方法)
<実施例5>
溶液の流れ方向のホールとホールの間隔を15μmとした以外は、上記実施例1と同様の手順で核酸固定部材を作製し、次いで、実施例4と同様の手順でDNA標本を作製した。
【0049】
図10は実施例5で得られたDNA標本の蛍光顕微鏡写真である。写真から明らかなように、溶液中のDNAは、ホールとホールの間に伸長して固定されていた。しかしながら、図9に示されているように、サンプル中のDNA断片は、ホールとホールの間隔である15μmより長い断片が多く含まれているものの、ホールとホールの間隔より長いDNA断片は確認されなかった。
【0050】
<実施例6>
上記実施例3で作製した核酸固定部材を用いた以外は、実施例4と同様の手順でDNA標本を作製した。
【0051】
図11は実施例6で得られたDNA標本の蛍光顕微鏡写真である。写真から明らかなように、溶液中のDNAは、ジグザグの溝部の頂点から伸長して固定されていた。また、実施例5と同様、ジグザグの間隔より長いDNA断片は確認されなかった。
【0052】
<実施例7>
上記実施例3で作製したジグザグ型の核酸固定部材に代え、ジグザグ型の溝部の深さが6μm、溝部の幅(ジグザグの頂点を結んだ短い距離)が15μm、溝部と溝部の間隔(ジグザグの頂点を結んだ短い距離)が20μm、ジグザグの一つの頂点とその隣の頂点の頂点間距離が4μmの核酸固定部材を作製・使用した。更に、サンプルを、ボルテックスミキサーで10〜20秒撹拌することで、上記〔サンプルの調整〕で作製したサンプルより短いDNA断片を多く含むサンプルとした以外は、実施例4と同様の手順でDNA標本を作製した。
【0053】
図12は実施例7で得られたDNA標本の蛍光顕微鏡写真である。写真から明らかなように、溶液中のDNAは、ジグザグの溝部の頂点から伸長して固定されていた。また、溝部と溝部の間隔より短い間隔のDNA分子の片末端が溝部に引っ掛かり固定されていたが、ジグザグの間隔より長いDNAは確認されなかった。
【0054】
<実施例8>
上記実施例7で作製したジグザグ型の核酸固定部材に代え、ジグザグ型の溝部の深さが6μm、溝部の幅(ジグザグの頂点を結んだ短い距離)が15μm、溝部と溝部の間隔(ジグザグの頂点を結んだ短い距離)が20μm、ジグザグの一つの頂点とその隣の頂点の頂点間距離が7.3μmの核酸固定部材を作製・使用した以外は、実施例7と同様の手順でDNA標本を作製した。
【0055】
図13は実施例8で得られたDNA標本の蛍光顕微鏡写真である。写真から明らかなように、実施例7と同様に、溶液中のDNAは、ジグザグの溝部の頂点から伸長して固定されていた。また、溝部と溝部の間隔より短い間隔のDNA分子の片末端が溝部に引っ掛かり固定されていたが、ジグザグの間隔より長いDNAは確認されなかった。
【0056】
<実施例9>
上記実施例7で作製したジグザグ型の核酸固定部材に代え、ライン型の溝部の深さが50μm、溝部の幅が1.3μm、溝部と溝部の間隔が2.6μmの核酸固定部材を作製・使用した以外は、実施例7と同様の手順でDNA標本を作製した。
【0057】
図14は実施例9で得られたDNA標本の蛍光顕微鏡写真である。実施例7に記載されているように、サンプルをボルテックスミキサーで撹拌することで、サンプルには短いDNA断片が多く含まれるものの、図12及び図13に示されるように、サンプルには、実施例7及び8で用いた溝部と溝部の間隔である20μmに近い長さのDNA断片も含まれている。しかしながら、図14の写真から明らかなように、溝部と溝部との間隔である2.6μmより長いDNAは固定されなかった。一方、サイズの小さいDNA断片は、溝部と溝部の間に固定された。
【0058】
上記の実施例4〜9の結果より、溝部と溝部の間隔より長いDNA断片は伸長・固定されないことから、間隔を所期の長さとすることで、様々なDNA断片を含む溶液の中から選択的にDNAを伸長・固定することができる。更に、固定部としてジグザグ型を採用すると、比較的長さの揃ったDNA断片を決まった間隔で伸長・固定することができるので、病理学的検査や統計データの収集等に特に有用である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の、核酸の伸長・固定デバイスは、簡単な操作で且つ多様な断片長を含む核酸溶液の中から、一定の長さの核酸を複数本同時に伸長・固定することができ、更に染色することで、DNA分子単体を標本化して病理検査することができる。したがって、医療機関、大学、企業、研究機関等での簡便且つ迅速な標本の作製及び検査に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14