【実施例】
【0039】
[フォトマスク形成用の作製]
フォトマスクの材料としては、クロムマスクブランクス(クリーンサアフェイス社製、厚さ2.3mm)を用いた。
図6に示した(a)ホール型、(b)ライン型、(c)ジグザグ型のCADデータから、マスクレス露光機(株式会社ナノシステムソリューションズ)を用い、100mJ/cm
2で露光してフォトマスク(クロムマスク)を作製した。
【0040】
[本発明の核酸固定部材の作製]
(ホール型の核酸固定部材の作製)
<実施例1>
本発明の核酸固定部材は以下の手順により作製した。先ず、シリコン基板(フェローテックシリコン社製、直径76mm、厚さ600μm)上に、SU−8 3005(MICRO CHEM社製)をスピンコータにより、厚さが6μmになるように塗布し、ホットプレート(AS ONE社製)上で、95℃で2分間プリベイクした。次いで、上記〔フォトマスクの作製〕で作製したホール型のフォトマスクを基板に被せ、紫外線照射装置(MIKASA社製)を用い、100mJ/cm
2で露光後、65℃で1分間、95℃で1分間ポストエクスポージャーベイクを行い、SU−8 developer(MICRO CHEM)を用いて現像した。現像後は、超純水を用いてリンスし、スピンドライヤーで水分をとばして乾燥させ、鋳型を作製した。作製した鋳型に、ポリジメチルシロキサン(東レ社製、SILPOT184)を流し込み、PDMSを硬化後、硬化したPDMSを鋳型から取り外すことで、核酸固定部材を作製した。
図7(a−1)は実施例1で作製した核酸固定部材の固定部を拡大した光学顕微鏡写真で、
図7(a−2)は(a−1)を更に拡大した光学顕微鏡写真である。ホール型の溝部の深さは6μm、直径は5.3μm、溶液の流れ方向のホールとホールの間隔は、9.5μmであった。
【0041】
(ライン型の核酸固定部材の作製)
<実施例2>
実施例1のフォトマスクに代え、上記[フォトマスクの作製]で作製したライン型のフォトマスクを用いた以外は、実施例1と同様の手順で核酸固定部材を作製した。
図7(b)は実施例2で作製した核酸固定部材の固定部を拡大した光学顕微鏡写真で、ライン型の溝部の深さは6μm、ライン型の溝部の幅は15μm、溝部と溝部の間隔は15μmであった。
【0042】
(ジグザグ型の核酸固定部材の作製)
<実施例3>
実施例1のフォトマスクに代え、上記[フォトマスクの作製]で作製したジグザグ型のフォトマスクを用いた以外は、実施例1と同様の手順で核酸固定部材を作製した。
図7(c)は実施例3で作製した核酸固定部材の固定部を拡大した光学顕微鏡写真で、ジグザグ型の溝部の深さは6μm、溝部の幅(ジグザグの頂点を結んだ短い距離)は30μm、溝部と溝部の間隔(ジグザグの頂点を結んだ短い距離)は15μm、ジグザグの一つの頂点とその隣の頂点の頂点間距離は7.3μmであった。
【0043】
[流路部材の作製]
実施例1のSU−8 3050の厚さを50μmとなるように塗布し、更に、実施例1のフォトマスクに代え、流路形状(幅650μm、長さ0.8cm)を施したフォトマスクを用いた以外は、実施例1と同様の手順で流路部材を作製した。得られた流路部材の流路は幅650μm、深さ50μm、長さ0.8cmであった。次いで、溶液を注入する注入口及び吸引する吸引口を、パンチ(Harris社製)により作製した。注入口の直径は1.5mm、吸引口の直径は1mmであった。
【0044】
〔サンプルの調整〕
48.5kbpのλDNA(ニッポンジーン社製)をTEバッファー(ニッポンジーン社製、pH8.0)に濃度が50ng/μlとなるように溶解し、次いで1mMのYOYO−1で染色した。なお、48.5kbpのλDNAを伸長した時の長さの理論値は約16.5μmであるが、染色して伸長した場合の実測値は21.5±0.5μmである(非特許文献5参照)。
【0045】
(伸長・固定されたサンプルλDNA断片の断片長分布)
<実施例4>
先ず、本発明のデバイスを用いて伸長・固定されるDNA断片長の分布について調べた。上記のとおり、染色したDNAサンプル中に含まれるλDNAの実測値は約21.5±0.5μmであることから、その長さより十分長い溝部と溝部の間隔(ジグザグの頂点を結んだ短い距離)が30μmとなるようなフォトマスクを作製し、上記実施例1の手順にしたがって、ジグザグ型の固定部を有する核酸固定部材を作製した。なお、ジグザグ型の溝部の深さは6μm、溝部の幅(ジグザグの頂点を結んだ短い距離)は30μm、ジグザグの一つの頂点とその隣の頂点の頂点間距離は7.3μmであった。
【0046】
次に、作製した核酸固定部材、及び[流路部材の作製]で作製した流路部材を張り合わせて本発明の核酸の伸長・固定デバイスを作製した。
図8は作製した核酸の伸長・固定デバイスである。次いで、TEバッファー10μlを注入口に滴下し、吸引口とシリコンチューブで接続したシリンジ(HAMILTON社製(500μL))を、シリンジポンプ(AS ONE社製)を用いて吸引することで流路内を洗浄した。その後、上記〔サンプルの調整〕で作製したサンプル10μlを注入口に滴下し、シリンジポンプの流速が1.0μl/minとなるように吸引口から吸引した。溶液を吸引してシリンジに回収した後は、核酸固定部材と流路部材を分離し、カバーガラスを被せてDNA標本を作製した。
【0047】
図9は、実施例4で作製したDNA標本の固定部に伸長・固定されたDNA断片の分布図である。
図9から明らかなように、伸長・固定されたDNA断片は、20μm及び21μmをピークに、7μm〜33μmに分布していた。ピーク値は、ほぼ理論値に近い値が得られたが、ピーク値より短い断片は、λDNA溶液の作製中及び/又は本発明のデバイスを用いて伸長・固定している間に切断されたためと考えられる。一方、理論値より長いDNA断片は、断片同士が絡まって見かけ上一本のDNAのように伸長・固定されたものと考えられる。なお、本発明のλDNAサンプルは、上記非特許文献5に記載されている方法と同様の手順で作製したが、
図1と同様の原理でDNA断片を固定した場合、非特許文献5のFig.2に示されるようにDNA断片は約21μmにピークがあるものの、3〜12μmの間にもやや大きなピークが見られ、伸長・固定中にDNA断片が切断されたことがわかる。しかしながら、実施例4の方法で伸長・固定したDNA断片は、切断された断片が少ないことから、本発明のDNAの伸長・固定方法は、サンプル中のDNA断片が切断されにくいという効果を奏することが明らかとなった。
【0048】
(固定部の形状を変えたデバイスの作製及び該デバイスを用いた核酸の伸長・固定方法)
<実施例5>
溶液の流れ方向のホールとホールの間隔を15μmとした以外は、上記実施例1と同様の手順で核酸固定部材を作製し、次いで、実施例4と同様の手順でDNA標本を作製した。
【0049】
図10は実施例5で得られたDNA標本の蛍光顕微鏡写真である。写真から明らかなように、溶液中のDNAは、ホールとホールの間に伸長して固定されていた。しかしながら、
図9に示されているように、サンプル中のDNA断片は、ホールとホールの間隔である15μmより長い断片が多く含まれているものの、ホールとホールの間隔より長いDNA断片は確認されなかった。
【0050】
<実施例6>
上記実施例3で作製した核酸固定部材を用いた以外は、実施例4と同様の手順でDNA標本を作製した。
【0051】
図11は実施例6で得られたDNA標本の蛍光顕微鏡写真である。写真から明らかなように、溶液中のDNAは、ジグザグの溝部の頂点から伸長して固定されていた。また、実施例5と同様、ジグザグの間隔より長いDNA断片は確認されなかった。
【0052】
<実施例7>
上記実施例3で作製したジグザグ型の核酸固定部材に代え、ジグザグ型の溝部の深さが6μm、溝部の幅(ジグザグの頂点を結んだ短い距離)が15μm、溝部と溝部の間隔(ジグザグの頂点を結んだ短い距離)が20μm、ジグザグの一つの頂点とその隣の頂点の頂点間距離が4μmの核酸固定部材を作製・使用した。更に、サンプルを、ボルテックスミキサーで10〜20秒撹拌することで、上記〔サンプルの調整〕で作製したサンプルより短いDNA断片を多く含むサンプルとした以外は、実施例4と同様の手順でDNA標本を作製した。
【0053】
図12は実施例7で得られたDNA標本の蛍光顕微鏡写真である。写真から明らかなように、溶液中のDNAは、ジグザグの溝部の頂点から伸長して固定されていた。また、溝部と溝部の間隔より短い間隔のDNA分子の片末端が溝部に引っ掛かり固定されていたが、ジグザグの間隔より長いDNAは確認されなかった。
【0054】
<実施例8>
上記実施例7で作製したジグザグ型の核酸固定部材に代え、ジグザグ型の溝部の深さが6μm、溝部の幅(ジグザグの頂点を結んだ短い距離)が15μm、溝部と溝部の間隔(ジグザグの頂点を結んだ短い距離)が20μm、ジグザグの一つの頂点とその隣の頂点の頂点間距離が7.3μmの核酸固定部材を作製・使用した以外は、実施例7と同様の手順でDNA標本を作製した。
【0055】
図13は実施例8で得られたDNA標本の蛍光顕微鏡写真である。写真から明らかなように、実施例7と同様に、溶液中のDNAは、ジグザグの溝部の頂点から伸長して固定されていた。また、溝部と溝部の間隔より短い間隔のDNA分子の片末端が溝部に引っ掛かり固定されていたが、ジグザグの間隔より長いDNAは確認されなかった。
【0056】
<実施例9>
上記実施例7で作製したジグザグ型の核酸固定部材に代え、ライン型の溝部の深さが50μm、溝部の幅が1.3μm、溝部と溝部の間隔が2.6μmの核酸固定部材を作製・使用した以外は、実施例7と同様の手順でDNA標本を作製した。
【0057】
図14は実施例9で得られたDNA標本の蛍光顕微鏡写真である。実施例7に記載されているように、サンプルをボルテックスミキサーで撹拌することで、サンプルには短いDNA断片が多く含まれるものの、
図12及び
図13に示されるように、サンプルには、実施例7及び8で用いた溝部と溝部の間隔である20μmに近い長さのDNA断片も含まれている。しかしながら、
図14の写真から明らかなように、溝部と溝部との間隔である2.6μmより長いDNAは固定されなかった。一方、サイズの小さいDNA断片は、溝部と溝部の間に固定された。
【0058】
上記の実施例4〜9の結果より、溝部と溝部の間隔より長いDNA断片は伸長・固定されないことから、間隔を所期の長さとすることで、様々なDNA断片を含む溶液の中から選択的にDNAを伸長・固定することができる。更に、固定部としてジグザグ型を採用すると、比較的長さの揃ったDNA断片を決まった間隔で伸長・固定することができるので、病理学的検査や統計データの収集等に特に有用である。