特許第6143285号(P6143285)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6143285
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 29/02 20060101AFI20170529BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20170529BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20170529BHJP
   F02D 17/00 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
   F02D29/02 321A
   B62D5/04
   F02D29/02 321C
   F02D45/00 314M
   F02D17/00 Q
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-92223(P2013-92223)
(22)【出願日】2013年4月25日
(65)【公開番号】特開2014-214661(P2014-214661A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2016年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【弁理士】
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】西川 和久
【審査官】 増子 真
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/040494(WO,A1)
【文献】 特開2012−067702(JP,A)
【文献】 特開2011−087412(JP,A)
【文献】 特表2008−510926(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0277977(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 13/00 − 28/00
F02D 29/00 − 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源が発生する駆動力によって走行し、ステアリングホイールの操作によって進行方向が変更される車両に用いられる制御装置であって、
前記ステアリングホイールに加えられた操舵トルクを検出するためのトルクセンサと、
所定の自動停止条件が成立したことに応答して、前記駆動源を自動停止させる自動停止手段と、
前記トルクセンサによって検出される操舵トルクが所定の第1トルク閾値以上である場合に、前記自動停止手段による前記駆動源の自動停止を禁止する禁止手段と、
前記トルクセンサによって検出される操舵トルクが所定の第2トルク閾値未満である状態が所定の継続時間にわたって継続した場合に、前記禁止手段による自動停止の禁止を解除する禁止解除手段と
前記トルクセンサによって検出される操舵トルクが前記第2トルク閾値未満に低下した時点から遡った所定時間内に前記トルクセンサによって検出された操舵トルクに基づいて、前記継続時間を設定する継続時間設定手段とを含み、
前記継続時間設定手段は、前記所定時間内の操舵トルクの値が大きいほど前記継続時間を長い時間に設定する、車両用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジンの駆動中に所定の自動停止条件が成立したことに応答して、エンジンが自動的に停止され、その後に所定の再始動条件が成立したことに応答して、エンジンが自動的に再始動される機能を有する自動車、いわゆるアイドルストップ車が提供されている。アイドルストップ車では、信号待ちなどで車両が停止しているときに、エンジンが停止されることにより、燃料の無駄な消費を抑えることができる。
【0003】
ところが、交差点での右左折待ちで車両が停止しているときには、右左折可能な状況になれば、車両を速やかに発進させる必要があるので、エンジンが自動的に停止されないことが望ましい。
【0004】
そこで、車両停止中のステアリングの舵角が所定角度以上である場合には、エンジンの自動的な停止(アイドルストップ)がキャンセルされるようにしたシステムが提案されている。これにより、交差点での右左折待ちで車両が停止しているときに、アイドルストップがキャンセルされるので、右左折可能な状況になったときに、車両を速やかに発進させて右左折を完了させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−61110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ステアリングの舵角を検出するためには、舵角センサが必要となる。そのため、舵角センサを備えていない車両では、前述の提案に係るシステムを採用する場合、舵角センサを追加して設けなければならない。
【0007】
本発明の目的は、舵角センサを用いずに、駆動源の自動停止が望ましくない状況下における駆動源の自動停止を防止できる、車両用制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するため、本発明に係る車両用制御装置は、駆動源が発生する駆動力によって走行し、ステアリングホイールの操作によって進行方向が変更される車両に用いられる制御装置であって、ステアリングホイールに加えられた操舵トルクを検出するためのトルクセンサと、所定の自動停止条件が成立したことに応答して、駆動源を自動停止させる自動停止手段と、トルクセンサによって検出される操舵トルクが所定の第1トルク閾値以上である場合に、自動停止手段による駆動源の自動停止を禁止する禁止手段と、トルクセンサによって検出される操舵トルクが所定の第2トルク閾値未満である状態が所定の継続時間にわたって継続した場合に、禁止手段による自動停止の禁止を解除する禁止解除手段とを含む。
【0009】
この構成によれば、所定の自動停止条件が成立すると、駆動源が自動停止される。たとえば、車両が交差点の手前で直進横断待ちのために停止しているときに、自動停止条件が成立し、駆動源が自動停止(アイドルストップ)されることにより、燃料の無駄な消費を抑えることによる燃費の向上を図ることができる。
【0010】
トルクセンサにより、ステアリングホイールに加えられた操舵トルクが検出される。トルクセンサによって検出される操舵トルクが所定の第1トルク閾値以上である場合に、駆動源の自動停止が禁止される。たとえば、交差点における右左折待ちのための停車は、車両の即時発進が要求される状況での停車である。車両が交差点で右左折待ちのために停止しているときには、ステアリングホイールが左右一方に切り込まれ、その状態を保持するために、そのステアリングホイールに第1トルク閾値以上の操舵トルクが加えられることが多い。このとき、駆動源の自動停止が禁止されることにより、右左折可能な状況になったときに、車両を速やかに発進させて右左折を完了させることができる。
【0011】
しかしながら、たとえば、車両が右折する交差点の手前に右折レーンが設けられている場合、車両が交差点での右折の体勢に入る際に、自動停止条件が成立していない状態で、ステアリングホイールが中立位置から右方向に操作されて、車両が右折レーンに進入した後、ステアリングホイールが中立位置に戻されて、その後に自動停止条件が成立することがある。この場合、自動停止条件が成立した時点で、ステアリングホイールに第1トルク閾値以上の操舵トルクが加えられていないため、駆動源の自動停止が禁止されず、駆動源が自動停止されてしまう。また、駐車場内での車両の低速直進走行時には、ステアリングホイールに第1トルク閾値以上の操舵トルクが加えられていない状態で、自動停止条件が成立し、駆動源の自動停止が禁止されず、駆動源が自動停止されることがある。
【0012】
そこで、駆動源の自動停止が禁止されている状態で、トルクセンサによって検出される操舵トルクが所定の第2トルク閾値未満に低下した場合に、その自動停止の禁止が直ちには解除されず、操舵トルクが第2トルク閾値未満である状態が所定の継続時間にわたって継続した後、自動停止の禁止が解除される。これにより、交差点での右左折前や駐車場内での走行中など、駆動源の自動停止が望ましくない状況下における駆動源の自動停止を防止することができる。
【0013】
そして、駆動源の自動停止が望ましくない状況下における駆動源の自動停止を防止するために、舵角センサを必要としないので、舵角センサを追加して設けることによるコストアップを回避することができる。
【0014】
たとえば、電動パワーステアリング装置を備える車両には、通常、ステアリングホイールに加えられた操舵トルクを検出するためのトルクセンサが装備されているので、このトルクセンサを利用して、駆動源の自動停止が望ましくない状況下における駆動源の自動停止を防止することができる。よって、電動パワーステアリング装置を備える車両では、コストの低減効果をより顕著に発揮することができる。
【0015】
車両用制御装置は、トルクセンサによって検出される操舵トルクが第2トルク閾値未満に低下した時点から遡った所定時間内にトルクセンサによって検出された操舵トルクに基づいて、継続時間を設定する継続時間設定手段をさらに含み、継続時間設定手段は、所定時間内の操舵トルクの値が大きいほど継続時間を長い時間に設定してもよい。
【0016】
この構成によれば、操舵トルクが第2トルク閾値未満に低下してから駆動源の自動停止の禁止が解除されるまでの継続時間をステアリングホイールの操作状況に応じた適切な時間に設定することができる。これにより、たとえば、修正操舵などの小操舵時には、継続時間が短い時間に設定されるので、駆動源の自動停止が必要以上に禁止されることを防止できる。一方、ステアリングホイールの積極的な操作による操舵時には、継続時間が長い時間に設定されるので、駆動源の自動停止が望ましくない状況下における駆動源の自動停止を防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、舵角センサを用いずに、交差点での右左折前や駐車場内での走行中など、駆動源の自動停止が望ましくない状況下における駆動源の自動停止を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る車両用制御装置が適用された車両の構成を示すブロック図である。
図2図2は、アイドルストップ制御の流れを示すフローチャートである。
図3図3は、IDS禁止フラグ設定処理の流れを示すフローチャートである。
図4図4は、操舵トルクおよびIDS禁止フラグの状態の変化の一例を示す図である。
図5図5は、ディレイ時間設定処理の流れを示すフローチャートである。
図6図6は、操舵トルクとディレイ時間との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係る車両用制御装置が適用された車両の構成を示すブロック図である。
【0021】
アイドルストップ車1は、エンジン2を駆動源とする自動車である。アイドルストップ車1は、アイドルストップ機能を有している。アイドルストップ機能は、エンジン2の駆動中の所定の自動停止条件の成立に応答して、エンジン2が停止(アイドルストップ)され、その後の所定の再始動条件の成立に応答して、アイドルストップ状態が解除されて、エンジン2が再始動される機能である。
【0022】
エンジン2の出力は、トルクコンバータ3および無段変速機(CVT:Continuously
Variable Transmission)4を介して、アイドルストップ車1の駆動輪に伝達される。
【0023】
エンジン2に付随して、スタータ(始動用モータ)5が設けられている。停止状態のエンジン2は、スタータ5によるクランキング後に始動する。
【0024】
エンジン2に関連して、オルタネータ6が設けられている。
【0025】
オルタネータ6の回転軸(ロータ)には、エンジン2の出力軸の回転が伝達される。オルタネータ6の回転軸が回転すると、その回転が電力に変換されて、オルタネータ6から電力が出力される。
【0026】
アイドルストップ車1には、電動パワーステアリング装置(EPS:Electric
Power Steering)7が搭載されている。
【0027】
電動パワーステアリング装置7には、モータ8が備えられている。モータ8の駆動力がステアリング機構9に伝達されることにより、ステアリング機構9に含まれるステアリングホイールの操作が補助される。
【0028】
また、アイドルストップ車1には、ABS(Antilock Brake System)制御のためのABSアクチュエータ10が設けられている。ABSアクチュエータ10には、各車輪のブレーキに設けられたホイールシリンダの液圧を制御するためのバルブやブレーキフルードをマスタシリンダに戻すためのポンプなどが内蔵されている。マスタシリンダからABSアクチュエータ10に伝達された液圧は、各ホイールシリンダに分配されて伝達される。そして、ホイールシリンダの液圧により、車輪に制動力が付与される。
【0029】
アイドルストップ車1にはさらに、バッテリ11が備えられている。
【0030】
バッテリ11は、オルタネータ6から出力される電力によって充電される。バッテリ11には、スタータ5および電動パワーステアリング装置7のモータ8などが電気的に接続されている。スタータ5およびモータ8には、バッテリ11から駆動電力が供給される。バッテリ11からスタータ5への給電経路上には、リレー12が介装されている。
【0031】
また、アイドルストップ車1には、CPUおよびメモリを含む構成の複数のECU(電子制御ユニット)が備えられている。ECUには、エンジンECU21、CVTECU22、ABSECU23、EPSECU24およびアイドルストップECU25が含まれる。エンジンECU21、CVTECU22、ABSECU23、EPSECU24およびアイドルストップECU25は、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる通信を相互に行うことができる。
【0032】
エンジンECU21には、エンジン2が制御対象として接続されている。
【0033】
CVTECU22には、無段変速機4が制御対象として接続されている。
【0034】
ABSECU23には、ABSアクチュエータ10が制御対象として接続されている。また、ABSECU23には、各車輪の回転速度(車輪速)を検出するための車輪速センサ26、マスタシリンダ(図示せず)の液圧を検出するための液圧センサ27およびブレーキペダル(図示せず)が踏み込まれているか否かを検出するためのブレーキスイッチ28が接続されている。ABSECU23は、車輪速センサ26から入力される検出信号に基づいて、各車輪の車輪速を演算し、たとえば、各車輪速の平均値を車速(車体速)として取得する。また、ABSECU23は、液圧センサ27から入力される検出信号に基づいて、マスタシリンダの液圧を取得する。ブレーキスイッチ28は、たとえば、ブレーキペダルが踏み込まれた状態でオンになり、ABSECU23は、ブレーキスイッチ28から入力されるオン/オフ信号に基づいて、ブレーキペダルが踏み込まれているか否かを判定する。
【0035】
EPSECU24には、電動パワーステアリング装置7のモータ8が制御対象として接続されている。また、EPSECU24には、ステアリング機構9のステアリングホイールに加えられている操舵トルクを検出するためのトルクセンサ29が接続されている。EPSECU24は、トルクセンサ29から入力される検出信号に基づいて、操舵トルクを取得する。
【0036】
アイドルストップECU25には、リレー12が制御対象として接続されている。アイドルストップECU25により、アイドルストップ機能のための制御(アイドルストップ制御)が実行される。アイドルストップ制御のために、アイドルストップECU25には、エンジンECU21からエンジンの回転数などの情報が入力され、ABSECU23から各車輪の車輪速、車速、マスタシリンダの液圧およびブレーキペダルが踏み込まれているか否かの情報が入力され、EPSECU24から操舵トルクが入力される。
【0037】
EPSECU24から入力される操舵トルクは、アイドルストップECU25のメモリの所定領域にFIFO(First In First Out)方式で記憶される。これにより、アイドルストップECU25のメモリには、現時点から所定時間(たとえば、1秒間)遡った時点までの期間にEPSECU24から入力された操舵トルクが保持されている。
【0038】
図2は、アイドルストップ制御の流れを示すフローチャートである。
【0039】
アイドルストップ制御では、アイドルストップECU25により、所定の自動停止条件が成立しているか否かが繰り返し判断される(ステップS1)。自動停止条件は、たとえば、車速が9km/h以下であり、かつ、マスタシリンダの液圧(ブレーキ液圧)が0.4MPa以上であるという条件である。
【0040】
自動停止条件が成立すると(ステップS1のYES)、アイドルストップECU25により、アイドルストップECU25のメモリに設けられたIDS禁止フラグがオフであるか否かが判定される(ステップS2)。IDS禁止フラグは、エンジン2のアイドルストップが禁止されているか否かを表すフラグである。
【0041】
IDS禁止フラグがオンである場合には(ステップS2のNO)、自動停止条件が成立しているか否かが再び判断される(ステップS1)。
【0042】
自動停止条件が成立し、かつ、IDS禁止フラグがオフであれば(ステップS2のYES)、アイドルストップECU25からエンジンECU21にエンジン停止指令が出力され、エンジンECU21により、エンジン2が停止される(ステップS3)。
【0043】
このエンジン2の停止中は、アイドルストップECU25により、所定の再始動条件が成立したか否かが繰り返し判断される(ステップS4)。再始動条件は、たとえば、ブレーキペダルから足が放されたという条件である。
【0044】
ブレーキペダルから足が放されて、再始動条件が成立すると(ステップS4のYES)、アイドルストップECU25により、リレー12がオンされる。リレー12がオンされると、スタータ5によるクランキングを経て、エンジン2が始動し(ステップS5)、アイドルストップ制御が終了となる。
【0045】
図3は、IDS禁止フラグ設定処理の流れを示すフローチャートである。図4は、操舵トルクおよびIDS禁止フラグの状態の変化の一例を示す図である。
【0046】
アイドルストップ制御と並行して、アイドルストップECU25により、IDS禁止フラグ設定処理が繰り返し実行される。
【0047】
IDS禁止フラグ設定処理では、まず、EPSECU24から入力される操舵トルク、つまりステアリング機構9のステアリングホイールに加えられている操舵トルクが所定のIDS禁止トルク閾値(第1トルク閾値)以上であるか否かが繰り返し判断される(ステップS11)。IDS禁止トルク閾値は、たとえば、0.5N・mに設定されている。
【0048】
IDS禁止トルク閾値以上の操舵トルクがステアリングホイールに加えられると(ステップS11のYES)、アイドルストップECU25のメモリに設けられたIDS禁止フラグがオン(IDS禁止フラグに1が設定)される(ステップS12、時刻T1)。
【0049】
その後、EPSECU24から入力される操舵トルクが取得され、操舵トルクが所定のIDS許可トルク閾値(第2トルク閾値)未満に低下したか否かが繰り返し判断される(ステップS13)。IDS許可トルク閾値は、たとえば、IDS禁止トルク閾値と同じ値に設定されている。
【0050】
操舵トルクがIDS許可トルク閾値未満に低下すると(ステップS13のYES、時刻T2)、その時点からの経過時間(操舵トルクがIDS許可トルク閾値未満である状態が継続している時間)の計測が開始される。そして、その計測された時間が後述するディレイ時間設定処理によって設定されたディレイ時間(継続時間)に達したか否かが判断される(ステップS14)。
【0051】
操舵トルクがIDS許可トルク閾値未満である状態がディレイ時間にわたって継続するまでは(ステップS14のNO)、操舵トルクがIDS許可トルク閾値より小さいか否かが再び判断される(ステップS13)。
【0052】
操舵トルクがIDS許可トルク閾値未満である状態がディレイ時間にわたって継続する前に、操舵トルクがIDS許可トルク閾値以上に上昇すると(ステップS13のNO、時刻T3)、それまでに計測されている時間が0にクリアされる(ステップS15)。その後は、操舵トルクがIDS許可トルク閾値未満に低下したか否かが繰り返し判断される(ステップS13)。
【0053】
そして、操舵トルクがIDS許可トルク閾値未満に低下し(時刻T4)、その状態がディレイ時間にわたって継続すると(ステップS14のYES)、IDS禁止フラグがオフ(IDS禁止フラグに0が設定)される(ステップS16、時刻T5)。
【0054】
図5は、ディレイ時間設定処理の流れを示すフローチャートである。図6は、操舵トルクとディレイ時間との関係を示す図である。
【0055】
アイドルストップ制御中、アイドルストップECU25により、ディレイ時間設定処理が繰り返し実行される。
【0056】
ディレイ時間設定処理では、EPSECU24から入力される操舵トルクがIDS許可トルク閾値未満であるか否かが繰り返し判断される(ステップS21)。
【0057】
操舵トルクがIDS許可トルク閾値未満に低下すると(ステップS21のYES)、アイドルストップECU25のメモリに記憶されている操舵トルクの履歴、つまり現時点から所定時間遡った時点までの期間にメモリに書き込まれた操舵トルクが読み出される(ステップS22)。
【0058】
そして、その操舵トルクの履歴に基づいてディレイ時間が設定される(ステップS23)。具体的には、メモリから読み出された操舵トルクの履歴の平均値が算出される。そして、図6に示される操舵トルク(履歴の平均値)とディレイ時間との関係に基づいて、操舵トルクの履歴の平均値に応じたディレイ時間が設定される。操舵トルクとディレイ時間との関係は、アイドルストップECU25のメモリに記憶されており、たとえば、操舵トルクが0.5N・mおよび1.0N・mであるときに、ディレイ時間がそれぞれ3秒間および5秒間に設定され、操舵トルクが0.5N・m以上の範囲で、操舵トルクが大きいほど、ディレイ時間が3秒間から単調に増大するように定められている。
【0059】
こうしてディレイ時間が設定されると、ディレイ時間設定処理が終了となる。
【0060】
以上のように、所定の自動停止条件(車速が9km/h以下で、かつ、マスタシリンダの液圧が0.4MPa以上)が成立すると、エンジン2が自動停止される。たとえば、アイドルストップ車1が交差点の手前で直進横断待ちのために停止しているときに、自動停止条件が成立し、エンジン2が自動停止(アイドルストップ)されることにより、燃料の無駄な消費を抑えることによる燃費の向上を図ることができる。
【0061】
トルクセンサ29により、ステアリング機構9(ステアリングホイール)に加えられた操舵トルクが検出される。トルクセンサ29によって検出される操舵トルクがIDS禁止トルク閾値以上である場合に、エンジン2の自動停止が禁止される。たとえば、交差点における右左折待ちのための停車は、アイドルストップ車1の即時発進が要求される状況での停車である。アイドルストップ車1が交差点で右左折待ちのために停止しているときには、ステアリング機構9が左右一方に切り込まれ、その状態を保持するために、そのステアリング機構9にIDS禁止トルク閾値以上の操舵トルクが加えられることが多い。このとき、エンジン2の自動停止が禁止されることにより、右左折可能な状況になったときに、アイドルストップ車1を速やかに発進させて右左折を完了させることができる。
【0062】
また、エンジン2の自動停止が禁止されている状態で、トルクセンサ29によって検出される操舵トルクがIDS許可トルク閾値未満に低下した場合に、その自動停止の禁止が直ちには解除されず、操舵トルクがIDS許可トルク閾値未満である状態がディレイ時間にわたって継続した後、自動停止の禁止が解除される。これにより、自動停止条件が成立する直前にステアリングホイールに操舵トルクが偶然に加えられていなかったが、交差点での右左折前や駐車場内での走行中など、エンジン2の自動停止が望ましくない状況下であるときに、エンジン2が自動停止されることを防止できる。
【0063】
そして、エンジン2の自動停止が望ましくない状況下におけるエンジン2の自動停止を防止するために、舵角センサを必要としないので、舵角センサを追加して設けることによるコストアップを回避することができる。
【0064】
また、アイドルストップ車1には、電動パワーステアリング装置7が搭載されており、電動パワーステアリング装置7に付随して、トルクセンサ29が備えられている。そのため、アイドルストップ車1では、そのトルクセンサ29を利用して、エンジン2の自動停止が望ましくない状況下におけるエンジン2の自動停止を防止することができる。よって、アイドルストップ車1では、コストの低減効果をより顕著に発揮することができる。
【0065】
ディレイ時間は、トルクセンサ29によって検出される操舵トルクがIDS許可トルク閾値未満に低下した時点から遡った所定時間内にトルクセンサ29によって検出された操舵トルクに基づいて、その操舵トルクの値が大きいほど長い時間に設定される。
【0066】
この構成によれば、操舵トルクがIDS許可トルク閾値未満に低下してからエンジン2の自動停止の禁止が解除されるまでのディレイ時間をステアリング機構9の操作状況に応じた適切な時間に設定することができる。たとえば、修正操舵などの小操舵時には、ディレイ時間が短い時間に設定されるので、エンジン2の自動停止が必要以上に禁止されることを防止できる。一方、ステアリング機構9の積極的な操作による操舵時には、ディレイ時間が長い時間に設定されるので、エンジン2の自動停止が望ましくない状況下におけるエンジン2の自動停止を防止することができる。
【0067】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明は、さらに他の形態で実施することができる。
【0068】
たとえば、前述の実施形態においては、アイドルストップECU25のメモリに記憶された所定時間内の操舵トルクの履歴の平均値に基づいて、ディレイ時間が設定されるとした。これに代えて、所定時間内の操舵トルクの履歴の最大値に基づいて、その最大値が大きいほど、ディレイ時間が長い時間に設定されてもよい。ただし、ディレイ時間が操舵トルクの平均値に基づいて設定される構成では、トルクセンサ29から出力される信号に混入するノイズの影響を排除することができる。
【0069】
また、所定時間内の操舵トルクの時間変化率(微分値)に基づいて、ディレイ時間が設定されてもよい。たとえば、その時間変化率が大きいほど、ディレイ時間が長い時間に設定されてもよい。
【0070】
また、IDS許可トルク閾値がIDS禁止トルク閾値と同じ値(たとえば、0.5N・m)に設定されているとしたが。IDS禁止トルク閾値とIDS許可トルク閾値とが互いに異なる値であってもよい。たとえば、IDS許可トルク閾値は、IDS禁止トルク閾値よりも小さくてもよい。
【0071】
さらにまた、アイドルストップの自動停止条件として、車速9km/h以下で、かつ、ブレーキ液圧(マスタシリンダの液圧)が0.4MPa以上であることとしたが、自動停止条件は、必ずしもこの条件に限定されない。
【0072】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0073】
1 アイドルストップ車(車両)
2 エンジン(駆動源)
9 ステアリング機構(ステアリングホイール)
25 アイドルストップECU(自動停止手段、禁止手段、禁止解除手段、継続時間設定手段)
29 トルクセンサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6