特許第6143299号(P6143299)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6143299マイクロポーラス層形成用ペースト組成物及びその製造方法
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  • 特許6143299-マイクロポーラス層形成用ペースト組成物及びその製造方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6143299
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】マイクロポーラス層形成用ペースト組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20170529BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20170529BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20170529BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20170529BHJP
【FI】
   H01M4/86 B
   H01M4/86 H
   H01M4/88 H
   H01M4/88 C
   H01M4/96 H
   !H01M8/10
【請求項の数】4
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-9481(P2014-9481)
(22)【出願日】2014年1月22日
(65)【公開番号】特開2015-138656(P2015-138656A)
(43)【公開日】2015年7月30日
【審査請求日】2016年2月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100780
【氏名又は名称】アイシン化工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000615
【氏名又は名称】特許業務法人 Vesta国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牧野 肇
(72)【発明者】
【氏名】関谷 章仁
(72)【発明者】
【氏名】柴田 幸弘
【審査官】 藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−164896(JP,A)
【文献】 特開2013−191537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86 − 4/88
H01M 4/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粉末と、撥水性樹脂と、分散剤と、増粘剤と含有するペースト組成物であって、前記増粘剤として、平均分子量が60万以上〜160万未満の範囲内である低分子量のポリエチレンオキサイドと、平均分子量が160万以上〜650万以下の範囲内である高分子量のポリエチレンオキサイドとを併用し
前記導電性粉末及び前記撥水性樹脂の固形分合計量100重量部に対して、前記低分子量のポリエチレンオキサイドの固形分配合量が0.2重量部〜1.1重量部の範囲内であり、前記高分子量のポリエチレンオキサイドの固形分配合量が0.3重量部〜1.0重量部の範囲内であることを特徴とするマイクロポーラス層形成用ペースト組成物。
【請求項2】
導電性材料としてのカーボン粒子と、撥水性樹脂としてのPTFEエマルジョンと、分散剤と、増粘剤として平均分子量が60万以上〜160万未満の範囲内である低分子量のポリエチレンオキサイドと平均分子量が160万以上〜650万以下の範囲内である高分子量のポリエチレンオキサイドとを含有し、
前記カーボン粒子及び前記PTFEエマルジョンの固形分合計量100重量部に対して、前記低分子量のポリエチレンオキサイドの固形分配合量が0.2重量部〜1.1重量部の範囲内であり、前記高分子量のポリエチレンオキサイドの固形分配合量が0.3重量部〜1.0重量部の範囲内であり、
少なくとも前記カーボン粒子と前記PTFEエマルジョンと前記分散は、遊星式撹拌・脱泡装置で所定時間混合分散したことを特徴とするマイクロポーラス層形成用ペースト組成物。
【請求項3】
導電性材料としてのカーボン粒子と、撥水性樹脂としてのPTFEエマルジョンと、分散剤と、増粘剤として平均分子量が60万以上〜160万未満の範囲内である低分子量のポリエチレンオキサイドとの混合材料を、遊星式撹拌・脱泡装置で所定時間混合分散し、その後、更に増粘剤として平均分子量が160万以上〜650万以下の範囲内である高分子量のポリエチレンオキサイドを配合し、攪拌機で混合してマイクロポーラス層用ペーストとし、
前記カーボン粒子及び前記PTFEエマルジョンの固形分合計量100重量部に対して、前記低分子量のポリエチレンオキサイドの固形分配合量を0.2重量部〜1.1重量部の範囲内とし、前記高分子量のポリエチレンオキサイドの固形分配合量を0.3重量部〜1.0重量部の範囲内とすることを特徴とするマイクロポーラス層形成用ペースト組成物の製造方法。
【請求項4】
前記マイクロポーラス層用ペーストは、導電性多孔質材料からなる基材に塗布を施してマイクロポーラス層を形成することを特徴とする請求項3に記載のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンペーパー等の導電性多孔質材料からなる基材の表面に塗布してガス拡散層のマイクロポーラス層を形成するマイクロポーラス層形成用ペースト組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池、特に、固体高分子型燃料電池においては、高分子電解質膜の両面にカソード側電極及びアノード側電極を形成しており、通常、これらのカソード側電極及びアノード側電極は、白金等の触媒を担持したカーボンブラック及びイオン交換樹脂からなる電極触媒層と、カーボンクロスやカーボンペーパー等の導電性多孔質材料からなる基材に、導電性を付与するためのカーボン粒子等の導電性粉末と撥水性を付与するためのポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」とも略する。)エマルジョン等の撥水性樹脂とを混練した撥水ペーストを塗工してなるガス拡散層とによって構成されている。なお、エマルジョン(emulsion;「エマルション」ともいう。)とは、乳濁液ともいい、液体中に液体粒子がコロイド粒子或いはそれより粗大な粒子として乳状をなすもの(分散系)が本来の意味であるが(長倉三郎他編「岩波理化学辞典(第5版)」152頁,1998年2月20日株式会社岩波書店発行)、本明細書及び特許請求の範囲においては、より広い意味で一般的に用いられている「液体中に固体または液体の粒子が分散しているもの」として、ここでは「エマルジョン」という用語を用いるものとする。
【0003】
このような燃料電池のガス拡散層の基材においては、燃料電池の電極内で発生した水をすばやく除去するために、通常、カーボンペーパー、カーボンクロス等の導電性多孔質材料に撥水処理が施される。しかし、撥水処理が施されたカーボンペーパー等のカーボン基材の表面にマイクロポーラス層形成用のペースト状混合物を塗布してガス拡散層を形成する燃料電池において、マイクロポーラス層形成用のペースト状混合物がカーボンブラック等の導電性粉末とPTFEエマルジョン等の撥水性樹脂と分散剤で構成されている場合、かかるマイクロポーラス層形成用のペースト状混合物を撥水処理したカーボン基材の表面に塗布すると、撥水処理により基材裏面に移動した水に追従して、ペースト成分がカーボン基材の裏面に抜けてしまう問題があった。ペースト成分がカーボン基材の裏面に抜けてしまうと、その裏抜け部位においてはカーボン基材が撥水処理されているにも関わらず撥水性が低下する減少が生じるため、燃料電池の電極内で発生した水の除去がスムーズに行われず、電池性能に悪影響を与える。
【0004】
そこで、このペースト成分の裏抜けを抑制するために、粘度調整によって組成物を高粘度化する方法が考えられる。
ここで、組成物の粘度を向上させる技術としては、特許文献1において、触媒層と、導電性基材で構成される気体拡散層と、前記触媒層と前記気体拡散層との間に位置し、導電性物質、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びヒドロキシプロピルエチルセルロースから選択される非イオン性セルロース系列化合物である増粘剤並びにフッ素系列樹脂を含む微細気孔層とを具備する燃料電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−19300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、増粘剤が非イオン性セルロース系列化合物であり、セルロース系化合物は300℃程度の温度では完全には分解しないため、現状の乾燥・焼成温度を上げる必要があり、乾燥・焼成時の負荷が増加する問題が生じる。
また、粘度調整としてセルロース系化合物を使用し組成物の粘度を向上させた場合、粘度上昇に背反して組成物の流動性が悪くなることから平滑性が低下して塗膜の凹凸が大きくなり、燃料電池の出力安定のために拡散層に要求されるマイクロポーラス層の平滑性を確保することが困難となり、生産効率を上げることもできない。
【0007】
そこで、本発明は、かかる問題を解決すべくなされたものであって、乾燥工程の負荷を必要以上に増大させることなく、ペースト成分の裏抜けを抑制でき、かつ、平滑性も良好なマイクロポーラス層形成用ペースト組成物及びその製造方法の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物は、導電性粉末と、撥水性樹脂と、分散剤と、増粘剤と含有するペースト組成物であって、前記増粘剤として、平均分子量が160万未満の低分子量のポリエチレンオキサイドと、平均分子量が160万以上の高分子量のポリエチレンオキサイドとを併用し、前記導電性粉末及び前記撥水性樹脂の固形分合計量100重量部に対して、前記低分子量のポリエチレンオキサイドの固形分配合量が0.2重量部〜1.1重量部の範囲内であり、前記高分子量のポリエチレンオキサイドの固形分配合量が0.3重量部〜1.0重量部の範囲内であるものである。
【0009】
ここで、上記導電性材料としては、カーボンブラック粉末、グラファイト粉末、気相成長炭素粉末等のカーボン粒子が挙げられる。
また、上記撥水性樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を始めとして、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂等が挙げられる。
更に、分散剤としては、トリトンX−100、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等が挙げられる。
そして、上記増粘剤としては、分子量が大きくても300℃未満で熱分解する水溶性樹脂のポリエチレンオキサイドを使用し、平均分子量が160万未満の低分子量のポリエチレンオキサイドと平均分子量が160万以上の高分子量のポリエチレンオキサイドとの平均分子量が異なるポリエチレンオキサイドを併用する。この併用は、平均分子量が160万未満の低分子量側のポリエチレンオキサイドによって塗工に適した粘度特性を確保し、高分子量側のポリエチレンオキサイドによって裏抜けを抑制する粘度特性を確保する。
【0010】
本発明にかかるマイクロポーラス層形成用ペースト組成物は、前記低分子量のポリエチレンオキサイドの平均分子量が60万以上〜160万未満の範囲内であり、前記高分子量のポリエチレンオキサイドの平均分子量が160万以上〜650万以下の範囲内であるものである。
【0011】
請求項2の発明のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物は、導電性材料としてのカーボン粒子と、撥水性樹脂としてのPTFEエマルジョンと、分散剤と、増粘剤として平均分子量が160万未満の低分子量のポリエチレンオキサイドと平均分子量が160万以上の高分子量のポリエチレンオキサイドとを含有し、前記カーボン粒子及び前記PTFEエマルジョンの固形分合計量100重量部に対して、前記低分子量のポリエチレンオキサイドの固形分配合量が0.2重量部〜1.1重量部の範囲内であり、前記高分子量のポリエチレンオキサイドの固形分配合量が0.3重量部〜1.0重量部の範囲内であり、少なくとも前記カーボン粒子と前記PTFEエマルジョンと前記分散は、遊星式撹拌・脱泡装置で所定時間混合分散することによってマイクロポーラス層用ペーストとし、それを導電性多孔質材料の基材に塗布し、乾燥・焼成することでガス拡散層のマイクロポーラス層を形成するものである。
【0012】
本発明にかかるマイクロポーラス層形成用ペースト組成物は、前記低分子量のポリエチレンオキサイドの平均分子量が60万以上〜160万未満の範囲内であり、前記高分子量のポリエチレンオキサイドの平均分子量が160万以上〜650万以下の範囲内であるものである。
【0013】
請求項3の発明のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物の製造方法は、導電性材料としてのカーボン粒子と、撥水性樹脂としてのPTFEエマルジョンと、分散剤と、分散媒と、増粘剤として平均分子量が160万未満の低分子量のポリエチレンオキサイドとの混合材料を、遊星式撹拌・脱泡装置で所定時間混合分散し、その後、更に増粘剤として平均分子量が160万以上の高分子量のポリエチレンオキサイドを配合し、攪拌機で混合してマイクロポーラス層用ペーストとし、前記カーボン粒子及び前記PTFEエマルジョンの固形分合計量100重量部に対して、前記低分子量のポリエチレンオキサイドの固形分配合量を0.2重量部〜1.1重量部の範囲内とし、前記高分子量のポリエチレンオキサイドの固形分配合量を0.3重量部〜1.0重量部の範囲内とするものである。
【0014】
本発明にかかるマイクロポーラス層形成用ペースト組成物の製造方法は、前記低分子量のポリエチレンオキサイドは、平均分子量が60万以上〜160万未満の範囲内であり、前記高分子量のポリエチレンオキサイドは、平均分子量が160万以上〜650万以下の範囲内であるものである。
【0015】
請求項4の発明のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物の製造方法前記マイクロポーラス用ペーストは、カーボンクロスやカーボンペーパー等の導電性多孔質材料からなる基材に塗布を施しマイクロポーラス層としたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明にかかるマイクロポーラス層形成用ペースト組成物は、導電性粉末と、撥水性樹脂と、分散剤と、増粘剤と含有するペースト組成物であって、前記増粘剤として、平均分子量が160万未満の低分子量のポリエチレンオキサイドと平均分子量が160万以上の高分子量のポリエチレンオキサイドとを併用した。
【0017】
本発明者らは、導電性多孔質材料からなる基材裏面へのペースト成分の裏抜け抑制とペーストの基材への良好な平滑性とを両立させるために、鋭意実験研究を重ねた結果、増粘剤として、平均分子量が160万未満の低分子量のポリエチレンオキサイドと、平均分子量が160万以上の高分子量のポリエチレンオキサイドとを併用することによって、乾燥工程の負荷を必要以上に増大させることなく、ペースト成分の基材裏面への裏抜けを抑制でき、しかも、凹凸のない平滑なガス拡散層のマイクロポーラス層(塗布膜)を形成できて塗工性も良好であることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成したものである。
即ち、発明者らの実験によれば、増粘剤として、平均分子量が160万未満の低分子量のポリエチレンオキサイドと平均分子量が160万以上の高分子量のポリエチレンオキサイドとを併用することで、平均分子量が160万未満の低分子量側のポリエチレンオキサイドによって塗工に適した粘度特性を確保でき、高分子量側のポリエチレンオキサイドによって裏抜けを抑制する粘度特性を確保でき、ペースト成分の基材裏面への裏抜け抑制と良好な平滑性の双方を効果的に確保することができる。そして、増粘剤として、分子量が大きくなっても300℃未満で熱分解する水溶性樹脂のポリエチレンオキサイドを使用することで、マイクロポーラス層形成時に要求される特性を確保するために、乾燥工程の負荷を必要以上に増大させることもない。
よって、請求項1の発明によれば、乾燥工程の負荷を必要以上に増大させることなく、燃料電池の出力安定のために拡散層に要求されるペースト成分の基材裏面への裏抜け抑制及びマイクロポーラス層の平滑性を確保できる。そして、ペースト成分の裏抜けが抑制されることにより基材裏面の撥水性が低下することもなく、更に、平滑なマイクロポーラス層が得られることにより、ガスの拡散を均一にでき、また、触媒層との密着性も増すことから、燃料電池において安定した出力が得られる。
【0018】
本発明にかかるマイクロポーラス層形成用ペースト組成物によれば、前記低分子量のポリエチレンオキサイドは平均分子量が60万以上〜160万未満の範囲内であり、前記高分子量のポリエチレンオキサイドの平均分子量は160万以上〜650万の範囲内である。
ここで、ポリエチレンオキサイドの低分子側の平均分子量が60万未満である場合、塗工後のタレや基材への染み込みが生じて燃料電池における電力低下を招く恐れがある。また、高分子側の平均分子量が650万を超える場合、流動特性が悪くなって基材上に均一な膜の作製ができず、平滑なマイクロポーラス層の形成が困難となる。更に、イオン交換水等の分散媒にも溶けにくくなり取扱い性が悪くなり、実用に適さない。
したがって、低分子量側のポリエチレンオキサイドの平均分子量が60万以上〜160万未満の範囲内であることによって、塗工後のタレや基材への染み込みを防止して塗工に適した粘度特性を確保でき、高分子量側のポリエチレンオキサイドの平均分子量が160万以上〜650万の範囲内であることによって、取扱い性も良く、平滑性の低下を招くことなく裏抜けを抑制する粘度特性を確保できる。
よって、裏抜け抑制効果及び良好な平滑性を安定して確保でき、燃料電池における出力もより安定化させることができる。
【0019】
請求項2の発明のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物は、導電性材料としてのカーボン粒子と、撥水性樹脂としてのPTFEエマルジョンと、分散剤と、増粘剤として平均分子量が160万未満の低分子量のポリエチレンオキサイドと平均分子量が160万以上の高分子量のポリエチレンオキサイドとを含有し、少なくとも前記カーボン粒子と前記PTFEエマルジョンと前記分散は、遊星式撹拌・脱泡装置で所定時間混合分散することによってマイクロポーラス層用ペーストするものである。
【0020】
即ち、本発明ではマイクロポーラス層形成用ペースト組成物の増粘剤に、分子量が大きくなっても300℃未満で熱分解する水溶性樹脂のポリエチレンオキサイドとして、平均分子量が160万未満の低分子量のポリエチレンオキサイドと平均分子量が160万以上の高分子量のポリエチレンオキサイドとを併用する。
増粘剤として、平均分子量が160万未満の低分子量のポリエチレンオキサイドと平均分子量が160万以上の高分子量のポリエチレンオキサイドとを併用することで、低分子量側のポリエチレンオキサイドによって塗工に適した粘度特性を確保でき、また、高分子量側のポリエチレンオキサイドによって裏抜けを抑制する粘度特性を確保できることから、ペースト成分の基材裏面への裏抜け抑制と良好な平滑性の双方を効果的に確保することができる。
そして、増粘剤として、分子量が大きくなっても300℃未満で熱分解する水溶性樹脂のポリエチレンオキサイドを使用することで、マイクロポーラス層形成時に要求される特性を確保するために、乾燥工程の負荷を必要以上に増大させることもない。
よって、請求項2の発明によれば、乾燥工程の負荷を必要以上に増大させることなく、燃料電池の出力安定のために拡散層に要求されるペースト成分の基材裏面への裏抜け抑制及びマイクロポーラス層の平滑性を確保できる。そして、ペースト成分の裏抜けが抑制されることにより基材裏面の撥水性が低下することもなく、更に、平滑なマイクロポーラス層が得られることにより、ガスの拡散を均一にでき、また、触媒層との密着性も増すことから、燃料電池において安定した出力が得られる。
【0021】
本発明にかかるマイクロポーラス層形成用ペースト組成物によれば、前記低分子量のポリエチレンオキサイドは平均分子量が60万以上〜160万未満の範囲内であり、前記高分子量のポリエチレンオキサイドの平均分子量は160万以上〜650万の範囲内である。
ここで、ポリエチレンオキサイドの低分子側の平均分子量が60万未満である場合、塗工後のタレや基材への染み込みが生じて燃料電池における電力低下を招く恐れがある。また、高分子側の平均分子量が650万を超える場合、流動特性が悪くなって基材上に均一な膜の作製ができず、平滑なマイクロポーラス層の形成が困難となる。更に、イオン交換水等の分散媒にも溶けにくくなり取扱い性が悪くなり、実用に適さない。
したがって、低分子量側のポリエチレンオキサイドの平均分子量が60万以上〜160万未満の範囲内であることによって、塗工後のタレや基材への染み込みを防止して塗工に適した粘度特性を確保でき、高分子量側のポリエチレンオキサイドの平均分子量が160万以上〜650万の範囲内であることによって、取扱い性も良く、平滑性の低下を招くことなく裏抜けを抑制する粘度特性を確保できる。
よって、裏抜け抑制効果及び良好な平滑性を安定して確保でき、燃料電池における出力もより安定化させることができる。
【0022】
請求項3の発明のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物の製造方法によれば、導電性材料としてのカーボン粒子と、撥水性樹脂としてのPTFEエマルジョンと、分散剤と、分散媒と、増粘剤として平均分子量が160万未満の低分子量のポリエチレンオキサイドとの混合材料を、遊星式撹拌・脱泡装置で所定時間混合分散し、その後、更に増粘剤として平均分子量が160万以上の高分子量のポリエチレンオキサイドを配合し、攪拌機で混合してマイクロポーラス層用ペーストとするものである。
【0023】
即ち、本発明ではマイクロポーラス層形成用ペースト組成物の増粘剤に、分子量が大きくなっても300℃未満で熱分解する水溶性樹脂のポリエチレンオキサイドとして、平均分子量が160万未満の低分子量のポリエチレンオキサイドと平均分子量が160万以上の高分子量のポリエチレンオキサイドとを併用する。
増粘剤として、平均分子量が160万未満の低分子量のポリエチレンオキサイドと平均分子量が160万以上の高分子量のポリエチレンオキサイドとを併用することで、低分子量側のポリエチレンオキサイドによって、塗工に適した粘度特性を確保でき、また、高分子量側のポリエチレンオキサイドで裏抜けを抑制する粘度特性を確保できることから、ペースト成分の基材裏面への裏抜け抑制と良好な平滑性の双方を効果的に確保することができる。
また、増粘剤として平均分子量が160万以上の高分子量のポリエチレンオキサイドは、その他の材料を撹拌後に配合して攪拌機で混合するため、高分子量のポリエチレンオキサイドが過分散により低分子化することを防止できる。高分子量のポリエチレンオキサイドは、その他の材料と同時に添加して分散する場合、高分子量のポリエチレンオキサイドが低分子化することがある。この場合、所望の特性が得られない恐れがある。
したがって、高分子量のポリエチレンオキサイドは、その他の材料を撹拌後に配合することが好ましい。
そして、増粘剤として、分子量が大きくなっても300℃未満で熱分解する水溶性樹脂のポリエチレンオキサイドを使用することで、マイクロポーラス層形成時に要求される特性を確保するために、乾燥工程の負荷を必要以上に増大させることもない。
よって、請求項3の発明によれば、乾燥工程の負荷を必要以上に増大させることなく、燃料電池の出力安定のために拡散層に要求されるペースト成分の基材裏面への裏抜け抑制及びマイクロポーラス層の平滑性を確保できるマイクロポーラス層用ペーストが得られる。そして、かかるマイクロポーラス層用ペーストによれば、ペースト成分の裏抜けが抑制されることにより基材裏面の撥水性も低下することもなく、更に、平滑なマイクロポーラス層が得られることで、ガスの拡散を均一にでき、また、触媒層との密着性も増すことから、燃料電池において安定した出力が得られる。
【0024】
本発明にかかるマイクロポーラス層形成用ペースト組成物の製造方法は、前記低分子量のポリエチレンオキサイドの平均分子量が60万以上〜160万未満の範囲内であり、前記高分子量のポリエチレンオキサイドの平均分子量が160万以上〜650万の範囲内であるものである。
ここで、ポリエチレンオキサイドの低分子側の平均分子量が60万未満である場合、塗工後のタレや基材への染み込みが生じて燃料電池における電力低下を招く恐れがある。また、高分子側の平均分子量が650万を超える場合、流動特性が悪くなって基材上に均一な膜の作製ができず、平滑なマイクロポーラス層の形成が困難となる。更に、イオン交換水等の分散媒にも溶けにくくなり取扱い性が悪くなり、実用に適さない。
したがって、低分子量側のポリエチレンオキサイドの平均分子量が60万以上〜160万未満の範囲内であることによって、塗工後のタレや基材への染み込みを防止して塗工に適した粘度特性を確保でき、高分子量側のポリエチレンオキサイドの平均分子量が160万以上〜650万の範囲内であることによって、取扱い性も良く、平滑性の低下を招くことなく裏抜けを抑制する粘度特性を確保できる。
よって、裏抜け抑制効果及び良好な平滑性を安定して確保でき、また、燃料電池における出力もより安定化させることができるマイクロポーラス層形成用ペーストが得られる。
【0025】
請求項4の発明のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物の製造方法は、カーボンクロスやカーボンペーパー等の導電性多孔質材料からなる基材に前記マイクロポーラス用ペーストを塗布したものであるから請求項3に記載の効果に加えて、簡単に製造できるし、基材の形状により任意の形状に仕上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は本発明の実施の形態のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物を使用した燃料電池用ガス拡散層を有する固体高分子型燃料電池の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
まず、本実施の形態にかかるマイクロポーラス層形成用ペースト組成物について説明する。
本実施の形態のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物は、導電性材料と、撥水性樹脂と、分散剤と、増粘剤とを含有するペースト組成物であって、増粘剤として、平均分子量が160万未満の低分子量のポリエチレンオキサイドと、平均分子量が160万以上の高分子量のポリエチレンオキサイドとを併用したものである。
【0028】
導電性材料としては、例えば、カーボンブラック粉末、グラファイト粉末、気相成長炭素粉末等の粉末状の導電性材料や、炭素繊維等の繊維状の導電性材料を用いることができる。中でも、基材として用いられるカーボン基材との相性の点からカーボンブラックが好ましく、このカーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック等のカーボン粒子が挙げられるが、特に、アセチレンブラックが純度が高くて使いやすく、燃料電池の電極に使用される塗膜層を形成するのに好適である。
【0029】
撥水性樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂のエマルジョンを使用できるが、特にPTFEのエマルジョンを用いるのが好ましい。
また、分散剤としては、トリトンX−100、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等が使用される。
【0030】
増粘剤は、拡散層を形成するマイクロポーラス層に残存するとマイクロポーラス層の特性に悪影響を及ぼすため乾燥と焼成を行う乾燥工程にて熱分解されるが、増粘剤の熱分解温度によっては乾燥工程の温度を、増粘剤を使用しないときに比べて高くする必要が生じ負荷が増す。そのため本発明では増粘剤に300℃未満で熱分解する水溶性樹脂のポリエチレンオキサイドを使用することで増粘剤の熱分解に伴う乾燥工程での負荷を、増粘剤を使用しない場合に比べて必要以上に増大せずに負荷の抑制を可能としている。
そして、本発明においては、増粘剤として、平均分子量が160万未満の低分子量のポリエチレンオキサイドと、平均分子量が160万以上の高分子量のポリエチレンオキサイドとを併用する。このようなポリエチレンオキサイドは、例えば、住友精化(株)(商品名:ペオ(PEO))、明成化学工業(株)(商品名:アルコックス)等から発売されている市販のものを使用することができる。
【0031】
ここで、増粘剤としての低分子量ポリエチレンオキサイドの平均分子量は、60万以上〜160万未満の範囲内であり、高分子量ポリエチレンオキサイドの平均分子量は160万以上〜650万の範囲内であることが好ましい。
低分子量側のポリエチレンオキサイドの平均分子量が60万未満である場合、塗工後のタレや基材への染み込みが生じ燃料電池における電力低下を招く恐れがあり、また、高分子量側のポリエチレンオキサイドの平均分子量が650万を超える場合、イオン交換水に溶けにくくて取扱い性が悪く、また、平滑性が低下することから実用化に適さないためである。
【0032】
また、増粘剤の配合量は、導電性材料及び前撥水性樹脂の固形分合計量100重量部に対して、低分子量のポリエチレンオキサイド及び高分子量のポリエチレンオキサイドの合計固形分配合量が0.5重量部〜2.5重量部の範囲内であることが好ましい。
増粘剤としての低分子量のポリエチレンオキサイド配合量及び高分子量のポリエチレンオキサイドの合計固形分配合量が0.5重量部未満である場合、増粘剤が少なくて裏抜け抑制及び良好な平滑性を確保する粘度特性が得られず、一方、2.5重量部を超えると、粘度上昇が大きくなり平滑性が低下する傾向にあるからである。
更には、前記導電性材料及び前記撥水性樹脂の固形分合計量100重量部に対して、低分子量のポリエチレンオキサイドの固形分配合量が0.2重量部〜1.1重量部の範囲内であり、高分子量のポリエチレンオキサイドの固形分配合量が0.2重量部〜1.1重量部の範囲内であることが好ましい。
分子量のポリエチレンオキサイドの固形分配合量が0.2重量部未満である場合、低分子量のポリエチレンオキサイドの配合量が少なく平滑性が低下する恐れがあり、一方で、1.1重量部を超えた場合、流動特性が高くなり、流動特性が悪くなって基材上に均一な膜の作製ができず、平滑なマイクロポーラス層の形成が困難となるからである。
【0033】
このように、本実施の形態のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物は、カーボン粒子等の導電性材料、PTFEエマルジョン等の撥水性樹脂、分散剤、増粘剤としての平均分子量が160万未満の低分子量のポリエチレンオキサイド及び平均分子量が160万以上の高分子量のポリエチレンオキサイドを所定の割合で配合するわけであるが、このマイクロポーラス層形成用ペースト組成物を燃料電池用ガス拡散層14(図1参照)に適用する際は、カーボン粒子等の導電性材料、PTFEエマルジョン等の撥水性樹脂、分散剤と、分散媒としてのイオン交換水等の水、及び増粘剤として平均分子量が160万未満の低分子量のポリエチレンオキサイドを混合した材料を、公転・自転を特定の値に設定した遊星式撹拌・脱泡装置にて混合分散し、次に、この混合分散した材料に、更に増粘剤として平均分子量が160万以上の高分子量のポリエチレンオキサイドを配合し、それを攪拌機で混合することでマイクロポーラス層用ペーストする。そして、このマイクロポーラス層用ペーストを導電性多孔質材料に撥水処理を施した基材16(図1参照)に塗工することで、マイクロポーラス層を形成してなる拡散層14(図1参照)とされる。
【0034】
続いて、本実施の形態にかかるマイクロポーラス層形成用ペースト組成物を用いた燃料電池用ガス拡散層が適用される固体高分子型燃料電池(単セル)の構造について、図1の概略構成図を参照しながら、説明する。
【0035】
図示のように、本実施の形態にかかるマイクロポーラス層形成用ペースト組成物を用いた燃料電池1は、単セルの芯となる電解質膜11の一方の表面に酸素ガス等の酸化ガスが反応するカソード電極12Aを、他方の表面に水素ガス等の燃料ガスが反応するアノード電極12Bを配設してなる膜−電極接合体10と、膜−電極接合体10のカソード電極12Aの表面に配置されるカソード側セパレータ20Aと、膜−電極接合体10のアノード電極12Bの表面に配置されるアノード側セパレータ20Bとで構成されている。膜−電極接合体10は膜−電極アッセンブリ(Membrane Electrode Assembly)とも呼ばれ、燃料ガス及び酸化ガスが反応して、カソード側セパレータ20Aとアノード側セパレータ20Bとの間で電力が取り出される。
【0036】
イオン交換基となる高分子膜からなる電解質膜11は、特定のイオンと強固に結合し、陽イオンまたは陰イオンを選択的に透過する性質を有する。電解質膜11の両表面に形成される電極12(カソード電極12A及びアノード電極12B)は、触媒層13(カソード側触媒層13A及びアノード側触媒層13B)と、拡散層14(カソード側拡散層14A及びアノード側拡散層14B)とで構成される。
【0037】
燃料ガスまたは酸化ガスが反応する触媒層13(カソード側触媒層13Aまたはアノード側触媒層13B)は、白金、金、パラジウム等の貴金属触媒を、カーボンで担持した触媒担持カーボンと、この触媒担持カーボンを電解質膜11に接着する樹脂とで構成されている。ガス透過性及び水透過性を有する拡散層14(カソード側拡散層14Aまたはアノード側拡散層14B)は、触媒層13(カソード側触媒層13Aまたはアノード側触媒層13B)の表面に形成される。
【0038】
拡散層14(カソード側拡散層14Aまたはアノード側拡散層14B)は、基材16(カソード側基材16Aまたはアノード側基材16B)とマイクロポーラス層(微多孔質層)としての表面層15(カソード側表面層15Aまたはアノード側表面層15B)とを有し、表面層15(カソード側表面層15Aまたはアノード側表面層15B)は触媒層13(カソード側触媒層13Aまたはアノード側触媒層13B)の表面に形成され、基材16(カソード側基材16Aまたはアノード側基材16B)は表面層15(カソード側表面層15Aまたはアノード側表面層15B)の表面に配設される。
【0039】
この構成によって、外部より酸化ガスがカソード側セパレータ20Aの酸化ガス流路21Aに供給されると、酸化ガス流路21Aに沿って流れる酸化ガスのうち、一部がカソード側の拡散層14Aの基材16A側表面より内部へ浸入する。その他の未反応の酸化ガスは、酸化ガス流路21Aに沿って流れ、燃料電池1の外部へ排出される。同様に、外部より燃料ガスがアノード側セパレータ20Bの燃料ガス流路21Bに供給されると、燃料ガス流路21Bに沿って流れる燃料ガスのうち、一部がアノード側の拡散層14Bの基材16B側表面より内部へ浸入する。その他の未反応の燃料ガスは、そのまま燃料ガス流路21Bに沿って流れ、燃料電池1の外部へ排出される。
【0040】
本実施の形態では、カーボンペーパー、カーボンクロス等の導電性多孔質材料に撥水処理を施した基材16(カソード側基材16Aまたはアノード側基材16B)に対して、本実施の形態にかかるマイクロポーラス層用ペースト組成物からなるマイクロポーラス層用ペーストを塗工することによって、マイクロポーラス層としての表面層15(カソード側表面層15Aまたはアノード側表面層15B)が形成され、ガス透過性及び水透過性を有する拡散層14(カソード側拡散層14Aまたはアノード側拡散層14B)となる。
このとき、表面層15(カソード側表面層15Aまたはアノード側表面層15B)は、本実施の形態にかかるマイクロポーラス層用ペースト組成物の導電性材料、例えば、カーボンブラック等のカーボン粒子等によって導電性が付与され、また、撥水性樹脂、例えば、PTFEエマルジョン等によって撥水性が付与される。
また、基材16(カソード側基材16Aまたはアノード側基材16B)は、カーボンペーパー、カーボンクロス等の導電性多孔質材料に撥水処理を施したものからなる。
【0041】
そして、本実施の形態では、カーボンペーパー、カーボンクロス等の導電性多孔質材料に撥水処理を施した基材16(カソード側基材16Aまたはアノード側基材16B)に塗布するマイクロポーラス層用ペースト組成物において、増粘剤として平均分子量が160万未満の低分子量のポリエチレンオキサイド及び平均分子量が160万以上の高分子量のポリエチレンオキサイドが併用されていることによって、導電性多孔質材料に撥水処理を施した基材16に塗布を行なっても、撥水処理により基材16の裏面aに移動した水に追従してペースト成分が基材16の裏面aへと抜ける事態は防止される。
また、増粘剤として平均分子量が160万未満の低分子量のポリエチレンオキサイド及び平均分子量が160万以上の高分子量のポリエチレンオキサイドを併用していることで、基材16に塗布する際の流動特性も良く、塗布量を均一にでき、凹凸のない平滑なマイクロポーラス層(塗布膜)を形成することができる。即ち、平滑性も良好であり、塗工時の生産効率もよい。
【0042】
このように増粘剤としての平均分子量が160万未満の低分子量ポリエチレンオキサイド及び平均分子量が650万以下の高分子量ポリエチレンオキサイドを併用することで、ペースト塗工時におけるペースト成分の裏抜け抑制とマイクロポーラス層の平滑性、即ち、良好な平滑性との両立が可能となるのは、低分子量側のポリエチレンオキサイドによって塗工に適した粘度特性を確保できると共に、高分子量側のポリエチレンオキサイドでペースト成分の裏抜けを抑制する粘度特性を確保できるためであると考えられる。
【0043】
したがって、本実施の形態のマイクロポーラス層用ペースト組成物からなるマイクロポーラス層用ペーストを塗工してガス拡散層14を形成した燃料電池においては、ペースト成分が基材16の裏面aへと抜ける裏抜けが抑制されるため、基材16の裏面aの撥水性の低下が防止される。更に、表面層15(カソード側表面層15Aまたはアノード側表面層15B)において平滑なマイクロポーラス層が得られることにより、ガスの拡散を均一にでき、また、触媒層13(カソード側触媒層13Aまたはアノード側触媒層13B)との密着性も増す。故に、安定した出力が得られる。加えて、平滑なマイクロポーラス層が得られることから、燃料電池製造時の作業性(ハンドリング)も向上する。
【0044】
ここで、本実施の形態のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物の増粘剤として使用したポリエチレンオキサイドは、水溶性樹脂であり、分解温度が低く、分子量による分解温度の差も小さいため、分子量が大きくなっても焼成温度が300℃未満で熱分解する。よって、増粘剤として、平均分子量が160万未満の低分子量のポリエチレンオキサイド及び平均分子量が160万以上の高分子量のポリエチレンオキサイドを併用しても、ポリエチレンオキサイドの分解消失のための焼成の負荷は必要以上に増大しないため乾燥工程の負荷の増大は抑制される。因みに、発明者らの実験によれば、分子量と耐熱性の関係は、同じ分子構造の場合、ある一定の分子量までは分子量が大きくなると耐熱性も良くなるが、それ以上分子量が大きくなっても耐熱性は変わらないことが確認された。
【0045】
故に、マイクロポーラス層形成用ペースト組成物の増粘剤として、平均分子量が160万未満の低分子量ポリエチレンオキサイド及び平均分子量が160万以上の高分子量ポリエチレンオキサイドを併用することで、乾燥工程の負荷を必要以上に増大させることなく、燃料電池の発電効率に影響を与える拡散層14の重要特性であるペースト成分の裏抜けを抑制することができ、かつ、良好な平滑性も得られる。
【0046】
なお、増粘剤としての低分子量側のポリエチレンオキサイド及び高分子量側のポリエチレンオキサイドにおいて、それぞれ分子量や添加量を調整することにより、塗工特性に合わせた粘度特性に設定でき、塗工条件に合わせた粘度特性による施工が可能となる。
また、本実施の形態のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物からなるマイクロポーラス層形成用ペーストは、流動特性が良く塗工時の生産効率もよいことから、連続高速生産に対応することも可能である。
【0047】
次に、本発明の実施の形態にかかるマイクロポーラス層用ペースト組成物の各成分の配合内容及び配合量を表1及び表2にて具体的に示して、各実施例について説明する。
【0048】
[実施例]
実施例1にかかるマイクロポーラス層用ペースト組成物は、導電性材料としてのカーボン粒子のアセチレンブラック(電気化学工業(株)製:商品名「デンカブラック」を75.0g、撥水性樹脂としてのPTFEエマルジョン(ダイキン工業(株)製:POLYFLON PTFE D−210C[固形分(樹脂分)61%])を41.7g(固形分量25.4g、水分量16.3g)、分散剤としてのトリトンXー100を7.5g、分散媒としてのイオン交換水を295.8g、増粘剤として平均分子量が110万〜150万の低分子量ポリエチレンオキサイド (住友精化製 PEO−4)の1.25%水溶液を40.0g(固形分量0.5g、水分量39.5g)配合した材料を、公転600rpm、自転600rpmに設定した遊星式撹拌・脱泡装置(倉敷紡績(株)製:商品名「マゼルスター KK−1000W」)で3分間混合分散し、カーボン粒子の凝集物が無いように均一に分散した。
次に、この混合材料に増粘剤として平均分子量が360万〜400万の高分子量ポリエチレンオキサイド (明成化学製 E−160)の1.25%水溶液を40.0g(固形分量0.5g、水分量39.5g)を配合して、攪拌機としてのスリーワンモーター(HEIDON社製:HEIDON600G、)に径10cmの4枚プロペラを取り付けて回転数300rpmで回転させて混合、脱泡することで実施例1のマイクロポーラス層用ペーストとした。
なお、高分子量ポリエチレンオキサイド添加後の攪拌は、過分散の場合には高分子量ポリエチレンオキサイドが低分子化することが懸念されるため注意する必要がある。
【0049】
実施例2は、増粘剤として平均分子量が110万〜150万の低分子量ポリエチレンオキサイド (住友精化製 PEO−4)の0.75%水溶液を40.0g(固形分量0.3g、水分量39.7g)及び平均分子量が360万〜400万の高分子量ポリエチレンオキサイド (明成化学製 E−160)の0.75%水溶液を40.0g(固形分量0.3g、水分量132.3g)配合した。即ち、実施例1よりも増粘剤としての低分子量ポリエチレンオキサイド及び高分子量ポリエチレンオキサイドの固形分配合量を減らした。かかる配合量が異なる以外は、実施例1と同様の条件で作製し実施例2のマイクロポーラス層用ペーストとした。
【0050】
実施例3は、増粘剤として平均分子量が110万〜150万の低分子量ポリエチレンオキサイド (住友精化製 PEO−4)の2.5%水溶液を40.0g(固形分量1.0g、水分量39.0g)及び平均分子量が360万〜400万の高分子量ポリエチレンオキサイド (明成化学製 E−160)の2.5%水溶液を40.0g(固形分量1.0g、水分量39.0g)配合した。即ち、実施例1よりも増粘剤としての低分子量ポリエチレンオキサイド及び高分子量ポリエチレンオキサイドの固形分配合量を増やした。かかる配合量が異なる以外は、実施例1と同様の条件で作製し実施例3のマイクロポーラス層用ペーストとした。
【0051】
実施例4は、増粘剤の低分子量ポリエチレンオキサイドとして平均分子量が60万〜110万のポリエチレンオキサイド (住友精化製 PEO−3)を用い、増粘剤としての低分子量ポリエチレンオキサイドの平均分子量が異なる以外は実施例1と同様の条件で作製し、実施例4のマイクロポーラス層用ペーストとした。
【0052】
実施例5は、増粘剤の高分子量ポリエチレンオキサイドとして平均分子量が170万〜220万のポリエチレンオキサイド (住友精化製 PEO−8)を用い、増粘剤としての高分子量ポリエチレンオキサイドの平均分子量が異なる以外は実施例1と同様の条件で作製し実施例5のマイクロポーラス層用ペーストとした。
【0053】
実施例6は、増粘剤の高分子量ポリエチレンオキサイドとして平均分子量が550万〜650万のポリエチレンオキサイド (明成化学製 E−300)を用い、増粘剤としての高分子量ポリエチレンオキサイドの平均分子量が異なる以外は実施例1と同様の条件で作製し実施例6のマイクロポーラス層用ペーストとした。
【0054】
続いて、比較のために作製した比較例1乃至比較例9のマイクロポーラス層用ペーストについて説明する。
[比較例]
比較例1は、増粘剤として平均分子量が110万〜150万の低分子量ポリエチレンオキサイドのみを使用してマイクロポーラス層用ペーストを作製した。
即ち、導電性材料としてのカーボン粒子のアセチレンブラック(電気化学工業(株)製:商品名「デンカブラック」を75.0g、撥水性樹脂としてのPTFEエマルジョン(ダイキン工業(株)製:POLYFLON PTFE D−210C[固形分(樹脂分)61%])を41.7g(固形分量25.4g、水分量16.3g)、分散剤としてのトリトンXー100を7.5g、分散媒としてのイオン交換水を295.8g、増粘剤として平均分子量が110万〜150万の低分子量ポリエチレンオキサイド (住友精化製 PEO−4)の1.25%水溶液を80.0g(固形分量1.0g、水分量79.0g)配合した材料を、公転600rpm、自転600rpmに設定した遊星式撹拌・脱泡装置(倉敷紡績(株)製:商品名「マゼルスター KK−1000W」)にて3分間混合分散・脱泡することで比較例1のマイクロポーラス層用ペーストとした。
【0055】
比較例2においても、増粘剤として平均分子量が110万〜150万の低分子量ポリエチレンオキサイドのみを使用したが、平均分子量が110万〜150万の低分子量ポリエチレンオキサイド(住友精化製 PEO−4)の2.5%水溶液を80.0g(固形分量2.0g、水分量78.0g)配合し、比較例1よりも増粘剤としての平均分子量が110万〜150万の低分子量ポリエチレンオキサイドの固形分配合量を増やした。かかる配合量が異なる以外は、比較例1と同様の条件で作製し比較例2のマイクロポーラス層用ペーストとした。
【0056】
比較例3は、増粘剤のポリエチレンオキサイドを使用せずにマイクロポーラス層用ペーストを作製した。
即ち、導電性材料としてのカーボン粒子のアセチレンブラック(電気化学工業(株)製:商品名「デンカブラック」を75.0g、撥水性樹脂としてのPTFEエマルジョン(ダイキン工業(株)製:POLYFLON PTFE D−210C[固形分(樹脂分)61%])を41.7g(固形分量25.4g、水分量16.3g)、分散剤としてのトリトンXー100を7.5g、分散媒としてのイオン交換水を375.8g配合した材料を、公転600rpm、自転600rpmに設定した遊星式撹拌・脱泡装置(倉敷紡績(株)製:商品名「マゼルスター KK−1000W」)にて3分間混合分散・脱泡することで比較例3のマイクロポーラス層用ペーストとした。
【0057】
比較例4は、増粘剤として平均分子量が360万〜400万の高分子量ポリエチレンオキサイドのみを使用しマイクロポーラス層用ペーストを作製した。
即ち、導電性材料としてのカーボン粒子のアセチレンブラック(電気化学工業(株)製:商品名「デンカブラック」を75.0g、撥水性樹脂としてのPTFEエマルジョン(ダイキン工業(株)製:POLYFLON PTFE D−210C[固形分(樹脂分)61%])を41.7g(固形分量25.4g、水分量16.3g)、分散剤としてのトリトンXー100を7.5g、分散媒としてのイオン交換水を295.8g配合した材料を、公転8、自転9に設定した遊星式撹拌・脱泡装置(倉敷紡績(株)製:商品名「マゼルスター KK−1000W」)で3分間混合分散・脱泡、次に、この混合材料に増粘剤として平均分子量が360万〜400万の高分子量ポリエチレンオキサイド (明成化学製 E−160)の1.25%水溶液を80.0g(固形分量1.0g、水分量79.0g)配合して、攪拌機としてのスリーワンモーター(HEIDON社製:HEIDON600G、)に径10cmで4枚プロペラを取り付けて回転数300rpmで回転させて混合・脱泡することで比較例4のマイクロポーラス層用ペーストとした。
【0058】
比較例5は、増粘剤として平均分子量が110万〜150万の低分子量ポリエチレンオキサイド (住友精化製 PEO−4)の1.25%水溶液を40.0g(固形分量0.5g、水分量39.5g)及び平均分子量が360万〜400万の高分子量ポリエチレンオキサイド (明成化学製 E−160)の0.25%水溶液を40.0g(固形分量0.1g、水分量39.9g)配合した。即ち、実施例1よりも高分子量ポリエチレンオキサイドの固形分配合量を少量とし、かかる配合量が異なる以外は、実施例1と同様の条件で作製して比較例5のマイクロポーラス層用ペーストとした。
【0059】
比較例6は、増粘剤として平均分子量が110万〜150万の低分子量ポリエチレンオキサイド (住友精化製 PEO−4)の1.25%水溶液を40.0g(固形分量0.5g、水分量39.5g)及び平均分子量が360万〜400万の高分子量ポリエチレンオキサイド (明成化学製 E−160)の3.%水溶液を40.0g(固形分量1.2g、水分量38.8g)配合した。即ち、実施例1よりも高分子量ポリエチレンオキサイドの固形分配合量を増やし、かかる配合量が異なる以外は、実施例1と同様の条件で作製して比較例6のマイクロポーラス層用ペーストとした。
【0060】
比較例7は、増粘剤として平均分子量が110万〜150万の低分子量ポリエチレンオキサイド (住友精化製 PEO−4)の3%水溶液を40.0g(固形分量1.2g、水分量38.8g)及び平均分子量が360万〜400万の高分子量ポリエチレンオキサイド (明成化学製 E−160)の2.5%水溶液を40.0g(固形分量1.0g、水分量39.0g)配合した。即ち、実施例3よりも低分子量ポリエチレンオキサイドの固形分配合量を増やし、かかる配合量が異なる以外は、実施例3と同様の条件で作製して比較例7のマイクロポーラス層用ペーストとした。
【0061】
比較例8は、増粘剤としての平均分子量が110万〜150万の低分子量ポリエチレンオキサイド (住友精化製 PEO−4)の2.5%水溶液を40.0g(固形分量1.0g、水分量39.0g)及び平均分子量が360万〜400万の高分子量ポリエチレンオキサイド (明成化学製 E−160)の3%水溶液を40.0g(固形分量1.2g、水分量38.8g)配合した。即ち、実施例3よりも高分子量ポリエチレンオキサイドの固形分配合量を増やし、かかる配合量が異なる以外は、実施例3と同様の条件で作製し比較例8のマイクロポーラス層用ペーストとした。
【0062】
比較例9は、増粘剤として平均分子量が110万〜150万の低分子量ポリエチレンオキサイド (住友精化製 PEO−4)の1.25%水溶液を40.0g(固形分量0.5g、水分量39.5g)及び平均分子量が600万〜800万の高分子量ポリエチレンオキサイド (住友精化製 PEO−27)の01.25%水溶液を40.0g(固形分量0.5g、水分量39.5g)配合した。即ち、高分子量ポリエチレンオキサイドとして、実施例1及び実施例6のときよりも平均分子量が大きいポリエチレンオキサイドを用い、かかる高分子量ポリエチレンオキサイドの平均分子量が異なる以外は、実施例1及び実施例6と同様の条件で作製し比較例9のマイクロポーラス層用ペーストとした。
【0063】
そして、各実施例及び各比較例のマイクロポーラス層用ペースト組成物からなるマイクロポーラス層形成用ペーストについて、平滑性及び裏抜けの評価試験を行った。
具体的には、目付け1mg/cm2になるようにPTFEマルジョン(ダイキン工業(株)製:POLYFLON PTFE D−210C[固形分(樹脂分)61%])を含浸後、乾燥させることにより撥水処理を施した基材16としての各種カーボンペーパー(CP1、CP2、CP3)上に各種ペーストを薄膜塗布工具(ダイヘッド)を用いてカーボンペーパーの移動速度1.0m/min、目付け5.0mg/cm2で塗布した。塗布後、300℃、30分間乾燥・焼成し、表面層15にマイクロポーラス層を形成した拡散層14(カソード側拡散層14Aまたはアノード側拡散層14B)を作製した。表3は、各種ペーストを塗布する基材16としてのカーボンペーパー(CP1、CP2、CP3)の厚さ及び気孔率を示したものであり、ここでは、基材16として厚さ及び気孔率が異なる3種類のカーボンペーパー(CP1、CP2、CP3)を使用し各種拡散層14を作製した。なお、このカーボンペーパーの気孔率とは、カーボンペーパーの断面をSEM観察した際の空隙の割合である。
【0064】
平滑性については、拡散層14の表面層15として形成されたマイクロポーラス層の表面状態の外観の均一性、即ち、凹凸の有無を観察して評価した。表面層15の縦3cm横3.6cmの範囲内の中央部と4隅の計5点の膜厚をデジタル式のダイアルゲージにて圧力0.1MPaにて測定し、測定した5点各々の膜厚が、平均膜厚に対して±20%未満の場合に凹凸なしと判断し、差が±20%以上の場合に凹凸ありと判断した。
また、裏抜けについては、作製された拡散層14にて、カーボンペーパー(基材16)のペースト塗布面の裏側aを観察した。ペースト塗布面の裏側aにおいて、ペースト成分であるアセチレンブラックのカーボン粒子の存在の有無を目視で確認し、カーボン粒子が存在しなかった場合を○、カーボン粒子が存在した場合を×と判断した。即ち、気孔率80%以下のカーボンペーパーにペーストを塗布した際に、カーボンペーパーへの塗布面の裏側aにおいて、カーボン粒子が存在しなかった場合を○として裏抜けが抑制されていると判断した。
【0065】
これら実施例及び比較例の配合組成、及びそれらの平滑性及び裏抜けの評価試験結果についてまとめて表1及び表2に示す。また、表3に、ペーストが塗布される基材16として使用したカーボンペーパー(CP1、CP2、CP3)の厚さ及び気孔率を示す。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
実施例1乃至実施例6では、作製されたマイクロポーラス層形成用ペーストは流動特性が良く、基材16としてのカーボンペーパー上に滑らかに均一に塗布でき、かかるマイクロポーラス層形成用ペーストを塗工、乾燥、焼成することによって得られた拡散層14のマイクロポーラス層は凹凸のない平滑なものであった。よって、平滑性が良好であることが確認された。
また、基材16として使用した全てのカーボンペーパー(CP1、CP2、CP3)、即ち、気孔率が80%以下のカーボンペーパーのペースト塗布面の裏側aにおいて、ペースト成分であるカーボン粒子の存在が確認されず、ペースト成分の基材16への裏抜けが抑制されていた。
こうして、実施例1乃至実施例6では、ペースト成分の裏抜けが抑制され、かつ、平滑性も良好であることが確認された。
【0070】
これに対し、比較例1及び比較例2は、増粘剤として平均分子量が110万〜150万の低分子量ポリエチレンオキサイドのみを使用した組成である。この比較例1及び比較例2では、得られた拡散層14のマイクロポーラス層は凹凸がなく平滑であり、良好な平滑性が確認された。しかし、全てのカーボンペーパーのペースト塗布面の裏側aにおいて、ペースト成分であるカーボン粒子の存在が確認され、ペースト成分の基材16への裏抜けが生じていた。
【0071】
また、比較例3は、増粘剤としてのポリエチレンオキサイドを使用していない組成である。この比較例3では、マイクロポーラス層用ペーストの流動特性が悪く、基材16としてのカーボンペーパー上に均一な塗布膜の作製ができなかったことから、得られた拡散層14のマイクロポーラス層には凹凸があり、平滑性が悪かった。そのうえ、全てのカーボンペーパーのペースト塗布面の裏側aにおいて、ペースト成分であるカーボン粒子の存在が確認され、ペースト成分の基材16への裏抜けも生じていた。
【0072】
更に、比較例4は、増粘剤として平均分子量が360万〜400万の高分子量ポリエチレンオキサイドのみを使用した組成である。この比較例4では、ペースト成分の裏抜け抑制効果が確認された。しかし、マイクロポーラス層用ペーストの流動特性が悪く、基材16としてのカーボンペーパー上に均一な膜の作製ができなかったことから、得られた拡散層14のマイクロポーラス層には凹凸があり、平滑性が悪かった。
【0073】
比較例5は、増粘剤としての平均分子量が110万〜150万の低分子量ポリエチレンオキサイド及び平均分子量が360万〜400万の高分子量ポリエチレンオキサイドを配合するものの、アセチレンブラック及びPTFEエマルジョンの固形分合計量固形分100重量部に対して、低分子量ポリエチレンオキサイドの固形分配合量を0.5重量部、高分子量ポリエチレンオキサイドの固形分配合量を0.1重量部とした組成である。この比較例5では、得られた拡散層14のマイクロポーラス層は凹凸がなく平滑であり、良好な平滑性が確認された。しかしながら、高分子量ポリエチレンオキサイドの固形分配合量が少ないことから、CP3カーボンペーパー(厚さ0.28mm、気孔率78%)へのペースト塗布においては、ペースト成分の基材16への裏抜けが抑制されていたものの、CP1カーボンペーパー(厚さ0.11mm、気孔率80%)及びCP2カーボンペーパー(厚さ0.19mm、気孔率78%)へのペースト塗布においては、ペースト塗布面の裏側aにおいて、ペースト成分であるカーボン粒子の存在が確認され、ペースト成分の基材16への裏抜けが生じていた。
【0074】
また、比較例6は、増粘剤としての平均分子量が110万〜150万の低分子量ポリエチレンオキサイド及び平均分子量が360万〜400万の高分子量ポリエチレンオキサイドを配合するものの、アセチレンブラック及びPTFEエマルジョンの固形分合計量100重量部に対して、低分子量ポリエチレンオキサイドの固形分配合量を0.5重量部、高分子量ポリエチレンオキサイドの固形分配合量を1.2重量部とした組成である。この比較例6では、ペースト成分の裏抜け抑制効果が確認された。しかしながら、高分子量ポリエチレンオキサイドの固形分配合量が多いことから、マイクロポーラス層用ペーストの流動特性が低下し基材16としてのカーボンペーパー上に均一な膜の作製が困難となって拡散層14のマイクロポーラス層において凹凸が生じやすく、平滑性が悪かった。
【0075】
更に、比較例7は、増粘剤として平均分子量が110万〜150万の低分子量ポリエチレンオキサイド及び平均分子量が360万〜400万の高分子量ポリエチレンオキサイドを配合するものの、アセチレンブラック及びPTFEエマルジョンの固形分合計量100重量部に対して、低分子量ポリエチレンオキサイドの固形分配合量を1.2重量部、高分子量ポリエチレンオキサイドの固形分配合量を1.0重量部とした組成である。この比較例7では、ペースト成分の裏抜け抑制効果が確認された。しかしながら、低分子量ポリエチレンオキサイドの固形分配合量が多いことから、マイクロポーラス層用ペーストの流動特性が高く基材16としてのカーボンペーパー上に均一な膜の作製が困難となって拡散層14のマイクロポーラス層において凹凸が生じやすく、平滑性が悪かった。
【0076】
比較例8は、増粘剤として平均分子量が110万〜150万の低分子量ポリエチレンオキサイド及び平均分子量が360万〜400万の高分子量ポリエチレンオキサイドを配合するものの、アセチレンブラック及びPTFEエマルジョンの固形分合計量100重量部に対して、低分子量ポリエチレンオキサイドの固形分配合量を1.0重量部、高分子量ポリエチレンオキサイドの固形分配合量を1.2重量部とした組成である。この比較例8では、ペースト成分の裏抜け抑制効果が確認された。しかしながら、高分子量ポリエチレンオキサイドの固形分配合量が多いことから、マイクロポーラス層用ペーストの流動特性が低下し基材16としてのカーボンペーパー上に均一な膜の作製が困難となって拡散層14のマイクロポーラス層において凹凸が生じやすく、平滑性が悪かった。
【0077】
また、比較例9は、増粘剤としての平均分子量が110万〜150万の低分子量ポリエチレンオキサイド及び平均分子量が600万〜800万の高分子量ポリエチレンオキサイドを配合し、アセチレンブラック及びPTFEエマルジョンの固形分合計量100重量部に対して、低分子量ポリエチレンオキサイドの固形分配合量を0.5重量部、高分子量ポリエチレンオキサイドの固形分配合量を0.5重量部とした組成である。この比較例9では、ペースト成分の裏抜け抑制効果が確認された。しかしながら、配合した高分子量ポリエチレンオキサイドの平均分子量が大きいことから、マイクロポーラス層用ペーストの流動特性が低下し基材16としてのカーボンペーパー上に均一な膜の作製が困難となって拡散層14のマイクロポーラス層において凹凸が生じやすく、平滑性が悪かった。
なお、上記実施例及び比較例においては、乾燥・焼成温度が300℃で、増粘剤としての低分子量のポリエチレンオキサイド及び高分子量のポリエチレンオキサイドが熱分解されていた。したがって、乾燥・焼成工程での負荷の増大は抑制されている。
【0078】
以上の結果から、増粘剤として平均分子量が60万〜160万未満の範囲内である低分子量ポリエチレンオキサイド及び平均分子量が160万〜650万の範囲内である高分子量ポリエチレンオキサイドを併用することで、流動特性が良好で基材16上への塗布量を均一にできることから凹凸のない平滑なマイクロポーラス層(塗布膜)を形成できて平滑性が良く、かつ、ペースト成分の基材16への裏抜けを抑制できるマイクロポーラス層用ペーストとなる。
【0079】
ここで、本発明者らの実験研究によれば、低分子量側のポリエチレンオキサイドの平均分子量が60万未満である場合、塗工後のタレや基材への染み込みが生じ燃料電池における電力低下を招く恐れがある。また、高分子量側のポリエチレンオキサイドの平均分子量が650万を超えた場合、比較例9で示したように、流動特性が低下して基材16上への均一な膜の作製が困難となり、拡散層14のマイクロポーラス層に凹凸が生じやすくなる。また、イオン交換水に溶けにくくて取扱いも困難となることから、実用化に適さない。
よって、増粘剤としての低分子量ポリエチレンオキサイドの平均分子量は、60万〜160万未満の範囲内であり、高分子量ポリエチレンオキサイドの平均分子量は10万〜650万の範囲内であることが好ましい。
【0080】
また、実施例1乃至実施例6と比較例5至比較例8との比較から、アセチレンブラック及びPTFEエマルジョンの固形分合計量100重量部に対して、低分子量ポリエチレンオキサイドの固形分配合量が0.2重量部〜1.1重量部の範囲内であり、高分子量ポリエチレンオキサイドの固形分配合量が0.3重量部〜1.0重量部の範囲内であることで、平滑性に優れ、かつ、顕著な裏抜け抑制効果を発揮するマイクロポーラス層用ペーストが確実に得られる。
即ち、低分子量のポリエチレンオキサイドの固形分配合量が0.2重量部未満である場合、低分子量のポリエチレンオキサイドの配合量が少なくて平滑性が低下する恐れがあり、一方で、1.1重量部を超えた場合、比較例7で示したように、低分子量のポリエチレンオキサイドの配合量が多いことから流動特性が悪化し、基材16への均一な膜の作製が困難で拡散層14のマイクロポーラス層において凹凸が生じやすく、平滑性が低下する。
また、高分子量のポリエチレンオキサイドの固形分配合量が0.2重量部未満である場合、比較例5で示したように、高分子量のポリエチレンオキサイド配合量が少なくて裏抜けを抑制できる程度に十分な粘度特性が得られず、一方で、1.1重量部を超えた場合、比較例6及び比較例8で示したように、高分子量のポリエチレンオキサイドの配合量が多いことから粘度上昇が大きくなり、基材16への均一な膜の作製が困難で拡散層14のマイクロポーラス層において凹凸が生じやすく、平滑性が低下する。
よって、アセチレンブラック及びPTFEエマルジョンの固形分合計量100重量部に対して、低分子量ポリエチレンオキサイドの固形分配合量が0.2重量部〜1.1重量部の範囲内であり、高分子量ポリエチレンオキサイドの固形分配合量が0.3重量部〜1.0重量部の範囲内であることが好ましい。
【0081】
更に、実施例1乃至実施例6で示したように、増粘剤としての低分子量のポリエチレンオキサイド及び高分子量のポリエチレンオキサイドの合計固形分配合量は、アセチレンブラック及びPTFEエマルジョンの合計量固形分100重量部に対して、0.5重量部〜2.5重量部の範囲内であることが好ましい。
本発明者らの実験研究によれば、アセチレンブラック及びPTFEエマルジョンの固形分合計量100重量部に対して、増粘剤としての低分子量のポリエチレンオキサイド及び高分子量のポリエチレンオキサイドの合計固形分配合量が0.5重量部未満である場合、増粘剤の配合量が少なくて裏抜け抑制効果及び良好な平滑性を確保する粘度特性が得られず、一方で、2.5重量部を超えると、粘度上昇が大きくなり平滑性が低下することが確認されている。
よって、増粘剤としての低分子量のポリエチレンオキサイド及び高分子量のポリエチレンオキサイドの合計固形分配合量は、アセチレンブラック及びPTFEエマルジョンの固形分合計量100重量部に対して、0.5重量部〜2.5重量部の範囲内であることで、裏抜け抑制効果及び良好な平滑性をより確実に確保できる。
【0082】
そして、上記実施例において、増粘剤として使用した平均分子量が110万〜150万の低分子量ポリエチレンオキサイド及び平均分子量が600万〜800万の高分子量ポリエチレンオキサイドは、乾燥・焼成温度300℃で熱分解してマイクロポーラス層から揮散しマイクロポーラス層の特性に影響を与えない。
つまり、乾燥工程での負荷増大を招くことなく、ペースト成分の裏抜け抑制及び塗膜の平滑性といったマイクロポーラス層(塗布膜)に要求される特性確保を両立することができる。
【0083】
こうして、マイクロポーラス層用ペーストをカーボンペーパー等の基材16(カソード側基材16Aまたはアノード側基材16B)の表面に塗布してガス拡散層14を形成する燃料電池において、マイクロポーラス層形成用のペースト組成物がアセチレンブラック等の導電性材料、PTFEエマルジョン等の撥水性樹脂、トリトンX−100等の分散剤を含有する場合でも、マイクロポーラス層形成用ペースト組成物において増粘剤として平均分子量が60万〜150万の範囲内である低分子量ポリエチレンオキサイド及び平均分子量が10万〜650万の範囲内である高分子量ポリエチレンオキサイドを併用することで、300℃で乾燥できて乾燥工程の負荷を必要以上に増大させることなく、ペースト成分の基材16への裏抜けが抑制され、しかも、凹凸がなく平滑なガス拡散層14のマイクロポーラス層を形成できる。
【0084】
このように、上記実施の形態のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物は、カーボン粒子等の導電性粉末と、PTFEエマルジョン等の撥水性樹脂と、トリトンXー100等の分散剤と、増粘剤と含有するペースト組成物であって、増粘剤として平均分子量が150万以下の低分子量のポリエチレンオキサイドと、平均分子量が170万以上の高分子量のポリエチレンオキサイドとを併用したものであり、カーボン粒子等の導電性粉末と、PTFEエマルジョン等の撥水性樹脂と、トリトンXー100等分散剤と、イオン交換水等の分散媒と、増粘剤として平均分子量が160万未満の低分子量のポリエチレンオキサイドとの混合材料を、遊星式撹拌・脱泡装置で所定時間混合分散し、その後、更に増粘剤として平均分子量が160万以上の高分子量のポリエチレンオキサイドを配合し、攪拌機で混合することによってマイクロポーラス層用ペーストとし、それをカーボンペーパー等の導電性多孔質材料の基材16に塗布し、乾燥・焼成することでガス拡散層14のマイクロポーラス層を形成する製造方法となっている。
【0085】
上記実施の形態のマイクロポーラス層形成用ペースト組成物の製造方法は、カーボン粒子等の導電性粉末と、PTFEエマルジョン等の撥水性樹脂と、トリトンXー100等の分散剤と、イオン交換水等の分散媒と、増粘剤として平均分子量が160万未満の低分子量のポリエチレンオキサイドとの混合材料を、遊星式撹拌・脱泡装置で所定時間混合分散し、その後、更に増粘剤として平均分子量が160万以上の高分子量のポリエチレンオキサイドを配合し、攪拌機で混合することによってマイクロポーラス層用ペーストとしたものである。
【0086】
上記実施の形態では、増粘剤として、平均分子量が160万未満の低分子量のポリエチレンオキサイドと平均分子量が160万以上の高分子量のポリエチレンオキサイドとを併用することで、平均分子量が160万未満の低分子量側のポリエチレンオキサイドによって、塗工に適した粘度特性を確保でき、高分子量側のポリエチレンオキサイドによってペースト成分の裏抜けを抑制する粘度特性を確保でき、良好な平滑性とペースト成分の基材裏面への裏抜け抑制との双方を効果的に確保することができる。そして、増粘剤として、分子量が大きくなっても300℃未満で熱分解する水溶性樹脂のポリエチレンオキサイドを使用することで、マイクロポーラス層形成時に要求される特性を確保するために、乾燥工程の負荷を必要以上に増大させることなく、良好な平滑性及びペースト成分の裏抜け抑制の双方を満足させることができる。
【0087】
こうして、上記実施の形態では、乾燥工程の負荷を必要以上に増大させることなく、燃料電池の出力安定のために拡散層に要求されるペースト成分の基材裏面への裏抜け抑制及びマイクロポーラス層の平滑性を確保できる。したがって、ペースト成分の裏抜け抑制により基材裏面の撥水性も低下することなく、更に、平滑なマイクロポーラス層を得られることにより、ガスの拡散を均一にでき、また、触媒層との密着性も増すことから、燃料電池において安定した出力を確保できる。
【0088】
なお、本発明を実施するに際しては、マイクロポーラス層形成用ペースト組成物のその他の部分の組成、成分、配合量、材質等、また、マイクロポーラス層形成用ペースト組成物の製造方法のその他の工程について、本実施の形態に限定されるものではない。
また、本発明の実施の形態で挙げている数値は、臨界値を示すものではなく、実施に好適な適正値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。
【符号の説明】
【0089】
1 燃料電池
11 電解質膜
10 膜−電極接合体
12 電極(カソード電極12A,アノード電極12B)
13 触媒層(カソード側触媒層13A,アノード側触媒層13B)
14 拡散層(カソード側拡散層14A,アノード側拡散層14B)
15 表面層(カソード側表面層15A,アノード側表面層15B)
16 基材(カソード側基材16A,アノード側基材16B)
a 基材の裏面
図1