(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6143305
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】リジッドカップリングおよびリジッドカップリングを用いた軸連結方法
(51)【国際特許分類】
F16D 1/04 20060101AFI20170529BHJP
F16D 1/02 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
F16D1/04 200
F16D1/02 100
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-530398(P2014-530398)
(86)(22)【出願日】2012年8月17日
(86)【国際出願番号】JP2012005192
(87)【国際公開番号】WO2014027383
(87)【国際公開日】20140220
【審査請求日】2015年5月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】390040051
【氏名又は名称】株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【弁理士】
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】城越 教夫
【審査官】
増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】
特開平9−303412(JP,A)
【文献】
独国特許出願公開第10315685(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 1/02
F16D 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の軸および第2の軸を同軸に連結するリジッドカップリング(11)であって、
筒状のカップリング本体(12)と、
前記カップリング本体(12)に形成され、前記カップリング本体(12)の一方の第1の端面(12a)に開口し、連結対象の前記第1の軸の外径よりも大きな内径を備え、前記第1の軸が挿入される円形断面の第1の軸穴(14)と、
前記カップリング本体(12)に形成され、当該カップリング本体の他方の第2の端面に開口している、連結対象の前記第2の軸が挿入される第2の軸穴と、
前記カップリング本体(12)の一部を、カップリング中心軸線の方向に分断している第1スリット(24)と、
前記カップリング本体(12)の一部を、カップリング円周方向に分断している第2スリット(26)と、
前記カップリング本体(12)における前記第1スリット(24)および前記第2スリット(26)によって分断されている部分を締め付ける締結具(13)とを有し、
前記第1スリット(24)は、前記カップリング本体(12)の円周方向に沿って所定の角度範囲に亘って延びるスリットであり、
前記第2スリット(26)は、前記カップリング本体(12)における前記第1の端面(12a)から前記第1スリット(24)に至る前記カップリング中心軸線の方向に延びるスリットであり、
前記カップリング本体(12)の前記第1の軸穴(14)が形成されている部分は、前記第2スリット(26)が形成されている第1部分と、前記第2スリット(26)が形成されておらず円周方向に連続している第2部分とからなり、前記カップリング中心軸線の方向において前記第1部分と前記第2部分の間に前記第1スリット(24)が位置し、
前記カップリング本体(12)における前記第2スリット(26)が形成されている前記第1部分は、前記締結具(13)を締結すると内径が縮小可能な内周面部分(31a)を備えた締め付け部(25)であり、
前記第1の軸穴(14)の内周面において、少なくとも、前記締め付け部(25)の内周面部分(31a)に繋がっている前記第2部分の内周面部分には、前記締め付け部(25)の内周面部分(31a)に対して、半径方向の外方に逃げた逃がし面が形成されているリジッドカップリング(11)。
【請求項2】
前記軸穴の内周面における前記締め付け部(25)の内周面部分(31a)以外の内周面部分(32a)の全体が、前記締め付け部(25)の内周面部分(31a)に対して半径方向の外方に逃げた逃がし面となっている請求項1に記載のリジッドカップリング(11)。
【請求項3】
請求項1または2に記載のリジッドカップリング(11)を用いた軸連結方法であって、
前記カップリング本体(12)の前記カップリング中心軸線の方向における前記第1スリット(24)の形成位置、前記カップリング本体(12)の前記カップリング中心軸線の方向における前記締結具(13)による締め付け位置(27)、および、前記逃がし面と前記締め付け部(25)の内周面部分(31a)の間の内径差のうちの少なくとも1つを調整して、前記リジッドカップリング(11)に対する前記軸穴(14)に締結固定した軸(15)の傾きを所定値以下に抑制するリジッドカップリング(11)を用いた軸連結方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2本の軸を同軸に連結するために用いられるすり割り式のリジッドカップリングに関する。さらに詳しくは、すり割りの付いているカップリング部分に対して軸を傾きなく締結ボルトによって締結固定することのできるすり割り式のリジッドカップリングに関する。
【背景技術】
【0002】
すり割り式のリジッドカップリングでは、すり割りを付けたカップリング部分に連結対象の一方の軸を挿入し、この状態で当該カップリング部分を締結ボルトによって締結して、当該カップリング部分に軸を同軸に締結固定している。一般的なすり割り式のリジッドカップリングは、例えば、特許文献1の
図4に示されているように、円筒状のカップリング本体、この中心を貫通して延びる一定の内径の円形軸穴、および締結ボルトを備えている。カップリング本体の途中位置には、円周方向に延びる第1スリットが形成されている。また、カップリング本体の一方の端から第1スリットに至るまで、カップリング軸線方向に延びる第2スリットが形成されている。連結対象の軸を円形軸穴に挿入した状態で、締結ボルトによって、第2スリットによって分断されているカップリング本体の部分を締結することで、軸をカップリング本体に同軸に締結固定することができる。
【0003】
このようなリジッドカップリングは、例えば、減速機等の入力軸にモータ出力軸を同軸に連結する場合に用いられる。特許文献2、3においては、遊星歯車装置の太陽歯車の軸部分が、カップリングの一方の開口端から圧入固定されており、カップリングにおけるスリットが付いている他方の開口端からはモータ出力軸が挿入されて不図示の締結ボルトによって締結固定されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−95937号公報
【特許文献2】特開2005−9614号公報
【特許文献3】特開2000−179629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
すり割り式のリジッドカップリングにおいて、すり割り付きのカップリング部分の軸穴に挿入して締結ボルトで当該カップリング部分を締結固定した場合に、当該カップリング部分の軸芯に対して軸が傾いてしまうことがある。従来においては、締結ボルトの締め付けによって、軸穴内径に対する軸外径の公差分の軸ずれが生ずるものと考えられていた。本発明者等の解析によれば、このような軸ずれに比べて格段に大きな軸の傾き(倒れ)が生ずることが判明した。高い精度で回転を伝達する必要のある伝達機構等においては、このようなミスアライメントを確実に防止あるいは抑制する必要がある。
【0006】
本発明の課題は、傾き(倒れ)の無い状態あるいは傾き(倒れ)を可能な限り抑制した状態で、軸を締結固定可能なリジッドカップリングを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、第1の軸および第2の軸を同軸に連結するリジッドカップリングであって、
筒状のカップリング本体と、
前記カップリング本体に形成され、前記カップリング本体の一方の第1の端面に開口し、連結対象の前記第1の軸の外径よりも大きな内径を備え、前記
第1の軸が挿入される円形断面の第1の軸穴と、
前記カップリング本体に形成され、当該カップリング本体の他方の第2の端面に開口している、連結対象の前記第2の軸が挿入される第2の軸穴と、
前記カップリング本体の一部を、カップリング中心軸線の方向に分断している第1スリットと、
前記カップリング本体の一部を、カップリング円周方向に分断している第2スリットと、
前記カップリング本体における前記第1スリットおよび前記第2スリットによって分断されている部分を締め付ける締結具とを有し、
前記第1スリットは、前記カップリング本体の円周方向に沿って所定の角度範囲に亘って延びるスリットであり、
前記第2スリットは、前記カップリング本体における前記第1の端面から前記第1スリットに至る前記カップリング中心軸線の方向に延びるスリットであり、
前記カップリング本体の前記第1の軸穴が形成されている部分は、前記第2スリットが形成されている第1部分と、前記第2スリットが形成されておらず円周方向に連続している第2部分とからなり、前記カップリング中心軸線の方向において前記第1部分と前記第2部分の間に前記第1スリットが位置し、
前記カップリング本体における前記第2スリットが形成されている前記第1部分は、前記締結具を締結すると内径が縮小可能な内周面部分を備えた締め付け部であり、
前記第1の軸穴の内周面において、少なくとも、前記締め付け部の内周面部分に繋がっている前記第2部分の内周面部分には、前記締め付け部の内周面部分に対して、半径方向の外方に逃げた逃がし面が形成されていることを特徴としている。
【0008】
一般的には、カップリング本体に同一内径の軸穴を形成し、締め付け部の内周面部分以外の軸穴内周面部分を削り出して、それらの全体を逃がし面とすればよい。例えば、締め付け部の軸穴部分の内径に対して、それ以外の軸穴部分の内径を1mm程度大きくなるように、カップリング本体に軸穴を形成すればよい。
【0009】
図1Aは、すり割り式のリジッドカップリングに生ずる軸の倒れを示す説明図である。リジッドカップリング1におけるカップリング本体2の軸穴3に、連結対象の一方の軸5を挿入する。軸5は、カップリング本体2におけるスリット付きの締め付け部4の端面2aの側から、挿入する。軸5が挿入された状態で、締結ボルト(図示せず)で締め付け部4を締め付ける。
【0010】
締結ボルトを締め付けると、カップリング本体2は、その締め付け部4の部位から傾く。締め付け部4よりも奥の軸穴3の部分に挿入されている軸5の先端側の部分の外周面5aに、軸穴内周面部分3bが接触する。軸穴内周面部分3bによって、軸5をその軸線方向に直交する方向に押し込む力が発生する。この結果、軸5とカップリング本体2の間に、相対的に大きな傾きが発生するものと考えられる。本発明者等の解析によれば、
図1Bに示すように、締め付け部4の締め付け用軸穴部分の内周面部分3aに隣接している奥側の軸穴部分の内周面部分3c(図において太線で囲まれている領域)において、大きな接触圧力が軸5との間に発生していることが確認された。
【0011】
本発明のリジッドカップリングでは、締結具によってカップリング本体を締め付けた際に、軸穴に挿入した軸に対して軸穴内周面の側から接触圧力が加わる内周面部分(
図1Bの内周面部分3c)に、半径方向の外方への逃がし面を形成してある。逃がし面によって、軸穴内周面部分と軸との間に接触圧力が発生することを回避できる。あるいは、このような接触圧力を大幅に低減することができる。この結果、カップリング本体に締結固定された軸の傾き(倒れ)を防止あるいは抑制でき、軸をカップリング本体に対して精度良く同軸に締結固定できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】リジッドカップリングにおける軸の傾き状態を示す説明図である。
【
図1B】
図1Aのリジッドカップリングの軸穴内周面部分を示す説明図である。
【
図2】本発明を適用したリジッドカップリングに軸を締結固定した状態を示す斜視図である。
【
図3A】
図2のリジッドカップリングを、その軸線を含む平面で切断した状態で示す斜視図である。
【
図3B】
図2のリジッドカップリングの軸穴内周面を示す拡大部分断面図である。
【
図4】
図2のリジッドカップリングにおける軸の傾きの解析結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、図面を参照して、本発明を適用したリジッドカップリングの実施の形態を説明する。
【0014】
図2は本発明の実施の形態に係るリジッドカップリングを示す斜視図である。
図3Aはその中心軸線を含む平面で切断した状態での斜視図であり、
図3Bはリジッドカップリングの軸穴内周面を示す拡大部分断面図である。これらの図を参照して説明すると、リジッドカップリング11は、円筒状のカップリング本体12と締結ボルト13を備えている。カップリング本体12の一方の端面12aに開口している軸穴14には連結対象の一方の軸15が挿入されて、締結ボルト13によってカップリング本体12に対して同軸状態で締結固定されている。カップリング本体12の他方の端面12bに開口している軸穴16には、連結対象の他方の軸(図示せず)が例えば同軸状態で圧入固定される。これにより、双方の軸がリジッドカップリング11を介して同軸に連結された状態が形成される。
【0015】
カップリング本体12は、その一方の端面12aから他方の端面12bに向けて、大径
の円筒部21、これよりも小径の円筒部22、および、これよりも更に小径の円筒部23が同軸に形成されている。大径の円筒部21においては、端面12aから中心軸線11aの方向に所定の距離の位置に、略180度の角度範囲に亘って円周方向に延びる一定幅の第1スリット24が形成されている。第1スリット24によって、円筒部21は、第1スリット24が形成されている部分が中心軸線11aの方向において分断されている。端面12aから第1スリット24までの円筒部分が、締結ボルト13によって軸15を締結固定するための締め付け部25として機能する部分である。また、この締め付け部25には、端面12aから第1スリット24まで中心軸線11aの方向に直線状に延びる第2スリット26が形成されている。第2スリット26によって、
締め付け部25は円周方向に分断されている。
【0016】
締め付け部25において、第2スリット26を挟み対峙している一方の部分にはボルト通し穴27が形成され、他方の部分には内周面に雌ねじ部が形成されたボルト締結穴(図示せず)が形成されている。締結ボルト13を、ボルト通し穴27を介してボルト締結穴にねじ込むことにより、締め付け部25が半径方向の内側に締め付けられて、軸穴14に挿入した軸15がカップリング本体12に締結固定される。
【0017】
次に、カップリング本体12の端面12aに開口している軸穴14は、
図3A、
図3Bに示すように、円筒部21を貫通して円筒部22の途中位置まで延びている。他方の端面12bに開口している軸穴16は軸穴14よりも小径の円形軸穴であり、端面12bから円筒部23における中心軸線11aの方向の途中位置まで延びている。これらの軸穴14および軸穴16は同軸に形成されており、これらよりも小径の円形連通穴29を介して繋がっている。
【0018】
ここで、端面12aの側の軸穴14は、締め付け部25の内部に形成されている締め付け用軸穴部分31と、それ以外の軸穴部分32からなる。締め付け用軸穴部分31は、端面12aから第1スリット24における端面12a側のスリット端面24aまでの部分である。この締め付け用軸穴部分31の円形内周面部分31aの内径d(31)に比べて、これ以外の軸穴部分32の円形内周面部分32aの内径d(32)は僅かに大きい。換言すると、円形内周面部分31aに対して、円形内周面部分32aは半径方向の外側に僅かに逃がした逃がし面となっている。したがって、締め付け用軸穴部分31の
円形内周面部分31aと、これに連続している軸穴部分32の円形内周面部分32aの間には、円弧状の僅かな段差33が付いている。
【0019】
図4は、上記構成のリジッドカップリング11における軸15の倒れ量の解析結果の一例を示すグラフである。リジッドカップリング11として、カップリング内径、すなわち軸穴14における締め付け部25の内径d(31)が35.016mmで、それ以外の軸穴部分の内径d(32)が36.016mm、軸15の外径が35.005mm、軸穴14に対する軸15の差込長さが42mmの場合について解析した。リジッドカップリング11および軸15の材料定数は、ヤング率が206GPa、ポアソン比が0.3である。
【0020】
端面12aから中心軸線11aの方向(図のX軸方向)に、24mm、54mm、84mmおよび100mmの各点P1〜P4におけるカップリング本体12の外周表面の中心軸線11aに直交する方向(図のZ軸方向)の変位量を解析した。グラフにおける正方形のドットは、軸穴14の内径が中心軸線11aの方向において35.016mmと同一の場合であり、菱形のドットは、本例のリジッドカップリング11の場合である。このグラフから分かるように、本例のリジッドカップリング11を用いれば、軸15の傾き(倒れ)が大幅に抑制される。
【0021】
次に、軸15の傾きを許容範囲内の値となるように抑制するためには、軸穴部分32の内周面部分の締め付け用軸穴部分31の内周面部分に対する半径方向の外方への逃がし量、締め付け部25の幅(締め付け部25の端面12aから第1スリット24までの長さ)、および、締め付け部25における中心軸線11aの方向における締結ボルト13の締結位置を調整すればよい。これらを適切に設定することで、確実に、軸15の傾きを許容範囲内の値に抑制することができる。
【0022】
なお、上記の例では、締め付け部25の軸穴部分の内径d(31)に対して、それ以外の軸穴部分の内径d(32)を全体として大きくしてある。基本的には、
図1Bにおいて太線で囲んである隣接内周面部分3cを逃がし面とすればよい。すなわち、締め付け部25の内周面部分に連続し、第1スリット24の間に位置している繋ぎ部分を、中心軸線11aの方向に所定の長さ分だけ削って逃がし面とすればよい。一般的には、軸穴加工上の観点から、締め付け部25以外の軸穴内周面部分の全体を削って逃がし面を形成することが望ましい。