(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示に係る密閉型冷媒圧縮機は、内部に潤滑油が封入され、下方に前記潤滑油が貯留されている密閉容器と、当該密閉容器内に収容される電動要素と、前記密閉容器内に収容され、前記電動要素によって駆動される圧縮要素と、を備え、前記圧縮要素は、上下方向に交差する方向に沿って前記密閉容器内に配置されるシリンダと、当該シリンダ内で往復運動するピストンと、を備え、前記電動要素は、固定子と、その下面が前記潤滑油の油面に対向するように設けられる回転子と、を備え、当該回転子は、その直径が回転軸方向の長さよりも大きく構成されており、さらに、前記回転子の鉄心には、回転時の荷重バランスを調整する少なくとも1つのバランス穴が設けられている構成である。
【0015】
前記構成によれば、レシプロ式の密閉型冷媒圧縮機において、直径の大きい回転子の鉄心に少なくとも一つのバランス穴を設けることで、バランスウェイトを設ける場合と同様に荷重のアンバランスを相殺または緩和することができる。しかも、バランス穴は、鉄心に対して少なくとも1つ設ければよいので、密閉型冷媒圧縮機の荷重のアンバランスの状況に応じて、より簡素な構成のバランス穴を良好な自由度で設けることができる。その結果、回転子の荷重をアンバランスな状態に調整することで、密閉型冷媒圧縮機全体の荷重バランスを良好に調整することが可能となり、密閉型冷媒圧縮機を良好に低振動化かつ小型化することができる。
【0016】
前記構成の密閉型冷媒圧縮機においては、前記回転子は、永久磁石を備えているとともに、鉄心以外に永久磁石の外周を覆う磁石保護部材を備えておらず、前記バランス穴は、前記回転子の回転軸を挟んで線対称または点対称にならない位置に偏在して設けられている構成であってもよい。
【0017】
前記構成によれば、回転軸を挟んでバランス穴を非対称な位置に設けても、バランス穴に由来する磁界の変化が電動要素に実質的な影響を及ぼすことが抑制または回避される。それゆえ、バランス穴の形状を小型化かつ簡素化することができるだけでなく、対称でなければバランス穴をどのような位置にも設けることができる。そのため、密閉型冷媒圧縮機の荷重のアンバランスの状況に応じて、より簡素な構成のバランス穴を良好な自由度で設けることができる。その結果、回転子の荷重をアンバランスな状態に調整することで、密閉型冷媒圧縮機全体の荷重バランスを良好に調整することが可能となり、密閉型冷媒圧縮機を良好に低振動化かつ小型化することができる。
【0018】
前記構成の密閉型冷媒圧縮機においては、前記圧縮要素は、前記電動要素の上方に位置するように、前記密閉容器内に収容されている構成であってもよい。
【0019】
また、前記構成の密閉型冷媒圧縮機においては、前記バランス穴は、前記回転子の回転軸方向に沿って延伸する構成であってもよい。
【0020】
また、前記構成の密閉型冷媒圧縮機においては、前記バランス穴は、貫通孔である構成であってもよい。
【0021】
また、前記構成の密閉型冷媒圧縮機においては、前記バランス穴は、少なくとも一部が前記回転子の回転軸から見て前記磁石の外側となるように、前記鉄心に設けられている構成であってもよい。
【0022】
また、前記構成の密閉型冷媒圧縮機においては、前記回転子の上面には、荷重バランスを調整するバランスウェイトが固定されており、前記バランス穴は、前記バランスウェイトの固定位置に重なるように前記鉄心に設けられている構成であってもよい。
【0023】
また、前記構成の密閉型冷媒圧縮機においては、前記バランス穴が底面を有する止まり穴である場合には、前記底面の位置が前記固定子の上面よりも高くなっている構成であってもよい。
【0024】
さらに、本開示には、前記構成の密閉型冷媒圧縮機を備えている冷凍装置も含まれる。
【0025】
以下、本開示の代表的な実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0026】
(実施の形態1)
[密閉型冷媒圧縮機の構成]
図1に示すように、本実施の形態1に係る密閉型冷媒圧縮機10Aは、密閉容器11内に収容される電動要素20Aおよび圧縮要素30を備えており、密閉容器11の内部には、冷媒ガスおよび潤滑油13が封入されている。電動要素20Aおよび圧縮要素30は圧縮機本体12を構成している。この圧縮機本体12は、密閉容器11の底部に設けられているサスペンションスプリング(図示せず)によって弾性的に支持された状態で、当該密閉容器11内に配置されている。
【0027】
密閉容器11には、図示しない吸入パイプおよび吐出パイプが設けられている。吸入パイプは、その一端が密閉容器11の内部空間に連通し、他端が図示しない冷凍装置に接続され、冷媒回路等の冷凍サイクルを構成している。吐出パイプは、その一端が圧縮要素30に接続され、他端が冷凍装置に接続されている。後述するように圧縮要素30で圧縮された冷媒ガスは、吐出パイプを介して冷媒回路に導かれ、冷媒回路からの冷媒ガスは、吸入パイプを介して密閉容器11の内部空間に導かれる。
【0028】
密閉容器11の具体的な構成は特に限定されないが、本実施の形態では、例えば、鉄板の絞り成形によって形成されている。密閉容器11内に封入されている冷媒ガスは、密閉型冷媒圧縮機10Aが適用される冷媒回路において、低圧側と同等となる圧力で比較的低温の状態で封入されている。また、潤滑油13は、密閉容器11内に封入されており、圧縮要素30が備えるクランクシャフト40(後述)を潤滑する。潤滑油13は、
図1に示すように、密閉容器11の下方の底部に貯留されている。
【0029】
なお、冷媒ガスの種類は具体的に限定されず、冷凍サイクルの分野で公知のガスが好適に用いられる。本実施の形態では、例えば、炭化水素系冷媒ガスであるR600a等が好適に用いられる。R600aは、地球温暖化係数が相対的に低く、地球環境保護の観点から好ましく用いられる冷媒ガスの一つである。また、潤滑油13の種類も具体的に限定されず、圧縮機の分野で公知のものを好適に用いることができる。
【0030】
電動要素20Aは、
図1に示すように、少なくとも固定子(ステータ)21Aおよび回転子(ロータ)22Aで構成されている。固定子21Aは、圧縮要素30が備えるシリンダブロック31(後述)の下方に、図示しないボルト等の締結具によって固定され、回転子22Aは、固定子21Aの内側で、固定子21Aと同軸上に配置されている。回転子22Aは、圧縮要素30が備えるクランクシャフト40(後述)の主軸部41を、例えば焼嵌め等により固定している。
【0031】
図1に示すように、回転子22Aは、図中一点鎖線で示す、縦方向に沿った回転軸Rで回転し、その下面が潤滑油13の油面に対向するように密閉容器11内に設けられている。また、
図1において黒いブロック矢印でそれぞれ示すように、回転子22Aの回転軸R方向の長さを「Lr」とし、回転子22Aの直径を「Ld」としたときに、長さLrは、直径Ldよりも小さくなっている(Lr<Ld)。つまり、回転子22Aは軸方向の長さLrよりも直径Ldが大きい「太短い」構成となっている。
【0032】
回転子22Aの上面は、シリンダブロック31(後述)の一部である軸受部35に対向している。固定子21Aは図示しない巻線を複数有しており、回転子22Aは複数の巻線に対向するように複数の永久磁石23を有している。本実施の形態では、
図1に示すように、回転子22Aは、当該回転子22Aの本体となる鉄心内に永久磁石23が埋め込まれている。したがって、電動要素20AはIPM(Interior Permanent Magnet Motor)型モータである。
【0033】
また、前記の通り、回転子22Aは、固定子21Aの内側に配置されているので、電動要素20Aはインナーロータ型モータである。回転子22Aは、さらに、鉄心にバランス貫通孔24Aが形成されているとともに、鉄心の上面にバランスウェイト25が設けられている。この電動要素20Aは、図示しない外部のインバータ駆動回路に接続され、複数の運転周波数によりインバータ駆動される。なお、回転子22Aの具体的な構成については後述する。
【0034】
圧縮要素30は、電動要素20Aによって駆動され、冷媒ガスを圧縮する。本実施の形態では、
図1に示すように、圧縮要素30は、電動要素20Aの上方に位置するように、密閉容器11内に収容されている。また、
図1に示すように、圧縮要素30は、シリンダブロック31、シリンダ32、ピストン33、圧縮室34、軸受部35、クランクシャフト40、バルブプレート36、シリンダヘッド37、吸入マフラー38等を備えている。
【0035】
シリンダブロック31には、シリンダ32および軸受部35が設けられている。シリンダ32は、上下方向に交差する方向に沿って配置され、軸受部35に固定されている。具体的には、密閉型冷媒圧縮機10Aを水平面上に載置したときに、上下方向を縦方向とし、水平方向(上下方向に対して直交する方向)を横方向としたときに、シリンダ32は、密閉容器11内において横方向に沿って配置されており、軸受部35に固定されている。
【0036】
シリンダ32の内部には、ピストン33と略同径の略円筒形のボアが形成され、ピストン33が往復摺動自在な状態で内部に挿入されている。シリンダ32とピストン33とによって圧縮室34が形成されており、この内部で冷媒ガスが圧縮される。また、軸受部35は、クランクシャフト40の主軸部41を回転自在に軸支している。
【0037】
クランクシャフト40は、密閉容器11内において、その軸が縦方向となるように支持されており、主軸部41、偏心軸部42、コンロッド43、フランジ部44、図示しない給油機構等を備えている。主軸部41は、前記の通り、電動要素20Aの回転子22Aに固定されており、偏心軸部42は主軸部41に対して偏心して設けられている。コンロッド43は、偏心軸部42とピストン33とを連結する連結部である。フランジ部44は、主軸部41と偏心軸部42とを一体的に接続する。図示しない給油機構は、潤滑油13に浸漬された主軸部41の下端から偏心軸部42の上端までを連通するように設けられ、給油ポンプおよび主軸部41の表面に形成される螺旋状の溝等により構成されている。給油機構によりクランクシャフト40に対して潤滑油13が給油される。
【0038】
前記の通り、シリンダ32に挿入されたピストン33は、コンロッド43に連結されている。ピストン33の軸は、クランクシャフト40の軸方向に対して交差する方向となるように設けられている。本実施の形態では、クランクシャフト40は、軸心が縦方向となるように設けられているが、ピストン33は、軸心が横方向となるように設けられている。したがって、ピストン33の軸方向は、クランクシャフト40の軸方向に対して直交する方向となっている。コンロッド43は、前記の通り、ピストン33と偏心軸部42とを連結しているので、電動要素20Aによって回転するクランクシャフト40の回転運動は、コンロッド43を介してピストン33に伝達される。これにより、ピストン33はシリンダ32内で往復運動する。
【0039】
シリンダ32の一方の端部(クランクシャフト40側)には、前記の通りピストン33が挿入されているが、他方の端部(クランクシャフト40の反対側)は、バルブプレート36およびシリンダヘッド37によって封止されている。バルブプレート36は、シリンダ32およびシリンダヘッド37の間に位置しており、図示しない吸入バルブおよび吐出バルブが設けられている。シリンダヘッド37の内部には吐出空間が形成されており、圧縮室34からの冷媒ガスは、バルブプレート36の吐出バルブの開放時にシリンダヘッド37の吐出空間に吐出される。シリンダヘッド37は図示しない吐出パイプに連通している。
【0040】
吸入マフラー38は、シリンダ32およびシリンダヘッド37から見て、密閉容器11内の下方に位置する。吸入マフラー38は内部に消音空間を有する。吸入マフラー38は、バルブプレート36を介して圧縮室34に連通しているので、バルブプレート36の吸入バルブの開放時には、吸入マフラー38内の冷媒ガスは圧縮室34内に吸入される。
【0041】
[密閉型冷媒圧縮機の動作]
次に、前記構成の密閉型冷媒圧縮機10Aの動作について、その作用とともに具体的に説明する。なお、
図1には図示しないが、密閉型冷媒圧縮機10Aは、前記の通り、吸入パイプと吐出パイプとが、周知の構成からなる冷凍装置に接続され、冷媒回路を構成しているものとする。
【0042】
まず、外部電源により電動要素20Aに通電されると、固定子21Aに電流が流れて磁界が発生し、回転子22Aが回転する。回転子22Aの回転によりクランクシャフト40の主軸部41が回転し、主軸部41の回転がフランジ部44、偏心軸部42およびコンロッド43を介してピストン33に伝達され、ピストン33は、シリンダ32内を往復運動する。これに伴い、圧縮室34内で冷媒ガスの吸入、圧縮、および吐出が行なわれる。
【0043】
具体的には、シリンダ32内においてピストン33が移動する方向のうち、圧縮室34の容積が増加する方向を、便宜上「増加方向」と称し、圧縮室34の容積が減少する方向を、便宜上「減少方向」と称すれば、ピストン33が増加方向に移動すると、圧縮室34内の冷媒ガスが膨張する。そして、圧縮室34内の圧力が吸入圧力を下回ると、圧縮室34内の圧力と吸入マフラー38内の圧力との差により、バルブプレート36の吸入バルブが開き始める。
【0044】
この動作に伴い、冷凍装置から戻った温度の低い冷媒ガスは、吸入パイプから密閉容器11の内部空間に一旦開放される。その後、冷媒ガスは、吸入マフラー38内の消音空間に導入される。このとき、前記の通り、バルブプレート36の吸入バルブが開き始めているので、導入された冷媒ガスは、圧縮室34内に流入する。その後、ピストン33が、シリンダ32内の下死点から減少方向への移動に転じると、圧縮室34内の冷媒ガスが圧縮され、圧縮室34内の圧力は上昇する。また、圧縮室34内の圧力と吸入マフラー38内の圧力との差により、バルブプレート36の吸入バルブが閉止する。
【0045】
次に、圧縮室34内の圧力がシリンダヘッド37内の圧力を上回ると、圧縮室34内の圧力とシリンダヘッド37内の圧力との差により、図示しない吐出バルブが開き始める。この動作に伴い、ピストン33がシリンダ32内の上死点に達するまでの間、圧縮された冷媒ガスはシリンダヘッド37内に吐出される。シリンダヘッド37内に吐出された冷媒ガスは、吐出パイプを経由して、冷凍装置へ送出される。
【0046】
その後、ピストン33が、シリンダ32内の上死点から再び増加方向への移動に転じると、圧縮室34内の冷媒ガスが膨張するので、圧縮室34内の圧力は低下する。圧縮室34内の圧力がシリンダヘッド37内の圧力を下回ると、バルブプレート36の吐出バルブが閉じることになる。
【0047】
このような吸入、圧縮、吐出の各行程がクランクシャフト40の1回転毎に繰り返して行われるので、冷媒ガスが冷凍サイクル内を循環する。
【0048】
[回転子の構成]
本実施の形態に係る密閉型冷媒圧縮機10Aは、
図1および
図2(A)〜(C)に示すように、電動要素20Aが備える回転子22Aに対して、バランス貫通孔24Aが設けられている。前記の通り、本実施の形態に係る回転子22AはIPM型であるので、回転子22Aの本体である鉄心に永久磁石23が埋め込まれている。バランス貫通孔24Aは、
図2(C)に示すように、永久磁石23が埋め込まれている部位以外の鉄心に設けられている。なお、本実施の形態では、
図2(C)に破線で示すように、永久磁石23全体が鉄心内部に埋め込まれている。それゆえ、回転子22Aは、永久磁石23の外周面を覆う磁石保護部材を備えていない(磁石保護部材を必要としない)。
【0049】
回転子22Aは、
図2(A)〜(C)に示すように、その中央に回転子シャフト孔29aを有している。回転子シャフト孔29aは、クランクシャフト40の主軸部41とシリンダブロック31の軸受部35の下端とが挿入可能となっている。したがって、回転子シャフト孔29aの延伸方向の中心線が回転子22Aの回転軸Rとなっている。なお、上面図に相当する
図2(A)および下面図に相当する
図2(C)では、回転軸Rを十字印で示し、縦断面図に相当する
図2(B)では一点鎖線で示している。
【0050】
回転子シャフト孔29aは、
図2(B)に示すように、上部と下部とで内径が異なる2段階構成となっている。これは、回転子シャフト孔29aの上部で、主軸部41を内挿した軸受部35の一部を内挿し、下部で主軸部41のみを内挿するためである。
図1に示すように、軸受部35は、シリンダブロック31の下部を構成し、本実施の形態では、密閉容器11の横方向全体に広がるような形状を有している。軸受部35の中心部は、下側に突出する円筒状となっており、主軸部41の上部を内挿している。それゆえ、回転子シャフト孔29aは、その上部の径が大きく下部の径が小さくなっている。これにより、その上部で、軸受部35の円筒部(およびこの内部に内挿される主軸部41)を内挿支持することができ、下部で、主軸部41のみを内挿支持することができる。
【0051】
回転子22Aの本体を構成する鉄心は、円板状の電磁鋼板(薄鉄板)を積層して構成される。それゆえ、複数の電磁鋼板を一体化して鉄心とするために、
図1および
図2(B)に示すように、回転軸Rに沿った方向に貫通するように締結部材が設けられる。本実施の形態では、
図2(A),(B)に示すように、かしめピン26で複数の電磁鋼板を一体化している。また、個々の電磁鋼板には、かしめピン26を挿入するためのかしめ用孔が設けられている。
【0052】
なお、
図2(B)に示すように、回転子22Aの上面および下面には、それぞれ端板27が設けられている。そのため、バランス貫通孔24Aの上端および下端はいずれも端板27で閉じられていることになる。また、
図1および
図2(B)に示すように、回転子22Aの上面には、後述するようにバランスウェイト25が固定されているので、端板27の上側にはバランスウェイト25が位置している。そのため、
図2(A)では、バランス貫通孔24Aは破線で図示しており、
図2(C)では、永久磁石23およびバランス貫通孔24Aを破線で図示している。
【0053】
バランス貫通孔24Aは、回転子22Aの回転時の荷重バランスを調整するバランス穴であり、本実施の形態では2つ設けられている。バランス貫通孔24Aは、
図1および
図2(B)に示すように、回転子22Aの回転軸R方向に沿って延伸しており、
図2(A)および
図2(C)に示すように、回転子22Aの下面から見たとき、2つのバランス貫通孔24Aは、回転子22Aの外周近傍の一部に偏在している。この偏在状態を言い換えれば、本実施の形態では、回転子22Aの複数のバランス貫通孔24Aは、回転子22A本体となる鉄心に、回転軸Rを挟んで線対称または点対称にならないように偏在して設けられている、ということができる。
【0054】
密閉型冷媒圧縮機には、レシプロ式ではなくロータリー式のものも知られている。ロータリー式の通常、回転子は「縦長」または「細長い」構成であり、回転軸方向の長さLrが直径Ldよりも大きくなっている(Lr>Ld)。そして、ロータリー式の密閉型冷媒圧縮機では、従来から、回転子の回転軸を挟んで線対称または点対称となるように、回転子の鉄心に複数のバランス止まり穴を設ける手法が知られている。
【0055】
一例としては、回転子の上端面および下端面のそれぞれに、当該端面の四分の一近くにも及ぶ大きなバランス止まり穴が2つ隣接させて設けられ、かつ、上端面のバランス止まり穴および下端面のバランス止まり穴の位置は、互いに回転軸の中心点を基準として点対称となる構成が知られている。このようなバランス止まり穴では、位置の調整ではなくバランス止まり穴の深さを調整することで荷重バランスの調整を図っている。
【0056】
また、他の例としては、回転軸を挟んで線対称の位置関係となるように、回転子の鉄心に第1のバランス貫通孔と第2のバランス貫通孔とを設ける構成が知られている。このような構成では、それぞれのバランス貫通孔が同等であると荷重バランスの調整効果を打ち消すように作用してしまう。そこで、一方のバランス貫通孔の一部を小径にしたり、貫通孔ではなく止まり穴にして深さを調整したり、一方のバランス貫通孔を1つではなく複数にしたりすることで、荷重バランスの相殺分をなるべく少なくしている。
【0057】
このように、ロータリー式の密閉型冷媒圧縮機では、縦長の回転子の鉄心にバランス穴を設ける場合には、回転軸を挟んで点対称または線対称となる位置に複数のバランス穴を設ける構成しか知られておらず、設けられるバランス穴も、円周の半分に及ぶような大きなものであるか、互いに径、深さ、数等を異ならせた複雑な構造のものとなっている。
【0058】
また、従来から、電動要素の回転子の鉄心に対してスリット状の穴を設けることで、磁束密度のアンバランスや磁気突極性を緩和できることが知られているので、言い換えれば、回転子の鉄心に不用意に穴を設けると、好ましくない磁界の変化(磁界の乱れ)が生じる可能性がある。また、SPM(Surface Permanent Magnet Motor)型モータでは、永久磁石を保護するために例えばステンレス製の磁石保護部材(カバー)を備える構成が知られているが、回転子または固定子の構成によっては、磁石保護部材により好ましくない磁界の変化(磁界の乱れ)が生じることが知られている。IPM型モータは、この磁石保護部材に由来する課題を抑制または回避するために、永久磁石を鉄心に埋め込んでいる。
【0059】
前述したロータリー式の密閉型冷媒圧縮機において、回転子の鉄心にバランス穴を設ける構成では、当該回転子において磁石保護部材の存在が必須となっている。この場合、回転子の回転軸を挟んでバランス穴を非対称に設けると、磁石保護部材の存在によって磁界の乱れが大きくなる可能性があると考えられる。それゆえ、前記の通り、回転軸を挟んでバランス穴を点対称または線対称に設ける必要があると推測される。
【0060】
これに対して、本願発明者らが鋭意検討した結果、レシプロ式の密閉型冷媒圧縮機では、当該圧縮機の小型化を図る観点から、通常、回転子は「横長」または「太短い」構成であり(
図1等参照)、直径Ldの方が回転軸方向の長さLrよりも大きくなっている(Ld>Lr)。また、レシプロ式の密閉型冷媒圧縮機では、磁石保護部材を必要としないIPM型モータが用いられたり、SPM型モータであっても磁石保護部材を備えていないものが用いられたりしている。
【0061】
このように磁石保護部材を必要としない電動要素20Aでは、複数のバランス穴を鉄心に設けるとしても、回転軸Rを挟んで非対称となっていれば、ロータリー式の密閉型冷媒圧縮機のように、に大きなバランス穴を設けたり複雑な形状のバランス穴を設けたりする必要なく、回転子22Aの荷重バランスを良好に調整できることが明らかとなった。
【0062】
前記の通り、本実施の形態に係る回転子22Aでは、磁石保護部材を備えることなく、複数のバランス貫通孔24Aが回転軸Rを挟んで非対称な位置に設けている。これにより、バランス貫通孔24Aに由来する磁界の乱れが電動要素20Aに実質的な影響を及ぼすことが抑制または回避される。それゆえ、バランス貫通孔24Aの形状を小型化かつ簡素化することができるだけでなく、対称でなければバランス貫通孔24Aをどのような位置にも設けることができる。そのため、密閉型冷媒圧縮機10Aの荷重のアンバランスの状況に応じて、より簡素な構成のバランス穴を良好な自由度で設けることができる。その結果、回転子22Aの荷重バランスを良好に調整することが可能となり、密閉型冷媒圧縮機10Aを良好に低振動化かつ小型化することができる。
【0063】
ここで、本実施の形態に係る回転子22Aでは、
図1、
図2(A),(B)に示すように、回転子22Aの上面にバランスウェイト25が固定されている。このバランスウェイト25は、従来から回転子22Aの荷重バランスを調整するために用いられているものと同様である。本実施の形態では、バランスウェイト25が回転子22Aの下面ではなく上面に固定され、かつ、複数のバランス貫通孔24Aは、バランスウェイト25の固定位置に重なるように、回転子22Aの鉄心に設けられている。言い換えれば、複数のバランス貫通孔24Aは、回転子22Aの上面または下面から見たときに、バランスウェイト25の投影面となる位置の鉄心に設けられていればよい。
【0064】
このように、回転子22Aの鉄心において、バランス穴の投影面上となる位置にバランスウェイト25を設けることで、回転子22Aのバランス調整の自由度の向上を図ることが可能となる。例えば、回転子22Aの鉄心にバランス穴を設けることで、回転子22Aの荷重バランスの基本的な(大まかな)調整を図り、さらにバランスウェイト25を設けることで、荷重バランスの微調整を図ることができる。
【0065】
バランス穴の形成は、密閉型冷媒圧縮機10Aの製造に際して、部品点数または工数の増加を抑制しつつ荷重バランスを調整することができる。ただし、鉄心にバランス穴を形成することは、バランスウェイト25の取付けに比べて製造工程上の柔軟性に欠ける。これに対して、バランスウェイト25の取付けは、部品点数または工数の増加を伴うものの、回転子22Aの鉄心に対して後付けできることから、バランス穴の形成に比べて製造工程上の柔軟性を発揮することができる。
【0066】
そこで、回転子22Aの荷重バランスを大まかに調整するようにバランス穴を形成し、その後に、バランスウェイト25を適度な個数で後から取り付けることで、荷重バランスを微調整することが可能になる。これにより、バランスウェイト25を備えることに由来する部材点数および工数の増加が生じるものの、バランスウェイト25およびバランス貫通孔24Aの双方により、回転子22Aの荷重バランスをより一層好適に調整することが可能となる。
【0067】
なお、本実施の形態で用いられるバランスウェイト25は、従来のものと同様であればよいが、微調整を目的とする場合、より軽量なものを複数準備しておけばよい。これにより、微調整の自由度が向上するとともに、バランスウェイト25を鉄心に取り付ける構成(締結部材、固定部材、取付部材等)も簡素化することができる。バランスウェイト25の形状についても、同形状のものを複数準備してもよいが、異なる形状のものを複数準備してもよい。
【0068】
また、バランスウェイト25は潤滑油13の油面に対向する回転子22Aの下面に設けられていないので、回転子22Aと油面との間隔をできるだけ小さくしつつ、当該間隔を確保することができる。この間隔を確保することで、回転子22Aの回転により潤滑油13が攪拌されることが良好に抑制される。そのため、泡立った潤滑油13が吸入マフラー38から圧縮室34に吸い込まれることに起因する、吸入バルブおよび吐出バルブの折損を実質的に防止することができる。加えて、荷重バランスの調整により密閉型冷媒圧縮機10Aの低振動化をより一層することが可能になるとともに、密閉型冷媒圧縮機10Aの高さの増加を抑制し、コンパクト化(小型化)の実現も可能となる。
【0069】
[変形例]
本実施の形態では、バランス穴は、
図1および
図2(B)に示すように、回転子22Aの回転軸R方向に沿って延伸する貫通孔(バランス貫通孔24A)として構成されている。しかしながら、バランス穴の具体的な構成はこれに限定されない。例えば、バランス穴は、バランス貫通孔24Aのように貫通孔でなくてもよく、例えば、
図3(A),(B)に示すバランス止まり穴24C,24Dのように、底面を有する止まり穴であってもよい。バランス穴が止まり穴である場合、
図3(A)に示すように、回転子22Aの上面にのみ設けられてもよいし、下面のみに設けられてもよいし、上面および下面の双方に設けられてもよい。
【0070】
また、バランス穴が止まり穴である場合、バランス穴の深さは特に限定されない。複数のバランス穴の深さがいずれも同じであってもよいし、それぞれ異なっていてもよい。このとき、例えば、
図3(B)に示すように、バランス止まり穴24Dの底面が固定子21Aの上面よりも高い位置にあることが好ましい。これにより、荷重バランスをより一層良好に調整することができる。また、バランス穴は少なくとも1つであればよく、複数であってもよい。例えば、
図3(C)に示すように、バランス穴(バランス貫通孔24A)は3つ以上であってもよいが、
図3(D)に示すように、バランス穴(バランス貫通孔24A)は1つのみであってもよい。バランス穴が1つであれば、この1つのバランス穴は、必然的に、回転子22Aにおいて、回転軸Rを挟んで線対称または点対称にならない位置に偏在することになる。また、バランス穴の大きさすなわちバランス穴の内径も特に限定されず、諸条件に応じた適切な範囲内に設定することができる。
【0071】
さらに、バランス穴の形状も特に限定されない。バランス穴の横断面形状は、例えば、
図2(A),(C)に示すように円形であればよいが、楕円形であってもよいし矩形であってもよいし、その他の多角形状であってもよい。また、バランス穴の縦断面形状すなわちバランス穴の空間形状は、例えば、
図1および
図2(B)に示すように、全体を通して同じ内径となる柱状(円柱状)で構成されればよいが、内径が徐々に変化する空間形状に構成されてもよいし、内径が段階的に変化する段差を有する空間形状に構成されてもよい。
【0072】
バランス穴が設けられる鉄心の位置も特に限定されないが、より好ましい位置としては、
図2(C)に示すように、バランス穴(バランス貫通孔24A)が回転子22Aの回転軸Rから見て永久磁石23の外側となる位置に設けられることが好ましい。本実施の形態では、永久磁石23は、内周側(回転軸R側)に向けて中央部が凸状となるように、言い換えれば、外周側に向けて中央部が凹状となるように湾曲しているが、バランス貫通孔24Aは、その全てが永久磁石23の凹状の外周面より外側に位置している。
【0073】
これにより、バランス穴における回転軸Rからの横方向の距離をできるだけ大きくすることができるので、バランス穴による荷重バランスの調整量をより大きくすることができる。なお、バランス貫通孔24Aが、永久磁石23同士の間に位置している場合等は、その一部が永久磁石23の外側に位置してもよい。このような観点では、バランス穴は、回転子22Aの外周にできるだけ近接した位置に設けられることが好ましい。
【0074】
さらに、本実施の形態では、
図1および
図2(A),(B)に示すように、回転子22Aにはバランスウェイト25が設けられ、バランス貫通孔24A(バランス穴)が、バランスウェイト25の固定位置に重なるような位置に設けられている構成を例示しているが、本開示はこれに限定されない。例えば、
図4(A)〜(C)に示すように、バランスウェイト25は設けられていなくてもよい。
図4(A)〜(C)は、
図2(A)〜(C)にそれぞれ対応する上面図、縦断面図、および模式的上面図に対応し、バランスウェイト25を備えていない点以外は、
図2(A)〜(C)と同様である。
【0075】
あるいは図示しないが、バランスウェイト25は、回転子22Aに設けられるだけでなく、クランクシャフト40に設けられてもよい。つまり、本開示では、バランスウェイト25としては、回転子22Aに設けられる回転子用バランスウェイトと、クランクシャフト40に設けられるクランクシャフト用バランスウェイトとの少なくとも一方を備えていてもよい。また、バランスウェイト25としては、回転子22Aおよびクランクシャフト40以外の部位に取り付けることが可能なものが用いられてもよい。
【0076】
このように、本開示に係る密閉型冷媒圧縮機10Aでは、回転子22Aは、鉄心および永久磁石23を備えているとともに、鉄心以外に永久磁石23の外周面を覆う磁石保護部材を備えておらず、鉄心には、回転時の荷重バランスを調整する少なくとも1つのバランス穴が、回転軸Rを挟んで線対称または点対称にならない位置に偏在して設けられていることが好ましい。これにより、回転軸Rを挟んでバランス穴を非対称な位置に設けても、バランス穴に由来する磁界の乱れが電動要素20Aに実質的な影響を及ぼすことが抑制または回避される。
【0077】
それゆえ、バランス穴の形状を小型化かつ簡素化することができるだけでなく、対称でなければバランス穴をどのような位置にも設けることができる。そのため、密閉型冷媒圧縮機10Aの荷重のアンバランスの状況に応じて、より簡素な構成のバランス穴を良好な自由度で設けることができる。その結果、回転子22Aの荷重をアンバランスな状態に調整することで、密閉型冷媒圧縮機10A全体の荷重バランスを良好に調整することが可能となり、密閉型冷媒圧縮機10Aを良好に低振動化かつ小型化することができる。
【0078】
(実施の形態2)
前記実施の形態1に係る密閉型冷媒圧縮機10Aは、電動要素20Aがインナーロータ型モータであったが、本開示はこれに限定されず、電動要素がアウターロータ型モータであってもよい。具体的には、
図5に示すように、本実施の形態2に係る密閉型冷媒圧縮機10Bは、前記実施の形態1に係る密閉型冷媒圧縮機10Aと同様に、密閉容器11内に収容される電動要素20Bおよび圧縮要素30(圧縮機本体12)を備えており、密閉容器11の内部には、冷媒ガスおよび潤滑油13が封入されているが、電動要素20Bはアウターロータ型モータである。
【0079】
電動要素20Bは、前記実施の形態1に係る電動要素20Aと同様に、少なくとも固定子21Bおよび回転子22Bで構成されている。固定子21Bは、
図6(A)の上面図または
図6(B)の縦断面図に示すように、その中心に固定子シャフト孔29cを有しており、この固定子シャフト孔29cに対して圧縮要素30の軸受部35が圧入等により固定されている。
【0080】
回転子22Bは、
図5および
図6(A),(B)に示すように、この固定子21Bの外周を取り囲むように同軸に配置されている。回転子22Bの回転軸R方向の長さは回転子22Bの直径よりも小さくなっている。つまり、回転子22Bも回転子22Aと同様に直径が大きく短い構成となっている。
【0081】
回転子22Bは、固定子21Bの外周を回転する円筒状のヨーク28の内周に永久磁石23が均等に配置されている。ヨーク28は、例えば、フランジ部44よりも径の大きい円板状に形成された構成であってもよいし、フランジ部44よりも径の大きいフレームの外周に円筒状のヨーク28が固定されている構成であってもよい。
図6(B)および
図6(C)の下面図に示すように、回転子22Bのヨーク28(またはフレーム)の中心には、回転子シャフト孔29bが設けられており、この回転子シャフト孔29bは、クランクシャフト40の主軸部41の下端に溶接等で固定されている。
【0082】
なお、本実施の形態に係る密閉型冷媒圧縮機10Bは、電動要素20Bがアウターロータ型モータであること以外は、前記実施の形態1に係る密閉型冷媒圧縮機10Aと同様であるため、その具体的な説明は省略する。また、密閉型冷媒圧縮機10Bの動作も基本的には密閉型冷媒圧縮機10Aと同様である。すなわち、電動要素20Bに通電されると、固定子21Bに電流が流れて磁界が発生し、クランクシャフト40の主軸部41に固定された回転子22Bが回転する。これにより、クランクシャフト40が回転し、偏心軸部42に回転自在に取り付けられたコンロッド43を介して、ピストン33がシリンダ32内を往復運動するので、圧縮要素30により冷媒が圧縮されることになる。
【0083】
本実施の形態に係る密閉型冷媒圧縮機10Bにおいても、前記実施の形態1に係る密閉型冷媒圧縮機10Aと同様に、電動要素20Bが備える回転子22Bに対して、バランス貫通孔24Bが設けられている。本実施の形態に係る回転子22Bは、本体である鉄心がヨーク27として構成されており、このヨーク28の内周面に永久磁石23が設けられている。したがって、電動要素20BはSPM型モータである。ただし、回転子22Bは、永久磁石23の表面(内周面)を覆う磁石保護部材を備えていない(磁石保護部材を必要としない)。
【0084】
バランス貫通孔24Bは、回転子22Bの回転時の荷重バランスを調整するバランス穴であり、本実施の形態では2つ設けられている。バランス貫通孔24Bは、
図5および
図6(B)に示すように、回転子22Bの回転軸R方向に沿って延伸しており、
図6(A)および
図6(C)に示すように、回転子22Bの上面または下面から見たとき、2つのバランス貫通孔24Bは、回転子22Bの外周近傍の一部に偏在している。この偏在状態を言い換えれば、前記実施の形態1と同様に、回転子22Bの複数のバランス貫通孔24Bは、回転子22B本体となるヨーク28に、回転軸Rを挟んで線対称または点対称にならないように偏在して設けられている、ということができる。
【0085】
バランス貫通孔24Bの具体的な構成は、前記実施の形態1で説明したバランス貫通孔24Aと同様である。また、バランス貫通孔24Bも、バランス止まり穴24C,24Dのような底面を有する止まり穴として構成されてもよい。さらに、本実施の形態2におけるバランス貫通孔24Bは、
図6(A)に示すように、前記実施の形態1におけるバランス貫通孔24Aと同様に、その少なくとも一部が回転子22Bの回転軸Rから見て永久磁石23の外側となる位置に設けられることが好ましい。
【0086】
このように、電動要素がインナーロータ型(実施の形態1)であってもアウターロータ型(実施の形態2)であっても、回転子が磁石保護部材を備えておらず、鉄心に少なくとも1つのバランス穴が設けられており、このバランス穴が、回転軸を挟んで線対称または点対称にならない位置に偏在していると好ましい。これにより、回転子の荷重をアンバランスな状態に調整することで、密閉型冷媒圧縮機全体の荷重バランスを良好に調整することが可能となり、密閉型冷媒圧縮機を良好に低振動化かつ小型化することができる。
【0087】
(実施の形態3)
本実施の形態3では、前記実施の形態1で説明した密閉型冷媒圧縮機10Aまたは前記実施の形態2で説明した密閉型冷媒圧縮機10Bを備える冷凍装置の一例について、
図6を参照して具体的に説明する。
【0088】
本開示に係る密閉型冷媒圧縮機10Aまたは10Bは、冷凍サイクルまたはこれと実質同等な構成を有する各種機器(冷凍装置)に広く好適に用いることができる。具体的には、例えば、冷蔵庫(家庭用冷蔵庫、業務用冷蔵庫)、製氷機、ショーケース、除湿器、ヒートポンプ式給湯機、ヒートポンプ式洗濯乾燥機、自動販売機、エアーコンディショナー、空気圧縮機等を挙げることができるが、特に限定されない。本実施の形態では、本開示に係る密閉型冷媒圧縮機10Aまたは10Bの適用例として、
図6に示す物品貯蔵装置を挙げて、冷凍装置50の基本的な構成を説明する。
【0089】
図6に示す冷凍装置500は、冷凍装置本体51および冷媒回路60を備えている。冷凍装置本体51は、一面が開口した断熱性の箱体と、この箱体の開口を開閉する扉体とから構成されている。冷凍装置本体51の内部は、物品を貯蔵する貯蔵空間52と、冷媒回路60等を収容する機械室53と、貯蔵空間52および機械室53を区画する区画壁54を備えている。
【0090】
冷媒回路60は、前記実施の形態1で説明した密閉型冷媒圧縮機10Aまたは前記実施の形態2で説明した密閉型冷媒圧縮機10B、放熱器61、減圧装置62、および吸熱器63等を、配管64により環状に接続した構成となっている。つまり、冷媒回路60は、本開示に係る密閉型冷媒圧縮機10Aまたは10Bを用いた冷凍サイクルの一例である。
【0091】
冷媒回路60のうち、密閉型冷媒圧縮機10Aまたは10B、放熱器61、および減圧装置62は機械室53に配置され、吸熱器63は、
図6には図示しない送風機を備える貯蔵空間52内に配置されている。吸熱器63の冷却熱は、破線の矢印で示すように、送風機によって貯蔵空間52内を循環するように撹拌される。
【0092】
このように、本実施の形態に係る冷凍装置50は、前記実施の形態1に係る密閉型冷媒圧縮機10A、または、前記実施の形態2に係る密閉型冷媒圧縮機10Bを搭載している。密閉型冷媒圧縮機10Aまたは10Bは、前述したように、本開示に係る密閉型冷媒圧縮機10Aまたは10Bは、電動要素20Aまたは20Bの回転子22Aまたは22Bの鉄心に、磁石保護部材が設けられておらず、かつ、回転軸Rを挟まないように偏在してバランス穴が設けられている。
【0093】
それゆえ、回転子22Aまたは22Bの荷重をアンバランスな状態に調整することで、密閉型冷媒圧縮機10Aまたは10B全体の荷重バランスを良好に調整することが可能となり、密閉型冷媒圧縮機10Aまたは10Bを良好に低振動化かつ小型化することができる。このような密閉型冷媒圧縮機10Aまたは10Bにより冷媒回路60を運転することで、冷凍装置50の低振動化および小型化が可能であるとともに、荷重バランスを実現するために、磁石保護部材を設けずバランス穴を設けるだけであるので、部材点数の増加と工数の増加を抑制し、低コスト化を図ることが可能となる。
【0094】
なお、本発明は前記実施の形態の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態や複数の変形例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【解決手段】 密閉型冷媒圧縮機10Aは、密閉容器11内に収容される電動要素20Aおよび圧縮要素30を備え、圧縮要素30は、シリンダ32とシリンダ32内で往復運動するピストン33とを備える。電動要素20Aは、固定子21Aとその下面が潤滑油13の油面に対向するように設けられる回転子22Aとを備える。当該回転子22Aは、その直径が回転軸方向の長さよりも大きく構成されている。さらに、回転子22Aの鉄心には、回転時の荷重バランスを調整する少なくとも1つのバランス穴、例えばバランス貫通孔24Aが設けられている。