【実施例1】
【0012】
図1において、Mはミシンであり、Cは布、Tは上糸、Wは刺繍枠である。
図1に示すように、布Cは刺繍枠Wに保持され、ミシンMに設けられた図示しない刺繍枠移動装置により刺繍枠Wとともに針2の上下動方向に垂直なX−Y方向に移動可能となっている。
刺繍用布押さえ1は、針2の後方にミシンMに支持された押さえ棒3の下端に、取付ねじ4によって取り付けられている。
【0013】
図2、
図3に示すように、刺繍用布押さえ1の上部は、押さえ棒3への取付部6となっており、押さえ棒3の下端を嵌挿する凹部7と、押さえ棒3のねじ孔5に螺合する取付ねじ4を嵌入するねじ止め溝10とからなっている。
【0014】
凹部7は平面視で略コの字状を呈し、取付ねじ4を締結したとき、押さえ棒3の側面と当接して安定した固定状態を形成する取付面9から側方に嵌合面8g、8hが延び、取付面9の反対側に開放部を形成している。
嵌合面8g,8hの少なくとも一方には、押さえ棒3を横から嵌挿しやすいようにわずかに傾斜をもたせている。
本実施例では、押さえ部12と反対側、すなわち後方側の嵌合面8hをわずかに傾斜させるとともに、他方の嵌合面8gより長く側方に延びており、押さえ棒3を嵌挿させるための案内面を形成している。
ねじ止め溝10は、取付部6の側方から切り欠いて形成され、前方の嵌合面8gから取付面9のねじ孔5に対応する位置まで延びている。
【0015】
本実施例では、取付部6の取付面9と、取付面9に対応する押さえ棒3の面とを密着する平面とし、刺繍用布押さえ1を押さえ棒3に側方から嵌挿して簡単に取り付けられる取付構造としたが、本発明は、このような取付構造に限定されるものではなく、種々の取付構造が採用可能である。
【0016】
刺繍用布押さえ1の取付部6の下部には、斜め前方に延びる脚部11を経て、下端部に押さえ部12が設けられている。
図3(a)に示されるように、押さえ部12は、針2が挿通する針穴13がわずかに湾曲した長孔状に設けられており、その底面14には、針穴13を囲むように複数の突起15が所定間隔をおいて配列されている。
本実施例では、複数の突起15は、ほぼ一定の所定間隔で配列されているが、本発明は、このような実施例に限定されず、適宜決定できる。例えば、
図3(b)に示される変形実施例のように不均等な間隔で配列されたものでもよい。
【0017】
突起15の形状は、
図3(c)に示すように、上糸を挟み込まない高さを有して先端が半球面状をなし、上糸を逃げやすくするとともに布の移動を円滑に行うようにしている。
突起15の形状は本実施例に限定されず、
図3(d)に示す変形別実施例のように、先端の平面の周囲の角部に比較的大きなRを施して丸みをもたせた円錐台形状または角錐台形状など、上糸が逃げやすく、かつ布の円滑な移動を妨げない範囲で種々の工夫が可能である。
また、配列する突起15の数や密度は、布を押さえて保持する機能と上糸を逃がす隙間を確保する機能の観点から、適宜決定することができ、布との間に上糸が通過する隙間を形成して布を押さえることができれば、場合によっては1つの突起であってもよい。
【0018】
次に、本実施例の使用態様と作用効果について説明する。
まず本実施例の刺繍用布押さえ1を押さえ棒3に装着するが、
図4に示すように、押さえ棒3を凹部7に嵌挿し、取付面9の背面側からねじ止め溝10を貫通して取付ねじ4を押さえ棒3のねじ孔5に螺合させる。
この際、後方の嵌合面8hを押さえ棒3に沿って押し当てながら凹部7に押さえ棒3を嵌挿するので、刺繍布押さえ1を前方の針2にぶつけてしまうようなことがない。
また、ねじ止め溝10を前方の嵌合面8gから取付面9の螺入位置まで延びるように設けたので、螺入位置が針2の後方にあって見にくい場所でも、容易に取付ねじ4をねじ止め溝10に嵌挿することができ、さらに、取付ねじ4を取り外すことなく刺繍用布押さえ1をねじ止め溝10に沿ってスライドすることで容易に着脱可能とすることができる。
【0019】
次いで、取付ねじ4をねじ孔5に螺合し締め付けると、取付面9と押さえ棒3の対応する面とが平面で互いに密着し、押さえ棒3の前後方向は嵌合面8g、8hによって規制されるので、刺繍布押さえ1は、押さえ棒3に対して回動したりずれたりすることなく安定して固定される。
【0020】
刺繍を施す布Cは刺繍枠Wに保持され、ミシンMの図示しない刺繍枠移動装置に移動可能に設置される。
上糸Tが挿通された針2が上下動して、図示しないミシンMの下部の釜やルーパーなどに導かれた下糸と上糸Tで布Cの表面に縫い目が形成されるとともに、刺繍枠移動装置が刺繍データなどに基づいてX−Y方向に駆動されることによって刺繍枠Wに保持された布Cが移動し、様々な刺繍模様が縫製される。
これらの構成は、通常のミシンと同様であり、詳細な説明は省略する。
【0021】
図5に示すように、刺繍枠Wが大きく移動して布Ca上に上糸Taの渡り糸が発生した状態では、渡り糸は刺繍用布押さえ1の底面14と布Cとの間を横切ることになるが、刺繍用布押さえ1の針穴13を囲む底面14には複数の突起15が所定間隔をおいて配列されているので、複数の突起15の先端が布Cを押さえ、突起15のない底面14と布Cとの間に突起15の高さ分だけ間隔Bが形成される。
そのため、上糸Tの渡り糸は、底面14と布Cとの間に挟み込まれることなく、複数の突起15の間隙を通って縫い目が形成される際に引き込まれ、布C上に残るようなことがない。
【0022】
このとき、底面14と布Cとの間隔B、すなわち突起15の高さは、上糸Tの径以上に設定されることが望ましいが、上糸Tの径より多少低くても上糸Tが逃げられるに十分な高さであれば問題ない。
突起15は、本実施例では、先端が半球面状になっているので、上糸が逃げやすいとともに布の移動を円滑に行うことができる。
また、突起15の形状は、上糸が逃げやすく、かつ布の円滑な移動を妨げない範囲で種々の工夫が可能であるが、
図3(d)に示すように、先端が丸みをおびた円錐台形状または角錐台形状とすれば、布を押さえる機能を高めることができる。
【0023】
本実施例の刺繍用布押さえ1は、布押さえを常に布の上面まで降下させて押さえ高さを一定に保つ布押さえ機構を有するミシンに使用しても、布Cとの間に上糸Tを挟み込むことがないので、刺繍枠Wの円滑な移動を妨げることがない。
とくに、刺繍の縫い目位置が大きく移動するように刺繍枠Wを動かすときには、布C上に上糸Tの渡り糸が発生するが、上糸Tは布Cとの間に挟み込まれることなく自由な状態が維持され、上糸Tに引っ張られて刺繍縫い位置がずれたり、上糸Tの渡り糸が引き込まれず刺繍表面に残ってしまうようなことがないから、美しく正確な刺繍模様を縫製することができるという顕著な効果を奏する。