特許第6143351号(P6143351)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6143351
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】ワイヤ放電加工機
(51)【国際特許分類】
   B23H 7/02 20060101AFI20170529BHJP
【FI】
   B23H7/02 H
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-199847(P2013-199847)
(22)【出願日】2013年9月26日
(65)【公開番号】特開2014-79876(P2014-79876A)
(43)【公開日】2014年5月8日
【審査請求日】2016年4月15日
(31)【優先権主張番号】特願2012-217389(P2012-217389)
(32)【優先日】2012年9月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000132725
【氏名又は名称】株式会社ソディック
(72)【発明者】
【氏名】上ノ町 哲也
【審査官】 岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/187201(WO,A1)
【文献】 特開2000−280124(JP,A)
【文献】 特開平11−320266(JP,A)
【文献】 特開昭57−163024(JP,A)
【文献】 特開昭62−162428(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークテーブルに載置されたワークを加工するワイヤ電極を、前記ワークを介して上側に配置される上側ワイヤガイドと下側に配置される下側ワイヤガイドによりガイドしながら上方から下方に繰り出して加工経路に沿って移動させ前記ワークに加工溝を形成するとともに、前記加工溝により切り離された前記ワークの内側部分をなす中子の任意の領域に前記ワイヤ電極の成分を付着させ、前記ワークの落下を防止する構成を備えたワイヤ放電加工機であって、
前記ワークと前記ワイヤ電極との間に形成される極間に前記ワークが負電位となり前記ワイヤ電極が正電位となる逆極性の電圧を印加し、前記上側ワイヤガイドおよび前記下側ワイヤガイドの水平方向の位置を同一として前記ワイヤ電極を垂直に設定した状態から、前記加工経路に沿って前記下側ワイヤガイドを前記上側ワイヤガイドに対して相対的に前進させ、前記ワイヤ電極を傾斜させて放電加工を行った後、前記下側ワイヤガイドを停止させて前記加工経路に沿って前記上側ワイヤガイドを前記下側ワイヤガイドに対して相対的に前進させ、前記ワイヤ電極が垂直に戻るまで放電加工を行うことにより、前記中子の上部側および下部側のいずれにも前記ワイヤ電極の成分を付着させた後、前記極間に前記ワークが正電位となり前記ワイヤ電極が負電位となる正極性の電圧を印加するように極性を反転させることを特徴とするワイヤ放電加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中子の任意の領域にワイヤ電極の成分を付着させ、ワークの落下を防止することができるワイヤ放電加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
加工電極とワークとの間に形成される極間に放電を発生させて行う放電加工を、板状等のワークに対するワイヤ電極による糸鋸状の切断加工に適用したワイヤ放電加工は広く知られ普及してきている。このワイヤ放電加工では、加工中において、加工溝により切り離されるワークの内側部分をなす中子の落下を防止すべく、中子の任意の領域にワイヤ電極の成分を付着させる技術が採用されており、このような技術は例えば特許文献1および特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭61−041690号公報
【特許文献2】特開昭62−218024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述の如きワイヤ電極の成分の付着は、従来は中子の上部側または下部側のいずれか片側のみで行っていた。しかしながら、成分の付着を中子の片側のみで行っていたのでは、十分な付着力が得られず、加工中に中子が落下することがある等、加工に支障を来たすことがあった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、加工中においてワークに中子を確実に保持することができるワイヤ放電加工機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、ワイヤ放電加工機に係る請求項1の発明は、ワークテーブルに載置されたワークを加工するワイヤ電極を、ワークを介して上側に配置される上側ワイヤガイドと下側に配置される下側ワイヤガイドによりガイドしながら上方から下方に繰り出して加工経路に沿って移動させワークに加工溝を形成するとともに、加工溝により切り離されたワークの内側部分をなす中子の任意の領域にワイヤ電極の成分を付着させ、ワークの落下を防止する構成を備えたワイヤ放電加工機であって、ワークとワイヤ電極との間に形成される極間に前記ワークが負電位となりワイヤ電極が正電位となる逆極性の電圧を印加し、上側ワイヤガイドおよび下側ワイヤガイドの水平方向の位置を同一としてワイヤ電極を垂直に設定した状態から、加工経路に沿って下側ワイヤガイドを上側ワイヤガイドに対して相対的に前進させ、ワイヤ電極を傾斜させて放電加工を行った後、下側ワイヤガイドを停止させて加工経路に沿って上側ワイヤガイドを下側ワイヤガイドに対して相対的に前進させ、ワイヤ電極が垂直に戻るまで放電加工を行うことにより、中子の上部側および下部側のいずれにもワイヤ電極の成分を付着させた後、極間に前記ワークが正電位となりワイヤ電極が負電位となる正極性の電圧を印加するように極性を反転させることを特徴とする。
【0007】
本発明では、ワークとワイヤ電極との間に形成される極間にワークが負電位となりワイヤ電極が正電位となる逆極性の電圧を印加し、上側ワイヤガイドおよび下側ワイヤガイドの水平方向の位置を同一としてワイヤ電極を垂直に設定した状態から、加工経路に沿って下側ワイヤガイドを上側ワイヤガイドに対して相対的に前進させ、ワイヤ電極を傾斜させて放電加工を行った後、下側ワイヤガイドを停止させて加工経路に沿って上側ワイヤガイドを下側ワイヤガイドに対して相対的に前進させ、ワイヤ電極が垂直に戻るまで放電加工を行うことにより、中子の上部側および下部側のいずれにもワイヤ電極の成分を付着させた後、極間に前記ワークが正電位となりワイヤ電極が負電位となる正極性の電圧を印加するように極性を反転させる。これにより、加工中においてワークに中子を確実に保持させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、加工中においてワークに中子を確実に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1実施形態に係るワイヤ放電加工機における全体構成の概要を示す模式図である。
図2】同ワイヤ放電加工機における電源装置の構成を示す回路図である。
図3】非付着領域の加工を行う際(極間に正極性の電圧を印加したとき)の電源装置の構成を示す回路図である。
図4】付着領域の加工を行う際(極間に逆極性の電圧を印加したとき)の電源装置の構成を示す回路図である。
図5】本発明における中子に対するワイヤ電極の真鍮成分の付着方法を説明するための平面図である。
図6】中子に対するワイヤ電極の真鍮成分の付着方法を説明するための図5の一部を拡大して示す平面図である。
図7】中子に対するワイヤ電極の真鍮成分の付着方法を説明するための図5の一部を拡大して示す正面図である。
図8】中子に対するワイヤ電極の真鍮成分の付着方法を説明するための図5の一部を拡大して示す別の側面図である。
図9】ワイヤ放電加工機におけるNC制御装置の構成を示すブロック図である。
図10】NC制御装置による真鍮成分の付着方法を説明するためのフローチャートである
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明の第1実施形態を示すワイヤ放電加工機1の全体構成の概略を示す図である。同図を参照してワイヤ放電加工機1の概要を説明すると、ワイヤ放電加工機1は、上側ワイヤガイド2と下側ワイヤガイド3との間に工具電極としての黄銅製のワイヤ電極Eを連続的に供給しながら、加工槽4内においてワークWを水系加工液(以下、水系加工液を単に加工液とする)に浸漬した状態でワークWの放電加工を行う。ワイヤ放電加工機1は、ワークWをワークテーブル5に載置して行い、電源装置10によりワイヤ電極EとワークWとの間の極間7に所定の電圧を印加して行う。
【0015】
図2に示すように、電源装置10は、加工用直流電源11とスイッチング回路12を備えている。スイッチング回路12は4つのスイッチングトランジスタ12A乃至12Dが図示の如くブリッジ接続されており、スイッチングトランジスタ12Bとスイッチングトランジスタ12Dとの接続点Jは加工用直流電源11のマイナス側に接続され、スイッチングトランジスタ12Aとスイッチングトランジスタ12Cとの接続点Kは加工用直流電源11のプラス側に接続されている。そして、スイッチングトランジスタ12Aとスイッチングトランジスタ12Bとの接続点Lは通電素子2a、3aを介してワイヤ電極Eと電気的に接続され、スイッチングトランジスタ12Cとスイッチングトランジスタ12Dとの接続点MはワークWと電気的に接続されている。
【0016】
図3に示すように、スイッチングトランジスタ12B、12Cがオンで、スイッチングトランジスタ12A、12Dがオフとされると、加工用直流電源11のプラス側とワークWとが電気的に接続されるとともに、加工用直流電源11のマイナス側とワイヤ電極Eとが電気的に接続され、ワークWが正電位でワイヤ電極Eが負電位となる正極性の矩形波パルス電圧が加工中に極間7に印加される。
【0017】
図4に示すように、スイッチングトランジスタ12A、12Dがオンでスイッチングトランジスタ12B、12Cがオフとされると、加工用直流電源11のマイナス側とワークWとが電気的に接続されるとともに、加工用直流電源11のプラス側とワイヤ電極Eとが電気的に接続され、ワークWが負電位でワイヤ電極Eが正電位となる逆極性の矩形波パルス電圧が加工中に極間7に印加される。
【0018】
スイッチングトランジスタ12A、12Dおよびスイッチングトランジスタ12B,12Cのオンオフ動作を交互に行うことで正極性および逆極性の両極性を有する矩形波パルス電圧の出力を高周波で交互に繰り返す高周波両極性矩形波パルス電圧を極間7に印加することができる。更に、ワイヤ放電加工機1は、各移動軸の駆動機構をなす各軸モータ6により極間7の距離を所定に設定しながら行う。
【0019】
本発明においては、移動軸として、U軸、V軸、X軸、Y軸、およびZ軸が設定されている。U軸は上側ワイヤガイド2の水平方向の移動軸をなし、V軸はU軸と水平方向に沿って直交する移動軸をなし、X軸は下側ワイヤガイド3の水平方向の移動軸をなし、Y軸はX軸と水平方向に沿って直交する移動軸をなし、Z軸は鉛直軸方向の移動軸をなしている。ワイヤ放電加工機1は、上側ワイヤガイド2のU軸およびV軸に沿った移動方向と下側ワイヤガイド3のX軸およびY軸に沿った移動方向とが相互に反対方向となるように設定してワイヤ電極Eに傾斜を付与し、ワークWのテーパ加工を行うことができる。
【0020】
ワイヤ放電加工機1は更にNC制御装置20を備えており、このNC制御装置20により加工プログラムを解読しつつ所定の制御信号が生成される。すなわち、ワイヤ放電加工機1は、NC制御装置20が生成した制御信号に基づいて各軸モータ6および電源装置10を動作させ、中子の任意の箇所にワイヤ電極Eの真鍮成分を付着させながら放電加工を行うことができる。
【0021】
このワイヤ放電加工機1による中子に対する真鍮成分の付着方法を説明すると次のようになる。すなわち、図5に示すように、まずワークWにおいて加工経路Bを設定するとともに、加工経路B上にワイヤ電極Eの真鍮成分の付着領域Cを設定しその他の加工経路Bを非付着領域Dとしつつ、各軸モータ6を動作させて加工溝Fを形成しながらワイヤ電極Eを加工経路B上に沿って移動させる。
【0022】
つまり、図6および図7に示すように、非付着領域Dでは上側ワイヤガイド2および下側ワイヤガイド3を水平方向の位置を同一としてワイヤ電極Eを垂直に設定する。そして、非付着領域Dではスイッチング回路12を図3の状態として極間7に正極性の電圧を印加し通常の加工条件で加工溝Fの形成のみを行う。
【0023】
一方、付着領域Cでは、図6に示すように、スイッチング回路12を図4の状態とし極間7に逆極性の電圧を印加する。そして、付着領域Cでは、図8(a)に示すように、上側ワイヤガイド2および下側ワイヤガイド3を水平方向の位置を同一としてワイヤ電極Eを垂直に設定した状態から、図8(b)に示すように、下側ワイヤガイド3のみを加工経路Bの進行方向に沿って(以下、「加工経路Bの進行方向に沿って」は単に「加工経路Bに沿って」とする)前進させることにより、下側ワイヤガイド3を、上側ワイヤガイド2よりも先に加工経路Bに沿って前進させ、ワイヤ電極Eの傾斜を、加工経路Bに沿って付与し、中子Aの下部側のみ加工溝Fの形成と同時にワイヤ電極Eの真鍮成分の付着を行う。そして、図8(c)に示すように、下側ワイヤガイド3を停止させた状態としながら上側ワイヤガイド2を前進させ、上側ワイヤガイド2および下側ワイヤガイド3の水平方向の位置を同一としてワイヤ電極Eを垂直に設定しつつ、中子Aの上部側においても加工溝Fの形成と同時にワイヤ電極Eの真鍮成分の付着を行い、以後一定の時間間隔で付着領域Cの終端に達するまで図8(b)および図8(c)の動作を繰り返し行う。これにより、中子Aの上部側および下部側のいずれにもワイヤ電極Eの真鍮成分を付着させることができる。
【0024】
本発明においては、このような中子Aの真鍮成分の付着制御が可能なようにNC制御装置20を備えている。NC制御装置20は、図9に示すように、入力手段30、記憶手段40、および処理手段50からなり、これら各手段30乃至50が機能することにより制御信号を生成して、上述の如く中子Aの上部側および下部側のいずれにもワイヤ電極Eの真鍮成分を付着させることができる。
【0025】
入力手段30は、例えば、キーボード、マウス、或いはタッチパネル等で構成されており、入力手段30から処理手段50における各種処理に必要な情報が入力される。入力手段30からは、記憶手段40に記憶された加工プログラムを読み出すための情報が入力される。なお、入力手段30は、USBおよびLANを介して他の装置から各種情報を入力する構成も含む。
【0026】
記憶手段40は、ワイヤ放電加工を実行するための加工プログラムが記憶されている。加工プログラムには、極間7に正極性の電圧を印加し通常のワイヤ放電加工を行うための第1の加工条件、加工経路B、極間7に逆極性の電圧を印加し真鍮成分の付着を行うための第2の加工条件をなす付着加工条件、および付着領域Cのそれぞれに関するデータが含まれる。なお、加工経路Bのうち付着領域C以外の領域が非付着領域Dとなる。
【0027】
処理手段50は、入力手段30から入力された各種情報と記憶手段40に記憶された加工プログラムに基づいて、真鍮成分の付着を行いつつワイヤ放電加工を実行すべく、設定手段51、付着領域加工制御手段52、非付着領域加工制御手段53、および領域判断手段54として機能する。
【0028】
設定手段51は、入力手段30から入力された情報に基づいて記憶手段40から加工プログラムを読み出して、加工経路B、第1の加工条件、第2の加工条件、付着領域C、および非付着領域Dを設定する機能を有している。
【0029】
付着領域加工制御手段52は、所定の制御信号を生成して各軸モータ6および電源装置10を動作させ、設定手段51により設定された付着領域Cにおいて、第2の加工条件で、図8に示すように、下側ワイヤガイド3を、上側ワイヤガイド2よりも先に加工経路Bに沿って前進させ、ワイヤ電極Eの傾斜を、加工経路Bに沿って付与し中子Aの下部側のみ加工溝Fの形成と同時にワイヤ電極Eの真鍮成分の付着を行う。そして、同じく図8に示すように、下側ワイヤガイド3を停止させた状態としながら上側ワイヤガイド2を前進させ、中子Aの上部側においても加工溝Fの形成と同時にワイヤ電極Eの真鍮成分の付着を行い、以後一定の時間間隔で付着領域Cの終端に達するまでこれらの動作を繰り返し行い、中子Aの上部側および下部側のいずれにもワイヤ電極Eの真鍮成分を付着させる機能を有している。
【0030】
非付着領域加工制御手段53は、所定の制御信号を生成して各軸モータ6および電源装置10を動作させ、設定手段51により設定された非付着領域Dにおいて、加工経路Bに沿ってワイヤ電極Eを移動させつつ第1の加工条件に基づいてワークWの通常の放電加工を実行つまりワイヤ電極Eの真鍮成分の付着を行わず加工溝Fの形成のみを行う機能を有している。
【0031】
領域判断手段54は、ワイヤ放電加工の実行中に加工経路B上のワイヤ電極Eの位置を所要に検出し、ワイヤ電極Eの位置が付着領域Cおよび非付着領域Dのいずれにあるかの判断を行う機能を有している。
【0032】
次に、NC制御装置20によるワイヤ電極Eの真鍮成分の付着方法について図10のフローチャートに基づいて詳細に説明する。
まず、ステップS10において、作業者から入力手段30を介して入力した所定の情報に基づいて、設定手段51が記憶手段40から加工プログラムを読み出しつつ、第1の加工条件、加工経路B、第2の加工条件、付着領域C、および非付着領域Dを設定し、ワークWのワイヤ放電加工の実行を開始する。
【0033】
次いで、ステップS20において、領域判断手段54が加工経路B上のワイヤ電極Eの位置を所要に検出し、ワイヤ電極Eの位置が付着領域C上にあるか否かの判断を行い、付着領域C上にあると判断した場合は、ステップS30において、付着領域加工制御手段52が制御信号を生成して各軸モータ6および電源装置10を動作させて、付着領域Cにおいて、第2の加工条件で、下側ワイヤガイド3を、上側ワイヤガイド2よりも先に加工経路Bに沿って前進させ、ワイヤ電極Eの傾斜を、加工経路Bに沿って付与し中子Aの下部側のみ加工溝Fの形成と同時にワイヤ電極Eの真鍮成分の付着を行う。そして、下側ワイヤガイド3を停止させた状態としながら上側ワイヤガイド2を前進させ、中子Aの上部側においても加工溝Fの形成と同時にワイヤ電極Eの真鍮成分の付着を行い、以後一定の時間間隔で付着領域Cの終端に達するまでこれらの動作を繰り返し行う。これにより、中子Aの上部側および下部側のいずれにもワイヤ電極Eの真鍮成分を付着させる。
【0034】
一方、ステップS20において、領域判断手段54が加工経路B上のワイヤ電極Eの位置が付着領域C上にないと判断した場合つまりワイヤ電極Eの位置が非付着領域D上にあると判断した場合は、ステップS40において、非付着領域加工制御手段53が制御信号を生成して各軸モータ6および電源装置10を動作させ、非付着領域Dにおいて、加工経路Bに沿ってワイヤ電極Eを移動させつつ第1の加工条件に基づいてワークWの通常の放電加工を実行し、以後、ステップS50において、NC制御装置20がワイヤ放電加工の終了を確認するまでステップS30乃至ステップS40の動作を行う。
【0042】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、必要に応じて種々の応用実施または変形実施が可能であることは勿論である。すなわち、例えば、上述した実施形態にあっては、加工液を水系加工液としているが、油系加工液としても本発明の真鍮付着方法を実施することができる。
【0043】
また、上述した実施形態にあっては、上側ワイヤガイド2と下側ワイヤガイド3をそれぞれU軸およびV軸とX軸およびY軸に沿って水平方向に移動させることによりワイヤ電極Eに傾斜を付与して中子Aの上部側および下部側のいずれにもワイヤ電極Eの真鍮成分の付着を行うこととしているが、ワークテーブル5をX軸およびY軸に沿って水平方向に移動させることにより真鍮成分の付着を行うこととしてもよい。
【0044】
すなわち、例えば、ワイヤ電極Eの傾斜を、加工経路Bに沿って付与する場合においては、上側ワイヤガイド2および下側ワイヤガイド3を水平方向の位置を同一としてワイヤ電極Eを垂直に設定した状態から、図13(a)に示すように、下側ワイヤガイド3のみを加工経路Bに沿って前進させることにより、下側ワイヤガイド3を、上側ワイヤガイド2よりも先に加工経路Bに沿ってワークWとワイヤ電極Eが接触する直前の位置まで前進させ、ワイヤ電極Eの傾斜を、加工経路Bに沿って付与し、続いて、図13(b)に示すように、ワークWをワイヤ電極Eと接触するようにワークテーブル5を水平方向に移動させ、中子Aの下部側のみ加工溝Fの形成と同時にワイヤ電極Eの真鍮成分の付着を行った後、図13(c)に示すように、下側ワイヤガイド3を停止させた状態としながら上側ワイヤガイド2を前進させ、中子Aの上部側においても加工溝Fの形成と同時にワイヤ電極Eの真鍮成分の付着を行い、これを繰り返すことにより中子Aの上部側および下部側のいずれにもワイヤ電極Eの真鍮成分を付着させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のワイヤ放電加工機は、加工中に中子の落下を防止することができ、加工効率の飛躍的な向上に貢献する。
【符号の説明】
【0047】
A:中子
B:加工経路
C:付着領域
D:非付着領域
E:ワイヤ電極
F:加工溝
H:ワークの厚み方向の中央位置
I:交点
J,K,L,M:接続点
1:ワイヤ放電加工機
2:上側ワイヤガイド
2a:通電素子
3:下側ワイヤガイド
3a:通電素子
4:加工槽
5:ワークスタンド
6:各軸モータ
7:極間
10:電源装置
11:加工用直流電源
12:スイッチング回路
12A乃至12D:スイッチングトランジスタ
20:NC制御装置
30:入力手段
40:記憶手段
50:処理手段
51:設定手段
52:付着領域加工制御手段
53:非付着領域加工制御手段
54:領域判断手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10