(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C:0.001〜0.03mass%、Si:0.01〜0.5mass%、Mn:0.1〜1.6mass%、P:0.03mass%以下、S:0.0020mass%以下、Ni:74〜80mass%、Cr:0.3mass%以下、Mo:3〜5mass%、Cu:2〜6mass%、Al:0.001〜0.03mass%、Ti:0.01〜0.10mass%、N:0.004mass%以下、B:0.001〜0.004mass%およびO:0.005mass%以下を含有し、かつ、上記NおよびTiが下記(1)式を満たして含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有するNi−Fe系パーマロイ合金。
記
571.4×N−42.86×Ti≦1 ・・・(1)
ここで、上記元素記号は、各元素の含有量(mass%)を示す。
【背景技術】
【0002】
Ni−Fe系合金の中で、比較的Niの多い組成で高透磁率を示すものは、一般に「パーマロイ」といわれ、主に弱電用磁心材料等として用いられている。JIS C2531:「鉄ニッケル軟磁性材料」には、上記パーマロイ合金として、PB材(Ni:40〜50mass%)、PC材(70〜85mass%)およびPD材(Ni:35〜40mass%)などが規定されている。これらの中で、PC材は、比透磁率が高く、直流磁気特性にも優れていることから、磁気遮蔽材(シールド材)や磁気ヘッド材、トランスコア等に使用されている。
【0003】
上記PC材の製造性を改善する方法や、優れた比透磁率を得るための製造技術については、これまで多くの提案がなされている。例えば、特許文献1には、PCパーマロイ合金、ICリードフレーム用42合金、低熱膨張アンバー合金、ガラス封着用42−6合金等、Niを33〜85wt%含有する合金中に、0.001〜0.1wt%のBを添加し、水素または真空の非酸化性雰囲気中での熱処理し、脱B処理を施すことで、熱間加工性と磁気特性に優れるFe−Ni合金を得る技術が提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、Ni:65〜90%を含むNi−Fe合金に、Mo,Cu,Crを添加したPCパーマロイを基本成分とし、これにTi,Zr,Nb,Ta,VおよびWの1種または2種以上を添加することで、磁気焼鈍後の結晶粒を粗大化させて、磁気特性を向上させたPCパーマロイ合金が提案されている。
【0005】
また、特許文献3には、Ni:77.5〜79.5wt%を含むNi−Fe合金に、Mo,Cu,Mn,Siを添加したPCパーマロイ合金に、Bを0.0005wt%≦([B]−10.8[N])/14≦0.0070mass%の範囲で添加し、かつ、磁気焼鈍後のオーステナイト粒界およびその近傍でのB量を10〜50at%に制御することで、熱間加工性が良好で、優れた交流磁気特性と直流磁気特性に優れるNi−Fe系高透磁率磁性合金が提案されている。
【0006】
また、特許文献4には、Ni:30〜85wt%のFe−Ni系合金に,5〜50ppmのBを添加し、[B(at%)]/[N(at%)]を0.8以上となるようにBおよびNを制御することによって、低温短時間の磁性焼鈍で高透磁率の磁性合金を得る技術が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1の技術は、Bを添加することで熱間加工性の改善に成功しているものの、磁気焼鈍後においても、合金板中にBが0.001mass%程度残存しているため、熱処理後の初比透磁率は50000〜75000程度と低く、高性能の磁気特性が要求される用途に対しては不十分である。
【0009】
また、特許文献2の技術は、最大透磁率で136000〜352000という高い直流磁気特性を得ることができるが、S量が0.0008〜0.018mass%と高く、またBも無添加であるため、熱間加工性に劣るという問題を有している。また、Ti,Zr,Nb,Ta,VおよびWの1種または2種を添加することで、磁気焼鈍後の平均結晶粒径を250μm以上に成長させているが、結晶粒径の粗大化に伴ない、交流磁気特性が悪化するため、斯かる特性が必要とされる用途には不向きである。
【0010】
また、特許文献3の技術は、B量およびN量を制御することで、高い熱間加工性と磁気特性を実現している。しかし、この技術では、添加したBがNと結合してB窒化物を形成し、磁気特性が劣化するのを防止するため、N量を0.0010mass%以下に抑えなければならず、高純度の原材料を使用したり、精錬工程数の増加を招いたりすることから、製造コストの上昇を避けられない。
【0011】
また、特許文献4の技術は、結晶粒の粗大化を促進することを目的として、Bを添加している。しかし、この技術では、パーマロイ合金を製造する際に混入するCやSi,Mnといった磁気特性に悪影響を及ぼす元素の規定がなされていない。さらに、熱間加工性に悪影響を及ぼすSについても規定していないため、熱間加工性が極めて低いという欠点がある。さらに、結晶粒を粗大化することで、十分な直流磁気特性を得ているものの、交流磁気特性が必要とされる用途に不適である。
【0012】
本発明は、従来技術が抱える上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、熱間加工性および交流磁気特性に優れたNi−Fe系パーマロイ合金を提供する
とともに、その製造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を重ねた。その結果、Bは熱間加工性を改善するためには必須の元素であるが、磁気特性に対しては有害な元素であること、したがって、熱間加工時にはBを含有しており、磁気特性が要求される使用時(製品)にはBを含有していないことが望ましいこと、そのためには、合金の溶製時に添加したBが、製品に加工後の磁気焼鈍によって容易に0.0004mass%以下に低減されることが重要であることを見出し、本発明を開発するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、C:0.001〜0.03mass%、Si:0.01〜0.5mass%、Mn:0.1〜1.6mass%、P:0.03mass%以下、S:0.0020mass%以下、Ni:74〜80mass%、Cr:0.3mass%以下、Mo:3〜5mass%、Cu:2〜6mass%、Al:0.001〜0.03mass%、Ti:0.01〜0.10mass%、N:0.004mass%以下、B:0.001〜0.004mass%およびO:0.005mass%以下を含有し、
かつ、上記NおよびTiが下記(1)式;
571.4×N−42.86×Ti≦1 ・・・(1)
を満たして含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有するNi−Fe系パーマロイ合金である。
ここで、上記(1)式中の元素記号は、各元素の含有量(mass%)を示す。
【0016】
また、本発明
は、上記のNi−Fe系パーマロイ合金に、水素雰囲気下において、900〜1050℃×1〜6時間の磁気焼鈍を施し
、B含有量
を0.0004mass%以下
とすることを特徴とす
るNi−Fe系パーマロイ合金
の製造方法を提案する。
【0017】
また、本発明の
上記Ni−Fe系パーマロイ合金
の製造方法は、合金板の圧延方向と平行な板厚断面に存在するTi窒化物
のうち、1.0μm未満の大きさのもの
を20個/mm
2以下、1.0μm以上の大きさのもの
を30個/mm
2以下
とし、圧延方向に垂直な板厚断面における平均結晶粒径
を80〜250μm
とすることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の
上記Ni−Fe系パーマロイ合金
の製造方法は、上記磁気焼鈍後の1kHzにおけるインダクタンス比透磁率
を7800以上
とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、熱間加工性に優れ、かつ、交流磁気特性にも優れるNi−Fe系パーマロイ合金を安定して提供することができる。また、本発明の上記Ni−Fe系パーマロイ合金は、大気溶解および連続鋳造法によって工業的に大量生産することができるので、安価に提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
まず、本発明の基本的技術思想について説明する。
パーマロイ合金の熱間加工性を確保するためには、Bの添加が必要不可欠と考えられるが、上述したように、Bは磁気特性を悪化させるという報告と、改善するという報告とが存在する。そこで、発明者らは、Bが磁気特性に及ぼす影響について各種実験を行い、再検討した。その結果、Bは、やはり磁気特性に有害な元素であること、したがって、熱間加工性と交流磁気特性の両立を図るためには、合金板を製品形状に加工後、例えば、水素雰囲気中で、1100℃×3時間の熱処理後、徐冷する、いわゆる「磁気焼鈍」を施したときに、製品中に含まれるBが0.0004mass%以下に容易に低減するものであることが必要であることを知見した。
【0021】
一方、粗大な結晶粒は、交流磁気特性を低下させることから、優れた交流磁気特性が要求される場合には、結晶粒の粗大化を防止するため、上900〜1000℃程度の比較的低い温度で磁気焼鈍を施すことが必要となる。しかし、このような低温の磁気焼鈍では、十分に脱B反応が進行せず、残存したBによって磁気特性が劣化する。
また、Nを多く含む合金では、Bは合金中に窒化物として存在するため、上記磁気焼鈍での脱Bが進み難く、やはり磁気特性を低下させてしまう。
【0022】
そこで、本発明は、上記問題点を回避するため、少量のTiを添加し、NをTi窒化物として固定することで、B窒化物の形成を抑止し、脱B反応の促進を図ることとした。ここで、同じ窒化物でも、B窒化物の形成を抑止し、Ti窒化物を形成させる理由は、B窒化物はサイズが1μm以下と小さく、磁壁の移動を阻害する力が大きいのに対して、Ti窒化物は1〜5μm程度でB窒化物に比べて大きいため、磁壁の移動をそれほど阻害しないからである。
【0023】
また、大気溶解および連続鋳造法で製造したNi−Fe系パーマロイ合金板は、内部欠陥が発生し易いという問題がある。この内部欠陥は、合金を大気溶解し、連続鋳造して製造する過程において、合金中に不可避的に含有される0.004mass%程度のNガスに起因するものであることが明らかとなっている。
上記の内部欠陥を防止するには、例えば、Ti等の窒化物形成元素を添加し、Nを固定することが有効である。しかし、Tiを過剰に添加し過ぎると、多量のTi窒化物を形成して、逆に、結晶粒の成長に悪影響を及ぼしたり、交流磁気特性を劣化させたりする。
【0024】
そこで、本発明は、Nを固定するためのTi添加量を最適化し、合金板中に存在するTi窒化物の大きさと個数および結晶粒の大きさを適正範囲に制御することによって、内部欠陥の発生を防止するとともに、交流磁気特性の向上を図ることとした。
本発明は、上記技術思想の下に、さらに検討を加えて開発したものである。
【0025】
次に、本発明のNi−Fe系パーマロイ合金の成分組成について説明する。
C:0.001〜0.03mass%
Cは、合金の強度を確保するために必要な元素であり、0.001mass%未満では必要な強度を得ることができない。一方、0.03mass%を超えると、結晶粒の成長および磁壁の異動を阻害するようになり、磁気特性を低下させる。よって、Cの含有量は0.001〜0.03mass%の範囲とする。好ましくは0.001〜0.02mass%の範囲である。
【0026】
Si:0.01〜0.5mass%
Siは、脱酸剤として添加される元素であり、0.01mass%未満では、十分な脱酸効果を得ることができない。一方、0.5mass%を超える添加は、生成される規則格子によって、結晶磁気異方性が大きくなってしまうからである。よって、Siの含有量は0.01〜0.5mass%の範囲とする。好ましくは0.05〜0.4mass%、より好ましくは0.05〜0.3mass%の範囲である。
【0027】
Mn:0.1〜1.6mass%
Mnは、脱酸剤として添加される元素であり、また、規則格子の生成をコントロールするのに有効な元素でもある。0.1mass%未満では、上記効果が十分に得られず、一方、1.6mass%を超える添加は、生成される規則格子によって、結晶磁気異方性が大きくなってしまうからである。よって、Mnの含有量は0.1〜1.6mass%の範囲とする。好ましくは0.2〜0.9mass%の範囲である。
【0028】
P:0.03mass%以下
Pは、熱間加工性を低下させる元素であり、低いほど望ましい元素である。よって、Pは0.03mass%以下とする。好ましくは0.01mass%以下である。
【0029】
S:0.0020mass%以下
Sは、熱間加工性を低下させる元素であり、熱間加工性の改善に有効なBを添加したときでも、できる限り低減するのが望ましい。よって、Sは0.0020mass%以下とする。ただし、0.0001mass%未満に低減することは、精錬コストの上昇を招くので、下限は0.0001mass%程度とするのが好ましい。
【0030】
Ni:74〜80mass%
Niは、優れた交流磁気特性を得るために必要な元素であり、74mass%未満、84mass%超えのいずれの場合も、目的とする磁気特性は得られないので、74〜80mass%の範囲に制限する。好ましくは75〜79mass%、より好ましくは76〜78mass%の範囲である。
【0031】
Cr:0.3mass%以下
Crは、本発明が対象とする合金においては不可避的不純物であり、磁気特性を低下させる有害元素である。よって、本発明ではCrの含有量を0.3mass%以下に制限する。好ましくは0.2mass%以下である。
【0032】
Mo:3〜5mass%
Moは、結晶磁気異方性や磁歪に影響する規則格子の生成条件を制御する働きを有し、本発明の合金を実用的な製造条件で安定して製造するための重要な元素である。すなわち、規則格子の生成は、磁気焼鈍時の冷却速度に影響を受け、Moを含まない場合には、非常に速い冷却速度が必要となるが、Moを3mass%以上含有させることによって、実用的な冷却速度で規則格子を生成させて、最大の直流および交流磁気特性を得ることができる。これは、上記規則格子はNi
3Feからなるが、これが生成することによって、結晶磁気異方性の絶対値が限りなく小さくなり、優れた磁気特性を有するようになるからである。しかし、Moを5mass%超え添加すると、却って最適な冷却速度が遅くなり過ぎる。よって、本発明では、Moの含有量を3〜5mass%の範囲とする。好ましくは3.2〜4.8mass%、より好ましくは3.5〜4.5mass%の範囲である。
【0033】
Cu:2〜6mass%
Cuは、Moと同様に、本発明の合金の規則格子の生成条件を制御し、安定化させる作用がある。また、Cuは、電気抵抗を高める元素であり、交流磁気特性を向上させる効果もあるので、2mass%以上の添加を必要とする。一方、Cuの過剰な添加は、Feの含有量を低下し、飽和磁束密度の低下をもたらす。よって、Cuの含有量は2〜6mass%の範囲とする。好ましくは3.4〜5.5mass%、より好ましくは4.0〜5.1mass%の範囲である。
【0034】
Al:0.001〜0.03mass%
Alは、脱酸剤として添加される元素であり、0.001mass%以下では、十分な脱酸効果が得られず、O濃度が高くなって、酸化物系介在物が増加し、磁気特性が低下する。一方、Al添加量が0.03mass%を超えると、Nと結合し、微細なAl窒化物を形成するようになり磁気特性の低下を招く。よって、Alは0.001〜0.03mass%の範囲とする。好ましくは0.001〜0.02mass%、より好ましくは0.001〜0.01mass%の範囲である。
【0035】
Ti:0.01〜0.10mass%
Tiは、本発明においては磁気特性に有害なB窒化物の形成を阻止するために必要な元素であり、また、内部欠陥の主原因であるNを固定するための重要な元素でもある。Tiの添加量が0.01mass%未満では上記効果が十分に得られず、一方、0.10mass%を超える過剰な添加は、Ti窒化物が多量に形成され、磁気特性の低下を招く。よって、Tiは0.01〜0.10mass%の範囲とする。好ましくは0.02〜0.08mass%、より好ましくは0.02〜0.07mass%の範囲である。
【0036】
B:0.001〜0.004mass%
Bは、本発明の合金の熱間加工性を高めるために必要な元素であり、0.001mass%未満では、上記効果が得られず、熱間圧延時に耳割れが発生し、大幅な歩留まり低下を引き起こす。一方、0.004mass%を超える多量の添加は、磁気焼鈍での脱Bが不十分となり、製品板に残存して磁気特性を低下させる。また、Nを多量に含有する場合には、B窒化物を形成して、交流磁気特性を低下させる。よって、本発明においては、Bは0.001〜0.004mass%の範囲とする。好ましくは0.001〜0.003mass%の範囲である。
【0037】
N:0.004mass%以下
Nは、Bを添加している場合には、B窒化物を形成し、磁気特性を低下させる。また、大気溶解し、連続鋳造でスラブを製造する際、合金中に多量に含有すると、内部欠陥を引き起こす原因となる。さらに、Nは、Alの含有量が高い場合には、微細なAl窒化物を形成し、磁壁の移動を妨げて磁気特性を低下させるため、できる限り低減するのが望ましい。よって、本発明では、Nは0.004mass%以下に制限する。しかし、大気溶解でのNの低減には限界があり、0.001mass%未満に低減するには、精錬コストの大幅な上昇を招く。よって、Nの下限は、0.001mass%程度とするのが好ましい。より好ましくは0.001〜0.003mass%、さらに好ましくは0.001〜0.002mass%の範囲である。
【0038】
O:0.005mass%以下
Oは、他の元素と酸化物系介在物を形成し、磁気特性を低下させる有害元素であるため、できる限り低減するのが望ましく、本発明では、0.005mass%以下に制限する。好ましくは0.004mass%以下、より好ましくは0.003mass%以下である。
【0039】
次に、本発明のNi−Fe系パーマロイ合金の特性について説明する。
1.0μm未満のTi窒化物:20個/mm
2以下、1.0μm以上のTi窒化物:30個/mm
2以下
合金中に存在するTi窒化物は、結晶粒の成長を阻害するだけでなく、磁壁の移動を妨げ、磁気特性を低下させる。上記磁気特性に及ぼす悪影響は、1.0μm未満のTi窒化物で大きく、1.0μm以上では比較的小さい。そこで、本発明においては、後述する実施例1の結果から、1.0μm未満のTi窒化物を20個/mm
2以下、1.0μm以上のTi窒化物を30個/mm
2以下に制限する。
ここで、上記Ti窒化物の個数は、合金板の圧延方向と平行な断面を走査型電子顕微鏡SEMで、合計1mm
2の視野を観察したときに観察されるTi窒化物の個数である。ただし、1.0μm未満の場合には、0.1μm以上1.0μm未満のTi窒化物の個数である。なお、上記Ti窒化物の大きさおよび個数は、後述する実施例からもわかるように、磁気焼鈍条件の影響を受けないので、磁気焼鈍の前、後のいずれの段階で測定してもよい。
【0040】
結晶粒径:80〜250μm
結晶粒径は、交流磁気特性に大きな影響を及ぼす因子であり、250μmを超えると交流磁気特性が低下する。逆に、80μm未満となると、直流磁気特性が低下する。よって、本発明の合金は、平均結晶粒径を80〜250μmの範囲とするのが好ましい。より好ましくは100〜250μmの範囲である。
なお、本発明における上記結晶粒径は、冷間圧延した合金板に、水素雰囲気下で900〜1050℃×1〜6時間の磁気焼鈍を施した後、圧延方向と垂直な断面を光学顕微鏡にて100倍程度で観察し、JIS G0551に準拠した切断法で求めた平均結晶粒径と定義する。なお、上記平均結晶粒径は、後述する実施例からもわかるように、磁気焼鈍条件の影響を大きく受けるので、磁気焼鈍後に測定する必要がある。
【0041】
次に、本発明のNi−Fe系パーマロイ合金の製造方法について説明する。
本発明のNi−Fe系パーマロイ合金は、上記に説明した成分組成のNi−Fe系パーマロイ合金を溶製してスラブとし、熱間圧延し、冷間圧延する公知の製造方法で製造することができる。
ここで、上記合金の溶製方法は、Nの混入量を0.004mass%以下にすることができる方法であれば、いずれの精錬プロセスを用いてもよく、例えば、大気溶解でも構わない。
また、スラブを製造する方法は、造塊し、分塊圧延する方法でもよいが、生産性や製品品質の観点から、連続鋳造法を用いることが好ましい。
また、熱間圧延や冷間圧延についても、常法に従って行えばよく、特に制限はない。
【0042】
次に、上記冷間圧延後の合金板に、優れた交流磁気特性を付与するためには、必要に応じて各種製品形状に加工した後、900〜1050℃の温度で1〜6時間均熱保持する磁気焼鈍を施すことが好ましい。この磁気焼鈍は、製品形状に加工したときに導入された歪を消去するため、および、合金溶製時に熱間加工性を改善するために添加したBを除去し、磁気特性の向上を図るために必要な工程である。
この点、本発明のNi−Fe系パーマロイ合金板は、素材合金中のBおよびNの含有量を適正化し、かつ、上記Nを適量のTiの添加によって固定し、B窒化物の形成を防止しているので、上記磁気焼鈍によって、合金中に残留するBの量を容易に0.0004mass%以下に低減することができるので、優れた交流磁気特性を有する、具体的には、インダクタンス比透磁率が7800以上を有するものとなる。さらに、上記磁気焼鈍によって結晶粒径を適正化した場合には、インダクタンス比透磁率が8000以上を有するものとなる。
【実施例1】
【0043】
鉄屑、ニッケル、フェロニッケルなどの合金原料を60トン電気炉で溶解した後、AODで酸化精錬し、脱酸と脱硫し、さらに精密な成分調整を行って、表1に示したNo.1〜21の成分組成を有する合金を溶製し、連続鋳造法でスラブとした後、該スラブを熱間圧延して熱延板(コイル)とした。
なお、上記熱間板については、コイルの両エッジを全長にわたって目視で検査し、両エッジに発生した長さが10mmを超える割れ個数を測定し、コイル長さ10mあたりの割れ発生数が1箇所以上のものは熱間加工性が劣(×)、1箇所未満の場合は熱間加工性が良(○)と評価した。
【0044】
【表1】
【0045】
次いで、上記熱延板を冷間圧延して板厚0.345mmの冷延板(コイル)とした後、板波探傷法を用いた連続自動超音波探傷試験機でコイルの全長、全幅の内部欠陥の有無を検査し、0.5mm以上の大きさの内部欠陥が、コイルの長さ10mあたり1個以上発生しているものは内部欠陥有り(×)、1個未満のものは内部欠陥無し(○)と評価した。
【0046】
次いで、上記冷延板に、水素雰囲気中で1000℃×3時間の磁気焼鈍を施した後、下記の評価試験に供した。
[Ti窒化物の測定]
冷延板の圧延方向と平行な断面を走査型電子顕微鏡SEMにて、ランダムに合計1mm
2の視野を観察し、存在するTi窒化物の大きさを、0.1μm以上1.0μm未満のものと、1.0μm以上のものとで分別し、それぞれの個数を測定した。
[交流磁気特性の測定]
磁気焼鈍後の冷延板から、JIS C2531に準拠して、外径44mmφ、内径35mmφ、厚さ0.35mmのリング試験片を作製し、1次側、2次側ともに50回の巻線を施した後、1kHzにおけるインダクタンス比透磁率を測定した。
[結晶粒径の測定]
磁気焼鈍後の冷延板の圧延方向と垂直な断面を光学顕微鏡にて100倍で観察し、JIS G0551に準拠した切断法で平均結晶粒径を求めた。
[磁気焼鈍後のB量の分析]
磁気焼鈍後の冷延板をICP発光分析法で分析した。
【0047】
上記の測定結果を表2に示した。この表から、本発明に適合する板No.1〜14の発明例は、いずれも熱間加工性が良好で、内部欠陥の発生も無く、かつ、優れた交流磁気特性を有していることがわかる。
これに対して、No.17は、Bの添加量が低かったため、熱間加工性が低い。
また、No.15および20は、Tiの添加量が本発明の範囲より低く、NがTi窒化物として固定されていないため、冷延板に内部欠陥が発生している。
また、No.No.21は、Ti,Nともに本発明範囲内ではあるが、(1)式を満たしていないため、冷延板に内部欠陥が発生している。
また、No.16は、Tiが本発明の範囲よりも多いため、熱間加工性に優れ、内部欠陥も無いが、Ti窒化物の個数や結晶粒径が、本発明範囲外となり、磁気特性が低下している。
また、No.18は、Bの添加量が多すぎたため、磁気焼鈍後のBが合金中に多量に残留し、磁気特性が低下している。
また、No.19は、Alが本発明の範囲よりも高いために、微細なAl窒化物が多量に形成されたため、磁気特性が低下している。
【0048】
【表2】
【実施例2】
【0049】
実施例1で得た、表1のNo.1とNo.3の冷間圧延後の合金板(厚さ:0.345mm)を、水素雰囲気中で、表3に示した、800〜1100℃×1〜8時間の範囲内で焼鈍条件を変化させて磁気焼鈍を施した後、合金板中に存在するTi窒化物の大きさと個数、平均結晶粒径、B残留量および交流磁気特性を、実施例1と同様にして測定し、その結果を表3に併記した。
【0050】
【表3】
【0051】
表3から、磁気焼鈍後の合金板中に存在するTi窒化物の大きさと個数、平均結晶粒径およびB残留量がすべて本発明の条件を満たすNo.1〜7の合金板は、優れた交流磁気特性を示していることがわかる。
これに対して、No.8の合金板は、磁気焼鈍温度が高過ぎ、平均結晶粒径が本発明の範囲よりも大きくなったため、交流磁気特性が低下している。
また、No.9の合金板は、逆に、磁気焼鈍温度が低過ぎ、磁気焼鈍で脱Bが十分に進まなかったため、交流磁気特性が低下している。
また、No.10の合金板は、磁気焼鈍時間が長く、平均結晶粒径が本発明よりも大きくなってしまったため、やはり、交流磁気特性が低下している。
なお、上記表3から、磁気焼鈍条件が変化しても、Ti窒化物の大きさ、個数にはほとんど変化が認められない。これは、Ti窒化物は主に鋼の凝固時に形成され、その大きさ、個数は、Ti,Nの含有量によってほぼ決定されるため、磁気焼鈍の影響を受け難くなっているためと考えられる。