【実施例1】
【0023】
第1の実施例について
図1−6を用いて説明する。
図1は、本実施例のロータリ圧縮機の圧縮機構部の断面図であり、
図1(a)に圧縮機構部を上方から見た際の横断面図、
図1(b)に縦断面図(
図1のA−A)を示す。
図2は従来技術のロータリ圧縮機の圧縮機構部の断面図であり、
図2(a)に横断面図、
図2(b)に縦断面図(
図2のB−B)を示す。
【0024】
圧縮機のケースとなる密閉容器1内に、電動機部の回転を伝達する偏心部を有するクランク軸2と、クランク軸2の回転動力により圧縮仕事を行う圧縮機構部を備える。圧縮機構部は、シリンダ3と、シリンダ3内に配置されクランク軸2の偏心部により回転駆動されるローラ4と、ローラ4外周に延びてローラ4の偏心運動に応じてシリンダ3に設けられたベーン収納部3aに出入りするベーン5と、シリンダ3の上端面を閉塞し且つクランク軸2を保持する軸受部を有する上ベア6と、シリンダ3の下端面を閉塞し且つクランク軸2を保持する軸受部を有する下ベア7により構成される。
【0025】
図3は
図1のベーンスロット近傍の断面図であり、
図3(a)に横断面図、
図3(b)に縦断面図(
図3のC−C)を示す。
図4は
図2のベーンスロット近傍の断面図であり、
図4(a)に横断面図、
図4(b)にベーンスロット近傍の縦断面図(
図4のD−D)を示す。但し、
図3(b)、
図4(b)においてはベーン5及びスプリング14は省略して図示しており、以下、
図7(b)〜
図9(b)においても同様に省略して図示する。
【0026】
圧縮機構部において冷媒ガスは、シリンダ3に設けられた吸込口8からシリンダ3内に流入し、シリンダ内壁面3aと、ローラ外壁面4aと、ベーン収納部高圧側側面5a又はベーン収納部低圧側側面5bと、上ベア内壁面6aと、下ベア内壁面7aによって形成される圧縮室9内で昇圧され、シリンダ3又はシリンダの上下方向の閉塞部材となる上ベア6或いは下ベア7に設けられた吐出口10から密閉容器1内に排出される。
図1〜
図4では、吐出口10が上ベア6に設けられた例を示す。
【0027】
上ベア6には掘り込み部6bが設けられ、吐出口10と、吐出口10において密閉容器1内の高圧ガスを圧縮室9内へ流入することを防止し密閉容器1内のガス圧力Pdと圧縮室9内のガス圧力Pd‘との差圧によりPd’>Pdとなった際に開口する吐出弁11と、吐出弁11の開度を決定するリテーナ12が収納され、吐出弁11とリテーナ12を覆うカップマフラー13で構成される。
【0028】
図5は、ベーン収納部3a近傍の圧力勾配による冷媒ガス又は冷凍機油の漏れ量を表す概念図であり、図中矢印は漏れ方向を、長さは量を表す。スプリング14の取り付け部は圧縮ガスが吐出される密閉容器1に連通するため常に高圧Pdに保たれる。圧縮室内低圧側は常に圧縮工程前のガスで満たされるため常に低圧Psに保たれる。圧縮室内高圧側は低圧Psから高圧Pd、更にはPd以上に昇圧され、吐出弁11の開口により密閉容器1に吐出されるため、吐出弁11が開口するクランク軸2の角度以前では変動圧Pd’となる。これらの圧力は、吐出弁開口中を除きPd≧Pd’≧Psの関係となる。そのため圧力勾配が形成され
図5の如く漏れが発生する。
【0029】
図6はベーン収納部3a近傍の概略図である。ベーン5とベーン収納部3aは微小なクリアランスがあり、ベーン5は圧縮室内の高圧側と低圧側の仕切であるため、ベーン収納部高圧側側面5aとベーン収納部低圧側側面5bが受ける圧力差によりベーン5が進行方向に対し角度α傾く。そのため、ベーン5とベーン収納部3aは
図6の高圧側接触部19、低圧側接触部20を除き積極的な接触は発生せず、微小クリアランスに供給された油の油膜によりシールを行っている。
【0030】
まず、
図2、
図4及び
図5を用いて従来技術について説明し、本実施例である
図1、
図3との相違を明確にする。
図2及び
図4に示すように、従来技術のシリンダ3には、ベーン5をローラ4に押し付けるためのスプリング14の収納を目的とし設けられたスプリング挿入穴17が設けられる。更には、スプリング挿入穴17に連通したベーン収納部3aが、ベーン5が摺動できるようにベーン5の幅よりやや大きく設定されて設けられている。そのため、密閉容器1内の冷凍機油はスプリング挿入穴17を通り、圧縮室内外の差圧によりベーン収納部3aとベーン5のクリアランスを介し、ベーン収納部高圧側側面5a、ベーン収納部低圧側側面5b及び圧縮室9内へ給油を行う。しかし、圧縮機構の構成上、スプリング挿入穴17の直径には上限があり、また、ベーン収納部3aとベーン5のクリアランスを大きくする場合では圧縮漏れや、ベーン往復動のがたつきによる異常摩耗を誘発する恐れがある。
【0031】
また、ベーン5を境にした高圧側、低圧側の給油量についても、
図5に示すように、圧縮室内外の差圧は、圧縮室内低圧側が高圧側より大きくなるため、高圧側低圧側対称に設定されたベーン収納部3aの場合、低圧側への給油が多くなり、高圧側の給油は相対的に少なくなる。このため、側面が高圧側低圧側対称に設定されたベーン収納部3a及びベーン5のクリアランス拡大による給油量の増加では、低圧側の給油量も増加することとなり、圧縮工程前の冷媒ガスの膨張を誘発するため効率が低下する恐れがある。更には、圧縮室内に供給された冷凍機油はベーン5を境にしたPs(低圧側)、Pd‘(高圧側)の差圧により低圧側に流れるため、圧縮室内高圧側では密閉容器1からの流入油量に対して、油量の減少が懸念される。
【0032】
従って、ベーン5とベーン収納部3aのクリアランスを増加させず、高圧側への給油量のみを増加させることで、圧縮損失を増加させる恐れが無く、圧縮室内高圧側から給油不足に陥り易いベーン5とローラ4との接触面の潤滑性を高め、圧縮機の効率及び信頼性の向上を図ることが必要となる。
【0033】
このような課題に対する本実施例のロータリ圧縮機を
図1及び
図3を用いて説明する。
図3に示すように、シリンダ3のベーン収納部3a側面の高圧側にスプリング挿入穴17と連通する貫通溝(給油溝)15を設ける。特に、本実施例においては、貫通溝(給油溝)15の領域が圧縮室側に向かうほど減少するように構成し(クランク軸と垂直方向の断面において、圧縮室側に向かうほど、貫通溝(給油溝)15の深さが減少するように構成し)、例えば、ベーン5と組み合わせて成す形状が圧縮室側に向かって減少する略クサビ形状となるサビ型貫通溝15とすることができる。貫通溝15はスプリング挿入穴17に連通するため、密閉容器1内の冷凍機油を貫通溝15内部に取り込むことができ、貫通溝15の両端は上ベア6及び下ベア7により塞がれているため、油ポケットとして機能する。また、貫通溝15の設定位置は、
図3に示すように、圧縮機構上でベーン収納部3aとベーン5間の最低限必要とされるシール長さを確保でき、ベーン5が最も圧縮室内に移動した際においてベーン背面5cが貫通溝15を通過しない位置とする(つまり、ベーン5のローラと反対側の端部(ベーン背面5c)が最も圧縮室側に挿入された位置よりも圧縮室側に、貫通溝15が形成される。)。これにより、ベーン5背面は往復動時にも貫通溝15を通過しないため、貫通溝15による摩耗は発生しない。
【0034】
尚、貫通溝15は、ベーン収納部高圧側側面が上閉塞部材と接する位置から下閉塞部材が接する位置まで、ベーン収納部高圧側側面を貫通するように形成してもよいし、ベーン収納部高圧側側面が上閉塞部材と接する位置から下閉塞部材が接する位置の手前まででベーン収納部高圧側側面を貫通しないように形成してもよい。
【0035】
以下に本実施例について、ベーン収納部3a側面高圧側に貫通溝(給油溝)15を設けることによる効果と、貫通溝(給油溝)15をクサビ型貫通溝15にすることによる効果について、
図1、
図3及び式1を用いて説明する。
【0036】
まず、本実施例のベーン収納部3a側面高圧側に溝を設ける効果について説明する。シリンダ3のベーン収納部高圧側側面5aに貫通溝(給油溝)15を設けることで(さらに、貫通溝15をスプリング挿入穴17に連通することにより)、式1のクリアランスh、給油溝高さbの増加及び給油溝長さLの減少により、給油量Qを増加させることができる。以下に、本実施例による各パラメータの増減について説明する。
【0037】
図6に示すように、ベーン5は、圧力差によりシリンダ内径方向に対し角度α傾くため、シリンダ3の内径側ではクリアランスhが広くなる。そのため、ベーン収納部高圧側側面5aに貫通溝(給油溝)15を設けることで、ベーン5とベーン収納部3aのクリアランスhが広い部分、つまり式1のクリアランスhが大きい部分から給油が可能となる。
【0038】
給油溝高さbは、従来機ではスプリング挿入穴17の高さが給油溝高さbとなるが、
図3に示すように、本実施例ではベーン収納部高圧側側面5aに貫通溝15を設けることで、給油溝高さがシリンダ3の高さまで増加する。そのため、式1の給油溝高さbが大きくなり給油量が増加する。
【0039】
また、
図3に示すように、給油溝長さLは、シリンダ収納部3aに貫通溝15を設けることで、従来機に比べ、ベーン収納部3a長さが貫通溝15分短くなる。そのため、式1の給油溝長さが減少するため給油量が増加する。
【0040】
また、特に、ベーン5とローラ4との接触面の給油量の増加が望まれる高差圧条件において、式1の圧力差ΔPが大きいため、本実施例との相乗効果により給油量を増加することができる。
【0041】
次に、本実施例の貫通溝15をクサビ型とする(貫通溝15の領域が圧縮室側に向かうほど減少するように構成する(クランク軸と垂直方向の断面において、圧縮室側に向かうほど、貫通溝15の深さが減少するように構成する))ことによる効果について説明する。
図3に示すように、ベーン収納部3a側面高圧側に設ける溝をクサビ型(クサビ型貫通溝15)とすることで、クサビ効果により、シリンダ3内側に向かうクサビ型の先端では局所圧力pが増加する。これにより、密閉容器1と圧縮室内高圧側との差圧ΔP‘に加え、クサビ形状による局所圧力増加分pが増加し、差圧ΔP’+pとなる。そのため、式1のΔPが大きくなり給油量が増加する。
【0042】
さらに、このクサビ効果による局所圧力増加分pはベーン5の移動速度増加に伴い増加する。このため、給油量の増加が望ましい高回転数条件では回転数に応じてベーン5の移動速度が増加し、更に給油量を増加させることができる。