(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
宇宙機の構体に取り付けられる構体取付部と、ヒンジ構造により互いに折り畳み可能かつ前記構体取付部に対して回動可能に連結されて折畳状態から展開状態に遷移可能に構成された複数枚のパネルと、を備える宇宙機用の展開構造物であって、
前記複数枚のパネルは、前記展開状態で前記構体取付部に対して近位側に位置する近位側パネルと、前記近位側パネルよりも遠位側に位置する遠位側パネルと、を少なくとも含み、前記遠位側パネルは付勢手段により前記近位側パネルに対して展開する方向に付勢されており、
前記展開構造物は、
前記遠位側パネルに解除可能に係止して前記近位側パネルに対する前記遠位側パネルの回動を規制するパネル係止構造を備え、
前記折畳状態において、前記構体取付部、前記近位側パネルおよび前記遠位側パネルが順に渦巻状に配置されているとともに前記遠位側パネルが前記近位側パネルよりも渦の中心側に巻き込まれるように折り畳まれており、かつ、
前記折畳状態から、前記付勢手段の付勢力により前記近位側パネルが所定の角度以上に展開することで、前記パネル係止構造が前記遠位側パネルの係止を解除し、前記遠位側パネルが前記近位側パネルに対して展開して前記展開状態に遷移することを特徴とする展開構造物。
前記パネル係止構造は、前記折畳状態において前記ヒンジ構造が前記遠位側パネルを回動方向に付勢するときの前記遠位側パネルの遠位端の変位方向の前方に位置して前記遠位端を係止し、かつ、
前記近位側パネルが展開することにより前記パネル係止構造と前記遠位側パネルとの相対角度が変化し、前記近位側パネルが前記所定の角度以上に展開することで前記パネル係止構造による前記遠位端の係止が解除されることを特徴とする請求項1または2に記載の展開構造物。
前記パネル係止構造が、前記遠位側パネルの前記遠位端に前記近位側パネルの回動軸と平行に設けられた保持軸と、一方向に開口した開口部を有し前記保持軸を回動可能に保持するパネル保持部と、を含み、
前記折畳状態で前記開口部は前記保持軸に対して前記遠位端の前記変位方向の前方とは異なる位置にあり、
前記近位側パネルが前記所定の角度以上に展開すると、前記開口部が前記保持軸に対して前記遠位端の前記変位方向の前方に移動して前記保持軸が前記開口部を通じて前記パネル保持部から離脱可能になることを特徴とする請求項3に記載の展開構造物。
折畳状態の前記パネルの面央よりも前記構体取付部に近い側に、積層された複数枚の前記パネルを面直方向に互いに非拘束に連接させる連接部が設けられている請求項7に記載の展開構造物。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、すべての図面において、同様の構成要素には同様の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。
【0017】
<第一実施形態>
図1(a)から
図1(c)は本発明の第一実施形態の宇宙機100の展開シーケンスの原理を説明する模式図である。具体的には、
図1(a)は本実施形態の宇宙機100の折畳状態の説明図である。
図1(b)は展開動作中の宇宙機100の説明図である。
図1(c)は宇宙機100の展開状態の説明図である。
図1(d)は、
図1(a)における第一ヒンジ32の近傍を示す拡大図である。
【0018】
はじめに、本実施形態の概要について説明する。
本実施形態の宇宙機100は、構体110と、この構体110に対して回動可能に連結されて折畳状態から展開状態に遷移可能に構成された展開構造物10と、を備えている。
展開構造物10は、近位側パネル(第一パネル22)、遠位側パネル(第二パネル24)、パネル係止構造40および付勢手段を含む。第一パネル22と第二パネル24とは、ヒンジ構造30(第二ヒンジ34)により互いに折り畳み可能に連結されている。第一パネル22は展開状態で構体110に対して近位側に位置し、第二パネル24は展開状態で構体110に対して第一パネル22よりも遠位側に位置する。パネル係止構造40は、第二パネル24に解除可能に係止して、第一パネル22に対する第二パネル24の回動を規制する。付勢手段(展開バネ54)は、第二パネル24を第一パネル22に対して展開する方向に付勢する。
展開構造物10の折畳状態において、構体110、第一パネル22および第二パネル24は順に渦巻状に配置されているとともに、第二パネル24を第一パネル22よりも渦の中心側に巻き込むように折り畳まれている。展開構造物10は、この折畳状態から、付勢手段(展開バネ52)の付勢力により第一パネル22が所定の角度以上に展開することで、パネル係止構造40は第二パネル24の係止を解除する。これにより、第二パネル24が第一パネル22に対して展開して、展開構造物10は展開状態に遷移する。
【0019】
本実施形態の宇宙機用の展開構造物10は、宇宙機100の構体110に取り付けられる構体取付部90を備えている。複数枚のパネル20(第一パネル22および第二パネル24)は、構体取付部90に対して回動可能に連結されている。複数枚のパネル20のうち、第一パネル22は展開状態で構体取付部90に対して近位側に位置し、第二パネル24は展開状態で構体取付部90に対して第一パネル22よりも遠位側に位置する。そして、展開構造物10の折畳状態において、構体取付部90、第一パネル22および第二パネル24が順に渦巻状に配置されている。
【0020】
次に、本実施形態の展開構造物10および宇宙機100について詳細に説明する。
宇宙機100は、地球観測衛星や通信衛星等の人工衛星のほか、惑星探査機など、種々の目的で宇宙空間を航行する宇宙飛翔体である。宇宙機100はロケットなどの輸送機により宇宙空間まで打ち上げられる。宇宙機100のサイズは特に限定されないが、50kg級から300kg級などの比較的小型のものが好適である。
【0021】
展開構造物10は、輸送機に搭載されている状態では包絡体積が比較的小さな折畳状態をとり、輸送機から分離された後に少なくともその一部が展開動作をすることにより包絡体積が折畳状態よりも大きな展開状態に遷移する構造物である。展開構造物10は、複数枚のパネル20(第一パネル22、第二パネル24)を備えている。パネル20は平坦な板状をなしている。パネル20としては、展開構造物10の目的により種々の構造物が適用される。一例として、展開構造物10が太陽電池パドルである場合、パネル20は基板に太陽電池セルを積層した太陽電池パネルである。展開構造物10が合成開口レーダーなどのレーダー装置の場合、パネル20は電波の送受信用のアンテナである。展開構造物10がアンテナ反射器または光学反射器などの送信または受信用のリフレクターや、光シールドまたは熱シールドなどのシールドである場合、パネル20は反射板である。
【0022】
隣接するパネル20同士はヒンジ構造30で連結されており、互いの相対位置を変化させることにより展開構造物10は全体として折畳状態から展開状態に遷移する。パネル20は所定の曲げ剛性を有する、いわゆるリジッドパネルであり、ヒンジ構造30の動作中に個々のパネル20自体は実質的に変形しない。パネル20は、少なくとも1本の直線的な辺を有している。パネル20の形状は特に限定されず、三角形、四角形(矩形)または五角形以上の多角形とすることができる。本実施形態のパネル20は矩形である。
隣接するパネル20は、互いに近接する辺(以下、「近接辺」という場合がある)同士が平行に配置された状態でヒンジ構造30により連結されている。ヒンジ構造30は、パネル20の近接辺の中央の1箇所に設けられてもよく、または近接辺の両端にそれぞれ設けられてもよい。
【0023】
ヒンジ構造30は、複数の部材が回動軸まわりに互いに回動可能に組み合わされてなる。これらの部材の一方および他方が、隣接する2枚のパネル20のそれぞれに固定されている。ヒンジ構造30の回動軸は、この近接辺に平行であり、
図1各図の紙面前後方向である。すなわち、折畳状態において複数枚のパネル20同士は面直方向に互いに折り畳まれた状態にある。本実施形態では、
図1(a)に示すように、隣接するパネル20同士はヒンジ構造30により180度折り畳まれ、僅かな隙間を空けて互いに対向している。具体的には、第一パネル22の表面22aの法線ベクトルN1と、第二パネル24の表面24aの法線ベクトルN2との為す角は略180度である。
【0024】
構体110は宇宙機100の衛星バスであり、箱形や円筒型など種々の形状をとることができる。本実施形態の構体110は平坦な搭載面112を備えている。折畳状態のパネル20が搭載面112に対向するようにして展開構造物10は構体110に取り付けられている。なお、パネル20や搭載面112が平坦な板状や面状であるとは、パネル20の表面22a、24aや搭載面112が幾何学的に完全な平面であることを意味するものではなく、局所的または全体的な凹凸が存在していることを許容する。
【0025】
構体取付部90は、展開構造物10を構体110に取り付けるためのインタフェース構造である。構体取付部90は、剛直で非可動のブラケットでもよく、またはヒンジ構造を包含する可動の機構でもよい。展開構造物10が太陽電池パドルである場合、構体取付部90は、展開状態でパネル20を構体110から適切な距離に離間させて保持するブームやヨークを含んでもよい。またはこの場合、構体取付部90は構体110に取り付けられたパドル駆動モータを含んでもよい。
本実施形態では、
図1(a)に示す折畳状態において構体取付部90がパネル20と構体110との間ではなくパネル20の側方にオフセットした位置に取り付けられている状態を例示するが、本発明はこれに限られない。たとえば構体取付部90がブームやヨークの場合、折畳状態において構体取付部90はパネル20と構体110との間に挟持されてもよい。
【0026】
ヒンジ構造30は、パネル20を構体取付部90に対して相対的に回転させるための開閉機構である。本実施形態の展開構造物10は、ヒンジ構造30として少なくとも第一ヒンジ32および第二ヒンジ34を含む。第一ヒンジ32は、構体取付部90および構体110に対して第一パネル22を回動させるヒンジである。第二ヒンジ34は、第一パネル22に対して第二パネル24を回動させるヒンジである。ヒンジ構造30(第一ヒンジ32、第二ヒンジ34)は展開バネ52、54(
図3から
図6を参照)を備えており、連結されたパネル20同士を折畳状態から展開状態に遷移する向きに付勢する。本実施形態の展開バネ52、54は、板バネが螺旋巻回されたトルクバネ(ぜんまいバネ)である。
【0027】
図1(c)に示す展開状態では、第一パネル22の表面22aの法線ベクトルN1と第二パネル24の表面24aの法線ベクトルN2との為す角は180度よりも小さく、具体的には90度よりも小さい。同図では、第一パネル22と第二パネル24とが平面上(直線上)に並び、法線ベクトルN1とN2との為す角が0度である状態を図示してあるが、本発明はこれに限られない。法線ベクトルN1を基準とする法線ベクトルN2の角度は、同図の時計回りを正の向きとして、−30度以上+30度以下とすることができる。
【0028】
パネル20のうち、展開状態において構体110や構体取付部90に近接する側を近位側と呼称し、逆に展開状態において構体110や構体取付部90から離間する側を遠位側と呼称する。
【0029】
ここで、個々のパネル20(第一パネル22、第二パネル24)が展開するとは、当該パネル20の近位側に連設されたヒンジ構造30が回動して、当該パネル20がそれよりも近位側(構体取付部90の側)の部位に対して相対的に向きを変化させることをいう。また、パネル20の展開角度とは、当該パネル20の近位側に連設されたヒンジ構造30の回動角度をいう。具体的には、第一パネル22の展開角度とは、折畳状態(初期状態)を基準として、第一ヒンジ32が構体取付部90に対して回動した角度をいう。第二パネル24の展開角度とは、折畳状態(初期状態)を基準として、第二ヒンジ34が第一パネル22に対して回動した角度をいう。また、パネル20の連結方向、すなわち近位側から遠位側に向かう方向を、各パネル20の縦横比によらず、パネル20および展開構造物10の長手方向という。
【0030】
図1(a)から
図1(d)では、2枚のパネル20を備える展開構造物10を例示する。本実施形態では、第一パネル22を近位側のパネルと称し、第二パネル24を遠位側のパネルと称する。後述する第二実施形態の展開構造物10(
図3(a)から
図3(f)を参照)のように3枚以上のパネル20を備える場合は、そのいずれか2枚のうち相対的に構体110や構体取付部90に近接する側のパネル20を近位側パネルと称し、離間する側のパネル20を遠位側パネルと称する。
【0031】
折畳状態の展開構造物10において、第一パネル22と第二パネル24とは互いに対向し、また構体110の搭載面112に対向している。このとき、第一パネル22は搭載面112よりも遠い外側に配置され、第二パネル24は搭載面112に近い内側に配置されている。
図1(a)に示す折畳状態で、構体取付部90、第一ヒンジ32、第一パネル22、第二ヒンジ34および第二パネル24は、この順に並んで渦巻状に配置されている。構体取付部90や第一パネル22は、この渦の外周側にあり、第二パネル24は渦の中心側にある。すなわち、第二パネル24は第一パネル22と構体110との間に抱え込まれた状態にある。展開構造物10は、この折畳状態から、渦の中心側のパネル20(第二パネル24)の展開角度を零度に維持したまま、渦の外周側に位置するパネル20(第一パネル22)より順番に展開していく。
【0032】
構体取付部90がヨークやブームの場合などの可動の機構であって構体110に対して構体取付部90も展開可能である場合、構体取付部90の展開とパネル20の展開の先後は任意である。すなわち、構体取付部90が展開してからパネル20(第一パネル22)が展開してもよく、または第一パネル22および第二パネル24が展開してから構体取付部90が展開してもよい。
【0033】
図1(b)は展開構造物10の展開動作中の動作中を示し、具体的には第一パネル22の展開が終了した状態を示している。展開構造物10は、
図1(a)に示す折畳状態から、
図1(b)に示すように第一パネル22、第二ヒンジ34および第二パネル24の相対位置が固定されたまま、第一パネル22および第二パネル24が第一ヒンジ32を中心に構体取付部90に対して回動する。すなわち、第一パネル22の展開角度は零度から増大し、第二パネル24の展開角度は零度で不変である。本実施形態の第一ヒンジ32の最大回動角度は90度である。第一パネル22の展開角度がこの最大回動角度に達すると、第一パネル22は搭載面112に対して90度展開された状態となって静止する。これにより第一パネル22の展開動作は終了する。展開構造物10は、個々のパネル20が展開した状態を維持するための展開維持手段を有している。展開維持手段としては、ラッチ方式と残留トルク方式を例示することができる。ラッチ方式は、ヒンジ構造30(第一ヒンジ32、第二ヒンジ34)が初期状態(折畳状態)から所定以上の回動角度に達することによりラッチ構造が掛止して折畳方向への逆回動を規制する方式である。ラッチ構造はヒンジ構造30自体に設けられることが一般的である。残留トルク方式は、初期状態(折畳状態)の展開バネ52、54に所定以上の回動角度でトルク付与しておき、パネル20の展開状態においてもヒンジ構造30を展開バネ52、54により展開方向に付勢しつづける方式である。複数枚のパネル20ごとに、ラッチ方式および残留トルク方式を混在させて設けてもよい。本実施形態の展開構造物10は、展開維持手段の一例として第一ヒンジ32がラッチ構造(図示せず)を備えており、第一パネル22の展開動作が終了するタイミングでラッチ構造が掛止して第一ヒンジ32の逆戻り方向の回動を規制する。
【0034】
パネル係止構造40は、少なくとも折畳状態において、第二パネル24に解除可能に係止して、第一パネル22に対する第二パネル24の回動を規制しておく手段である。
図1(b)に示すように第一パネル22の展開が終了するか、またはその直前に、パネル係止構造40が第二パネル24の係止を解除して第二パネル24が第一パネル22に対して回動可能となる。
【0035】
図1(a)および
図1(d)に示すように、パネル係止構造40は、折畳状態においてヒンジ構造30(第二ヒンジ34)が第二パネル24を回動方向に付勢するときの第二パネル24の遠位端25の変位方向の前方に位置して、この遠位端25を係止する。パネル20の遠位端とは、パネル20において、当該パネル20を展開するヒンジ構造30の取付位置とは長手方向の反対側の領域をいう。なお、遠位端は、当該パネル20における特定の一点ではなく、所定の広さをもつ領域である。
【0036】
図1各図において、第二ヒンジ34は第二パネル24を時計回りに回動させるように付勢力を与える。第二パネル24の遠位端25の変位方向は、
図1(d)に矢印で示すように構体110を向く。ここでいう遠位端25の変位方向とは、第二ヒンジ34が第二パネル24に付与する付勢力により遠位端25が微小変位する方向であり、言い換えると第二ヒンジ34が第二パネル24に付与するモーメントに対する遠位端25における接線方向である。折畳状態で第二パネル24の遠位端25はパネル係止構造40により直接的または間接的に回動が規制されているが、上記のように遠位端25の変位方向は定義される。
第一パネル22(近位側パネル)が展開することにより、パネル係止構造40と第二パネル24(遠位側パネル)との相対角度が変化する。そして、第一パネル22が所定の角度以上(本実施形態では、略90度)に展開することでパネル係止構造40による遠位端25の係止が解除される。
【0037】
第一パネル22が構体取付部90や構体110に対して十分に展開するまで、第二パネル24は第一パネル22に対向して折り畳まれた状態でパネル係止構造40に拘束されている。第二パネル24は、この状態で第一パネル22と一体になって第一ヒンジ32まわりに回動する。このため、第一パネル22の展開の初期段階で第二パネル24が構体110と干渉することがない。
【0038】
図1(d)に示すように、パネル係止構造40は保持軸42とパネル保持部44を含む。保持軸42は、第二パネル24の遠位端25に第一パネル22の回動軸(
図1(d)の紙面前後方向)と平行に設けられている。パネル保持部44は、一方向に開口した開口部46を有し、保持軸42を回動可能に保持する。展開構造物10の折畳状態で、開口部46は保持軸42に対して遠位端25の変位方向の前方とは異なる位置にある。本実施形態では、折畳状態の開口部46は保持軸42に対して、遠位端25の変位方向と直交する方向に位置している。そして、
図1(b)に示すように第一パネル22が構体取付部90に対して所定の角度以上に展開すると、開口部46は保持軸42に対して遠位端25の変位方向の前方に移動する。これにより、保持軸42は開口部46を通じてパネル保持部44から離脱可能になる。
【0039】
保持軸42がパネル保持部44から離脱可能になると、
図1(b)に矢印で示すように、第二ヒンジ34の付勢力により第二パネル24は第一パネル22に対して展開する。
図1(c)に破線で示すように第二パネル24は展開角度を増大させ、そして実線で示すように展開状態に至る。本実施形態の第二ヒンジ34の最大展開角度は180度であり、展開状態の第二パネル24は第一パネル22と同一平面上に位置する。第二ヒンジ34は展開維持手段の一例としてラッチ構造(図示せず)を備えており、第二パネル24の展開動作が終了するタイミングでラッチ構造が掛止して第二ヒンジ34の逆戻り方向の回動を規制する。
【0040】
パネル保持部44は、第一パネル22の展開動作に追随しない位置、具体的には第一ヒンジ32の回動軸よりも構体取付部90の側に設けられている。パネル保持部44の具体的な取付位置は特に限定されず、第一ヒンジ32と一体に設けられてもよく、または第一ヒンジ32とは別の部材として構体取付部90に設けられてもよい。
【0041】
ここで、特許文献1に記載された一般的なアコーディオン型(W字型)の展開構造物の場合、衛星の構体から離間した遠位側のパネルから順に展開していくため、展開動作に伴って慣性モーメントが加速的に増大していく展開構造物を、近位側のヒンジ構造で揺動させながら展開する必要がある。このため、特に最近位側のパネルを展開させるためのヒンジ構造には大きなトルクが求められ、かつパネルの展開が完了した瞬間のラッチ衝撃は大きなものとなる。
これに対し、本実施形態の展開構造物10によれば、複数枚のパネル20のうち近位側のパネルから順に展開していくため、あるパネル20を展開するときに、それよりも遠位側のパネルは折り畳まれた状態にある。このため、パネル20を展開する際の慣性モーメントが小さく、各パネル20の展開が完了した瞬間のラッチ衝撃が小さい。
これにより、本実施形態の展開構造物10は、展開完了時の衝撃を吸収するためのダンパー構造を不要とすることもできる。
【0042】
また、一般的なアコーディオン型(W字型)の展開構造物の場合、各パネルは同時に展開するため、パネル同士またはパネルと構体や他の機器との干渉を避けるために展開ケーブルなどの同期機構を用いる必要がある(特許文献1を参照)。
これに対し、本実施形態の展開構造物10は、あるパネル20が展開する時点で、それよりも近位側の他のパネルの展開は実質的に完了しており、かつ当該パネル20よりも遠位側の他のパネルは折り畳まれた状態でパネル係止構造40に規制されて非可動である。したがって、本実施形態の展開構造物10の展開時の自由度は、展開中のいずれか1枚のパネル20の近位側のヒンジ構造30の展開角度のみ(1自由度)である。このため、各パネルが展開するタイミングを所望に制御するための同期機構を不要とすることができ、また本実施形態の展開構造物10はかかる同期機構を備えていない。
【0043】
<第二実施形態>
図2(a)は第二実施形態の宇宙機100の折畳状態を示す斜視図であり、
図2(b)は第二実施形態の宇宙機100の展開状態を示す斜視図である。
図3(a)から
図3(f)は、本実施形態の宇宙機100の展開シーケンスを示す側面図である。
【0044】
本実施形態の展開構造物10は、三枚以上のパネル20が直列的に連結されている点で第一実施形態と相違する。本実施形態では、第一パネル22および第二パネル24に加えて、展開状態で第二パネル24よりも更に遠位側に位置する第三のパネル(第三パネル26)を含む。第一パネル22は展開状態で構体110および構体取付部90に対して最も近位側に位置し、第二パネル24は第一パネル22に対して遠位側に隣接する。第三パネル26は第二パネル24に対して遠位側に隣接し、パネル20のうち最も遠位側に位置する。すなわち、第二パネル24は、第一パネル22との関係では遠位側パネルであり、第三パネル26との関係では近位側パネルにあたる。
【0045】
展開構造物10は、折畳状態から、近位側パネルが所定の角度以上に展開することでパネル係止構造40が遠位側パネルの係止を解除し、この遠位側パネルが近位側パネルに対して展開して展開状態に遷移する。本実施形態の展開構造物10は、折畳状態から、第一パネル22(近位側パネル)が所定の角度以上に展開することで、パネル係止構造40(第一係止部40a)が第二パネル24(遠位側パネル)の係止を解除する。これにより、第二パネル24(遠位側パネル)は第一パネル22(近位側パネル)に対して展開する。また、第二パネル24(近位側パネル)が所定の角度以上に展開することで、パネル係止構造40(第二係止部40b)が第三パネル26(遠位側パネル)の係止を解除し、この第三パネル26(遠位側パネル)が第二パネル24(近位側パネル)に対して展開する。これにより展開構造物10は展開状態に遷移する。
【0046】
3枚のパネル20は互いに連結され、かつこれらのパネル20は構体取付部90にあたるベースパネルに対して回動可能に連結されている。
図3(a)の折畳状態においては、第三パネル26を中心として、三枚以上のパネル20(第一パネル22から第三パネル26)の総てが渦巻状に配置されている。第三パネル26は、
図3(f)に示す展開状態で構体取付部90に対して最も遠位側に位置するパネルである。展開構造物10は、折畳状態から、この渦巻の外周側に配置されたパネルである第三パネル26より順次展開して展開状態に遷移する。
【0047】
ベースパネル(構体取付部90)は平坦な板状をなし、ブラケット92により構体110に剛直かつ非可動に固定されている。ベースパネルは、パネル20と同様に太陽電池パネルやリフレクターなどの機能を有してもよい。
【0048】
図2(a)に示すように、本実施形態の宇宙機100は、2式の展開構造物10を備えている。2式の展開構造物10は、1枚のベースパネル(構体取付部90)を共用して一体に構成されておりハンドリング性に優れる。具体的には、矩形状のベースパネルの対向辺に、それぞれの展開構造物10における第一パネル22が回動可能に取り付けられている。簡単のため、
図3から
図6では片側の展開構造物10のみを図示してある。
【0049】
パネル20を展開するヒンジ構造30は、具体的には第一ヒンジ32、第二ヒンジ34および第三ヒンジ36を含む。第一ヒンジ32は、構体取付部90と第一パネル22との間に設けられて第一パネル22を構体取付部90に対して回動させる。第二ヒンジ34は、第一パネル22と第二パネル24との間に設けられて第二パネル24を第一パネル22に対して回動させる。第三ヒンジ36は、第二パネル24と第三パネル26との間に設けられて第三パネル26を第二パネル24に対して回動させる。
【0050】
複数枚のパネル20は、構体取付部90から直線的かつ直列的に連結されている。複数枚のパネル20が直列的に連結されているとは、これらのパネル20が直線的または屈曲して一次元的に連結されていることをいう。各パネル20は矩形状をなし、近接辺同士が平行に配置された状態でヒンジ構造30(第一ヒンジ32から第三ヒンジ36)により連結されている。本実施形態のパネル20は直線的に連結されており、第一ヒンジ32から第三ヒンジ36でそれぞれ連結された3対の近接辺は互いに平行である。
【0051】
ヒンジ構造30(第一ヒンジ32から第三ヒンジ36)は、パネル20を展開するための付勢手段として、展開バネ52、54、56をそれぞれ備えている。
【0052】
図3(a)は展開構造物10の折畳状態を示す。
図3(b)は第一パネル22が所定の展開角度まで展開して第一係止部40aが第二パネル24の係止を解除した状態を示す。
図3(c)は第一パネル22の展開が終了した状態を示す。
図3(d)は第二パネル24が所定の展開角度まで展開して第二係止部40bが第三パネル26の係止を解除した状態を示す。
図3(e)は第二パネル24の展開が終了した状態を示す。
図3(f)は第三パネル26の展開が終了した展開構造物10の展開状態を示す。
図4は、
図3(a)に対応する展開構造物10の斜視図である。
図4(b)は
図4(a)における領域Xの拡大図であり、第一ヒンジ32の近傍の拡大図である。
図5(a)は、
図3(b)に対応する展開構造物10の斜視図である。
図5(b)は
図5(a)における領域Yの拡大図であり、第一ヒンジ32の近傍の拡大図である。
図6は、
図3(d)に対応する展開構造物10の斜視図である。
図7は、
図6における領域VIIの拡大図であり、第二ヒンジ34の近傍の拡大図である。
【0053】
本実施形態の展開構造物10は、折畳状態において、構体取付部90、第一ヒンジ32、第一パネル22、第二ヒンジ34、第二パネル24、第三ヒンジ36および第二パネル24が、この順に外周側から中心側に向かって渦巻状に配置されている。
【0054】
本実施形態のパネル係止構造40は、第一係止部40aと第二係止部40bを含む。第一係止部40aは、互いに折り畳まれた遠位側パネル(第二パネル24)および第三のパネル(第三パネル26)が、第一パネル22に対して回動することを解除可能に規制する。第二係止部40bは、第三パネル26が第二パネル24に対して回動することを解除可能に規制する。
【0055】
図3(a)および
図4に示す折畳状態で、第三パネル26は第二係止部40bにより第二パネル24に係止されており、第三ヒンジ36が備える展開バネ56(
図4(b)を参照)の付勢力に抗して、第二パネル24に対する第三パネル26の回動が規制されている。このため、展開構造物10の展開の初期段階から中期段階において、具体的には
図3(d)および
図6に示すように第二パネル24が十分に展開するまで、第二パネル24および第三パネル26は非可動の剛体として振る舞う。そして、折畳状態の第二パネル24および第三パネル26は、第二係止部40bにより係止されており、第二ヒンジ34が備える展開バネ54(
図4(a)を参照)の付勢力に抗して第一パネル22に対する回動が規制されている。これにより、展開構造物10の展開の初期段階において、具体的には
図3(b)および
図5に示すように第一パネル22が十分に展開するまで、第一パネル22、第二パネル24および第三パネル26は非可動の剛体として振る舞う。
【0056】
第一係止部40aは、第二係止部40bで互いに係止された第三パネル26および第二パネル24ならびにこれらを連結する第三ヒンジ36のいずれか一以上を対して係止して、これらが第一パネル22と共に回動することを許容し、かつ第一パネル22に対して相対的に回動することを規制する。
【0057】
第一係止部40a(パネル係止構造40)は、第二パネル24の遠位端25に第一パネル22および第三ヒンジ36の回動軸と平行に設けられた保持軸42aと、一方向に開口した開口部46aを有し保持軸42を回動可能に保持するパネル保持部44aと、を含む。本実施形態の保持軸42aは、
図4(b)および
図5(b)に示すように、第三ヒンジ36と一体形成されている。
【0058】
パネル保持部44aは湾曲したアーム状をなしており、その基端は構体取付部90に固定されている。なお、本実施形態に代えて、パネル保持部44aを第一パネル22の近位側に設けられたヒンジ構造30に固定してもよい。具体的には、第一ヒンジ32のうち、その回動軸よりも構体取付部90の側にパネル保持部44aを設けてもよい。
【0059】
パネル保持部44aの先端は、第一ヒンジ32の周囲を囲うようにして、約90度の中心角にて円弧状に湾曲している。円弧状のパネル保持部44aの先端よりも突出方向の前方に開放された領域が本実施形態の開口部46aにあたる。保持軸42aは、パネル保持部44aの湾曲形状に対応する湾曲面を有しており、パネル保持部44aに沿って摺動する。
【0060】
折畳状態において、第三ヒンジ36は開口部46aの内側に位置してパネル保持部44aにより保持されている。パネル保持部44aは、折畳状態において第二ヒンジ34の展開バネ54が第三パネル26を回動方向に付勢するときの第二パネル24の遠位端25の変位方向(
図4(b)に矢印で示す)の前方に位置して遠位端25を係止している。すなわち、折畳状態においてパネル保持部44aは第一ヒンジ32と第三ヒンジ36との延長線上に位置しており、開口部46aはこの延長線上とは異なる位置にある。
【0061】
パネル保持部44aは構体取付部90に固定されているため、パネル20(第一パネル22)が展開することにより第一ヒンジ32を中心としてパネル保持部44aとパネル20とは相対的に回動して向きが変化する。そして、折畳状態から第一パネル22が展開して
図3(b)および
図5に示すように所定の展開角度に達すると、開口部46aは保持軸42aに対して遠位端25の変位方向の前方に移動し、パネル保持部44aは第一ヒンジ32と第三ヒンジ36との延長線上から外れる。これにより、第二ヒンジ34が備える展開バネ54の付勢力により第二パネル24は第一パネル22に対して回動可能となる。
図5(b)に示すように保持軸42aおよび第三ヒンジ36は、パネル保持部44aの先端をかすめるようにしてパネル保持部44aの前方(開口部46a)を通じてパネル保持部44aから離脱する。
【0062】
第一係止部40aによる規制が解除された第二パネル24は、
図3(c)に示すように第一パネル22に対して展開する。この間、第二係止部40bは、第三パネル26が第二パネル24に対して回動することを規制している。そして、
図3(d)および
図6に示すように第二パネル24が第一パネル22に対して所定の展開角度に達すると、第二係止部40bは第三パネル26の回動規制を解除する。これにより、展開バネ56の付勢力により第三パネル26は第二パネル24に対して展開する。
【0063】
第二係止部40bの詳細を
図7に示す。第二係止部40bは、折畳状態においてヒンジ構造30(第三ヒンジ36)が第三パネル26を回動方向に付勢するときの第三パネル26の遠位端27の変位方向の前方に位置して、この遠位端27を係止する。第二パネル24(近位側パネル)が展開することにより、第二係止部40bと第三パネル26(遠位側パネル)との相対角度は変化する。そして、第二パネル24が所定の角度以上(本実施形態では、略90度)に展開することで第二係止部40bによる遠位端27の係止が解除される。
【0064】
第二係止部40bは、保持軸42bおよびパネル保持部44bを含む。保持軸42bは、第三パネル26の遠位端27に第二パネル24および第二ヒンジ34の回動軸(
図3(d)の紙面前後方向)と平行に設けられている。パネル保持部44bは、一方向に開口した開口部46bを有し、保持軸42bを回動可能に保持する。パネル保持部44bは、第二パネル24の近位側に設けられたヒンジ構造30(第二ヒンジ34)における構体取付部90の側、すなわち第一パネル22に設けられている。
これにより、第二パネル24が第二ヒンジ34まわりに回動すると、第一パネル22に固定されたパネル保持部44bに対して保持軸42bは軸回転する。
【0065】
本実施形態のパネル保持部44bはコ字状をなし、第二ヒンジ34から第一パネル22の幅方向の内側に向かって突出して形成されている。保持軸42bは円柱状をなし、第三パネル26の遠位端27の端面に沿って第三パネル26の幅方向の外側に向かって突出して形成されている。
【0066】
展開構造物10の折畳状態で、開口部46bは保持軸42bに対して遠位端27の変位方向の前方とは異なる位置にある。本実施形態では、折畳状態の開口部46bは保持軸42bに対して、遠位端25の変位方向と直交する方向に位置している。そして、
図3(d)に示すように第二パネル24が第一パネル22に対して所定の角度以上に展開すると、開口部46bは保持軸42bに対して遠位端27の変位方向の前方に移動する(
図7を参照)。遠位端27の変位方向を
図7に矢印で示す。これにより、保持軸42bは開口部46bを通じてパネル保持部44bから離脱可能になる。
【0067】
保持軸42bがパネル保持部44bから離脱可能になると、
図3(e)に示すように第三ヒンジ36まわりに第三パネル26は展開し、
図3(f)に示す展開状態に至る。
【0068】
図4(b)に示すように、第一係止部40aのパネル保持部44aは、構体取付部90よりも幅方向の外側に形成され、第二パネル24の幅方向の外側に設けられた第三ヒンジ36および保持軸42aに係止する。一方、第二係止部40bのパネル保持部44bおよび保持軸42bは、第二ヒンジ34の内側に設けられている。すなわち、第一係止部40aと第二係止部40bとは、パネル20の幅方向の異なる位置に設けられている。第一係止部40aをパネル20の幅方向の外側に設けることで、アーム状のパネル保持部44aを十分な曲げ剛性および強度で作成することができる。折畳状態および第一パネル22の展開中に、パネル保持部44aは複数のヒンジ構造30(第二ヒンジ34および第三ヒンジ36)の付勢力に抗して複数枚のパネル20(第二パネル24および第三パネル26)を第一パネル22に対して回動規制する。このため、パネル保持部44aにはパネル保持部44bに比べて大きな荷重負荷がかかる。したがって、本実施形態のようにパネル保持部44aを十分な曲げ剛性および強度のアーム状とすることで展開構造物10の機械特性を向上することができる。一方、第二係止部40bの保持軸42bをパネル20の幅方向の内側に設けることで、折畳状態や展開動作中に保持軸42bが第二ヒンジ34と干渉することがない。
【0069】
図3各図および
図4(a)に示すように、展開構造物10は保持解放部60を備えている。本実施形態の保持解放部60は、折畳状態で互いに折り畳まれて積層された複数枚のパネル20を面直方向に互いに拘束し、解除操作によりパネル20の拘束を解除する機構である。これにより、パネル20を展開させる展開バネの付勢力に抗してパネル20を構体110に固定することができるとともに、宇宙機100の打ち上げ環境においてパネル20に負荷される大きな加速度荷重によってパネル20が揺動することを防止する。本実施形態の保持解放部60は、構体110の搭載面112に取り付けられる構体側ブラケット62と、各パネル20に設けられたパネル側ブラケット64a〜64cと、を備えている。構体側ブラケット62およびパネル側ブラケット64a〜64cは、折畳状態の展開構造物10をパネル20の面直方向から目視した際に同位置にある。折畳状態において、構体側ブラケット62およびパネル側ブラケット64a〜64cは互いに重ね合わされて連結具(図示せず)により機械的に一体に連結されている。連結具としては、火工品の爆発により破断可能な分離ボルトや、解除可能なラッチ機構などを用いることができる。宇宙機100が輸送機から分離された後に保持解放部60を作動させて構体側ブラケット62とパネル側ブラケット64a〜64cとを分離することで、第一パネル22の展開動作が開始される。
【0070】
本実施形態の保持解放部60は、積層されたパネル20の面央よりも構体取付部90から遠い側、すなわち第一パネル22の長手方向の遠位側のみに設けられている。保持解放部60は、パネル20の幅中央の1箇所に設けてもよく、またはパネル20の幅方向の両側にそれぞれ設けてもよい。本実施形態では、保持解放部60はパネル20の幅方向の両側に1箇所ずつ設けられている。
【0071】
一般に、互いに折り畳まれた複数枚のパネルを構体110に取り付ける場合には、パネル20の4箇所以上に保持解放部60を設け、4箇所の保持解放部60を頂点とする面でパネル20を保持する。特に、特許文献1に記載されたようなアコーディオン型(W字型)に展開する太陽電池パドルは、各パネルに設けられたヒンジ構造の展開バネの付勢力が総て合算されてパネル20を展開させる方向に付勢する。このため、保持解放部には大きな保持力が求められるため、保持解放部を4箇所以上に分散してパネルへの荷重の集中を避ける必要がある。
これに対し本実施形態の展開構造物10では、第三ヒンジ36の展開バネ56の付勢力が第二係止部40bで相殺され、かつ第二ヒンジ34の展開バネ54の付勢力が第一係止部40aで相殺されるため、保持解放部60には実質的に第一ヒンジ32の展開バネ52の付勢力のみが負荷される。このため、本実施形態では第一パネル22のうち第一ヒンジ32と長手方向の反対側(遠位側)に、少ない数の保持解放部60を設ければ足りる。よって、保持解放部60の減数によるコストダウンと展開動作の信頼性向上が図られる。
【0072】
折畳状態のパネル20の面央よりも構体取付部90に近い側に、積層された複数枚のパネル20を面直方向に互いに非拘束に連接させる連接部70が設けられている。本実施形態の連接部70は、構体110の搭載面112に取り付けられる構体固定部72と、各パネル20に設けられた嵌合部74a〜74cと、を備えている。
【0073】
折畳状態において、構体固定部72および嵌合部74a〜74cはパネル20の面直方向に互いに非固着に嵌合する。保持解放部60が作動して第一パネル22が回動を開始すると、第二パネル24は構体110の搭載面112から離間する。このとき、構体側ブラケット62とパネル側ブラケット64a〜64cとは分離し、また構体固定部72と嵌合部74a〜74cとは分離する(
図2(b)を参照)。
【0074】
保持解放部60とは別に連接部70を設けることで、パネル20を複数点、本実施形態では4点で保持することになるため、宇宙機100の打ち上げ時の耐荷重性に優れる。ただし、連接部70はパネル20同士を非連結に連接させるだけであるため、火工品などの解放機構が不要である。
【0075】
保持解放部60および連接部70は、パネル20の幅方向の外側に張り出して設けられている。また、各パネル20(第一パネル22、第二パネル24、第三パネル26)の幅方向の両側には、当該パネルの長手方向に沿って柱状の補強部材(図示せず)が装着されている。保持解放部60(パネル側ブラケット64a〜64c)および連接部70(嵌合部74a〜74c)は、この補強部材に取り付けられてパネル20の幅方向の外側に張り出している。保持解放部60および連接部70は宇宙機100の打ち上げ時に大きな加速度荷重が負荷される部位であるところ、本実施形態のように保持解放部60および連接部70をパネル20の補強部材に取り付けることで、実質的にパネル20への荷重負荷がなくなる。本実施形態の展開構造物10は展開時の自由度が1自由度のみであるため展開ケーブルなどの同期機構が不要であり、これを備えていない。したがって、展開ケーブルを引き回すための空間をパネル20の側方に用意する必要がないため、本実施形態のように保持解放部60および連接部70をパネル20の幅方向の両側に沿って設けることが可能である。
【0076】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される限りにおける種々の変形、改良等の態様も含む。
たとえば、上記第一または第二実施形態においては展開バネ52、54、56がヒンジ構造30(第一ヒンジ32、第二ヒンジ34、第三ヒンジ36)にそれぞれ設けられている態様を例示したが、本発明はこれに限られない。ヒンジ構造30を回動させる付勢力を与える展開バネなどの付勢手段をヒンジ構造30と離間して設けてもよい。
また、第一実施形態では2枚、第二実施形態では3枚のパネル20が近位側から遠位側まで直線的に連結されている態様を例示したが、本発明はこれに限られない。4枚以上のパネル20を連結してもよく、また直線的ではなくL字型に屈曲させたり、またはT字型に分岐させたりしてもよい。
【0077】
本発明の展開構造物または宇宙機の各種の構成要素は、個々に独立した存在である必要はない。複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等を許容する。
【0078】
上記実施形態は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)宇宙機の構体に取り付けられる構体取付部と、ヒンジ構造により互いに折り畳み可能かつ前記構体取付部に対して回動可能に連結されて折畳状態から展開状態に遷移可能に構成された複数枚のパネルと、を備える宇宙機用の展開構造物であって、前記複数枚のパネルは、前記展開状態で前記構体取付部に対して近位側に位置する近位側パネルと、前記近位側パネルよりも遠位側に位置する遠位側パネルと、を少なくとも含み、前記遠位側パネルは付勢手段により前記近位側パネルに対して展開する方向に付勢されており、前記展開構造物は、前記遠位側パネルに解除可能に係止して前記近位側パネルに対する前記遠位側パネルの回動を規制するパネル係止構造を備え、前記折畳状態において、前記構体取付部、前記近位側パネルおよび前記遠位側パネルが順に渦巻状に配置されているとともに前記遠位側パネルが前記近位側パネルよりも渦の中心側に巻き込まれるように折り畳まれており、かつ、前記折畳状態から、前記付勢手段の付勢力により前記近位側パネルが所定の角度以上に展開することで、前記パネル係止構造が前記遠位側パネルの係止を解除し、前記遠位側パネルが前記近位側パネルに対して展開して前記展開状態に遷移することを特徴とする展開構造物。
(2)三枚以上の前記パネルが直列的に連結されており、前記折畳状態において、前記展開状態で前記構体取付部に対して最も遠位側に位置する前記パネルを中心として三枚以上の前記パネルの総てが渦巻状に配置されており、前記折畳状態から、渦巻の外周側に配置された前記パネルより順次展開して前記展開状態に遷移する上記(1)に記載の展開構造物。
(3)前記パネル係止構造は、前記折畳状態において前記ヒンジ構造が前記遠位側パネルを回動方向に付勢するときの前記遠位側パネルの遠位端の変位方向の前方に位置して前記遠位端を係止し、かつ、前記近位側パネルが展開することにより前記パネル係止構造と前記遠位側パネルとの相対角度が変化し、前記近位側パネルが前記所定の角度以上に展開することで前記パネル係止構造による前記遠位端の係止が解除されることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の展開構造物。
(4)前記パネル係止構造が、前記遠位側パネルの前記遠位端に前記近位側パネルの回動軸と平行に設けられた保持軸と、一方向に開口した開口部を有し前記保持軸を回動可能に保持するパネル保持部と、を含み、前記折畳状態で前記開口部は前記保持軸に対して前記遠位端の前記変位方向の前方とは異なる位置にあり、前記近位側パネルが前記所定の角度以上に展開すると、前記開口部が前記保持軸に対して前記遠位端の前記変位方向の前方に移動して前記保持軸が前記開口部を通じて前記パネル保持部から離脱可能になることを特徴とする上記(3)に記載の展開構造物。
(5)前記パネル保持部が、前記近位側パネルの近位側に設けられた前記ヒンジ構造における前記構体取付部の側に設けられている上記(4)に記載の展開構造物。
(6)前記複数枚のパネルは、前記展開状態で前記遠位側パネルよりも遠位側に位置する第三のパネルを含み、前記パネル係止構造が、互いに折り畳まれた前記遠位側パネルおよび前記第三のパネルが前記近位側パネルに対して回動することを解除可能に規制する第一係止部と、前記第三のパネルが前記遠位側パネルに対して回動することを解除可能に規制する第二係止部と、を含み、前記第一係止部と前記第二係止部とが、前記パネルの幅方向の異なる位置に設けられている上記(2)に記載の展開構造物。
(7)折畳状態で互いに折り畳まれて積層された前記複数枚のパネルを面直方向に互いに拘束し、解除操作により前記パネルの拘束を解除する保持解放部を備え、前記保持解放部が、積層された前記パネルの面央よりも前記構体取付部から遠い側のみに設けられている上記(1)から(6)のいずれか一項に記載の展開構造物。
(8)折畳状態の前記パネルの面央よりも前記構体取付部に近い側に、積層された複数枚の前記パネルを面直方向に互いに非拘束に連接させる連接部が設けられている上記(7)に記載の展開構造物。
(9)前記保持解放部および前記連接部が、前記パネルの幅方向の外側に張り出して設けられている上記(8)に記載の展開構造物。
(10)構体と、前記構体に対して回動可能に連結されて折畳状態から展開状態に遷移可能に構成された展開構造物と、を備える宇宙機であって、前記展開構造物が、ヒンジ構造により互いに折り畳み可能に連結され前記展開状態で前記構体に対して近位側に位置する近位側パネルと、前記近位側パネルよりも遠位側に位置する遠位側パネルと、前記遠位側パネルに解除可能に係止して前記近位側パネルに対する前記遠位側パネルの回動を規制するパネル係止構造と、前記遠位側パネルを前記近位側パネルに対して展開する方向に付勢する付勢手段と、を含み、前記折畳状態において、前記構体、前記近位側パネルおよび前記遠位側パネルが順に渦巻状に配置されているとともに前記遠位側パネルを前記近位側パネルよりも渦の中心側に巻き込むように折り畳まれており、前記折畳状態から、前記付勢手段の付勢力により前記近位側パネルが所定の角度以上に展開することで、前記パネル係止構造が前記遠位側パネルの係止を解除し、前記遠位側パネルが前記近位側パネルに対して展開して前記展開状態に遷移することを特徴とする宇宙機。