(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の光学ガラスは、カチオン成分としてP
5+、Al
3+、Sr
2+及びBa
2+を含有し、アニオン成分としてO
2−及びF
−を含有し、屈折率(nd)が1.50以上である。カチオン成分及びアニオン成分として上述の成分を含有し、且つ、上記の成分や他の成分の含有量を調整することで、高いアッベ数を保ちながらも、ガラスの高屈折率化を得ることができる。
【0025】
以下、本発明の光学ガラスについて説明する。本発明は、以下の態様に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内で適宜変更を加えて実施できる。なお、説明が重複する箇所について説明を省略する場合があるが、説明の趣旨を限定するものではない。
【0026】
<ガラス成分>
本発明の光学ガラスを構成する各成分について説明する。
本明細書中において、各成分の含有量は特に断りがない場合は、全てモル比に基づくカチオン%又はアニオン%で表示されるものとする。ここで、「カチオン%」及び「アニオン%」(以下、「カチオン%(モル%)」及び「アニオン%(モル%)」と表記することがある)は、本発明の光学ガラスのガラス構成成分をカチオン成分及びアニオン成分に分離し、それぞれにおいて合計割合を100モル%として、ガラス中に含有される各成分の含有量を表記した組成である。
なお、各成分のイオン価は便宜的に代表値を用いているに過ぎないため、他のイオン価のものと区別するものではない。光学ガラス中に存在する各成分のイオン価は、代表値以外である可能性がある。例えば、Pは、通常イオン価が5価の状態でガラス中に存在するので、本明細書中では「P
5+」と表しているが、他のイオン価の状態で存在する可能性がある。このように、厳密には他のイオン価の状態で存在するものであっても、本明細書では、各成分が代表値のイオン価でガラス中に存在するものとして扱う。
【0027】
[カチオン成分について]
P
5+はガラス形成成分であり、特に20.0%以上含有することで、ガラスの耐失透性を高められる必須成分である。そのため、P
5+の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは22.0%、さらに好ましくは25.0%、さらに好ましくは30.0%を下限とする。
一方で、P
5+の含有量を50.0%以下にすることで、P
5+による屈折率やアッベ数の低下を抑えられ、且つ化学的耐久性の低下を抑えられる。従って、P
5+の含有量は、好ましくは50.0%、さらに好ましくは45.0%、さらに好ましくは40.0%を上限とする。
P
5+は、原料としてAl(PO
3)
3、Ca(PO
3)
2、Ba(PO
3)
2、Zn(PO
3)
2、BPO
4、H
3PO
4等を用いることができる。
【0028】
Al
3+は、10.0%以上含有することで、ガラスの微細構造の骨格形成に寄与することで耐失透性を高められ、磨耗度を低くする必須成分である。従って、Al
3+の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは13.0%、さらに好ましくは15.0%を下限とする。
一方で、Al
3+の含有量を40.0%以下にすることで、Al
3+による屈折率やアッベ数の低下や、ガラス転移点や屈伏点の上昇を抑えられる。従って、Al
3+の含有量は、好ましくは40.0%、より好ましくは35.0%、さらに好ましくは30.0%、さらに好ましくは25.0%を上限とする。
Al
3+は、原料としてAl(PO
3)
3、AlF
3、Al
2O
3等を用いることができる。
【0029】
Sr
2+は、5.0%以上含有することで、ガラスの耐失透性を高め、且つ屈折率の低下を抑制する必須成分である。なお、Sr
2+の含有量は、好ましくは5.0%、より好ましくは7.5%、さらに好ましくは10.0%を下限とする。
一方で、Sr
2+の含有量を30.0%以下にすることで、Sr
2+の過剰な含有によるガラスの失透や屈折率の低下を抑えられる。従って、Sr
2+の含有量は、好ましくは30.0%以下、より好ましくは24.0%以下、さらに好ましくは21.0%以下とする。
Sr
2+は、原料としてSr(NO
3)
2、SrF
2等を用いることができる。
【0030】
Ba
2+は、10.0%以上含有することで、ガラス転移点及び屈伏点を下げ、耐失透性を高め、アッベ数を高め、且つ屈折率を高める必須成分である。従って、Ba
2+の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは15.0%、さらに好ましくは17.5%、さらに好ましくは20.0%を下限とする。
一方で、Ba
2+の含有量を50.0%以下にすることで、Ba
2+の過剰な含有によるガラスの耐失透性の低下を抑えられる。従って、Ba
2+の含有量は、好ましくは50.0%、より好ましくは45.0%、さらに好ましくは40.0%、さらに好ましくは35.0%、さらに好ましくは32.5%を上限とする
Ba
2+は、原料としてBa(PO
3)
2、BaCO
3、Ba(NO
3)
2、BaF
2等を用いることができる。
【0031】
本発明の光学ガラスは、P
5+含有率及びAl
3+含有率の合計量(カチオン%)が40.0%以上60.0%以下であることが好ましい。
特に、この合計量を40.0%以上にすることで、耐失透性が高められる。従って、P
5+及びAl
3+の合計量は、好ましくは40.0%、より好ましくは45.0%、さらに好ましくは47.0%を下限とする。
一方で、この合計量を60.0%以下にすることで、屈折率やアッベ数の低下を抑えられる。従って、P
5+及びAl
3+の合計量は、好ましくは60.0%、より好ましくは58.0%、さらに好ましくは55.0%を上限とする。
【0032】
Al
3+及びBa
2+の合計量は、30.0%以上60.0%以下が好ましい。
特に、この合計量を30.0%以上にすることで、屈折率を高められ、且つ耐失透性が高められる。従って、Al
3+及びBa
2+の合計量は、好ましくは30.0%、より好ましくは35.0%、さらに好ましくは38.0%、さらに好ましくは40.0%、さらに好ましくは45.0%を下限とする。
一方で、この合計量を60.0%以下にすることで、ガラスのアッベ数の低下を抑えられ、耐失透性を高められる。従って、Al
3+及びBa
2+の合計量は、好ましくは60.0%、より好ましくは57.0%、さらに好ましくは55.0%を上限とする。
【0033】
P
5+、Al
3+及びBa
2+の合計量は、50.0%以上95.0%以下が好ましい。
特に、この合計量を50.0%以上にすることで、屈折率を高められ、耐失透性が高められる。従って、P
5+、Al
3+及びBa
2+の合計量は、好ましくは50.0%、より好ましくは55.0%、さらに好ましくは60.0%、さらに好ましくは65.0%を下限とする。
一方で、この合計量を95.0%以下にすることで、耐失透性が高められる。従って、P
5+、Al
3+及びBa
2+の合計量は、好ましくは95.0%、より好ましくは90.0%、さらに好ましくは87.5%、さらに好ましくは85.0%を上限とする。
【0034】
Sr
2+及びBa
2+の合計量は、30.0%以上60.0%以下が好ましい。
特に、この合計量を30.0%以上にすることで、屈折率を高められ、且つ耐失透性が高められる。従って、Sr
2+及びBa
2+の合計量は、好ましくは30.0%、より好ましくは35.0%、さらに好ましくは40.0%を下限とする。
一方で、この合計量を60.0%以下にすることで、ガラスのアッベ数の低下を抑えられ、耐失透性を高められる。従って、Al
3+及びBa
2+の合計量は、好ましくは60.0%、より好ましくは55.0%、さらに好ましくは50.0%を上限とする。
【0035】
Mg
2+は、0%超含有する場合に、ガラスの耐失透性を高められる任意成分である。従って、Mg
2+の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%、さらに好ましくは1.0%を下限とする。
一方で、Mg
2+の含有量を20.0%以下にすることで、Mg
2+の過剰な含有によるガラスの失透や屈折率の低下を抑えられる。従って、Mg
2+の含有量は、好ましくは20.0%以下、より好ましくは17.0%以下、さらに好ましくは15.0%以下とする。なお、Mg
2+の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%以下としてもよい。
Mg
2+は、原料としてMgO、MgF
2等を用いることができる。
【0036】
Ca
2+は、0%超含有する場合に、ガラスの耐失透性を高められる任意成分である。
一方で、Ca
2+の含有量を20.0%以下にすることで、Ca
2+の過剰な含有によるガラスの耐失透性や屈折率の低下を抑えられる。従って、Ca
2+の含有量は、好ましくは20.0%以下、より好ましくは15.0%以下、さらに好ましくは10.0%以下とする。なお、Ca
2+の含有量は、好ましくは8.0%以下、より好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下としてもよい。
Ca
2+は、原料としてCa(PO
3)
2、CaCO
3、CaF
2等を用いることができる。
【0037】
本発明の光学ガラスは、Ba
2+の含有量に対するMg
2+の含有量の比率が1.0以上40.0以下であることが好ましい。これにより、ガラスの屈折率を高められ、耐失透性が高められる。従って、カチオン比(Ba
2+/Mg
2+)は、好ましくは1.0、より好ましくは2.0、さらに好ましくは3.0を下限とする。
一方で、この比率は、好ましくは40.0、より好ましくは35.0、さらに好ましくは32.0を上限とする。
【0038】
Ba
2+とAl
3+の合計量とMg
2+含有量の比は、3.0以上70.0以下が好ましい。これにより、ガラスの屈折率を高められ、耐失透性が高められる。従って、従って、カチオン比 (Ba
2++Al
3+)/Mg
2+は、好ましくは3.0、より好ましくは4.0、さらに好ましくは5.0、さらに好ましくは6.0を下限とする。
一方で、この比率は、好ましくは70.0、より好ましくは65.0、さらに好ましくは60.0を上限とする。
【0039】
アルカリ土類金属は、Sr
2+、Ba
2+、Mg
2+およびCa
2+、からなる群から選ばれる1種以上を意味する。また、Sr
2+、Ba
2+、Mg
2+およびCa
2+からなる群から選ばれる1種以上をR
2+と表す場合がある。
また、R
2+の合計含有量とは、これら4つのイオンのうち1種以上の合計含有量(例えばSr
2++Ba
2++Mg
2++Ca
2+)を意味するものとする。
【0040】
ここで、R
2+の合計含有量は、30.0%以上70.0%以下が好ましい。
特に、R
2+を30.0%以上含有することで、より耐失透性の高いガラスを得ることができる。従って、R
2+の合計含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは35.0%、さらに好ましくは40.0%、さらに好ましくは42.0%を下限とする。
一方で、R
2+の含有量を70.0%以下にすることで、R
2+の過剰な含有による失透を低減できる。従って、R
2+の合計含有量は、好ましくは70.0%、より好ましくは60.0%、さらに好ましくは55.0%を上限とする。
【0041】
La
3+は、0%超含有する場合に、高屈折率及び高アッベ数を維持しながらも、耐失透性を高められる任意成分である。従って、La
3+の含有量は、好ましくは0超、より好ましくは0.5%、さらに好ましくは1.0%を下限とする。
一方で、La
3+の含有量を10.0%以下にすることで、これら成分の過剰な含有による失透を低減でき、且つガラスの材料コスト、比重を低減できる。また、これによりガラス転移点や屈伏点の上昇を抑えられる。従って、La
3+の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは5.0%以下とする。
La
3+は、原料としてLa
2O
3、LaF
3等を用いることができる。
【0042】
Gd
3+は、0%超含有する場合に、高屈折率及び高アッベ数を維持しながらも、耐失透性を高められる任意成分である。従って、Gd
3+の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%、さらに好ましくは1.0%を下限とする。
一方で、Gd
3+の含有量を10.0%以下にすることで、これら成分の過剰な含有による失透を低減でき、且つガラスの材料コスト、比重を低減できる。また、これによりガラス転移点や屈伏点の上昇を抑えられる。従って、Gd
3+の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは5.0%以下とする。
Gd
3+は、原料としてGd
2O
3、GdF
3等を用いることができる。
【0043】
Y
3+は、0%超含有する場合に、高屈折率及び高アッベ数を維持しながらも、耐失透性を高められる任意成分である。従って、Y
3+の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%、さらに好ましくは1.0%を下限とする。
一方で、Y
3+の含有量を10.0%以下にすることで、これら成分の過剰な含有による失透を低減でき、且つガラスの材料コスト、比重を低減できる。また、これによりガラス転移点や屈伏点の上昇を抑えられる。従って、Y
3+の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは5.0%以下とする。
Y
3+は、原料としてY
2O
3、YF
3等を用いることができる。
【0044】
Yb
3+は、0%超含有する場合に、高屈折率及び高アッベ数を維持しながらも、耐失透性を高められる任意成分である。従って、Yb
3+の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%、さらに好ましくは1.0%を下限とする。
一方で、Yb
3+の含有量を10.0%以下にすることで、これら成分の過剰な含有による失透を低減でき、且つガラスの材料コスト、比重を低減できる。また、これによりガラス転移点や屈伏点の上昇を抑えられる。従って、Yb
3+の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは2.5%以下、さらに好ましくは1.0%以下とする。
Yb
3+は、原料としてYb
2O
3、YbF
3等を用いることができる。
【0045】
Lu
3+は、0%超含有する場合に、高屈折率及び高アッベ数を維持しながらも、耐失透性を高められる任意成分である。従って、Lu
3+の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%、さらに好ましくは1.0%を下限とする。
一方で、Lu
3+の含有量を10.0%以下にすることで、これら成分の過剰な含有による失透を低減でき、且つガラスの材料コスト、比重を低減できる。また、これによりガラス転移点や屈伏点の上昇を抑えられる。従って、Lu
3+の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは5.0%以下とする。
Lu
3+は、原料としてLu
2O
3、LuF
3等を用いることができる。
【0046】
Ln
3+は、La
3+、Gd
3+、Y
3+、Yb
3+及びLu
3+からなる群から選ばれる少なくとも1つを意味する。また、Ln
3+の合計含有量は、これらの5つのイオンの合計含有量(La
3++Gd
3++Y
3++Yb
3+Lu
3+)を表す場合がある。
Ln
3+の合計含有量を、0%超にすることで、高屈折率及び高アッベ数を維持しながらも、耐失透性を高めることができる。従って、Ln
3+の合計含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%、さらに好ましくは1.0%を下限とする。
一方、Ln
3+の合計含有量を20.0%以下にすることで、Ln
3+の過剰な含有による失透を低減でき、且つガラスの材料コストおよび比重を低減できる。従って、Ln
3+の合計含有量は、好ましくは20.0%以下、より好ましくは15.0%以下、さらに好ましくは10.0%以下、さらに好ましくは7.5%以下、さらに好ましくは5.0%以下とする。
【0047】
Li
+、Na
+及びK
+は、0%超含有する場合に、ガラス形成時の耐失透性を高く維持しつつ、ガラス転移点を下げられる任意成分である。
一方で、Li
+、Na
+及びK
+のうち1種以上の含有量を10.0%以下にすることで、屈折率の低下や、化学的耐久性の悪化を抑えられる。従って、Na
+びK
+の各々の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは2.0%以下とする。
Li
+、Na
+及びK
+は、原料としてLi
2CO
3、LiNO
3、LiF、Na
2CO
3、NaNO
3、NaF、Na
2SiF
6、K
2CO
3、KNO
3、KF、KHF
2、K
2SiF
6等を用いることができる。
【0048】
本発明においてRn
+は、Li
+、Na
+及びK
+からなる群から選ばれる少なくとも1つを意味する。また、Rn
+の合計含有量は、これらの3つのイオンの合計含有量(Li
++Na
++K
+)を表す場合がある。
特に、Rn
+の合計含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの屈折率の低下や、化学的耐久性の悪化を抑えられる。従って、Rn
+の合計含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは2.0%以下とする。
【0049】
Si
4+は、0%超含有する場合に、ガラスの耐失透性を高め、屈折率を高め、磨耗度を低下できる任意成分である。
一方で、Si
4+の含有量を10.0%以下にすることで、Si
4+の過剰な含有による失透を低減できる。従って、Si
4+の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下とする。
Si
4+は、原料としてSiO
2、K
2SiF
6、Na
2SiF
6等を用いることができる。
【0050】
B
3+は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率と耐失透性を高められる任意成分である。
一方で、B
3+の含有量を15.0%以下にすることで、化学的耐久性の悪化を抑えられる。従って、B
3+の含有量は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは10.0%以下、さらに好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは5.0%以下とする。
B
3+は、原料としてH
3BO
3、Na
2B
4O
7、BPO
4等を用いることができる。
【0051】
Ge
4+は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高め、耐失透性を高められる任意成分である。
一方で、Ge
4+の含有量を10.0%以下にすることで、高価なGe
4+の含有量が減少することで、ガラスの材料コストを低減できる。そのため、Ge
4+の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下とする。
Ge
4+は、原料としてGeO
2等を用いることができる。
【0052】
Nb
5+、Ti
4+及びW
6+は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高められる任意成分である。加えて、Nb
5+は、0%超含有する場合に化学的耐久性を高められる成分でもある。また、W
6+は、0%超含有する場合にガラス転移点を低くできる成分でもある。
一方で、Nb
5+、Ti
4+及びW
6+の各々の含有量を10.0%以下にすることで、アッベ数の低下を抑えられ、且つガラスの着色による可視光透過率の低下を抑えられる。従って、Nb
5+、Ti
4+及びW
6+の各々の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下とする。
Nb
5+、Ti
4+及びW
6+は、原料としてNb
2O
5、TiO
2、WO
3等を用いることができる。
【0053】
Zr
4+は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高められる任意成分である。
一方で、Zr
4+の含有量を10.0%以下にすることで、ガラス中の成分の揮発によるガラスの脈理を抑えられる。従って、Zr
4+の含有量は好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下とする。
Zr
4+は、原料としてZrO
2、ZrF
4等を用いることができる。
【0054】
Ta
5+は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高められる任意成分である。
一方で、Ta
5+の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの失透を低減できる。従って、Ta
5+の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下とする。
Ta
5+は、原料としてTa
2O
5等を用いることができる。
【0055】
Zn
2+は、0%超含有する場合に、ガラスの耐失透性を高められる任意成分である。
一方で、Zn
2+の含有量は30.0%以下にすることで、屈折率の低下を抑えられる。従って、Zn
2+の含有量は、好ましくは30.0%以下、より好ましくは20.0%、さらに好ましくは10.0%、さらに好ましくは5.0%を上限とする。
Zn
2+は、原料としてZn(PO
3)
2、ZnO、ZnF
2等を用いることができる。
【0056】
Bi
3+は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高め、ガラス転移点を低くできる任意成分である。
一方で、Bi
3+の含有量は10.0%以下にすることで、ガラスの失透や、着色による可視光透過率の低下を抑えられる。従って、Bi
3+の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下とする。
Bi
3+は、原料としてBi
2O
3等を用いることができる。
【0057】
Te
4+は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高め、着色を抑えることができる任意成分である。
一方で、Te
4+の含有量を15.0%以下にすることで、ガラスの失透や、着色による可視光透過率の低下を抑えられる。従って、Te
4+の含有量は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは10.0%以下、さらに好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは5.0%以下とする。
Te
4+は、原料としてTeO
2等を用いることができる。
【0058】
[アニオン成分について]
本発明の光学ガラスはO
2−を含有する。O
2−の含有量は、例えば30.0%〜70.0%にすることが好ましい。
特に、O
2−を30.0%以上含有することで、ガラスの失透や、磨耗度の上昇を抑制できる。従って、O
2−の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは40.0%、さらに好ましくは45.0%、さらに好ましくは50.0%を下限とする。
一方で、O
2−の含有量を70.0%以下にすることで、他のアニオン成分による効果を得易くできる。従って、O
2−の含有量は、好ましくは70.0%、より好ましくは67.0%、さらに好ましくは65.0%、さらに好ましくは60.0%、さらに好ましくは55.0%を上限とする。
O
2−は、原料としてAl
2O
3、MgO、BaO等の各種カチオン成分の酸化物や、Al(PO)
3、Mg(PO)
2、Ba(PO)
2等の各種カチオン成分の燐酸塩等を用いることができる。
【0059】
本発明の光学ガラスはF
−を含有する。F
−の含有量は、例えば30.0%〜70.0%にすることが好ましい。
特に、F
−を30.0%以上含有することで、ガラスの異常分散性やアッベ数を高め、且つガラスの耐失透性を高められる。従って、F
−の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは35.0%、さらに好ましくは40.0%、さらに好ましくは42.5%とする。
一方で、F
−の含有量を70.0%以下にすることで、ガラスの磨耗度の低下を抑えられる。従って、F
−の含有量は、好ましくは70.0%、より好ましくは60.0%、さらに好ましくは55.0%、さらに好ましくは50.0%を上限とする。
また、ガラスの失透を抑制する観点から、O
2−の含有量とF
−の含有量の合計は、好ましくは98.0%、より好ましくは99.0%を下限とし、さらに好ましくは100%とする。
F
−は、原料としてAlF
3、MgF
2、BaF
2等の各種カチオン成分のフッ化物を用いることができる。
【0060】
[その他の成分について]
本発明の光学ガラスには、他の成分を本願発明のガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加できる。
【0061】
[含有すべきでない成分について]
次に、本発明の光学ガラスに含有すべきでない成分、及び含有することが好ましくない成分について説明する。
【0062】
上述されていない他の成分を、本願発明のガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。ただし、Ce、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag及びMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合でもガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じることで、本願発明の可視光透過率を高める効果を減殺する性質があるため、特に可視領域の波長を透過させる光学ガラスでは、実質的に含まないことが好ましい。
【0063】
Pb、Th、Cd、Tl、Os、Be及びSeのカチオンは、近年有害な化学物質として使用を控える傾向にあり、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、不可避な混入を除き、これらを実質的に含有しないことが好ましい。これにより、光学ガラスに環境を汚染する物質が実質的に含まれなくなる。そのため、特別な環境対策上の措置を講じなくとも、この光学ガラスを製造し、加工し、及び廃棄できる。
【0064】
SbやCeのカチオンは、脱泡剤として有用ではあるが、環境に不利益を及ぼす成分として、近年光学ガラスに含めないようにする傾向がある。そのため、本発明の光学ガラスは、このような点からSbやCeを含まないことが好ましい。
【0065】
[製造方法]
本発明の光学ガラスの製造方法は特に限定されない。例えば、上記原料を各成分が所定の含有量の範囲内になるように均一に混合し、作製した混合物を石英坩堝又はアルミナ坩堝又は白金坩堝に投入して粗溶融した後、白金坩堝、白金合金坩堝又はイリジウム坩堝に入れて900〜1250℃の温度範囲で2〜10時間溶融し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、900℃以下の温度に下げてから仕上げ攪拌を行って脈理を除去し、金型に鋳込んで徐冷することにより製造することができる。
【0066】
[物性]
本発明の光学ガラスは、高屈折率を有する。また、本発明の光学ガラスは、高アッベ数(低分散)を有することが好ましい。
特に、本発明の光学ガラスの屈折率(nd)は、好ましくは1.50、より好ましくは1.51、さらに好ましくは1.53を下限とする。この屈折率の上限は、好ましくは2.00、より好ましくは1.90、さらに好ましくは1.80であってもよい。
また、本発明の光学ガラスのアッベ数(νd)は、好ましくは70、より好ましくは72、さらに好ましくは74を下限とする。このアッベ数の上限は、好ましくは90、より好ましくは85、さらに好ましくは80であってもよい。
このような高屈折率を有することで、光学素子の薄型化を図っても大きな光の屈折量を得ることができる。また、このような低分散を有することで、単レンズであっても光の波長による焦点のずれ(色収差)が小さくなる。また、屈折率及びアッベ数がこのような数値を取ることで、近年発表されている高屈折・高分散の光学特性を有する光学ガラスと組み合わせたときに、高パワーの光学設計を行うことが可能な光学ガラスを得ることができる。
従って、本発明の光学ガラスは、光学設計上有用であり、光学系の高精度化及び薄型化を図ることができるため、光学設計の自由度を広げることができる。
なお、屈折率(nd)及びアッベ数(νd)は、日本光学硝子工業会規格JOGIS01−2003に基づいて測定して得た値を意味するものとする。
【0067】
本発明の光学ガラスは、ガラス作製時における耐失透性(明細書中では、単に「耐失透性」という場合がある。)が高いことが好ましい。これにより、ガラス作製時におけるガラスの結晶化等による透過率の低下が抑えられるため、この光学ガラスをレンズ等の可視光を透過させる光学素子に好ましく用いることができる。なお、ガラス作製時における耐失透性が高いことを示す尺度としては、例えば液相温度が低いことが挙げられる。
【0068】
本発明の光学ガラスは、比重が小さいことが好ましい。
より具体的には、本発明の光学ガラスの比重は4.50[g/cm
3]以下である。これにより、光学素子やそれを用いた光学機器の質量が低減されるため、光学機器の軽量化に寄与できる。従って、本発明の光学ガラスの比重は、好ましくは4.50、より好ましくは4.40、好ましくは4.30を上限とする。なお、本発明の光学ガラスの比重は、概ね3.00以上、より詳細には3.50以上、さらに詳細には4.00以上であることが多い。
光学ガラスの比重は、日本光学硝子工業会規格JOGIS05−1975「光学ガラスの比重の測定方法」に基づいて測定できる。
【0069】
本発明の光学ガラスは、着色が少ないことが好ましい。
特に、本発明の光学ガラスは、ガラスの透過率で表すと、厚み10mmのサンプルで分光透過率80%を示す波長(λ
80)が450nm以下であり、より好ましくは400nm以下であり、さらに好ましくは370350nm以下である。また、本発明の光学ガラスは、厚み10mmのサンプルで分光透過率5%を示す波長(λ
5)が400nm以下であり、より好ましくは350nm以下であり、さらに好ましくは330300nm以下である。これにより、ガラスの吸収端が紫外領域に位置するようになり、可視域におけるガラスの透明性が高められるため、この光学ガラスをレンズ等の光学素子の材料として用いることができる。
光学ガラスの透過率は、日本光学硝子工業会規格JOGIS02に準じて測定する。具体的には、厚さ10±0.1mmの対面平行研磨品をJISZ8722に準じ、200〜800nmの分光透過率を測定し、λ
80(透過率80%時の波長)及びλ
5(透過率5%時の波長)を求めることができる。
【0070】
[プリフォーム及び光学素子]
作製された光学ガラスから、例えばリヒートプレス成形や精密プレス成形等のモールドプレス成形の手段を用いて、ガラス成形体を作製することができる。すなわち、光学ガラスからモールドプレス成形用のプリフォームを作製し、このプリフォームに対してリヒートプレス成形を行った後で研磨加工を行ってガラス成形体を作製したり、研磨加工を行って作製したプリフォームや、公知の浮上成形等により成形されたプリフォームに対して精密プレス成形を行ってガラス成形体を作製したりすることができる。なお、ガラス成形体を作製する手段は、これらの手段に限定されない。
【0071】
このようにして作製されるガラス成形体は、様々な光学素子及び光学設計に有用である。特に、本発明の光学ガラスから、精密プレス成形等の手段を用いて、レンズやプリズム、ミラー等の光学素子を作製することが好ましい。これにより、カメラやプロジェクタ等のような光学素子に可視光を透過させる光学機器に用いたときに、高精細で高精度な結像特性等を実現しつつ、これら光学機器における光学系の軽量化を図ることができる。
【実施例】
【0072】
本発明の光学ガラスである実施例(No.1〜No.11)及び比較例(No.1)のガラスの組成(カチオン%表示又はアニオン%表示のモル%で示す)、屈折率(nd)、アッベ数(νd)、分光透過率が80%及び5%を示す波長(λ
80、λ
5)並びに比重を表1及び表2に示す。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例のみ限定されるものではない。
【0073】
実施例及び比較例の光学ガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、メタ燐酸化合物等の通常の弗燐酸塩ガラスに使用される高純度原料を選定し、表に示した組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス組成の溶融難易度に応じて電気炉で900〜1250℃の温度範囲で2〜10時間溶解し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、900℃以下に温度を下げてから金型に鋳込み、徐冷してガラスを作製した。
【0074】
実施例及び比較例のガラスの屈折率及びアッベ数は、日本光学硝子工業会規格JOGIS01―2003に基づいて測定した。なお、本測定に用いたガラスとしては、徐冷降下速度−25℃/hrのアニール条件で、徐冷炉で処理したものを用いた。
【0075】
実施例及び比較例のガラスの可視光透過率は、日本光学硝子工業会規格JOGIS02に準じて測定した。なお、本発明においては、ガラスの可視光透過率を測定することで、ガラスの着色の有無と程度を求めた。具体的には、厚さ10±0.1mmの対面平行研磨品をJISZ8722に準じ、200〜800nmの分光透過率を測定し、λ
5(透過率5%時の波長)及びλ
80(透過率80%時の波長)を求めた。
【0076】
実施例及び比較例のガラスの比重は、日本光学硝子工業会規格JOGIS05−1975「光学ガラスの比重の測定方法」に基づいて測定した。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
表1及び表2に表されるように、実施例の光学ガラスは、いずれも屈折率が1.50以上、より詳細には1.53以上であり、所望の範囲内であった。一方、比較例のガラスは、屈折率が1.49985であり、1.50以下であった。そのため、本発明の実施例の光学ガラスは比較例のガラスに比べて、屈折率が高いことが明らかとなった。
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもアッベ数が70以上、より詳細には74以上であるとともに、このアッベ数は90以下、より詳細には80以下であり、所望の範囲内であった。
【0080】
また、実施例の光学ガラスは、いずれも比重が4.50以下、より詳細には4.30以下であり、所望の範囲内であった。
【0081】
従って、実施例の光学ガラスは、アッベ数が所望の範囲内にありながらも、所望の高い屈折率を有していることが明らかになった。
【0082】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもλ
80(透過率80%時の波長)が450nm以下、より詳細には350nm以下であり、所望の範囲内であった。
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもλ
5(透過率5%時の波長)が400nm以下、より詳細には300nm以下であり、所望の範囲内であった。
【0083】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。