特許第6143746号(P6143746)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6143746有核細胞捕捉フィルターまたはこれを利用した有核細胞調製法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6143746
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】有核細胞捕捉フィルターまたはこれを利用した有核細胞調製法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20170529BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20170529BHJP
   C12N 5/078 20100101ALI20170529BHJP
   A61M 1/34 20060101ALI20170529BHJP
   B01D 29/01 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
   C12M1/00 Z
   C12N5/071
   C12N5/078
   A61M1/34 100
   B01D29/04 510F
   B01D29/04 530A
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-512512(P2014-512512)
(86)(22)【出願日】2013年4月18日
(86)【国際出願番号】JP2013061533
(87)【国際公開番号】WO2013161679
(87)【国際公開日】20131031
【審査請求日】2016年3月23日
(31)【優先権主張番号】特願2012-103688(P2012-103688)
(32)【優先日】2012年4月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅田 伸好
【審査官】 吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−136956(JP,A)
【文献】 特開2001−000178(JP,A)
【文献】 特開2003−274923(JP,A)
【文献】 特表2005−535425(JP,A)
【文献】 特開2009−207381(JP,A)
【文献】 特開平8−108069(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0014274(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
A61M 1/34
C12N 5/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入口と流出口を有する容器、
前記容器内に積層された不織布、および
前記不織布を区分する、隔壁流入口を有する隔壁からなり、
前記隔壁により2室以上の空間に仕切られている
ことを特徴とする細胞分離用フィルター。
【請求項2】
隔壁流入口の面積を(S1)、フィルター断面積を(S2)としたとき、(S1)/(S2)の値が0.006以上0.44以下である、請求項1に記載の細胞分離用フィルター。
【請求項3】
(S1)が1.2〜625mmであり、かつ/または(S2)が75〜2500mmである、請求項2に記載の細胞分離用フィルター。
【請求項4】
フィルター断面の中心から容器の端までの最短距離を(R)、フィルター断面の中心から隔壁流入口端までの最遠距離を(T)、隔壁流入口の中心から隔壁流入口端までの最短距離を(r)としたとき、(T)/(R)の値が(r)/(R)以上であり、かつ0.79以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞分離用フィルター。
【請求項5】
(a)請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞分離用フィルターの流入口から細胞含有液を導入し不織布と接触させる工程、および
(b)前記細胞分離用フィルターから有核細胞分画を回収する工程、
を含む有核細胞調製法。
【請求項6】
前記工程(b)において、回収液をフィルターの流入口から導入し有核細胞分画を回収する、請求項5に記載の有核細胞調製法。
【請求項7】
前記工程(b)において、回収液をフィルターの流出口から導入し有核細胞分画を回収する、請求項5に記載の有核細胞調製法。
【請求項8】
有核細胞分画が単核球分画である、請求項5〜7のいずれか1項に記載の有核細胞調製法。
【請求項9】
細胞含有液から顆粒球が選択的に除去される、請求項5〜8のいずれか1項に記載の有核細胞調製法。
【請求項10】
単核球の回収率を(M)、顆粒球の回収率を(G)としたときに、(M)/(G)の値が5.3以上である、請求項9に記載の有核細胞調製法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞含有液から有核細胞分画を効率良く回収することが可能な細胞分離用フィルターと、それを用いた有核細胞調製法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、末梢血・骨髄・臍帯血・組織抽出物をはじめとする細胞含有液のうち、治療に有効な細胞分画のみを分離して患者に投与し、必要ない分画は投与せず、治療効果をより高め、副作用をより抑制する治療スタイルが広く普及している。例えば、白血病や固形癌治療に向けた造血幹細胞移植がその1つであり、骨髄や末梢血から赤血球を除去し、治療に有効な細胞(造血幹細胞を含む有核細胞)のみを分離・純化して患者に投与するようになってきた。臍帯血バンキングにおいても使用時まで細胞を凍結保存する必要があるため、凍結保存による赤血球溶血を防ぐことを目的に有核細胞は分離・純化されている。さらに、脳梗塞、心筋梗塞および肢虚血等の虚血性疾患領域において骨髄、臍帯血または末梢血由来の単核球移植療法が臨床応用されている。これらの単核球分画には間葉系幹細胞、造血幹細胞、血管内皮前駆細胞に代表される幹細胞が豊富に含まれており、幹細胞が血管新生や神経再生を促進することによって治療効果が得られると考えられている。一方で、顆粒球は炎症等の副作用を引き起こして治療効果を低減させると考えられているため、骨髄や末梢血から顆粒球を除去し、治療に有効な細胞(幹細胞を含む単核球群)のみを分離・純化して患者に投与している。
【0003】
例えば、田口らは、末梢動脈閉塞性疾患であるBeurger病患者に、CD34陽性細胞を含む骨髄単核球を移植し、血管新生を促進することによってBuerger病を効果的に治療可能であることを見出している(非特許文献1)。また、脳梗塞をはじめとする急性虚血性疾患または虚血性心疾患患者に対する骨髄由来単核球の移植治療が有効であると報告されている(非特許文献2)。
【0004】
これら有核細胞あるいは単核球を分離・純化する方法としては、遠心分離またはFicoll液に代表される比重液を使用した密度勾配遠心法が一般的に用いられている。しかし、密度勾配遠心法は細胞に与える物理的な負荷が大きい、操作が煩雑である、および、開放系での操作が必要であり細胞治療を行う上では大型のセルプロセッシングセンター(CPC)が必須である、等の問題がある。
【0005】
そこで、操作が簡便で、且つ閉鎖系の細胞分離法として、不織布を用いたデバイスによる有核細胞の分離方法が開示されている(特許文献1)。また、不織布の目詰まりを抑制するために、特定の穴面積率で加工した不織布を、2種類の異なるフィルターの間に積層したデバイスを用いて白血球を除去する方法や(特許文献2)、顆粒球のみが選択的に捕捉される細胞分離用フィルターを用いて、単核球を効率良く回収する方法等が開示されている(特許文献3)。しかし、不織布は汎用性に乏しいので、当該方法においては、回収率の向上や不要な細胞の混入率の抑制のために、目的とする細胞に適した不織布を設計する必要が生じる。
【0006】
上記のように、遠心操作による細胞への負荷、操作の煩雑さ、コンタミネーションのリスク等を鑑みると、不織布を積層させた細胞分離用フィルターによる分離方法が好ましいが、不織布の性能を上げようとすると特定細胞のみに適した細胞分離用フィルターとなり汎用性に乏しくなるとともに、細胞種ごとに不織布を開発しなければならないという問題点が挙げられ、その解決方法は未だ見出されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−329034号公報
【特許文献2】特開2004−215875号公報
【特許文献3】国際公開第06/093205号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】A.Taguchi.et al.,Eur.J.Vasc.Endovasc.Surg.2003,25,276−278
【非特許文献2】A.Taguchi.et al.,Stem Cells.2010,28,1292−1302
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、細胞分離用フィルターを用いて細胞含有液から有核細胞を分離する方法における問題点を解決することを課題とする。具体的には、回収目的の細胞種に適した不織布を設計することなく、有核細胞分画への不要な細胞の混入割合を減少させることが可能な、細胞分離用フィルターおよび当該細胞分離用フィルターを用いた細胞調製方法を提供する。さらに、本発明は有核細胞の回収率を向上させる細胞分離用フィルターおよび当該細胞分離用フィルターを用いた細胞調製方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、細胞分離用フィルターの構造に着目し、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、驚くべきことに流入口と流出口を有する容器内に不織布を積層し、フィルター内に不織布を区分する隔壁を設置することによって、不織布を最適化しなくても有核細胞の回収率向上や不要な細胞の混入割合を減少させることができ、且つ不織布を適時細胞種に応じて変更しなくてもよく汎用性に富むことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、流入口と流出口を有する容器、前記容器内に積層された不織布、および、前記不織布を区分する、隔壁流入口を有する隔壁からなり、前記隔壁により2室以上の空間に仕切られていることを特徴とする細胞分離用フィルターに関する。
【0012】
隔壁流入口の面積を(S1)、フィルター断面積を(S2)としたとき、(S1)/(S2)の値が0.006以上0.44以下であることが好ましい。
【0013】
(S1)が1.2〜625mmであり、および/または(S2)が75〜2500mmであることが好ましい。
【0014】
フィルター断面の中心から容器の端までの最短距離を(R)、フィルター断面の中心から隔壁流入口端までの最遠距離を(T)、隔壁流入口の中心から隔壁流入口端までの最短距離を(r)としたとき、(T)/(R)の値が(r)/(R)以上であり、かつ0.79以下であることが好ましい。
【0015】
また、本発明は、(a)前記細胞分離用フィルターの流入口から細胞含有液を導入し不織布と接触させる工程、および(b)前記細胞分離用フィルターから有核細胞分画を回収する工程、を含む有核細胞調製法に関する。
【0016】
前記工程(b)において、回収液をフィルターの流入口から導入し有核細胞分画を回収することが好ましい。
【0017】
前記工程(b)において、回収液をフィルターの流出口から導入し有核細胞分画を回収することが好ましい。
【0018】
有核細胞分画が単核球分画であることが好ましい。
【0019】
細胞含有液から顆粒球が選択的に除去されることが好ましい。
【0020】
単核球の回収率を(M)、顆粒球の回収率を(G)としたときに、(M)/(G)の値が5.3以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、細胞分離フィルターに隔壁を設けることによって細胞分離フィルター内での通液速度が遅くなり、細胞含有液と不織布との接触時間が長くなるうえ、不織布の捕捉対象となる細胞が不織布を通らず容器の端を通過して流出口より漏れ出る確率が低下する結果、細胞含有液から有核細胞分画を効率良く捕捉、回収することが可能となる。有核細胞回収率が向上するため、少量の細胞含有液から効率的に必要量の有核細胞分画を調製することが可能となり、ドナー患者の負担低減が期待される。また、顆粒球捕捉用の不織布を積層した前記構造の細胞分離用フィルターを用いることで、従来よりも顆粒球除去率の高い単核球分画を回収することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】隔壁を備えた細胞分離用フィルターの縦断面図
図2】流入口が1個の隔壁を備えた細胞分離用フィルターの横断面図
図3】流入口が複数個の隔壁を備えた細胞分離用フィルターの横断面図
図4】細胞分離用フィルターを備えた回路
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。まず、本発明における細胞分離用フィルターは、図1に示すように流入口と流出口を有する容器内に不織布が積層されている。容器の形態・大きさは特に限定されない。容器の形態としては、例えば、円柱、四角柱、楕円柱、ひし形柱等が挙げられる。
【0024】
また、細胞分離用フィルターに用いられる容器は任意の構造材料を使用して作製することができる。当該容器の構造材料としては具体的には、非反応性ポリマー、生物親和性金属、合金、ガラス等が挙げられる。
【0025】
非反応性ポリマーとしては、アクリロニトリルブタジエンスチレンターポリマー等のアクリロニトリルポリマー;ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンのコポリマー、ポリ塩化ビニル等のハロゲン化ポリマー;ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルクロリドアクリルコポリマー、ポリカーボネートアクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリスチレン、ポリメチルペンテン等が挙げられる。
【0026】
生物親和性金属および合金としては、ステンレス鋼、チタン、白金、タンタル、金、およびそれらの合金、並びに金メッキ合金鉄、白金メッキ合金鉄、コバルトクロミウム合金、窒化チタン被覆ステンレス鋼等が挙げられる。
【0027】
滅菌耐性を有する点から、当該容器の構造材料として、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリメチルペンテン等が好ましい。
【0028】
本発明において不織布の材質は特に制限されないが、滅菌耐性や細胞への安全性の観点からは、ポリエチレンテレフタート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリビニルアルコール、塩化ビニリデン、レーヨン、ビニロン、ポリプロピレン、アクリル(ポリメチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリレート)、ナイロン、ポリイミド、アラミド(芳香族ポリアミド)、ポリアミド、キュプラ、カーボン、フェノール、ポリエステル、パルプ、麻、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリカーボネート等の合成高分子、アガロース、セルロース、セルロースアセテート、キトサン、キチン等の天然高分子、ガラス等の無機材料や金属等が挙げられる。好ましくは、細胞捕捉能が高いポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレン、アクリル、ナイロン、ポリウレタンである。さらに好ましくは、有核細胞捕捉能が高いポリエチレンテレフタレート、ナイロンである。2種以上の材質を組み合わせて繊維とする場合の繊維の形態としては、1本の繊維が異成分同士の材質よりなる繊維でもよく、異成分同士が剥離分割した分割繊維でもよい。また異成分同士の材質よりなる繊維をそれぞれ複合化した形態でもよい。ここでいう複合化とは、特に制限は無く、2種以上の繊維が混在した状態より構成される形態、あるいは単独の材質よりなる形態をそれぞれ張り合わせたもの等が挙げられる。さらに、蛋白質、ペプチド、アミノ酸、糖類等のように、特定の細胞に親和性のある分子を固定してもよい。
【0029】
また、不織布に親水化処理を施すことが好ましい。親水化処理により、有核細胞以外の細胞の非特異的な捕捉が抑制され、体液や生体組織の処理液が偏りなく細胞分離用フィルター中を通過するので、性能の向上、必要細胞の回収率の向上等を付与することができる。親水化処理としては、水溶性多価アルコール、または水酸基やカチオン基、アニオン基を有するポリマー、あるいはその共重合体(例えば、ヒドロキシエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、あるいはその共重合体等)を吸着させる方法;水溶性高分子(ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等)を吸着させる方法;疎水性膜に親水性高分子を固定化する方法;細胞分離用フィルターに電子照射する方法;含水状態で細胞分離用フィルターに放射線を照射することで親水性高分子を架橋不溶化する方法;疎水性膜の表面をスルホン化する方法;親水性高分子と、疎水性ポリマードープとの混合物から膜をつくる方法;アルカリ水溶液処理(NaOH、KOH等)により膜表面に親水基を付与する方法;疎水性多孔質膜をアルコールに浸漬した後、水溶性ポリマー水溶液で処理、乾燥後、熱処理や放射線等で不溶化処理する方法;界面活性作用を有する物質を吸着させる方法等が挙げられる。親水性高分子としては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、エチレン―ビニルアルコール共重合体、水溶性多価アルコール等が挙げられる。
【0030】
不織布に固定するタンパク質としては、特定の細胞に親和性のあるタンパク質であれば特に限定されないが、具体的にはフィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、コラーゲン等が挙げられる。また、不織布に固定する糖類としては、細胞に親和性のある糖類であれば特に限定されないが、セルロース、キチン、キトサン等の多糖類やマンノース、グルコース、ガラクトース、フコース等のオリゴ糖等が挙げられる。
【0031】
また、本発明において隔壁を挟んで仕切られた各室毎に、素材や目付け(g/m)、最大孔径(m)、繊維径(μm)、通気度(mL/cm/sec)が異なる不織布を積層することもできる。
【0032】
細胞分離用フィルターに用いられる不織布の最大孔径(単位:m)は、フィルタディスクバブルポイント測定装置に不織布をセットし、上部より一定レベルまでエタノールを注いだ後、下部より圧縮空気で加圧し、不織布表面よりエタノール層を通じて最初の気泡が出たときの圧力(バプルポイント圧)をデジタルマノメーターから読み取り、(最大孔径)=4×(エタノールの表面張力、単位:N/m)×cosθ/(バブルポイント圧、単位:Pa)の式に換算することで求めることができる。ここでいうθ(単位:rad)は、不織布の主たる構成成分である高分子化合物よりなる平滑なフィルムを作製し、水平な状態でその上に微量注射器を用いて液滴を形成し、その接触角を室温で測定することにより求めることができる。また、高分子化合物が有機溶媒に溶解可能な場合は、高分子化合物を溶解後、溶解液を用いて平板上にキャストフィルムを作製して、接触角を測定することもできる。
【0033】
また、本発明における不織布の通気度は、フラジール型通気試験機に不織布をセットし、傾斜型気圧計が125Paの圧力を示すように吸い込みファンを調節した後、その時の垂直型気圧計が示す圧力および使用した空気孔の種類から、試験機に付属の表を参照し、試験片を通過する空気量、すなわち通気度を求めることができる。また、本発明における不織布の繊維径は、不織布を走査型電子顕微鏡にて写真撮影し、任意の30ポイント以上を測定し、写真に記載されたスケールから求めた繊維径の計算値を平均することにより、求めることができる。
【0034】
本発明において細胞分離用フィルターは有核細胞を効率良く捕捉するために、以下(1)〜(3);
(1)フィルター内に不織布を区分する、図1〜3に示すような隔壁が設置されていること、
(2)前記隔壁が1または複数の隔壁流入口を有していること、および
(3)前記隔壁により2室以上の空間に仕切られていること
の特徴を有する。
【0035】
本発明における隔壁は、処理液の流れ方向に対して垂直方向に配置され、細胞が透過しない材質から構成される。したがって、細胞は当該隔壁と接触しても隔壁に捕捉されることはない。隔壁には1個または複数個の隔壁流入口が設けられているので、細胞は隔壁流入口へと移動し、区分された別室に移動する。
【0036】
本発明における隔壁としては、細胞が透過しない材質であれば任意の構造材料やフィルム状のシートを使用してよいが、細胞含有液および回収液を通液する際の圧によって隔壁が変形あるいは破損しない点で、剛性の高い構造材料あるいはシートを使用することが好ましい。また、細胞分離用フィルターからフィルター内の液体の漏出を防ぎながら隔壁のみを取り外すことができる構造や、隔壁流入口の面積を変えることができるような構造であってもよい。
【0037】
当該隔壁を構成する構造材料としては、例えば非反応性ポリマー、生物親和性金属、合金、ガラス等が挙げられる。
【0038】
非反応性ポリマーとしては、アクリロニトリルブタジエンスチレンターポリマー等のアクリロニトリルポリマー;ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンのコポリマー、ポリ塩化ビニル等のハロゲン化ポリマー;ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルクロリドアクリルコポリマー、ポリカーボネートアクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリスチレン、ポリメチルペンテン等が挙げられる。
【0039】
生物親和性金属および合金としては、ステンレス鋼、チタン、白金、タンタル、金、およびそれらの合金、並びに金メッキ合金鉄、白金メッキ合金鉄、コバルトクロミウム合金、窒化チタン被覆ステンレス鋼等が挙げられる。
【0040】
また、滅菌耐性を有する点から、当該隔壁を構成する構造材料として、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリメチルペンテン等が好ましい。また、フィルム状シートの材質としては、滅菌耐性を有するポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリメチルペンテン等が好ましい。
【0041】
本発明において、隔壁には細胞を通過させるための隔壁流入口が1または複数個設置される。隔壁流入口は、細胞捕捉効率の点から隔壁の中央部に位置していることが好ましい。図2および図3に示す(S1)は、隔壁流入口の面積であり、(S2)はフィルター断面積である。隔壁流入口の面積(S1)は、流入口が円形の場合は半径より、多角形の場合は辺の長さまたは中心から頂点までの距離により求めることができる。隔壁流入口が複数個ある場合は、各隔壁流入口の面積を上記により算出し、それら面積の和を(S1)とする。(S1)は、1.2mm以上625mm以下であることが好ましく、1.6mm以上575mm以下であることがより好ましく、2.8mm以上525mm以下であることがさらに好ましい。1.2mm未満では、細胞含有液あるいは回収液を通液する際、隔壁流入口付近に高圧が生じ、細胞にダメージを与える傾向がある。625mmを超えると、隔壁流入口が大きすぎ、有核細胞の回収率が減少する傾向がある。
【0042】
フィルター断面積(S2)は、隔壁流入口がある面におけるフィルター断面の断面積であり、フィルター断面が円形の場合は半径より、多角形の場合は辺の長さまたは中心から頂点までの距離により求めることができる。(S2)は、75mm以上2500mm以下であることが好ましく、100mm以上2300mm以下であることがより好ましく、175mm以上2100mm以下であることがさらに好ましい。75mm未満では、細胞含有液あるいは回収液を通液する際、隔壁流入口付近に高圧が生じ、細胞にダメージを与える傾向がある。2500mmを超えると、容器の体積が大きくなるために、有核細胞の回収率が減少する傾向がある。
【0043】
本発明において(S1)と(S2)の関係は、(S1)/(S2)の値が0.006以上0.44以下であることが好ましく、0.01以上0.3以下であることがより好ましく、0.016以上0.25以下であることがさらに好ましい。(S1)/(S2)の値が0.006未満の場合、細胞含有液あるいは回収液を通液する際、隔壁流入口付近に高い圧が生じ、細胞にダメージを与える傾向がある。一方で、0.44を超えると有核細胞の回収率が減少する傾向がある。
【0044】
図2および図3に示すように、フィルター断面の中心から容器の端までの最短距離を(R)、フィルター断面の中心から、隔壁流入口のうちフィルター断面の中心から最も遠い地点までの距離を(T)、隔壁流入口の中心から隔壁流入口端までの最短距離を(r)としたときに、(T)/(R)の値が(r)/(R)以上であり、かつ0.79以下であることが好ましい。ここで、隔壁流入口が複数ある場合は、断面の中心から最も近接した隔壁流入口の中心から隔壁流入口端までの最短距離を(r)とする。(T)/(R)の値の上限は0.70以下であることがより好ましく、0.64以下であることがさらに好ましい。(T)/(R)の値の上限が0.79を超えると、隔壁流入口の端が容器の端に近い場所に位置し、或いは隔壁流入口が複数個ある場合においては、隔壁流入口が容器の端に局在するため、細胞含有液あるいは回収液が不織布を通過する際に偏流が起こりやすく、フィルター全体に行き渡らないために細胞捕捉効率が低下する傾向がある。
【0045】
フィルター断面の形状は特に限定されず、例えば円形、長方形、正方形が挙げられる。フィルター断面の中心から容器の端までの最短距離(R)は、フィルター断面が円形の場合はフィルター断面の半径であり、フィルター断面が長方形の場合はフィルター断面の短辺の長さの半分であり、フィルター断面が正方形の場合はフィルター断面の一辺の半分の長さになる。
【0046】
前記(R)は5mm以上25mm以下であることが好ましく、7.5mm以上22.5mm以下であることがより好ましい。(R)が5mm未満の場合は、同時に(S1)/(S2)の値が0.44以下となる場合に隔壁流入口面積が小さくなりすぎて、細胞含有液あるいは回収液を通液する際、隔壁流入口付近に高圧が生じ、細胞にダメージを与える傾向がある。(R)が25mmを超えると、容器の体積が大きくなるために、細胞回収率が低下する傾向がある。
【0047】
隔壁流入口の形状は特に限定されず、例えば円形、長方形、正方形、楕円形が挙げられる。隔壁流入口の中心から隔壁流入口端までの最短距離(r)は、隔壁流入口が円形の場合はその半径、隔壁流入口が長方形の場合はその短辺の長さの半分、隔壁流入口が正方形の場合はその一辺の半分の長さになる。隔壁流入口の面積(S1)は前記フィルター断面積(S2)によっても限定されるので、(r)は、0.4mm以上16mm以下であることが好ましく、0.5mm以上14mm以下であることがより好ましく、0.7mm以上12mm以下であることがさらに好ましい。(r)が0.4mm未満の場合は、隔壁流入口面積が小さくなりすぎて、細胞含有液あるいは回収液を通液する際、隔壁流入口付近に高圧が生じ、細胞にダメージを与える傾向がある。(r)が16mmを超えると、隔壁流入口面積が大きすぎて、隔壁流入口の端が容器の端に近い場所に位置し、細胞含有液あるいは回収液が不織布を通過する際に偏流が起こりやすく、フィルター全体に行き渡らないために細胞捕捉効率が低下する傾向がある。
【0048】
フィルター断面の中心から、隔壁流入口のうちフィルター断面の中心から最も遠い地点までの距離(T)は、(R)および(r)の値により限定されるので、好適に使用可能な(R)および(r)の値から計算すると、(T)は0.4mm以上19mm以下であることが好ましく、0.7mm以上17mm以下であることがより好ましい。
【0049】
なお、本発明におけるフィルター断面の中心から容器の端までの最短距離(R)、フィルター断面の中心から隔壁流入口端までの最遠距離(T)、および隔壁流入口の中心から隔壁流入口端までの最短距離(r)は、隔壁流入口がある面におけるフィルター断面の中心あるいは隔壁流入口がある面における隔壁流入口の中心からの距離を、定規やノギス等を使用して実測することができ、あるいはCADやイラストレータ等の描画ソフトを使用することにより測定することができる。
【0050】
隔壁流入口の数は特に限定されない。細胞分離用フィルター内における隔壁の数も特に限定されないが、15以下が好ましく、10以下がより好ましく、5以下がさらに好ましい。隔壁の数が多く、多空間に仕切られているほど細胞捕捉効率が向上するが、回収後の細胞回収率は低下する傾向にあるため、細胞分離用フィルターの目的に応じて隔壁数を最適化することが好ましい。例えば顆粒球除去用途では、隔壁の数を増やすことで、顆粒球除去性能を向上させることができるが、隔壁数が15を超えると単核球回収率が大きく低下する傾向があるため、隔壁数を15以下に設定することが好ましい。
【0051】
次に、本発明の有核細胞調製法は、下記の(a)および(b)工程を含むことを特徴とする。
(a)細胞分離用フィルターの流入口から細胞含有液を導入し不織布と接触させる工程、および
(b)細胞分離用フィルターから有核細胞分画を回収する工程
【0052】
本発明における細胞含有液とは、末梢血、骨髄、臍帯血、月経血、組織抽出物等の細胞を含有する体液、あるいはこれらの体液を生理食塩液、カルシウムイオンやマグネシウムイオン等の2価カチオンを含むリンゲル液、細胞培養に使用するRPMI、MEM、IMEM、DMEM等の培地、PBS等のリン酸緩衝液で希釈したもの、あるいは体液から細胞を粗分離したものであっても構わない。また動物種も、哺乳動物であれば特に限定されず、例えばヒト、ウシ、マウス、ラット、ブタ、サル、イヌ、ネコ等が挙げられる。細胞含有液が抗凝固剤を含有する場合も、抗凝固剤の種類は限定されず、例えばヘパリン、低分子ヘパリン、フサン(メチル酸ナファモスタット)、EDTA、ACD(acid−citrate−dextrose)液、CPD(citrate−phosphate−dextrose)液等のクエン酸抗凝固が挙げられる。使用する目的に応じて影響がなければ、細胞含有液の保存条件も限定されない。
【0053】
本発明における有核細胞とは、核を含有する細胞であれば特に限定されず、例えば、単核球、白血球、顆粒球、好中球、好酸球、好塩基球、赤芽球、骨髄芽球、前骨髄球、骨髄球、後骨髄球、リンパ球、単球、マクロファージ、Tリンパ球、Bリンパ球、NK細胞、NK/T細胞、樹状細胞、多核巨細胞、上皮細胞、内皮細胞、間葉系細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞、ES細胞、iPS細胞および幹細胞等が挙げられる。本発明における有核細胞分画とは、有核細胞を含む分画をいい、単核球分画とは、単核球を含む分画をいう。なお、本発明における幹細胞とは、体液中から分離され、多分化能および自己複製能を有する細胞をいう。ここで、顆粒球は核を含有する細胞であるが、患者に移植した場合に炎症等の副作用を引き起こし、治療効果を低減させると考えられているため、有核細胞分画における顆粒球の濃度は低いことが好ましい。
【0054】
本発明における間葉系幹細胞は、分化誘導因子の添加により骨芽細胞、軟骨細胞、血管内皮細胞、心筋細胞、あるいは、脂肪、歯周組織構成細胞であるセメント芽細胞、歯周靭帯繊維芽細胞等へ分化する細胞である。また、造血幹細胞は、白血球、リンパ球、好中球、好酸球、好塩基球、顆粒球、単球、マクロファージ、赤血球、血小板、巨核球、樹状細胞等の血球系細胞を分化する細胞である。
【0055】
本発明における細胞分離用フィルターから有核細胞分画を回収する工程は、フィルターを通過して得られる有核細胞を多く含有する分画を回収する工程であり、細胞分離用フィルターの性質に応じて、有核細胞分画を回収できればよい。
【0056】
フィルター内に積層された不織布が、除去目的とする細胞や夾雑物と親和性を持つ場合は、フィルターの流入口から細胞含有液を導入し、不織布と細胞含有液を接触させる工程の後、流出口から有核細胞分画を回収することができる。フィルターの流出口から有核細胞分画を回収する際に、回収液をフィルターの流入口から導入して有核細胞分画を流出口から回収することが好ましい。除去目的の細胞としては、例えば顆粒球、単球、血小板、Bリンパ球、特定のサブクラスを有するリンパ球等が挙げられる。具体的には、顆粒球をフィルターに捕捉して除去し、単核球含有分画を回収する方法が挙げられる。
【0057】
フィルター内に積層された不織布が、回収目的とする有核細胞と親和性を持つ場合は、フィルターの流入口から細胞含有液を導入して、除去目的とする細胞や夾雑物を流出口より流出させた後、流入口から有核細胞分画を回収することができる。フィルターの流入口から有核細胞分画を回収する際に、回収液をフィルターの流出口から導入し有核細胞分画を流入口から回収することが好ましい。除去目的の細胞としては、例えば赤血球、Tリンパ球、特定のサブクラスを有するリンパ球等が挙げられる。具体的には、不要な細胞を通過させ、フィルターに捕捉された幹細胞を回収する方法が挙げられる。
【0058】
また、回収液をフィルターの流出口から導入して有核細胞分画を回収する場合には、回収の前に、洗浄液をフィルターの流入口から導入することで、より効率的に、除去目的とする細胞や夾雑物を流出口より流出させることができる。洗浄液は除去目的とする細胞や夾雑物のみを洗い流すことができれば特に限定されず、例えば生理食塩水、リンゲル液、細胞培養に用いる培地、リン酸緩衝液等の一般的な緩衝液、あるいはこれら溶液に血清やタンパクを添加した溶液が挙げられる。
【0059】
さらに、フィルターの流入口から細胞含有液あるいは洗浄液を導入して、除去目的とする細胞や夾雑物を流出口より流出させる工程に次いで、隔壁を取り除く、あるいは隔壁流入口面積を大きくする操作を行った後で、有核細胞分画を回収することで、有核細胞の回収率が向上することが期待できる。
【0060】
回収液はフィルター内に捕捉された有核細胞、あるいはフィルター内に残留する単核球を回収する目的で好適に使用される。回収液は特に限定されず、例えば生理食塩水の他、マグネシウムイオンやカルシウムイオン等の2価カチオン、糖類、血清、蛋白質を含む液体、緩衝液、培地、血漿やそれらを含む液体等が挙げられる。フィルターに捕捉された有核細胞の回収率を上げるために、回収液の粘張度を上げても良い。粘張度を上げるために回収液に添加する物質は特に限定されず、例えばアルブミン、フィブリノーゲン、グロブリン、デキストラン、ヒドロキシエチルスターチ、ヒドロキシルセルロース、コラーゲン、ヒアルロン酸、ゼラチン等が挙げられる。
【0061】
細胞含有液および回収液を通液する速度およびその方法は特に制限されず、例えば重力を利用して通液する方法、ローラークレンメやシリンジポンプを用いて流速を一定にしながら通液する方法、高い圧力をかけて一気に通液する方法が挙げられる。フィルター内に捕捉された有核細胞を回収する目的には、有核細胞回収効率の点から、回収液を高い圧力をかけて一気に通液する方法が好ましい。また、顆粒球をフィルター内に捕捉したまま、フィルター内に残留する単核球を回収する目的には、顆粒球除去効率の点から、シリンジポンプを用いて流速を一定にして回収液を通液する方法が好ましい。シリンジポンプを用いて2.5mL/min以下の流速で通液する方法が、より多くの顆粒球が不織布に捕捉されたまま、単核球分画を回収することができる点でより好ましい。
【0062】
本発明の細胞分離用フィルターを用いて閉鎖的に細胞を分離する回路の例を図4に示す。当該回路を用いる場合は、通常、フィルターの流入口側に細胞含有液を収容する手段が配置され、流出口側にフィルターを通過した細胞含有液を収容する手段が配置される。また、フィルターの流入口側、或いは流出口側に、回収液を収容する手段、或いはフィルターを通過した回収液を収容する手段が配置される。なお、回収液を流す方向に応じて、回収液を収容する手段、或いはフィルターを通過した回収液を収容する手段を、それぞれ流入口または流出口側のいずれに配置するか決定することができる。
【0063】
また、細胞分離用フィルター内のエアーを除去する目的、細胞捕捉効率を向上する目的、および血液流路を確保する目的で、プライミングする工程を実施する場合は、通常、フィルターの流入口側、或いは流出口側に、プライミング溶液を収容する手段、或いはフィルターを通過したプライミング溶液を収容する手段が配置される。なお、プライミング溶液を流す方向に応じて、プライミング溶液を収容する手段、或いはフィルターを通過したプライミング溶液を収容する手段を、それぞれ流入口または流出口側のいずれに配置するか決定することができる。プライミング溶液を収容する手段、およびフィルターを通過したプライミング溶液を収容する手段は、細胞含有液を収容する手段とは別個に回路を設けて配置しても良いし、これらと差し替えて使用することも可能である。これらの各手段は、有核細胞調製方法の各工程に応じて各活栓等の開閉によりフィルターと接続される。回路は液の流れを制御するために、三方活栓、ローラークレンメ、クランプ等を備えていることが好ましい。
【0064】
本発明の有核細胞調製法による単核球回収率比は、単核球回収率(M)を顆粒球回収率(G)で割ることにより算出できる。ここで、単核球回収率(M)は、原料の細胞含有液から有核細胞分画へと回収された単核球の回収率を指す。顆粒球回収率(G)は、原料の細胞含有液から有核細胞分画へと回収された顆粒球の回収率を指す。単核球回収率比の値が高いほど顆粒球除去性能が高いことを示す。本発明の細胞分離用フィルターを用いることにより、顆粒球の不織布への捕捉効率が向上し、顆粒球の混入を低下したまま効率的に単核球分画を得ることが可能になることから、細胞含有液から顆粒球が選択的に除去されることが好ましい。単核球回収率比は5.3以上であることが好ましく、8.3以上であることがより好ましく、25.2以上であることがさらに好ましい。単核球回収率比が5.3未満の場合は、顆粒球が従来の細胞分離用フィルターと同程度混入しており、患者に投与した場合に副作用をもたらす傾向がある。単核球回収率比の上限は、細胞分離用フィルター構造だけではなく、不織布の性能も影響することから特に制限されないが、100以下であることが好ましい。
【実施例】
【0065】
以下、実施例において本発明に関して詳細に述べるが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0066】
(実施例1)
高さ(内寸)16mm、半径(R)9mm、フィルター断面積(S2)254mmであって、直径3mmの流入口(隔壁流入口の中心から隔壁流入口端までの最短距離(r)1.5mmの流入口)が中央に1箇所開いた隔壁により2室に均等に仕切られた容器(隔壁流入口面積(S1)7.1mm、断面の中心から隔壁流入口最遠部までの距離(T)が(r)と同じ1.5mmの容器)に、ナイロン6製不織布(通気度40mL/cm/sec、厚さ0.30mm、繊維径16.0μm)を各室16枚ずつ積層状態で充填し、細胞分離用フィルターを作製した。
【0067】
次に50mLシリンジにプライミング溶液として生理食塩水45mLを入れ、メスロックコネクターを介してシリンジとフィルターの流入口を接続し、ゆっくりシリンジのブランジャーを押して生理食塩水45mLを通液した。
【0068】
続いて、ブタ骨髄液10mL(50IU/mLヘパリンナトリウムで抗凝固し、70μmのセルストレーナーに通して凝集物を除去したブタ骨髄液)を20mLシリンジに入れ、ポアロンチューブを介してシリンジとフィルター流入口を接続し、シリンジポンプに取り付けた。ブタ骨髄液10mLを流速0.625mL/minで16分かけてフィルター内に導入し、出口側より導出した有核細胞10mLを回収容器に収容した。
【0069】
最後に、20mLシリンジに0.1%硫酸マグネシウムおよび0.1%塩化カルシウムを添加した生理食塩水(回収液)10mLを装填し、ポアロンチューブを介してシリンジとフィルター流入口を接続し、シリンジポンプを用いて流速0.625mL/minで16分かけてフィルター内に導入し、流出口より導出した有核細胞10mLを回収容器に収容した。プライミング溶液の通液から、回収液の通液による有核細胞の回収までに要した時間は40分間であった。
【0070】
回収された有核細胞20mL、および処理前骨髄液の白血球濃度を血球カウンター(シスメックス、K−4500)により測定した。また、処理前骨髄液、回収後有核細胞をFACS PharmLyseで溶血後、フローサイトメーター(BD、FACSCanto)により顆粒球および単核球の存在比率を測定した。得られた白血球濃度と顆粒球および単核球の存在比率から、総単核球数を以下の式により求めた。
(処理前骨髄液10mL中の総単核球数)=(処理前骨髄液の白血球濃度)×(処理前骨髄液における白血球中の単核球存在比率)×10[mL]
(回収後有核細胞20mL中の総単核球数)=(回収後有核細胞の白血球濃度)×(回収後有核細胞における白血球中の単核球存在比率)×20[mL]
これら処理前後の総単核球数より、単核球回収率[%]を(回収後有核細胞中の単核球数)/(処理前骨髄液中の単核球数)×100として算出した。その結果、単核球回収率は48%であった。また、回収後有核細胞中の総顆粒球数についても同様に算出し、顆粒球回収率[%]を(回収後有核細胞中の顆粒球数)/(処理前骨髄液の顆粒球数)×100として算出した。その結果、顆粒球回収率は2%であった。さらに、単核球回収率および顆粒球回収率より、単核球回収率比を、(単核球回収率)/(顆粒球回収率)として算出した。その結果、単核球回収率比は25.2であった。
【0071】
(実施例2)
高さ(内寸)14mm、半径(R)9mm、フィルター断面積(S2)254mmであって、一辺が2mmの正方形に開けられた流入口(r=1mm)が中央に1箇所設置された隔壁により2室に均等に仕切られた容器(S1=4mm、T=1.4mm)を用いて、実施例1と同様の処理を行った(ただしブタn=1個体)。プライミング溶液の通液から、回収液の通液による有核細胞の回収までに要した時間は40分間であった。得られた有核細胞20mLの単核球回収率、顆粒球回収率、単核球回収率比を算出し、結果を表1に示した。
【0072】
(実施例3)
高さ(内寸)14mm、半径(R)9mm、フィルター断面積(S2)254mmであって、一辺が6mmの正方形に開けられた隔壁流入口(r=3mm)が中央に1箇所設置された隔壁により2室に均等に仕切られた容器(S1=36mm、T=4.2mm)を用いて、実施例1と同様の処理を行った(ただしブタn=1個体)。プライミング溶液の通液から、回収液の通液による有核細胞の回収までに要した時間は40分間であった。得られた有核細胞20mLの単核球回収率、顆粒球回収率、単核球回収率比を算出し、結果を表1に示した。
【0073】
(実施例4)
高さ(内寸)14mm、半径(R)9mm、フィルター断面積(S2)254mmであって、一辺が8mmの正方形に開けられた隔壁流入口(r=4mm)が中央に1箇所設置された隔壁により2室に均等に仕切られた容器(S1=64mm、T=5.7mm)を用いて、実施例1と同様の処理を行った(ただしブタn=1個体)。プライミング溶液の通液から、回収液の通液による有核細胞の回収までに要した時間は40分間であった。得られた有核細胞20mLの単核球回収率、顆粒球回収率、単核球回収率比を算出し、結果を表1に示した。
【0074】
(実施例5)
高さ(内寸)14mm、半径(R)9mm、フィルター断面積(S2)254mmであって、一辺が2mmの正方形に開けられた隔壁流入口(r=1mm)が中心から半径5.8mm以内の場所に4箇所設置された隔壁により2室に均等に仕切られた容器(S1=16mm、T=5.8mm)を用いて、実施例1と同様の処理を行った(ただしブタn=1個体)。プライミング溶液の通液から、回収液の通液による有核細胞の回収までに要した時間は40分間であった。得られた有核細胞20mLの単核球回収率、顆粒球回収率、単核球回収率比を算出し、結果を表1に示した。
【0075】
(比較例1)
高さ(内寸)16mm、直径(内径)18mm(R=9mm、S2=254mm)であって、隔壁がない容器を用いて、実施例1と同様の処理を行った。プライミング溶液の通液から、回収液の通液による有核細胞の回収までに要した時間は40分間であった。得られた有核細胞20mLの単核球回収率、顆粒球回収率、単核球回収率比を算出し、結果を表1に示した。
【0076】
(比較例2)フィコールパック分画法による単核球の調製方法
ヘパリン抗凝固の新鮮ブタ骨髄液2mLを、生理食塩液2mLと混合して希釈した。次に、容量15mLの遠沈管に、Ficoll Paque−Plus(GEヘルスケア)溶液を3mL添加し、該Ficoll溶液の上層に、上述の通り希釈した骨髄液を重層した。遠心分離機にて、回転数400gで30分間遠心分離することにより、得られた単核球分画層を回収した。Ficoll溶液を除去する目的で、回収した単核球分画層に生理食塩液を10mL添加し、遠心分離機にて、回転数450gで10分間遠心分離した。上清を除いた後、再度生理食塩液を10mL添加し、回転数450gで5分間遠心分離した。再び上清を除き、生理食塩水を液量が1mLになるように加えた。実施例1と同様の方法で回収液の単核球回収率、顆粒球回収率、および単核球回収率比を算出し、結果を表1に示した。なお、該単核球回収率および顆粒球回収率は実施例2とほぼ同じであるが、遠心操作等に時間を要すること、操作が煩雑であること、作業者間でのバラツキが大きいこと、開放系での操作が必要である等の問題がある。
【0077】
【表1】
【0078】
表1に示すように、フィルター内に不織布を区分する隔壁を設置することによって、不織布が同一の設計にもかかわらず、有核細胞の回収率が向上し、かつ不要な細胞の混入率が減少することが明らかとなった。また、比較例2に示すように遠心操作を用いて細胞を回収する場合よりも、本発明は半分の時間しか要さず、回収率および不要な細胞の混入率は同等以上であることから、閉鎖系でかつ簡便に有核細胞を効率的に回収できることを確認した。
【符号の説明】
【0079】
10 細胞分離用フィルター
11 容器
12 隔壁
13 流入口
14 隔壁流入口
15 流出口
16 不織布
17 フィルター断面の中心
18 容器の端
19 隔壁流入口のうちフィルター断面の中心から最も遠い地点
20 隔壁流入口の中心
31 チャンバー
32 細胞分離用フィルターを通過したプライミング溶液を収容する手段
34 細胞含有液を収容するための手段
35 回収液を収容するための手段
36 プライミング溶液を収容する手段
37 細胞分離用フィルターを通過した細胞含有液および回収液を収容する手段
38〜40 三方活栓
41〜49 回路
図1
図2
図3
図4