特許第6143752号(P6143752)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6143752
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】電流センサの製造方法及び電流センサ
(51)【国際特許分類】
   G01R 15/20 20060101AFI20170529BHJP
   G01R 19/00 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
   G01R15/20 B
   G01R19/00 N
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-523610(P2014-523610)
(86)(22)【出願日】2013年7月4日
(86)【国際出願番号】JP2013004168
(87)【国際公開番号】WO2014006914
(87)【国際公開日】20140109
【審査請求日】2014年11月18日
【審判番号】不服2016-9857(P2016-9857/J1)
【審判請求日】2016年6月30日
(31)【優先権主張番号】特願2012-152778(P2012-152778)
(32)【優先日】2012年7月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプス電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108006
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】川畑 賢
(72)【発明者】
【氏名】山崎 伸祥
(72)【発明者】
【氏名】野村 雅俊
【合議体】
【審判長】 清水 稔
【審判官】 須原 宏光
【審判官】 大和田 有軌
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−018994(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 15/20
G01R 19/00-19/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁電変換素子を有する電流測定回路と、前記電流測定回路の出力を増幅し、設定された第1の補正量に基づいてオフセットの温度特性を補正する第1の増幅補正回路と、前記第1の増幅補正回路の出力を増幅して感度を調整すると共に設定された第2の補正量に基づいて前記オフセットの大きさを補正する第2の増幅補正回路と、前記電流測定回路、前記第1の増幅補正回路、及び前記第2の増幅補正回路が設けられる基板と、を備える電流センサの製造方法であって、
同一のロット又は同一のウェハー内におけるサンプルに基づく前記磁電変換素子の特性に基づいて前記第1の補正量を算出した後、前記磁電変換素子を前記基板に実装すると共に、算出された前記第1の補正量によって前記第1の増幅補正回路を調整済みの状態で前記第2の補正量によって前記第2の増幅補正回路を設定することを特徴とする電流センサの製造方法。
【請求項2】
前記第1の補正量は、前記オフセットの温度特性の影響が小さくなるように設定されることを特徴とする請求項1記載の電流センサの製造方法。
【請求項3】
前記磁電変換素子は、磁気抵抗効果素子であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の電流センサの製造方法。
【請求項4】
前記電流センサは、外部磁界に比例する前記電流測定回路の出力を用いる磁気比例式であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の電流センサの製造方法。
【請求項5】
前記電流測定回路は、複数の前記磁電変換素子により構成されるブリッジ回路の2つの出力端子に生じる電圧差を出力とする差動型であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の電流センサの製造方法。
【請求項6】
磁電変換素子を有する2つの電流測定回路と、
前記2つの電流測定回路の後段にそれぞれ設けられ、前記電流測定回路の出力を増幅し、設定された第1の補正量に基づいてオフセットの温度特性を補正する2つの第1の増幅補正回路と、
前記2つの第1の増幅補正回路の出力差を増幅して感度を調整すると共に設定された第2の補正量に基づいてオフセットの大きさを補正する第2の増幅補正回路と、
前記電流測定回路、前記第1の増幅補正回路、及び前記第2の増幅補正回路が設けられる基板と、を備えたことを特徴とする電流センサ。
【請求項7】
前記第1の補正量は、前記オフセットの温度特性の影響が小さくなるように設定されたことを特徴とする請求項6記載の電流センサ。
【請求項8】
前記磁電変換素子は、磁気抵抗効果素子であることを特徴とする請求項6又は請求項7記載の電流センサ。
【請求項9】
外部磁界に比例する前記電流測定回路の出力を用いる磁気比例式であることを特徴とする請求項6から請求項8のいずれかに記載の電流センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定電流を非接触で測定可能な電流センサ及び電流センサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車や太陽電池などの分野では、被測定電流によって生じる誘導磁界に基づいて非接触で電流値を測定可能な電流センサが用いられている。この電流センサは、被測定電流により生じる誘導磁界を検出するための磁電変換素子を備えており、磁電変換素子で検出される磁界強度を基に被測定電流の電流値を算出する。磁電変換素子としては、例えば、ホール効果を利用して磁界強度を電気信号に変換するホール素子や、磁界による電気抵抗値の変化を利用する磁気抵抗効果素子などが用いられている。
【0003】
一般に、電流センサに用いられる磁電変換素子は、個体毎に特性ばらつきを有している。このため、十分に高い電流測定精度を得るには、電流センサ毎のゲイン(感度)調整やオフセット(被測定電流が0Aの時のセンサ出力の基準値からのずれ)調整が重要になる。例えば、特許文献1には、温度に応じて抵抗値の変動する温度感知素子を用い、オフセットの温度変化を低減可能にした電流センサが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−3209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載される電流センサは、温度感知素子を用いてオフセットを調整することで高い電流測定精度を実現している。しかしながら、この構成では、オフセットを調整する際に電流センサのセンシングの条件を様々に変えて温度特性を実測する必要があるので、調整工程が煩雑になってしまうという問題がある。また、この電流センサでは、オフセットの温度変化を調整するために温度感知素子が必須である。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、簡単な調整で高い電流測定精度を実現可能な電流センサ及び電流センサの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電流センサの製造方法は、磁電変換素子を有する電流測定回路と、前記電流測定回路の出力を増幅し、設定された第1の補正量に基づいてオフセットの温度特性を補正する第1の増幅補正回路と、前記第1の増幅補正回路の出力を増幅して感度を調整すると共に設定された第2の補正量に基づいて前記オフセットの大きさを補正する第2の増幅補正回路と、前記電流測定回路、前記第1の増幅補正回路、及び前記第2の増幅補正回路が設けられる基板と、を備える電流センサの製造方法であって、同一のロット又は同一のウェハー内におけるサンプルに基づく前記磁電変換素子の特性に基づいて前記第1の補正量を算出した後、前記磁電変換素子を前記基板に実装すると共に、算出された前記第1の補正量によって前記第1の増幅補正回路を調整済みの状態で前記第2の補正量によって前記第2の増幅補正回路を設定することを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、オフセットの温度特性を補正する第1の増幅補正回路と、オフセットの大きさを補正する第2の増幅補正回路とを別に設け、磁電変換素子の特性に基づいて第1の増幅補正回路に第1の補正量を設定してオフセットの温度特性を補正した後、第2の増幅補正回路に第2の補正量を設定してオフセットの大きさを補正するので、オフセットの温度特性の補正とオフセットの大きさの補正とを切り分けて行うことができる。これにより、多くの条件で温度特性を取得する必要がなくなり、簡単な調整で高い電流測定精度を実現できる。
【0009】
本発明の電流センサの製造方法において、前記第1の補正量は、前記オフセットの温度特性の影響が小さくなるように設定されることが好ましい。この構成によれば、あらかじめ測定された磁電変換素子の特性に基づいて、オフセットの温度特性の影響が小さくなるように第1の補正量を設定するので、第1の増幅補正回路により、オフセットの温度特性の影響を適切に除去できる。
【0010】
本発明の電流センサの製造方法において、前記磁電変換素子は、磁気抵抗効果素子であることが好ましい。磁気抵抗効果素子は、同一のロットや同一のウェーハにおいて特性ばらつきが小さいので、同一のロットや同一のウェーハの磁気抵抗効果素子については、代表的なサンプルの特性を共通に利用できる。すなわち、上記構成によれば、全ての磁気抵抗効果素子の特性を実測する必要がなく、調整をさらに簡略化できる。
【0011】
本発明の電流センサの製造方法において、外部磁界に比例する前記電流測定回路の出力を用いる磁気比例式であることが好ましい。
【0012】
本発明の電流センサの製造方法において、前記電流測定回路は、複数の前記磁電変換素子により構成されるブリッジ回路の2つの出力端子に生じる電圧差を出力とする差動型であることが好ましい。この構成によれば、電流センサを差動型とすることで、オフセットの温度特性を相殺することが可能になる。
【0013】
本発明の電流センサは、磁電変換素子を有する2つの電流測定回路と、前記2つの電流測定回路の後段にそれぞれ設けられ、前記電流測定回路の出力を増幅し、設定された第1の補正量に基づいてオフセットの温度特性を補正する2つの第1の増幅補正回路と、前記2つの第1の増幅補正回路の出力を増幅して感度を調整すると共に設定された第2の補正量に基づいてオフセットの大きさを補正する第2の増幅補正回路と、前記電流測定回路、前記第1の増幅補正回路、及び前記第2の増幅補正回路が設けられる基板と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
本発明の電流センサにおいて、前記第1の補正量は、前記オフセットの温度特性の影響が小さくなるように設定されたことが好ましい。
【0015】
本発明の電流センサにおいて、前記磁電変換素子は、磁気抵抗効果素子であることが好ましい。
【0016】
本発明の電流センサにおいて、外部磁界に比例する前記電流測定回路の出力を用いる磁気比例式であることが好ましい。
【0017】
本発明の電流センサにおいて、複数の前記電流測定回路の出力を差動演算する差動型であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、簡単な調整で高い電流測定精度を実現可能な電流センサ及び電流センサの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施の形態1に係る磁気比例式の電流センサの構成例を示すブロック図である。
図2】実施の形態1に係る電流測定回路の構成例を示す回路図である。
図3】実施の形態1に係る演算増幅器(第1の演算増幅器)の補正オフセットの特性を示すグラフである。
図4】実施の形態1に係る電流センサの信号の入出力の関係を示すブロック図である。
図5】実施の形態1に係る増幅補正回路(第1の演算増幅器)の補正オフセットと、センサ出力との関係を示すグラフである。
図6】実施の形態1に係る増幅補正回路(第1の演算増幅器)の補正オフセットと、センサ出力のオフセットの温度特性との関係を示すグラフである。
図7図7Aは、実施の形態1に係る演算増幅器(第2の演算増幅器)の補正オフセットと、センサ出力との関係を示すグラフであり、図7Bは、被測定電流に対する出力変化を示すグラフである。
図8】実施の形態1に係る増幅補正回路(第1の演算増幅器)の補正オフセットの特性を示すグラフである。
図9】実施の形態2に係る磁気平衡式の電流センサの構成例を示すブロック図である。
図10】実施の形態2に係る電流センサの信号の入出力の関係を示すブロック図である。
図11】実施の形態3に係る差動型の電流センサの構成例を示すブロック図である。
図12】実施の形態3に係る電流センサにおいて被測定電流がゼロの状態の出力の温度特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
従来の電流センサにおいて、オフセット(被測定電流が0Aの時のセンサ出力の基準値からのずれ)の調整工程が煩雑だったのは、電流センサのセンシングの条件を様々に変えて、各条件で温度特性を実測する必要があったためである。本発明者は、この点に着目し、オフセットの温度依存を低減するための回路と、オフセットの大きさ(絶対値)を補正するための回路とを別に設け、オフセットの温度特性の補正とオフセットの大きさの補正とを切り分けることで、簡単な調整で高い電流測定精度を実現できることを見出した。
【0021】
すなわち、本発明の骨子は、電流センサにおいて、オフセットの温度特性を補正する第1の増幅補正回路と、オフセットの大きさを補正する第2の増幅補正回路とを別に設けることである。この構成により、第1の増幅補正回路でオフセットの温度依存を低減し、温度依存が低減された状態で、第2の増幅補正回路によりオフセットの大きさを補正できるので、多くの条件で温度特性を実測する必要がなくなり、簡単な調整で高い電流測定精度を実現できる。以下、本発明の電流センサ及びその製造方法について添付図面を参照して説明する。
【0022】
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態に係る磁気比例式の電流センサの構成例を示すブロック図である。図1に示すように、本実施の形態の電流センサ1は、被測定電流により生じる誘導磁界Hを電気信号に変換する電流測定回路11を備えている。電流測定回路11の後段には、電流測定回路11の出力を増幅して補正する増幅補正回路(第1の増幅補正回路)12が接続されている。また、増幅補正回路12の後段には、増幅補正回路12の出力を増幅して補正する増幅補正回路(第2の増幅補正回路)13が接続されている。
【0023】
図2は、本実施の形態に係る電流測定回路11の構成例を示す回路図である。図2に示すように、電流測定回路11は、磁電変換素子である磁気抵抗効果素子M1〜M4を含むブリッジ回路であり、被測定電流による誘導磁界Hの大きさに対応する電圧を出力できるように構成されている。磁気抵抗効果素子M1〜M4は、例えば、磁界が印加されることで抵抗値の変化するGMR(Giant Magneto Resistance)素子である。
【0024】
電流測定回路11において、磁気抵抗効果素子M1,M3の接続点は端子T1と接続されており、この端子T1には、電源電圧を与える電源が接続されている。また、磁気抵抗効果素子M2,M4の接続点は端子T2と接続されており、この端子T2には、接地電圧を与えるグランドが接続されている。磁気抵抗効果素子M1,M2の接続点は、電流測定回路11の出力端子O1と接続され、磁気抵抗効果素子M3,M4の接続点は、電流測定回路11の出力端子O2と接続されている。これら2個の出力端子O1,O2に生じる電圧差は、電流測定回路11に加わる磁界に対応して変動し、電流測定回路11の出力として後段に送られる。
【0025】
電流測定回路11の2個の出力端子O1,O2は、増幅補正回路12が備える演算増幅器121の非反転入力端子(+)及び反転入力端子(−)にそれぞれ接続されている。演算増幅器121には、電流測定回路11の出力を補正するための補正回路122が接続されている。補正回路122は、設定された補正量(第1の補正量)に応じて補正電圧(第1の補正電圧V)を出力し、演算増幅器121は、補正回路122から供給される第1の補正電圧Vに応じて電流測定回路11の出力を補正する。なお、増幅補正回路12は増幅機能を備えており、電流測定回路11の出力は所定の増幅率で増幅される。
【0026】
具体的には、演算増幅器121は、補正回路122から供給される第1の補正電圧Vに応じて、電流測定回路11によるオフセットの温度依存の影響を低減するような補正オフセットを電流測定回路11の出力に付加する。図3は、演算増幅器121で付加される補正オフセットの特性を示すグラフである。図3において、縦軸は補正オフセットの温度係数を示しており、横軸は演算増幅器121に供給される第1の補正電圧Vを示している。補正オフセットの温度係数は、補正オフセットの温度依存の程度を表している。
【0027】
図3に示すように、演算増幅器121で生じる補正オフセットは、第1の補正電圧Vに比例した温度係数を有する。図3において、演算増幅器121で生じる補正オフセットの温度係数は、第1の補正電圧Vが大きくなるにつれて小さくなっている。このような温度特性の演算増幅器121に補正回路122から適切な第1の補正電圧Vを供給することで、電流測定回路11によるオフセットの温度依存の影響を低減できる。
【0028】
増幅補正回路12の出力端子(演算増幅器121の出力端子)は、増幅補正回路13が備える演算増幅器131の入力端子に接続されている。演算増幅器131には、増幅補正回路12の出力を補正して感度を調整すると共に、オフセットの大きさを補正するための補正回路132が接続されている。補正回路132は、設定される補正量(第2の補正量、第3の補正量)に応じて補正電圧(第2の補正電圧V)及び補正信号(補正信号S)を出力し、演算増幅器131は、補正回路132から供給される第2の補正電圧V、及び補正信号Sに応じて出力を補正する。
【0029】
具体的には、演算増幅器131は、補正回路132から供給される第2の補正電圧Vに応じてオフセットの大きさを補正し、補正回路132から供給される補正信号Sに応じて感度(増幅率)を補正する。演算増幅器131は、その出力が温度に依存しない(温度特性を有さない)ように構成されている。これにより、増幅補正回路13では、温度特性を変えることなく、オフセットの大きさ及び感度のみを補正することができる。補正後の増幅補正回路13の出力(演算増幅器131の出力)は、電流センサ1の出力となる。
【0030】
次に、電流センサ1の製造方法について説明する。電流センサ1は、増幅補正回路12,13が搭載される基板(不図示)に対して電流測定回路11を構成する磁気抵抗効果素子M1〜M4を実装することにより製造される。磁気抵抗効果素子M1〜M4は、個体毎に特性ばらつきを有している。この特性ばらつきに起因するオフセットの温度特性を補正するため、本実施の形態の製造方法では、磁気抵抗効果素子M1〜M4の実装前に、増幅補正回路12(補正回路122)に第1の補正量を設定する。第1の補正量は、磁気抵抗効果素子M1〜M4の温度特性などに基づいて設定することができる。
【0031】
増幅補正回路12に設定される第1の補正量の算出方法の一例を説明する。図4は、本実施の形態の電流センサ1の信号の入出力の関係を示すブロック図である。図4において、Iは電流測定回路11への入力信号(被測定電流に相当)を示し、Kは電流測定回路11の感度を示し、Kは増幅補正回路12の増幅率を示し、Kは増幅補正回路13の増幅率を示し、Voutは電流センサ1の出力(電圧)を示す。また、Vofsは電流測定回路11で生じるオフセット(電圧)を示し、Vtrimは増幅補正回路12の補正オフセット(電圧)を示す。
【0032】
電流センサ1において、Voutのオフセットは温度特性を有している。温度をT(℃)、Vofsの温度特性(温度の一次の係数)をα(1/℃)、Vtrimの温度特性(温度の一次の係数)をγ(1/℃)とすれば、Voutのオフセットは、温度の一次の式で表すことができる。室温(ここでは、25℃)において、Voutのオフセットがゼロとなる条件、及び温度Tにおいて温度特性が最小となる条件を適用すれば、Voutのオフセットの温度特性(V/℃)を最小とするために必要な増幅補正回路12の補正オフセットVtrim_minと、室温においてVoutのオフセットをゼロとするために必要な増幅補正回路12の補正オフセットVtrim_RTとの関係は、例えば、下記式(1)のようになる。
【数1】


【0033】
上記式(1)の右辺における各パラメータの求め方を説明する。図5は、増幅補正回路12の補正オフセット(=Vtrim)と、入力信号(被測定電流に相当)が無い状態でのセンサ出力(=Vout)との関係を示すグラフである。Vtrim_RTは、室温でオフセットがゼロとなる出力Vout_0を得るために必要な補正オフセットに相当する。よって、図5のグラフから、上記式(1)のVtrim_RTを求めることができる。図5に示すグラフは、例えば、磁気抵抗効果素子M1〜M4に相当する疑似回路を接続させた状態であらかじめ取得される増幅補正回路12の出力特性に基づいて導くことができる。
【0034】
図6は、増幅補正回路12の補正オフセット(=Vtrim)と、センサ出力(=Vout)のオフセットの温度特性との関係を示すグラフである。γは、Vtrimの温度特性を表す一次の係数であり、図5に示すグラフの傾きaと図6に示すグラフの傾きbとの比b/aに相当する。よって、上述の図5及び図6から、γを求めることができる。図6は、あらかじめ取得される演算増幅器121の特性などから導くことができる。αは、Vofsの温度特性を表す一次の係数であり、ウェーハの段階で取得される磁気抵抗効果素子M1〜M4の特性に基づいて導くことができる。
【0035】
このように、あらかじめ取得可能な磁気抵抗効果素子M1〜M4、演算増幅器121などの特性、及び上記式(1)から、オフセットの温度特性を最小とするために必要な増幅補正回路12の補正オフセットVtrim_minを算出できる。よって、磁気抵抗効果素子M1〜M4の実装前に、補正オフセットVtrim_minに対応する第1の補正電圧Vを発生するような第1の補正量を増幅補正回路12(補正回路122)に設定しておくことで、オフセットの温度依存を容易に低減できる。
【0036】
磁気抵抗効果素子M1〜M4は、同一のロットや同一のウェーハ内における特性ばらつきが小さいので、代表的なサンプルの特性をあらかじめ取得しておけば、他の電流センサ1を調整する際にも、その特性を共通に利用できる。これにより、電流センサ毎に全ての磁気抵抗効果素子M1〜M4の温度特性を実測する必要がなくなるので、調整をさらに簡略化できる。
【0037】
増幅補正回路12に第1の補正量を設定した後には、電流測定回路11を構成する磁気抵抗効果素子M1〜M4を基板に実装する。この状態において、オフセットの温度依存は最小になっている。このため、簡単な測定で、増幅補正回路13に第2の補正量及び第3の補正量を設定できる。例えば、図7Bに示すように、被測定電流に対する出力変化を、補正量の異なる2水準(gain_a,gain_b)において実測することで、それらの変化の比率から、所望の感度(gain_set)を実現するための第3の補正量を決定できる。また、図7Aに示すように、演算増幅器131で生じる補正オフセットと、センサ出力(=Vout)との関係から、Voutのオフセットを補正するための第2の補正量を決定できる。増幅補正回路13に第2の補正量及び第3の補正量が設定されると、電流センサ1は完成する。
【0038】
このように、本実施の形態の電流センサ1及びその製造方法では、オフセットの温度特性を補正する第1の増幅補正回路12と、オフセットの大きさを補正する第2の増幅補正回路13とを別に設け、磁電変換素子M1〜M4の特性に基づいて第1の増幅補正回路12に第1の補正量を設定してオフセットの温度特性を補正した後、第2の増幅補正回路13に第2の補正量を設定してオフセットの大きさを補正するので、オフセットの温度特性の補正とオフセットの大きさの補正とを切り分けて行うことができる。これにより、多くの条件で温度特性を取得する必要がなくなり、簡単な調整で高い電流測定精度を実現できる。
【0039】
また、本実施の形態の電流センサ1及びその製造方法において、第1の増幅補正回路12の第1の補正量は、オフセットの温度特性の影響が小さくなるように設定されるので、オフセットの温度特性の影響を適切に除去できる。また、電流センサ1は、外部磁界に比例する電流測定回路11の出力を用いる磁気比例式なので、上記式(1)を用いる簡単な補正処理でオフセットを調整できる。
【0040】
なお、本実施の形態では、磁電変換素子M1〜M4の特性に基づいて第1の増幅補正回路12に第1の補正量を設定した後、電流測定回路11を構成する磁電変換素子M1〜M4を基板に実装し、第2の増幅補正回路13に第2の補正量を設定しているが、電流センサ1の製造方法はこれに限られない。磁気抵抗効果素子(磁電変換素子)M1〜M4を基板に実装した後に、第1の増幅補正回路12の第1の補正量、及び第2の増幅補正回路13の第2の補正量を設定しても良い。
【0041】
図8は、増幅補正回路12の補正オフセットの特性を示すグラフである。磁気抵抗効果素子M1〜M4を基板に実装した後に第1の増幅補正回路12の第1の補正量を設定する場合、例えば、2つの異なる温度条件において、補正オフセット(=Vtrim)と増幅補正回路12の出力との関係を実測する。図8に示すように、異なる温度条件(ここでは、25℃及び105℃)の2つのグラフの交点から、補正オフセットVtrim_1に相当する第1の補正量を求めることができる。
【0042】
(実施の形態2)
本実施の形態では、上記実施の形態とは異なる態様の電流センサについて説明する。図9は、本実施の形態に係る磁気平衡式の電流センサ2の構成例を示すブロック図である。なお、本実施の形態に係る電流センサ2と、実施の形態1に係る電流センサ1とは多くの点で共通する。このため、共通する構成については共通の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0043】
図9に示すように、本実施の形態の電流センサ2は、被測定電流により生じる誘導磁界を電気信号に変換する電流測定回路11を備えている。電流測定回路11の後段には、増幅補正回路(第1の増幅補正回路)12が接続されている。増幅補正回路12の演算増幅器121の出力端子には、フィードバックコイル21が接続されている。フィードバックコイル21は、例えば、渦巻状の平面的な導電パターンによって構成される。この導電パターンに演算増幅器121から電流(フィードバック電流)が流れ込むことで、誘導磁界に対応する逆向きのキャンセル磁界が発生する。なお、フィードバックコイル21の形状などは特に限定されない。
【0044】
フィードバックコイル21には、フィードバック電流を電圧に変換するI/Vアンプ22が接続されている。I/Vアンプ22は、演算増幅器221を含んで構成されており、その反転入力端子(−)は、フィードバックコイル21と接続されている。演算増幅器221の非反転入力端子(+)には、参照電圧が与えられている。演算増幅器221の出力端子は抵抗素子222を介して演算増幅器221の反転入力端子(−)と接続されている。また、演算増幅器221の出力端子は、増幅補正回路(第2の増幅補正回路)13と接続されている。
【0045】
本実施の形態の電流センサ2も、電流センサ1と同様の方法で製造される。すなわち、電流センサ2は、増幅補正回路12,13が搭載される基板(不図示)に対して電流測定回路11を構成する磁気抵抗効果素子M1〜M4を実装することにより製造される。本実施の形態においても、磁気抵抗効果素子M1〜M4の実装前に、増幅補正回路12(補正回路122)に第1の補正量を設定する。第1の補正量は、磁気抵抗効果素子M1〜M4の温度特性などに基づいて設定することができる。
【0046】
増幅補正回路12に設定される第1の補正量の算出方法の一例を説明する。図10は、本実施の形態の電流センサ2の信号の入出力の関係を示すブロック図である。図10において、Iは電流測定回路11への入力信号(被測定電流に相当)を示し、Hは電流測定回路11における磁界の変換係数を示し、Kは電流測定回路11の感度を示し、Kは増幅補正回路12の増幅率を示し、Rはフィードバックコイル21のインピーダンスを示し、Hはフィードバックコイル21における磁界の変換係数を示し、Rは抵抗素子222の抵抗値を示し、Kは増幅補正回路13の増幅率を示し、Voutは電流センサ1の出力(電圧)を示す。また、Vofsは電流測定回路11で生じるオフセット(電圧)を示し、Vtrimは増幅補正回路12の補正オフセット(電圧)を示す。
【0047】
電流センサ1において、Voutのオフセットは温度特性を有している。温度をT(℃)、Vofsの温度特性をα(1/℃)、Vtrimの温度特性をγ(1/℃)、電流測定回路11の感度の温度特性をβ(1/℃)、磁気平衡式に起因する感度の温度特性をδ(1/℃)とすれば、Voutのオフセットは、温度の一次の式で表すことができる。室温(ここでは、25℃)においてVoutのオフセットがゼロとなる条件、及び温度Tにおいて温度特性が最小となる条件を適用すれば、Voutのオフセットの温度特性を最小とするために必要な増幅補正回路12の補正オフセットVtrim_minと、室温においてオフセットをゼロとするために必要な増幅補正回路12の補正オフセットVtrim_RTとの関係は、例えば、下記式(2)のようになる。
【数2】
【0048】
上記式(2)に基づいて、あらかじめ取得可能な各種特性から、オフセットの温度特性を最小とするために必要な増幅補正回路12の補正オフセットVtrim_minを算出できる。よって、磁気抵抗効果素子M1〜M4の実装前に、補正オフセットVtrim_minに対応する第1の補正電圧Vを発生するような第1の補正量を増幅補正回路12(補正回路122)に設定しておくことで、オフセットの温度依存を容易に低減できる。
【0049】
増幅補正回路12に第1の補正量を設定した後には、電流測定回路11を構成する磁気抵抗効果素子M1〜M4を基板に実装する。この状態において、オフセットの温度依存は最小になっている。このため、簡単な測定で、増幅補正回路13に第2の補正量及び第3の補正量を設定できる。増幅補正回路13に第2の補正量及び第3の補正量が設定されると、電流センサ2は完成する。
【0050】
このように、本実施の形態の電流センサ2も、オフセットの温度特性を補正する第1の増幅補正回路12と、オフセットの大きさを補正する第2の増幅補正回路13とを別に設け、磁電変換素子M1〜M4の特性に基づいて第1の増幅補正回路12に第1の補正量を設定してオフセットの温度特性を補正した後、第2の増幅補正回路13に第2の補正量を設定してオフセットの大きさを補正するので、オフセットの温度特性の補正とオフセットの大きさの補正とを切り分けて行うことができる。これにより、多くの条件で温度特性を取得する必要がなくなり、簡単な調整で高い電流測定精度を実現できる。本実施の形態において示す構成又は方法は、他の実施の形態において示す構成又は方法と適宜組み合わせて実施することができる。
【0051】
(実施の形態3)
本実施の形態では、上記実施の形態とは異なる態様の電流センサについて説明する。図11は、本実施の形態に係る差動型の電流センサ3の構成例を示すブロック図である。なお、本実施の形態に係る電流センサ3と、実施の形態1に係る電流センサ1とは多くの点で共通する。このため、共通する構成については共通の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0052】
図11に示すように、本実施の形態の電流センサ3は、被測定電流により生じる誘導磁界を電気信号に変換する電流測定回路11a,11bを備えている。電流測定回路11a,11bの後段には、それぞれ、増幅補正回路(第1の増幅補正回路)12a、12bが接続されている。電流測定回路11a,11bの構成は、実施の形態1の電流測定回路11と同様であり、増幅補正回路12a、12bの構成は、実施の形態1の増幅補正回路12と同様である。
【0053】
増幅補正回路12a、12bにおいて、演算増幅器121a,121bの出力端子は、それぞれ、演算増幅器131の非反転入力端子(+)及び反転入力端子(−)と接続されている。増幅補正回路13は、増幅補正回路12aの出力Vと、増幅補正回路12bの出力Vとの差分を演算すると共に、オフセットの大きさ及び感度を補正する。
【0054】
このような差動型の電流センサ3では、増幅補正回路12a、12bにおいてオフセットの温度特性が等しくなるように補正を行うことで、オフセットの温度特性を相殺することが可能になる。図12は、被測定電流がゼロの状態の出力の温度特性を示すグラフである。図12に示すように、増幅補正回路12aの出力Vと、増幅補正回路12bの出力の出力Vとの差分が温度に依存せず一定になるように、増幅補正回路12a、12bにおいてオフセットの温度特性を補正する。
【0055】
電流測定回路11a,11bで生じるオフセットの温度特性を、増幅補正回路12a、12bにおいて等しくなるように補正することで、オフセットの温度特性を相殺できる。すなわち、電流センサ3を、複数の電流測定回路11a,11bを用いる差動型とすることで、オフセットの温度特性を相殺して高い電流測定精度を実現できる。
【0056】
なお、本実施の形態の電流センサ3では、オフセットの温度特性を相殺できるので、増幅補正回路12a、12bにおいて必ずしもオフセットの温度特性を最小にする必要はない。本実施の形態において示す構成又は方法は、他の実施の形態において示す構成又は方法と適宜組み合わせて実施することができる。
【0057】
以上のように、本発明の電流センサ1,2,3及びその製造方法では、オフセットの温度特性を補正する増幅補正回路(第1の増幅補正回路)12,12a,12bと、オフセットの大きさを補正する増幅補正回路(第2の増幅補正回路)13とを別に設け、磁電変換素子の特性に基づいて増幅補正回路12,12a,12bに第1の補正量を設定してオフセットの温度特性を補正した後、増幅補正回路13に第2の補正量を設定してオフセットの大きさを補正するので、オフセットの温度特性の補正とオフセットの大きさの補正とを切り分けて行うことができる。これにより、多くの条件で温度特性を取得する必要がなくなり、簡単な調整で高い電流測定精度を実現できる。
【0058】
なお、上記実施の形態では、電流測定回路を構成するブリッジ回路が、4個の磁気抵抗効果素子により構成された電流センサを例示しているが、ブリッジ回路は、外部磁界により抵抗値が変化しない固定抵抗素子などを含んで構成されていても良い。また、電流測定回路は、誘導磁界を検出可能であれば、ブリッジ回路以外の回路としても良い。
【0059】
また、上記実施の形態における各素子の接続関係、大きさなどは、発明の趣旨を変更しない限りにおいて変更可能である。また、上記実施の形態に示す構成、方法などは、適宜組み合わせて実施可能である。その他、本発明は、本発明の範囲を逸脱しないで適宜変更して実施できる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の電流センサは、例えば、電気自動車やハイブリッドカーなどのモータ駆動用電流の大きさを検知するために用いることが可能である。
【符号の説明】
【0061】
1,2,3 電流センサ
11,11a,11b 電流測定回路
12,12a,12b 増幅補正回路(第1の増幅補正回路)
13 増幅補正回路(第2の増幅補正回路)
21 フィードバックコイル
22 I/Vアンプ
121,121a,121b 演算増幅器
122,122a,122b 補正回路
131 演算増幅器
132 補正回路
221 演算増幅器
222 抵抗素子
M1〜M4 磁気抵抗効果素子(磁電変換素子)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12