(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6143754
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】特定の肺疾患の治療、すなわちCOPDおよび肺線維症の治療のためのウリジンおよびウリジンアナログ
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7072 20060101AFI20170529BHJP
A61K 31/7068 20060101ALI20170529BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20170529BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20170529BHJP
A61K 9/72 20060101ALI20170529BHJP
A61K 47/06 20060101ALI20170529BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
A61K31/7072
A61K31/7068
A61K45/00
A61K9/12
A61K9/72
A61K47/06
A61P11/00
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-524324(P2014-524324)
(86)(22)【出願日】2012年7月24日
(65)【公表番号】特表2014-521706(P2014-521706A)
(43)【公表日】2014年8月28日
(86)【国際出願番号】EP2012064481
(87)【国際公開番号】WO2013023882
(87)【国際公開日】20130221
【審査請求日】2015年6月26日
(31)【優先権主張番号】11177357.8
(32)【優先日】2011年8月12日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501476605
【氏名又は名称】ウニヴェルシテートクリニクム フライブルグ
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】イーデツコ,マルコ
(72)【発明者】
【氏名】ゾリヒター,シュテファン
【審査官】
渡部 正博
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−26204(JP,A)
【文献】
C Evaldsson, et al.,4-Thiouridine induces dose-dependent reduction of oedema, leucocyte influx and tumour necrosis factor in lung inflammation,Clin Exp Immunol.,2009年 2月,Vol.155, No.2,p330-338
【文献】
Melissa E. Weinberg, et al.,Enhanced Uridine Bioavailability Following Administration of a Triacetyluridine-Rich Nutritional Supplement,PLoS One,2011年 2月17日,Vol.6, No.2, e14709,p1-8
【文献】
Namba T. et al.,Induction of EMT-like phenotypes by an active metabolite of leflunomide and its contribution to pulmonary fibrosis,Cell Death Differ.,2010年 5月21日,Vol.17, No.12,p1882-1895
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/80
A61K 9/00−9/72
A61K 47/00−47/69
A61P 1/00−43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウリジン、トリアセチルウリジンまたは4−チオウリジンを含有する、慢性閉塞性肺疾患または特発性肺線維症を治療または予防するための組成物。
【請求項2】
慢性閉塞性肺疾患を治療するための請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
特発性肺線維症を治療するための請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
医薬用担体と共に投与される請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
COPDまたはIPFを治療するための1以上の他の薬理活性化合物と共に投与される請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
経口で投与される請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
吸入により投与される請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
静脈内に投与される請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
ウリジン、トリアセチルウリジンまたは4−チオウリジンが1日当たり1〜1000mg/kg、好ましくは1日当たり5〜500mg/kgの用量で投与される請求項6に記載の組成物。
【請求項10】
ウリジン、トリアセチルウリジンまたは4−チオウリジンの1回の吸入用量が100μg〜1000mgである請求項7に記載の組成物。
【請求項11】
噴射剤と共に投与される請求項7または10に記載の組成物。
【請求項12】
ウリジンを含有する請求項1に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウリジンおよびウリジンアナログの新規の適応、すなわち慢性閉塞性肺疾患(COPD)および特発性肺線維症(IPF)への適応に関する。
【背景技術】
【0002】
COPDは、先進国における主要な健康問題の1つであり、死亡原因の第4位となっている。COPDは、慢性気管支炎や肺気腫を含む閉塞性気道疾患の一領域である。COPDでは、個々の患者の重症度に関わる重大な肺外の影響に加えて、完全には可逆性でない気流制限を特徴とする肺内症状が見られる。気流制限は、通常進行性であり、有害な粒子やガスに対する肺の異常な炎症反応と関係がある。COPDにおける生理学的異常には、例えば、粘液分泌過多および線毛の機能障害、過膨張およびガス交換異常が含まれる。肺胞壁の破壊を伴って終末細気管支より末梢の気腔が恒久的に異常拡大し、かつ明らかな線維化が認められない病態を肺気腫として定義している。COPDの治療法に関して、肺機能低下を阻止する効果が認められた薬剤はこれまでのところ存在しない。薬物治療は、むしろ、症状を抑えた状態を維持しながら増悪を防ぐことを目的として行われており、治療法の新たな選択肢が求められている。
【0003】
特発性肺線維症(IPF)は、壊滅的な影響をもたらす原因不明の肺疾患の1つであり、肺機能の進行性低下が認められ、積極的に治療を施しても致死的経過をたどる予後不良な疾患である。IPFは、線維芽細胞の異常増殖や細胞外マトリックス成分の沈着を特徴とし、肺機能の進行性喪失や呼吸不全に至る疾患である。IPFの発病には、細胞外マトリックス分子の合成と分解の不均衡が関与していると考えられている。現時点でIPFに対する治療法はなく、今なお、IPFの最適な治療法が社会的に求められている。
【0004】
慢性閉塞性肺疾患、および遺伝性の線維症である嚢胞性線維症の治療を目的として、ウリジンのリン酸エステルであるウリジンヌクレオチドが提案されている。国際公開第99/32085号では、嚢胞性線維症の治療法の観点から、ウリジン三リン酸(UTP)による粘液線毛クリアランスの亢進が提案されている。国際公開第99/09998号は、ウリジン二リン酸(UDP)またはそのアナログを投与することにより、肺粘膜分泌物の水分含量を増加させて嚢胞性線維症および慢性閉塞性肺疾患などを治療する方法に関する。UDPおよびUTPは、P2Yファミリーに属するプリン受容体に作用する。例えば、UDPはP2Y6受容体の強力なアゴニストであり、UTPはP2Y2受容体を活性化する。しかし最近では、プリン作動性の信号系はCOPDおよびアレルギー性気道炎症の発病の一因となることが示唆されている。P2受容体を阻害すると、炎症細胞の肺への流入が抑制されることにより、喫煙曝露マウスにおける気腫の発症が阻止されることが確認されており、P2Y2受容体欠損マウスでは急性喫煙曝露後の肺炎症が抑制されることが示されている(Cicko S et al.,Purinergic receptor inhibition prevents the development of smoke−induced lung injury and emphysema,J Immunol.2010 Jul 1;185(1):688−97)。同様に、P2Y6受容体の阻害またはP2Y6受容体の欠損によっても、実験的に発症させた喘息の主要な特徴が抑制されることが確認されている(Paula Vieira R et al.,P2Y6 Receptor Contributes to Airway Inflammation and Remodeling in Experimental Allergic Airway Inflammation,Am J Respir Crit Care Med.2011 Apr 21)。したがって、これらの受容体の活性化は逆効果となる可能性があり、慢性閉塞性肺疾患および嚢胞性線維症の治療に適用可能な化合物がなおも求められている。
【0005】
リン酸基を持たないウリジンヌクレオシドは、ヒトを対象とした高活性抗レトロウイルス療法(HAART)によって引き起こされるミトコンドリア毒性を軽減するための処置において既に使用されており、安全かつ効果的であることが記載されている(Walker UA and Venhoff N,Uridine in the prevention and treatment of NRTI−related mitochondrial toxicity,Antivir Ther.2005;10 Suppl 2:M117−23;EP 1365755 B1)。最近では、急性肺炎症の予防的役割に着目した、ウリジンおよびそのアナログである4−チオウリジンに関する報告もある。ウリジンは、卵白アルブミン(OVA)/ミョウバン誘発疾患モデルマウスおよびイエダニ(HDM)誘発気道炎症モデルマウスにおける喘息性気道炎症を抑制することが報告されている(Muller T et al.,Local administration of uridine suppresses the cardinal features of asthmatic airway inflammation,Clin Exp Allergy.2010 Oct;40(10):1552−60)。4−チオウリジンは、ウリジンと同様の抗炎症作用を有することが確認されている(Evaldsson C et al.,4−thiouridine induces dose−dependent reduction of oedema,leucocyte influx and tumour necrosis factor in lung inflammation,Clin Exp Immunol.2009 Feb;155(2):330−8)。この文献における実験は、臨床上の喘息と炎症プロファイルが類似しているセファデックス誘発急性肺炎症モデルを用いて実施されたものである。
【0006】
COPDおよび嚢胞性線維症の治療においてUDPおよびUTPを使用することが提案されてきたが、実際には逆効果となる可能性があり、一方、慢性閉塞性肺疾患(COPD)または特発性肺線維症(IPF)の治療または予防におけるウリジンの役割についてはこれまで知られていない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
今般、驚くべきことに、化学式Iの化合物がCOPDまたはIPFの治療または予防に有用であることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】急性喫煙曝露および持続喫煙曝露による応答に対するウリジンの影響を示した図である。(a)〜(c):雄性C57BL/6マウスに対してタバコ5本分の煙への曝露を3日間連続して行う一方、未処置のマウスも準備した。喫煙曝露の30分前に、マウスに対して溶媒または異なる濃度のウリジンの気管内注入を行った。最後の喫煙曝露から1時間後、マウスを屠殺し、気管支肺胞洗浄液における(a)細胞の数および分布、(b)ATP含有レベル、ならびに(c)炎症性サイトカインであるIL−6、IFNγ、IL−1β、KCおよびMIP−2のレベルの分析を行った。データは平均±SEMとして示しており、各群のマウスの匹数はn=5である。
*P<0.05、ウリジンで処置した喫煙曝露動物と溶媒で処置した喫煙曝露動物との比較。(d):動物に対してタバコ5本分の煙への曝露を3日間連続して行う一方、未処置の動物も準備した。4日目以降は、喫煙曝露を継続するか、環境空気曝露へと変更した。4〜6日目は、喫煙曝露または空気曝露の30分前に、200μLの10mMウリジンまたは溶媒(PBS)を動物に経口投与した。6日目に気管支肺胞洗浄液中の分画別細胞数の算定を行った。データは平均±SEMとして示しており、各群のマウスの匹数はn=5である。
*P<0.05、同一時点における喫煙/溶媒処置動物と喫煙/ウリジン処置動物との比較。
【
図2】タバコ煙曝露に起因した気腫性変化の進行に対するウリジンの効果を形態計測学的に評価したものである。
【
図3】ウリジンによるBLM誘発肺線維症の抑制を示した図である。0日目に、BLMをC57/Bl6雄性マウスに肺内投与して肺線維症を誘発させた。14日目以降は、マウスに対して溶媒またはウリジンの週3回の経口投与を行った。30日目に、マウスを屠殺し、気管支肺胞洗浄液中の(a)分画別細胞数および(b)サイトカイン、ならびに(c)肺内コラーゲン量を分析した。
*P<0.05、BLM/溶媒処置動物とBLM/ウリジン処置動物との比較。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は請求項に定義した通りである。化学式Iの化合物は、
【化1】
【0010】
(式中、XはOまたはSを示し、R
1はH、OHまたは−O−(C
1〜C
6アルカノイル)を示し、R
2およびR
3はそれぞれ独立してOHまたは−O−(C
1〜C
6アルカノイル)を示す)として定義される。
【0011】
−O−(C
1〜C
6アルカノイル)において、C
1〜C
6アルカノイルは、カルボニル基を介して酸素原子に結合している。1つまたは複数の−O−(C
1〜C
6アルカノイル)基が存在する場合は、−O−(C
1〜C
4アルカノイル)が好ましく、−O−(C
2〜C
3アルカノイル)がより好ましく、−O−(C
2アルカノイル)が最も好ましい。−O−(C
1〜C
6アルカノイル)において、C
1〜C
6アルカノイルは、直鎖状であってもよく、また炭素数により分岐が可能であれば分岐鎖状であってもよい。置換基R
1、R
2およびR
3は同一であっても異なっていてもよい。本発明の特に好ましい一実施形態において、置換基R
1、R
2およびR
3は同一であり、最も好ましくはOHまたは−O−(C
2アルカノイル)である。特に、R
1、R
2およびR
3がそれぞれOHを示し、XがOを示す化学式Iの化合物(ウリジン)、R
1、R
2およびR
3がそれぞれOHを示し、XがSを示す化学式Iの化合物(4−チオウリジン)、ならびにR
1、R
2およびR
3がそれぞれ−O−(C
2アルカノイル)を示し、XがOを示す化学式Iの化合物(トリアセチルウリジン)が好ましい。R
1、R
2およびR
3がそれぞれOHを示し、XがOを示す化学式Iの化合物(ウリジン)が最も好ましい。
【0012】
本明細書において、化学式Iの化合物は、「活性化合物」または「本発明の活性化合物」とも言う。
【0013】
本発明の活性化合物は、主にヒトを対象としたCOPDまたはIPFの治療または予防に適用されるが、例えばイヌなどの動物に用いることも可能である。
【0014】
COPDの有用な治療手段または予防手段としてのウリジンおよびそのアナログの効果は、例えば、実施例1および2より確認することができる。COPD発症の主要な危険因子の1つとして、タバコの煙が挙げられることから、短期または長期に喫煙曝露を行ったマウスを用いて、ウリジン処置の効果を評価するための動物実験を実施した。
【0015】
気道のATPレベルが疾患の重症度(気流制限)に相関していることや、ATP/P2R経路の阻害によりCOPDの主要な特徴がすべて抑制されることが示されていることなど、放出された内因性のATPがCOPDの発病において重要な役割を担うことを示す所見は増えつつある(Cicko S et al.,Purinergic receptor inhibition prevents the development of smoke−induced lung injury and emphysema,J Immunol.2010 Jul 1;185(1):688−97,Lucattelli M,Cicko S et al,P2X7 receptor signalling in the pathogenesis of smoke−induced lung inflammation and emphysema Am J Respir Cell Mol Biol.2011 Mar;44(3):423−9,およびLommatzsch M et al.,Extracellular adenosine triphosphate and chronic obstructive pulmonary disease,Am J Respir Crit Care Med.2010 May 1;181(9):928−34)。今回、驚くべきことに、喫煙曝露マウスをウリジンで処置することにより、気管支肺胞洗浄液中の細胞外ATP量はウリジン非処置のマウスより有意に低くなり、用量依存的に減少した(
図1b)。さらに、ウリジン処置により、マクロファージおよび好中球の数、ならびにCOPDにおけるタバコ煙誘発性肺炎症の発症および/または維持に関わる炎症促進性サイトカインIL−6(インターロイキン6)、IFN−γ(インターフェロンγ)、IL−1β(インターロイキン1β)、KC(角化細胞由来のケモカイン)およびMIP−2(マクロファージ炎症性タンパク質2)のレベルも用量依存的に減少した。
【0016】
さらに、慢性喫煙曝露により肺気腫を発症させたモデルマウスにおいては、ウリジン非処置マウスと比較して、ウリジン処置マウスの平均肺胞径が有意に小さく、肺の内部表面積が大きいことが示された(
図2)。平均肺胞間距離(平均肺胞径)の測定は、様々な動物モデルで気腫の有無を確認するための手段の一つとして一般に認められている。本明細書で使用したモデルマウスにおいては、喫煙曝露によって平均肺胞径が対照より増大しており、ウリジンで処置することにより喫煙の有害な影響が軽減された。
【0017】
したがって、本発明は、COPDの予防、好ましくはCOPDの治療を目的とした化学式Iの化合物に関する。本発明において、COPDの治療は、「慢性閉塞性肺疾患に対するグローバルイニシアチブ(GOLD)」が定義している4段階に分類されたCOPD(COPD GOLD I〜IV)の治療を含み、特に気腫の治療を含む。さらに、本発明の活性化合物は、例えばCOPD GOLD I〜IIと定義されるような初期段階のCOPDの治療に特に適している。
【0018】
またウリジン処置は、IPFと定義される肺疾患にも有用であることが明らかとなった。本発明の実施例3では、ブレオマイシン誘発肺線維症モデルマウスにおいて、ウリジンで処置することにより肺内コラーゲン量が有意に減少することが示された。さらに、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の触媒活性の細胞外調節に関与する組織メタロプロテアーゼ阻害物質(TIMP−1)に関しては、ウリジンで処置していない動物ではTIMP−1レベルが増大したのに対して、ブレオマイシン投与後にウリジンで処置した動物ではTIMP−1が通常のレベルにまで減少した(
図3)。このブレオマイシン誘発肺線維症モデルマウスにおいては、ウリジン処置により、気管支肺胞洗浄液中のマクロファージ、リンパ球および好中球の下方制御、ならびにIL−1β(インターロイキン1β)、IL−6(インターロイキン6)、KC(角化細胞由来のケモカイン)およびTNFα(腫瘍壊死因子α)などの炎症促進性サイトカインの下方制御も同様に見られた。
【0019】
したがって、本発明は、IPFの治療、具体的には細胞外マトリックスの蓄積阻害を目的とした化学式Iの化合物にも関する。
【0020】
HIVの脂肪組織萎縮症におけるウリジンの補充についてはこれまでに報告があり、そのような報告から本発明の活性化合物が安全で忍容性に優れていることは知られている。
【0021】
本発明の活性化合物の治療対象への投与においては、任意の投与経路を用いればよく、該活性化合物は、例えば経口投与、経鼻投与、吸入投与または静脈内投与することができるが、本発明の活性化合物の投与としては、経口投与または吸入投与が好ましい。
【0022】
本発明の活性化合物の用量は、種々のパラメータ、例えば活性化合物の投与対象、対象の体重および年齢、個々の対象の症状、疾患および疾患の重症度、ならびに投与経路および投与頻度によって異なる。本発明の活性化合物は、例えば1日当たり1〜1000mg/kg、好ましくは1日当たり5〜500mg/kgの用量で経口投与してもよく、また、この用量を複数回、例えば3回に分けて投与することも可能である。吸入投与の場合は、本発明の活性化合物の好ましい1回の吸入用量は100μg〜1000mgである。必要であれば、この用量を継続的に、かつ/または1日複数回投与してもよい。
【0023】
本発明の活性化合物は、通常、医薬用担体と共に投与される。
【0024】
本発明の化合物は、本発明の1以上の活性化合物を有効量含む医薬組成物として製剤化することができる。通常、本発明の活性化合物は、液体、固体、気体のいずれであってもよい1以上の有機および/または無機の医薬用担体と共に、または該医薬用担体との混合物として本発明の医薬組成物に含まれている。さらに、COPDまたはIPFを治療するための1以上の他の薬理活性化合物が含まれていてもよい。
【0025】
経口投与用の固形の医薬組成物を調製する場合に用いられる医薬用担体としては、具体的には、例えばセルロース誘導体、微結晶セルロース、ラクトース、マンニトール、キシリトール、サッカロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、アミロペクチンなどの充填剤および結合剤が挙げられる。上記医薬組成物には、崩壊剤、滑沢剤および流動促進剤が含まれていてもよい。さらに、本発明の医薬組成物は、腸溶性コーティングでコーティングされていてもよい。経口投与用の固形の医薬組成物は、錠剤、または硬質もしくは軟質のゼラチンカプセル剤などのカプセル剤の形態で調製されることが好ましい。また、本発明の活性化合物を含む経口投与用の医薬組成物は、サシェなどの容器に充填される散剤として調製してもよい。そのようにすれば、容器の中身を、例えば水、ジュースまたは牛乳に溶解または懸濁することにより、簡便に摂取することができる。
【0026】
注射用の医薬組成物の調製においては、通常、本発明の活性化合物を、例えばpH調整剤、安定化剤、緩衝剤および等張化剤などの医薬用担体および医薬用添加剤と混合する。また、注射時に即時に溶解して使用できる乾燥製剤を調製することも可能である。
【0027】
経鼻投与の場合、本発明の医薬組成物は、本発明の活性化合物を、例えば、液体の医薬用担体、好ましくは水性の液体の医薬用担体に溶解または懸濁した状態で含んでいてもよい。例えば可溶化剤、界面活性剤および/または防腐剤などの添加剤が含まれていてもよい。
【0028】
吸入投与の場合、本発明の活性化合物は、例えば、乾燥粉末吸入器により送達することが可能であり、また、エアゾールスプレー剤として送達することも可能である。後者の場合、本発明の活性化合物が適当な液化噴射剤、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラ−フルオロ−エタン、ヒドロフルオロアルカン(例えば1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパンなど)、二酸化炭素などに懸濁もしくは溶解した状態で保有される加圧容器により、または本発明の活性化合物の溶液もしくは懸濁液を保有できるポンプ、噴霧器もしくはネブライザーにより送達することができる。本発明の活性化合物は、必要であれば、例えば溶媒、緩衝剤、アミノ酸、防腐剤または界面活性剤のような添加剤と共に製剤化してもよい。本発明の活性化合物を含む粉末混合物を含有する、吸入器用のカプセル剤またはカートリッジ剤として製剤化してもよい。吸入用の乾燥粉末は、例えば、本発明の活性化合物をラクトース、トレハロース、マンニトールなどの糖類または糖アルコールおよびその他の任意の添加剤(例えば緩衝剤およびアミノ酸)と共にスプレー乾燥させることによって調製することができる。
【0029】
また、本発明の活性化合物は、COPDまたはIPFを治療するための1以上の他の薬理活性化合物と共に投与してもよい。COPDを治療するための他の薬理活性化合物としては、例えばフェノテロール、レバルブテロール、サルブタモール(アルブテロール)、テルブタリンやホルモテロール、アルホルモテロール、インダカテロール、サルメテロールなどの短時間作用型または長時間作用型のβ
2アゴニスト;臭化イプラトロピウム、臭化オキシトロピウム、臭化チオトロピウムなどの短時間作用型または長時間作用型の抗コリン作用薬;アミノフィリン、テオフィリンなどのメチルキサンチン類;ベクロメタゾン、ブデノシド、プロピオン酸フルチカゾン、プレドニゾン、メチルプレドニゾロンなどのグルココルチコイド;およびロフルミラストなどのホスホジエステラーゼ4阻害剤が挙げられる。IPFを治療するための他の薬理活性化合物としては、例えばプレドニゾン、メチルプレドニゾロンなどのグルココルチコイド;アザチオプリン、シクロホスファミド、シクロスポリンA、メトトレキサート、クロラムブチル、コルヒチンなどの免疫抑制薬または細胞毒性薬;その他の薬物、例えばサイトカイン、プロテアーゼ、酸化物質、線維芽細胞成長因子などを阻害する薬物;酸化防止剤;ジホスホン酸塩;および白血球インテグリンの阻害剤が挙げられる。
【0030】
したがって、本発明は、本発明の活性化合物および1以上の他の薬理活性化合物が同一製剤中に含まれる製剤を包含し、例として、双方の化合物を含む錠剤が挙げられる。本発明には、本発明の活性化合物と他の薬理活性化合物とをそれぞれ別々の製剤として同時にまたは時間差をおいて投与する場合も包含される。例としては、本発明の活性化合物を含むが、COPDまたはIPFを治療するための他の薬理活性化合物を含まない錠剤と、本発明の活性化合物は含まないが、COPDまたはIPFを治療するための1以上の他の薬理活性化合物を含む別の錠剤とを投与する場合が挙げられる。
【0031】
以下の実施例は、本発明について説明するためのものであり、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0032】
<実施例1>
タバコ煙への急性曝露および持続曝露
下記文献に記載の方法と同様にして、特別に設計されたマクロロン(macrolon)ケージ(Tecniplast社(イタリア、ブグッジャーテ))に雄性C57BL/6マウスを入れ、タバコ(Virginia社の市販のフィルター付きタバコ:タール含量12mg、ニコチン含量0.9mg)5本分の煙または室内空気への20分間の曝露を3日間連続して行った(Cavarra E et al.,Human SLPI inactivation after cigarette smoke exposure in a new in vivo model of pulmonary oxidative stress,Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol.2001 Aug;281(2):L412−7,Cicko S et al.,Purinergic receptor inhibition prevents the development of smoke−induced lung injury and emphysema,J Immunol.2010 Jul 1;185(1):688−97)。タバコの燃焼により発生させた煙を、機械的換気装置(7025 Rodent Ventilator、Ugo Basile社、Biological Research Instruments(イタリア、コメリオ))で発生させた気流にのせて250mL/minの速度でチャンバー内に導入した。別の機械的換気装置を用いて室内空気を供給し、タバコの煙流を1:8に希釈した。
一部の実験においては、毎回の喫煙曝露の前に気管内投与(i.t.)を行った。ケタミン/キシラジンの腹腔内注射によりマウスを麻酔下におき、全量80μLとしたウリジン(1mMまたは10mM)または溶媒として用いたPBSを気管内注射した。最後の喫煙曝露から1時間後、マウスを屠殺して気管支肺胞洗浄(BAL)を行った。
【0033】
タバコ煙持続曝露マウスにおけるウリジンの効果を調べるために、1〜3日目は上述した方法と同様にして喫煙曝露を行った。次いで、上記マウスを無作為に群分けし、4〜6日目も上述した方法と同様にして一連の3回の喫煙曝露または空気曝露を行ったが、毎回の曝露の30分前に溶媒(PBS)またはウリジン(200μL、10mM)を経口(p.o.)投与した。6日目に最後の喫煙/空気曝露を行ってから1時間後、マウスを屠殺して気管支肺胞洗浄液(BALF)を回収した。
【0034】
動物における気管支肺胞洗浄
BALFは、下記文献に記載の方法と同様にして、ペントバルビタールの深麻酔下でカニューレを気管に挿入し、1mLの0.1mM EDTA含有PBSで肺を3回洗浄することにより回収した(Idzko M et al.,Extracellular ATP triggers and maintains asthmatic airway inflammation by activating dendritic cells,Nat Med.2007 Aug;13(8):913−9,Cicko S et al.,Purinergic receptor inhibition prevents the development of smoke−induced lung injury and emphysema,J Immunol.2010 Jul 1;185(1):688−97)。総細胞数の算定を行い、また、サイトスピン標本をDiff−Quick(Medion Diagnostics社(スイス、デューディンゲン))で染色したものを用いて分画別細胞数の算定を行った。分画別細胞数の算定は、200個を超える細胞を対象に、標準的な形態学的判定基準およびFACS分析を用いて行った。
【0035】
フローサイトメトリー
BAL細胞を計数して洗浄した後、0.5%BSAおよび0.01%アジ化ナトリウムを含有したPBS中にて、抗MHCクラスII(マクロファージ/DC)、抗7/4(Caltag社)−FITC(好中球;Abd−Serotec社(ドイツ、デュッセルドルフ))、抗CD3−cy−chromeおよび抗CD19−cy−chrome(リンパ球)、ならびに抗CD11c−APC(マクロファージ/DC)(eBioscience社(カリフォルニア州サンディエゴ))で30分間染色した。分画別細胞数の算定は、下記文献に記載の方法と同様にして、フローサイトメトリーにより行った(Idzko M et al.,Extracellular ATP triggers and maintains asthmatic airway inflammation by activating dendritic cells,Nat Med.2007 Aug;13(8):913−9およびCicko S et al.,Purinergic receptor inhibition prevents the development of smoke−induced lung injury and emphysema,J Immunol.2010 Jul 1;185(1):688−97)。
【0036】
BALFにおけるATP測定
マウスのBALF中のATP濃度は、新鮮なBALF上清を用いて、メーカーの取扱説明書(ATPlite Assay、PerkinElmer社(マサチューセッツ州ウェルズリー))に従って測定した。ただし、下記文献に記載の方法と同様に、細胞内ATPの混入を避けるために細胞溶解工程は行わなかった(Idzko M et al.,Extracellular ATP triggers and maintains asthmatic airway inflammation by activating dendritic cells,Nat Med.2007 Aug;13(8):913−9,Cicko S et al.,Purinergic receptor inhibition prevents the development of smoke−induced lung injury and emphysema,J Immunol.2010 Jul 1;185(1):688−97)。
【0037】
BALFにおけるサイトカイン測定
BALF中のサイトカイン濃度は、市販のELISAキット(R&D Systems社(ミネソタ州ミネアポリス))を用いて、メーカー推奨方法に従って測定した。
【0038】
統計分析
サンプル間の統計学的有意差は、ANOVAを実施した後、ボンフェローニの比較検定を行って判定した。p<0.05の場合に、有意差があるとみなした。
【0039】
実施例1のデータを
図1に示す。
【0040】
<実施例2>
タバコ煙への慢性曝露
実施した慢性喫煙曝露の方法は下記文献に記載されている(Cavarra E et al.,Human SLPI inactivation after cigarette smoke exposure in a new in vivo model of pulmonary oxidative stress,Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol.2001 Aug;281(2):L412−7,Cicko S et al.,Purinergic receptor inhibition prevents the development of smoke−induced lung injury and emphysema,J Immunol.2010 Jul 1;185(1):688−97)。簡潔に説明すると、雄性C57BL/6マウスを、1日あたりタバコ(Virginia社の市販のフィルター付きタバコ:タール含量12mg、ニコチン含量0.9mg)3本分の煙に週5日曝露するか、室内空気(対照)に曝露し、これを4ヶ月間または7ヶ月間継続した。ウリジン投与と記載のある場合は、喫煙曝露の45分前に、マウスに対してウリジン(0.6mg/kg)を強制的に経口投与した。
【0041】
組織学
各期間の終了時に、マウスを屠殺して気管支肺胞洗浄を行い、次いで肺切除を行った。気管内にホルマリン(5%)を20cmH
2Oの圧力をかけて注入し、肺のホルマリン固定を行った。肺容量を水置換法により測定した。次いで、すべての肺を脱水してトルエンで透徹し、真空下でパラフィンに包埋した。7μmの横断切片を2つ作製し、ヘマトキシリン・エオジンで染色した。形態学的評価および形態計測学的評価は、上述の曝露プロトコールを知らされていない2名の病理医により行われた。形態計測学的評価は、気腔(肺胞管、肺胞嚢および肺胞)の平均サイズを表す平均肺胞間距離(平均肺胞径:Lm)(Cicko S et al.,Purinergic receptor inhibition prevents the development of smoke−induced lung injury and emphysema,J Immunol.2010 Jul 1;185(1):688−97)の測定、および肺の内部表面積(ISA)の測定を含む。Lmは、肺の組織スライド上に引いた試験線の長さを、該線と肺胞壁(表面でない)との交差回数で除したものである。気管支、太い細気管支または血管を有する視野は測定対象から除外した。下記式を用いてLmを計算した:Lm=50本の線の全長/肺胞との交点の数。
このLm値を用いて、式4V/Lm(式中、Vは固定後肺容量である)により、気腫の程度を評価するために必要なISA(ガス交換表面積を表す)を算出した。左右の肺のLmを算出するために、1匹あたり40個の組織視野を選択し、縦方向および横方向に評価を行った。
これだけの数の視野を調べたことは、実質的に肺全域を評価したことを意味している。
【0042】
統計分析
サンプル間の統計学的有意差は、ANOVAを実施した後、ボンフェローニの比較検定を行って判定した。p<0.05の場合に、有意差があるとみなした。
【0043】
実施例2のデータを
図2に示す。
【0044】
<実施例3>
ブレオマイシン(BLM)誘発肺線維症モデルマウス
BLMによる肺線維症の誘導は、下記文献に記載の方法と同様にして行った(Gasse P,Mary C,Guenon I,Noulin N,Charron S,Schnyder−Candrian S,Schnyder B,Akira S,Quesniaux VF,Lagente V,et al.Il−1r1/myd88 signaling and the inflammasome are essential in pulmonary inflammation and fibrosis in mice.J Clin Invest 2007;117(12):3786−3799)。次いで、BLM投与後14日目の雄性C57/Bl6マウスにウリジン(200μL、10mM)または溶媒を経口投与し、以降、この処置を週3日行った。30日目に、マウスがBLM誘発肺障害の典型的な特徴を有しているか否かを調べた。そのために、上述した方法と同様にして、BALFを回収して分画別細胞数の算定を行った。
【0045】
BALFにおけるサイトカイン測定
BALF中のサイトカイン濃度は、市販のELISAキット(R&D Systems社(ミネソタ州ミネアポリス))を用いて、メーカー推奨方法に従って測定した。
【0046】
肺内コラーゲン量
肺組織中の肺内コラーゲン量は、Sircolアッセイを用いてメーカーの推奨方法(Biocolor社、Life−Science、英国)に従って測定した。
【0047】
統計分析
サンプル間の統計学的有意差は、ANOVAを実施した後、ボンフェローニの比較検定を行って判定した。p<0.05の場合に、有意差があるとみなした。
【0048】
実施例3のデータを
図3に示す。