特許第6143805号(P6143805)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6143805塩味が補強又は増強されたソースを作るためのルウ及び異味が抑制された塩化カリウムを含有するソースを作るためのルウ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6143805
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】塩味が補強又は増強されたソースを作るためのルウ及び異味が抑制された塩化カリウムを含有するソースを作るためのルウ
(51)【国際特許分類】
   A23L 23/10 20160101AFI20170529BHJP
   A23L 27/40 20160101ALI20170529BHJP
【FI】
   A23L23/10
   A23L27/40
【請求項の数】2
【全頁数】55
(21)【出願番号】特願2015-87754(P2015-87754)
(22)【出願日】2015年4月22日
(62)【分割の表示】特願2011-534292(P2011-534292)の分割
【原出願日】2010年9月30日
(65)【公開番号】特開2015-130892(P2015-130892A)
(43)【公開日】2015年7月23日
【審査請求日】2015年5月20日
(31)【優先権主張番号】特願2009-230707(P2009-230707)
(32)【優先日】2009年10月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000111487
【氏名又は名称】ハウス食品グループ本社株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】岩畑 慎一
(72)【発明者】
【氏名】黒部 史明
【審査官】 田中 耕一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−006314(JP,A)
【文献】 特開2008−131922(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0104330(US,A1)
【文献】 国際公開第2007/146741(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/043054(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/047654(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/040505(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 23/10
A23L 27/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ナトリウムの含有量が低減されたカレーソースを作るためのカレールウであって、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、酢酸及び乳酸から選ばれる少なくとも一種の酸とを含有し、当該カレールウに含有される塩化ナトリウム相当量が2.8〜11.5重量%であり、
塩化カリウムを3.5〜14.7重量%含有し、かつ、
当該カレールウに含有される前記酸の総量が塩化ナトリウム相当量100重量部に対して0.8〜17.0重量部である、カレールウ(ただし、該食品組成物が、塩化カリウム、乳酸、カルシウム塩、マグネシウム塩、及び米粉を含有する、塩化ナトリウムの含有量が低減された調味料組成物である場合を除く)。
【請求項2】
塩化ナトリウムの含有量が低減されたシチューソースを作るためのシチュールウであって、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、酢酸及び乳酸から選ばれる少なくとも一種の酸とを含有し、当該シチュールウに含有される塩化ナトリウム相当量が2.1〜8.5重量%であり、
塩化カリウムを2.6〜10.9重量%含有し、かつ、
当該シチュールウに含有される前記酸の総量が塩化ナトリウム相当量100重量部に対して0.7〜17.0重量部である、シチュールウ(ただし、該シチュールウが、塩化カリウム、乳酸、カルシウム塩、マグネシウム塩、及び米粉を含有する、塩化ナトリウムの含有量が低減されたシチュールウである場合を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ナトリウムの量が低減されており、且つ塩味が補強された塩化カリウム含有食品組成物、並びに、塩化ナトリウムの量を増加させることなく、塩味が増強された塩化カリウム含有食品組成物を提供する。
【0002】
本発明はまた、異味が抑制された、塩化カリウム含有組成物を提供する。本発明の組成物は食塩含有量が低減された食品組成物として有用である。
【背景技術】
【0003】
食塩(塩化ナトリウム,NaCl)に由来するナトリウムイオンの過剰摂取が高血圧症等の悪影響を及ぼすことが懸念されており、食塩含量を低減させた低食塩食品が開発されている。食塩含量を低減させただけの低食塩食品は塩味の面で物足りないことから、ナトリウム含量を高めることなく塩味を付与することを目的として塩化ナトリウム代替物として塩化カリウム(KCl)を添加した低食塩食品が開発されている。
【0004】
塩化カリウムはカリウムイオンに由来する独特の金属味及び苦味(以下「異味」ということがある)を有していることから、これまでに塩化カリウムの異味を抑制するための技術が開発されている。
【0005】
特許文献1の特許請求の範囲請求項1には食塩9質量%以下と、カリウム0.5〜4.2質量%と、酸性アミノ酸2質量%超であって、アスパラギン酸1〜3質量%及びグルタミン酸1〜2質量%とを含有する液体調味料が記載されている。特許文献2の特許請求の範囲請求項1にはナトリウム3.55質量%以下と、カリウム0.5〜4.2質量%と、酸性アミノ酸2質量%超、及び/又は塩基性アミノ酸1質量%超と、血圧降下作用を有する食品素材0.05〜10質量%とを含有する液体調味料が記載されている。特許文献3の特許請求の範囲請求項1にはナトリウム5.5質量%以下と、カリウム0.5〜6質量%と、酸性アミノ酸2質量%超、及び/又は塩基性アミノ酸1質量%超と、エタノール1〜10質量%とを含有する液体調味料が記載されている。
【0006】
特許文献1〜3の実施例ではグルタミン酸及びアスパラギン酸としてはナトリウム塩が添加されており、塩の形態でないグルタミン酸又はアスパラギン酸を添加した実施例は記載されていない。特許文献1〜3ではカリウムに対するグルタミン酸Na又はアスパラギン酸Naが多量であるためこれらのアミノ酸塩からの独特の風味が付与され、食塩と同等の塩味とはならない。仮に特許文献1〜3に規定される量の酸性アミノ酸をNa塩の形態ではない遊離のグルタミン酸またはアスパラギン酸として添加したとすると、下記実施例で示すように、強い酸味が付与され、食塩と同等の塩味とはならない。しかも、低食塩食品の目的の一つはNaイオンの低減化にあることから、酸性アミノ酸をNa塩の形態で使用することは好ましいことではない。
【0007】
特許文献4には塩化カリウム等の苦味を抑制するためにγ−ポリグルタミン酸を用いることが記載されている。特許文献5にはγ-ポリグルタミン酸を使用して食塩の塩味を増強する技術が記載されている。しかしながら、特許文献4及び5に記載のγ−ポリグルタミン酸は納豆菌由来の多糖であることから特有の臭いを有し、また、塩化カリウム等の異味の抑制効果も弱い。
【0008】
特許文献6には、ナトリウム不含または低ナトリウム調味料組成物であって、クエン酸、酒石酸、フマル酸、乳酸およびそれらの混合物からなる群から選択される酸味料;カリウム塩;カルシウム塩;マグネシウム塩;および米粉を含んでなる前記調味料組成物が開示されている。しかしながらこの調味料組成物は種々の成分を必須の構成としているため、通常の食塩とは異質の風味を呈すると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4060843号公報
【特許文献2】特開2007−89557号公報
【特許文献3】特開2007−289083号公報
【特許文献4】国際公開WO00/21390
【特許文献5】国際公開WO2007/108558
【特許文献6】特表2010−521974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の第一の形態
塩化ナトリウムの含有量が低減された食品組成物において、自然な塩味を補強する技術、及び、食品組成物中の塩化ナトリウムの量を増加させることなく、塩味を増強する技術として満足できるものは従来提供されていない。
【0011】
すなわち、塩化カリウムは塩化ナトリウムが呈する塩味の後半部分を補強することはできるが、塩化ナトリウムが呈する塩味の前半部分を補強することができず、塩化カリウムだけでは塩化ナトリウムの含有量が低減された食品組成物において自然な塩味を補強することはできない。
【0012】
そこで本発明の第一の形態は、塩化ナトリウムの量が低減されており、且つ塩味が補強された食品組成物、或いは、塩化ナトリウムの量を増加させることなく、塩味が増強された食品組成物を提供することを目的とする。
【0013】
本発明の第二の形態
食品中に添加される塩化カリウムの異味を抑制する技術として満足できるものは従来提供されていない。
【0014】
本発明の第二の形態は塩化カリウムの異味を抑制し、かつ、不自然な味が付与されることなく、塩化ナトリウム(食塩)と同様の塩味を呈する食品として摂取可能な組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第一の形態
本発明者らは、食品組成物の塩化ナトリウムの塩味が、塩化カリウムと、酢酸及び乳酸から選ばれる少なくとも一種の酸とを添加することにより補強又は増強されることを見出し、以下の発明を完成させるに至った。
【0016】
(1)塩化カリウムと、酢酸及び乳酸から選ばれる少なくとも一種の酸とを添加する工程を含む、塩化ナトリウムの含有量が低減された食品組成物の塩味を補強する方法(ただし、塩化カリウム、乳酸、カルシウム塩、マグネシウム塩、及び米粉を添加する工程を含む、塩化ナトリウムの含有量が低減された調味料組成物の塩味を補強する方法を除く)。好ましくは、(1)の方法は、塩味が補強された前記調味料組成物を他の食品組成物に添加することにより、当該他の食品組成物における塩味を補強する方法を除く。
【0017】
カルシウム塩としてはリン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム等の食用可能なカルシウム塩が挙げられる。マグネシウム塩としては硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム等の食用可能なマグネシウム塩が挙げられる。
【0018】
(2)低減される塩化ナトリウムの量に応じて、当該食品組成物に添加される塩化カリウムの量と、前記酸の量とを調整する工程を含む、(1)に記載の方法。
【0019】
(3)白胡椒、黒胡椒、グリーンペッパー、生姜、山椒、唐辛子、クミン、タイム、オレガノ、コリアンダー、ローレル、カルダモン、マスタード、シナモン、ガーリック、ローズマリー、セージ、バジル、陳皮、シソ、レモンのうちから選ばれる1以上の香辛料及び/又はその抽出物を添加する工程を更に含む、(1)又は(2)に記載の方法。
【0020】
(4)塩化ナトリウムの含有量が低減された食品組成物であって、塩化カリウムと、酢酸及び乳酸から選ばれる少なくとも一種の酸とが添加された食品組成物(ただし、該食品組成物が、塩化カリウム、乳酸、カルシウム塩、マグネシウム塩、及び米粉を含有する、塩化ナトリウムの含有量が低減された調味料組成物である場合を除く)。好ましくは、(4)の食品組成物は、前記調味料組成物を他の食品組成物に添加することにより得られる食品組成物を除く。
【0021】
(5)前記食品組成物が、ソース、スープ、たれ、醤油、味噌、ドレッシング、食用塩、シーズニング、スナック、麺及び調味米飯のうちのいずれかである、(4)に記載の食品組成物。
【0022】
(6)前記食品組成物がカレーソースであって、当該カレーソースに含有されるナトリウムを等モル量の塩化ナトリウムに換算した量(塩化ナトリウム相当量)が1.25重量%以下であり、かつ、当該カレーソースに含有される前記酸の総量が塩化ナトリウム相当量100重量部に対して2.6〜52.0重量部である、(4)に記載の食品組成物。
【0023】
(7)前記食品組成物がカレーソースを作るためのカレールウであって、
前記カレーソースに含有される塩化ナトリウム相当量が1.25重量%以下であり、かつ、前記カレーソースに含有される前記酸の総量が塩化ナトリウム相当量100重量部に対して2.6〜52.0重量部となるように前記酸の量が調整されている、(4)に記載の食品組成物。
【0024】
(8)前記食品組成物がカレーソースを作るためのカレールウであって、
当該カレールウに含有される塩化ナトリウム相当量が11.5重量%以下であり、かつ、当該カレールウに含有される前記酸の総量が塩化ナトリウム相当量100重量部に対して0.8〜17.0重量部である、(4)に記載の食品組成物。
【0025】
(9)前記食品組成物がシチューソースであって、塩化ナトリウム相当量が1.0重量%以下であり、かつ、当該シチューソースに含有される前記酸の総量が塩化ナトリウム相当量100重量部に対して5.3〜30.0重量部である、(4)に記載の食品組成物。
【0026】
(10)前記食品組成物がシチューソースを作るためのシチュールウであって、
前記シチューソースに含有される塩化ナトリウム相当量が1.0重量%以下であり、かつ、前記シチューソースに含有される前記酸の総量が塩化ナトリウム相当量100重量部に対して5.3〜30.0重量部となるように前記酸の量が調整されている、(4)に記載の食品組成物。
【0027】
(11)前記食品組成物がシチューソースを作るためのシチュールウであって、
当該シチュールウに含有される塩化ナトリウム相当量が8.5重量%以下であり、かつ、当該シチュールウに含有される前記酸の総量が塩化ナトリウム相当量100重量部に対して0.7〜17.0重量部である、(4)に記載の食品組成物。
【0028】
(12)前記食品組成物がスープであって、塩化ナトリウム相当量が1.3重量%以下であり、かつ、当該スープに含有される前記酸の総量が塩化ナトリウム相当量100重量部に対して2.0〜16.0重量部である、(4)に記載の食品組成物。
【0029】
(13)前記食品組成物がスープを作るためのスープベースであって、
前記スープに含有される塩化ナトリウム相当量が1.3重量%以下であり、かつ、当該スープに含有される前記酸の総量が塩化ナトリウム相当量100重量部に対して2.0〜16.0重量部となるように、前記酸の量が調整されている、(4)に記載の食品組成物。
【0030】
(14)前記食品組成物がスナックであって、塩化ナトリウム相当量が1.4重量%以下であり、かつ、当該スナックに含有される前記酸の総量が塩化ナトリウム相当量100重量部に対して2.5〜20.0重量部である、(4)に記載の食品組成物。
【0031】
(15)前記食品組成物が食用塩であって、塩化カリウムを25〜98重量%の割合で含有する、(4)に記載の食品組成物。
【0032】
(16)前記食用塩に含有される前記酸の総量が塩化ナトリウム相当量100重量部に対して0.2〜15.0重量部である、請求項15に記載の食品組成物。
【0033】
(17)前記食品組成物がドレッシングであって、塩化ナトリウム相当量が5.5重量%以下であり、かつ、当該ドレッシングに含有される前記酸の総量が塩化ナトリウム相当量100重量部に対して22.5〜90.0重量部である(4)に記載の食品組成物。
【0034】
(18)塩化カリウムと、酢酸及び乳酸から選ばれる少なくとも一種の酸とを添加する工程を含む、塩化ナトリウムを含有する食品組成物の塩味を増強する方法。
【0035】
(19)塩化ナトリウムを含有する食品組成物であって、塩化カリウムと、酢酸及び乳酸から選ばれる少なくとも一種の酸とが添加された食品組成物。
【0036】
本発明の第二の形態
本発明者らは、塩化カリウムの異味が、Na塩ではない遊離型のグルタミン酸及び/又はアスパラギン酸により抑制されることを見出し、以下の発明を完成させるに至った。
【0037】
(20)塩化カリウムが添加された組成物であって、更にグルタミン酸及びアスパラギン酸のうち少なくとも1種が添加されカリウム由来の異味が抑制された組成物。
【0038】
(21)塩化カリウムが添加された組成物であって、更にグルタミン酸及びアスパラギン酸のうち少なくとも1種が前記塩化カリウム100重量部に対して2〜25重量部の割合で添加された組成物。
【0039】
(22)前記組成物が、ソース、スープ、たれ、醤油、味噌、食用塩、シーズニング、スナック、麺及び調味米飯のうちのいずれかである、(20)又は(21)に記載の組成物。
【0040】
(23)前記組成物がカレーソースであって、該組成物に含有される塩化ナトリウムの量と、添加された塩化カリウムを等モル量の塩化ナトリウムに換算した量との合計(合計塩量)が1.1重量%以下である、(20)又は(21)に記載の組成物。
【0041】
(24)前記組成物がシチューソースであって、合計塩量が0.75重量%以下である、(20)又は(21)に記載の組成物。
【0042】
(25)前記組成物がスープであって、合計塩量が1.0重量%以下である、(20)又は(21)に記載の組成物。
【0043】
(26)前記組成物がスナックであって、合計塩量が1.3重量%以下である、(20)又は(21)に記載の組成物。
【0044】
(27)前記組成物が食用塩であって、塩化カリウムを30〜98重量%の割合で含有する、(20)又は(21)に記載の組成物。
【0045】
(28)塩化カリウムが添加される組成物に対して、グルタミン酸及びアスパラギン酸のうち少なくとも1種を添加することによりカリウム由来の異味を抑制する、前記組成物の異味抑制方法。
【0046】
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2009-230707号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【発明の効果】
【0047】
本発明の第一の形態
本発明の第一の形態によれば、塩化ナトリウムの量が低減されており、且つ塩味が補強された食品組成物、或いは、塩化ナトリウムの量を増加させることなく、塩味が増強された食品組成物を提供することができる。
【0048】
本発明の第二の形態
塩化カリウムの異味を抑制し、かつ不自然な味が付与されることなく、塩化ナトリウムと同様の塩味を呈する組成物を提供することができる。
【0049】
塩化カリウムを添加する組成物における異味を抑制する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0050】
1.本発明の第一の形態
1.1.酢酸及び乳酸
本発明では、酢酸及び乳酸をNa塩の形態ではなく、遊離型の形態で組成物中に添加することを特徴とする。本明細書及び特許請求の範囲において単に「酢酸」及び「乳酸」と表示した場合、遊離型の酢酸及び乳酸を指す。
【0051】
乳酸はL−乳酸、D−乳酸、及びそれらの混合物のいずれも使用することができる。実施例で用いた乳酸は全てL−乳酸である。
【0052】
酢酸及び乳酸は食品材料の一部として食品組成物中に配合されてもよい。例えば、酢酸については醸造酢、穀物酢、果実酢、合成酢、ワイン等の酢酸含有食品材料の形態で、乳酸についてはワイン、キムチ、漬物、ピクルス、ヨーグルト、チーズ等の乳酸発酵品等の乳酸含有食品材料の形態で食品組成物中に配合されることができる。
【0053】
酢酸及び乳酸は粉末化された形態で食品組成物中に配合することもできる。
【0054】
1.2.塩化カリウム
本発明の食品組成物には塩化カリウムが添加される。塩化カリウムの食品組成物への添加量は特に限定されない。
【0055】
1.3.塩味の補強方法、及び、塩味が補強されたナトリウム低減食品組成物
本発明では、塩化ナトリウムの含有量が低減された食品組成物の調製工程の任意の段階において、塩化カリウムと酢酸及び乳酸から選ばれる少なくとも一種の酸とを添加することにより、調製される前記食品組成物において塩化ナトリウム含有量の低減により低減された塩味を補強することができる。
【0056】
低減される塩化ナトリウムの量に応じて、当該食品組成物に添加される塩化カリウムの量と、酢酸及び乳酸から選ばれる少なくとも一種の酸の量とを、食品組成物に求められる風味に応じて適宜調整することにより、塩味を補強する。
【0057】
本発明における「塩化ナトリウムの含有量が低減された食品組成物」は、好ましくは塩化ナトリウムの含有量が、対応する通常の食品組成物における塩化ナトリウムの含有量と比較して80重量%以下である食品組成物であり、より好ましくは20〜80重量%である食品組成物である。本発明はこのような食品組成物に対して有効である。
【0058】
食品組成物としてはソース、スープ、たれ、醤油、味噌、ドレッシング、食用塩、シーズニング、スナック、麺、調味米飯等が挙げられる。
【0059】
食品組成物には、白胡椒、黒胡椒、グリーンペッパー、生姜、山椒、唐辛子、クミン、タイム、オレガノ、コリアンダー、ローレル、カルダモン、マスタード、シナモン、ガーリック、ローズマリー、セージ、バジル、陳皮、シソ、レモンのうちから選ばれる1以上の香辛料及び/又はその抽出物を更に添加することができる。
【0060】
本発明の食品組成物がカレーソースである場合、好ましくは、当該カレーソースに含有されるナトリウムを等モル量の塩化ナトリウムに換算した量(以下「塩化ナトリウム相当量」という)は1.25重量%以下であり、かつ、当該カレーソースに含有される酢酸及び乳酸から選ばれる少なくとも一種の酸の総量は塩化ナトリウム相当量100重量部に対して2.6〜52.0重量部、好ましくは2.6〜23.0重量部、より好ましくは2.6〜18.0重量部である。当該カレーソースの塩化ナトリウム相当量は、典型的には0.3〜1.25重量%である。当該カレーソース中の塩化カリウムの含有量は特に限定されないが好ましくは0.38〜1.6重量%である。当該カレーソースを作成するためのカレールウもまた本発明の食品組成物に包含される。
【0061】
本発明の食品組成物がカレールウである場合、好ましくは、当該カレールウに含有される塩化ナトリウム相当量は11.5重量%以下であり、かつ、当該カレールウに含有される酢酸及び乳酸から選ばれる少なくとも一種の酸の総量は塩化ナトリウム相当量100重量部に対して0.8〜17.0重量部である。当該カレールウの塩化ナトリウム相当量は、典型的には2.8〜11.5重量%である。当該カレールウ中の塩化カリウムの含有量は特に限定されないが好ましくは3.5〜14.7重量%である。
【0062】
本発明の食品組成物がシチューソースである場合、好ましくは、塩化ナトリウム相当量は1.0重量%以下であり、かつ、当該シチューソースに含有される酢酸及び乳酸から選ばれる少なくとも一種の酸の総量は塩化ナトリウム相当量100重量部に対して5.3〜30.0重量部、好ましくは5.3〜20.0重量部である。当該シチューソースの塩化ナトリウム相当量は、典型的には0.26〜1.0重量%である。当該シチューソース中の塩化カリウムの含有量は特に限定されないが好ましくは0.33〜1.28重量%である。当該シチューソースを作成するためのシチュールウもまた本発明の食品組成物に包含される。
【0063】
本発明の食品組成物がシチュールウである場合、好ましくは、当該シチュールウに含有される塩化ナトリウム相当量は8.5重量%以下であり、かつ、当該シチュールウに含有される酢酸及び乳酸から選ばれる少なくとも一種の酸の総量は塩化ナトリウム相当量100重量部に対して0.7〜17.0重量部である。当該シチュールウの塩化ナトリウム相当量は、典型的には2.1〜8.5重量%である。当該シチュールウ中の塩化カリウムの含有量は特に限定されないが好ましくは2.6〜10.9重量%である。
【0064】
本発明の食品組成物がスープである場合、好ましくは、塩化ナトリウム相当量は1.3重量%以下であり、かつ、当該スープに含有される酢酸及び乳酸から選ばれる少なくとも一種の酸の総量は塩化ナトリウム相当量100重量部に対して2.0〜16.0重量部である。当該スープの塩化ナトリウム相当量は、典型的には0.32〜1.3重量%である。当該スープ中の塩化カリウムの含有量は特に限定されないが好ましくは0.4〜1.66重量%である。当該スープを作成するためのスープベースもまた本発明の食品組成物に包含される。
【0065】
本発明の食品組成物がスナックである場合、好ましくは、塩化ナトリウム相当量は1.4重量%以下であり、かつ、当該スナックに含有される酢酸及び乳酸から選ばれる少なくとも一種の酸の総量は塩化ナトリウム相当量100重量部に対して2.5〜20.0重量部である。当該スナックの塩化ナトリウム相当量は、典型的には0.36〜1.4重量%である。当該スナック中の塩化カリウムの含有量は特に限定されないが好ましくは0.45〜1.79重量%である。
【0066】
本発明の食品組成物が食用塩である場合、好ましくは、当該食用塩は塩化カリウムを25〜98重量%、より好ましくは25〜83重量%の割合で含有する。「食用塩」とは粉末状の調味料を指す。当該食用塩には、塩化カリウム、並びに酢酸及び乳酸から選ばれる少なくとも一種の酸に加え、塩化ナトリウムが更に含まれ、その他の粉末状の調味料が更に含まれてもよい。当該食用塩の塩化ナトリウム相当量は、典型的には16.0〜74.0重量%である。より好ましくは、当該食用塩における酢酸及び乳酸から選ばれる少なくとも一種の酸の総量は塩化ナトリウム相当量100重量部に対して0.2〜15.0重量部である。
【0067】
本発明の食品組成物がドレッシングである場合、好ましくは、塩化ナトリウム相当量は5.5重量%以下であり、かつ、当該ドレッシングに含有される、酢酸及び乳酸から選ばれる少なくとも一種の酸の総量が塩化ナトリウム相当量100重量部に対して22.5〜90.0重量部、好ましくは22.5〜63.0重量部である。当該ドレッシングの塩化ナトリウム相当量は、典型的には1.37〜5.5重量%である。当該ドレッシング中の塩化カリウムの含有量は特に限定されないが好ましくは1.74〜7.0重量%である。
【0068】
1.4.塩味の増強方法
本発明では、塩化ナトリウムを含有する食品組成物の調製工程の任意の段階において、塩化カリウムと酢酸及び乳酸から選ばれる少なくとも一種の酸とを添加することにより、調製される前記食品組成物において塩化ナトリウム量を高めることなく、塩化ナトリウムが有する塩味を増強することができる。
【0069】
食品組成物中の塩化ナトリウムの量に対して、当該食品組成物に添加される塩化カリウムの量と、酢酸及び乳酸から選ばれる少なくとも一種の酸の量とを、食品組成物に求められる風味に応じて適宜調整することにより、塩味を増強する。
【0070】
本発明のこの実施形態では食品組成物中の塩化ナトリウムの量は、当該食品組成物において通常の量である。従って、特許文献6が対象としている「ナトリウム不含又は低ナトリウム調味料組成物」は、本発明における「塩化ナトリウムを含有する食品組成物」の範囲からは除外される。また、塩化ナトリウムを含有する食品組成物中に、乳酸を、塩化カリウム、カルシウム塩、マグネシウム塩、及び米粉とともに添加して塩味を増強する方法は、典型的には、本発明の範囲から除外される。
【0071】
食品組成物としては上記1.3において述べたと同様の形態が挙げられる。
【0072】
食品組成物には上記1.3において述べたと同様の香辛料及び/又はその抽出物を更に添加することができる。
【0073】
2.本発明の第二の形態
2.1.グルタミン酸及びアスパラギン酸
本発明では、グルタミン酸及びアスパラギン酸をNa塩の形態ではなく、遊離型の形態で組成物中に添加することを特徴とする。本明細書及び特許請求の範囲において単に「グルタミン酸」及び「アスパラギン酸」と表示した場合、遊離型のグルタミン酸及びアスパラギン酸を指す。グルタミン酸及びアスパラギン酸はいずれもカルボキシル基を側鎖に含む酸性アミノ酸である。pH4.25〜9.60の食品組成物においては、遊離型のグルタミン酸、遊離型のアスパラギン酸の側鎖カルボキシル基、α位カルボキシル基の水素イオンは解離(COO)し、アミノ基は水素イオンを持った(NH)状態となっている。
【0074】
また、これら遊離型のグルタミン酸、遊離型のアスパラギン酸の製造方法、性状、確認試験の方法等については、例えば「第8版 食品添加物公定書解説書」に記載さている。具体的には、L−グルタミン酸については同書のD−546〜D−547に記載されており、また、L−アスパラギン酸については同書のD−43〜D−45に記載されている。
【0075】
グルタミン酸としてはL−グルタミン酸、D−グルタミン酸、及びそれらの混合物のいずれも使用することができる。
【0076】
アスパラギン酸としてはL−アスパラギン酸、D−アスパラギン酸、及びそれらの混合物のいずれも使用することができる。
【0077】
尚、D−グルタミン酸、D−アスパラギン酸については、現在は食品添加物として認められてはいないが、後述の実験で示すように、これらについても顕著な効果が得られることを確認している。
【0078】
グルタミン酸とアスパラギン酸は併用することができ、その使用割合は特に限定されない。下記のアミノ酸の添加量は、グルタミン酸とアスパラギン酸とを併用する場合は両アミノ酸の合計量を指す。
【0079】
グルタミン酸及びアスパラギン酸のうち少なくとも1種の添加量は、添加された塩化カリウムの異味を抑制することができる有効量であれば特に限定されない。具体的には、グルタミン酸及びアスパラギン酸の少なくとも1種は、組成物に添加された塩化カリウム100重量部に対して2〜25重量部添加される。この範囲の下限(2重量部)以上であれば、塩化カリウムの異味を十分に抑制することができる。この範囲の上限(25重量部)以下であれば、グルタミン酸又はアスパラギン酸に由来する酸味が強くなりすぎず、塩化ナトリウムに近い塩味が付与される。グルタミン酸及びアスパラギン酸の少なくとも1種は、より好ましくは、組成物に添加された塩化カリウム100重量部に対して3〜15重量部添加され、最も好ましくは、組成物に添加された塩化カリウム100重量部に対して5〜10重量部添加される。これらの範囲内では、塩化カリウムの異味の抑制効果が更に高まり、なお且つ、グルタミン酸又はアスパラギン酸に由来する酸味がより弱く、塩化ナトリウムにより近い塩味の組成物が提供される。
【0080】
グルタミン酸及びアスパラギン酸の少なくとも1種の上記の添加量は、組成物の製造段階で塩化カリウムの形態で添加される塩化カリウムを基準に規定される。組成物中で異味を感じさせるのは、主として、人為的に添加された塩化カリウムだからである。
【0081】
なお、特許文献1〜3には、調味料組成物中に添加される塩化カリウムに対して、グルタミン酸又はアスパラギン酸を上記の量添加することは記載されていない。
【0082】
特許文献1の特許請求の範囲請求項1の組成において、カリウムが全量塩化カリウムとして添加されたと仮定すると塩化カリウム量は0.96〜8.03質量%であり、酸性アミノ酸は塩化カリウム100重量部あたり24.9〜208重量部含まれることとなる。しかし特許文献1の特許請求の範囲に記載の上記のカリウム量は調味料の他の原料に由来するものも含む。特許文献1の実施例によれば、苦味の原因である添加された塩化カリウム100重量部に対して酸性アミノ酸Na塩は33〜315重量部である。
【0083】
特許文献2の特許請求の範囲請求項1の組成において、カリウムが全量塩化カリウムとして添加されたと仮定すると塩化カリウム量は0.96〜8.03質量%であり、酸性アミノ酸は、塩化カリウム100重量部あたり24.9〜208重量部含まれることとなる。しかし特許文献2の特許請求の範囲に記載の上記のカリウム量は調味料の他の原料に由来するものも含む。特許文献2の実施例によれば、苦味の原因である添加された塩化カリウム100重量部に対して酸性アミノ酸Na塩は30〜63.3重量部である。
【0084】
特許文献3の特許請求の範囲請求項1の組成において、カリウムが全量塩化カリウムとして添加されたと仮定すると塩化カリウム量は0.96〜11.47質量%であり、酸性アミノ酸は、塩化カリウム100重量部あたり17.4〜208重量部含まれることとなる。しかし特許文献3の特許請求の範囲に記載の上記のカリウム量は調味料の他の原料に由来するものも含む。特許文献3の実施例によれば、苦味の原因である添加された塩化カリウム100重量部に対して酸性アミノ酸Na塩は50〜125重量部である。
【0085】
このように特許文献1〜3には、苦味の原因となる、組成物に添加された塩化カリウム100重量部に対して30質量部以上の酸性アミノ酸Na塩を添加することが記載されている。このように多量に酸性アミノ酸Na塩を配合した場合、組成物は酸性アミノ酸Na塩に特有の風味が強くなり、塩化ナトリウムに由来する塩味が損なわれる。また、仮に酸性アミノ酸Na塩を遊離型の酸性アミノ酸に置換したとすれば、酸味が強くなりすぎるという問題がある。
【0086】
2.2.塩化カリウム
本発明の組成物には塩化カリウムが添加される。塩化カリウムの組成物への添加量は特に限定されない。典型的には、既存の組成物の製造時に添加される塩化ナトリウムの一部又は全部を置換する量だけ塩化カリウムが添加される。
【0087】
2.3.組成物
本発明の組成物は、食品組成物、医薬品組成物などの経口摂取されることが意図された組成物である。組成物の形態は特に限定されず、粉末状、固体状、半固体状、液状等の種々の形態であってよい。たとえば組成物としてはソース、スープ、たれ、醤油、味噌、食用塩、シーズニング、スナック、麺、調味米飯等として提供される組成物が挙げられる。
【0088】
組成物が消費者に直接経口摂取される形態の組成物である場合には、組成物に含有される塩化ナトリウムの重量と、添加された塩化カリウムを等モル量の塩化ナトリウムに換算した場合の重量との合計(本明細書では「合計塩量」と称する場合がある)が、組成物重量の10重量%以下であることが好ましく、5重量%以下であることがより好ましく、2重量%以下であることが更に好ましい。本発明の組成物中の合計塩量の下限は特に限定されないが、例えば組成物重量の0.3重量%以上である。例えば組成物がカレーソースである場合には合計塩量は1.1重量%以下が好ましく、より好ましくは0.5〜1.1重量%である。また、例えば組成物がシチューソースである場合には合計塩量は0.75重量%以下が好ましく、より好ましくは0.3〜0.75重量%である。また、例えば組成物がスープである場合には合計塩量は1.0重量%以下が好ましく、より好ましくは0.4〜1.0重量%である。また、例えば組成物がスナックである場合には合計塩量は1.3重量%以下が好ましく、より好ましくは0.6〜1.3重量%である。なお、合計塩量の一部又は全部は添加された塩化カリウムによるものである。
【0089】
組成物は食用塩の形態であることもできる。「食用塩」とは粉末状の調味料を指す。食用塩は、好ましくは、塩化カリウムを30〜98重量%の割合で含有し、残部にはグルタミン酸及びアスパラギン酸のうち少なくとも1種が含まれ、更に塩化ナトリウムやその他の粉末状の調味料が含まれることができる。
【0090】
2.4.苦味の抑制方法
本発明は、塩化カリウムが添加される組成物に対して、グルタミン酸及びアスパラギン酸のうち少なくとも1種を添加することによりカリウム由来の異味を抑制する、前記組成物の異味抑制方法を提供する。
【0091】
ここで「塩化カリウムが添加される組成物」とは、グルタミン酸及びアスパラギン酸のうち少なくとも1種が添加されるよりも前、後、又は同時に塩化カリウムが添加される組成物を指す。グルタミン酸及びアスパラギン酸のうち少なくとも1種、塩化カリウム、並びに組成物の種類、添加量、配合等は上記の通りである。
【実施例】
【0092】
以下の実験において、L−グルタミン酸、グルタミン酸Na及びアスパラギン酸Naは味の素社から入手したものを、L−アスパラギン酸は米国ajinomoto社から入手したものを使用した。また、D−グルタミン酸及びD−アスパラギン酸は広島和光社から入手したものを使用した。また、食塩は日本海水社から入手した「精製塩」を、塩化カリウムは富田製薬社から入手した「塩化カリウム(顆粒)」を使用した。
【0093】
実験1
(試料)
水500g中に市販の合わせ出汁の素(天然だしの素パック かね七株式会社)1パック(8g)を加え、沸騰まで加熱し、沸騰したら中火で5分間煮出して、合わせ出汁を作成した。
【0094】
合わせ出汁に、0.55重量%となる量の食塩(NaCl)と、該食塩とモル等量となる量(0.70重量%)の塩化カリウム(KCl)を添加した。すなわち、この試料における食塩相当量は1.1重量%である。この試料をベース(試料A)とした。
【0095】
そのベースにおいて塩化カリウムに対してグルタミン酸を7重量%(試料B)、35重量%(試料C)、グルタミン酸Naを7重量%(試料D)、35重量%(試料E)となる量含有する試料をそれぞれ作成し、パネル6名で評価した。
【0096】
評価する際には、同様の合わせ出汁に、1.1重量%となる量の食塩(NaCl)を添加した試料(食塩100%試料)も作成し、試料A〜試料Eについて「食塩100%試料に近いか」「異味」「旨味」「酸味」について、VASを用いて評価し、結果については二元配置分散分析で解析を行った。
【0097】
(結果)
【表1】
【0098】
(考察)
異味について、グルタミン酸Naを添加した試料D, EはコントロールA(異味有り)と有意差がなかった。一方で、グルタミン酸を添加した試料B, Cは、コントロールAの異味を有意に低減したことが確認された。
【0099】
このことから、グルタミン酸Naが塩化カリウムの異味を低減する効果を有していないのに対して、グルタミン酸は異味低減効果を有していると結論付けられる。
【0100】
酸味は、グルタミン酸を添加した試料B, Cが有意差有りで強いことが確認された。
【0101】
「食塩100%試料に近いか」の質問では、食塩100%試料の味に最も近いと評価されたのは、グルタミン酸を塩化カリウムに対して7重量%添加した試料Bであった。グルタミン酸を塩化カリウムに対して35重量%添加した試料Cは、有意差有りで近くないと評価された。このことから、グルタミン酸の添加量としては、塩化カリウムに対して7重量%のほうが35重量%よりも好ましいと結論付けられる。
【0102】
実験2
実験1と同様に調製した合わせ出汁に、0.55重量%となる量の食塩(NaCl)、該食塩とモル等量となる量(0.70重量%)の塩化カリウム(KCl)、及びグルタミン酸等の他の成分を表2に示す量添加した試料(実施例1〜17と比較例1〜9)を作成し、官能評価を行った。表2に示す配合量の単位はいずれも重量%である。なお、実施例1は実験1の試料Bと、比較例1は実験1の試料Aと、比較例2は実験1の試料Cと、比較例4は実験1の試料Dと、比較例5は実験1の試料Eと、それぞれ同一の配合である。
【0103】
官能評価は、塩化カリウムの異味が消えているかどうか、不自然な酸味が付与されていなかどうかについて、パネル4名で評価した。
【0104】
結果は以下の通り。
【表2-1】
【0105】
【表2-2】
【0106】
実験3:カレー
表3に示す配合に従いカレールウを作成した。
【0107】
フライパンで油を熱してから小麦粉を入れて炒めた。キツネ色(130℃達温)になったら、フライパンを火から下ろしてその余熱でカレーパウダーを加えて炒めた。こうしてカレールウを得た。
【0108】
次いで表4に示す配合に従いカレー1〜3を作成した。まず、肉と野菜を適当な大きさに切り、玉葱、肉、イモ、人参の順に油で炒めた。炒めた後、水を入れて煮込んだ。
【0109】
カレールウを煮込みでのばし、各材料と一緒に弱火で煮込んで食塩と砂糖で調味した。
【表3】

【表4】
【0110】
炊き上げ後のカレー1〜3の評価結果は以下の通りであった。
【0111】
カレー1(NaClのみ):旨味, 酸味が欲しい味のバランスだが、風味として問題無し。
【0112】
カレー2(NaCl:KCl=1:1(モル比)):旨味などの味がまとめて抜け落ちており、中盤以降ぐらいから舌の裏の両脇あたりに異味を感じ、後まで引きずる。
【0113】
カレー3(NaCl:KCl=1:1(モル比),グルタミン酸とアルパラギン酸がKClに対してそれぞれ3.5重量%):味の抜け落ちはあるが、異味は消えている。
【0114】
122℃25分間のレトルト加熱殺菌処理後のカレー1〜3の評価結果は以下の通りであった。
【0115】
カレー1(NaClのみ):炊き上げ前と同様の傾向で足したい味はあるが、風味として問題無し。
【0116】
カレー2(NaCl:KCl=1:1(モル比)):旨味などの味がまとめて抜け落ちており、中盤以降から舌の裏の両脇あたりに異味を感じ、後まで引きずる。
【0117】
カレー3(NaCl:KCl=1:1(モル比),グルタミン酸とアルパラギン酸がKClに対してそれぞれ3.5重量%):味の抜け落ちはあるが、異味は消えている。
【0118】
実験4:シチュー
表5に示す配合に従いシチュー用のルウを作成した。フライパンでバターを熱してから小麦粉を入れて炒めた。粉臭さが消えてクッキー臭がしたとき終点とした(品温130℃くらい)。次いで氷水で冷やした。
【0119】
得られたルウを用いて表6に示す配合に従いベシャメルを作成した。まず、バターの溶解温度以上、小麦粉の糊化温度以下になるようにルウと牛乳を合わせて混ぜた。粉臭さが消え、ソースに照りが出たら、パッセして完成させた。収量は1600gであった。
【0120】
次いで、表7に示す配合に従いシチュー1〜3を作成した。鶏肉と野菜を適当な大きさに切り、まず鶏肉をフライパンで炒めた。炒めたフライパンで玉葱、じゃがいも、人参を炒めた。鍋に各具材、ベシャメルを加え、お湯(グルタミン酸, アスパラギン酸はこの中に)で伸ばして、食塩、塩化カリウム、胡椒により調味して完成させた。
【0121】
【表5】

【表6】

【表7】
【0122】
炊き上げ後のシチュー1〜3の評価結果は以下の通りであった。
【0123】
シチュー1(NaClのみ):問題無し。
【0124】
シチュー2(NaCl:KCl=1:1(モル比)):旨味などの味がまとめて抜け落ち、中盤以降ぐらいから舌の裏の両脇あたりに異味を感じる。カレーよりも明らかに強い。
【0125】
シチュー3(NaCl:KCl=1:1(モル比),グルタミン酸とアルパラギン酸がKClに対してそれぞれ3.5重量%): 旨味などの味の抜け落ちはあるが、異味は消えている。
【0126】
122℃25分間のレトルト加熱殺菌処理後のシチュー1〜3の評価結果は以下の通りであった。
【0127】
シチュー1(NaClのみ): レトルト殺菌による褐変の風味が乗っているが問題無し。
【0128】
シチュー2(NaCl:KCl=1:1(モル比)): 旨味などの抜け落ちは同様。炊き上げ前よりも少し異味は減少しているが、数口食べ続けると異味が蓄積されてくる。
【0129】
シチュー3(NaCl:KCl=1:1(モル比),グルタミン酸とアルパラギン酸がKClに対してそれぞれ3.5重量%):旨味などの抜け落ちは同様。食べ続けても異味は出てこない。
【0130】
実験5:ラーメンスープ
表8に示す配合に従い鶏ダシを作成した。まず水中に鶏肉を加え、強火で加熱し、沸騰させて灰汁を取った。灰汁を取った後、青ねぎを加えて弱火で煮込んだ。1.5時間煮込み、味が出たのち、漉し、鶏ダシを得た。収量は2250gであった。
【0131】
得られた鶏ダシと他の材料とを表9に示す配合に従い全て混ぜ合わせてラーメンスープ1〜3を完成させた。
【0132】
【表8】

【表9】
【0133】
ラーメンスープ1〜3の評価結果は以下の通りであった。
【0134】
スープ1(NaClのみ):問題無し。
【0135】
スープ2(NaCl:KCl=1:1(モル比)):旨味などの抜け落ちはシチュー, カレーと同様。鶏ダシの香りも弱まっている。舌の裏の両脇あたりに異味を感じ、後まで引きずる。
【0136】
スープ3(NaCl:KCl=1:1(モル比),グルタミン酸とアルパラギン酸がKClに対してそれぞれ3.5重量%):旨味などの抜け落ちは同様。異味は感じられず、少し塩味が強くなったように感じる。また鶏ダシの風味も強く感じる。
【0137】
実験6:食用塩(フライドポテト)
表10に示す配合に従い各材料を混ぜ合わせ食用塩1〜3を作成した。
【表10】
【0138】
食用塩1〜3を、揚げたフライドポテトに付けて食べた。評価結果は以下の通りであった。
【0139】
食用塩1(NaClのみ):問題無し。
【0140】
食用塩2(NaCl:KCl=1:1(モル比)):食べられないことは無いが、食べ続けると異味が蓄積されてくる。沢山食べられない。
【0141】
食用塩3(NaCl:KCl=1:1(モル比),グルタミン酸とアルパラギン酸がKClに対してそれぞれ3.5重量%):異味が消えている。抵抗無く食べられる。
【0142】
実験7:レトルトカレー
表11に示す配合に従い小麦粉ルウを作成した。
【0143】
60℃で溶かしたラードに小麦粉を加え、130℃達温まで加熱した。達温後に、カレーパウダーを加えて余熱で炒めた。こうして小麦粉ルウを得た。
【0144】
次いで表12に示す配合に従いレトルトカレーを作成した。まず、ボイル牛肉、人参、ジャガイモを除いた表12の原料を計量、混合して得られた混合物を95℃達温まで加熱した。加熱が終わったソースとボイル牛肉、人参、ジャガイモをレトルトパウチに充填し、122℃25分レトルト殺菌をした後、評価を行った。評価結果を表12に示す。
【0145】
なお配合を示す表中の数値は、特に断りのない限り質量(単位:g)を意味する。下記の実験8〜14での表についても同様である。
【0146】
また、表中の「酢酸, 乳酸量/塩化ナトリウム」とは、塩化ナトリウム相当量(1重量部)に対する酢酸及び乳酸の合計量の比率を意味する。
【0147】
【表11】
【0148】
【表12-1】
【0149】
【表12-2】
【0150】
◎…塩味(先味〜後味)全体をバランス良く補うことができている。
○…塩味(先味〜後味)全体を補うことができている。
△…形としては少し足りないが塩味全体を補うことが出来ている 又は、酸味があるが許容範囲。
×…塩味が足りない 又は 酸味が強すぎる。
【0151】
実験8:レトルトシチュー
表13に示す配合に従いレトルトシチューを作成した。まず、ボイル鶏肉、人参、ジャガイモを除いた表13に示す原料を計量、混合して得られた混合物を95℃達温まで加熱した。加熱が終わったソースとボイル鶏肉、人参、ジャガイモをレトルトパウチに充填し、122℃25分レトルト殺菌をした後、評価を行った。評価結果を表13に示す。
【0152】
【表13-1】
【0153】
【表13-2】
【0154】
表13中の評価指標:
◎…塩味(先味〜後味)全体をバランス良く補うことができている。
○…塩味(先味〜後味)全体を補うことができている。
△…形としては少し足りないが塩味全体を補うことが出来ている 又は 酸味があるが許容範囲。
×…塩味が足りない 又は 酸味が強すぎる。
【0155】
実験9:ルウカレー
以下の手順によりルウカレーを調製した。
【0156】
表14に示す原料を混合して第一配合を調製し、それを用いて表15に示す種配合を調製した。表16に示す原料を混合して混合粉体を調製した。表17に示す原料を混合し、115℃達温まで30分間加熱して小麦粉ルウを調製した。
【0157】
表18に示す仕上げ配合に従ってルウを調製した。牛脂豚脂混合油脂、小麦粉ルウを投入して95℃まで達温させた。95℃になった後、カレーパウダー、種配合、混合粉体を投入した。105℃達温で加熱を完了した。加熱された混合物を冷却固化して得られたルウ40gに対して、お湯300gを加え、火にかけて溶解し、沸騰するまで加熱したものを評価した。評価結果を表19に示す。
【0158】
【表14】
【0159】
【表15】
【0160】
【表16】
【0161】
【表17】
【0162】
【表18】
【0163】
【表19】
【0164】
表18、19中の評価指標:
◎…塩味(先味〜後味)全体をバランス良く補うことができている。
○…塩味(先味〜後味)全体を補うことができている。
△…形としては少し足りないが塩味全体を補うことが出来ている 又は、酸味があるが許容範囲。
×…塩味が足りない 又は 酸味が強すぎる。
【0165】
実験10:ルウシチュー
以下の手順によりルウシチューを調製した。
【0166】
表20、21に示す原料を混合して第一配合、第二配合を調製し、それらを用いて表22に示す種配合を調製した。表23に示す原料を計量、混合して混合粉体を調製した。表24に示す原料を115℃達温まで30分間加熱して小麦粉ルウを調製した。
【0167】
表25に示す仕上げ配合に従ってルウを調製した。小麦ルウ、牛脂豚脂混合油脂を投入し、80℃達温まで加熱した。加熱された混合物を冷却固化して得られたルウ48gに対して、お湯300gを加え、火にかけて溶解し、沸騰まで加熱したものを評価した。評価結果を表26に示す。
【0168】
【表20】
【0169】
【表21】
【0170】
【表22】
【0171】
【表23】
【0172】
【表24】
【0173】
【表25】
【0174】
【表26】
【0175】
表25、26中の評価指標:
◎…塩味(先味〜後味)全体をバランス良く補うことができている。
○…塩味(先味〜後味)全体を補うことができている。
△…形としては少し足りないが塩味全体を補うことが出来ている 又は、酸味があるが許容範囲。
×…塩味が足りない 又は、酸味が強すぎる。
【0176】
実験11:粉末スープ
表27に示す全ての原料を混合し粉末スープを調製した。
【0177】
得られた粉末スープ10gを350mlの沸騰したお湯に添加してスープを調製し、評価を行った。評価結果を表28に示す。
【0178】
【表27】
【0179】
【表28】
【0180】
表27,28中の評価指標:
◎…塩味(先味〜後味)全体をバランス良く補うことができている。
○…塩味(先味〜後味)全体を補うことができている。
△…形としては少し足りないが塩味全体を補うことが出来ている 又は、酸味があるが許容範囲。
×…塩味が足りない 又は、酸味が強すぎる。
【0181】
実験12:スナック(フライドポテト)
油を180℃前後に熱し、凍ったままのポテトシューストリングを入れた。約3分間、ポテトがキツネ色になるまで加熱して、表29に示す配合のフライドポテトを調製した。
【0182】
表30に示す原料を袋の中で混ぜ合わせ、分散させてフリカケを調製した。
【0183】
表31に示す配合に従ってフライドポテトとフリカケを袋の中に入れ振り混ぜて。着味されたフライドポテトを調製し、評価を行った。評価結果を表32に示す。
【0184】
【表29】
【0185】
【表30】
【0186】
【表31】
【0187】
【表32】
【0188】
表31,32中の評価指標:
◎…塩味(先味〜後味)全体をバランス良く補うことができている。
○…塩味(先味〜後味)全体を補うことができている。
△…形としては少し足りないが塩味全体を補うことが出来ている 又は、酸味があるが許容範囲。
×…塩味が足りない 又は、酸味が強すぎる。
【0189】
実験13:調味塩
表33に示す全ての原料を混合し調味塩を調製し、評価を行った。評価結果を表34に示す。
【0190】
【表33】
【0191】
【表34】
【0192】
表33,34中の評価指標:
◎…塩味(先味〜後味)全体をバランス良く補うことができている。
○…塩味(先味〜後味)全体を補うことができている。
△…形としては少し足りないが塩味全体を補うことが出来ている 又は、酸味があるが許容範囲。
×…塩味が足りない 又は、酸味が強すぎる。
【0193】
実験14:液体調味料(和風ドレッシング)
表35に示す全ての原料を混合し、混合物を80℃達温まで加熱し、冷却して和風ドレッシングを調製した。和風ドレッシングの評価を行った。評価結果を表36に示す。
【0194】
【表35】
【0195】
【表36】
【0196】
表35,36中の評価指標:
◎…塩味(先味〜後味)全体をバランス良く補うことができている。
○…塩味(先味〜後味)全体を補うことができている。
△…形としては少し足りないが塩味全体を補うことが出来ている 又は、酸味があるが許容範囲。
×…塩味が足りない 又は、酸味が強すぎる。
【0197】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。