(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6143847
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】内燃機関用のピストンを製造する方法
(51)【国際特許分類】
B23P 15/10 20060101AFI20170529BHJP
F02F 3/00 20060101ALI20170529BHJP
F16J 1/09 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
B23P15/10
F02F3/00 301B
F16J1/09
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-510641(P2015-510641)
(86)(22)【出願日】2013年5月3日
(65)【公表番号】特表2015-522430(P2015-522430A)
(43)【公表日】2015年8月6日
(86)【国際出願番号】DE2013000241
(87)【国際公開番号】WO2013167105
(87)【国際公開日】20131114
【審査請求日】2016年4月8日
(31)【優先権主張番号】102012008947.3
(32)【優先日】2012年5月5日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】506292974
【氏名又は名称】マーレ インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】MAHLE International GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ライナー シャープ
【審査官】
永石 哲也
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/019595(WO,A2)
【文献】
特表2011−506831(JP,A)
【文献】
特表2009−523942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23P 15/10
F02F 3/00
F16J 1/09
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関用のピストン(10,110)であって、ピストンベースボディ(11,111)とピストンリングエレメント(12,112)とを備え、ピストンベースボディ(11,111)が、少なくとも1つのピストンスカート(15,115)と、燃焼キャビティ(21,121)の少なくとも1つの底範囲(27,127)とを有しており、ピストンリングエレメント(12,112)が、ピストン頂面(19,119)と、燃焼キャビティ(21,121)の少なくとも1つの壁範囲(28,128)と、環状のトップランド(22,122)と、リング溝を備えた環状のリング部(23,123)の少なくとも一部とを有しており、ピストンベースボディ(11,111)とピストンリングエレメント(12,112)とが、環状の閉じた1つのクーリングチャンネル(24,124)を形成している形式の内燃機関用のピストン(10,110)を製造する方法において、
(a)環状の外側の接合面(29,129,229)と、燃焼キャビティ(24,124)の底範囲(27,127)の方向に拡幅された環状の内側の接合面(31,131,231)と、前記両接合面(29,31;129,131;229,231)の間で環状に延びる下側のクーリングチャンネル部分(24a,124a,224a)とが前加工されている、ピストンベースボディ(11,111)のブランク(11’,111’,211’)を準備するステップと、
(b)環状の外側の接合面(32,132,232)と、環状の内側の接合面(33,133,233)と、前記両接合面(32,33;132,133;232,233)の間で環状に延びる上側のクーリングチャンネル部分(24b,124b,224b)とが前加工されている、ピストンリングエレメント(12,112)のブランク(12’,112’,212’)を準備するステップと、
(c)ピストンベースボディ(11,111)のブランク(11’,111’,211’)とピストンリングエレメント(12,112)のブランク(12’,112’,212’)とを、その接合面(29,129,229;31,131,231;32,132,232;33,133,232)を介して接合してピストンブランク(10’,110’)を形成し、このときに燃焼キャビティ(24,124)の少なくとも底範囲(27,127)で、ピストンベースボディ(11,111)のブランク(11’,111’,211’)の拡幅された接合面(31,131,231)の部分範囲(34,134,234)が露出したままとなるようにするステップと、
(d)前記拡幅された接合面(31,131,231)の部分範囲(34,134,234)の除去と共に前記ピストンブランク(10’,110’)を後加工し、かつ/または仕上げ加工して、ピストン(10,110)を形成するステップと、
を有することを特徴とする、内燃機関用のピストンを製造する方法。
【請求項2】
前記ステップ(a)もしくは前記ステップ(b)で、ピストンベースボディ(11,111)のブランク(11’,111’,211’)および/またはピストンリングエレメント(12,112)のブランク(12’,112’,212’)を、鍛造法によって製造し、引き続き前加工する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ステップ(c)で、ピストンベースボディ(11,111)のブランク(11’,111’,211’)とピストンリングエレメント(12,112)のブランク(12’,112’,212’)とを、摩擦溶接法によって、少なくとも1つの摩擦溶接シーム(35,36,135,136)を形成しつつ接合する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記ステップ(c)の前に、ピストンベースボディ(111)のブランク(111’,211’)および/またはピストンリングエレメント(112)のブランク(112’,212’)の内側および/または外側の接合面(133,229,231,232,233)に、環状の拡開部(137;237a,237b)を設ける、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの環状の拡開部(137;237a,237b)を、斜面、面取り部または凹部の形に加工成形する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも環状の拡開部(137;237a,237b)を、1.0mm〜1.5mmの軸方向延在長さおよび/または少なくとも0.5mmの半径方向延在長さを持って加工成形する、請求項4記載の方法。
【請求項7】
ピストンベースボディ(11,111)のブランク(11’,111’,211’)とピストンリングエレメント(12,112)のブランク(12’,112’,212’)とを、熱調質鋼または析出硬化性の鋼から製造する、請求項3記載の方法。
【請求項8】
前記ステップ(c)の前に、前記ブランク(11’,111’,211’,12’,112’,212’)を熱調質し、前記ステップ(c)で前記前記ブランク(11’,111’,211’,12’,112’,212’)を、前記少なくとも1つの摩擦溶接シーム(35,36,135,136)の範囲における熱影響ゾーンの形成と共に接合し、前記ステップ(c)の後に、ピストンブランク(10’,110’)を、焼き戻しまたは応力除去焼きなましによって前記熱影響ゾーンを維持しつつ熱処理する、請求項7記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用のピストンであって、ピストンベースボディとピストンリングエレメントとを備え、ピストンベースボディが、少なくとも1つのピストンスカートと、燃焼キャビティの少なくとも1つの底範囲とを有しており、ピストンリングエレメントが、ピストン頂面と、燃焼キャビティの少なくとも1つの壁範囲と、環状のトップランドと、リング溝を備えた環状のリング部の少なくとも一部とを有しており、ピストンベースボディとピストンリングエレメントとが、環状の閉じた1つのクーリングチャンネルを形成している形式のピストンを製造する方法に関する。
【0002】
このような形式のピストンは、たとえば米国特許出願公開第2011/0107997号明細書に基づき公知である。このようなピストンは、特にこのピストンが実用車のために製造される場合、極めて浅くてかつ大きな燃焼キャビティを有している。ピストンベースボディのブランク(素材)とピストンリングエレメントのブランクは、第1には鍛造法により好適に製造され、第2には摩擦溶接法により好適に接合され、この場合、接合シームに沿って摩擦溶接ビードが生じる。しかし、浅くてかつ大きな燃焼キャビティを備えたピストンでは、ピストンベースボディに鍛造法により、いわばほぼ管端部に等しくかつピストンリングエレメントの接合面と対応する接合面を形成することは困難である。
【0003】
本発明の課題は、冒頭で述べた形式のピストンのための製造方法を改良して、ピストンベースボディとピストンリングエレメントのあらゆる構造に関してブランクを鍛造法によって製造することを可能にし、かつそれと同時にブランクを接合するために摩擦溶接法の使用を可能にするような方法を提供することである。
【0004】
この課題の解決手段は、以下のステップ、すなわち
(a)環状の外側の接合面と、燃焼キャビティの底範囲の方向に拡幅された環状の内側の接合面と、前記両接合面の間で環状に延びる下側のクーリングチャンネル部分とが前加工されている、ピストンベースボディのブランクを準備するステップと、(b)環状の外側の接合面と、環状の内側の接合面と、前記両接合面の間で環状に延びる上側のクーリングチャンネル部分とが前加工されている、ピストンリングエレメントのブランクを準備するステップと、(c)ピストンベースボディのブランクとピストンリングエレメントのブランクとを、その接合面を介して接合してピストンブランクを形成し、このときに燃焼キャビティの少なくとも底範囲で、ピストンベースボディのブランクの拡幅された接合面の部分範囲が露出したままとなるようにするステップと、(d)前記拡幅された接合面の部分範囲の除去と共に前記ピストンブランクを後加工し、かつ/または仕上げ加工して、ピストンを形成するステップと、を有することを特徴とする方法にある。
【0005】
本発明における思想は、ピストンベースボディのブランクの内側の接合面を燃焼キャビティの方向に拡幅することにある。したがって、この接合面は、ピストンリングエレメントのブランクの対応する内側の接合面よりも大きく寸法設定されている。このピストンベースボディのブランクの内側の接合面は、もはや従来のように、管端部に等しいのではなく、いわば、ほぼリングプレートとして形成されており、ひいては公知先行技術においてこれまでそうであったほど精密には形成されていない。ピストンベースボディのブランクの環状の内側の接合面のこのような構造的に単純な構成により、ブランクを鍛造法によって製造することが可能となる。それと同時に、本発明による方法により、ブランクを摩擦溶接法によって接合することが可能となる。なぜならば、このときに燃焼キャビティの範囲に生じる摩擦溶接ビードが、露出したままとなった前記接合面の上方に拡がって、後加工時もしくは仕上げ加工時に簡単に除去され得るからである。さらに、本発明による方法では、必要に応じて、すなわち合目的的であるか、または所望される場合には、燃焼キャビティをあとから、より深く加工成形することが可能となる。したがって、ピストンベースボディのために同じブランクを用いて、種々異なる深さに形成された燃焼キャビティを備えたピストンを製造することができる。このことは、ピストンブランクの製造を合理化し、ひいては製造コストを低下させることを可能にする。
【0006】
本発明の有利な改良形は、従属項形式の請求項2以下から明らかとなる。
【0007】
ステップ(a)もしくはステップ(b)で、ピストンベースボディのブランクおよび/またはピストンリングエレメントのブランクを、鍛造法によって製造し、引き続き前加工することが好ましい。さらに、ステップ(c)で、ピストンベースボディのブランクとピストンリングエレメントのブランクとを、摩擦溶接法によって、少なくとも1つの摩擦溶接シームを形成しつつ接合することが好ましい。このような製造方法は特に良く知られていて、かつ久しく以前より好都合であることが判っている。
【0008】
特に有利な改良形では、ステップ(c)の摩擦溶接法による接合の前に、ピストンベースボディのブランクの内側および外側の接合面および/またはピストンリングエレメントのブランクの内側および/または外側の接合面に、環状の拡開部が設けられる。したがって、前記接合面は、これらの接合面の所定の範囲が摩擦溶接の間、過剰材料を収容し得るように形成される。したがって、典型的な巻き込まれた摩擦溶接ビードは発生し得ない。
【0009】
前記拡開部は、任意に加工成形されていてよく、たとえば斜面、面取り部または凹部の形に加工成形されている。前記拡開部は、たとえば1.0mm〜1.5mmの軸方向延在長さおよび/または少なくとも0.5mmの半径方向延在長さを持って加工成形されていてよい。
【0010】
ピストンベースボディのブランクおよびピストンリングエレメントのブランクは、熱調質鋼または析出硬化性の鋼から製造されることが有利である。この場合には、ブランクがステップ(c)の前に熱調質され、ステップ(c)で前記少なくとも1つの摩擦溶接シームの範囲における熱影響ゾーンの形成と共に接合され、かつステップ(c)の後に、得られたピストンブランクが、焼き戻しまたは応力除去焼きなましによって前記熱影響ゾーンを維持しつつ熱処理されると、特に有利である。この方法では、自体公知の形式で、摩擦溶接シームの近傍の周辺部でブランクの材料の硬度増大が行われる。硬度は、この範囲では最大400HV(ビッカース)だけ増大する。この硬度増大された範囲は、「熱影響ゾーン」と呼ばれる。熱影響ゾーンは、熱影響ゾーン外のピストンブランクの熱調質された材料よりも硬く形成されている。摩擦溶接による接合後の熱調質は、もはや必要ではない。その代わりに、摩擦溶接から得られたピストンブランクは、場合によっては存在する応力を減少させるために、焼戻しまたは応力除去焼きなましにのみ施される。このときに、熱影響ゾーンにおける硬度は少しだけ低下するが、しかし最大200HV(ビッカース)の硬度を有する硬度増大部は残っている。熱影響ゾーン外のピストンブランクの熱調質された材料の硬度も、焼戻しもしくは応力除去焼きなましによって同じく少しだけ低下するので、熱影響ゾーンは、実質的に維持される。すなわち、完成したピストンにおける熱影響ゾーンは、ピストンの残りの材料よりも大きなビッカース硬度を有する、摩擦溶接シーム周辺の範囲である。
【0011】
熱影響ゾーンは、ピストンの、増幅された摩耗を受ける部分範囲もしくは部分構造体の保護のために使用され得る。この目的のために、摩擦溶接シームもしくはピストン構成部分のブランクの、摩擦溶接によって結合したい接合面は、製造したいピストンの、増幅された摩耗を受ける部分範囲もしくは部分構造体、ひいては硬化させたい部分範囲もしくは部分構造体が、摩擦溶接後に熱影響ゾーンに位置するように位置決めされる。これによって、これらの部分範囲もしくは部分構造体を、窒化またはレーザビーム処理のような別個の硬化法に施すことは、もはや必要とならない。
【0012】
以下に、本発明の実施形態を図面につき詳しく説明する。実施形態は、縮尺通りではなく概略的に図示されている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】公知先行技術による、冒頭で述べた形式のピストンを製造するためのブランクの1実施形態を示す断面図である。
【
図2】本発明による方法によりピストンを製造するためのブランクの第1実施形態を示す断面図であって、図面の右半部は、左半部に対して90°回転させられた状態で図示されている断面図である。
【
図3】
図2に示したブランクから成る、摩擦溶接法によって接合されたピストンブランクの第1実施形態を示す断面図であって、図面の右半部は、左半部に対して90°回転させられた状態で図示されている断面図である。
【
図4】
図3に示したピストンブランクから成る、仕上げ加工されたピストンの第1実施形態を示す断面図であって、図面の右半部は、左半部に対して90°回転させられた状態で図示されている断面図である。
【
図5】本発明による方法によりピストンを製造するためのブランクの第2実施形態を示す断面図であって、図面の右半部は、左半部に対して90°回転させられた状態で図示されている断面図である。
【
図6】
図5に示したブランクから成る、摩擦溶接法によって接合されたピストンブランクの第2実施形態を示す断面図であって、図面の右半部は、左半部に対して90°回転させられた状態で図示されている断面図である。
【
図7】
図6に示したピストンブランクから成る、仕上げ加工されたピストンの第2実施形態を示す断面図であって、図面の右半部は、左半部に対して90°回転させられた状態で図示されている断面図である。
【
図8】本発明による方法によりピストンを製造するためのブランクの第3実施形態を示す拡大された部分断面図である。
【0014】
図4および
図7には、本発明による方法により、摩擦溶接法によって製造された、完成したピストン10,110が図示されている。ピストン10,110はピストンベースボディ11,111とピストンリングエレメント12,112とから成っている。両構成部分は、摩擦溶接のために適しているあらゆる金属材料から成っていてよく、摩擦溶接シーム35,36,135,136を介して互いに結合されている。
【0015】
図示の実施形態では、ピストンベースボディ11,111が、鋼材料、たとえば42CrMo4から成っている。ベースボディ11,111はピストンスカート15,115を有しており、このピストンスカート15,115は自体公知の形式で、ピストンボス16,116と、ピストンピン(図示しない)を収容するためのボス孔17,117と、摺動面18,118とを備えている。ピストンリングエレメント12,112は本実施形態では、同じく鋼材料、たとえば38MnVS6から製造されている。ピストンリングエレメント12,112は、燃焼キャビティ21,121を備えたピストン頂面19,119と、環状のトップランド22,122と、ピストンリング(図示しない)を収容するための環状のリング部23,123とを有している。ピストンベースボディ11,111とピストンリングエレメント12,112とは、一緒になって1つの閉じられた環状のクーリングチャンネル24,124を形成している。
【0016】
図4に示したピストン10は、以下に説明する本発明による方法によって製造される。
【0017】
図2に示したように、まず、ピストンベースボディ11の前加工されたブランク11’ならびにピストンリングエレメント12の前加工されたブランク12’が準備される。両ブランク11’,12’は、本実施形態では鍛造法によって製造されている。引き続き、ブランク11’,12’は前加工されている。この場合、ピストンベースボディ11のブランク11’には、本実施形態では燃焼キャビティ21の底範囲27が、たとえば旋削加工により加工成形されている。さらに、クーリングチャンネル24の環状の下側のクーリングチャンネル部分24aが前加工されている。その結果、環状の外側の接合面29と、環状の内側の接合面31とが得られる。本発明によれば、
図1に示した公知先行技術によるピストンブランクとの比較から特に明らかであるように、内側の接合面31が底範囲27の方向に拡幅されている。
【0018】
ピストンリングエレメント12のブランク12’には、本実施形態では燃焼キャビティ21の壁範囲28が、たとえば旋削加工により加工成形されている。さらに、クーリングチャンネル24の環状の上側のクーリングチャンネル部分24bが加工成形されている。その結果、環状の外側の接合面32と、環状の内側の接合面33とが得られる。ピストンベースボディ11のブランク11’の外側の接合面29は、ピストンリングエレメント12のブランク12’の外側の接合面32と対応している。相応して、ピストンベースボディ11のブランク11’の拡幅された内側の接合面31は、ピストンリングエレメント12のブランク12’の内側の接合面33と対応している。このことは、両ブランク11’,12’が、その接合面29,31もしくは接合面32,33に沿って互いに結合されて、1つのピストンブランク10’を形成し得ることを意味する。
【0019】
図2から良く判るように、特に
図1に示した公知先行技術によるピストンブランクと比べて、ピストンベースボディ11のブランク11’の拡幅された内側の接合面31と、ピストンリングエレメント12のブランク12’の内側の接合面33とは、本発明によれば、ピストンベースボディ11の内側の接合面31の、燃焼キャビティ21の底範囲27に向けられた部分範囲34が露出したままとなるように互いに対応している。
【0020】
両ブランク11’,12’を結合するためには、両ブランク11’,12’が、自体公知の形式で互いに整合するように緊締されて、摩擦溶接法によって接合される。摩擦溶接法の1実施形態では、両ブランク11’,12’のいずれか一方のブランクが回転させられ、この場合、このブランクは、1500r.p.m.〜2500r.p.m.の回転数が達成されるまで回転させられる。次いで、両ブランク11’,12’はその接合面29,31もしくは接合面32,33を介して互いに接触させられて、接合面29,31もしくは接合面32,33に関して、10N/mm
2〜30N/mm
2の押付け圧下に押し合わされる。この回転運動と押付け圧とにより、接合面29,31もしくは接合面32,33を加熱する摩擦が発生させられる。回転数および押付け圧は、使用される材料に関連して、接合面29,31もしくは接合面32,33が、前記1種もしくは数種の材料の融点近傍の温度にまで加熱されるように設定される。このことが達成されると(前記1種もしくは数種の材料に応じて1〜3秒間)、押付け圧は維持されたまま回転が終了される。すなわち、緊締装置は、できるだけ迅速に(できるだけ1秒よりも短い時間内に)制動されて、停止される。この過程の間、押付け圧は維持される。停止後に、押付け圧は、接合面29,31もしくは接合面32,33に関して、100N/mm
2〜140N/mm
2の接合圧にまで高められ、両ブランク11’,12’は約5秒間、この接合圧で押し合わされる。
【0021】
図3には、こうして製作されたピストンブランク10’が図示されている。ピストンブランク10’は、上で説明した摩擦溶接過程の結果として、摩擦溶接シーム35,36を有している。
【0022】
ピストンブランク10’は自体公知の形式で、ブランク11’,12’の構成に関連して、後加工もしくは仕上げ加工される。たとえば、外側形状、表面、燃焼キャビティ、リング部、ボス孔等が仕上げ加工され得る。本発明によれば、ピストンベースボディ11のブランク11’の内側の接合面31の露出している部分範囲34が、好ましくは旋削除去により除去される。この方法ステップの途中で、燃焼キャビティ21の底範囲27と壁範囲28とが仕上げ加工される。この場合、燃焼キャビティ21の深さは、接合面31の部分範囲34の除去の過程で自由に選択され得る。したがって、ピストンベースボディ11のための同一構造のブランク11’を用いて、種々異なる深さの燃焼キャビティ21を備えたピストン10が製造され得る。その結果、
図4に示した、上で説明した完成したピストン10が得られる。
【0023】
ブランク11’,12’は、熱調質鋼または析出硬化性の鋼から製造されて、接合の前に熱調質され得る。摩擦溶接による接合時では、形成された摩擦溶接シーム35,36の周囲にそれぞれ1つの熱影響ゾーンが形成される。熱影響ゾーンは、摩擦溶接シーム35,36の上方および下方で、それぞれ約1〜3mmにわたって延びている。熱影響ゾーンの範囲では、材料の硬度が、熱影響ゾーン外のブランク11’,12’の熱調質された材料に比べて約400HV(ビッカース)だけ高められている。その場合、得られたピストンブランク10’は摩擦溶接後に熱処理、すなわち焼戻しまたは応力除去焼きなましに施される。この熱処理により、材料の硬度は熱影響ゾーン内においても、熱影響ゾーン外においても、約200HV(ビッカース)だけ減少させられる。したがって、ブランク11’,12’の、高硬度の熱影響ゾーンと残りの材料部分との間の硬度差は、永続的に維持される。
【0024】
図5には、本発明によるピストン110のためのピストンベースボディ111のブランク111’ならびにピストンリングエレメント112のブランク112’の別の実施形態が示されている。両ブランク111’,112’は本実施形態では鍛造法によって製造されている。引き続き、両ブランク111’,112’は前加工されている。この場合、ピストンベースボディ111のブランク11’には、本実施形態では、燃焼キャビティ121の底範囲127が、たとえば旋削加工により加工成形されている。さらに、クーリングチャンネル124の下側の環状のクーリングチャンネル部分124aが前加工されている。その結果、環状の外側の接合面129と、環状の内側の接合面131とが得られる。本発明によれば、
図1に示した公知先行技術によるピストンブランクとの比較から特に明らかであるように、内側の接合面131が底範囲127の方向に拡幅されている。
【0025】
ピストンリングエレメント112のブランク112’には、本実施形態では燃焼キャビティ121の壁範囲128が、たとえば旋削加工により加工成形されている。さらに、クーリングチャンネル124の環状の上側のクーリングチャンネル部分124bが加工成形されている。その結果、環状の外側の接合面132と、環状の内側の接合面133とが得られる。ピストンベースボディ111のブランク111’の外側の接合面129は、ピストンリングエレメント112のブランク112’の外側の接合面132と対応している。相応して、ピストンベースボディ111のブランク111’の拡幅された内側の接合面131は、ピストンリングエレメント112のブランク112’の内側の接合面133と対応している。このことは、両ブランク111’,112’が、その接合面129,131もしくは接合面132,133に沿って互いに結合されて、1つのピストンブランク110’を形成し得ることを意味する。
【0026】
図5から良く判るように、特に
図1に示した公知先行技術によるピストンブランクと比べて、ピストンベースボディ111のブランク111’の拡幅された内側の接合面131と、ピストンリングエレメント112のブランク112’の内側の接合面133とは、本発明によれば、ピストンベースボディ111のブランク111’の内側の接合面131の、燃焼キャビティ121の底範囲127に向けられた部分範囲134が露出したままとなるように互いに対応している。
【0027】
この実施形態では、ピストンリングエレメント112のブランク112’の内側の接合面133に、それぞれ1つの斜面の形の環状の拡開部137が加工成形されている。この拡開部137は燃焼キャビティ121の底範囲127の方向に開いている。拡開部137の最大の軸方向延在長さは、本実施形態では、それぞれ約1mmである。ブランク111’,112’の接合面129,131もしくは接合面132,133が、上で説明した摩擦溶接過程の開始時に互いに接触すると、拡開部137は本実施形態では、約1mmの最大軸方向延在長さを有する直角三角形の形の自由空間を形成し、この自由空間内に、溶融された材料が分配される。この場合、過剰材料は、上で説明した接合部内に収容される。当然ながら、互いに異なるジオメトリ(幾何学的形状)を有する拡開部を互いに組み合わせることもできる。
【0028】
両ブランク111’,112’は上で説明した摩擦溶接法によって接合される。
図6には、こうして製作されたピストンブランク110’が図示されている。ピストンブランク110’は、上で説明した摩擦溶接過程の結果として、摩擦溶接シーム135,136を有している。
図6からさらに判るように、摩擦溶接シーム135,136に沿って、
図3に図示されているような摩擦溶接ビードは形成されていない。上で説明した摩擦溶接過程において発生された、溶融された過剰材料は、摩擦溶接過程の間、拡開部137により形成された自由空間によって収容されている。
【0029】
ピストンブランク110’は自体公知の形式で、両ブランク111’,112’の構成に関連して、後加工もしくは仕上げ加工される。たとえば、外側形状、表面、燃焼キャビティ、リング部、ボス孔等が仕上げ加工され得る。本発明によれば、ピストンベースボディ111のブランク111’の接合面131の露出している部分範囲134は、好ましくは旋削除去により除去される。この方法ステップの途中で、燃焼キャビティ121の底範囲127と壁範囲128とが仕上げ加工される。この場合、燃焼キャビティ121の深さは、ピストンベースボディ111のブランク111’の接合面131の部分範囲134の除去の過程で自由に選択され得る。したがって、ピストンベースボディ111のための同一構造のブランク111’を用いて、種々異なる深さの燃焼キャビティ121を備えたピストン110が製造され得る。その結果、
図7に示した、上で説明した完成したピストン110が得られる。
【0030】
図8には、両ブランク211,212のさらに別の実施形態が拡大部分図で図示されている。両ブランク211,212からは、本発明による方法により、ピストンが製造される。この実施形態では、ピストンベースボディ211のブランク211’の両接合面229,231と、ピストンリングエレメント212のブランク212’の両接合面232,233とに、それぞれ面取り部の形の環状の拡開部237a,237bが加工成形されている。ピストンベースボディ211のブランク211’の両接合面229,231に設けられた拡開部237aは、ピストンベースボディ211のブランク211’のクーリングチャンネル部分224aの方向に延びている。相応して、ピストンリングエレメント212のブランク212’の両接合面232,233に設けられた拡開部237bは、ピストンリングエレメント212のブランク212’のクーリングチャンネル部分224bの方向に延びている。拡開部237a,237bの最大の軸方向延在長さは、本実施形態ではそれぞれ約1.0mmであり、拡開部237a,237bの半径方向延在長さは、それぞれ約0.5mmである。両ブランク211’,212’の接合面229,231;232,233が、上で説明した摩擦溶接過程の開始時に互いに接触すると、拡開部237a,237bは本実施形態では、約2mmの最大の軸方向延在長さを有する、互いに向かい合って位置する2つの接合部を形成し、これらの接合部は過剰材料を収容することができる。当然ながら、種々異なるジオメトリを有する拡開部を互いに組み合わせることもできる。