【実施例】
【0025】
以下では、ZrサイトをNbで置換すると共に、LaサイトをSrで置換した本発明のガーネット型イオン伝導性酸化物を具体的に合成した例を、実験例として説明する。なお、Srの置換をせずNbのみ置換を行った例を参考例として説明する(表1参照)。
【0026】
[ガーネット型酸化物の作製]
ガーネット型酸化物Li
X(La
3-YSr
Y)(Zr
2-ZNb
Z)O
12(6.85≦X≦7.5,0≦Y≦1,0≦Z≦1,Y=Z)を合成した。このガーネット型酸化物は、Li
2CO
3、La(OH)
3、SrCO
3、ZrO
2およびNb
2O
5を出発原料に用いて合成を行った。ここで、実験例1〜7は、それぞれX=7.0,Y=Z=0,0.125,0.19,0.25,0.5,0.75,1とした(表2参照)。また、実験例8はX=7.5,Y=0.5,Z=0とした(表2参照)。はじめに、出発原料を化学量論比になるように秤量し、エタノール中にて遊星ボールミル(300rpm/ジルコニアボール)で1時間、混合・粉砕を行った。出発原料の混合粉末をボールとエタノールから分離したのち、Al
2O
3製のるつぼ中にて、900℃、10時間、大気雰囲気で仮焼を行った。その後、本焼成でのLiの欠損を補う目的で、仮焼した粉末に、Li
X(La
3-YSr
Y)(Zr
2-ZNb
Z)O
12の組成中のLi量に対してLi換算で10at%になるようにLi
2CO
3を過剰添加した。この混合粉末を、混合のためエタノール中にて遊星ボールミル(300rpm/ジルコニアボール)で1時間処理した。得られた粉末を再び900℃、10時間、大気雰囲気の条件下で再度仮焼した。その後、ペレット状に成形したのち、仮焼粉体をパウダーベッドとして入れたAl
2O
3製のるつぼ中にこの成形体を入れ、1050℃、36時間、大気中の条件下で本焼成を行い、試料(実験例1〜8)を作製した。
【0027】
また、上記基本組成式において、Y=Z=0.125,0.25,0.5,1とし、焼成温度を1100℃とした以外は、実験例1と同じ条件で作製して得られたガーネット型酸化物をそれぞれ実験例9〜12とした。
【0028】
また、上記基本組成式において、Y=Z=0.125,0.75とし、焼成温度を1000℃とした以外は、実験例1と同じ条件で作製して得られたガーネット型酸化物をそれぞれ実験例13,14とした。また、上記基本組成式において、Y=Z=0.5とし、パウダーベッドなしのAl
2O
3製のるつぼ中に成形体を入れ焼成温度を1000℃で焼成した以外は、実験例1と同じ条件で作製して得られたガーネット型酸化物を実験例15とした。
【0029】
また、上記基本組成式において、X=7.2,Y=0.7,Z=0.5とし、焼成温度を1050℃とした以外は、実験例1と同じ条件で作製して得られたガーネット型酸化物を実験例16とした。また、上記基本組成式において、X=6.85,Y=0.3,Z=0.45とし、焼成温度を1050℃とした以外は、実験例1と同じ条件で作製して得られたガーネット型酸化物を実験例17とした。また、上記基本組成式において、X=6.85,Y=0.3,Z=0.45とし、焼成温度を1000℃とした以外は、実験例1と同じ条件で作製して得られたガーネット型酸化物を実験例18とした。
【0030】
また、参考例としてガーネット型酸化物Li
5+nLa
3(Zr
n,Nb
2-n)O
12(n=0〜2)を合成した。参考例1〜7のnの値は、それぞれn=0,1.0,1.5,1.625,1.75,1.875,2.0とした(表1参照)。参考例では、実験例における2回の仮焼を950℃、10時間、大気雰囲気で行い、成型したのち1200℃、36時間、大気雰囲気で本焼成を行った。
【0031】
【表1】
【0032】
[ガーネット酸化物の物性の測定及び結果]
各評価方法及び参考例の測定結果をまず説明する。
1.相対密度
電子天秤にて測定した乾燥重量をノギスを用いて測定した実寸から求めた体積で除算することにより、各試料の測定密度を算出した。また、理論密度を算出し、測定密度を理論密度で除算し100を乗算した値を相対密度(%)とした。参考例1〜7の相対密度は、88〜92%であった。
【0033】
2.相及び格子定数
各試料の相及び格子定数は、XRDの測定結果から求めた。XRDの測定は、XRD測定器(リガク製、RINT−TTR)を用いて、試料粉末をCuKα、2θ:10〜80°,0.02°step/1sec.の条件で測定した。結晶構造解析は、結晶構造解析用プログラム:Rietan−2000(Mater. Sci. Forum, p321−324(2000),198)を用いて解析を行った。格子定数は、CellCalc(日本結晶学会誌,Vol.45,No.2,145−147)を用いて算出した。参考例1〜7を測定したところ、各試料は不純物を含まず単相であった。
図1は、参考例1〜7(4を除く)の格子定数のn値依存性を示すグラフである。
図1に示すように、XRDパターンより求めた格子定数のn値依存性は、Zrの割合が増えるほど格子定数が連続的に増大した。これは、Zr
4+のイオン半径(r
Zr4+=0.79Å)がNb
5+のイオン半径(r
Nb5+=0.69Å)よりも大きいためである。また、格子定数が連続的に変化していることから、NbはZrサイトに置換されていると考えられた(全率固溶が可能と考えられる)。
【0034】
3.伝導度
伝導度は、恒温槽中にてACインピーダンスアナライザー(Agilent4294A)を用い、周波数40Hz〜110MHz、振幅電圧100mVの条件で、ナイキストプロットの円弧より抵抗値を求め、この抵抗値から算出した。
図2は、実験例5のナイキストプロットである。伝導度σ=1/R
Total,R
Total=R
b+R
gbの式から算出した。ACインピーダンスアナライザーで測定する際のブロッキング電極にはAu電極を用いた。Au電極は市販のAuペーストを850℃、30分の条件で焼き付けることで形成した。参考例1〜7の25℃での伝導度のn値依存性を
図3に示す。
図3から、伝導度は、nが1.4≦n<2のとき、公知のLi
7La
3Zr
2O
12(n=2、参考例7)に比べて高くなり、nが1.6≦n≦1.95のとき、参考例7に比べて一段と高くなり、nが1.65≦n≦1.9の範囲のとき、ほぼ極大値(6×10
-4Scm
-1以上)を取ることがわかった。各試料の相対密度は88〜92%であったことから、伝導度がn値に応じて変化するのは、密度による影響ではないと考えられた。
【0035】
ニオブを適量添加することで、伝導度が向上した理由については、以下のように考察された。ガーネット型イオン伝導性酸化物の結晶構造には、
図4に示すように、リチウムイオンが酸素イオンと4配位してなる四面体のLiO
4(I)と、リチウムイオンが酸素イオンと6配位してなる八面体のLiO
6(II)と、ランタンイオンが酸素イオンと8配位してなる十二面体のLaO
8と、ジルコニウムイオンが酸素イオンと6配位してなる八面体のZrO
6とが含まれている。
図5は、ガーネット型酸化物の結晶構造の説明図であり、(a)はこの結晶構造の全体像、(b)は
図5(a)の結晶構造からLiO
8を削除して八面体のLiO
6(II)を露出させた様子を示す。ここで、6配位しているリチウムイオンは、6個の酸素イオンと、3個のランタンイオンと、2個のジルコニウムイオンに囲まれた位置にあり、恐らく、伝導性にはほとんど寄与していないと考えられる。一方、4配位しているリチウムイオンは、酸素イオンを頂点とする四面体を形成している。リートベルド(Rietveld)構造解析よりLiO
4(I)四面体構造の変化を求めた。LiO
4(I)四面体を形成する酸素イオン間距離は二つの長さがある。ここでは長尺の二辺をa、短尺の一辺をbとする。
図4に示すように、長尺の辺aは、Nbの置換量によらずほとんど一定の値を示すのに対し、短尺の辺bは、Nbを適量置換することで長くなった。つまり、酸素イオンが形成する三角形はNbを適量置換することで、正三角形に近付きつつ面積は増大した。このことから、適量のNbをZrと置換すると、伝導するリチウムイオン周りの構造(酸素イオンが形成している四面体)が最適となり、リチウムイオンの移動を容易にする効果があると考えられた。なお、Zrと置換する元素は、Nb以外の元素、たとえばSc,Ti,V,Y,Hf,Taなどであっても、同様の構造変化が見込まれることから、同様の効果が得られるものと推察された。
【0036】
4.活性化エネルギー(Ea)
活性化エネルギー(Ea)はアレニウス(Arrhenius)の式:σ=Aexp(−Ea/kT)(σ:伝導度、A:頻度因子、k:ボルツマン定数、T:絶対温度)を用い、アレニウスプロットの傾きより求めた。その結果、nが1.4≦n<2のとき、Li
7La
3Zr
2O
12(n=2、参考例7)より低い活性化エネルギーEa(0.34eV未満)を示し、広い温度域で伝導度が安定した値をとることがわかった。また、nが1.5≦n≦1.9のときには活性化エネルギーが0.32eV以下となり、特にnが1.75のときに極小値0.3eVとなった。0.3eVという値は既存のLiイオン伝導性酸化物中で最も低い値と同等である(オハラ電解質:0.3eV、LAGP:0.31eV)。
【0037】
5.化学的安定性
ガーネット型酸化物Li
6.75La
3Zr
1.75Nb
0.25O
12(n=1.75、参考例5)の室温大気中での化学的安定性を調べた。具体的には、大気中に放置したLi
6.75La
3Zr
1.75Nb
0.25O
12の伝導度の経時変化(0〜7日)の有無を確認することで行った。その結果、バルクの抵抗成分が大気中に放置していた時間によらず一定であった。このため、ガーネット型酸化物は室温大気中でも安定であった。
【0038】
6.電位窓
ガーネット型酸化物Li
6.75La
3Zr
1.75Nb
0.25O
12(n=1.75、参考例5)の電位窓を調べた。電位窓は、Li
6.75La
3Zr
1.75Nb
0.25O
12のバルクペレットの片面に金を、もう片面にLiメタルを貼り付け、0〜5.5V(対Li
+)および−0.5V〜9.5V(対Li
+)の範囲で電位をスイープ(1mV/sec.)させることで調べた。その測定結果を
図6に示す。電位を0〜5.5Vの範囲で走査しても、電流は全く流れなかった。即ち、Li
6.75La
3Zr
1.75Nb
0.25O
12は0〜5.5Vの範囲で安定であった。走査する電位を−0.5〜9Vに広げると、0Vを境にして、酸化・還元電流が流れた。これはリチウムの酸化・還元に起因すると思われる。また、約7V以上でわずかに酸化電流が流れ始めた。しかし、流れる酸化電流量が非常に微弱であること、目視で色に変化が無いことなどから、流れる酸化電流は電解質の分解ではなく、セラミックス中に含まれている微量の不純物や粒界の分解が原因だと考えられた。このように、参考例では、焼成温度は1200℃と高いものの、化学的安定性が高く、リチウムイオン伝導性も高いことが示された。
【0039】
(実験例の結果と考察)
実験例1〜7のLi
XLa
3-YA
YZr
2-ZB
ZO
12の25℃でのリチウムイオン伝導度を
図7に示す(X=7,Y=Z=0〜1,A=Sr,B=Nb)。また、評価結果をまとめて表2に示す。
図7に示すように、何も添加しない実験例1(Y=Z=0)では、リチウムイオン伝導度σが1×10
-6S/cmと極めて低いのに対し、SrとNbとを添加し1050℃で低温焼成をした実験例2〜7は、高いリチウムイオン伝導率を保つことがわかった。添加量(Y,Z)を増減させるとリチウムイオン伝導度も変化し、0.1≦Y≦1,0.1≦Z≦1の範囲で、実験例1と同等又は同等以上のリチウムイオン伝導度を示した。
【0040】
【表2】
【0041】
図8は、実験例1〜7のSr,Nb添加量(Y,Z)に対する相対密度(%)の関係を示すグラフである。
図9は、実験例1,5,8の焼成温度(℃)に対する相対密度(%)の関係を示すグラフである。SrとNbとを添加した際の相対密度は、添加量(Y,Z)によらず90%前後の値を示し、低温で緻密体ができていることが分かった。何も添加しない実験例1(Y=Z=0)は57%と焼成前のペレットの密度と同程度の値を示し、緻密体にはならなかった。また、SrとNbとを添加したLi
7(La
3-YA
Y)(Zr
2-ZB
Z)O
12(0<Y=Z<1)と同程度のリチウムイオン伝導率を有する参考例1〜7のガーネット型酸化物Li
5+nLa
3(Zr
n,Nb
2-n)O
12(n=0〜2)の大気中での焼結温度と相対密度と比べても、実験例2〜7では、低温で緻密体が焼結可能であった(
図8)。補足実験として、Nbを含まずSrのみを添加した実験例8(Li
7.5(La
2.5Sr
0.5)Zr
2O
12)の組成をもつガーネット型酸化物を1050℃で焼成させたところ、相対密度85%、リチウムイオン伝導度7×10
-6S/cmであった。このことから、Srが低温での焼結を促し、Nbが伝導率を向上させていると予想された。Nbの伝導率向上の効果については、参考例1〜7のガーネット型酸化物Li
5+nLa
3(Zr
n,Nb
2-n)O
12(n=0〜2)に示すように、LiとOの構造が最適になり特性が向上したと考えられ、他の元素でも同様の効果は期待できる。たとえば、イオン半径がNbと同値で、周期表で同族である元素(Taなど)でも同じことが期待できる。Srのみの実験例8(Li
7.5(La
2.5Sr
0.5)Zr
2O
12)は結晶構造が崩れ、Cubic型とTetragonal型との混相になってしまっていることが、
図10に示すX線回折の結果から分かった。
図10は、実験例8のX線回折測定結果及び結晶相の参考データである。なお、Tetragonalの回折ピークは文献(Journal of Solid State Chemistry,182,2046−2052,2009)を参考にシュミレーションした。SrとNbとの両方を添加した実験例5では、X線回折ピークはCubic型を示した(
図11)。このように、Srの添加により、ガーネット型酸化物は、構造的に安定になるものと推察された。
【0042】
図12は、Y=Z=0.5とした実験例5の伝導度の温度依存性(アレニウスプロット)を示すグラフである。
図13は、Liイオン伝導性酸化物の中でも特に高い伝導度を示す、ガラスセラミックスLi
1.4Ti
2Si
0.4P
2.6O
12・AlPO
4(オハラ電解質)、Li
1.5Al
0.5Ge
1.5(PO
4)
3(LAGP)と、電解液の伝導度の温度依存性(いずれも文献値)を併せたアレニウスプロットである。電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比で3:4:3で混合した電解液に支持塩としてのLiPF
6を1.0M溶解した溶液を用いた。実験例5のアレニウスプロットより求めた活性化エネルギーEaは、0.41eV(25℃)であり、既存のLiイオン伝導性酸化物であるオハラ電解質(0.3eVや、LAGP(0.31eV)などに近い値を示した。
【0043】
図14は、実験例1〜7のSr,Nb添加量(Y,Z)に対する格子定数(Å)の関係を示すグラフである。
図14に示すように、格子定数は、添加量(Y,Z)の増加に伴って小さくなった。また、
図15は、格子定数(Å)に対するLiイオン伝導度σ(S/cm)の関係を示すグラフである。
図15に示すように、格子定数に対してLiイオン伝導度をプロットすると、格子定数が、好ましくは12.92〜12.99Åの範囲、より好ましくは12.94〜12.98Åの範囲、更に好ましくは12.95〜12.96Åの範囲であるときに、高いリチウムイオン伝導度を示す傾向があった。ここで、La
3+、Sr
2+、Zr
4+、Nb
5+のイオン半径はそれぞれ1.18、1.21、0.79、0.69Åである。平均のイオン半径は、LaサイトをSrで置換すると小さくなり、ZrサイトをNbで置換すると大きくなる。添加量(Y,Z)におけるイオン半径の変化量をイオン半径差(Å)={1.18×(3−Y)+1.21×Y}/3−1.18+{0.79×(2−Z)+0.69×Z }/2−0.79とする。
図16は、イオン半径差(Å)に対する格子定数(Å)の関係を示すグラフである。
図16に示す通り、イオン半径差に対して格子定数をプロットすると平均イオン半径が小さくなるに従って格子定数も小さくなり、焼成温度によってその傾きに変化がみられた。このイオン半径差を利用してSrやNbの添加量を調整することで、目標とする格子定数をもち高いイオン伝導率の酸化物の組成を決定できる可能性がある。
【0044】
そこで、基本組成Li
XLa
3-YA
YZr
2-ZB
ZO
12(A=Sr,B=Nb)において、YとZとが異なる試料について検討した(実験例16〜18)。Y=Zでの1050℃焼成の格子定数が12.96Åに近く、イオン半径差が−0.02Åの近傍となる組成として実験例16〜18を作成した。実験例16では、Y=0.7,Z=0.5,イオン半径差=−0.018Åであり、実験例17では、Y=0.3,Z=0.45,イオン半径差=−0.0195Åである。実験例16〜18では、表2及び
図15に示すように、Sr添加比率の多いY>Zの実験例16の場合、格子定数が12.96Åに近いにもかかわらず、伝導度が比較的低かった(約1×10
-5S/cm)。これに対して、Sr添加比率の少ないY<Zの実験例17では、高い伝導度(約2×10
-4S/cm)を示した。このように、Y<Zの方がより好ましいことがわかった。
【0045】
また、表2や
図15に示すように、焼成温度は、1100℃,1050℃,あるいは1000℃など、焼成温度をより低下しても、相対密度が80%を超え、伝導度の若干の低下はあるものの、焼結することができることがわかった。また、実験例18(Y=0.3,Z=0.45)では、1000℃焼成において、特に高い伝導度を示すことがわかった。実験例1〜14,16〜18では、パウダーベッドを用いて焼成を行ったが、実験例14の焼成後のパウダーベッドとペレットのX線回折測定結果を
図17に示す。
図17に示すように、パウダーベッドとペレットとは、ほぼ同じ回折ピークを有しており、Li抜けがみられなかった。また、実験例15(Y=Z=0.5)では、パウダーベッドなしで、るつぼにそのままペレットを入れて焼成したが、ペレットは通常通りに焼結した。この実験例15において、るつぼに接触していた側の底面と、大気側の上面についてX線回折測定を行った結果を
図18に示す。
図18に示すように、1000℃でパウダーベッドなしでペレットを焼成しても、単一相に焼結させることができることがわかった。このように、SrやNbの添加量を調整することにより、1000℃以下で焼成することが可能であり、焼成を行う電気炉も安価なものが利用可能になることがわかった。また、パウダーベッドなしでの焼成が可能であるため、仮焼粉体の無駄がなくなり、生産効率の向上をより図ることができる(歩留まりがよくなる)ことがわかった。
【0046】
以上の実験結果より、Li,La,Zrを含むガーネット型イオン伝導性酸化物に、Sr及びNbを添加すると、化学的安定性に優れ、高いリチウムイオン伝導度を示し、且つ焼成エネルギーをより低減することができることが明らかとなった。また、原料の比率において、基本組成Li
X(La
3-YA
Y)
3(Zr
2-ZB
Z)
2O
12で表され、6.85≦X≦7.5,0<Y≦1.0,0<Z≦1.0を満たすことが好ましく、0.2≦Y≦0.85,0.2≦Z≦0.85を満たすことが更に好ましいことがわかった。また、焼成温度は、900℃以上1100℃以下とすることができ、1050℃以下や、1000℃であっても、緻密な構造を有するガーネット型酸化物を作製することができることがわかった。
【0047】
次に、ZrサイトをNbで置換すると共に、LaサイトをCaで置換した本発明のガーネット型イオン伝導性酸化物を具体的に合成した例を、実験例として説明する。
【0048】
[ガーネット型酸化物の作製]
ガーネット型酸化物Li
X(La
3-Y'Ca
Y')(Zr
2-Z'Nb
Z')O
12(6.85≦X≦7.5,0≦Y’≦1,0≦Z’≦1,Y’=Z’)を合成した。このガーネット型酸化物は、Li
2CO
3、La(OH)
3、CaCO
3、ZrO
2およびNb
2O
5を出発原料に用いて合成を行った。ここで、実験例19〜22は、それぞれX=7.0,Y’=Z’=0.125,0.25,0.5,0.75とした(表3参照)。はじめに、出発原料を化学量論比になるように秤量し、エタノール中にて遊星ボールミル(300rpm/ジルコニアボール)で1時間、混合・粉砕を行った。出発原料の混合粉末をボールとエタノールから分離したのち、Al
2O
3製のるつぼ中にて、900℃、10時間、大気雰囲気で仮焼を行った。その後、本焼成でのLiの欠損を補う目的で、仮焼した粉末に、Li
X(La
3-Y'Ca
Y')(Zr
2-Z'Nb
Z')O
12の組成中のLi量に対してLi換算で10at%になるようにLi
2CO
3を過剰添加した。この混合粉末を、混合のためエタノール中にて遊星ボールミル(300rpm/ジルコニアボール)で1時間処理した。得られた粉末を再び900℃、10時間、大気雰囲気の条件下で再度仮焼した。その後、ペレット状に成形したのち、仮焼粉体をパウダーベッドとして入れたAl
2O
3製のるつぼ中にこの成形体を入れ、1050℃、36時間、大気中の条件下で本焼成を行い、試料(実験例19〜22)を作製した。
【0049】
また、焼成温度を1000℃とした以外は、実験例19〜22と同じ条件で作製して得られたガーネット型酸化物をそれぞれ実験例23〜26とした。
【0050】
[ガーネット酸化物の物性の測定及び結果]
得られた実験例19〜26に対して、上述した活性化エネルギー(Ea)、イオン伝導度、相対密度及び格子定数について検討した。測定結果をまとめて表3に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
図19は、1050℃で本焼成した実験例19〜22のCa,Nb添加量(Y,Z)に対する格子定数の関係を示すグラフである。
図19に示すように、格子定数は、添加量(Y’,Z’)の増加に伴って小さくなった。ここで、Ca
2+のイオン半径は1.03Åであることから、上述したSrの場合と同様に、イオン半径差について検討した。
図20は、Ca,Nbを添加した試料におけるイオン半径差に対する格子定数の関係を示すグラフである。基本組成式Li
XLa
3-Y'Ca
Y'Zr
2-Z'Nb
Z'O
12の添加量(Y’,Z’)におけるイオン半径の変化量をイオン半径差(Å)={1.18×(3−Y)+1.03×Y’}/3−1.18+{0.79×(2−Z’)+0.69×Z’ }/2−0.79として求めた。
図20に示す通り、イオン半径差に対して格子定数をプロットすると平均イオン半径が小さくなるに従って格子定数も小さくなった。したがって、Caを用いた場合も、Srと同様に、このイオン半径差を利用してCaやNbの添加量を調整することで、目標とする格子定数をもち高いイオン伝導率の酸化物の組成を決定できる可能性がある。次に、リチウムイオン伝導度と格子定数の関係を検討した。
図21は、1050℃で本焼成した実験例19〜22の格子定数(Å)に対するLiイオン伝導度σ(S/cm)の関係を示すグラフである。
図21に示すように、格子定数に対してLiイオン伝導度をプロットすると、Caを添加した場合においても、Srを添加した場合と同様に、格子定数が、好ましくは12.92〜12.99Åの範囲、より好ましくは12.94〜12.98Åの範囲、更に好ましくは12.95〜12.96Åの範囲であるときに、高いリチウムイオン伝導度を示す傾向があった。特に、Srを添加した実験例のリチウムイオン伝導度の最高値は1.5×10
-4(S/cm)であるのに対し、Caを添加した実験例のリチウムイオン伝導度の最高値は4.3×10
-4(S/cm)であり、2倍以上の値を示した。
【0053】
図22は、実験例20,24のX線回折測定結果及び高温焼成時のLi
XLa
3Zr
2O
12の結晶相(参考データ)である。
図22に示すように、CaとNbとの両方を添加した実験例20,24では、X線回折ピークはCubic型を示した。上述したSrの添加と同様に、Caの添加によりガーネット型酸化物は構造的に安定になるものと推察された。また、
図23は、Sr及びCaの添加効果の比較結果である。
図23に示すように、基本組成式Li
XLa
3-YA
YZr
2-ZB
ZO
12の添加量(Y,Z)、A(Sr,Ca)の比較結果より、Sr及びCaの添加により、得られるガーネット型イオン伝導性酸化物の大まかな傾向は変わらないことがわかった。また、Sr,Ca及びNbの添加によって、より低い焼成温度で高密度化を図り且つリチウムイオン伝導度をより向上させることができることがわかった。