【文献】
R.G. Pearson ,"Hard and Soft Acids and Bases",Journal of the American Chemical Society,米国,1963年,Vol.85, No.22,pp.3533-3539
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
さらに、ルイス酸処理工程で得られるカーボネート、ルイス酸及び不純物を含む反応液中のカーボネートと、ルイス酸及び不純物とを分離する分離工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の精製方法。
環状カーボネートが、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、及びビニレンカーボネートからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項10に記載の精製方法。
カーボネートに不純物として含まれるモノアルコール、グリコール、グリコールの二量体、エーテル、及び水の合計が100ppm以下となるように精製することを特徴とする請求項1〜13のいずれか一項に記載の精製方法。
【背景技術】
【0002】
カーボネート(炭酸エステル)は、例えばキャパシタ、リチウムイオン電池などのエネルギーデバイス用の電解液の溶媒、各種化学反応の溶媒、又は高分子化合物の溶媒等として様々な用途に使用されている。中でも、近年、キャパシタ、リチウムイオン電池などのエネルギーデバイス用の電解液の溶媒としての使用がますます重要となっている。例えば最近、自動車搭載用のキャパシタが発表されているが、このキャパシタにはプロピレンカーボネートのようなカーボネートが安全性の高い溶媒として使用されている。
【0003】
しかしこれらカーボネートには、その製造原料であるモノアルコール(一価アルコール)、グリコール(ジオール)、グリコールの二量体などの多価アルコール、エーテル、さらに水がそれらの製造方法上副生成物として混入することが避けられない。例えば環状カーボネートは、(1)グリコールと鎖状カーボネートとを触媒の存在下で反応させる方法、(2)環状エーテルであるエポキシドと二酸化炭素とを高温高圧条件下で反応させる方法などにより、一般にグリコール又はエポキシドから合成される。このため、例えばエチレンカーボネートであれば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、エチレンオキシド等が、プロピレンカーボネートであれば、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレンオキシド等が、通常不可避不純物として混入する。しかしながら、カーボネートを電解液等として用いる場合、このような不純物は、上記のエネルギーデバイスの性能に大きな影響を与える。
【0004】
上述した製造原料由来の不純物は、カーボネート製造工程で大部分を除去することができるが、例えば1%未満の不純物を除去することは容易ではなかった。また、例えば、不純物の中でもグリコールの二量体などは、主成分であるカーボネートとほぼ同等の沸点を有しており、単蒸留等の簡便な操作では除去が困難であるため、通常その除去には、高い理論段数を持つ蒸留塔などを使用して精密な蒸留をしなければならず、効率も悪いうえ、多くのエネルギーを必要とする。
【0005】
一方で、カーボネートの精製方法について、近年多くの成果報告がなされてきた。例えば特許文献1には、SiO
2、Al
2O
3を主成分とする合成ゼオライトをカーボネートに対して0.1〜30重量%用いて精製を行う方法が提案されている。特許文献2には、モレキュラーシーブ3A、4A、5A、13Aから選ばれる合成ゼオライトをカーボネートに対して1〜20重量%用いて精製を行う方法が提案されている。特許文献3には、モレキュラーシーブ5A、13A等を炭酸エチレンに対して好ましくは5〜20重量%用いて精製を行う方法が提案されている。特許文献4には、50〜40m
2/gの表面積を有するシリカ又はアルミナ固体吸着剤をカーボネートと液相中で接触させることで精製を行う方法が提案されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1〜4記載の方法は、大量の合成ゼオライト等の添加剤を使用するため量産性に乏しく、工業化する際に簡便な精製法とは言い難い。しかも、例えば特許文献1には、グリコールの二量体のような不純物を除去できることについて記載がない。また、特許文献2及び3に記載の方法は、グリコール(ジオール)を除去するための方法であり、グリコールの二量体の除去方法については記載されていない。特許文献4には、カーボネートの製造に使用される触媒由来の不純物、例えば臭化物等を除去するための方法が開示されているが、グリコールやグリコールの二量体を除去する方法は記載されていない。このため、これらの精製方法では、不純物の中のグリコールの二量体の除去が不十分であり、先に述べたエネルギーデバイス用途等で使用するには精製が不十分である。このため、エネルギーデバイス用途等に好適に用いることができる高純度のカーボネートを、工業的に簡便に得ることができる方法の開発が望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記に鑑み、簡便な操作でカーボネートからグリコールの二量体等の不純物を除去することができ、エネルギーデバイス用途等の各種用途に好適に用いられる高純度のカーボネートを得ることができるカーボネートの精製方法等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、グリコールの二量体(ジグリコール)等の不純物を含むカーボネートをルイス酸と接触させると、該カーボネート中のグリコールの二量体等を分解できることを見出した。また、例えばグリコールの二量体が分解して生成するグリコールはカーボネートより沸点が低く、単蒸留等の方法により容易にカーボネートと分離することができることを見出した。分離が困難であったグリコールの二量体等の不純物を含むカーボネートをルイス酸で処理することによって、グリコールの二量体等を低沸点の化合物に分解でき、これにより簡便な操作で高度に除去できるようになることは、予想外の知見であった。
本発明者らは、上記知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち本発明は以下の内容を包含する。
(1)不純物を含むカーボネートから不純物を除去してカーボネートを精製する方法であって、不純物を含むカーボネートとルイス酸とを接触させるルイス酸処理工程を含むことを特徴とするカーボネートの精製方法。
(2)不純物としてグリコールの二量体を含むカーボネートと、ルイス酸とを接触させるルイス酸処理工程を含むことを特徴とする前記(1)に記載のカーボネートの精製方法。
(3)さらに、ルイス酸処理工程で得られるカーボネート、ルイス酸及び不純物を含む反応液中のカーボネートと、ルイス酸及び不純物とを分離する分離工程を含むことを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の精製方法。
(4)分離工程が、ルイス酸処理工程で得られる反応液を単蒸留して、ルイス酸とカーボネート含有留出液とを分離する蒸留工程を含むことを特徴とする前記(3)に記載の精製方法。
(5)分離工程が、蒸留工程で得られるカーボネート含有留出液を単蒸留して、カーボネートと不純物とを分離する第二蒸留工程をさらに含むことを特徴とする前記(4)に記載の精製方法。
(6)不純物が、さらにモノアルコール、グリコール、エーテル、及び水からなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする前記(2)〜(5)のいずれか一項に記載の精製方法。
(7)ルイス酸が、亜鉛ハライド、鉄ハライド、コバルトハライド、及び銅ハライドからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれか一項に記載の精製方法。
(8)ルイス酸が、塩化亜鉛であることを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれか一項に記載の精製方法。
(9)ルイス酸の使用量が、不純物を含むカーボネートに対して、0.3〜10重量%であることを特徴とする前記(1)〜(8)のいずれか一項に記載の精製方法。
(10)ルイス酸の使用量が、不純物を含むカーボネートに対して、0.3〜1重量%であることを特徴とする前記(1)〜(9)のいずれか一項に記載の精製方法。
(11)カーボネートが、環状カーボネートであることを特徴とする前記(1)〜(10)のいずれか一項に記載の精製方法。
(12)環状カーボネートが、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、及びビニレンカーボネートからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする前記(11)に記載の精製方法。
(13)環状カーボネートが、プロピレンカーボネート及び/又はエチレンカーボネートである前記(11)又は(12)に記載の精製方法。
(14)カーボネートが、ジメチルカーボネート、及び/又はエチルメチルカーボネートであることを特徴とする前記(1)〜(10)のいずれか一項に記載の精製方法。
(15)カーボネートに不純物として含まれるモノアルコール、グリコール、グリコールの二量体、エーテル、及び水の合計が100ppm以下となるように精製することを特徴とする前記(1)〜(14)のいずれか一項に記載の精製方法。
(16)不純物を含むカーボネートから不純物を除去して高純度のカーボネートを得る方法であって、不純物を含むカーボネートとルイス酸とを接触させるルイス酸処理工程を含むことを特徴とする高純度カーボネートの製造方法。
(17)不純物を含むカーボネートから不純物を除去する方法であって、不純物を含むカーボネートとルイス酸とを接触させるルイス酸処理工程を含むことを特徴とするカーボネート中の不純物の除去方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡便な操作でカーボネート中の不純物を高度に除去することができる。特に、単蒸留等では除去が困難であったグリコールの二量体等をカーボネートから容易にかつ高度に除去することができ、簡便にかつ効率よく純度の高いカーボネートを得ることができる。また、本発明によれば、分離が困難であったカーボネート中の微量不純物、例えばグリコール、グリコールの二量体等の不純物を高度に除去できる。本発明の方法は、煩雑な精製又は操作を行わずに高純度のカーボネートを得ることができるため、経済的にも有利である。本発明の方法によれば、エネルギーデバイス用途等に必要な品質を満足する不純物が高度に除去された高純度のカーボネートを得ることができる。
【0012】
このような本発明の方法により得られるカーボネートは、不純物量、特にグリコールの二量体等の含有量が極めて少なく、高度に精製されているので、キャパシタ等の各種エネルギー用途等に好適に使用されるものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、発明を詳細に説明する。
本発明のカーボネートの精製方法は、不純物を含むカーボネートから不純物を除去してカーボネートを精製する方法であり、不純物を含むカーボネートとルイス酸とを接触させるルイス酸処理工程を含む。本発明の方法は、ルイス酸処理工程以外の工程を含んでもよい。
【0015】
本発明におけるカーボネートは、環状カーボネートであってもよく、鎖状カーボネートであってもよい。また、カーボネートは、1種のみであってもよく、2種以上の混合物であってもよい。本発明におけるカーボネートとして、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネートなどの環状カーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジブチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、イソプロピルメチルカーボネート、イソブチルメチルカーボネート、sec−ブチルメチルカーボネート、tert−ブチルメチルカーボネートなどの鎖状カーボネートが挙げられる。環状カーボネートは、好ましくは炭素数3〜5程度の環状カーボネートであり、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等が好ましい。鎖状カーボネートは、好ましくは炭素数3〜5程度の鎖状カーボネートであり、例えば、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等が好ましい。中でも、本発明の方法は、環状カーボネートの精製に好適であり、より好ましくはエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等であり、特にプロピレンカーボネートの精製に好適である。
【0016】
カーボネートに含まれる不純物は特に限定されないが、通常カーボネートにはその製造原料に由来する不純物が含まれる。カーボネートの製造原料に由来する不純物として、例えば、モノアルコール、グリコール、エーテル、水等の1種又は2種以上が挙げられる。
モノアルコールとして、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等が挙げられる。グリコールとして、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等が挙げられる。グリコールの二量体として、前記グリコールの二量体、例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジブチレングリコール等が挙げられる。エーテルとして、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等の環状エーテル等が挙げられる。
【0017】
例えば環状カーボネートであれば、通常、不純物としてグリコールの二量体、グリコール、エーテル、及び水の1種又は2種以上が含まれる。例えばエチレンカーボネートであれば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、エチレンオキサイド、水等が、プロピレンカーボネートであれば、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレンオキサイド、水等が、製造原料由来の不純物として通常含まれる。
【0018】
本発明の方法によれば、上記のような不純物をカーボネートから容易にかつ高度に除去することができる。中でも、本発明の精製方法は、グリコールの二量体を不純物に含むカーボネートの精製に特に好適に使用される。本発明の方法の好ましい態様は、不純物としてグリコールの二量体を含むカーボネートと、ルイス酸とを接触させるルイス酸処理工程を含むことである。
【0019】
ルイス酸処理工程においてカーボネートとルイス酸とを接触させると、カーボネート中の不純物の一部又は全部がルイス酸によって分解される。例えばグリコールの二量体は、ルイス酸によってグリコール等に分解される。この分解により生成するグリコール等の不純物の分解物も不純物であるが、このグリコール等の不純物の分解物は通常、精製の対象であるカーボネートより沸点が低く、単蒸留等の方法によりカーボネートと容易に分離できる。このためルイス酸処理工程を行うことにより、単蒸留等では除去が困難であったグリコールの二量体等を、簡便な操作で、効果的に除去することができることになる。
本明細書中、精製の対象であるカーボネートよりも沸点が低い化合物又は成分を、低沸点成分という。
【0020】
本発明の精製方法は、例えば、グリコールの二量体を不純物として含むカーボネートからグリコールの二量体を除去する方法として好適である。より具体的には、本発明の方法は、例えば、エチレンカーボネートからジエチレングリコールを除去する精製方法、プロピレンカーボネートからジプロピレングリコールを除去する精製方法等として好適である。不純物は、上述したカーボネートの製造原料に由来するモノアルコール、グリコール、エーテル、水等の1種又は2種以上をさらに含んでいてもよい。
また、本発明の精製方法は、カーボネート中に不純物として含まれるグリコールを高度に除去する方法としても好適である。
【0021】
本発明の精製方法は、純度が約99%以上のカーボネートを、より高度に精製する方法としても好適に使用される。例えば、精製に用いる不純物を含むカーボネートが99%未満の純度の場合は、公知の方法、例えば簡便な分別蒸留(分溜)等により純度が約99%以上、好ましくは約99.0〜99.8%となるまでまず精製(前処理)した後で、ルイス酸処理工程を行うことが好ましい。カーボネート中の不純物量及びカーボネートの純度は、例えば、実施例に記載したように、ガスクロマトグラフィー(GC)等を用いて測定することができる。
【0022】
不純物を含むカーボネートとルイス酸とを接触させる方法は特に限定されず、例えば、該カーボネートにルイス酸を添加して撹拌する方法、担体等に固定したルイス酸をカーボネート中に添加する方法、担体等に固定したルイス酸を充填したカラムにカーボネートを通液する方法等が挙げられる。好ましくは、カーボネートにルイス酸を添加して撹拌する。
【0023】
不純物を含むカーボネートとルイス酸とを接触させる時間は特に限定されないが、概ね0.1〜24時間程度、更には0.5〜5時間程度が好ましく、1〜3時間程度とすることがより好ましい。上記範囲よりも接触時間を長くしても問題はないが、不経済となる場合がある。ルイス酸処理工程は、大気圧(常圧)下で行えばよい。また、不純物を含むカーボネートとルイス酸とを接触させる際の温度は、カーボネートが凝固、蒸発及び沸騰しない程度の温度であればよく特に限定されず、カーボネートの種類により適宜設定すればよいが、好ましくは0〜100℃程度であり、より好ましくは15〜40℃程度でよい。
【0024】
ルイス酸は特に限定されず、フッ化亜鉛、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛などの亜鉛ハライド、フッ化カドミウム、塩化カドミウム、臭化カドミウム、及びヨウ化カドミウムなどのカドミウムハライドなどの亜鉛族金属ハライド;フッ化第一銅、フッ化第二銅、塩化第一銅、塩化第二銅、臭化第一銅、臭化第二銅、ヨウ化第一銅、ヨウ化第二銅などの銅ハライド;フッ化第一鉄、フッ化第二鉄、塩化第一鉄、塩化第二鉄、臭化第一鉄、臭化第二鉄、ヨウ化第一鉄、ヨウ化第二鉄などの鉄ハライド、フッ化コバルト、塩化コバルト、臭化コバルト、ヨウ化コバルトなどのコバルトハライド、フッ化ニッケル、塩化ニッケル、臭化ニッケル、及びヨウ化ニッケルなどのニッケルハライドなどの鉄族金属ハライド;フッ化マンガン、塩化マンガン、臭化マンガン、ヨウ化マンガンなどのマンガンハライド;フッ化チタン、塩化チタン、臭化チタン、ヨウ化チタンなどのチタンハライド;フッ化パラジウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウムなどのパラジウムハライドなどが挙げられる。これらのルイス酸を1種のみ用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
中でも、本発明におけるルイス酸は、亜鉛族金属ハライド、鉄族金属ハライド、コバルトハライド、銅ハライド、チタンハライド等が好ましく、亜鉛ハライド、鉄ハライド、コバルトハライド、銅ハライド等がより好ましく、亜鉛ハライド等がさらに好ましい。また、より好ましくは、塩化亜鉛、塩化第二鉄等であり、特に好ましくは、塩化亜鉛である。
【0026】
ルイス酸の使用量は、通常、精製に供する不純物を含むカーボネートに対して、約0.3〜10重量%であり、好ましくは約0.3〜5重量%、さらに好ましくは約0.3〜1重量%である。ルイス酸をこのような範囲で使用すると、カーボネート中のグリコールの二量体等を十分に分解することができ、その結果カーボネートに含まれる不純物を十分に除去することができるため好ましい。ルイス酸の使用量は、上記の範囲より多くても問題はないが、不経済となる場合があるため、上記範囲の量で使用することが好ましい。
【0027】
不純物を含むカーボネートとルイス酸とを接触させて得られる反応液、すなわちルイス酸処理工程で得られる反応液は、カーボネートと、カーボネート以外の成分としてルイス酸、及び不純物を通常含むものである。この反応液に含まれる不純物には、通常、ルイス酸で分解されなかった不純物(ルイス酸処理工程に供されたカーボネートに含まれていた不純物のうち、分解されなかったもの)、及びルイス酸で分解された不純物の分解物が含まれる。不純物の分解物は、通常グリコールの二量体が分解されて生成するグリコールである。ルイス酸で分解されなかった不純物は、通常、ルイス酸処理に供されたカーボネートに含まれていたモノアルコール、グリコール、エーテル、水等である。また、ルイス酸で分解されなかったグリコールの二量体が含まれる場合もある。これらのカーボネートに含まれる成分は、いずれも本発明における不純物に含まれる。
【0028】
本発明の精製方法は、ルイス酸処理工程で得られるカーボネート、ルイス酸及び不純物を含む反応液中のカーボネートと、ルイス酸及び不純物とを分離する分離工程を含むことが好ましい。カーボネートと、ルイス酸及び不純物とを分離する方法は特に限定されず、例えば、蒸留、クロマトグラフ法(高速液体クロマトグラフィー、カラムクロマトグラフィー等)、ろ過、遠心分離、溶媒による分配抽出、結晶化等の公知の分離方法を単独で、又は組み合わせて採用することができる。
【0029】
分離工程において、ルイス酸及び不純物をカーボネートから分離する際の順番等は特に限定されない。例えば、クロマトグラフ法等によりカーボネートとルイス酸及び不純物とを一度の操作で分離してもよく、反応液からまずルイス酸を分離した後、次いでカーボネートと不純物とを分離してもよく、まず不純物を反応液から分離した後、次いでカーボネートとルイス酸とを分離してもよい。これらの中でも、反応液からまずルイス酸を分離(除去)した後、次いでルイス酸カーボネートと不純物とを分離する方法が好ましい。
【0030】
反応液からルイス酸を分離する方法は、ルイス酸を反応液中のカーボネートから分離することができればよく、特に限定されない。例えば、ルイス酸は不揮発性であるため、蒸留により容易にカーボネートと分離することができる。また、ルイス酸を反応液から分離する方法として、反応液を冷却して溶解しているルイス酸を析出させてろ過又は遠心分離する方法、カラムクロマトグラフィー等の方法を採用することもできる。また、例えば上述したように担体に固定したルイス酸を用いた場合には、反応液から該担体を取り出すことによってルイス酸を分離することもできる。ルイス酸の分離は、これらの分離手段を複数組み合わせて行ってもよい。
【0031】
好ましくは、ルイス酸の分離は、単蒸留等の蒸留により行うのが良い。ルイス酸を分離するための蒸留は、ルイス酸処理工程を行った後に行ってもよく、ルイス酸処理工程と同時に蒸留を行ってもよい。このルイス酸とカーボネート含有留出液とを分離するための蒸留工程を、第一蒸留工程とする。
【0032】
第一蒸留工程における単蒸留は、カーボネート及び不揮発性成分の分解を防ぐために減圧下で行うのが好ましい。
【0033】
第一蒸留工程において、単蒸留を行う時間、蒸留に供する反応液の量、カーボネートの種類、蒸留の際の圧力及び温度等は通常の蒸留を行う条件の範囲で適宜設定すればよい。通常、反応液を単蒸留して留出する揮発性成分を、通常の方法で冷却して回収し、カーボネート含有留出液とすればよい。
【0034】
第一蒸留工程においてルイス酸処理工程で得られる反応液を単蒸留すると、ルイス酸及びその反応物(例えばルイス酸とジオールのエステル等)などの不揮発性の成分と、カーボネート等の揮発性成分とが分離される。揮発性成分はカーボネート含有留出液として回収されるが、通常、カーボネート及び不純物を含む。不純物は、上述したルイス酸で分解されなかった不純物、及びルイス酸による不純物の分解物であり、さらに、第一蒸留工程の際にカーボネートの一部が分解して生成するグリコールが含まれる場合もある。第一蒸留工程で得られるカーボネート含有留出液をさらに精製してこれらの不純物を除去することにより、高純度のカーボネートを得ることができる。
【0035】
カーボネート含有留出液中のカーボネートと不純物とを分離する方法は特に限定されず、例えば、カラムクロマトグラフィー、蒸留、結晶化等の方法が挙げられる。好ましくは蒸留であり、より好ましくは単蒸留により分離を行う。
カーボネート含有留出液に含まれる上記の不純物は、通常カーボネートより沸点が低い化合物であるため、単蒸留等の蒸留を行うことによって容易にかつ高度にカーボネートから分離される。このカーボネートと不純物とを分離するための蒸留工程を、第二蒸留工程とする。
【0036】
分離工程は、第一蒸留工程で得られるカーボネート含有留出液を単蒸留して、カーボネートと不純物とを分離する蒸留工程を含むことが好ましい。すなわち本発明における分離工程は、ルイス酸処理工程で得られる反応液を単蒸留して、ルイス酸とカーボネート含有留出液とを分離する第一蒸留工程、及び、第一蒸留工程で得られるカーボネート含有留出液を単蒸留して、カーボネートと不純物とを分離する第二蒸留工程を含むことが好ましい。蒸留に使用する装置等は、通常の蒸留に使用されるものを使用でき、特に限定されない。
【0037】
第二蒸留工程における単蒸留は、カーボネートより沸点が低い化合物(低沸点成分)を除去(留去)できればよく、通常の蒸留操作により行うことができる。例えば、使用されている圧力におけるカーボネートの沸点よりも低い温度で留出してくる留出分を低沸点成分として留去すればよい。
【0038】
第二蒸留工程においては、例えば、不純物である低沸点成分の留去が終了した時点で蒸留を終了することができる。この場合には、蒸留により不純物が留去されるため、留去されなかった成分(蒸留残渣)として高純度のカーボネートが得られる。このため、低沸点成分の留去が終了した時点で蒸留を終了することで、目的とする高純度のカーボネートを得ることができる。低沸点成分の留去は、通常、仕込み量(第二蒸留工程に供したカーボネート含有留出液の量)の約5〜10重量%程度を留出させた時点で蒸留を終了すればよい。これ以上留去してもかまわないが、不経済となる場合がある。
【0039】
第二蒸留工程においては、分留により低沸点成分(不純物)とカーボネートとを分離することも好ましい。分留は、通常の方法により行うことができる。留出したカーボネートを、先に留出した低沸点成分とは別に回収すると、目的とする高純度のカーボネートを得ることができる。
【0040】
本発明の方法により得られる精製されたカーボネートは、好ましくは、不純物として含まれるモノアルコール、グリコール、グリコールの二量体、エーテル、及び水の総量が約100ppm以下である。これは精製されたカーボネートの純度が99.99%以上と同義である。本発明によれば、カーボネートに含まれる不純物量をこのように低減させることができる。このため高純度のカーボネートを得ることができる。
【0041】
また、本発明の方法によれば、グリコールの二量体の含有量が例えば約50ppm以下、好ましくは約40ppm以下のカーボネートを得ることができる。このため本発明は、例えば、カーボネートに含まれるグリコールの二量体を効果的に除去するために好適に用いられる。
【0042】
本発明の方法により精製されたカーボネートは、精製前と比較して不純物量、特にグリコールの二量体等の含有量が低減されている。このため、本発明の精製方法により得られるカーボネートは、例えば、精製前のものと比較して電気化学的特性が優れるものである。電気化学的特性は、例えば、実施例に記載したようにサイクリックボルタンメトリー(CV)等により評価することができる。
【0043】
本発明によれば、簡便な操作で、工業的に有利に、不純物が除去された高純度の精製カーボネートを得ることができる。このため本発明の精製方法は、高純度のカーボネートを製造する方法、カーボネートから不純物を除去する方法等としても好適に使用される。本発明の方法により得られるカーボネートは、不純物量、特にグリコールの二量体等の含有量が極めて少なく、純度が高いため、キャパシタ、リチウムイオン電池などの各種エネルギーデバイス用の電解液の溶媒として好適に使用されるものである。
【0044】
不純物を含むカーボネートから不純物を除去して高純度のカーボネートを得る方法であって、不純物を含むカーボネートとルイス酸とを接触させるルイス酸処理工程を含む高純度カーボネートの製造方法も、本発明に包含される。本発明の方法及びその好ましい態様等は、上述した精製方法と同じである。
【0045】
不純物を含むカーボネートから不純物を除去する方法であって、不純物を含むカーボネートとルイス酸とを接触させるルイス酸処理工程を含むカーボネート中の不純物の除去方法も、本発明に包含される。本発明の方法及びその好ましい態様等は、上述した精製方法と同じである。本発明の方法は、特に、単蒸留等では除去が困難であったカーボネート中の微量のグリコールの二量体等を、簡便な操作で、効果的に除去することができる。このため例えば、プロピレンカーボネートからジプロピレングリコールを除去する方法等として特に好適である。
【実施例】
【0046】
以下に、本発明を、実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
実施例及び比較例における操作は、特に断らない場合は常圧(大気圧)下で行った。
【0047】
カーボネートの純度分析は、ガスクロマトグラフィー(GC)(7890A(G3440A)、Agilent Technologies社製、GCカラムとしてキャピラリーカラムFactorFour(登録商標)、CP8930 VF−1ms(バリアン社製))で行い、カーボネート純度はピーク面積の百分率で表した。また水分量に関しては、カールフィッシャー電量滴定装置(平沼社製)で測定を行った。
【0048】
実施例及び比較例においては、カーボネートに含まれる不純物として、プロピレンオキサイド(以下、PO)、プロピレングリコール(以下、PG)、ジプロピレングリコール(以下、DPG)、及び水分の4種の化合物の量を測定した。各不純物の定量は、GCチャートを用いて面積百分率法により求めた。
【0049】
<実施例1>
プロピレンカーボネート(GC純度99.62%、水分220ppm)400gと、1.2gの塩化亜鉛を反応容器に仕込み、25℃で1時間撹拌した。
得られた溶液を120℃のオイルバス中にて10hPaで単蒸留を行い、粗カーボネートの溶液を384g、蒸留回収率は96%で得た。
次に、得られた粗カーボネートの溶液384gを120℃のオイルバスにて25hPaで再度単蒸留を行った。約19gの留出物を得たところで、加熱を終了し、減圧を維持したまま25℃まで冷却した。蒸留残査としてGC純度99.99%、水分15ppmの精製カーボネートを362g得た。蒸留回収率94%、2回蒸留したトータルの精製収率は90%であった。
【0050】
精製前のプロピレンカーボネート、蒸留1回後のプロピレンカーボネート(粗カーボネート溶液)及び精製後(蒸留2回後)のプロピレンカーボネート中のPO、PG、及びDPGの各含有量、及び精製の各段階のプロピレンカーボネート(PC)の純度(PC純度)を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
<比較例1>
塩化亜鉛を添加しなかった以外は、実施例1と同様に精製操作を行った。精製前のプロピレンカーボネート、及び精製処理後(蒸留2回後)のプロピレンカーボネート中のPO、PG、DPG及び水分の各含有量、及びPC純度を表2に示す。表2から、PG、DPGの除去が十分ではなく、精製処理後のカーボネートに100ppmを超える量のPG及びDPGが含まれていた。
【0053】
【表2】
【0054】
<比較例2>
塩化亜鉛1.2gの代わりに、非ルイス酸性の金属塩である塩化ナトリウム(NaCl)を2g用いた以外は、実施例1と同様に精製操作を行った。
【0055】
<比較例3>
塩化亜鉛1.2gの代わりに、非ルイス酸性の金属塩である塩化カリウム(KCl)を2g用いた以外は、実施例1と同様に精製操作を行った。
比較例2及び比較例3の結果(精製前のプロピレンカーボネート、及び精製処理後(2回蒸留後)のプロピレンカーボネート中のPO、PG、DPG及び水分の各含有量、及びPC純度を表3に示す。表3に示すように、比較例2及び比較例3の方法では、PG、DPGの除去が十分ではなく、精製処理後のカーボネートに100ppmを超える量のPG及びDPGが含まれていた。
【0056】
【表3】
【0057】
<実施例2>
ルイス酸に2gの塩化第二鉄を用いた以外は、実施例1と同様に精製操作を行い精製収率90%、GC純度99.99%、4つの不純物(PO、PG、DPG及び水分)の合計が100ppm以下の精製カーボネートを得た。精製前のプロピレンカーボネート、及び精製処理後(蒸留2回後)のプロピレンカーボネート中のPO、PG、DPG及び水分の各含有量、及びPC純度を表4に示す。
【0058】
【表4】
【0059】
<実施例3>
ルイス酸として塩化亜鉛を使用し、塩化亜鉛の添加量を表5に示す各添加量に変化させた以外は、実施例1と同様に精製操作を行った。ルイス酸をカーボネートに対して0.3重量%以上添加すると、カーボネートに含まれるDPGの量を顕著に低減させることができた。また、ルイス酸をカーボネートに対して0.3重量%以上添加すると、カーボネートに含まれるPO、PG、DPG及び水分の合計量が100ppm以下となるカーボネートが得られた。結果を表5に示す。精製前のプロピレンカーボネート、及び精製処理後(2回蒸留後)のプロピレンカーボネート中のPO、PG、DPG及び水分の各含有量、及びPC純度を表5に示す。
【0060】
【表5】
【0061】
<実施例4>
実施例1の方法において、塩化亜鉛添加後の撹拌温度を22℃に固定し、撹拌時間を表6に示すように1〜720時間と変化させた以外は、実施例1と同様に精製操作を行った。撹拌時間を1時間以上とすると、カーボネートに含まれるDPG、PO、PG、DPG及び水分の合計量が100ppm以下となるカーボネートが得られた。精製前のプロピレンカーボネート、及び精製処理後(蒸留2回後)のプロピレンカーボネート中のPO、PG、DPG及び水分の各含有量、及びPC純度を表6に示す。
【0062】
【表6】
【0063】
実施例1で得られた精製プロピレンカーボネートと、未精製(精製前)プロピレンカーボネート(GC純度99.62%、水分220ppm)の電気化学的特性を比較するために、サイクリックボルタンメトリー(CV)にて評価を行った。測定条件を表7に、測定結果を
図1に示す。
図1から、精製プロピレンカーボネートは測定範囲内でわずかな酸化電流しか見られないのに対し、未精製プロピレンカーボネートは不純物の電気分解によると思われる大きな酸化電流がみられる。すなわち未精製プロピレンカーボネート(
図1中、破線)と比較して実施例1で得られた精製プロピレンカーボネート(
図1中、実線)は電気化学的に安定な優れた電気化学特性を示した。
【0064】
【表7】
【0065】
<実施例5>
プロピレンカーボネートの代わりに、エチレングリコール(EG)及びジエチレングリコール(DEG)をそれぞれ500ppm含ませたエチレンカーボネート(EC)を用いた以外は、実施例1と同様に精製操作を行った。
精製前のエチレンカーボネート、及び精製処理後(蒸留2回後)のエチレンカーボネート中のエチレンオキサイド(EO)、EG、DEG及び水分の各含有量、及びエチレンカーボネートの純度を、実施例1〜4と同様にGC(ガスクロマトグラフィー)により分析したが、GC法ではエチレンカーボネートと、EG及びDEGのピークが重なって分離分析が困難であった。このため、精製前のエチレンカーボネート、及び精製後のエチレンカーボネートの電気化学的特性を比較して、精製結果を評価した。
【0066】
得られた精製後のエチレンカーボネート(実線)と未精製(精製前)エチレンカーボネート(粗EC:破線)のサイクリックボルタンメトリー(CV)を、実施例4と同様の方法で測定した。その結果を
図2に示す。精製後のエチレンカーボネートのサイクリックボルタモグラム(実線)は、実施例4で得られた精製後のプロピレンカーボネート(
図1の実線)と同様なほぼフラットなグラフであるのに対し、未精製エチレンカーボネート(破線)では、実施例4の未精製プロピレンカーボネート(
図1の破線)と同様に酸化電流がみられた。
図2に示すように、精製エチレンカーボネート(実線)と未精製エチレンカーボネート(破線)では異なったグラフ(サイクリックボルタモグラム)が得られ、エチレンカーボネートが高純度に精製されたことを確認した。
【0067】
本発明の方法でカーボネートを精製することで、不純物量が極めて少なく、エネルギーデバイス用途等に必要な品質を満足する高純度のカーボネートを得ることができる。