(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
溶接ワイヤを送給すると共に、短絡期間とアーク期間とを交互に繰り返すアーク溶接にあって、前記短絡期間中は溶接電流をピーク値まで上昇させる短絡期間の溶接電流制御方法において、
前記短絡期間が予め定めた第1基準時間以上である短絡を通常短絡とし、前記第1基準時間未満である短絡を微小短絡として定義し、
前回の前記通常短絡が発生した時点から今回の前記通常短絡が発生した時点までの期間中に、前記微小短絡が発生したときは前記微小短絡が発生しなかったときよりも、前記今回の前記通常短絡における前記溶接電流の前記上昇の速度及び/又は前記ピーク値を増加させる、
ことを特徴とする短絡期間の溶接電流制御方法。
前記通常短絡の期間が前記第1基準時間よりも長い値に予め定めた第2基準時間以上になったときは前記溶接電流を前記ピーク値からさらに上昇させ、前記微小短絡の発生回数に応じて前記第2基準時間を変化させる、
ことを特徴とする請求項1又は2記載の短絡期間の溶接電流制御方法。
【背景技術】
【0002】
溶接ワイヤを一定の速度で送給すると共に、シールドガスに炭酸ガス、アルゴンガス、炭酸ガスとアルゴンガスとの混合ガス等を使用して溶接を行う消耗電極アーク溶接は、高品質を得ることができ、自動化も容易であることから広く使用されている。このアーク溶接では、溶接ワイヤと母材との間で短絡期間とアーク期間とを交互に繰り返して溶接が行われる場合が多い。アーク期間中に溶接ワイヤの先端が溶融して溶滴を形成し、短絡期間中に溶滴が溶融池に移行する。良好な溶接ビードを形成し、かつ、スパッタの発生量を少なくするためには、短絡期間中の溶接電流を適正値に制御して、溶滴移行を円滑に行わせることが重要である。以下、従来技術における短絡期間の溶接電流制御方法について説明する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図7は、従来技術における消耗電極アーク溶接の電圧・電流波形図である。同図(A)は溶接ワイヤと母材との間に印加される溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(B)は溶接ワイヤから母材へと通電する溶接電流Iwの時間変化を示す。以下、同図を参照して説明する。
【0004】
時刻t1〜t2は短絡期間Tsとなり、時刻t2〜t3はアーク期間Taとなり、時刻t3〜t4は短絡期間Tsとなる。短絡期間Tsとアーク期間Taとは、交互に繰り返される。
【0005】
時刻t2において短絡が解除されてアークが再発生すると、同図(A)に示すように、溶接電圧Vwは急上昇して数十V程度のアーク電圧値になる。溶接電流Iwは、同図(B)に示すように、アークが再発生した時点で少し急減した後に、次の短絡が発生するまで徐々に減少する。
【0006】
アーク期間Ta中に溶接ワイヤ先端に形成された溶滴が時刻t3において溶融池と接触すると短絡状態になる。短絡状態になると、同図(A)に示すように、溶接電圧Vwは数V程度の短絡電圧値に急降下する。溶接電流Iwは、同図(B)に示すように、予め定めた初期電流値Iiまで減少し、時刻t3〜t31の予め定めた初期期間Ti中はその値を維持する。時刻t31において初期期間Tiが経過すると、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは所定の上昇速度(上昇率、傾斜)Kで上昇し、時刻t32において溶接電流Iwが所定のピーク値Ipに達するとアークが再発生する時刻t4までその値を維持する。
【0007】
次に、溶滴の移行状態について説明する。時刻t2においてアークが再発生した時点では、溶滴が移行した後であるので溶接ワイヤの先端には溶滴は形成されていない。アーク期間Taが進行するのに伴い、溶接ワイヤの先端がアークからの熱及びジュール熱によって次第に溶融して溶滴を形成する。短絡が発生した時点から初期期間Tiの間は溶接電流Iwを小さな値の初期電流値Iiに維持している理由は、溶滴と溶融池との接触状態をより確実にするためである。短絡発生直後は溶滴の底部の一部が溶融池と接触している状態にあり、この状態で溶接電流Iwの値が大きいと、溶滴が移行することなく接触状態が解除されてアークが再発生することになり、安定した溶滴移行状態が阻害される。初期期間Tiが終了する時刻t31において、溶滴は溶融池と安定したブリッジを形成する状態となっている。この時刻t31から溶接電流Iwを上昇させることによってブリッジにピンチ力を作用させて、ブリッジ上部にくびれを生じさせて溶滴を溶融池に円滑に移行させる。
【0008】
溶滴移行状態を安定化するためには、短絡期間Ts中の溶接電流Iwの上昇速度K及びピーク値Ipの設定を適正化することは重要である。上昇速度K及びピーク値Ipが適正値よりも小さいと、ブリッジに作用するピンチ力が弱くなるので溶滴を移行させる時間が長くなり、溶接状態が不安定になる。逆に、上昇速度K及びピーク値Ipが適正値よりも大きいと、スパッタの発生量が多くなる。したがって、上昇速度K及びピーク値Ipは、シールドガスの種類、溶接ワイヤの材質、直径、送給速度等に応じて、適正値に設定されている。
【0009】
ところで、溶接中には、送給速度の変動、溶融池の不規則な運動、溶融池からのガスの噴出、溶接姿勢の変動、トーチ高さの変動等の種々の外乱によって、溶滴の形成状態がばらつくことになる。溶滴の形成状態がばらつくと、短絡が発生した時点における溶滴のサイズがばらつくことになる。そして、溶滴サイズが適正サイズよりも過小又は過大であるときは、安定した溶滴移行状態を確保し、かつ、スパッタの発生量を少なくするためには、上記の上昇速度K及びピーク値Ipを溶滴サイズに応じて適正化する必要がある。
【0010】
特許文献2の発明では、この適正化のために、短絡期間又はアーク期間の時間長さに応じて短絡電流の上昇速度Kを変化させるようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
短絡期間が所定時間未満のものを微小短絡とし、所定時間以上のものを通常短絡として区別すると、溶接電流の平均値が180A未満であり、かつ、溶接速度が比較的遅い場合には、通常短絡のみがほとんど発生し、微小短絡はほとんど発生しない。このような場合には、短絡期間及びアーク期間の長さが短絡発生時の溶滴サイズと相関するので、特許文献2の方法によって、溶滴移行状態を安定化することができる。
【0013】
しかし、溶接電流の平均値が180A以上の場合又は溶接速度が比較的早い場合には、通常短絡と微小短絡とが混在して発生するようになる。このような場合には、短絡期間及びアーク期間の長さと短絡発生時の溶滴サイズとが相関しなくなる。この結果、特許文献2の方法では、溶滴移行状態を安定化することはできない。
【0014】
そこで、本発明は、通常短絡と微小短絡とが混在して発生するような溶接条件において、溶接中に外乱によって短絡発生時の溶滴サイズがばらついても、溶滴移行状態を安定に保ち、かつ、スパッタの発生量も少なくすることができる短絡期間の溶接電流制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
溶接ワイヤを送給すると共に、短絡期間とアーク期間とを交互に繰り返すアーク溶接にあって、前記短絡期間中は溶接電流をピーク値まで上昇させる短絡期間の溶接電流制御方法において、
前記短絡期間が予め定めた第1基準時間以上である短絡を通常短絡とし、前記第1基準時間未満である短絡を微小短絡として定義し、
前回の前記通常短絡が発生した時点から今回の前記通常短絡が発生した時点までの期間中に、前記微小短絡が発生したときは前記微小短絡が発生しなかったときよりも、前記今回の前記通常短絡における前記溶接電流の前記上昇の速度及び/又は前記ピーク値を増加させる、
ことを特徴とする短絡期間の溶接電流制御方法である。
【0016】
請求項2の発明は、前記微小短絡の発生回数に応じて、前記溶接電流の前記上昇の速度及び/又は前記ピーク値を増加させる量を変化させる、
ことを特徴とする請求項1記載の短絡期間の溶接電流制御方法である。
【0017】
請求項3の発明は、前記通常短絡の期間が前記第1基準時間よりも長い値に予め定めた第2基準時間以上になったときは前記溶接電流を前記ピーク値からさらに上昇させ、前記微小短絡の発生回数に応じて前記第2基準時間を変化させる、
ことを特徴とする請求項1又は2記載の短絡期間の溶接電流制御方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、通常短絡と通常短絡との間の期間中に発生する微小短絡の回数が多くなるほど、通常短絡が発生した時点における溶滴サイズが大きくなる。したがって、この微小短絡回数に応じて上昇速度及び/又はピーク値を適正化すると、溶滴移行状態を安定化することができ、かつ、スパッタ発生量も少なくすることができる。このために、本発明では、通常短絡と微小短絡とが混在して発生するような溶接条件において、溶接中に外乱によって短絡発生時の溶滴サイズがばらついても、溶滴移行状態を安定に保ち、かつ、スパッタの発生量も少なくすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0021】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係る短絡期間の溶接電流制御方法を説明するための電圧・電流波形図である。同図(A)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電流Iwの時間変化を示す。同図は、上述した
図7と対応しており、同一の動作については繰り返さない。以下、同図を参照して説明する。
【0022】
以下の説明で使用される通常短絡及び微小短絡について定義する。通常短絡とは、短絡期間の長さが予め定めた第1基準時間Tf以上の短絡のことであり、短絡期間中にワイヤ先端の溶滴が溶融池に移行する。他方、微小短絡とは、短絡期間の長さが上記の第1基準時間Tf未満の短絡のことであり、ワイヤ先端の溶滴は溶融池に移行せずワイヤ先端にそのまま残留している。上記の第1基準時間Tfは、0.5〜1.5MS程度の範囲で設定される。この第1基準時間Tfは、溶接ワイヤ1の材質、直径、シールドガスの種類等に応じて、溶滴の移行を伴うか伴わないかのしきい値として実験によって適正値に設定される。
【0023】
同図において、時刻t1〜t2には通常短絡が発生し、時刻t21〜t22には微小短絡が発生し、時刻t23〜t24には微小短絡が発生し、時刻t3〜t4には通常短絡が発生している。すなわち、同図では、上述した
図7の時刻t1〜t2及び時刻t3〜t4の通常短絡の間の期間(時刻t2〜t3の期間)中に、2回の微小短絡が発生した場合である。
【0024】
時刻t1〜t2及び時刻t3〜t4の通常短絡の期間中は、同図(A)に示すように、溶接電圧Vwは数V程度の短絡電圧値となり、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、予め定めた初期期間Ti中は予め定めた初期電流値Iiとなり、その後は予め定めた上昇速度Kで上昇し、予め定めたピーク値Ipに達するとその値を維持する。上記の初期期間Tiは上記の第1基準時間Tfに設定され、上記の初期電流値Iiは50A程度に設定される。
【0025】
時刻t21〜t22及び時刻t23〜t24の微小短絡の期間中は、同図(A)に示すように、溶接電圧Vwは数V程度の短絡電圧値となり、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、上記の初期期間Ti中にアークが再発生するので上記の初期電流値Iiとなる。
【0026】
ここで、通常短絡が発生した時点における溶滴サイズのばらつきの原因を明らかにするために、微小短絡の発生状況と溶滴サイズとの関係を調査した。この結果、通常短絡と通常短絡との間の期間中に、微小短絡が発生したときは溶滴サイズが大きくなることが分かった。さらに、その微小短絡回数が多くなるほど、溶滴サイズも大きくなっていた。これは、微小短絡の発生回数が多くなるほど通常短絡と通常短絡との間の期間が長くなり、かつ、微小短絡では溶滴は移行しないので、ワイヤ先端の溶融量が増加して溶滴サイズが大きくなるためである。したがって、通常短絡と通常短絡との間の期間中に発生した微小短絡の回数を計数することによって、通常短絡が発生した時点における溶滴サイズを検出することができる。同図においては、時刻t1〜t2の通常短絡と時刻t3〜t4の通常短絡との間の期間(時刻t2〜t3の期間)中に、2回の微小短絡が発生している。
【0027】
通常短絡が発生した時点における溶滴サイズがばらついても、溶滴移行状態を安定化するためには、上述したように、上昇速度K及び/又はピーク値Ipを連動させて変化させる必要がある。すなわち、通常短絡と通常短絡との間の期間中の微小短絡の回数が増加するのに伴い、上昇速度K及び/又はピーク値Ipを大きくすれば良い。
【0028】
図2は、通常短絡と通常短絡との間の期間中に発生した微小短絡の回数Ns(回)と上昇速度K(A/ms)及びピーク値Ip(A)との関係図の一例である。横軸は微小短絡の回数Nsを示し、0〜7回の範囲となっている。左の縦軸は、上昇速度Kを示し、0〜500A/msの範囲である。右の縦軸は、ピーク値Ipを示しており、300〜600Aの範囲である。同図は、溶接ワイヤの材質が鉄鋼であり、直径が1.2MMであり、シールドガスの種類が炭酸ガス100%の場合である。
【0029】
実線で示す上昇速度Kは、Ns=0のとき200A/msとなり、Ns=5のときは400A/msとなり、Ns≧5の範囲では400A/msのままである。破線で示すピーク値Ipは、Ns=0のとき400Aとなり、Ns=5のときは500Aとなり、Ns≧5の範囲では500Aのままである。
【0030】
溶接ワイヤの材質、直径、シールドガスの種類等の溶接条件ごとに、同図のような関係を設定しておく。
【0031】
図3は、上述した本発明の実施の形態1に係る短絡期間の溶接電流制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。以下、同図を参照して、各ブロックについて説明する。
【0032】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する誤差増幅信号Eaに従ってインバータ制御等の出力制御を行い、溶接電圧Vw及び溶接電流Iwを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑する平滑コンデンサ、平滑された直流を高周波交流に変換するインバータ回路、高周波交流を溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を直流に整流する2次整流器、整流された直流を平滑するリアクトル、上記の誤差増幅信号Eaを入力としてパルス幅変調制御を行い変調信号を出力する変調回路、変調信号を入力としてインバータ回路のスイッチング素子を駆動する駆動回路を備えている。
【0033】
溶接ワイヤ1は、送給モータ(図示は省略)に結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。溶接ワイヤ1と母材2との間には溶接電圧Vwが印加し、アーク3中を溶接電流Iwが通電する。同図において、溶接ワイヤの送給を制御する回路については、図示は省略している。
【0034】
電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。電圧設定回路VRは、アーク期間Ta中の溶接電圧Vw(アーク電圧)を設定するための予め定めた電圧設定信号Vrを出力する。
【0035】
短絡判別回路SDは、上記の電圧検出信号Vdを入力として、この値が予め定めたしきい値未満であるときはHighレベルとなる短絡判別信号Sdを出力する。この短絡判別信号SdがHighレベルのときは短絡期間であり、Lowレベルのときはアーク期間である。しきい値は、10V程度に設定される。
【0036】
第1基準時間設定回路TFRは、予め定めた第1基準時間設定信号Tfrを出力する。微小短絡回数計数回路NSは、この第1基準時間設定信号Tfr及び上記の短絡判別信号Sdを入力として、以下の処理によって通常短絡と通常短絡との間の期間中に発生した微小短絡の回数を計数して、微小短絡回数信号Nsを出力する。
1)溶接中に、短絡判別信号SdがHighレベルに変化すると、そのHighレベルの期間長さが第1基準時間設定信号Tfrの値以上であるときは通常短絡が発生したと判別し、第1基準時間設定信号Tfrの値未満のときは微小短絡が発生したと判別する。ここで、第1基準時間設定信号Tfrの値=初期期間Tiであるので、微小短絡か通常短絡かの判別は、初期期間Tiが終了した時点で行なわれることになる。
2)微小短絡の発生を判別するとカウンタ値に1を加算し、通常短絡の解除を判別するとカウンタ値を0にリセットする。このカウンタ値は、溶接開始時に0にリセットされている。
3)通常短絡の発生を判別した時点における上記のカウンタ値を微小短絡回数信号Nsとして出力する。
【0037】
初期期間設定回路TIRは、上記の第1基準時間設定信号Tfrを入力として、この値と同一値に予め定めた初期期間設定信号Tirを出力する。初期電流設定回路IIRは、予め定めた初期電流設定信号Iirを出力する。
【0038】
上昇速度設定回路KRは、上記の微小短絡回数信号Nsを入力として、
図2で上述したように、予め定めた関数によって算出された上昇速度設定信号Krを出力する。
【0039】
ピーク値設定回路IPRは、上記の微小短絡回数信号Nsを入力として、
図2で上述したように、予め定めた関数によって算出されたピーク値設定信号Iprを出力する。
【0040】
電流設定回路IRは、上記の初期期間設定信号Tir、上記の初期電流設定信号Iir、上記の上昇速度設定信号Kr、上記のピーク値設定信号Ipr及び上記の短絡判別信号Sdを入力として、下記の処理を行い、電流設定信号Irを出力する。
1)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡)に変化した時点から初期期間設定信号Tirによって定まる期間中は、初期電流設定信号Iirを電流設定信号Irとして出力する。
2)その後は、電流設定信号Irの値を初期電流設定信号Iirの値から上昇速度設定信号Krによって定まる上昇速度で上昇させる。
3)電流設定信号Irの値がピーク値設定信号Iprの値と等しくなった時点で、ピーク値設定信号Iprの値を電流設定信号Irとして出力する。この状態を次の短絡が発生するまで維持する。
【0041】
電流誤差増幅回路EIは、上記の電流設定信号Ir(+)と上記の電流検出信号Id(−)との誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。電圧誤差増幅回路EVは、上記の電圧設定信号Vr(+)と電圧検出信号Vd(−)との誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。制御切換回路SWは、上記の電流誤差増幅信号Ei、上記の電圧誤差増幅信号Ev及び上記の短絡判別信号Sdを入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡)のときは電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力し、Lowレベル(アーク)のときは電圧誤差増幅信号Evを誤差増幅信号Eaとして出力する。この回路により、短絡期間中は定電流制御となり、アーク期間中は定電圧制御となる。
【0042】
上述した実施の形態1によれば、前回の通常短絡が発生した時点から今回の通常短絡が発生した時点までの期間中に、微小短絡が発生したときは微小短絡が発生しなかったときよりも、今回の通常短絡における溶接電流Iwの上昇速度K及び/又はピーク値Ipを増加させる。通常短絡と通常短絡との間の期間中に発生する微小短絡の回数が多くなるほど、通常短絡が発生した時点における溶滴サイズが大きくなる。したがって、この微小短絡回数に応じて上昇速度及び/又はピーク値を適正化すると、溶滴移行状態を安定化することができ、かつ、スパッタ発生量も少なくすることができる。このために、本実施の形態では、通常短絡と微小短絡とが混在して発生するような溶接条件において、溶接中に外乱によって短絡発生時の溶滴サイズがばらついても、溶滴移行状態を安定に保ち、かつ、スパッタの発生量も少なくすることができる。
【0043】
[実施の形態2]
実施の形態2では、実施の形態1に加えて、通常短絡の期間が第2基準時間Tb以上になったときは溶接電流Iwをピーク値Ipからさらに上昇させ、微小短絡回数Nsに応じて第2基準時間Tbを変化させる。
【0044】
図4は、本発明の実施の形態2に係る短絡期間の溶接電流制御方法を説明するための電圧・電流波形図である。同図(A)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電流Iwの時間変化を示す。同図は、上述した
図1と対応しており、時刻t33〜t4の期間以外の動作は同一であるので、説明は繰り返さない。以下、同図を参照して、時刻t33〜t4の期間の動作について説明する。
【0045】
時刻t3〜t4の通常短絡の期間中は、同図(A)に示すように、溶接電圧Vwは数V程度の短絡電圧値となる。そして、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t3〜t31の初期期間Ti中は初期電流値Iiとなり、その後は上昇速度Kで上昇し、時刻t32にピーク値Ipに達するとその値を維持し、短絡期間の長さが予め定めた第2基準時間Tbに達する時刻t33において短絡強制解除電流値Ikまで上昇し、その値をアークが再発生する時刻t4まで維持する。第1基準時間<第2基準時間であり、ピーク値Ip<短絡強制解除電流値Ikである。短絡強制解除電流値Ikは、600〜700A程度に設定される。
【0046】
溶接電流Iwを短絡強制解除電流値Ikまで上昇させる理由は、以下の通りである。すなわち、短絡期間が第2基準時間Tbを超えてもアークが再発生しない場合には、このまま放置しておくと短絡期間が数十msとなり溶接状態が不安定になるおそれがあるためである。短絡期間が第2基準時間Tbを超えた場合には、溶接電流Iwをさらに上昇させて一刻も早く短絡を解除させてアークを再発生させる必要があるためである。
【0047】
この第2基準時間Tbについても、通常短絡と通常短絡との間の期間中の微小短絡の回数Nsに応じてその値を変化させることによって、溶滴移行状態を安定化させ、かつ、スパッタ発生量を少なくすることができる。
【0048】
図5は、通常短絡と通常短絡との間の期間中に発生した微小短絡の回数Ns(回)と第2基準時間Tb(ms)との関係図の一例である。横軸は微小短絡の回数Nsを示し、0〜7回の範囲となっている。縦軸は第2基準時間Tbを示し、0〜10msの範囲である。同図は、溶接ワイヤの材質が鉄鋼であり、直径が1.2MMであり、シールドガスの種類が炭酸ガス100%の場合である。
【0049】
実線で示す第2基準時間Tbは、Ns=0のとき8msとなり、Ns=5のときは5msとなり、Ns≧5の範囲では5msのままである。
【0050】
溶接ワイヤの材質、直径、シールドガスの種類等の溶接条件ごとに、同図のような関係を設定しておく。
【0051】
図6は、上述した本発明の実施の形態2に係る短絡期間の溶接電流制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。同図は上述した
図3と対応しており、同一ブロックには同一符号を付して、それらの説明は繰り返さない。同図は、
図3に第2基準時間設定回路TBR及び短絡強制解除電流設定回路IKRを追加し、
図3の電流設定回路IRを第2電流設定回路IR2に置換したものである。以下、同図を参照して、これらのブロックについて説明する。
【0052】
第2基準時間設定回路TBRは、微小短絡回数信号Nsを入力として、
図5で上述したように、予め定めた関数によって算出された第2基準時間設定信号Tbrを出力する。
【0053】
短絡強制解除電流設定回路IKRは、予め定めた短絡共生解除電流設定信号Ikrを出力する。
【0054】
第2電流設定回路IR2は、初期期間設定信号Tir、初期電流設定信号Iir、上昇速度設定信号Kr、ピーク値設定信号Ipr、短絡判別信号Sd、上記の第2基準時間設定信号Tbr及び上記の短絡強制解除電流設定信号Ikrを入力として、下記の処理を行い、電流設定信号Irを出力する。
1)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡)に変化した時点から初期期間設定信号Tirによって定まる期間中は、初期電流設定信号Iirを電流設定信号Irとして出力する。
2)その後は、電流設定信号Irの値を初期電流設定信号Iirの値から上昇速度設定信号Krによって定まる上昇速度で上昇させる。
3)電流設定信号Irの値がピーク値設定信号Iprの値と等しくなった時点で、ピーク値設定信号Iprの値を電流設定信号Irとして出力する。
4)短絡判別信号SdがHighレベルに変化した時点からの経過時間が第2基準時間設定信号Tbrの値に達した時点で、短絡強制解除電流設定信号Ikrの値を電流設定信号Irとして出力する。この状態を次の短絡が発生するまで維持する。
【0055】
上述した実施の形態2によれば、通常短絡の期間が第2基準時間Tb以上になったときは、溶接電流Iwをピーク値Ipからさらに上昇させ、微小短絡の発生回数Nsに応じて第2基準時間Tbを変化させるものである。これにより、実施の形態1の効果に加えて、短絡期間が長くなり強制的に短絡を解除する必要がある場合においても、強制解除に移行する第2基準時間を、通常短絡と通常短絡との間の期間中に発生した微小短絡回数に応じて適正化しているので、溶滴移行状態が不安定になるのを抑制することができる。
【0056】
上記においては、微小短絡回数Nsによって第2基準時間Tbが変化する場合であるが、短絡強制解除電流Ikを変化させるようにしても良い。