(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6144206
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】エンジンブレーキ付き2ストローク対向ピストンエンジン
(51)【国際特許分類】
F02B 75/28 20060101AFI20170529BHJP
F02D 21/08 20060101ALI20170529BHJP
F02D 23/00 20060101ALI20170529BHJP
F02D 41/12 20060101ALI20170529BHJP
F16K 31/122 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
F02B75/28 E
F02D21/08 301Z
F02D23/00 N
F02D41/12 380Z
F16K31/122
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-555419(P2013-555419)
(86)(22)【出願日】2012年2月21日
(65)【公表番号】特表2014-516393(P2014-516393A)
(43)【公表日】2014年7月10日
(86)【国際出願番号】US2012000102
(87)【国際公開番号】WO2013058802
(87)【国際公開日】20130425
【審査請求日】2014年12月15日
(31)【優先権主張番号】61/463,815
(32)【優先日】2011年2月23日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506405644
【氏名又は名称】アカーテース パワー,インク.
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フクーア,ケビン,ビー.
(72)【発明者】
【氏名】リード,イアン,ジェー.エル.
【審査官】
佐藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−534857(JP,A)
【文献】
特表2009−530531(JP,A)
【文献】
特開平02−064239(JP,A)
【文献】
特開2001−073780(JP,A)
【文献】
特開平06−002520(JP,A)
【文献】
実開平05−021139(JP,U)
【文献】
特開平03−064667(JP,A)
【文献】
実開平07−004808(JP,U)
【文献】
特開2001−289351(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 75/28
F01L 13/08
F02D 15/00
F16K 31/122
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮着火式の2サイクル対向ピストンエンジンであって、
長手方向にずれた、ピストン制御の排気ポートおよび吸気ポートを有する少なくとも1つのシリンダと、
前記エンジンの少なくとも1つの吸気ポートに給気を供給する給気路と、
前記エンジンの少なくとも1つの排気ポートから排出ガスを除去する排気路と、
を備え、
前記排気ポートと前記吸気ポートとの間で前記シリンダに形成されるエンジン・ブレーキ・ポートに収容されるエンジン・ブレーキ・バルブが
前記シリンダの内部と流体連通し、
前記排気路に連結される出力を含み、
一対の対向ピストンが前記シリンダのボアを往復すると、開放のためのブレーキ信号に応答して、前記シリンダから給気を開放するように動作可能であり、
前記エンジン・ブレーキ・バルブが、
ネジ付先端部を有するバルブ本体であって、前記バルブ本体の後部にキャップがねじ込まれ、前記バルブ本体と前記キャップとの間に内部空間が画定されるバルブ本体と、
前記バルブ本体の外面に形成される円周排出溝および油圧制御溝と、
前記内部空間に据えられ、気流チャンバおよび油圧流チャンバを画定するバルブガイドと、
前記排出溝を介して前記気流チャンバへと開放する気流ポートと、
前記油圧制御溝を介して前記油圧流チャンバへと開放する作動油流ポートと、
前記気流チャンバに開放する前記ネジ付先端部内のオリフィスと、
前記内部空間に配置され、前記バルブガイドの中央ボアに収容される針状プラグと、前記油圧流チャンバの可動床を画定するフランジと、スプリングガイドとを有するバルブピストンと、
前記スプリングガイドに保持され、前記フランジと前記キャップ間で圧縮されるスプリングと、
を備える圧縮着火式の2ストローク対向ピストンエンジン。
【請求項2】
前記シリンダのボアの長手方向の中間点またはその近傍に配置され、前記シリンダの円周部に形成される1つまたは複数の燃料噴射ポートをさらに含み、前記エンジン・ブレーキ・ポートが前記円周部に位置する請求項1の圧縮着火式の2ストローク対向ピストンエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の関する分野は内燃エンジンである。特に、本発明の分野はポートシリンダを有する2ストロークエンジンに関する。より具体的な用途では、本発明の分野はエンジンブレーキを可能にするように対向ピストンを備えたポートシリンダからの給気を解放する構造および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4ストロークエンジンと比較すると、ポート付き2ストローク対向ピストンエンジンは、比出力、出力密度、および出力重量比の点で利点を有することが認識されている。これらのおよびその他の理由から、ほぼ一世紀の間、使用は限定されてきたが、現代における広範な様々な輸送用途において対向ピストンエンジンの利用に関心が寄せられつつある。代表的な対向ピストンエンジンを
図1および2に示す。
図1に示すように。対向ピストンエンジンは1つまたは複数のシリンダ10を含み、各シリンダは、ボア12と、そのボア12内に、長手方向にずらした位置に機械切削される、あるいは形成される、排気ポート14および吸気ポート16とを有する。1つまたは複数の燃料噴射ノズル17がそれぞれ、シリンダの長手方向中心またはその近傍でシリンダの側面を貫通する各自の噴射ポートに配置される。2つのピストン20、22が、その端面20e、22eが各々対向した状態で、ボア12に配置される。便宜上、ピストン20は排気ポート14に近接しているため、「排気」ピストンと称し、排気ポートが形成されるシリンダの端部を「排気端」と称する。同様に、ピストン22は吸気ポート16に近接しているため「吸気」ピストンと称し、シリンダの対応端部は「吸気端」と称する。
【0003】
対向ピストンの原理:1つまたは複数のシリンダ10を有する対向ピストンエンジンの動作は十分に認識されている。これに関連して、
図2を参照すると、端面20eと22eとの間で生じる燃焼に応答して、対向するピストンが、シリンダ内の最内位置である各自の上死点(TDC)位置から離れる。TDCから移動しつつ、ピストンはシリンダ内の最外位置である各自の下死点(BDC)位置に近づくまで,関連付けられたポートを閉鎖したままにしておく。有効だが必須ではない対向ピストンエンジン構造の態様では、位相オフセットがピストン移動に導入されており、以下の一連のシーケンスを引き起こす。吸気ポート16が開放する前に、排気ピストン20がBDCに近づくと排気ポート14は開放し、燃焼によって生成される排出ガスが排気ポート14から外へ流れ始める。吸気ピストンがBDCに近づくと、吸気ポート16が開放し、再循環排出ガスを伴い,あるいは伴わずに、加圧空気(「給気」)がシリンダ10内に強制的に送り込まれる。シリンダに入ってくる給気により、排出ガスが排気ポート14から外へ追いやられる。このプロセスを「掃気」と称する。
【0004】
図1に示すように、上記位相オフセットを前提として、排気ポート14が閉鎖された後、吸気ポート16が閉鎖され、シリンダ内に残る給気が端面20eと22eとの間で圧縮される。通常、給気は吸気ポート16を通過する際に旋回し、ポートが開放されている間は掃気を促進し、ポートが閉鎖された後は、空気を噴射された燃料と混合させる。燃料は通常ディーゼルであり、1つまたは複数の高圧噴射装置によってシリンダ内に噴射される。一例として
図1を参照すると、旋回する給気30は略螺旋状運動を行い、この運動により、シリンダの長手軸を中心として循環する渦を、ボア内に形成する。
図2に最もよく示されるように、ピストンがシリンダボアにおいて各自のTDC位置へと進むと、燃料40がノズル17を介し、ピストンの端面20eと22eの間で、旋回する給気30に直接噴射される。旋回する給気と燃料の混合物は、ピストン20および22が各自のTDC位置を通過するときに端面20eおよび22eの間に画定される燃焼室32内で圧縮される。混合物が着火温度に達すると、燃料が燃焼室で着火し、それにより、ピストンは各自のBDC位置へと離れる方向に送られる。2ストロークエンジンでは、空気を圧縮し、空気に噴射される燃料を着火させるプロセスを「圧縮着火」と称する。
【0005】
圧縮給気の解放は、ディーゼルエンジンのいくつかの動作態様において有効である。エンジンのストロークサイクルと同期するエンジンブレーキ(「減圧ブレーキ」および「圧縮解放ブレーキ」とも呼ばれる)は、ディーゼルエンジンを備えた中型・大型トラックにとって特に有益な特徴である。圧縮解放ブレーキは4ストローク・バルブ・ディーゼル・エンジンでは、ピストンが圧縮行程のピークまたはその近傍にあるときに、爆発行程の開始直前に、燃料噴射を中止し、EGRバルブを閉鎖し、シリンダからの圧縮給気を解放することによって起動される。このポイントで圧縮空気を解放することで、さもなければ爆発行程中に上死点から下死点までピストンを推し進めるだろうエネルギーが、解放される。このため、ピストンがBDCに戻る際にピストンから抽出される作業量が大きく低減され、所望の制動効果を生成する。
【0006】
圧縮解放ブレーキ用に構成されるバルブエンジンでは、圧縮空気は、圧縮行程の最後またはその近傍でシーケンスから外れて、排気バルブを開放することによって解放される。圧縮空気は開放されたバルブを通じて排気システムに流れ込む。BDCで、給気は再びシリンダに通される。ストロークが繰り返される際、圧縮空気の解放によって潜在エンジンエネルギーが排出されることで、エンジンを減速させる。圧縮解放ブレーキは中型・大型車両の制動能力を著しく向上させ、それにより比較的高い平均速度でもより安全に車両を作動させることができる。さらに、著しい追加の制動能力を付与することにより、圧縮解放ブレーキシステムは中型・大型トラックの機械ブレーキシステムの寿命を延ばしており、それにより、このような車両の全寿命にわたってメンテナンス費用を低減している。
【0007】
4ストロークエンジン用の圧縮解放ブレーキ構造は通常、スロットルの解放に伴う手動信号に応答して作動する。エンジンブレーキを起動すると、シリンダは、圧縮行程中にシーケンスから外れて開放されている排気バルブを通じ、換気される。4ストロークエンジンにおける圧縮解放ブレーキの代表的な実施形態では、米国特許第4,473,047号が各シリンダに2つの排気バルブを設けることを教示している。正常動作においては、両バルブは排気行程中に開放されている。圧縮解放ブレーキが起動されると、排気バルブの一方が圧縮行程のTDCまたはその近傍で開放される。
【0008】
エンジンブレーキのより簡易で実行し易いモードでは、排気および/または吸気バルブは、燃料の供給が中断される間、制動期間を通して継続的に開放されたままに保持される。それによって、エンジン動作ストロークとの同期を必要とすることなく、実質的な制動力が生成される。米国特許第3,547,087号は、バルブと関連づけられたロッカアームの戻り運動を阻止するように前進する油圧ブロッキングアームの使用を教示している。ロッカアームの戻り振動が阻止された状態で、ブロッキングアームが後退するまで関連バルブは少なくとも部分的に開放されたままである。シリンダに供給される空気は、開放されたバルブを通じて継続的に排気路へと戻される。
【0009】
従来の4ストローク・ディーゼル・エンジンは、エンジン動作ストロークの特定の部分の間、あるいはストローク全体を通じてエンジンバルブの正常動作を中断するように設計された吸気および/または排気バルブ機構を改良することによって、エンジンブレーキの利点を達成するものである。吸気および排気バルブはシリンダヘッドに支持されており、関連づけられた起動機械を有する。しかしながら、2ストローク対向ピストンエンジンはバルブまたはシリンダヘッドを含んでいない。その代わりに、シリンダ上で長手方向に分離されピストンによって制御されるシリンダポートを通じて給気を吸入し、燃焼生成物を排出する。したがって、シリンダヘッドと吸気および排気バルブがない場合、対向ピストンエンジンはバルブ・ディーゼル・エンジン用に調整されたエンジン・ブレーキ・ソリューションを組み込むことができない。にもかかわらず、エンジンブレーキを対向ピストンエンジンに追加することで、これらの能力を備えたバルブエンジンによって実現される様々な利益および利点がもたらされる。したがって、エンジンブレーキを提供する2ストローク対向ピストンシリンダ構造が必要とされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
対向ピストンエンジンのエンジンブレーキで得られる様々な利益および利点を達成するためには、対向するピストンの端面間でエンジンシリンダに供給される空気が、ピストンがTDC位置とBDC位置間を往復する際に解放されることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
出願人が達成した重要な実現は、ピストンがBDC位置とTDC位置間をサイクルする時にシリンダから空気を解放するよう開放可能であるエンジン・ブレーキ・バルブを、対向ピストンエンジンの各シリンダに設けることで、簡易で、安価で、容易に作動するエンジンブレーキが可能になることである。
【0012】
好ましくは、エンジン・ブレーキ・バルブは、開放と閉鎖がエンジン動作ストロークと同期されなければならない圧縮解放ブレーキと異なり、エンジンの制動中に継続的に開放されたままにされる。これにより、給気は継続的にシリンダから抽気される。このようにして、給気がエンジン・ブレーキ・バルブを通じて流れ出す際に、ピストンによるポンピング作用が熱として失われる。好ましくは、いったん給気がエンジン・ブレーキ・バルブを通じて膨張すれば、排気路に排出される。任意で、吸気路に排出させることもできる。
【0013】
好ましくは、エンジンブレーキ中、エンジン・ブレーキ・バルブが開放されると、エンジンへの燃料供給が中断され、EGRバルブが閉鎖される。
【0014】
シリンダはスーパーチャージャで外部に掃気される。これは、エンジン・ブレーキ・バルブを介する給気の流れを増やすことになるので、エンジンブレーキ動作にとって有益であり、それによって利用可能な制動力が増大する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】対向するピストンが各自の下死点位置にある状態の、先行技術の対向ピストンエンジンのシリンダの側方断面の部分概略図であり、「先行技術」と標示されている。
【
図2】対向するピストンが各自の上死点位置近傍にある状態の、
図1のシリンダの側方断面の部分概略図であり、ピストン端面が燃焼室を画定しており、「先行技術」と標示されている。
【
図3】本発明の態様が示される対向ピストンエンジンの概念概略図である。
【
図4】本発明に係るエンジン・ブレーキ・バルブの側面図である。
【
図5】対向ピストンエンジンのポートシリンダのエンジン・ブレーキ・ポートに据えられた際の、
図4のエンジン・ブレーキ・バルブの内部構造を示す側方断面図である。
【
図6】完全開放位置でのエンジン・ブレーキ・バルブを示す側方断面図である。
【
図7】対向ピストンエンジンの3つのシリンダを示しており、各シリンダがエンジン・ブレーキ・バルブを備えている。
【
図8】対向ピストンエンジンの3つのシリンダを示しており、各シリンダはエンジン・ブレーキ・バルブと一対の燃料噴射ポートをそれぞれ備えており、うち1つのシリンダの断面を示し、エンジン・ブレーキ・バルブ搭載構造の詳細を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書に記載の発明は、説明上、ボアを有する少なくとも1つのシリンダを備えたポート付き2ストロークエンジンを含み、ボア(穴)内には一対のピストンが端面を対向させて配置されるように提示されている。エンジンは任意の特定数のクランクシャフトに限定されない。たとえば、本発明は、1つのクランクシャフト、2つのクランクシャフト、および3つ以上のクランクシャフトを備えた対向ピストンエンジンに適用することができる。別の態様では、本発明は、対向ピストンエンジンにおける任意のピストン連結スキームで適用することができる。別の態様では、本発明は、それぞれがボア、ピストン制御の排気ポートおよび吸気ポート、およびボア内に対向して配置される一対のピストンを備えた、1つまたは複数のポートシリンダを含む内燃エンジン構造に適用することができる。
【0017】
図3では、内燃エンジン49は、1つまたは複数のシリンダ50を有する対向ピストンエンジンによって具体化されている。たとえば、エンジンは1つのシリンダ、2つのシリンダ、あるいは3つ以上のシリンダを有することができる。各シリンダ50はボア(穴)52と、シリンダの両端部に形成または機械加工される排気ポート54および吸気ポート56とを有する。排気ポート54と吸気ポート56はそれぞれ、外周がリング状の開口部を有し、両ポートの隣接する開口部は固体ブリッジによって分離されている(説明によっては、各開口部を「ポート」と称する。しかしながら、前記「ポート」の外周連続構造は
図3に示すポート構造との差異はない)。排気ピストン60と吸気ピストン62は摺動可能にボア52に配置され、端面が互いに対向する。ピストン60および62がTDC位置またはその近傍にあるとき、燃焼がボア52とピストン端面によって画定される燃焼室で生じる。
【0018】
図3のエンジンでは、燃料は、シリンダ50の側面を貫通する開口部に配置される少なくとも1つの燃料噴射ノズル100を介して、ピストン端面間で直接燃焼室に噴射される。
【0019】
図3を参照すると、吸気システムは、エンジン49に供給される給気とエンジン49によって生成される排出ガスとを管理する。代表的な吸気システム構造は、外気を圧縮する給気源と、給気をエンジンの少なくとも1つの吸気ポートに輸送する給気路とを含む。吸気システム構造は、燃焼生成物(排出ガス)を少なくとも1つの排気ポートから輸送し、処理して、大気中に解放する排気路も含む。
【0020】
図3を参照すると、吸気システムは排気マニホルド125を含む。必須ではないが、好ましくは、排気マニホルド125は、エンジンの全てのシリンダ50の排気ポート54と連通する排気プラナムから成る。ターボチャージャ120は、排気ポート54を出て、排気マニホルド125から導管124に流れ込む排出ガスから、エネルギーを抽出する。ターボチャージャ120は、共通シャフト123上で回転するタービン121とコンプレッサ122とを含む。ターボチャージャ120は単独ジオメトリまたは可変ジオメトリ装置のどちらでもあることができる。タービン121は、排気出力119に向かってタービンを通過する排出ガスによって回転される。これにより、コンプレッサ122が回転して、空気入力を通じて得られる外気を圧縮する。コンプレッサ122により出力される給気は、通路126を通って給気クーラ127へと流れ、そこからスーパーチャージャ110へ流れ、ここでさらに圧縮される。スーパーチャージャ110は、クランクシャフトへのベルトリンク機構によって連結され、それにより駆動される。スーパーチャージャ110は単速度または複速度装置、あるいは完全な可変速装置とすることができる。スーパーチャージャ110によって圧縮される空気は、スーパーチャージから、給気クーラ129を介して吸気マニホルド130へと出力される。1つまたは複数の吸気ポート56は、スーパーチャージャ110によって加圧される外気の給入を、吸気マニホルド130を介して受け取る。必須ではないが、好ましくは、複数シリンダ対向ピストンエンジンにおいて、吸気マニホルド130は、全てのシリンダ50の吸気ポート56と連通する吸気プレナムから成る。必須ではないが、好ましくは、
図3のエンジンの吸気システムは、EGRバルブ138によって制御されるバルブ制御再循環路131によって、排気路から排出ガスを抽出し、抽出された排出ガスを処理して、入ってくる外気の吸気流へと輸送する排気ガス再循環(EGR)路を含む。
【0021】
エンジンブレーキ:図3に示すように、本発明では、内部に対向ピストンを備えるポートシリンダは、シリンダ50の側壁を貫通するエンジン・ブレーキ・ポート141に据えられたエンジン・ブレーキ・バルブ140を備える。エンジン・ブレーキ・バルブは、排気路に接続される排出路を含む。エンジン・ブレーキ・ポート141はシリンダ50の壁を、シリンダの排気ポート54と吸気ポート56との間の位置で貫通する。好ましくは、エンジン・ブレーキ・ポート141は、ピストン端面のTDC位置間で、シリンダの長手方向中心またはその近傍に位置する。
【0022】
エンジン・ブレーキ・バルブ構造:好適なエンジン・ブレーキ・バルブ構造を
図4および5に示す。
図4については、エンジン・ブレーキ・バルブ140(以下「バルブ140」と称する)はネジ付先端部151を有するバルブ本体150を含んでおり、バルブ本体の後部にはキャップ152がねじ込まれ、バルブ本体の外面には円周排出溝154が形成され、同様にバルブ本体の外面に円周油圧制御溝156もまた形成される。空気流ポート155が溝154の床を貫通している。作動油流ポート157は溝156の床を貫通している。
図5については、バルブ本体の内部空洞は、その一端はキャップ152によって閉鎖され、対向端はオリフィス160を介して開放している。この内部空間の前部に押し込まれ、据えられる青銅バルブガイド162は、気流チャンバ(部屋)164と油圧流チャンバ(部屋)166とを画定する。オリフィス160および気流ポート155は気流チャンバ164内に開放している。気流チャンバ164は、バルブシート165を画定する円錐台形表面を通ってオリフィス160へ移行する(
図6に最もよく示される)。作動油流ポート157は油圧流チャンバ166へと開放している。バルブピストン170は、バルブガイド162の中央ボアに収容されるニードル状(針状)プラグ172と、油圧流チャンバ166の可動床を画定するフランジ174と、スプリングガイド176とを含む。スプリングガイド176に保持されるスプリング180は、フランジ174とキャップ152との間で圧縮される。2方向油圧ピストンシールは177に設けられてプラグ172とバルブガイドのボアとのインタフェースを封止し、178に設けられてフランジ174の側面とバルブ本体の後部のボアとのインタフェースを封止する。
【0023】
エンジン・ブレーキ・バルブ制御:図5は、閉鎖状態のバルブ140を示しており、この状態では、フランジ174に対して圧縮スプリング180により印加される力が、油圧流チャンバ166内の作動油によってフランジ174に印加される力とシリンダ内のガスによってオリフィス160を介して印加される力を含め、バルブピストンに印加される対抗力を超過している。バルブ140が閉鎖状態にある時は、シリンダからのガスが気流チャンバ164に入るのを防止するため、ニードル状(針状)プラグ172の先端部173が、圧縮スプリング180の力によってバルブシート165と封止係合して保持される。
図6は開放状態のバルブ140を示しており、この状態では、フランジ174に対して圧縮スプリング180により印加される力が、油圧流チャンバ166内の作動油によってフランジ174に印加される対抗力を超過している。明白に、バルブの状態は閾値圧力を有する油圧信号によって判定され、閾値圧力を下回るとバルブ140が閉鎖され、閾値圧力を上回るとバルブ140が開放される。
【0024】
エンジン・ブレーキ・バルブ設置:図7は、3つのポートシリンダ50を備えた対向ピストンエンジンを示しており、各ポートシリンダがそれぞれエンジン・ブレーキ・バルブ140を有する。クランクケースは、3つのシリンダを横断して延在する中央部分200を含む。クランクケースは各シリンダに支持突起210を含み、そこでシリンダ用のエンジン・ブレーキ・バルブ140が支持される。支持カラーは燃料噴射装置(図示せず)を支持する突起212を含む。各支持突起210は気流排出経路214へと移行しており、該経路を通じてバルブ140の円周排出溝を出る給気が排気路へと流れる。各支持突起210は、バルブ140の円周油圧制御溝と連通するネジ付油圧ポート216を含む。加圧作動油が、バルブブロック252に搭載される、3つの個々に制御されるソレノイド式油圧バルブ260のセット250から、バルブ140に供給される。加圧作動油は路254に供給され、油圧戻りが路256に供給される。各油圧バルブ260は、各自のエンジン・ブレーキ・バルブ140の油圧制御溝を、ソレノイド制御信号に従い圧力路254または戻り路256のいずれかに連結する3ウェイ2位置装置である。
【0025】
図8および8Aは、エンジン・ブレーキ・バルブ140が
図7の3シリンダ対向ピストンエンジンのクランクケース(またはその他の支持構造)にどのように設置されるかを示す。図示されるように、エンジン制御バルブ140は通常、シリンダ50の燃焼空間の中心で、シリンダ50の円周位置に搭載され、そこには噴射ポート100も配置される。銅座金シール270はネジ付先端部151とシリンダスリーブ272との間に据えられる。バルブ本体の外面と突起210との間に据えられるOリングシール274、276、および278は、排出溝154と油圧溝156を隔離する。
【0026】
製造および材料:ピストンおよびシリンダは、金属材料を鋳造する、および/または機械加工することによって製造される。たとえば、ピストンは、ピストン端面が形成される頂部に組み付けられる裾部で構成してもよい。頂部は41−40または43−40などの高炭素鋼を含んでもよく、裾部は4032−T651アルミニウムを用いて形成してもよい。このような場合、シリンダとクランクケースは好ましくは鋳鉄組成を含む。エンジン・ブレーキ・バルブ部品は好ましくは機械加工された鋼部品を含むが、例外として、バルブガイド162は青銅製である。2方向油圧ピストンシール177および178は好ましくはTeflon(登録商標)製であり、Oリングによって通電される。Oリング274、276、および278は好ましくは、合成プラスチック材料製である。
【0027】
対向ピストン・エンジン・ブレーキ動作:図5では、エンジン・ブレーキ・バルブが閉鎖された状態で、対向ピストンエンジンが正常動作を呈しており、正常動作中、シリンダ内のピストンは、クランクシャフトの完全な回転毎に完全なストロークサイクルを行う。これに関連し、排気ポートが閉鎖された状態では、給気が吸気/圧縮行程中の何らかの初期圧力で吸気ポートを通ってシリンダに入る。吸気ポートが閉鎖されると、給気はピストン端面間で圧縮され、ピストンがTDCに向かって移動するにしたがい、圧力が高速で上昇する。TDCの前に、燃料がシリンダに噴射される。特定の圧力において、圧縮空気の温度が燃焼を開始させる。燃焼によって、圧力は急速に上昇して、ピストンがTDCを通過する際にピークに達し、その後、ピストンがBDCに近づく動力/排気行程中に低速で低下する。サイクルはクランクシャフトの回転毎に繰り返される。
【0028】
図6において、燃料噴射が中断され、EGRバルブ(もしあれば)の閉鎖が維持された状態では、エンジン・ブレーキ・バルブが継続的に開放されて、エンジン動作の連続ストロークサイクル全体にわたりシリンダと排気路間の連通を提供する。このようにして、ピストンによるポンビング作用は、給気がエンジン・ブレーキ・バルブを介して流れ出る際に、熱として失われる。好ましくは、いったん給気がエンジン・ブレーキ・バルブを通じて膨張すれば、排気路へと排出される。態様によっては、給気は給気路に排出することができる。エンジンは圧縮行程と排気行程の両方で負の作業を行うため、エンジン・ブレーキ・バルブが開放されると、ピストンはTDCとBDCの間で往復運動して連続エンジンブレーキが提供される。
【0029】
エンジン・ブレーキ・バルブは、車両のダッシュボードまたはブレーキペダルに搭載されるユーザ作動スイッチによって制御することができる。
【0030】
エンジン・ブレーキ・バルブの適用は対向ピストンエンジンに限定されない。事実、1つまたは複数のエンジン・ブレーキ・バルブを、従来の2ストロークおよび4ストロークエンジンにおける連続エンジンブレーキ用に、シリンダヘッドに搭載することができる。
【0031】
本発明はポート付き対向エンジン構造を参照して説明されてきたが、本発明の各種態様は、発明の精神から逸脱することなく、1つ、2つ、および3つ以上のクランクシャフトを有する対向ピストンエンジンに適用することができると理解すべきである。さらに、対向ピストンエンジンは、本発明の精神を逸脱することなく、任意のピストン連結方法によるものであることができる。さらに、本発明の各種態様は、発明の精神を逸脱することなく、シリンダを対向して配置した、あるいは1つまたは複数のクランクシャフトの両側に配置した対向ピストンエンジンに適用することができる。したがって、本発明は以下の請求項によってのみ限定される。