(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
円筒面状の内周面を有する外方部材と、前記外方部材の内周面に取り付けられた複数のフォイルとを備え、内周に挿入された軸を相対回転自在にラジアル方向で支持するフォイル軸受であって、
各フォイルが、周方向両端に設けられ、前記外方部材に接触した状態で保持される保持部と、前記保持部の周方向間に設けられ、軸受面を有する本体部とからなり、
各フォイルの周方向両端に設けられた前記保持部が、前記外方部材の内周面に形成された固定溝に隙間を有した状態で挿入され、
隣接するフォイルの前記保持部がそれぞれ別の固定溝に挿入されたフォイル軸受。
円筒面状の内周面を有する外方部材と、前記外方部材の内周面に取り付けられた複数のフォイルとを備え、内周に挿入された軸を相対回転自在にラジアル方向で支持するフォイル軸受であって、
各フォイルが、周方向両端に設けられ、前記外方部材に接触した状態で保持される保持部と、前記保持部の周方向間に設けられ、軸受面を有する本体部とからなり、
各フォイルの周方向一端に設けられた前記保持部が、前記外方部材の内周面に形成された固定溝に隙間を有した状態で挿入され、
各フォイルの周方向他端に設けられた前記保持部が、隣接するフォイルと外方部材の内周面との間に配されたフォイル軸受。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンやターボチャージャの主軸は高速で回転駆動される。また、主軸に取り付けられたタービン翼は高温に晒される。そのため、これらの主軸を支持する軸受には、高温・高速回転といった過酷な環境に耐え得ることが要求される。この種の用途の軸受として、油潤滑の転がり軸受や油動圧軸受を使用する場合もあるが、潤滑油などの液体による潤滑が困難な場合、エネルギー効率の観点から潤滑油循環系の補機を別途設けることが困難な場合、あるいは液体のせん断による抵抗が問題になる場合、等の条件下では、これらの軸受の使用は制約を受ける。そこで、そのような条件下での使用に適合する軸受として、空気動圧軸受が着目されている。
【0003】
空気動圧軸受としては、回転側と固定側の双方の軸受面を剛体で構成したものが一般的である。しかしながら、この種の空気動圧軸受では、回転側と固定側の軸受面間に形成されるラジアル軸受隙間の管理が不十分であると、安定限界を超えた際にホワールと呼ばれる自励的な主軸の振れ回りを生じ易い。そのため、使用される回転速度に応じた隙間管理が重要となる。特に、ガスタービンやターボチャージャのように、温度変化の激しい環境では熱膨張の影響でラジアル軸受隙間の幅が変動するため、精度の良い隙間管理は極めて困難となる。
【0004】
ホワールが生じにくく、かつ温度変化の大きい環境下でも隙間管理を容易にできる軸受としてフォイル軸受が知られている。フォイル軸受は、曲げに対して剛性の低い可撓性を有する薄膜(フォイル)で軸受面を構成し、軸受面のたわみを許容することで荷重を支持するものである。通常は、軸受の内周面をトップフォイルと呼ばれる薄板で構成し、その外径側にバックフォイルと呼ばれるばね状の部材を配置してトップフォイルが受ける荷重をバックフォイルで弾性的に支持している。この場合、軸の回転時には、軸の外周面とトップフォイルの内周面との間に空気膜が形成され、軸が非接触支持される。
【0005】
フォイル軸受では、フォイルの可撓性により、軸の回転速度や荷重、周囲温度等の運転条件に応じた適切なラジアル軸受隙間が形成されるため、安定性に優れるという特徴があり、一般的な空気動圧軸受と比較して高速での使用が可能である。また、一般的な動圧軸受のラジアル軸受隙間は軸直径の1/1000のオーダーで管理する必要があり、例えば直径数mm程度の軸では数μm程度のラジアル軸受隙間を常時確保する必要がある。従って、製造時の公差、さらには温度変化が激しい場合の熱膨張まで考慮すると、厳密な隙間管理は困難である。これに対して、フォイル軸受の場合には、数十μm程度のラジアル軸
受隙間に管理すれば足り、その製造や隙間管理が容易となる利点を有する。
【0006】
フォイル軸受としては、バックフォイルに設けた切り起こしでトップフォイルを弾性的に支持するもの(特許文献1)、素線を網状に編成した弾性体で軸受フォイルを弾性的に支持するもの(特許文献2)、および、バックフォイルに、外輪内面に接触し周方向に移動しない支持部とトップフォイルからの面圧により弾性的に撓む弾性部とを設けたもの(特許文献3)等が公知である。また、特許文献4及び5には、複数のフォイルを周方向に並べて配置し、各フォイルの周方向両端を外方部材に取り付けた、いわゆる多円弧型のフォイル軸受が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
図1に、ガスタービンと呼ばれるガスタービン装置の構成を概念的に示す。このガスタービンは、翼列を形成したタービン1および圧縮機2と、発電機3と、燃焼器4と、再生器5とを主に備える。タービン1、圧縮機2、および発電機3には、水平方向に延びる共通の軸6が設けられ、この軸6と、タービン1および圧縮機2とで一体回転可能のロータが構成される。吸気口7から吸入された空気は、圧縮機2で圧縮され、再生器5で加熱された上で燃焼器4に送り込まれる。この圧縮空気に燃料を混合して燃焼させ、高温、高圧のガスでタービン1を回転させる。タービン1の回転力が軸6を介して発電機3に伝達され、発電機3が回転することにより発電し、この電力がインバータ8を介して出力される。タービン1を回転させた後のガスは比較的高温であるため、このガスを再生器5に送り込んで燃焼前の圧縮空気との間で熱交換を行うことで、燃焼後のガスの熱を再利用する。再生器5で熱交換を終えたガスは、排熱回収装置9を通ってから排ガスとして排出される。
【0015】
図2に、上記ガスタービンにおけるロータの支持構造の一例を示す。この支持構造では、軸方向の2箇所にラジアル軸受10が配置され、軸6のフランジ部6bの軸方向両側にスラスト軸受20、20が配置される。このラジアル軸受10およびスラスト軸受20により、軸6がラジアル方向及び両スラスト方向に回転自在に支持されている。
【0016】
この支持構造において、タービン1と圧縮機2の間の領域は、高温、高圧のガスで回転されるタービン1に隣接しているために高温雰囲気となる。この高温雰囲気では、潤滑油やグリース等からなる潤滑剤が変質・蒸発してしまうため、これらの潤滑剤を使用する通常の軸受(転がり軸受等)を適用することは難しい。そのため、この種の支持構造で使用される軸受10、20としては、空気動圧軸受、特にフォイル軸受が適合する。
【0017】
以下、上記ガスタービン用のラジアル軸受に適合するフォイル軸受10の構成を図面に基づいて説明する。
【0018】
このフォイル軸受10は、
図3に示すように、ハウジング(図示省略)の内周に固定され、内周に軸6が挿入される外方部材11と、外方部材11の内周面11aに取り付けられた複数のフォイル13とで構成される。このフォイル軸受10は、外方部材11の内周面11aが円筒面状をなし、この内周面11aに3枚のフォイル13が周方向に並べて配された、いわゆる多円弧型のフォイル軸受である。外方部材11の内周面11aとフォイル13との間には、フォイル13に弾性を付与するための部材(例えばバックフォイル)は設けられておらず、フォイル13の外径面13c1と外方部材11の内周面11aとが半径方向で直接対向している。
【0019】
各フォイル13は、周方向両端に設けられた保持部13a、13bと、両保持部13a、13bの周方向間に設けられた本体部13cとからなる。各フォイル13は、保持部13a、13b、および本体部13cを含めて一枚のフォイルからプレス加工等により一体に形成される。保持部13a、13bは、外方部材11に接触した状態で保持されている。隣接するフォイル10の保持部13a、13bは、軸方向視(
図3参照)で互いに交差して設けられ、各フォイル10の保持部13a、13bは、隣接するフォイル10の本体部13cの外径側に配される。図示例では、保持部13a、13bが、外方部材11の内周面11aに設けられた固定溝11b、11cに差し込まれている。固定溝11b、11cは、例えばワイヤカット加工により形成され、外方部材11の軸方向全長に亘って形成される。保持部13a、13bの少なくとも一方は固定溝11b、11cに完全に固定されておらず、摺動可能な状態で保持される。固定溝11bは外径に向けて周方向一方(軸6の回転方向先行側、
図3の矢印参照)に傾斜し、固定溝11cは外径に向けて周方向他方に傾斜している。固定溝11b、11cは同じ周方向位置に開口している。フォイル13の本体部13cは、矩形状の平板を略円弧状に湾曲させてなり、内径面13c2に軸受面Aを有する。
【0020】
図4(a)に示すように、各フォイル13の周方向一方の保持部13aは、本体部13cの軸方向一部領域(図示例では軸方向中央部)を周方向一方に延在させた凸部で構成される。一方、各フォイル13の周方向他方の保持部13bは、本体部13cの軸方向一部を周方向他方に延在させた凸部で構成される。周方向他方の保持部13bは、軸方向に離隔して設けられた複数(図示例では2つ)の凸部で構成され、これらの軸方向間に凹部13b1が設けられる。フォイル13の一端に設けられた保持部13aを、隣接するフォイルの他端に設けられた保持部13b間の凹部13b1に挿入することにより、保持部13a、13bが軸方向視で交差する(
図4(b)参照)。
【0021】
図4(b)に示すように、フォイル13の一方の保持部13aを、これに隣接するフォイル13の他方の保持部13bの軸方向間に設けられた凹部13b1挿入して、複数(図示例では3枚)のフォイル10を一体化した状態で、保持部13a、13bを固定溝11b、11cにそれぞれ差し込むことにより、複数のフォイル13が外方部材11の内周面11aに取り付けられる。このように、隣接するフォイル13の保持部13a、13bを交差させ、フォイル13の外径側(裏側)で固定溝11b、11cに差し込むことで、外方部材11の内周面11aの全周をフォイル13の本体部13cで覆うことができるため、軸受面の面積を最大限確保することができる。また、フォイル13の周方向端部(保持部13a、13b)が軸6との摺動面に露出しないため、フォイル13の周方向端部が内径側にめくれる事態を確実に防止できる。
【0022】
図5に示すように、各フォイル13の本体部13cの周方向両端(保持部13a、13bとの境界部)は、外方部材11の内周面11aに沿って延びているのではなく、内周面11aに対して各本体部13cの周方向中央に向けて内径側に立ち上がっている。図示例では、本体部13cの周方向両端と各保持部13a、13bとの境界部が折れ曲がることなく滑らかに連続し、本体部13cの周方向端部が内径に向けて凸となるように湾曲している。これにより、各フォイル13の本体部13cの周方向両端において、各フォイル13の外径面13c1と外方部材11の内周面11aとの間には半径方向の隙間δが形成される。各フォイル13は、この半径方向隙間δを小さくする方向に弾性変形可能とされる。すなわち、軸6が回転して軸6の外周面6aとフォイル13の軸受面Aとの間のラジアル軸受隙間Rの圧力が高まり、フォイル13が外径側に押し込まれて半径方向隙間δが小さくなったときに、フォイル13の変形が弾性範囲内で留まる(塑性変形しない)ように設計される。このように、フォイル13の本体部13cの端部近傍が弾性変形することにより、フォイル13に内径向きの弾性力が付与される。フォイル13に付与される弾性力は、保持部13a、13bの軸方向寸法や数、配置箇所、あるいは後述する本体部13cの両端の立ち上がり角度θ1、θ2により調整することができる。
【0023】
本実施形態では、外方部材11の内周面11aに対する各フォイル13の本体部13cの両端の立ち上がり角度が異なっている。本体部13cの端部の立ち上がり角度とは、本体部13cの端部における接線と、外方部材11の内周面11aのうち、フォイル13と交差する点(すなわち固定溝11bの開口部)における接線との間の角度を言う。本実施形態では、
図5に示すように、本体部13cの一端(保持部13a側)における立ち上がり角度θ1が、他端(保持部13b側)における立ち上がり角度θ2よりも大きくなっている。このように、本体部13cの両端の立ち上がり角度がθ1>θ2となっていることで、
図6の展開図に示すように、各フォイル13のピーク位置(最も内径側に迫り出す位置)Pが、各フォイル13の本体部13cの周方向中央部Oよりも一端側(保持部13a側)に設けられる。軸6が周方向一方側に回転すると(
図6の矢印参照)、軸6の外周面6aとフォイル13の軸受面Aとの間に、回転方向先行側へ向けて徐々に狭くなったラジアル軸受隙間Rが形成される。このとき、上記のように、各フォイル13のピーク位置Pが一端側に偏在することで、正圧を発生させる軸受面Aがピーク位置Pの他端側の広い領域に形成されるため、ラジアル軸受隙間Rの周方向領域を大きく取ることができ、ラジアル方向の支持力が高められる。尚、本実施形態では、フォイル13の保持部13a、13bと本体部13cとの接続部が滑らかに連続しているため、本体部13cの立ち上がり角度θ1、θ2は固定溝11b、11cの傾斜角度とほぼ一致する。
【0024】
フォイル13の本体部13cの立ち上がり角度θ1、θ2が大きすぎると、フォイル13が内径側に大きく迫り出してしまうため、軸6との干渉により折れ曲がる恐れが高くなる。従って、立ち上がり角度θ1、θ2は、30°以下、好ましくは20°以下に設定することが望ましい。
【0025】
フォイル13は、ばね性に富み、かつ加工性のよい金属、例えば鋼材料や銅合金からなる厚さ20μm〜200μm程度の帯状フォイルで形成される。本実施形態のように流体膜として空気を用いる空気動圧軸受では、雰囲気に潤滑油が存在しないため、油による防錆効果は期待できない。鋼材料や銅合金の代表例として、炭素鋼や黄銅を挙げることができるが、一般的な炭素鋼では錆による腐食が発生し易く、黄銅では加工ひずみによる置き割れを生じることがある(黄銅中のZnの含有量が多いほどこの傾向が強まる)。そのため、帯状フォイルとしては、ステンレス鋼もしくは青銅製のものを使用するのが好ましい。
【0026】
以上の構成において、周方向一方(
図3の矢印方向)、すなわち楔状のラジアル軸受隙間Rの縮小方向に軸6を回転させると、各フォイル13の軸受面Aと軸6の外周面6aとの間に空気膜が形成される。この空気膜の圧力が高まると、フォイル13の本体部13cの端部が外径側に押し込まれ、半径方向隙間δが小さくなる方向に弾性変形する。こうして本体部13cが外径側に押し込まれたとき、本体部13cと保持部13a、13bとの境界部にはモーメント力が加わる。このとき、保持部13a、13bが固定溝11b、11cに差し込まれているため、保持部13a、13bの両面が固定溝11b、11cの内壁で保持される。これにより、保持部13a、13bの角度が変わらないため、これと連続した本体部13cの周方向端部の立ち上がり角度が維持され、本体部13cの端部を湾曲させることで効率的に弾性力を発揮することが可能となる。
【0027】
そして、軸6の周囲の周方向複数個所(図示例では3箇所)に楔状のラジアル軸受隙間Rが形成され、軸6がフォイル13に対して非接触の状態でラジアル方向に回転自在に支持される。このとき、フォイル13の弾性力と、ラジアル軸受隙間Rに形成される空気膜の圧力とが釣り合う位置で、フォイル13の形状が保持される。なお、実際のラジアル軸受隙間Rの幅は数十μm程度の微小なものであるが、
図3や
図6ではその幅を誇張して描いている。また、フォイル13が有する可撓性により、各フォイル13の軸受面Aが荷重や軸6の回転速度、周囲温度等の運転条件に応じて任意に変形するため、ラジアル軸受隙間Rは運転条件に応じた適切幅に自動調整される。そのため、高温・高速回転といった過酷な条件下でも、ラジアル軸受隙間Rを最適幅に管理することができ、軸6を安定して支持することが可能となる。
【0028】
フォイル軸受10では、軸6の停止直前や起動直後の低速回転時に、各フォイル13の軸受面Aや軸6の外周面6aに表面粗さ以上の厚さの空気膜を形成することが困難となる。そのため、各フォイル13の軸受面Aと軸6の外周面6aとの間で金属接触を生じ、トルクの増大を招く。この時の摩擦力を減じてトルク低減を図るため、各フォイル13の軸受面A(内径面13c2)と、これと摺動する部材の表面(本実施形態では軸6の外周面6a)との何れか一方または双方に、表面を低摩擦化する被膜(第一被膜)を形成するのが望ましい。この被膜としては、例えばDLC膜、チタンアルミナイトライド膜、あるいは二硫化モリブデン膜を使用することができる。DLC膜、チタンやアルミナイトライド膜はCVDやPVDで形成することができ、二硫化モリブデン膜はスプレーで簡単に形成することができる。特にDLC膜やチタンアルミナイトライド膜は硬質であるので、これらで被膜を形成することにより、軸受面Aの耐摩耗性をも向上させることができ、軸受寿命を増大させることができる。
【0029】
また、軸受の運転中は、ラジアル軸受隙間に形成された空気膜の影響でフォイル13が全体的に拡径して外方部材11の内周面11aに押し付けられ、これに伴ってフォイル13の外径面13c1と外方部材11の内周面11aとの間、及び、フォイル13の保持部13a、13bと固定溝11b、11cとの間で周方向の微小摺動が生じる。従って、フォイル13の外径面13c1と、これに接触する外方部材11の内周面11aとの何れか一方または双方、あるいは、フォイル13の保持部13a、13bと、これに接触する固定溝11b、11cとの何れか一方または双方に被膜(第二被膜)を形成することにより、これらの摺動部での耐摩耗性の向上を図ることができる。尚、上記のフォイル軸受10では、フォイル13の本体部13cの周方向両端が外方部材11の内周面11aに対して内径側に立ち上がっているため、本体部13cの外径面13c1と外方部材11の内周面11aとの接触は僅かである。従って、上記の第二被膜は、フォイル13の保持部13a、13bとこれに接触する固定溝11b、11cに設けることが効果的である。
【0030】
また、フォイル13と外方部材11との摺動面の摩擦係数を制御することにより、軸受特性を調整することが可能となる。例えば、フォイル13と外方部材11の摺動面の少なくとも一方(例えば、フォイル13の保持部13a、13bの表面)の摩擦係数を大きくすると、外方部材11(例えば、固定溝11b、11cの内面)との摺動による摩擦エネルギーが増大するため、軸6の回転による振動の減衰作用を向上させることができる。この場合、第二被膜としては、二流化モリブデン膜よりも摩擦係数は大きいが耐摩耗性に優れるDLC膜やチタンアルミナイトライド膜を使用するのが好ましい。例えば軸受面Aに形成する第一被膜として二流化モリブデン膜を使用する一方で、フォイル13と外方部材11の摺動部に形成する第二被膜としてチタンアルミナイトライドやDLC膜等を使用し、両被膜の摩擦係数を異ならせることで、低トルク化と振動の減衰性の向上とを両立することが可能となる。
【0031】
一方、フォイル13と外方部材11の摺動面の少なくとも一方(例えば、フォイル13の保持部13a、13bの表面)の摩擦係数を小さくすると、軸6との接触摺動に対するフォイル13の耐摩耗性を高めることができる。すなわち、軸6の回転直後や停止直前等の低速回転時に軸6とフォイル13とが接触した場合、その接触圧力により各フォイル13の保持部13a、13bが外方部材11の固定溝11b、11cに対して滑り、各フォイル13が軸6の外周面6aに倣って変形する。このとき、フォイル13と外方部材11との摺動面の摩擦係数が大きいと、
図7(a)に示すように、フォイル13の保持部13a、13bが固定溝11b、11cに対して滑りにくいため、フォイル13が軸6の外周面6aに倣いにくい。この場合、フォイル13と軸6の外周面6aとの接触領域T1が小さくなるため、単位面積あたりの接触圧力が大きくなり、フォイル13や軸6が摩耗しやすい。これに対し、フォイル13と外方部材11との摺動面の摩耗係数が小さいと、
図7(b)に示すように、フォイル13の保持部13a、13bが固定溝11b、11cに対して滑りやすいため、フォイル13が軸6の外周面6aに倣いやすい。この場合、フォイル13と軸6の外周面6aとの接触領域T2が大きくなるため、単位面積あたりの接触圧力が小さくなり、フォイル13や軸6が摩耗しにくくなる。
【0032】
本発明は、上記の実施形態に限られない。上記の実施形態では、フォイル13の本体部13cの両端における立ち上がり角度θ1、θ2を異ならせた場合を示したが、例えば図
8に示すように、立ち上がり角度θ1、θ2を等しくしてもよい(θ1=θ2)。この場
合、
図9に示すように、各フォイル13の周方向中央部Oにピーク位置Pが配される。このとき、フォイル13はピーク位置Pに関して周方向で対称な形状となり、ピーク位置Pの周方向両側に等しい面積の軸受面A、A’が形成される。これにより、軸6が一方に回転した場合(
図9の実線矢印参照)、ピーク位置Pの周方向他方側に設けられた軸受面Aと軸6の外周面6aとの間に、回転方向先行側に向けて縮小したラジアル軸受隙間Rが形成される。一方、軸6が他方に回転した場合(
図9の点線矢印参照)、ピーク位置Pの周方向一方側に設けられた軸受面A’と軸6の外周面6aとの間に、回転方向先行側に向けて縮小したラジアル軸受隙間R’が形成される。このように、立ち上がり角度θ1、θ2を等しくすることで、軸6が何れの方向に回転する場合でも同じ支持力を発揮することができる。
【0033】
図10に示す実施形態は、フォイル13の本体部13cと他端側の保持部13bとの境界にスリット13dが設けられている点で、上記の実施形態と異なる。スリット13dは、フォイル13の一端側の保持部13aと同じ軸方向位置に設けられ、保持部13aを差し込み可能とされる(
図10(b)参照)。保持部13aを、隣接するフォイル13のスリット13dに差し込んで、複数のフォイル13を環状に連結した状態で、各フォイル13の保持部13a、13bを外方部材11の固定溝11b、11cに差し込むことにより、フォイル13が外方部材11の内周面11aに取り付けられる。このフォイル軸受10の軸方向視は、
図3と同様の状態となる。この場合、フォイル13の保持部13aが、隣接するフォイル13のスリット13dを貫通して固定溝11bに差し込まれるため、保持部13aとスリット13dとが周方向で係合することでフォイル13の他端(保持部13b)の周方向の移動が確実に規制される。
【0034】
図11に示す実施形態は、外方部材11に固定溝11cが設けられず、フォイル13の他端側の保持部13bが外方部材11の内周面11aに沿って設けられている点で、上記の実施形態と異なる。具体的には、隣接するフォイル13の保持部13a、13bを軸方向視で交差させ(
図4(b)あるいは
図9(b)参照)、この状態で、一端側の保持部13aを外方部材11の固定溝11bに差し込むと共に、フォイル13の他端側の保持部13bを、隣接するフォイル13と外方部材11の内周面11aとの間に挿入する。これにより、フォイル13の他端側の保持部13bが、隣接するフォイル13で内径側から押さえられ、外方部材11の内周面11aに接触した状態で保持される。尚、この場合でも、上記の実施形態と同様に、フォイル13の保持部13bと外方部材11の内周面11aとの摺動面の摩擦係数を制御することで、軸受特性を調整することが可能となる(
図7参照)。
【0035】
この場合、フォイル13の周方向一方(
図11の実線矢印方向)への移動は、保持部13aが固定溝11bの奥部に突き当たることにより、または、スリットが保持部13aと突き当たることにより規制される。一方、フォイル13は、周方向他方(同図点線矢印方向)へは移動可能であるため、軸6が周方向他方(同図点線矢印方向)に回転すると、軸6との摺動によりフォイル13が周方向他方に移動して、フォイル13の一端側の保持部13aが固定溝11bから抜けてしまう恐れがある。また、このフォイル軸受10は、フォイル13の他端側の保持部13bが外方部材11の内周面11aに沿って設けられるため、
図12に示すように、本体部13cの他端側の立ち上がり角度θ2が実質的に0になり、フォイル13のピーク位置Pが本体部13cの周方向中央部Oよりも一端側(図中左側)に偏在した位置に設けられる。このため、軸6が周方向一方(実線矢印方向)に回転すると、本体部13cの外径面13c1のうち、ピーク位置Pよりも他端側(図中右側)の広い領域が軸受面Aとして機能する。以上より、このフォイル軸受10は、周方向一方(実線矢印方向)にのみ相対回転する軸6を支持する用途に用いられる。
【0036】
図13に示す実施形態は、フォイル13の周方向一方の保持部13aを、軸方向に離隔した複数の凸部で構成した点で、上記の実施形態と異なる。このように、軸方向に離隔した複数の凸部(保持部13a)を外方部材11の固定溝11bに差し込むことで、フォイル13の端部が軸方向に離隔した2箇所で固定溝11bに保持されるため、フォイル13を軸方向でバランスよく保持することができる。本実施形態では、
図10に示す実施形態と同様に、フォイル13の他端にスリット13dを設け、このスリット13dに保持部13aを挿入している。これに限らず、図示は省略するが、
図4に示す実施形態と同様に、フォイル13の他端に、本体部13cを延在させた複数の凸部からなる保持部13bを設け、この保持部13bの間の凹部に一方の保持部13aを挿入してもよい。また、フォイル13の外方部材11への取付は、
図3に示すように保持部13a、13bを共に固定溝11b、11cに差し込んでもよいし、
図11に示すように一方の保持部13aのみを固定溝11bに差し込んで、他方の保持部13bは外方部材11の内周面11aに沿わせるようにしてもよい。また、
図13では保持部13aを構成する凸部を2個の凸部で構成しているが、これに限らず、保持部13aを構成する凸部の数を3個以上としてもよい。この場合、保持部13aの凸部と同数のスリット13dが設けられる。
【0037】
以上の説明では、フォイル軸受10にフォイル13を3枚設けた場合を示したが、これに限らず、フォイル13を2枚、あるいは4枚以上設けてもよい。
【0038】
また、以上の説明では、軸6を回転側部材とし、外方部材11を固定側部材とした場合を例示したが、これとは逆に軸6を固定側部材とし、外方部材11を回転側部材とした場合にも
図3の構成をそのまま適用することもできる。但し、この場合はフォイル13が回転側部材となるので、遠心力によるフォイル13全体の変形を考慮してフォイル13の設計を行う必要がある。
【0039】
本発明にかかるフォイル軸受10の適用対象は、上述したガスタービンに限られず、例えば過給機のロータを支持する軸受としても使用することができる。過給機は、
図14に示すように、エンジン53で生じた排気ガスでタービン51を駆動し、その駆動力で圧縮機52を回転させて吸入エアを圧縮し、エンジン53のトルクアップや効率改善を図るものである。タービン51、圧縮機52、および軸6でロータが構成され、軸6を支持するラジアル軸受10として、上記各実施形態のフォイル軸受10を使用することができる。
【0040】
本発明にかかるフォイル軸受は、ガスタービンや過給機等のターボ機械に限らず、潤滑油などの液体による潤滑が困難である、エネルギー効率の観点から潤滑油循環系の補機を別途設けることが困難である、あるいは液体のせん断による抵抗が問題になる等の制限下で使用される自動車等の車両用軸受、さらには産業機器用の軸受として広く使用することが可能である。
【0041】
また、以上に説明した各フォイル軸受は、圧力発生流体として空気を使用した空気動圧軸受であるが、これに限らず、圧力発生流体としてその他のガスを使用することもでき、あるいは水や油などの液体を使用することもできる。さらに、軸6と外方部材11のどちらか一方を回転側の部材、他方を固定側の部材として用いる場合を例示したが、双方の部材を、速度差を持つ回転側の部材として使用することもできる。