【文献】
Sens. Actuators B Chem., (2000), 64, [1-3], p.88-94
【文献】
田村隆明編, 「無敵のバイオテクニカルシリーズ 改訂 遺伝子工学実験ノート 上 DNAを得る[取り扱いの基本と抽出・精製・分離」, 第2版, 株式会社羊土社, (2006), p.34-35 遺伝子工学実験ノート 上 DNAを得る[取り扱いの基本と抽出・
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を開示、記載する前に、本発明は、本明細書に開示される特定の構造、工程段階、または物質に限定されず、関連技術分野の当業者によって認識されるようなその等価物にまで拡張されることが理解されるべきである。本明細書で用いられる用語は、特定の実施形態を記載する目的のみに使用され、限定を意図するものではないこともまた、理解されるべきである。
【0012】
本明細書および添付の特許請求の範囲において用いられる場合、文脈が明らかに異なることを示さない限り、単数形「a」、「an」、および「the」は複数の指示対象を包含することに留意しなければならない。従って、例えば、「バッファー(a buffer)」に対する言及は1つ以上のこのようなバッファーを含み、「化学物質(the chemical)」に対する言及は1つ以上のこのような化学物質に対する言及を含む。
【0013】
定義
本発明の記載および特許請求において、以下の用語は、下記に記載の定義に従って用いられる。
【0014】
本明細書において用いられる場合、「溶出」という用語は、生体物質を基板または溶液から除去する行為を指す。いくつかの態様では、このような除去は、バッファーのような液体または流体の使用を通じて達成されうる。
【0015】
本明細書において用いられる場合、「個別の空間的位置」という用語は、生体物質が回収され得るマイクロアレイスライド上の個別の空間的位置を指す。1つの態様では、個別の空間的位置は、周囲に明確な境界を有するプローブコレクションであり得る。このような境界は、付着したプローブを含まないスライド表面上の空間を包含し得る。他の態様では、個別の空間的位置は、マイクロアレイスライドの表面上のより大きなプローブ付着領域に位置するプローブコレクションであり得、このような場合には、プローブを含まない、個別の空間的位置の周囲の領域はない場合がある。
【0016】
本明細書において用いられる場合、「実質的に」という用語は、完全なまたは完全に近い範囲もしくは程度の作用、特徴、特性、状態、構造、項目、または結果を指す。例えば、「実質的に」囲まれた対象とは、完全に囲まれたまたはほぼ完全に囲まれた対象であることを意味するであろう。絶対的な完全性からのずれの厳密な許容程度は、ある場合には、特定の文脈に依存しうる。しかし、一般的に言えば、完全に近いとは、あたかも絶対的および全体的な完全性が得られたのとの同様の結果を有するようなものであろう。「実質的に」の使用は、作用、特徴、特性、状態、構造、項目、または結果の完全なまたはほぼ完全な欠如を指すような否定的な意味において用いられる場合にも、同様に適用される。例えば、粒子を「実質的に含まない」組成物は、完全に粒子を含まない、または、その影響があたかも粒子を完全に含まないものと同様なほど、ほぼ完全に粒子を含まない。言い換えれば、ある成分または要素を「実質的に含まない」組成物は、その測定可能な影響がない限り、実際にはこのような項目をまだ含有しうる。
【0017】
本明細書において用いられる場合、「約」という用語は、所定の値が端点の「少し上」または「少し下」でありうることを規定することによって、数値範囲の端点に柔軟性を与えるために使用される。
【0018】
本明細書において用いられる場合、複数の項目、構造要素、組成成分、および/または物質は、便宜上共通のリストで表示されうる。しかし、これらのリストは、そのリストのそれぞれの要素が別個かつ固有の要素として独立して特定されるように解釈されるべきである。従って、このようなリストの個々の要素は、反対の指示がなければ、共通の群に提示されていることのみに基づいて、同一リストの他の任意の要素と事実上の同等物として解釈されるべきではない。
【0019】
濃度、量、および他の数値データは、本明細書において範囲の形式で表現または表示されうる。このような範囲の形式は単に便宜上および簡略のために使用され、従って、範囲の限界として明確に挙げた数値だけでなく、それぞれの数値および部分範囲が明確に列挙されたかのように、その範囲内に含まれるすべての個々の数値または部分範囲をも包含するように柔軟に解釈されるべきであることが理解される。例として、「約1〜約5」の数値範囲は、約1〜約5の明確に挙げた値だけでなく、示された範囲内の個々の値および部分範囲をも包含すると解釈されるべきである。従って、この数値範囲に含まれるのは、2、3、および4のような個々の値ならびに1〜3、2〜4、および3〜5などの部分範囲、ならびに1、2、3、4、および5のそれぞれである。これと同様の原則は、最小値または最大値として1つの数値のみを挙げた範囲にも適用される。更に、このような解釈は、記載されている範囲の幅または特性に関わらず適用されるべきである。
【0020】
本発明
本発明は、マイクロアレイスライド上の個別の空間的位置から生体物質を選択的に溶出するための方法およびシステムを提供する。記載されているように、1つの態様では、マイクロアレイスライドは、生体物質をアッセイするための多数の特異的な結合部位またはハイブリダイゼーション部位を包含する。DNAマイクロアレイの場合には、例えば、特定の配列を有するヌクレオチドが特定のフィーチャーに集合し、それらは一般的にプローブセットと呼ばれる。その結果、相補的なヌクレオチド配列は、標的ヌクレオチド配列に対応するプローブフィーチャーにハイブリダイズし、そこに局在化され得る。従って、サンプル中の特異的ヌクレオチド配列の存在は、その配列に対応するプローブへのヌクレオチド結合によって検証され得る。
【0021】
マイクロアレイは、その高い診断的有用性のために頻繁に利用されている。しかし、これまでの使用はしばしば、生体物質のカタログ化または発現レベルの変化の解析に限定されていた。マイクロアレイに結合する標的配列が多数であるため、アレイから特定の配列を単離することは困難であることが証明されている。標的配列のマイクロアレイからの回収は通常、すべての結合配列のマイクロアレイからの変性、および目的とする標的配列の増幅を必要としている。
【0022】
本発明は、マイクロアレイスライドから標的配列、または標的配列のコレクションを単離するための技術を提供する。このような標的配列、または言い換えれば生体物質は、マイクロアレイスライドから回収されるために選択される。生体物質は、マイクロアレイスライドの診断的有用性の結果として選択され得る。例えば、目的とする生体物質は、マイクロアレイスライド上のその結合位置に基づいて同定され得る。このような場合、マイクロアレイスライド表面は、そこに結合する生体物質の同定および選択的回収を容易にする位置に、プローブを空間的に配置するように設計され得る。加えて、プローブは、グループ化された生体物質の同時同定および選択的回収を容易にするために、関連した生体物質が空間的にグループ化されるように、マイクロアレイスライド表面上に配置され得る。
【0023】
プローブのコレクションは様々な方法で定義され得、そのすべては本発明の範囲内に含まれるべきであることに留意しなければならない。1つの態様では、例えば、プローブのコレクションは、マイクロアレイスライド上の個別の空間的位置またはスポットに付着する多数のプローブの混合物を含みうる。このような場合、プローブは、個別の空間的位置全体にわたって均一に混合されうる。このプローブのコレクションにハイブリダイズしている生体物質の回収は、その個別の位置に付着したプローブの混合物に対応する生体物質の混合物を含有するであろう。他の態様では、プローブのコレクションは、個別の空間的位置が多数の単一または複数のプローブスポットを含みうるように、マイクロアレイスライド上に付着され得る。言い換えれば、個別の空間的位置は、多数のより小さいプローブスポットで構成されてもよく、そこでは、それぞれのプローブスポットはプローブのコレクション全体の一部を含有するが、プローブのコレクション全体はプローブスポットのコレクション全体にわたって表される。1つの特定の態様では、各プローブスポットは、単一のプローブ配列を含み得る。他の特定の態様では、各プローブスポットは、コレクション全体に由来するプローブ配列の一部を含み得る。生体物質は、個別の空間的位置全体にわたって、またはある場合には、プローブコレクション内のプローブスポットの一部から回収され得る。個別の空間的位置が、単一のプローブ配列を含有するプローブスポットのコレクション、および2つ以上のプローブ配列を含有するプローブスポットのコレクションで構成され得ることもまた企図される。
【0024】
選択された生体物質はその後、フィーチャー、すなわち言い換えれば、マイクロアレイスライド上の個別の位置に位置付けられる。選択された生体物質の少なくとも一部はその後、その個別の空間領域内ではないマイクロアレイスライドの領域から実質的な量の選択されていない生体物質を溶出することなく、個別の空間領域から溶出される。このような選択的溶出は、様々な方法で起こり得る。例えば、溶出バッファーがマイクロアレイに添加され得る。1つの態様では、溶出バッファーは、選択された生体物質のマイクロアレイからの変性を促進する変性バッファーであり得る。このような場合、選択されていない生体物質の変性を避けるために、変性バッファーの添加を個別の空間的位置に限定することが有益でありうる。
【0025】
他の態様では、溶出バッファーは、生体物質の変性を実質的に促進しないバッファーとして設定されうる。このような場合、選択された生体物質を変性させるために、二次的な変性機構が適用される。例えば、1つの態様では、溶出バッファーが個別の空間的位置に添加され、選択された生体物質は、その個別の空間的位置への熱源の適用によって変性され得る。従って、熱源から生じる熱は生体物質を変性させるために利用され得、その後、生体物質はマイクロアレイから遊離して溶出バッファーに懸濁される。他の態様では、溶出バッファーは、マイクロアレイのより広い領域に添加され、選択された生体物質を変性させるために、熱源が個別の空間的位置に適用され得る。溶出バッファーは生体物質の変性を実質的に促進しないため、最初に選択された生体物質は変性熱源の限局した作用により、マイクロアレイスライドの表面から溶出バッファー中に遊離する。バッファーが個別の空間的位置のみに添加される状況と比較して、利用可能な溶出バッファーの量がより多いため、この方法ではより高い熱が利用できる。選択された生体物質の変性を更に促進するために、熱源が変性バッファーの存在下で個別の空間的位置に適用され得ることにも留意しなければならない。更に他の態様では、溶出は光によって促進され得る。例えば、予めハイブリダイズしたマイクロアレイを構成するオリゴヌクレオチドが光に不安定な化学結合を用いて表面に結合している場合、方向性を持った光が、選択された位置でオリゴヌクレオチドおよびハイブリダイズした物質を特異的に切断し得る。場合によっては、これはアレイを合成するために使用される装置を用いて行われ得る。
【0026】
選択された生体物質の変性に続いて、マイクロアレイを不活性な回収バッファーで洗い流し、溶出された生体物質を回収することができる。選択された生体物質はその後、回収バッファー中で利用され、またはこのような物質は、標準的な方法を用いて回収バッファーから更に分離され得る。溶出バッファーの添加、変性、および生体物質の回収ステップを繰り返すことによって、単一のマイクロアレイスライドからの異なる標的物質の個別回収が達成され得る。
【0027】
本発明の1つの特定の態様では、選択された生体物質は、荷電表面の使用によって回収され得る。例えば、核酸を回収する場合には、表面は正電荷を有するであろう。荷電表面は、生体物質の回収を促進する任意の幾何学的形状であり得る。非限定的な例は、平面、針、半球などを含み得る。1つの態様では、変性バッファーを目的とする個別の空間領域に加え、変性バッファー中に正電荷を有する表面を導入して、負電荷を有する生体物質をそれに引き付けることができる。荷電表面をその後、回収溶液中に置き、荷電表面に負電荷を与えて、生体物質を遊離させることができる。このような方法の1つの利点は、生体物質の遊離の前に荷電表面を洗浄して変性バッファーを除去できることを含む。
【0028】
回収された溶出生体物質断片はその後、更に配列決定、ハイブリダイゼーション、PCRなどの処理に使用され得る。1つの態様では、回収された物質は、配列決定のためのインプットサンプルとして使用されうる。例えば、マイクロアレイは、インプットプールから核酸断片の1つ以上のサブセットを単離するために使用され、回収されたサブセットはその後、配列決定のために使用され得る。いくつかの態様では、ハイブリダイズ後のアレイがスキャンされ、標的核酸断片が選択され、配列決定もしくは他の用途のために個別にまたは同時に回収されうる。アレイ上での位置は、回収のために標的断片を同定する方法の一部として使用され得る。回収のための標的断片は、この過程で事前同定されていても、またはこの過程で同定されても良い。本発明の方法に従って標的断片を同定および回収する能力は、その後の配列決定過程の効率を大幅に改善する。
【0029】
他の態様では、生体物質は、in situハイブリダイゼーションに使用され得る。より具体的な態様では、あるin situハイブリダイゼーション法は、aCGH(アレイ比較ゲノムハイブリダイゼーション)によって同定された染色体領域のFISH(蛍光in situハイブリダイゼーション)解析のためのプローブまたは複数のプローブとして、生体物質を利用することを含み得る。aCGHは、ゲノムコピー数の変化を調べるために使用されるアレイに基づく技術である。aCGHに関する1つの潜在的な問題は、特に、しばしば度重なるゲノム変化を受け、しばしば非形質転換組織が混入する腫瘍組織が有する、インプットサンプルの不均一性である。ゲノムコピー数が、サンプルの調製のために使用される細胞集団において変動しやすい場合、結果として得られるデータは、この集団の平均値を示し、従って、目的とする個々の任意の細胞からの感度は低下するであろう。FISHは、個々の細胞における検査および特定の染色体座の定量化を可能にする。
【0030】
染色体FISHにおける標的DNA分子の数はしばしば非常に少なく、通常の状況では細胞あたり2個であり得る。従って、標準的な研究室の蛍光顕微鏡で見るために、各プローブ分子から顕著な蛍光シグナルが発せられなければならない。これを補うために、FISHに使用される核酸プローブ(しばしばBAC)は、多数の蛍光色素分子が各プローブ内に取り込まれるように、一般的に非常に長い(100 kb以上)。これらのBACプローブは小さいDNA断片にせん断され得るが、その結果、蛍光標識プローブの標的となる目的の染色体領域は通常、100 kb以上となる。これは、プローブが染色体に沿って比較的まばらに位置し、標識化される標的が比較的短い、全ゲノムCGHアレイから回収された断片を用いる場合の潜在的な問題である。1つの例は、平均300塩基長の標識化標的とハイブリダイズした300,000プローブのヒトCGHアレイでありうる。FISHにおいて100 kbの領域を標的とする物質を回収したい場合、マイクロアレイ上の10プローブだけから物質を回収することになり(300,000プローブ/30億塩基 = 1 プローブ/10 kb)、目的とする染色体領域の3%だけが標的となるであろう(1プローブ/10 kb×平均300塩基/プローブ = 3%)。従って、可能なシグナルは、目的とする領域の最大100%を標的とするBACプローブを用いて得ることができるものの3%だけであろう。従って、マイクロアレイ実験では、高密度アレイおよびより長い標識化標的を使用することが好ましい。例えば、210万プローブのアレイが600 bpの断片を用いてハイブリダイズされた場合、目的とする染色体領域の42%がFISH実験での標的とされるであろう(210万プローブ/30億塩基 = 1 プローブ/1430塩基×平均600塩基/プローブ = 42%)。
【0031】
記載したように、本発明は、高密度アレイ上の個々のプローブから断片を回収する方法を提供する。他の態様では、しかし、固定化されたプローブの「コレクション」からなるマイクロアレイを作製することが望ましい場合があり、そこでは、所定のコレクション中の各プローブが異なる配列であり、各プローブコレクションが単一の遺伝子位置に対応する。例えば、3000メガ塩基のヒトゲノムは、3000個のプローブコレクションのマイクロアレイを作製することにより、アレイCGHによって分析されうる。これらのコレクションはアレイ上で空間的に分離され、隣接したコレクションのいずれにも影響を及ぼすことなく、単一のまたは小さい群のコレクション中のすべてのプローブからハイブリダイズした物質を変性および回収することができるであろう。変性および回収は、所定のプローブ位置に変性バッファーの小滴を繰り返し分注および吸引するマイクロピペットチップを使用することによって達成されうる。この例では、各コレクションは、連続的な1メガ塩基の領域内の配列に由来するプローブを示す。コレクションは、1メガ塩基の領域にわたってほぼ均一の間隔を置いた1000プローブで作製されうる。この方法により、1メガ塩基が解明でき、言い換えれば、その後のFISHのような生化学的処理のために、任意の1メガ塩基範囲内のすべてのゲノム断片のサンプリングが可能になる。
【0032】
「コレクション」内に固定化されるプローブは様々な遺伝子位置に対応し得ることにも留意しなければならない。例えば、類似した機能を有する、または特定の疾患もしくは症状に関連性を有する生体物質の配列を標的とするプローブは、機能的に関連した生体物質の同時回収を容易にするために、コレクション内に局在化されうる。
【0033】
1つの態様では、溶出された標識サンプルが増幅を必要とせずにFISHプローブとして直接使用され得る場合、この技術はFISHにとって特に有利であり得る。溶出される物質の総量は非常に少ない可能性が高いため、ハイブリダイゼーション反応での濃度を最大にするために、装置は溶出された物質を非常に少量、例えば1マイクロリットルで回収しなくてはならない。従って、FISHハイブリダイゼーションに使用される組織サンプルは非常に小さい必要があり(直径数ミリメートル以下)、チャンバー容積はわずか数マイクロリットルである必要がある。この技術は、マイクロ流体デバイスに特によく適している。このような装置の例は、限定されることなく、BioMicro社の16 chamber MAUI Mixerを含み得る。他の態様では、生体物質は、マイクロアレイスライドから回収された後、使用前に、増幅または別の方法で化学的に修飾され得る。
【0034】
加えて、マイクロアレイスライド表面上に位置し得るすべての種類の生体物質は、本発明の技術によって単離され得ることが企図される。このような生体物質の非限定的な例は、DNA、cDNA、RNA、ペプチド、脂質、炭水化物など、およびこれらの組合せを包含する。当業者は、マイクロアレイの形状、溶液およびバッファー、熱源および温度などが、生体物質の種類に応じて変化しうることを理解するであろう。このような場合、これらの変形形態は、本発明の範囲内であると考えられるべきである。
【0035】
本発明は、加えて、マイクロアレイスライド上の個別の空間的位置から生体物質を選択的に溶出するためのシステムを提供する。1つの態様では、例えば、マイクロアレイから核酸物質を回収するシステムは、マイクロアレイ表面をスキャンして回収されるべき核酸物質の位置を同定するように設定されたマイクロアレイスキャナー、マイクロアレイスキャナーからの入力を受けて、マイクロアレイスキャナーによって指示された位置でマイクロアレイ表面の分離した分注領域上に溶出バッファーを分注するように設定された分注装置、およびマイクロアレイ表面から溶出バッファーを回収するように設定された回収装置を含み得る。より具体的な態様では、システムは更に、分離した分注領域を加熱するように設定された加熱装置を含み得る。他のより具体的な態様では、加熱装置はレーザーである。
【0036】
一例として、断片溶出処理は下記のように実施されうる:すなわち、ハイブリダイズされ洗浄されたマイクロアレイは、標準的なマイクロアレイスキャナーを用いてスキャンされうる。その結果得られる出力ファイルは、マイクロアレイ上への変性バッファーの正確な配置において分注装置を誘導するために使用されるであろう。例えば、ArrayJet(登録商標)のようなマイクロアレイスポッター(microarray spotter)が、分注装置として使用されうる。変性バッファーおよび手順は、それが接触するハイブリダイズ断片を効率的に溶出すべきであり、その処理の間蒸発してはならず、アレイ上の意図しない位置からの断片の変性を起こすことなく回収できなくてはならない。1つの態様では、1つの考えられる解決法は、尿素およびグリセロールを含有するバッファーを分注し、アレイを加熱して変性を起こし、アレイを冷却して変性を止め、その後、非変性回収バッファーでアレイ全体を洗い流して溶出断片を回収することである。
【0037】
更に、変性および回収の効率は、各回のスライド洗浄および乾燥に伴い著しく連続的に低下しうる。ハイブリダイズ断片を安定化し、特異的な回収効率を改善するために、安定化作用のある洗浄バッファー(特定の界面活性剤を含有する)またはマイクロアレイ表面を開発することが可能でありうる。
【0038】
変性バッファーに曝されないアレイ上の位置からの断片の回収は、溶出断片の純度を低下させうることにも留意しなければならない。溶出バッファーを、それが分注されたアレイ上の位置から直接回収することが、有用であり得る。これは、最小限の回収バッファーを用いてできるかぎり少ない隣接アレイ位置にしか作用しないように、マイクロアレイから溶出バッファーを吸引することによって達成され得る。液体と変性断片はまた、ブロッティングによって、またはビーズの使用によっても回収され得る。これは、液体がアレイの他の部分に接触することを防ぎ、意図しない断片の回収が排除されるであろう。
【0039】
多くのマイクロアレイのフィーチャーのスポット中心間の距離は、分注される変性バッファーの液滴の考えられる最小サイズよりずっと小さく、それが単一のスポットから断片を回収することを困難にさせ得る。1つの考えられる解決法は、任意の「溶出空間」におけるプローブ間のゲノム距離を最小限にするようにスポットが配置されるタイリングアレイを用いることである。
【0040】
本発明の他の態様では、マイクロアレイスライドに結合した生体物質を選択的に標識化するための方法が提供される。1つの態様では、このような方法は、標識化されるべき生体物質を選択すること、マイクロアレイスライド表面上の個別の空間領域内の生体物質の位置を特定すること、および、その個別の空間領域内ではないマイクロアレイスライドの領域に由来する実質的な量の選択されていない生体物質を標識化することなく、個別の空間領域に由来する選択された生体物質の少なくとも一部を標識化すること、を含み得る。様々な選択的標識技術が利用され得るが、1つの態様では、標識化は更に、その個別の空間領域の実質的に外側のマイクロアレイスライドの領域を除いた、個別の空間領域にバッファーを添加すること、および、バッファー中で少なくとも一部の生体物質が標識を取り込むことができるように、個別の空間領域でバッファーに標識を加えること、を含み得る。更に、選択される生体物質は、標識され得る任意の生体物質を含むことができ、それは、DNA、cDNA、RNA、ペプチド、およびこれらの組合せを含むがそれらに限定されない。
【0041】
このような選択性は、アレイ上の特定の位置に存在する生体物質だけを標識化することを含み得る。標識化ステップの後、標識化された物質は正確な位置から回収されてもよく、または標識化された物質は他の物質とともにアレイ全体から回収されてもよい。標識化されていない(または異なる標識によって標識化された)物質とともに標識化された物質を回収する方法は、非標識化(または異なる標識によって標識化された)回収物質がin situハイブリダイゼーション(ISH)アッセイを妨げない場合は、ISHなどの下流の処理のために使用され得る。1つの例は、蛍光標識された標的を用いたCGHアレイであろう。1つの態様では、空間特異的な標識化は、ビオチンのようなハプテン、特徴的なオリゴもしくはペプチド配列、またはその後のISH試験において識別されうる他の分子を使用しうる。特徴的なオリゴまたはペプチド配列を使用する利点は、複数の標識化反応が複数の異なる位置で同時に行われ得ることである。アレイ表面からの回収に続いて、aCGH解析から得られる複数のヒント領域は、同一のISH試験において同時に試験されうる。いくつかの態様では、複数の標識を使用して、別々に標識化され、配列決定のような下流での用途のために異なるプールに回収された断片をその後アフィニティー精製することもできる。
【0042】
標識化ステップの後、プローブなどの固定化された物質をマイクロアレイ表面から遊離させるために、様々な方法が利用され得る。非限定的な方法は、ハイブリダイズもしくは非共有結合した物質の変性、プローブと基板との間への可逆的結合の導入(例えばチオール結合(thio bond)など)、目的とする物質の部分切断(例えば、ヌクレアーゼの使用)、または基板に結合したすべての物質の一斉遊離を含み得る。1つの特定の態様では、アレイ上の特定の位置から物質を遊離させる方法は、目的とする物質だけの正確な遊離を可能にするため、方向性を持った光によって分解される、光に不安定な結合を利用しうる。
【0043】
本発明の他の態様では、マイクロアレイスライドに結合した生体物質を選択的に増幅するための方法が提供される。1つの態様では、このような方法は、増幅されるべき生体物質を選択すること、マイクロアレイスライド表面上の個別の空間領域内の生体物質の位置を特定すること、および、その個別の空間領域内ではないマイクロアレイスライドの領域に由来する実質的な量の選択されていない生体物質を増幅することなく、個別の空間領域に由来する選択された生体物質の少なくとも一部を増幅すること、を含み得る。1つの特定の態様では、増幅は更に、その個別の空間領域の実質的に外側のマイクロアレイスライドの領域を除き、個別の空間領域に増幅バッファーを添加すること、および、増幅バッファー中で少なくとも一部の選択された生体物質を増幅すること、を含み得る。マイクロアレイスライドの表面上で生体物質を増幅できる任意の増幅技術は、本発明の範囲内であると考えられるべきである。非限定的な例は、等温サイクリング(isothermal cycling)および温度サイクリング(thermal cycling)を含み得る。
【0044】
このような増幅のためのアプローチにはいくつかの潜在的利益があり、それは、1)多数の増幅がアレイ上の異なる位置で同時に起こり得ること;および2)各増幅は異なる標識を取り込むことができ、従ってすべての増幅産物がともに回収されることを可能にし、各産物はその独自性を維持しうること、を含むがそれらに限定されない。
【0045】
更に、下記の方法、すなわち、1)ハイブリダイズした核酸が鋳型として使用されうる方法;および2)固定化されたプローブが反応試薬中に存在する位置特異的ではない鋳型のプライマーとして使用され得る方法が、マイクロアレイ上の特定の位置での増幅を達成するために使用され得る。この後者の場合、その空間的情報は、異なるマイクロアレイなどの異なる情報源から入手され得る。
【0046】
プライマーを含む増幅反応試薬は、ピペットもしくはインクジェットプリンターのような手段または装置を用いて目的とする位置に正確に添加され得る。増幅反応はその後、温度サイクリングまたは等温法によって進行する。様々な温度方法および等温法が知られており、マイクロアレイスライド上での生体物質の選択的増幅に適した任意のこのような方法は、本発明の範囲内であると考えられるべきである。
【0047】
1つの態様では、増幅は、最初にアレイ上のすべての位置での増幅をブロッキングし、その後目的とする領域を正確に脱ブロッキングすることによって、個別の位置であるように制御され得る。脱ブロッキングは、方向性を持った光を用いて正確に制御され得る。
【0048】
当然のことながら、上述の方法(arrangements)は単に本発明の原理の適用の説明であることが理解されるべきである。多数の改良および代替方法が、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく当業者によって考案されえ、添付の特許請求の範囲は、このような改良および方法を対象にすることが意図される。従って、本発明は、現在本発明の最も現実的かつ好ましい実施形態であると考えられるものに関して、上記に具体的かつ詳細に記載されているが、サイズ、物質、形状、形態、機能および操作方法、組み立ておよび使用における変更を含むがそれらに限定されない多数の改良が、本明細書に記載される原理および概念から逸脱することなく行われうることは、当業者にとって明白であろう。
本発明の様々な態様をまとめて以下に示す。
1.
マイクロアレイスライドに結合した生体物質を回収する方法であって:
マイクロアレイスライドから回収されるべき生体物質を選択すること;
マイクロアレイスライド表面上の個別の(distinct)空間領域内の生体物質を検出すること;および、
該個別の空間領域内ではないマイクロアレイスライドの領域から実質的な量の選択されていない生体物質を溶出することなく、選択された生体物質の少なくとも一部を該個別の空間領域から溶出すること、
を含む、上記方法。
2.
溶出が更に前記個別の空間領域への溶出バッファーの添加を含む、上記1に記載の方法。
3.
前記溶出バッファーがマイクロアレイスライド表面から生体物質の一部を遊離させるように作用する変性バッファーである、上記2に記載の方法。
4.
前記個別の空間領域の少なくとも一部が加熱され、選択された生体物質の少なくとも一部がマイクロアレイ表面から遊離することを促進する、上記2に記載の方法。
5.
選択された生体物質が、DNA、cDNA、RNA、ペプチド、およびこれらの組合せからなる群より選択される要素である、上記1に記載の方法。
6.
マイクロアレイから核酸物質を回収する方法であって:
マイクロアレイスライド表面上の個別の空間領域にハイブリダイズしている核酸物質を選択すること;
選択された核酸物質を少なくとも部分的に変性させるために該個別の空間領域に変性バッファーを添加すること;および、
マイクロアレイ表面を不活性な回収バッファーで洗い流して、選択された核酸物質の変性部分を回収すること
を含む、上記方法。
7.
選択された核酸物質の変性部分を不活性な回収バッファーから回収することを更に含む、上記6に記載の方法。
8.
前記個別の空間領域に熱を加えて、選択された核酸物質の少なくとも一部の変性を促進することを更に含む、上記6に記載の方法。
9.
マイクロアレイから核酸物質を回収するシステムであって:
マイクロアレイ表面をスキャンして回収されるべき核酸物質の位置を同定するように設定されたマイクロアレイスキャナー;
マイクロアレイスキャナーからの入力を受けて、マイクロアレイスキャナーによって指示された位置でマイクロアレイ表面の分離した(discrete)分注領域上に溶出バッファーを分注するように設定された分注装置;および
マイクロアレイ表面から溶出バッファーを回収するように設定された回収装置
を含む、上記システム。
10.
前記の分離した分注領域を加熱するように設定された加熱装置を更に含む、上記9に記載のシステム。
11.
前記加熱装置がレーザーである、上記10に記載のシステム。
12.
前記回収装置が荷電表面である、上記10に記載のシステム。
13.
生体物質をin situハイブリダイゼーションプローブとして使用する方法であって:
上記1に記載されるように生体物質を回収すること;
該生体物質をin situハイブリダイゼーションのためのプローブとして利用すること
を含む、上記方法。
14.
前記生体物質が有意な増幅なしにプローブとして利用される、上記13に記載の方法。
15.
前記生体物質がプローブとして利用される前に増幅される、上記13に記載の方法。
16.
前記in situハイブリダイゼーションが蛍光in situハイブリダイゼーションである、上記13に記載の方法。
17.
マイクロアレイスライドに結合した生体物質を選択的に標識化する方法であって:
標識化されるべき生体物質を選択すること;
マイクロアレイスライド表面上の個別の空間領域内の生体物質の位置を特定すること;および
該個別の空間領域内ではないマイクロアレイスライドの領域に由来する実質的な量の選択されていない生体物質を標識化することなく、該個別の空間領域に由来する選択された生体物質の少なくとも一部を標識化すること
を含む、上記方法。
18.
標識化が更に:
前記個別の空間的位置で生体物質を選択的に修飾すること;および
マイクロアレイスライドの一部またはマイクロアレイスライド全体のいずれかを、事前に修飾された生体物質だけが反応し得る物質を用いて処理すること
を含む、上記17に記載の方法。
19.
前記生体物質が方向性を持った光(directed light)を用いて選択的に修飾される、上記18に記載の方法。
20.
前記生体物質が分注された試薬を用いて選択的に修飾される、上記18に記載の方法。
21.
標識化が更に:
前記個別の空間領域の実質的に外側のマイクロアレイスライドの領域を除き、前記個別の空間領域にバッファーを添加すること;および
バッファー中で少なくとも一部の生体物質が標識を取り込むことができるように、前記個別の空間領域でバッファーに標識を加えること
を含む、上記17に記載の方法。
22.
選択された生体物質が、DNA、cDNA、RNA、ペプチド、およびこれらの組合せからなる群より選択される要素である、上記17に記載の方法。
23.
マイクロアレイスライドに結合した生体物質を選択的に増幅する方法であって:
増幅されるべき生体物質を選択すること;
マイクロアレイスライド表面上の個別の空間領域内の生体物質の位置を特定すること;および
該個別の空間領域内ではないマイクロアレイスライドの領域に由来する実質的な量の選択されていない生体物質を増幅することなく、該個別の空間領域に由来する選択された生体物質の少なくとも一部を増幅すること
を含む、上記方法。
24.
標識化が更に:
前記個別の空間的位置で生体物質を選択的に修飾すること;および
マイクロアレイスライドの一部またはマイクロアレイスライド全体のいずれかを、事前に修飾された生体物質だけが反応し得る物質を用いて処理すること
を含む、上記23に記載の方法。
25.
前記生体物質が方向性を持った光を用いて選択的に修飾される、上記24に記載の方法。
26.
前記生体物質が分注された試薬を用いて選択的に修飾される、上記24に記載の方法。
27.
増幅が更に:
前記個別の空間領域の実質的に外側のマイクロアレイスライドの領域を除き、前記個別の空間領域に増幅バッファーを添加すること;および
増幅バッファー中で少なくとも一部の選択された生体物質を増幅すること
を含む、上記23に記載の方法。
28.
選択された生体物質の一部が等温サイクリング(isothermal cycling)によって増幅される、上記23に記載の方法。
29.
選択された生体物質の一部が温度サイクリング(thermal cycling)によって増幅される、上記23に記載の方法。