【実施例】
【0037】
以下、本発明に係る天然(L)−メントール精製物及びその製造方法並びにその評価方法に関する実施例を示すことにより、本発明の効果をより明確なものとする。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
天然由来の粗メントールを加熱融解し、活性炭を添加し、撹拌した。その後活性炭を除去し、ろ液からメントールを再結晶化させ、天然(L)−メントール精製物を得た。この時、得られた精製物の官能評価を行った。また、メントール精製物を蒸留し、残渣にエタノールを添加した。これを色差測定サンプルとしてL*a*b*値を測定し、彩度を求めた。
【0039】
(製造例1)
粗メントール500gを加熱融解させ、活性炭(0重量%、1重量%、2重量%、4重量%)を添加した。その後60℃温浴下で、0、2.5、5、15時間撹拌することで、夾雑物を吸着させた。その後0.5μmメンブレンフィルターにて吸引ろ過し、活性炭を除去した。その結果得られたろ液を常温に放置することで冷却し、再結晶化させた。なお、本実施例中の活性炭としては、日本エンバイロケミカルズ社製の精製白鷺(醸造用)を使用した。
次に、天然(L)−メントール精製物を用いたフィルター付きシガレット作製手順について説明する。まず、得られた天然(L)−メントール精製物を溶媒液中に溶解させ添加液を作製する。溶媒液としては、エタノールを用いた。なお、添加液は天然(L)メントール以外に他の香料を含むものであってもよいし、溶媒液もエタノールに限られるものではない。また、特に限定されるものでないが、天然(L)メントールと溶媒液の配合割合は、9:1〜5:5であれば良い。その後、作製した添加液をスプレー噴霧やノズル添加などの方法により、たばこ刻(アメリカンブレンド、2香未済)に10,000ppm添加し、フィルター付きシガレットに巻上げた。また、シガレット中のメントール添加箇所について、たばこ刻以外にもフィルターであっても良く、特に限定されるものではない。
なお、シガレットへの天然(L)メントールを用いたフィルター付きシガレット作成手順について、下記の製造例2及び3についても同様の手順で行った。
次に、シガレット喫味による官能評価について説明する。評価は、14名の訓練された専門評価者によって行われた。喫味評価では清涼感の強さとミント様香気の良さ強さの二つを評価項目とした。清涼感とミント様香気を兼ね備えた天然(L)メントールをたばこに配合した場合に、嗜好性が高いたばこ製品ということができる。
また、天然(L)−メントール精製物250gを80℃、2kPa以下で蒸留した。その結果生じた残渣に95%エタノール20mlを添加した。これを色差測定サンプルとし、L*a*b*値をISO 7724 (JIS Z8722)に準じた測色色差計 ZE−2000(日本電色工業社製)を用いて測定し、彩度を求めた。測定方法としては、透過法を用いた。結果を表1に示す。彩度が1を超えるものをそれぞれ比較例1、2とし、1以下のものをそれぞれ実施例1,2,3,4とした。
なお、彩度は、測色色差計にて測定したL*a*b*を次式により算出することにより求めることができる。L*,a*,b*(これら3つの値を合わせてL*a*b*値という)は、それぞれ色の明度(L=0は黒、L=100は白の拡散色)、赤と緑の間の位置(aの負の値は緑寄りで、正の値は赤寄り)、黄色と青の間の位置(bの負の値は青寄り、正の値は黄色寄り)に対応している。
【0040】
【0041】
(製造例2)
粗メントール6000gを80℃、2kPa以下で蒸留した。重量が3000gになるまで濃縮したものを夾雑物2倍濃縮品とした。なお、蒸留液の一部は製造例3で使用する。
この夾雑物2倍濃縮品500gを加熱融解させ、活性炭(0重量%、1重量%、2重量%、4重量%)を添加した。その後60℃温浴下で、0、2.5、5、15時間撹拌することで、夾雑物を吸着させた。その後0.5μmメンブレンフィルターにて吸引ろ過し、活性炭を除去した。その結果得られたろ液を常温に放置することで冷却し、再結晶化させた。
得られた天然(L)−メントール精製物を製造例1と同様にたばこ刻に10,000ppm添加し、フィルター付きシガレット(アメリカンブレンド、2香未済)に巻上げた。その後に、喫味による官能評価を行った。喫味評価では清涼感の強さとミント様香気の良さ強さの二つを評価項目とした。清涼感とミント様香気を兼ね備えた天然(L)メントールを、たばこに配合した場合に、嗜好性が高いたばこ製品ということができる。また、天然(L)−メントール精製物250gを80℃、2kPa以下で蒸留した。その結果生じた残渣に95%エタノール20mlを添加した。これを色差測定サンプルとし、L*a*b*値を、ISO 7724(JIS Z8722)に準じた測色色差計 ZE−2000(日本電色工業社製)を用いて測定し、彩度を求めた。結果を表1に示す。彩度が1を超えるものをそれぞれ比較例3,4,5,6,7とし、1以下のものを実施例5とした。
【0042】
(製造例3)
製造例2で得た蒸留液の一部である1500gと粗メントール1500gを混合したものを夾雑物1/2倍濃縮品とした。
この夾雑物1/2倍濃縮品500gを加熱融解させ、活性炭(0重量%、1重量%、2重量%、4重量%)を添加した。その後60℃温浴下で、0、2.5、5、15時間撹拌することで、夾雑物を吸着させた。その後0.5μmメンブレンフィルターにて吸引ろ過し、活性炭を除去した。その結果得られたろ液を常温に放置することで冷却し、再結晶化させた。
得られた天然(L)−メントール精製物を製造例1,2と同様にたばこ刻に10,000ppm添加し、フィルター付きシガレット(アメリカンブレンド、2香未済)に巻上げた。その後に、喫味による官能評価を行った。喫味評価では清涼感の強さとミント様香気の良さ強さの二つを評価項目とした。清涼感とミント様香気を兼ね備えた天然(L)メントールを、たばこに配合した場合に、嗜好性が高いたばこ製品ということができる。また、天然(L)−メントール精製物250gを80℃、2kPa以下で蒸留した。その結果生じた残渣に95%エタノール20mlを添加した。これを色差計測定サンプルとし、L*a*b*値をISO7724(JIS Z8722)に準じた測色色差計 ZE−2000(日本電色工業社製)を用いて測定し、彩度を求めた。結果を表1に示す。彩度が全て1以下のものを、それぞれ実施例6,7,8,9,10,11とした。
【0043】
【表1】
【0044】
<評価>
訓練された14名のパネラーにより喫煙時のシガレットについて清涼感、ミント様香気の官能試験を行って、10点満点で評価し、それらの平均を以下のように評価した。
・評点8.0以上:A評価(清涼感がとても強く、あるいはミント様香気がとても良く強い)、
・評点7.0以上8.0未満:B評価(清涼感が強く、あるいはミント様香気が良く強い)、
・評点6.0以上7.0未満:C評価(清涼感、あるいはミント様香気がやや弱い)、
・評点6.0未満:D評価(清涼感、あるいはミント様香気が弱い)。
【0045】
表1の「撹拌時間」とは、天然(L)−メントール精製物を加熱融解後、活性炭を添加してから60℃温浴下で撹拌した時間を示す。
【0046】
表1より、一般に活性炭添加量が多いほど喫味評価が清涼感、ミント様香気ともに高いことが分かった。しかし、添加量が夾雑物の量に対して多すぎると、ミント様香気の評価が下がることが示された(実施例11参照)。
【0047】
また、製造例1においては撹拌時間が長いほど清涼感が増すが、製造例2及び3では、撹拌時間による喫味評価の差は確認できなかった。
【0048】
どの実施例においても、彩度が低いほど喫味評価が高い傾向を示した。しかし、彩度が0.31以下になると(実施例11参照)、ミント様香気を損ねてしまう。また、彩度が1以下であれば、清涼感及びミント様香気の評価が比較的高く、彩度が0.4乃至0.6の範囲内にあると、清涼感及びミント様香気の評価がともにAで、非常に高かった。
【0049】
製造例1及び2では、活性炭添加量が多いほどL*値が高いが、その差は非常に小さかった。製造例3では、活性炭添加量とL*値の相関は見いだせなかった。
【0050】
前記彩度と似た傾向を示し、どの製造例でもb*値が低いほど喫味評価が高かった。つまり、天然(L)−メントール精製物に夾雑物が多いと、色差計による評価の際、黄色を呈することがわかった。
【0051】
以上のことから、彩度は喫味評価と相関していることから、この評価方法を用いて彩度を指標とすれば、喫味を官能評価だけでなく、数値で評価することができるといえる。また、一般に活性炭を多く添加するほど喫味評価の高い天然(L)−メントール精製物が得られる。つまり、夾雑物が少ないほど嗜好性の高い天然(L)−メントール精製物といえるが、夾雑物が少なすぎると逆に喫味評価、とりわけミント様香気を損ねてしまうことがわかった。よって、清涼感とミント様香気を兼ね備えた天然(L)−メントール精製物には、微量の夾雑物の存在が必要であると考えられる。したがって、本発明の天然(L)−メントール精製物の製造方法は、活性炭添加量などの精製条件を考慮すれば、清涼感とミント様香気を兼ね備えた天然(L)−メントール精製物を容易にかつ安価に供給できる製造方法であるといえる。
【0052】
<残渣中に含まれる金属元素の分析と測定>
次に、活性炭処理により夾雑物が低減除去されているかを確認するため、活性炭処理前の粗メントール及び活性炭処理後のメントール精製物の残渣中に含まれる金属元素の分析及び測定を以下の方法で行った。
【0053】
活性炭処理前の粗メントールと製造例1の実施例4と同じ条件で調製した活性炭処理後のメントール精製物をそれぞれ5000gずつ用意し、これらを60℃にて加熱融解した。その後80℃、2kPa以下で蒸留し、残渣をそれぞれ0.396g、0.829g得た。このサンプルについて、以下の試薬及び計測機器を用い、ICP MSによって元素分析を行った。
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
<分析サンプルの調製方法>
得られた残渣の内0.1g〜0.2gをテフロン(登録商標)製の容器に移し、5mlの硝酸溶液を添加した。
さらに1mlのH
2O
2を添加し、容器を密閉した。この容器をマイクロ波試料分解装置に設置し、150℃下で20分間分解処理をした。
その後容器を冷却し、マイクロ波試料分解装置から取り出した。容器中の残渣を100mlメスフラスコに移し、超純水で100mlまでメスアップし、よく振とうさせた。
この試料溶液を金属元素の分析及び測定に使用した。
【0057】
残渣を添加しないブランクも上記の方法により調製した。
また、検量線を作成するための標準液を多元素標準溶液XVI及び硝酸溶液を用いて調製した。
具体的には、まず多元素標準溶液1mlに0.2%硝酸溶液を加えて100mlにメスアップし、1000ppbの標準原液を調製した。
この標準原液及び1.0%硝酸溶液を用いて1ppb、3ppb、5ppb、10ppb、15ppb、20ppbの標準液を調製した。
【0058】
測定結果は以下の式を用いて濃度(ppm)に換算した。
{(サンプルリード−ブランクリード)×試料溶液の容積}/(残渣の重量g×1000)
結果を表4に示す。
【0059】
【表4】
単位:ppm
【0060】
表4より、活性炭処理を行った場合、金属元素の量が行わなかった場合の1/29〜1/118に減少することがわかった。
つまり、活性炭処理により夾雑物の量が大幅に減少することがわかった。
このことから、活性炭を添加して精製することでメントールから上記鉄、亜鉛、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム等の金属元素を含む夾雑物の大部分を除去することができるといえる。
したがって、本発明の天然(L)−メントール精製物の製造方法は、活性炭を添加することで、夾雑物の少ない天然(L)−メントール精製物を容易にかつ安価に供給できる製造方法であるといえる。