【実施例】
【0027】
表1に示す組成の耐熱鋼について、高周波誘導溶解炉の大気溶解により溶湯を溶製し、鋳造を行なって供試材を作製した。表1に示す供試材のうち、発明例は発明例1〜5、比較例は比較例1〜7である。なお、Coを含有する参考例を比較のため作製した。
【0028】
【表1】
【0029】
そして、各供試材について、固相線温度、引張強さ、引張伸び、圧縮変形率及び耐酸化性の指標となる酸化減量速度を測定し、夫々評価した。結果を表2乃至表5に示す。
【0030】
固相線温度は、昇温速度3℃/分での測定値である。結果を表2に示している。
【0031】
引張強さは、JIS Z2241に準拠して、600℃、800℃、900℃及び1100℃で測定した。結果を表2中、実測値に示している。
【0032】
引張伸びは、JISZ2241に準拠して、600℃、800℃、900℃及び1100℃で測定し、供試材の元の長さに対する破断時の供試材の長さの比を百分率(%)で算出した。結果を表3中、実測値に示している。
【0033】
圧縮変形率の測定は、各供試材から切り出した複数の円柱状試験片(高さ50mm×直径30mm)に対して実施した。詳細には、炉内温度1300℃の電気炉中で、試験片を固定台の上に直立固定し、試験片の温度を1230℃〜1260℃で保持しつつ、試験片に9.81N/mm
2の圧縮荷重を反復負荷した。反復負荷は、各試験片に対して、5秒間負荷、5秒間無負荷、荷重負荷と無負荷の移行時間を夫々1秒の合計12秒を1サイクルとし、これを2000サイクル反復実施した。この試験を2〜4個の試験片に実施した後、試験片の試験前後の高さと直径の変化率を計測し、その変化量(%)の平均を算出することで測定した。結果を表4中、実測値に示している。
【0034】
酸化減量速度の測定も、各供試材から切り出した丸棒状試験片(長さ50mm×直径10mm)に対して実施した。詳細には、試験片を大気雰囲気中で1200℃、1252℃、1302℃の条件にて100時間保持した後、試験片の酸化による重量変化を測定し、酸化減量速度(mm/year)を求めた。結果を表5中、実測値に示している。
【0035】
上記各試験の結果を表2乃至表5に示している。なお、未測定の供試材については、結果を空欄としている。
【0036】
固相線温度は、すべての供試材について測定した。表2を参照すると、各供試材の固相線温度(実測値)は、何れも1300℃を越えていることがわかる。一方で、加熱炉では、特に加熱帯や均熱帯で安定操業を図るために、1300℃よりも50℃〜60℃以上高い固相線温度が要求される。そこで、固相線温度の評価として、参考例に近い1400℃以上のものを評価「A」、1380℃以上を評価「B」、1360℃以上を評価「C」、1360℃未満を評価「D」とした。その結果、表2に示すように、評価「A」を満たす発明例、比較例はなかったが、発明例は評価「B」又は「C」を満足していた。比較例は比較例1が評価「C」であるが、それ以外は何れも評価「D」であった。
【0037】
【表2】
【0038】
引張強さは、発明例2、3及び5を除く供試材について測定した。なお、発明例2、比較例6及び比較例7については一部の測定温度のみ測定した。測定された引張強さ(実測値)は、参考例の各測定温度における実測値に対し、−5%より小さいものを「−1」、±5%以内のものを「0」、+5%より大きいものを「+1」と点数化した。各測定温度における個別点数を表2に示す。そして、その合計が「+3」よりも大きく且つマイナスがないものを評価「A」、その合計が「0」より大きいものを評価「B」、その合計が「0」のものを評価「C」、その合計が「0」より小さいものを評価「D」とした。結果を合わせて表2に示す。
【0039】
表2を参照すると、引張強さについては、比較例2及び比較例3が評価「A」であり、発明例1、比較例4、比較例5及び比較例7が評価「B」、その他は何れも評価「C」又は「D」であった。
【0040】
引張伸びは、発明例3を除く供試材について測定した。なお、発明例2、発明例5、比較例6及び比較例7は一部の測定温度についてのみ測定した。測定された引張伸び(実測値)は、参考例の600℃における実測値(14%)を基準とし、その実測値が14%より小さいものを「−1」、14%以上を「+1」と点数化した。なお、一般的に高温になるほど引張伸びは大きくなることから、800℃以上の測定温度についても同じ値(14%)を基準として評価を行なった。各測定温度における個別点数を表3に示す。そして、その合計が「0」よりも大きく且つマイナスがないものを評価「B」、その合計が「0」より小又はマイナスがあるものを評価「C」とした。結果を合わせて表3に示す。
【0041】
【表3】
【0042】
表3を参照すると、引張伸びは、発明例1、発明例2、発明例4、発明例5、比較例1及び比較例4が評価「B」、その他は何れも評価「C」であった。
【0043】
圧縮変形率は、すべての供試材について測定した。測定された圧縮変形率(実測値)は、参考例の高さ及び直径方向の圧縮変形率(実測値)に対し、−50%より小さいものを「+2」、−5%より小さいものを「+1」、±5%以内のものを「0」、+5%より大きいものを「−1」と点数化した。高さ方向及び直径方向の個別点数を表4に示す。そして、その合計が「+3」よりも大きく且つマイナスがないものを評価「A」、その合計が「0」より大きいものを評価「B」、その合計が「0」のものを評価「C」、その合計が「0」より小さいものを評価「D」とした。結果を合わせて表4に示す。
【0044】
【表4】
【0045】
表4を参照すると、圧縮変形率は、発明例1乃至発明例5、比較例1及び比較例5が評価「A」、比較例4、比較例6及び比較例7が評価「B」、その他が評価「D」であった。
【0046】
酸化減量速度は、すべての供試材について測定した。但し、発明例2乃至発明例5については、一部の測定温度のみについて測定した。測定された酸化減量速度(実測値)は、参考例の各測定温度における実測値に対して、−50%より小さいものを「+2」、−5%より小さいものを「+1」、±5%以内のものを「0」、+5%より大きいものを「−1」と点数化した。各測定温度における個別点数を表5に示す。そして、その合計が「0」より大きいものを評価「B」、その合計が「0」であるものを評価「C」、その合計が「0」より小さく且つマイナスが2つ以上あるものを評価「D」とした。結果を合わせて表5に示す。
【0047】
【表5】
【0048】
表5を参照すると、発明例1乃至発明例5、比較例2、比較例4、比較例5及び比較例7が評価「B」、それ以外は評価「D」であった。
【0049】
そして、上記得られた各供試材の評価「A」〜「D」について、評価「A」は「+2」、評価「B」は「+1」、評価「C」は「0」、評価「D」は「−1」として再度点数化した。各供試材の評価及び点数(括弧内)を表6に示す。そして、各点数に基づいて供試材の総合評価を行なった。総合評価では、各点数の合計が3より大きく且つマイナスがないものを評価「A」、合計が3のものを評価「B」、合計が0〜2のものを評価「C」、合計が0未満又はマイナスが2以上あるものを評価「D」とした。総合評価を表6に示す。
【0050】
【表6】
【0051】
表6を参照すると、発明例は何れも総合評価が「A」であり、参考例のCo含有耐熱鋼と同等又はそれ以上の特性を具備していることがわかる。すなわち、発明例の耐熱鋼は、炉床金物として、Co含有耐熱鋼の代替品として極めて有用であることがわかる。
【0052】
一方、比較例については、何れも総合評価が「B」〜「D」であった。これは、以下の要因によるものと考えられる。
【0053】
比較例1は、C、Si、C+Siは共に本発明範囲内であるため固相線温度は高いが、Crが本発明範囲を下回っているため、十分な耐酸化性(酸化減量速度)を得られなかった。
【0054】
比較例2は、Si、C+Siが本発明範囲を上回っているため、固相線温度が低下している。従って、今回の耐酸化試験では十分な耐酸化性を確認できているが、加熱炉中の異常により、温度が上昇したときに溶ける、或いは、酸化量が増加する等の虞がある。
【0055】
比較例3及び比較例4は、Si、C+Siが本発明範囲を上回っており、固相線温度が低下している。また、Crが本発明範囲を上回っているため、十分な延性(引張伸び)が得られなかった。さらに、比較例4については、Niが本発明範囲を下回っており、引張強さも低下していることがわかる。
【0056】
比較例5は、C、Ni、Crは本発明範囲内であるが、C+Siが本発明範囲を上回っており、固相線温度が低下すると共に、引張伸びが低下したと考えられる。
【0057】
比較例6は、C、Si、C+Siは共に本発明範囲内であるが、Wが本発明範囲を超えたため耐酸化性が低下していることがわかる。
【0058】
比較例7は、C、Si、C+Siは共に本発明範囲内であるが、Crが本発明範囲を超えたため、十分な延性が確保できていないことがわかる。
【0059】
上記説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或いは範囲を限縮するように解すべきではない。また、本発明の各部構成は、上記実施例に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。