(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6144416
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】ANRデバイスにおける安定性の制御
(51)【国際特許分類】
G10K 11/178 20060101AFI20170529BHJP
H04R 1/10 20060101ALI20170529BHJP
H04R 3/04 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
G10K11/16 H
H04R1/10 101B
H04R3/04
H04R1/10 104Z
【請求項の数】28
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-519539(P2016-519539)
(86)(22)【出願日】2014年6月3日
(65)【公表番号】特表2016-524187(P2016-524187A)
(43)【公表日】2016年8月12日
(86)【国際出願番号】US2014040641
(87)【国際公開番号】WO2014200756
(87)【国際公開日】20141218
【審査請求日】2016年2月9日
(31)【優先権主張番号】13/915,220
(32)【優先日】2013年6月11日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591009509
【氏名又は名称】ボーズ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】BOSE CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー・エー・バーンズ
(72)【発明者】
【氏名】リカルド・エフ・カレラス
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・エム・ゴーガー・ジュニア
【審査官】
渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】
特表2012−529061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/00−13/00
H04R 1/10
H04R 3/00− 3/14
H04R 25/00−25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
能動的ノイズ低減(ANR)ヘッドホンに安定性をもたらす方法であって、
音響フィールドを測定して第1の入力信号を生成するステップと、
ANR信号経路において、前記第1の入力信号に対して第1のフィルタと第1の可変利得増幅器とを用いることによって、第1のフィルタリングされた信号を生成するステップと、
前記第1のフィルタリングされた信号を出力するステップと、
前記第1のフィルタリングされた信号を出力するステップと同時に、
前記第1のフィルタリングされた信号をサンプリングし、前記サンプリングされた信号を第2のフィルタでフィルタリングして、第2のフィルタリングされた信号を生成し、
前記第2のフィルタリングされた信号を閾値と比較し、
前記比較で前記第2のフィルタリングされた信号が前記閾値よりも大きければ、
前記第1の可変利得増幅器の利得を変化させて、前記第1のフィルタリングされた信号を減衰させる、ステップと、
を具備し、
前記第2のフィルタが、10Hzと10kHzの間のそれぞれの第1の周波数範囲および第2の周波数範囲において第1の利得および第2の利得を適用し、前記第1の利得と前記第2の利得が少なくとも6dBだけ異なるものである方法。
【請求項2】
前記第2のフィルタが備える高域通過フィルタが、第1の周波数範囲未満の周波数の信号を減衰させ、前記ANR信号経路における不安定性を示し得る前記第1の周波数範囲内の周波数の信号を通過させる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2のフィルタが備える多段フィルタが、第1の周波数範囲未満の周波数の信号に第1の利得を適用し、前記第1の周波数範囲内の周波数の信号に第2の利得を適用し、前記第1の周波数範囲を上回る周波数の信号に第3の利得を適用する請求項1に記載の方法。
【請求項4】
第1の周波数範囲では、信号レベルが大きいと前記ANR信号経路に不安定性をもたらす可能性があるが、前記第2のフィルタによって少なくとも6dBだけ信号が減衰され、前記第1の周波数範囲未満の周波数の信号が前記第2のフィルタを通過する請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第2のフィルタが、前記第1の周波数範囲の下限を定義する周波数において信号を完全に減衰させる請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第1のフィルタリングされた信号がサンプリングされて前記第2のフィルタに供給される請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の入力信号がサンプリングされて前記第2のフィルタに供給される請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の可変利得増幅器が前記第1のフィルタの前に配置されている請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の可変利得増幅器が前記第1のフィルタの後に配置されている請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記ANR信号経路がフィードフォワードANR経路を備え、
前記音響フィールドが、前記ANRヘッドホンの外部で、前記フィードフォワードANR経路に対する入力として測定される請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記ANR信号経路がフィードバックANR経路を備え、
前記音響フィールドが、前記ANRヘッドホンの内部で、前記フィードバックANR経路に対する入力として測定され、
前記第1および第2のフィルタリングされた信号が、第1および第2のフィルタリングされたフィードバック信号である請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記第1のフィルタリングされたフィードバック信号を、フィルタリングされた入力音響信号と結合して、第1の結合された信号を生成するステップであって、
前記第1の結合された信号が、サンプリングされて前記第2のフィルタに供給されるステップをさらに含む請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の結合された信号が、フィルタリングされたフィードフォワード信号とさらに結合されて、第2の結合された信号が生成された後、前記第1の結合された信号がサンプリングされて前記第2のフィルタに供給される請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第2のフィルタリングされたフィードバック信号を第2の閾値と比較して、
前記比較で前記第2のフィルタリングされたフィードバック信号が、何らかの周波数において前記第2の閾値よりも大きければ、
音響入力経路上の第2の可変利得増幅器の利得を変化させて音響入力信号を減衰させるステップをさらに含む請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記第2の閾値が前記第1の閾値未満である請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ANRヘッドホンの外部で音響フィールドを測定して第1の入力フィードフォワード信号を生成するステップと、
フィードフォワードANR経路において、前記第1の入力フィードフォワード信号を、第3のフィルタでフィルタリングし、それに第2の可変利得増幅器の可変利得を適用して、第1のフィルタリングされたフィードフォワード信号を生成するステップと、
前記第1のフィルタリングされたフィードフォワード信号を出力するステップと、
前記第1のフィルタリングされたフィードフォワード信号を、前記第1のフィルタリングされたフィードバック信号と結合して、結合された出力信号を生成するステップと、
前記第1のフィルタリングされたフィードフォワード信号を出力するステップと同時に、
前記第1のフィルタリングされたフィードフォワード信号をサンプリングし、前記サンプリングされた信号を第4のフィルタでフィルタリングして、第2のフィルタリングされたフィードフォワード信号を生成し、
前記第2のフィルタリングされたフィードフォワード信号を第2の閾値と比較し、
前記比較で前記第2のフィルタリングされたフィードフォワード信号が前記第2の閾値よりも大きければ、
前記第2の可変利得増幅器の前記利得を変化させて、前記第1のフィルタリングされたフィードフォワード信号を減衰させるステップであって、
前記第4のフィルタが、10Hzと10kHzの間のそれぞれの第1の周波数範囲および第2の周波数範囲において第1の利得および第2の利得を適用し、前記第1の利得と前記第2の利得が少なくとも6dBだけ異なるものであるステップとをさらに含む請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記第4のフィルタが備える高域通過フィルタが、第1の周波数範囲未満の周波数の信号を減衰させ、前記フィードフォワードANR経路における不安定性を示し得る前記第1の周波数範囲内の周波数の信号を通過させる請求項16に記載の方法。
【請求項18】
第1の周波数範囲では、信号レベルが大きいと前記フィードバックANR経路に不安定性をもたらす可能性があるが、前記第2のフィルタによって少なくとも6dBだけ信号が減衰され、前記第1の周波数範囲未満の周波数の信号が前記第2のフィルタを通過する請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ANR信号経路が、構成可能なデジタル信号プロセッサを使用して実施される請求項1に記載の方法。
【請求項20】
能動的ノイズ低減(ANR)システムであって、
フィードバックマイクロフォン、第1の可変利得増幅器、および第1のフィルタを備えるフィードバックANR信号経路と、
フィードフォワードマイクロフォン、第2の可変利得増幅器、および第2のフィルタを備えるフィードフォワードANR信号経路と、
音響入力信号経路と、
前記フィードバックANR信号経路、前記フィードフォワードANR信号経路、および前記音響入力信号経路のそれぞれからの信号を音響出力信号に変換する出力トランスデューサと、
を備え、
前記フィードバックANR信号経路および前記フィードフォワードANR信号経路のうち少なくとも1つが第1のサイドチェーンループをさらに備え、前記第1のサイドチェーンループが、それぞれの経路の内部の信号をサンプリングし、前記サンプリングされた信号に第3のフィルタを適用し、前記第3のフィルタの出力と閾値との比較に基づいて、少なくとも前記第1の可変利得増幅器または前記第2の可変利得増幅器を調節し、
前記第3のフィルタが、前記サンプリングされた信号に対して10Hzと10kHzの間のそれぞれの第1の周波数範囲および第2の周波数範囲において第1の利得および第2の利得を適用し、前記第1の利得と前記第2の利得が少なくとも6dBだけ異なるものである能動的ノイズ低減システム。
【請求項21】
前記第1のサイドチェーンループが、前記フィードバックANR信号経路による出力信号をサンプリングし、第1の周波数範囲では、信号レベルが大きいとフィードバックループに不安定性をもたらす可能性があるが、前記第3のフィルタによって少なくとも6dBだけ信号が減衰され、前記第1の周波数範囲未満の周波数の信号が前記第3のフィルタを通過する請求項20に記載の能動的ノイズ低減システム。
【請求項22】
前記音響入力信号経路が第3の可変利得増幅器を備え、
第2のサイドチェーンループが、前記第1のサイドチェーンループから前記第3のフィルタの出力を受け取り、前記第3のフィルタの前記出力と第2の閾値との比較に基づいて前記第3の可変利得増幅器を調節する請求項21に記載の能動的ノイズ低減システム。
【請求項23】
前記第1のサイドチェーンループが、前記フィードフォワードANR信号経路による出力信号をサンプリングし、前記第3のフィルタが備える高域通過フィルタが、第1の周波数範囲未満の周波数の信号を減衰させ、前記フィードフォワードANR信号経路における不安定性を示し得る前記第1の周波数範囲内の周波数の信号を通過させる請求項20に記載の能動的ノイズ低減システム。
【請求項24】
前記第1のサイドチェーンループが、前記フィードバックANR信号経路による出力信号および前記音響入力信号経路による出力信号を含んでいる加算された信号をサンプリングする請求項20に記載の能動的ノイズ低減システム。
【請求項25】
前記第1のサイドチェーンループが、前記第1または第2の可変利得増幅器および前記第1または第2のフィルタに先立って、前記フィードバックANR信号経路または前記フィードフォワードANR信号経路のうち1つの内部からの信号をサンプリングする請求項20に記載の能動的ノイズ低減システム。
【請求項26】
前記フィードフォワードANR信号経路および前記フィードバックANR信号経路が、集積された構成可能なデジタル信号プロセッサを備える請求項20に記載の能動的ノイズ低減システム。
【請求項27】
能動的ノイズ低減(ANR)ヘッドホンのデジタルフィードバックループに安定性をもたらす方法であって、
前記ANRヘッドホンの内部で音響フィールドを測定して第1の入力フィードバック信号を生成するステップと、
フィードバックANR経路において、前記第1の入力フィードバック信号を、第1のフィルタでフィルタリングし、それに第1の可変利得増幅器の可変利得を適用して、第1のフィルタリングされたフィードバック信号を生成するステップと、
前記第1のフィルタリングされたフィードバック信号を出力するステップと、
前記第1のフィルタリングされたフィードバック信号を出力するステップと同時に、
前記第1のフィルタリングされたフィードバック信号をサンプリングし、前記サンプリングされた信号を第2のフィルタでフィルタリングして、第2のフィルタリングされたフィードバック信号を生成し、
前記第2のフィルタリングされたフィードバック信号を閾値と比較し、
前記比較で前記第2のフィルタリングされたフィードバック信号が前記閾値よりも大きければ、
前記可変利得増幅器の利得を変化させて前記第1のフィードバック信号を減衰させる、ステップと、
を含み、
前記第2のフィルタが、10Hzと10kHzの間のそれぞれの第1の周波数範囲および第2の周波数範囲において第1の利得および第2の利得を適用し、前記第1の利得と前記第2の利得が少なくとも6dBだけ異なるものである方法。
【請求項28】
能動的ノイズ低減(ANR)ヘッドホンのデジタルフィードフォワード経路に安定性をもたらす方法であって、
前記ANRヘッドホンの外部で音響フィールドを測定して第1の入力フィードフォワード信号を生成するステップと、
フィードフォワードANR経路において、前記第1の入力フィードフォワード信号を、第1のフィルタでフィルタリングし、それに第1の可変利得増幅器の可変利得を適用して、第1のフィルタリングされたフィードフォワード信号を生成するステップと、
前記第1のフィルタリングされたフィードフォワード信号を出力するステップと、
前記第1のフィルタリングされたフィードフォワード信号を出力するステップと同時に、
前記第1のフィルタリングされたフィードフォワード信号をサンプリングし、前記サンプリングされた信号を第2のフィルタでフィルタリングして、第2のフィルタリングされたフィードフォワード信号を生成し、
前記第2のフィルタリングされたフィードフォワード信号を閾値と比較し、
前記比較で前記第2のフィルタリングされたフィードフォワード信号が前記閾値よりも大きければ、
前記可変利得増幅器の利得を変化させて、前記第1のフィルタリングされたフィードフォワード信号を減衰させる、ステップと、
を含み、
前記第2のフィルタリングされたフィードフォワード信号を生成するための前記フィルタが、10Hzと10kHzの間のそれぞれの第1の周波数範囲および第2の周波数範囲において第1の利得および第2の利得を適用し、第1の利得と第2の利得が少なくとも6dBだけ異なるものである方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、音響ノイズ低減(ANR)デバイスにおける安定性の制御に関し、具体的にはインイヤのフォームファクタを用いるANRデバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
参照によって本明細書で組み込まれる米国特許第8,073,150号および米国特許第8,073,151号は、システム設計者がシステムの多数の態様を構成することを可能にするANRシステムで使用されるデジタル信号プロセッサを説明している。具体的には、設計者は、信号プロセッサの内部の信号流れのトポロジと、トポロジの内部の多数のポイントにおいて信号に適用されるフィルタの係数とを構成することができる。そのような設計はアナログ回路でも実施することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第8,073,150号
【特許文献2】米国特許第8,073,151号
【特許文献3】米国特許出願第13/480766号
【特許文献4】米国特許出願第12/667,103号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
一般に、一態様では、能動的ノイズ低減(ANR)ヘッドホンに安定性をもたらすステップは、音響フィールドを測定して第1の入力信号を生成するステップと、第1の入力信号を、ANR信号経路において、第1のフィルタでフィルタリングし、それに第1の可変利得増幅器の可変利得を適用して、第1のフィルタリングされた信号を生成するステップと、第1のフィルタリングされた信号を出力するステップと、第1のフィルタリングされた信号を出力するステップと同時に、ANR信号経路のポイントにおいて信号をサンプリングし、サンプリングされた信号を第2のフィルタでフィルタリングして、第2のフィルタリングされた信号を生成するステップとを含む。第2のフィルタリングされた信号が閾値と比較され、その比較で第2のフィルタリングされた信号が閾値信号より大きければ、第1の可変利得増幅器の利得が、第1のフィルタリングされた信号を減衰させるように変化される。第2のフィルタは、10Hzと10kHzの間のそれぞれの第1の周波数範囲および第2の周波数範囲において第1の利得および第2の利得を適用し、第1の利得と第2の利得は少なくとも10dBだけ異なるものである。
【0005】
実施態様には、任意の組合せにおいて、以下のことの1つまたは複数が含まれ得る。第2のフィルタが含み得る高域通過フィルタは、第1の周波数範囲未満の周波数の信号を減衰させ、ANR信号経路における不安定性を示し得る第1の周波数範囲内の周波数の信号を通過させる。第2のフィルタが含み得る多段フィルタは、第1の周波数範囲未満の周波数の信号に第1の利得を適用し、第1の周波数範囲内の周波数の信号に第2の利得を適用し、第1の周波数範囲を上回る周波数の信号に第3の利得を適用する。第1の周波数範囲では、信号レベルが大きいとANR信号経路に不安定性をもたらす可能性があるが、第2のフィルタによって少なくとも10dBだけ信号が減衰され得、第1の周波数範囲未満の周波数の信号は第2のフィルタを通過する。第2のフィルタは、第1の周波数範囲の下限を定義する周波数において信号を完全に減衰させ得る。第1のフィルタリングされた信号がサンプリングされて第2のフィルタに供給され得る。第1の入力信号がサンプリングされて第2のフィルタに供給され得る。第1の可変利得増幅器は第1のフィルタの前に配置されてよい。第1の可変利得増幅器は第1のフィルタの後に配置されてよい。ANR信号経路はフィードフォワードANR経路を含み得、ANRヘッドホンの外部で、フィードフォワードANR経路に対する入力として音響フィールドが測定されてよい。
【0006】
ANR信号経路はフィードバックANR経路を含み得、ANRヘッドホンの内部で、フィードバックANR経路に対する入力として音響フィールドが測定されてよく、第1および第2のフィルタリングされた信号は、第1および第2のフィルタリングされたフィードバック信号である。第1のフィルタリングされたフィードバック信号が、フィルタリングされた入力音響信号と結合されて第1の結合された信号を生成し、第1の結合された信号がサンプリングされて第2のフィルタに供給され得る。第1の結合された信号が、フィルタリングされたフィードフォワード信号とさらに結合されて第2の結合された信号が生成された後、第1の結合された信号がサンプリングされて第2のフィルタに供給され得る。第2のフィルタリングされたフィードバック信号が第2の閾値と比較されてよく、その比較で第2のフィルタリングされたフィードバック信号が第2の閾値信号よりも大きければ、音響入力経路における第2の可変利得増幅器の利得を変化させて音響入力信号を減衰させる。第2の閾値は第1の閾値よりも小さくてよい。
【0007】
フィードフォワードANR経路に対する第1の入力フィードフォワード信号を生成するために、ANRヘッドホンの外部で音響フィールドが測定されてよく、フィードフォワードANR経路において、第1の入力フィードフォワード信号が、第3のフィルタでフィルタリングされ、第2の可変利得増幅器で増幅されて、第1のフィルタリングされたフィードフォワード信号が生成される。第1のフィルタリングされたフィードフォワード信号が出力され、第1のフィルタリングされたフィードバック信号と結合されて、結合された出力信号が生成され、第1のフィルタリングされたフィードフォワード信号が出力されるのと同時に、フィードフォワードANR経路のポイントにおいて信号がサンプリングされ、サンプリングされた信号が第4のフィルタでフィルタリングされて、第2のフィルタリングされたフィードフォワード信号が生成される。第2のフィルタリングされたフィードフォワード信号が第2の閾値と比較され、その比較で第2のフィルタリングされたフィードフォワード信号が第2の閾値信号よりも大きければ、第2の可変利得増幅器の利得が、第1のフィルタリングされたフィードフォワード信号を減衰させるように変化される。第4のフィルタは、10Hzと10kHzの間のそれぞれの第1の周波数範囲および第2の周波数範囲において第1の利得および第2の利得を適用してよく、第1の利得と第2の利得は少なくとも10dBだけ異なるものである。第4のフィルタが含み得る高域通過フィルタは、第1の周波数範囲未満の周波数の信号を減衰させ、フィードフォワードANR経路における不安定性を示し得る第1の周波数範囲内の周波数の信号を通過させる。ANR信号経路は、構成可能なデジタル信号プロセッサを使用して実施され得る。
【0008】
一般に、一態様では、能動的ノイズ低減(ANR)システムは、フィードバックマイクロフォン、第1の可変利得増幅器、および第1のフィルタを含んでいるフィードバックANR信号経路と、フィードフォワードマイクロフォン、第2の可変利得増幅器、および第2のフィルタを含んでいるフィードフォワードANR信号経路と、音響入力信号経路と、フィードバックANR信号経路、フィードフォワードANR信号経路、および音響入力信号経路のそれぞれからの信号を音響出力信号に変換する出力トランスデューサとを含む。フィードバックANR信号経路およびフィードフォワードANR信号経路のうち少なくとも1つが含んでいる第1のサイドチェーンループは、それぞれの経路内の信号をサンプリングし、サンプリングされた信号に第3のフィルタを適用し、第3のフィルタの出力と閾値との比較に基づいて、少なくとも第1の可変利得増幅器または第2の可変利得増幅器を調節する。第3のフィルタは、サンプリングされた信号に対して10Hzと10kHzの間のそれぞれの第1の周波数範囲および第2の周波数範囲において第1の利得および第2の利得を適用し、第1の利得と第2の利得は少なくとも10dBだけ異なるものである。
【0009】
実施態様には、任意の組合せにおいて、以下のことの1つまたは複数が含まれ得る。第1のサイドチェーンループは、フィードバックANR信号経路による出力信号をサンプリングしてよく、第1の周波数範囲では、信号レベルが大きいとフィードバックループに不安定性をもたらす可能性があるが、第3のフィルタによって少なくとも10dBだけ信号が減衰され、第1の周波数範囲未満の周波数の信号は第3のフィルタを通過する。音響信号経路は第3の可変利得増幅器を含んでよく、第2のサイドチェーンループは、第1のサイドチェーンループから第3のフィルタの出力を受け取り、第3のフィルタの出力と第2の閾値との比較に基づいて第3の可変利得増幅器を調節してよい。第1のサイドチェーンループは、フィードフォワードANR信号経路による出力信号をサンプリングしてよく、第3のフィルタが含み得る高域通過フィルタは、第1の周波数範囲未満の周波数の信号を減衰させ、フィードフォワードANR信号経路における不安定性を示し得る第1の周波数範囲内の周波数の信号を通過させる。第1のサイドチェーンループは、フィードバックANR信号経路による出力信号および音響入力信号経路による出力信号を含んでいる加算された信号をサンプリングしてよい。第1のサイドチェーンループは、第1または第2の可変利得増幅器および第1または第2のフィルタに先立って、フィードバックANR信号経路またはフィードフォワードANR信号経路のうち1つの内部からの信号をサンプリングしてよい。フィードフォワードANR信号経路およびフィードバックANR信号経路は、集積された構成可能なデジタル信号プロセッサを含み得る。
【0010】
一般に、一態様では、能動的ノイズ低減(ANR)ヘッドホンのデジタルフィードバックループに安定性をもたらすステップは、ANRヘッドホンの内部の音響フィールドを測定して第1の入力フィードバック信号を生成するステップと、第1の入力フィードバック信号を、フィードバックANR経路において、第1のフィルタでフィルタリングし、それに第1の可変利得増幅器の可変利得を適用して、第1のフィルタリングされたフィードバック信号を生成するステップと、第1のフィルタリングされたフィードバック信号を出力するステップと、第1のフィルタリングされたフィードバック信号を出力するステップと同時に、フィードバックANR経路のポイントにおいてフィードバック信号をサンプリングし、サンプリングされた信号を第2のフィルタでフィルタリングして、第2のフィルタリングされたフィードバック信号を生成し、第2のフィルタリングされたフィードバック信号を閾値と比較し、その比較で第2のフィルタリングされたフィードバック信号が閾値信号よりも大きければ、可変利得増幅器の利得を変化させて第1のフィードバック信号を減衰させるステップとを含む。第2のフィルタは、10Hzと10kHzの間のそれぞれの第1の周波数範囲および第2の周波数範囲において第1の利得および第2の利得を適用し、第1の利得と第2の利得は少なくとも10dBだけ異なるものである。
【0011】
一般に、一態様では、能動的ノイズ低減(ANR)ヘッドホンのデジタルフィードフォワード経路に安定性をもたらすステップは、ANRヘッドホンの外部の音響フィールドを測定して第1の入力フィードフォワード信号を生成するステップと、フィードフォワードANR経路において、第1の入力フィードフォワード信号を、第1のフィルタを使用してフィルタリングし、それに第1の可変利得増幅器の可変利得を適用して、第1のフィルタリングされたフィードフォワード信号を生成するステップと、第1のフィルタリングされたフィードフォワード信号を出力するステップと、第1のフィルタリングされたフィードフォワード信号を出力するステップと同時に、フィードフォワードANR経路のポイントにおいてフィードフォワード信号をサンプリングし、サンプリングされた信号を第2のフィルタでフィルタリングして、第2のフィルタリングされたフィードフォワード信号を生成し、第2のフィルタリングされたフィードフォワード信号を閾値と比較し、その比較で第2のフィルタリングされたフィードフォワード信号が閾値信号よりも大きければ、可変利得増幅器の利得を変化させて第1のフィルタリングされたフィードフォワード信号を減衰させるステップとを含む。第2のフィルタリングされたフィードフォワード信号を生成するためのフィルタは、10Hzと10kHzの間のそれぞれの第1の周波数範囲および第2の周波数範囲において第1の利得および第2の利得を適用し、第1の利得と第2の利得は少なくとも10dBだけ異なるものである。
【0012】
利点には、安定性制御と品質への配慮のバランスをとること、および安定性制御の誤った起動を回避することが含まれる。
【0013】
前述の例および特徴のすべてが、任意の技術的に可能なやり方で組み合わされ得る。他の特徴および利点が、発明を実施するための形態と特許請求の範囲とから明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】インイヤの能動的ノイズ低減ヘッドホンを示す図である。
【
図2】
図1のヘッドホンの内部の信号処理のための代替トポロジを示す図である。
【
図3】
図1のヘッドホンの内部の信号処理のための代替トポロジを示す図である。
【
図4】
図1のヘッドホンの内部の信号処理のための代替トポロジを示す図である。
【
図5】
図1のヘッドホンの内部の信号処理のための代替トポロジを示す図である。
【
図6】
図1のヘッドホンの内部の信号処理のための代替トポロジを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
米国特許第8,073,150号および米国特許第8,073,151号は構成可能なデジタル信号プロセッサを説明しており、複数の実証的な信号流れトポロジおよびフィルタ構成を含むものである。本開示は、それらの特許で説明された信号プロセッサを使用して実施されるANRシステムのいくつかの特定の実施形態を説明し、とりわけ有効であると判明した特定の構成を表す。
【0016】
2012年5月25日に出願され、参照によって本明細書で組み込まれる同時係属の米国特許出願第13/480766号は、
図1に示されるような、音響ノイズを低減する(ANR)インイヤのヘッドセットの音響の実施態様を説明するものである。このヘッドセット100は、フィードフォワードマイクロフォン102と、フィードバックマイクロフォン104と、出力トランスデューサ106と、マイクロフォンと出力トランスデューサの両方に結合され、両方のマイクロフォンにおいて検出された信号に基づいて出力トランスデューサにノイズ防止信号を供給するノイズ低減回路(図示せず)とを含む。回路に対する追加の入力(図示せず)は、ノイズ低減信号と無関係の出力トランスデューサ106に対する再生のために、音楽または通信信号などの追加の音響信号を供給する。
【0017】
ANRシステムが通常の線形の動作範囲の限界を越えるような信号に暴露されたときに生じる望ましくないアーチファクトを低減するために、様々な技術が用いられる。そのような限界には、増幅器(PGAまたは出力増幅器)のクリッピング、駆動回路の確実なエクスカーション限界、または発振させるのに十分な音響応答の変化をもたらすエクスカーションのレベルが含まれる。アーチファクトは、発振、ならびに不愉快な過渡現象(「重く鈍い衝撃音」または「破裂音」)、さらには相殺信号(ノイズのミラー音像)がクリップされた低周波数と高周波数との混合物から成るノイズの音響から生じるバリバリという連続音/ブンブンという連続音になり得る。そのようなアーチファクトは、場合によっては、信号処理経路の選択された部分に沿って利得を一時的に下げることによって低減され得、その結果、利得を下げることによる過渡的なノイズの増加は、対処されているアーチファクトほど不愉快なものでない。このように利得を下げることは、信号経路の圧縮または制限とも称され得る。
【0018】
2012年11月2日に出願され、参照によって本明細書で組み込まれる同時係属の米国特許出願第12/667,103号は、最大限のノイズ低減ではなく周囲の自然らしさをもたらすように、ANRヘッドセットのフィードフォワードノイズ低減経路における改良されたフィルタの使用を説明するものである。周囲の自然らしさの特徴を有するインイヤのANRヘッドセットの実施において発見された問題の1つには、イヤホンが耳の外にある、周囲の自然らしさのモードにおいて、ユーザがイヤホンのうち1つのまわりで手を杯状にしたとき、不安定性がもたらされることがある。この状況では、フィードフォワードマイクロフォンと出力トランスデューサの間に、イヤホンのまわりの空中経路を介してフィードバックループが形成される。このフィードバックループが周囲のノイズを増幅し、イヤホンがユーザの耳の中になくても聞こえるスクイーリングをもたらす。インイヤのANRヘッドセットにおいて聞こえるアーチファクトをもたらし得る別の状況には、(その通常の線形の動作範囲を超過するシステムによる)極端なノイズの過渡条件の間に、ノイズ相殺信号と同時に再生され、リミッタが不安定性のアーチファクトを検出しようとしている周波数範囲のエネルギーを有する、音楽などの音響信号の高い信号レベルによって、フィードバックノイズを相殺するループの安定性を確実にするように使用されるリミッタが誤って起動されることがある。システムは、音楽の高い信号レベルを、検出しようとしている種類の不安定性であると不正確に見なすことになる。システムは、誤って検出された不安定性を解消しようとして、フィードバックループの利得を不適切に低減させることになる。
【0019】
そのようなアーチファクトに対処するやり方の1つには、
図2に示され、以下で論じられるような、サイドチェーンフィルタの追加によるものがある。サイドチェーンフィルタは、試験信号を生成するために、メイン信号流れからサンプリングされた信号に適用されるが、メイン信号流れを直接修正するわけではなく、いくつかの周波数においてのみ、信号が限度に近づくのを感知するのに使用される。サイドチェーンフィルタの出力は、可能性のある問題に対する応答を起動するのに用いられる。これによって、システムは、問題のある事象からのエネルギーに応答し、それに基づいて利得を調節する一方で、大音量の音楽の過渡現象など、問題でない信号には応答しないことが可能になる。
【0020】
図2は、フィードフォワード信号経路202とフィードバック信号経路204の両方の経路に対してサイドチェーンフィルタリングをもたらすための変更を示すものである。2つの変更は同時に示されているが互いに独立しており、所与の用途では一方または両方が実施されてよく、上記で参照された特許によって可能にされる他のトポロジおよびフィルタの変更が実施され得る。
【0021】
図2に示されたフィードフォワード経路とフィードバック経路の両方において、出力信号は、他方の経路の出力信号と加算される前に、サイドチェーンループ206または208によってサンプリングされる。サイドチェーンループは、それぞれフィードフォワード経路のフィルタK
sc_ff(210)およびフィードバック経路のフィルタK
sc_fb(212)を通じて信号を通す。各フィルタの出力は、比較器218および220によって、それぞれ所定の閾値T
ff(214)またはT
fb(216)と比較される。サイドチェーンフィルタ210および212のいずれかが実施されない場合、より簡単な安定性検査のために、出力信号が未処理の形式で閾値214および216と比較されてよい。比較器の出力は、それぞれのフィードフォワード信号経路またはフィードバック信号経路において、可変利得増幅器(VGA)222および224へ送られる。比較器は、フィルタリングされた出力信号が閾値より大きいことを検出すると、対応するVGAを活性化して、対応する信号の振幅を減少させる。
図2の例において、フィードフォワードループ206については、サイドチェーンループは、フィードフォワード信号を成形するフィルタK
ffの後で実施され、一方、フィードバックループ208では、サイドチェーンループはフィードバック信号を成形するフィルタK
fbの近くで実施されることに留意されたい。これらの構成は、どちらも、実施されているシステムの特性に依拠して、いずれかのサイドチェーンループが、対応するメイン経路フィルタの前、後、または近くで実施されるように変更され得る。VGAは、対応するメインループのフィルタの前または後に同様に配置されてよい。
【0022】
図3および
図4が示す代替トポロジでは、サイドチェーンループ自体は
図2のものと同一であるが、フィードバックのサイドチェーンループが出力信号をサンプリングするポイントが変更されている。
図3では、フィードバックのサイドチェーンループ208用の信号が、フィードバック経路204と音響入力経路205とが互いに結合された後で、ただしフィードフォワード経路202の出力と結合される前に、サンプリングされる。
図4では、3つの信号経路がすべて結合された後に、フィードバック経路204用の信号がサンプリングされる。3つの例すべてにおいて、フィードフォワード経路202用の信号は、いずれかの他の信号と結合される前にサンプリングされるが、他のポイントにおいて、すなわち他の信号経路の一方または両方と結合された後に、サンプリングされてもよい。
【0023】
使用するトポロジの選択は、検出されている特定のアーチファクトの原因および結果と、それらを緩和するのに用いられる技術とに依拠することになる。
図5はさらに別のトポロジを示す。サイドチェーンループ208は
図2のものと同一であるが、フィルタK
sc_fbの出力も、音響入力経路205のサイドチェーンループ230内の比較器232に渡されて閾値T
eq 234と比較される。比較器232の出力は、VGA 236を制御して音響入力経路を制限する。VGAは音響入力フィルタK
eqの前に示されているが、フィルタの後に配置されてもよい。閾値T
eqが閾値T
fbよりもわずかに小さければ、音響入力は、フィードバック経路のリミッタを誤って起動する前に制限されることになる。
図2の例と同様に、フィルタK
sc_fbへの入力は、フィードバック経路と音響経路が加算された後、または3つの経路がすべて加算された後にサンプリングされてよい。
図5のフィードフォワード経路202にはサイドチェーンフィルタが示されていないが、上記で示された、または論じられたフィルタトポロジ、または他の適切なトポロジのうち任意のものが、
図5に示されたトポロジと結合され得る。
【0024】
図6に示されるトポロジは
図4のものと類似であるが、VGA 222またはフィードフォワードフィルタK
ffのいずれかの前で、フィードフォワードのサイドチェーンループ202がフィードフォワード信号サンプリングする。サイドチェーンループは他の点では不変であって、上記で論じたように動作する。フォワードコンプレッサのタイプは、信号経路によるいかなるフィルタリングまたは制限にも先立って入力信号の未処理のエネルギーに反応することができ、また、フィードバックのサイドチェーンループとともに、または音響信号経路において使用され得る。
【0025】
図7、
図8、
図9、および
図10は、サイドチェーンフィルタに関するフィルタの振幅の例示的グラフを示すものである。
図7は、フィードフォワードのサイドチェーンループに使用され得るフィルタK
sc_ffの振幅302を示す。このフィルタは、折点周波数304を有する簡単な高域通過フィルタである。いくつかの例では、周囲の自然らしさのモードが有効であって、出力駆動回路がフィードフォワードマイクロフォンに音響的に結合されているとき生成されることがある意図せぬフィードバックループが、折点周波数304よりも高い周波数の大信号レベルをもたらす。その周波数未満では、大音量の周囲の環境のために大信号レベルが存在する可能性があるが、フィードバック問題によるものではないはずである。したがって、このフィルタは、周囲の環境が単純に大音量のときにはフィードフォワード経路を制限しないが、不安定なフィードバックループが形成されていることを示す周波数範囲に高い信号レベルがあるとき、フィードフォワード経路を制限する。
【0026】
図8は、フィードバックのサイドチェーンループに使用され得るフィルタK
sc_fbの振幅322を示す。このフィルタは、第1の周波数324未満の周波数の信号を通し、別の周波数326よりも高い周波数の信号をわずかに減衰させる。そのようなフィルタの使用法の1つには、通常の線形の動作範囲の外部で動作するシステムの音響の部分をもたらす、周波数324よりも低い周波数成分を有する駆動回路の大きいエクスカーションを示す各信号レベルを通すものがあり、その結果、それらの信号レベルは、適切なときに圧縮を起動するが、フィードバックマイクロフォンによって検出された音楽による大音量の信号(
図2から
図6の音響経路205からの入力信号により駆動回路によって再生されたもの)は強調しないように、閾値と比較され得る。一般に、信号レベルが閾値を上回ると、このことは不安定性をもたらす状態を示す。不安定性をもたらし得る大きいエクスカーションの原因の1つには、ヘッドホンが取り外されることなどの物理的動作がある。そのような事象は、より低い周波数においてフィードバック経路に高い信号レベルを生成するが、フィードバック経路における高エネルギーを単純に調べる検出器は、音響入力経路からの音楽が存在することによって誤る可能性がある。ヘッドホンの運動が高い信号レベルをもたらす周波数を超え、音楽が高い信号レベルをもたらす周波数よりも低くなるように、通過から減衰への移行が選択される。フィルタ322は、比較器220を誤って起動させないように、音楽が存在し得る範囲においてサイドチェーン経路を約12dBだけ減衰させる。いくつかの例では、6dBの減衰など、より小さな変化が適切なことがある。
【0027】
図9は
図8のフィルタに対する機能強化の振幅330を示すものであり、フィルタは、2つの周波数範囲間の移行において信号を大きく減衰させ、ノッチ332によって示されている。所与の実施態様におけるノッチの中心周波数は、ヘッドホンの特定の音響特性および回路特性に依拠することになる。周波数が最も低い音楽は、不安定性が観測される範囲でブリードする可能性が高く、そのため、フィルタは、
図8のように-12dBレベルにおいて横ばいになる前に、深いノッチ328を含む。ノッチは、感知可能な周波数の近くで音楽だけが大音量のとき、比較器の起動が積極的になりすぎるのを防止する。いくつかの例では、ノッチは、単独で、または折点周波数から離れて用いられてよく、すなわち、フィルタはノッチの両側において同一の振幅を有する。
【0028】
図10は、3段(shelf)のレベル342、344、および346を有するフィルタの振幅340を示す。第1の段342は、第1の折点周波数348未満の周波数の信号に対して第1の利得を適用する。第2の段344は、第2の折点周波数350と第3の折点周波数352の間の周波数の信号に対して第2の利得を適用する。第3の段は、第4の折点周波数354よりも高い周波数の信号に対して第3の利得を適用する。折点周波数は、より遠く離れてよく、各段のレベル間に、より緩やかな移行をもたらす。そのような段により、サイドチェーンループは、フィルタリングをより選択的に適用すること、複数のトリガイベントを検査すること、または複数の誤った起動を回避することが可能になる。
図10の段は周波数によって低減する振幅を有して示されているが、各段の振幅は任意のパターンに従ってよい。たとえば、中心の段344は、高い段または低い段のいずれかよりも大きい振幅を有してよい。
図9に示されたようなノッチが、各段の間または内部に含まれてよい。
【0029】
サイドチェーンフィルタK
sc_ffまたはK
sc_fbの特定の1つに対して適用するように論じられたフィルタのそれぞれを他方に対して適用することも可能であり得る。すなわち、
図6のもののような高域通過フィルタがフィードバックのサイドチェーンループに使用され得、または
図7および
図8に示されたような段フィルタが、フィードフォワードのサイドチェーンループもしくは別個にフィルタリングされる音響経路のサイドチェーンループに使用され得る。段の間のノッチ、高域通過フィルタもしくは低域通過フィルタのコーナーのノッチ、または単独のノッチも、任意のサイドチェーンループに用いられ得る。どちらのループで使用されても、フィルタの一般的な特性の1つには、少なくとも2つの異なる周波数範囲において、応答における少なくとも6dBの差をもたらすことがあり、周波数範囲のうちの1つは、10Hzと10kHzの間(一般にANRヘッドホンの能動的な態様の動作範囲)の、かなり狭いものでよい。フィルタのすそは、10Hz未満および10kHz超に広がってよい。
【0030】
前述の様々な信号トポロジおよびフィルタ設計のすべてが、引用された特許において説明された構成可能なデジタル信号プロセッサにおいて比較的容易に実施される。これらのトポロジおよびフィルタの設計は、従来の回路設計技術を用いて、アナログ回路でも、アナログ回路とデジタル回路の組合せでも実施され得るが、もたらされる製品は、集積された構成可能なデジタル信号プロセッサを使用して実施されるものよりも、大きいかまたはそれほど融通性がない可能性がある。
【0031】
前述のシステムおよび方法の実施形態が含み得るコンピュータ構成要素とコンピュータで実施されるステップとは、当業者には明白である。たとえば、コンピュータで実施されるステップは、たとえばフラッシュROM、不揮発性ROM、およびRAMなどのコンピュータ可読媒体にコンピュータ実行可能命令として記憶され得ることが当業者には理解されるはずである。さらに、コンピュータ実行可能命令は、たとえばマイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサ、ゲートアレイなどの様々なプロセッサ上で実行され得ることが当業者は理解されるはずである。説明の容易さのために、本明細書では、前述のステップまたはシステムおよび方法の要素のすべてがコンピュータシステムの一部分であると説明されているわけではないが、当業者なら、それぞれのステップまたは要素が、対応するコンピュータシステムまたはソフトウエアコンポーネントを有し得ることを認識するであろう。したがって、そのようなコンピュータシステムおよび/またはソフトウエアコンポーネントは、それらが対応するステップまたは要素(すなわちそれらの機能)を記述することによって有効になり、本開示の範囲内に入るものである。
【0032】
複数の実施態様が説明されてきた。しかしながら、本明細書で説明した発明概念の範囲から逸脱することなくさらなる修正形態が製作され得、したがって、他の実施形態は、以下の特許請求の範囲の範囲内であることが理解されよう。
【符号の説明】
【0033】
100 ヘッドセット
102 フィードフォワードマイクロフォン
104 フィードバックマイクロフォン
106 出力トランスデューサ
202 フィードフォワード信号経路
204 フィードバック信号経路
205 音響入力経路
206 サイドチェーンループ
208 サイドチェーンループ
210 サイドチェーンフィルタ
212 サイドチェーンフィルタ
214 閾値
216 閾値
218 比較器
220 比較器
222 可変利得増幅器
224 可変利得増幅器
230 サイドチェーンループ
232 比較器
234 閾値
236 可変利得増幅器
302 フィルタの振幅
304 折点周波数
322 フィルタの振幅
324 第1の周波数
326 別の周波数
330 フィルタの振幅
332 ノッチ
340 フィルタの振幅
342 フィルタの振幅のレベル
344 フィルタの振幅のレベル
346 フィルタの振幅のレベル
348 第1の折点周波数
350 第2の折点周波数
352 第3の折点周波数
354 第4の折点周波数