特許第6144480号(P6144480)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立GEニュークリア・エナジー株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6144480-亜鉛注入方法及び亜鉛注入装置 図000003
  • 特許6144480-亜鉛注入方法及び亜鉛注入装置 図000004
  • 特許6144480-亜鉛注入方法及び亜鉛注入装置 図000005
  • 特許6144480-亜鉛注入方法及び亜鉛注入装置 図000006
  • 特許6144480-亜鉛注入方法及び亜鉛注入装置 図000007
  • 特許6144480-亜鉛注入方法及び亜鉛注入装置 図000008
  • 特許6144480-亜鉛注入方法及び亜鉛注入装置 図000009
  • 特許6144480-亜鉛注入方法及び亜鉛注入装置 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6144480
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】亜鉛注入方法及び亜鉛注入装置
(51)【国際特許分類】
   G21D 3/08 20060101AFI20170529BHJP
   G21D 1/00 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
   G21D3/08 GGDB
   G21D1/00 W
【請求項の数】9
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-258400(P2012-258400)
(22)【出願日】2012年11月27日
(65)【公開番号】特開2014-106074(P2014-106074A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2015年3月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】細川 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 誠
(72)【発明者】
【氏名】松原 宏文
【審査官】 長谷川 聡一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−162383(JP,A)
【文献】 特開平07−084090(JP,A)
【文献】 特開平04−001599(JP,A)
【文献】 特開平03−053198(JP,A)
【文献】 特開平01−102396(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21D 3/08
G21D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸ガス溶解領域内に存在する炭酸水溶液に炭酸ガスを注入して前記炭酸ガスを前記炭酸水溶液に溶解し、
記炭酸ガス溶解領域、及び亜鉛を含む固体物質が存在する亜鉛溶解領域を含む閉ループに設けたポンプ装置を駆動して、前記炭酸ガス溶解領域内の前記炭酸水溶液を前記閉ループ循環させ、
前記固体物質に含まれる前記亜鉛を、前記亜鉛溶解領域内において、前記循環によって前記炭酸ガス溶解領域から前記亜鉛溶解領域に供給される前記炭酸水溶液に溶解し、
記炭酸ガス溶解領域内の、溶解した前記亜鉛を含む炭酸水溶液を、原子炉圧力容器に接続された配管を通して前記原子炉圧力容器に供給し、
前記亜鉛溶解領域から排出された、前記溶解した亜鉛を含む前記炭酸水溶液を、前記循環によって前記炭酸ガス溶解領域に供給すると共に、前記炭酸ガス溶解領域内に存在する前記炭酸水溶液と混合させ、
前記炭酸ガス溶解領域内で前記炭酸水溶液と混合された、前記溶解した亜鉛を含む前記炭酸水溶液を、前記亜鉛溶解領域に供給し、
前記溶解した亜鉛を含む炭酸水溶液の亜鉛濃度に基づいた前記ポンプ装置の制御により、前記亜鉛溶解領域に供給する前記炭酸水溶液の流速を変えることによって、前記亜鉛溶解領域内における、前記固体物質から前記炭酸水溶液への前記亜鉛の溶解速度を制御すること特徴とする亜鉛注入方法。
【請求項2】
前記炭酸水溶液の前記亜鉛濃度が設定亜鉛濃度よりも小さいときに前記亜鉛溶解領域に供給される前記炭酸水溶液の第1流速、前記炭酸水溶液の前記亜鉛濃度が前記設定亜鉛濃度になったときに前記亜鉛溶解領域に供給される前記炭酸水溶液の第2流速よりも速くする請求項1に記載の亜鉛注入方法。
【請求項3】
前記閉ループ内を循環した前記溶解した亜鉛を含む炭酸水溶液の前記原子炉圧力容器への供給により前記炭酸ガス溶解領域内の水位が下限設定水位に低下したとき、前記炭酸ガス溶解領域内に水を補給する請求項1またはに記載の亜鉛注入方法。
【請求項4】
前記炭酸ガス溶解領域内の前記水位が上限設定水位まで上昇したとき、前記炭酸ガス溶解領域への前記水の補給を停止する請求項に記載の亜鉛注入方法。
【請求項5】
前記炭酸水溶液の導電率を計測し、計測された前記導電率を用いて前記炭酸水溶液の前記亜鉛濃度を算出し、前記算出された亜鉛濃度に基づいて前記亜鉛溶解領域に供給する前記炭酸水溶液の流速を制御する請求項1に記載の亜鉛注入方法。
【請求項6】
前記炭酸ガスの注入が、第1溶解槽内に形成された前記炭酸ガス溶解領域内の前記炭酸水溶液に対して行われ、前記亜鉛の溶解が第2溶解槽内に形成された前記亜鉛溶解領域内で行われる請求項1に記載の亜鉛注入方法。
【請求項7】
前記炭酸ガスの注入が、溶解槽内に形成された前記炭酸ガス溶解領域内の前記炭酸水溶液に対して行われ、前記亜鉛の溶解が前記溶解槽内に形成された前記亜鉛溶解領域内で行われる請求項1に記載の亜鉛注入方法。
【請求項8】
炭酸水溶液が存在する炭酸ガス溶解領域を内部に形成する第1溶解槽と、前記炭酸ガス溶解領域に炭酸ガスを供給する炭酸ガス供給装置と、亜鉛を含む固体物質が存在する亜鉛溶解領域を内部に形成する第2溶解槽と、前記第1溶解槽及び前記第2溶解槽を含み、前記第1溶解槽及び前記第2溶解槽の間で前記炭酸水溶液を循環させる閉ループと、前記閉ループに設けられ、前記炭酸ガス溶解領域内の前記炭酸水溶液を前記亜鉛溶解領域に供給するポンプ装置と、前記炭酸ガス溶解領域内の前記亜鉛を含む前記炭酸水溶液を原子炉圧力容器に接続された配管に注入する炭酸水溶液注入装置と、前記炭酸ガス溶解領域に炭酸ガスを供給する炭酸ガス供給装置と、前記第1溶解槽から前記第2溶解槽への前記炭酸水溶液の供給時に前記ポンプ装置を駆動させ、かつ前記亜鉛を含む炭酸水溶液の亜鉛濃度に基づいて前記ポンプ装置を制御することにより、前記亜鉛溶解領域に供給する前記炭酸水溶液の流速を変え、前記亜鉛溶解領域内における、前記亜鉛を含む固体物質から前記炭酸水溶液への前記亜鉛の溶解速度を制御する制御装置とを備えたことを特徴とする亜鉛注入装置。
【請求項9】
前記炭酸ガス溶解領域、及び前記炭酸ガス溶解領域の上方に配置された前記亜鉛溶解領域が内部に配置されて、前記第1溶解槽と前記第2溶解槽を一体化した第3溶解槽を備えている請求項に記載の亜鉛注入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛注入方法及び亜鉛注入装置に係り、特に、沸騰水型原子力発電プラントの原子炉圧力容器内の炉水への亜鉛注入に好適な亜鉛注入方法及び亜鉛注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、沸騰水型原子力発電プラント(以下、BWRプラントと略記する。)は、複数の燃料集合体を装荷している炉心を内部に配置した原子炉圧力容器(RPVと称する)を有する原子炉を備えている。再循環ポンプ(またはインターナルポンプ)によって炉心に供給された炉水は、炉心に装荷された燃料集合体内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱され、一部が蒸気になる。この蒸気は、RPVからタービンに導かれ、タービンを回転させる。タービンから排出された蒸気は、復水器で凝縮され、水になる。この水は、給水としてRPVに供給される。RPV内での放射性腐食生成物の発生を抑制するため、給水に含まれる主として金属不純物が給水配管に設けられたろ過脱塩装置で除去される。
【0003】
また、放射性腐食生成物の元となる腐食生成物は、RPV及び再循環系配管等のBWRプラントの構成部材の接水部から発生するので、BWRプラントの主要な一次系の構成部材には腐食の少ないステンレス鋼及びニッケル基合金などの不銹鋼が使用されている。低合金鋼製のRPVは内面にステンレス鋼の肉盛りが施され、RPVの低合金鋼が、直接、炉水と接触することを防止している。炉水とは、RPV内に存在する冷却水である。さらには、炉水の一部をRPVに接続された原子炉浄化系のろ過脱塩装置によって浄化し、炉水中に僅かに存在する金属不純物を積極的に除去している。
【0004】
しかし、上述のような腐食対策を講じたとしても、極僅かな金属不純物が炉水に含まれることを避けることができないため、一部の金属不純物が、金属酸化物として、燃料集合体に含まれる燃料棒の表面に付着する。燃料棒表面に付着した不純物(例えば、金属元素)は、燃料棒内の核燃料物質の核分裂により放出される中性子の照射によって原子核反応を起こし、コバルト60,コバルト58,クロム51及びマンガン54等の放射性核種になる。
【0005】
これらの放射性核種は、大部分が酸化物の形態で燃料棒表面に付着したままである。しかしながら、一部の放射性核種は、取り込まれている酸化物の溶解度に応じて炉水中にイオンとして溶出したり、クラッドと呼ばれる不溶性固体として炉水中に再放出されたりする。炉水に含まれる放射性物質は、RPVに接続された原子炉浄化系によって取り除かれる。しかしながら原子炉水浄化系で処理される炉水の処理量は、給水流量の数%でしかないため、炉水中の放射性物質を完全に除去することはできない。炉水中に残存する放射性物質は炉水とともにRPVに接続された再循環系などを循環している間に、BWRプラントの構成部材(例えば、配管)の炉水と接触する表面に蓄積される。この結果、構成部材の表面から放出される放射線が、BWRプラントの定期検査においてこの定期検査の作業に従事する従事者の放射線被ばくの原因となる。
【0006】
その従業者の被ばく線量は、各人毎に規定値を超えないように管理されている。近年この規定値が引き下げられ、各人の被ばく線量を可能な限り低くする必要が生じている。
【0007】
そこで、配管の炉水と接触する表面への放射性核種の付着を低減する方法、及び炉水中の放射性核種の濃度を低減する方法が様々検討されている。
【0008】
このような方法の一つとして、亜鉛などの金属イオンを炉水中に共存させ、炉水と接触する配管の内面及び構造物の表面に、亜鉛を含む緻密な酸化皮膜を形成することによって、この酸化皮膜中へのコバルト60及びコバルト58等の放射性核種の取り込みを抑制する方法が特開昭58−79196号公報に記載されている。
【0009】
また、特許第3344608号公報には、亜鉛溶解槽内の水溶液中に炭酸ガスを導入して炭酸ガスで飽和した水溶液を生成し、亜鉛溶解槽内のこの水溶液に亜鉛(例えば、酸化亜鉛)を供給してこの亜鉛を炭酸ガスで飽和した水溶液に溶解させること記載している。生成された、亜鉛イオンを含む水溶液がRPV内に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭58−79196号公報
【特許文献2】特許第3344608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
亜鉛イオンを作製しようとする場合、亜鉛の塩及び亜鉛化合物或いは亜鉛金属を酸及びアルカリで溶解する方法がある。いずれの場合も亜鉛イオンと反対の電荷を持つ対アニオン或いは対カチオンも炉水に持ち込まれることになるため、炉水及び構成部材への影響が少ない化学形態が望まれる。そのような化学形態の一つとして特許第3344608号公報では炭酸水を用いて亜鉛化合物(例えば、酸化亜鉛粉末)を溶解して亜鉛イオンを作製している。
【0012】
特許第3344608号公報に記載された亜鉛注入方法では、亜鉛溶解槽内で生成した炭酸ガスで飽和した水溶液に亜鉛を溶解し、亜鉛イオンを含む水溶液を生成しているため、その水溶液に含まれる亜鉛の濃度が低くなる。亜鉛濃度の低い水溶液をRPVの炉水に注入した場合には、例えば、炉内構造物の表面及びRPVに接続された配管内面への放射性核種の付着を抑制する効果が小さくなる。
【0013】
本発明の目的は、原子炉圧力容器内に注入する、亜鉛イオンを含む炭酸水溶液の亜鉛イオン濃度をさらに増加することができる亜鉛注入方法及び亜鉛注入装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、炭酸ガス溶解領域内に存在する炭酸水溶液に炭酸ガスを注入してこの炭酸ガスを炭酸水溶液に溶解し、炭酸ガス溶解領域内の炭酸水溶液を、炭酸ガス溶解領域、及び亜鉛を含む固体物質が存在する亜鉛溶解領域を含む閉ループ内を循環させ、固体物質に含まれる亜鉛を、亜鉛溶解領域内において、その循環によって炭酸ガス溶解領域から亜鉛溶解領域に供給される炭酸水溶液に溶解し、溶解した亜鉛を含む炭酸水溶液をその循環によって炭酸ガス溶解領域に供給し、炭酸ガス溶解領域内の、亜鉛を含む炭酸水溶液を、原子炉圧力容器に接続された配管を通して原子炉圧力容器に供給することことにある。
【0015】
亜鉛を含む炭酸水溶液を、炭酸ガス溶解領域及び亜鉛溶解領域を含む閉ループ内を循環させるため、亜鉛溶解領域を通過するたびに、固体物質に含まれる亜鉛が炭酸水溶液に溶解し、炭酸水溶液の亜鉛イオン濃度をさらに増加させることができる。このため、原子炉圧力容器内の炉水の亜鉛イオン濃度も、より短時間で増加させることができる。
【0016】
好ましくは、炭酸水溶液の亜鉛濃度が設定亜鉛濃度よりも小さいときに亜鉛溶解領域に供給される炭酸水溶液の第1流速は、炭酸水溶液の亜鉛濃度が設定亜鉛濃度になったときに亜鉛溶解領域に供給される炭酸水溶液の第2流速よりも速くすることが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、原子炉圧力容器内に注入する、亜鉛イオンを含む炭酸水溶液の亜鉛イオン濃度をさらに増加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の好適な一実施例である実施例1の亜鉛注入方法に用いられる亜鉛注入装置の構成図である。
図2図1に示す亜鉛注入装置を用いた、沸騰水型原子力プラントにおける原子炉圧力容器内への亜鉛イオン注入方法の説明図である。
図3】炭酸飽和溶解水における亜鉛溶解濃度とpHの関係を示す説明図である。
図4】炭酸水の線流速と酸化亜鉛の表面に形成される、炭酸水の拡散層の厚みの関係を示す特性図である。
図5】炭酸水による酸化亜鉛の溶解時間と亜鉛濃度の関係を示す特性図である。
図6】炭酸飽和水における亜鉛濃度と導電率の関係を示す特性図である。
図7】本発明の他の好適な実施例である実施例2の亜鉛注入方法に用いられる亜鉛注入装置の構成図である。
図8】本発明の他の好適な実施例である実施例3の亜鉛注入方法に用いられる亜鉛注入装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
特許第3344608号公報では、前述したように、炭酸水を用いて亜鉛化合物(例えば、酸化亜鉛粉末)を溶解して亜鉛イオンを作製している。炭酸ガスを亜鉛溶解槽の底部から亜鉛溶解槽内の水中にバブリングして炭酸水を生成し、同じ亜鉛溶解槽に亜鉛化合物を添加して撹拌することによって亜鉛化合物を溶解し、亜鉛イオンを生成することができる。亜鉛化合物が添加された水中に炭酸ガスをバブリングすると、式(1)、式(2)及び式(3)で表される炭酸イオンの平衡反応が生じる。
【0020】
CO2(g)=CO2(aq) ; KH=[CO2(aq)]/PCO2=0.034(25℃で) ……(1)
CO2(aq)+H2O=HCO3-+H+ ; K1=[HCO3-][H+]/[CO2(aq)]=4.45×10-7 ……(2)
HCO3-=CO32-+H+ ; K2=[CO32-][H+]/[HCO3-]=4.69×10-11 ……(3)
これら三つの平衡式に加え水のイオン積[H+][OH-]=10-14、全圧101.3kPa、及び25℃の水の水蒸気圧8.44kPaを用いて、式(4)の電荷均衡式を解くと、pHは3.91となる。
【0021】
[OH-]+[HCO3-]+2[CO32-]=[H+] ……(4)
この炭酸水に亜鉛を溶解させると式(5)から式(9)で表される亜鉛イオンの各平衡反応が加わることになる。
【0022】
Zn2++OH-=Zn(OH)+ ; KZn1=[Zn(OH)+]/([Zn2+][OH])=2.04×106 ……(5)
Zn2++2OH-=Zn(OH)2 ; KZn2=[Zn(OH)2]/([Zn2+][OH-]2)=1.55×1011 ……(6)
Zn2++3OH-=Zn(OH)3- ; KZn3=[Zn(OH)3-]/([Zn2+][OH-]3)=2.04×1014 ……(7)
[Zn2+]+[CO32-]=[ZnCO3] ; KZnC=[ZnCO3]/([Zn2+][CO32-]))2.00×103 ……(8)
[Zn2+]+[HCO3-]=[ZnHCO3+] ; KZnHC=[ZnHCO3+]/([Zn2+][HCO3-])=7.08 ……(9)
亜鉛を加えた電荷均衡式及び亜鉛の質量均衡式を以下に示す。
【0023】
[Zn]T=[Zn2+]+[Zn(OH)+]+[Zn(OH)2]+[ZnCO3]+[ZnHCO3+] ……(10)
[H+]+2[Zn2+]+[Zn(OH)+]+[ZnHCO3+]=[OH-]+[HCO3-]+2[CO32-] ……(11)
式(1)から式(11)を用いて亜鉛全濃度[Zn]TとpHの関係を求めた結果を図3に示す。図3に基づけば、亜鉛の溶解が進んで濃度が上昇するとpHも上昇することが分かる。この亜鉛濃度は亜鉛の飽和溶解濃度であり、実際の溶液中の亜鉛濃度との差分を駆動力として、亜鉛の溶解速度は次式の固体の溶解速度を表すNernst-Noyes-Whitney’s式で表すことができる。
【0024】
【数1】
【0025】
ここで、cは溶質濃度(ppm)、tは溶解時間(h)、Aは溶質表面積(cm)、Dは拡散係数(cm/h)、csは溶質飽和濃度(ppm)、Vは溶解液量(cm)、δは拡散層厚み(cm)である。
【0026】
溶解液量Vは溶解装置の大きさで決まり、溶質表面積Aは装置に仕込む亜鉛を含む固体物質の量で決まる値である。拡散係数Dは飽和溶質濃度csと同様に、温度や固体物質の種類によって決まる値である。一方、拡散層厚みδは亜鉛を含む固体物質に形成される炭酸水の拡散層厚みであり、固体物質と炭酸水の相対速度が速いほど薄くなるという性質がある。
【0027】
発明者らはこの関係を実験により求め、図4に示す結果を得た。図4から分かるように、炭酸水の流速が速くなると、亜鉛を含む固体物質の表面に形成される拡散層厚みが急激に薄くなり、ある程度の流速以上ではその減少率が鈍くなっている。流速5500cm/hでその固体物質の表面に形成される拡散層厚みは流速124cm/hでその固体物質の表面に形成される拡散層厚みに比較して約1/3になる。式(12)に基づけば、亜鉛を含む固体物質の溶解速度も3倍になることが分かる。これを利用すると、炭酸水の亜鉛濃度が低い場合は炭酸水の流速を速くし、その亜鉛濃度が上昇して来たらその流速を遅くするという運用が可能になる。
【0028】
亜鉛によるCo−60付着抑制効果は、炉水の亜鉛濃度が2〜10ppbのときに生じる。この効果を得るためには、例えば、110万kWクラスのBWRプラントにおいて0.2ppb程度の、給水の亜鉛濃度が必要になる。原子炉圧力容器に供給される給水流量は約6400t/hであるため、給水への亜鉛の注入速度は1.3g/hとなる。1つの運転サイクルを1年としたとき、この運転サイクルで使用する亜鉛の量は11.4kgとなり、亜鉛を酸化亜鉛により供給する場合には必要な酸化亜鉛の量は14.2kgとなる。原子力プラントの定期検査の期間中において、その量以上の酸化亜鉛を亜鉛溶解装置の亜鉛溶解槽内に充填しておけば、原料である酸化亜鉛を、原子力プラントの運転中において溶解槽内に供給する必要はない。
【0029】
以上に述べた検討結果を反映した本発明の実施例を、以下に説明する。
【実施例1】
【0030】
本発明の好適な一実施例である実施例1の亜鉛注入方法を、図1及び図2を用いて説明する。本実施例の亜鉛注入方法は、沸騰水型原子力プラント(以下、BWRプラントという)に適用される。
【0031】
まず、本実施例の亜鉛注入方法が適用されるこのBWRプラントの概略構成を、図2を用いて説明する。BWRプラントは、原子炉26、タービン34、復水器35、再循環系、原子炉浄化系及び給水系等を備えている。原子炉格納容器32内に設置された原子炉26は、炉心28を内蔵する原子炉圧力容器(以下、RPVという)27を有し、RPV27内にジェットポンプ29を設置している。炉心28には複数の燃料集合体(図示せず)が装荷されている。各燃料集合体は、核燃料物質で製造された複数の燃料ペレットを充填した複数の燃料棒を含んでいる。再循環系は再循環ポンプ30及びステンレス鋼製の再循環系配管31を有し、再循環ポンプ30が再循環系配管31に設置されている。給水系は、復水器35とRPV27を連絡する給水配管36に、復水器35からRPV27に向かって、復水ポンプ37、復水浄化装置38、低圧給水加熱器40、給水ポンプ39及び高圧給水加熱器41をこの順に設置して構成される。水素注入装置49が、復水器35と復水ポンプ37の間で給水配管36に接続されている。原子炉水浄化系は、再循環系配管31と給水配管36を連絡する浄化系配管43に、浄化系ポンプ45,再生熱交換器46,非再生熱交換器47及び浄化装置48を設置して構成される。浄化系配管43は、再循環ポンプ30より上流で再循環系配管31に接続される。
【0032】
RPV27内の冷却水(以下、炉水という)は、再循環ポンプ30で昇圧され、再循環系配管31を通ってジェットポンプ29のノズル(図示せず)からジェットポンプ29のベルマウス(図示せず)内に噴出される。ノズルの周囲に存在する炉水も、ノズルから噴出される噴出流の作用により、ベルマウス内に吸引される。ジェットポンプ29から吐出された炉水は、炉心28に供給され、燃料棒内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱される。加熱された炉水の一部が蒸気になる。この蒸気は、RPV27から主蒸気配管33を通ってタービン34に導かれ、タービン34を回転させる。タービン34に連結された発電機(図示せず)が回転され、電力が発生する。タービン34から排出された蒸気は、復水器35で凝縮され、水になる。
【0033】
この水は、給水として、給水配管36を通りRPV27内に供給される。給水配管36を流れる給水は、復水ポンプ37で昇圧され、復水浄化装置38で不純物が除去され、給水ポンプ39でさらに昇圧され、低圧給水加熱器40及び高圧給水加熱器41で加熱される。抽気配管42で主蒸気配管33,タービン34から抽気された抽気蒸気が、低圧給水加熱器40及び高圧給水加熱器41にそれぞれ供給され、給水の加熱源となる。
【0034】
給水として炉心に持ち込まれた水は核燃料物質の核分裂に伴って発生する放射線の照射を受けて放射線分解を起こし、過酸化水素及びや酸素などの酸化性化学種を生ずる。この酸化性化学種によって炉水と接触する構成部材の腐食電位が上昇する。このため、応力腐食割れに対する環境緩和対策として水素注入装置49から給水に水素を注入して、この水素と酸化剤を反応させることで酸化剤濃度を低減させて腐食電位を下げる運転が行われている。この給水に水素を注入しながら行う運転を水素注入水質運転(HWC:Hydrogen Water Chemistry)、水素注入を行わない従来の運転を通常水質運転(NWC:Normal Water Chemistry)と呼んでいる。水素注入による腐食電位低下運転は運転中継続することが望ましいが、中断される場合があり、この時に腐食電位の高い状態となる。
【0035】
再循環系配管31内を流れる炉水の一部は、浄化系ポンプ45の駆動によって浄化系配管43内に流入し、浄化装置48で浄化される。浄化された炉水は、浄化系配管43及び給水配管36を経てRPV27内に戻される。
【0036】
BWRプラントは、一つの運転サイクルでの運転が終了した後に停止される。この運転停止後に、BWRプラントに対して定期検査が実施される。この定期検査が終了した後、BWRプラントが再度起動される。この定期検査の期間中において、炉心28内の一部の燃料集合体が新燃料集合体と交換される。すなわち、炉心28内の一部の燃料集合体が、使用済燃料集合体としてRPV27から取り出され、燃焼度ゼロの新たな燃料集合体が炉心28に装荷される。
【0037】
本実施例の亜鉛注入方法に用いられる亜鉛注入装置1は、復水浄化装置38と低圧給水加熱器40の間の給水配管36に亜鉛注入配管21を介して接続される。亜鉛注入装置1の詳細を、図1を用いて説明する。亜鉛注入装置1は、内部に亜鉛溶解領域を形成する亜鉛溶解槽(第2溶解槽)2、内部に炭酸ガス溶解領域を形成する炭酸ガス溶解槽(第1溶解槽)4、及び炭酸ガス供給装置13を有する。炭酸ガス溶解槽4の底部に一端部が接続される配管7の他端部が、亜鉛溶解槽2の底部に接続される。配管8の一端部が亜鉛溶解槽2の頂部に接続され、配管8の他端部が炭酸ガス溶解槽4の頂部に接続される。炭酸ガス溶解槽4、配管7、亜鉛溶解槽2及び配管8によって、閉ループが形成される。循環ポンプ6及び流量計12が配管7に設けられる。水位計10及び導電率計11が炭酸ガス溶解槽4に設けられる。
【0038】
亜鉛溶解槽2の内部には亜鉛を含む粒状の固体を充填する。この粒状の固形物は循環ポンプ6で昇圧された炭酸水溶液24の流れで容易に流動しない大きさとする。そのような固形物としては例えば酸化亜鉛の円柱状焼結体(直径1cm、高さ1cm)または金属亜鉛球(直径1cm)などがある。
【0039】
炭酸ガス供給装置13は、散気管5、炭酸ガス供給管15及び炭酸ガスボンベ14を有する。散気管5は、多数の噴出孔が形成され、炭酸ガス溶解槽4内の底部に配置される。炭酸ガス供給管15は、散気管5及び炭酸ガスボンベ14に接続される。バルブ16が炭酸ガス供給管15に設けられる。
【0040】
亜鉛注入配管21が、循環ポンプ6の上流で配管7に接続され、さらに、給水配管36に接続される。注入ポンプ20及び流量計22が亜鉛注入配管21に設けられる。制御装置23が、信号線により、水位計10、導電率計11及び流量計12及び22に接続される。
【0041】
亜鉛注入装置1を用いた本実施例の亜鉛注入方法を、以下に具体的に説明する。
【0042】
制御装置23から出力される制御指令に基づいてポンプ18が駆動され、補給水が補給水源17から補給水配管19を通して炭酸ガス溶解槽4に供給される。水位計10計測された水位信号が制御装置23に入力される。制御装置23が、水位計10からの水位信号に基づいて炭酸ガス溶解槽が満水になったと判定したとき、制御装置23がポンプ18の駆動を停止し、補給水の炭酸ガス溶解槽4への供給が停止される。
【0043】
炭酸ガス溶解槽4が満水になった後、制御装置23はバルブ16を開く。炭酸ガスボンベ14内の炭酸ガスが、炭酸ガス供給配管15を通って散気管5に供給され、散気管5から炭酸ガス溶解槽4の水中に放出される。放出された炭酸ガスは炭酸ガス溶解槽4内の水に溶解する。この水に溶解しなかった炭酸ガスは、炭酸ガス溶解槽4内を上昇して炭酸ガス溶解槽4からベント配管9に放出される。
【0044】
炭酸ガス溶解槽4に供給された炭酸ガスは、式(1)の反応により、水との界面から水に溶解し、CO2(aq)となる。続いて、式(2)及び式(3)の平衡反応が生じ、炭酸水素イオン(HCO3-)及び炭酸イオン(CO32-)が生じる。炭酸ガス溶解槽4の圧力は大気圧(101.3kPa)であり、気相部には炭酸ガスの他、25℃での飽和水蒸気8.44kPaが含まれる。炭酸ガス溶解水のpHは式(1)から式(3)の平衡定数と式(4)の関係を使って計算すると、炭酸ガスの水への溶解が平衡に達したときには炭酸ガス溶解槽4内の炭酸水溶液24のpHが3.91になる。
【0045】
炭酸ガス溶解槽4内の炭酸水溶液24のpHの低下に伴ってその炭酸水溶液24の導電率は上昇する。このpHが飽和炭酸水のpH3.91に近づいてくると、炭酸ガス溶解槽4内の炭酸水溶液24の導電率の上昇が飽和する。この導電率の上昇が飽和したことは、例えば、10分以上、炭酸ガス溶解槽4内で生成された炭酸水溶液24の導電率が上昇傾向を示さなくなったことをもって判定される。
【0046】
導電率計11は炭酸ガス溶解槽4内の炭酸水溶液24の導電率を計測する。制御装置23は、導電率計11で計測された導電率を入力し、入力した導電率に基づいて炭酸ガス溶解槽4内の炭酸水溶液24の導電率の上昇が飽和したと判定したとき、循環ポンプ6に駆動開始信号を出力する。これにより、循環ポンプ6が駆動され、炭酸ガス溶解槽4内の炭酸水溶液24が、配管7を通って亜鉛溶解槽2に供給される。
【0047】
BWRプラントの一つの運転サイクルでの消費量以上、例えば、30kg以上の酸化亜鉛ペレット(亜鉛を含む固体物質)3が、亜鉛溶解槽2内に予め充填されている。酸化亜鉛の替わりとして炭酸亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、及び金属亜鉛のいずれかを用いることも可能である。酸化亜鉛ペレット3は、亜鉛溶解槽2内で上昇する炭酸水溶液24の流速では浮遊しない程度の大きさとする。このため、酸化亜鉛ペレット3の大きさは、例えば、粒径5mm以上とする。これは、亜鉛溶解槽2内に予め充填する酸化亜鉛が微細な粉末である場合には、この酸化亜鉛が、炭酸水溶液24の流れに乗って、溶解しない状態のまま、配管8、及び亜鉛注入配管21を通って給水配管36に注入される。このため、溶解しない酸化亜鉛によって亜鉛注入配管21に目詰まりが生じる恐れがあり、さらに、RPV27内の炉水の亜鉛濃度を管理する上でも好ましくない。
【0048】
炭酸ガス溶解槽4から亜鉛溶解槽2内に供給された炭酸水溶液24は、亜鉛溶解槽2内で、充填された多数の酸化亜鉛ペレット3の相互間を酸化亜鉛ペレット3に接触しながら上昇する。上昇する低いpHの炭酸水溶液24が酸化亜鉛ペレット3を溶解し、酸化亜鉛ペレット3に含まれる亜鉛がイオンとなって炭酸水溶液24内に溶出する。この時の酸化亜鉛ペレット3の溶解反応は、式(13)で表される。
【0049】
ZnO+H++H2O = Zn2++2OH- ……(13)
この結果、亜鉛イオンを含む炭酸水溶液(亜鉛イオンを含む注入水)24が亜鉛溶解槽内で生成される。この亜鉛イオンを含む炭酸水溶液では、式(4)から式(9)の平衡関係が成立し、電荷均衡式である式(10)及び亜鉛の質量均衡式である式(11)が成立する。式(1)から式(11)の関係式を用いることにより、図3に示すような炭酸水溶液の亜鉛全濃度[Zn]と炭酸水溶液のpHの関係が求められる。
【0050】
亜鉛溶解槽2内における亜鉛の溶出によって亜鉛溶解槽2内の炭酸水溶液24のpHが、図3に示すように、中性側に変化し、炭酸水溶液24への亜鉛の溶出度合いが抑制される。亜鉛イオンを含む炭酸水溶液24は、亜鉛溶解槽2の頂部から配管8に排出され、配管8を通って炭酸ガス溶解槽4に供給される。炭酸ガス溶解槽4に供給された亜鉛イオンを含む炭酸水溶液24は、炭酸ガス溶解槽4内の炭酸水溶液24と混合され、循環ポンプ6で昇圧されて配管7を通して亜鉛溶解槽2に導入される。この亜鉛イオンを含む炭酸水溶液24は、亜鉛溶解槽2内で酸化亜鉛ペレット3に接触し、前述したように、酸化亜鉛ペレット3に含まれる亜鉛がイオンとなってその炭酸水溶液24に溶出する。このため、亜鉛イオンを含む炭酸水溶液24の亜鉛イオンの濃度が増加する。
【0051】
亜鉛溶解槽2内の亜鉛イオンを含む炭酸水溶液24は、炭酸ガス溶解槽4、配管7、亜鉛溶解槽2及び配管8によって形成される閉ループ内を循環する。このような亜鉛イオンを含む炭酸水溶液24の循環により、この炭酸水溶液24の亜鉛イオン濃度は、酸化亜鉛ペレット3が充填された亜鉛溶解槽2内を炭酸水溶液24が通過するたびに、増加する。閉ループ内を循環する炭酸水溶液24の亜鉛イオンの濃度は、やがて、飽和濃度に到達する。炭酸水溶液24を、酸化亜鉛ペレット3を充填した亜鉛溶解槽2を含む上記の閉ループ内で循環させることによって、亜鉛イオンの濃度が飽和濃度付近まで上昇した炭酸水溶液24を容易に得ることができる。
【0052】
発明者らは、このときの酸化亜鉛ペレット3から炭酸水溶液24に溶解する亜鉛の溶解速度を、図1に示す構成を有する試験装置を用いて検討した。この試験装置は、図1に示された亜鉛注入装置1を小型化したものである。使用する水の量が10リットル、亜鉛溶解槽に充填される酸化亜鉛ペレットが770gである。さらに、この試験装置では、亜鉛注入装置1に設けられる、ポンプ18を設置している補給水配管19、及び注入ポンプ20を設置している亜鉛注入配管21が除去されている。
【0053】
炭酸ガス溶解槽内の水の温度を30℃にして炭酸ガスを散気管からその水の中にバブリングし、炭酸ガス溶解槽内で炭酸水溶液を生成した。炭酸水溶液の導電率の上昇が飽和したところで、循環ポンプを駆動して炭酸ガス溶解槽内の炭酸水溶液を、酸化亜鉛ペレットが充填された亜鉛溶解槽に供給した。この時における亜鉛溶解槽への炭酸水溶液の供給時間と炭酸水溶液の亜鉛濃度の関係を図5に示す。図5の特性に基づけば、亜鉛溶解槽への炭酸水溶液の供給を開始した時点から約20時間を経過したときに、亜鉛溶解槽内の炭酸水溶液の亜鉛濃度が飽和濃度に到達していることが分かる。図5に示された菱形のプロット(実験値)と式(12)に基づいて、溶解した亜鉛の拡散速度係数D、酸化亜鉛ペレットの表面に形成された拡散層厚みδ、亜鉛の飽和溶解度cをフィッティングで求め、これらの値を用いて計算した亜鉛濃度の経時変化を図5に実線で示した。
【0054】
同様の実験を炭酸水溶液の流速を変化させて行い、求めた拡散層の厚みδと炭酸水溶液の流速の関係を求めた。この結果、炭酸水溶液の流速が変化すると、拡散層の厚みδが図4に示すように変化した。この図4によれば、炭酸水溶液の流速が速くなると拡散層の厚みδが薄くなり、式(12)から拡散層の厚みδが薄くなるほど亜鉛の溶解速度が速くなることが分かる。例えば、炭酸水溶液の流速が5500cm/hであるときの拡散層の厚み0.034cmに比べてその流速が124cm/hであるときの拡散層の厚みは0.11cmと約3倍になる。この結果、炭酸水溶液の流速が124cm/hであるときの亜鉛の溶解速度は、炭酸水溶液の流速が5500cm/hであるときの亜鉛の溶解速度の1/3に低下する。従って、酸化亜鉛ペレットに接触する炭酸水溶液の流速が速いほどこの炭酸水溶液の亜鉛濃度が早く飽和溶解度に到達することになる。亜鉛濃度が飽和溶解度付近に到達してしまえば、循環ポンプ6の回転速度を下げて亜鉛溶解槽内における炭酸水溶液の流速を下げ、循環ポンプ6の負荷を減らすことが望ましい。
【0055】
亜鉛注入装置1を用いた本実施例の亜鉛注入方法を、図4及び図5に示された特性を用いて更に説明する。亜鉛注入装置1の閉ループ内を循環する炭酸水溶液24の総量を200kgとし、その炭酸水溶液24の線流速を5500cm/hとした場合、炭酸水溶液24の亜鉛濃度が約10時間で飽和溶解度に近い350ppmに到達する。そこで、制御装置23は、導電率計11で計測された導電率に基づいて、炭酸ガスをバブリングしている炭酸水溶液24の炭酸濃度が炭酸飽和濃度に到達したと判定したとき、亜鉛溶解槽2内の炭酸水溶液24の線流速が5500cm/hになるように、循環ポンプ6を駆動する。
【0056】
発明者らが実験によって求めた、炭酸が飽和した炭酸水溶液24中の亜鉛濃度とその炭酸水溶液24の導電率の関係を示す特性を、図6に示す。図6に示されたこの特性は制御装置23のメモリ(図示せず)に予め記憶されている。制御装置23は、導電率計11で計測した炭酸水溶液24の導電率を用いてその炭酸水溶液24の亜鉛濃度を求め、この亜鉛濃度が例えば350ppmに到達したときに、循環ポンプ6の回転数を制御して亜鉛溶解槽2を流れる炭酸水溶液24の流速を例えば124cm/hまで低下させる。亜鉛溶解槽2内での亜鉛の溶解初期では亜鉛を早く炭酸水溶液24に溶解した方が、RPV27内への亜鉛注入が早期にできるので好ましい。しかし、一旦、炭酸水溶液24の亜鉛濃度が飽和溶解度になるとその後は線流速を下げて亜鉛の溶解速度を落として、循環ポンプ6の駆動電力を節約することが望ましい。
【0057】
制御装置23は、炭酸水溶液24の亜鉛濃度が350ppmに到達したと判定したとき、注入ポンプ20の起動信号を出力する。注入ポンプ20は、この起動信号により起動される。注入ポンプ20が起動すると、炭酸ガス溶解槽4から排出された、亜鉛濃度が350ppmである炭酸水溶液24が、亜鉛注入配管21を通して給水配管36に注入される。亜鉛濃度350ppmの炭酸水溶液24は、給水配管36内を流れる給水に混入される。更に、制御装置23は、注入する炭酸水溶液24の亜鉛濃度及び給水配管36内を流れる給水の流量(給水流量)に基づいてRPV27に供給される給水の亜鉛濃度が所定の値、例えば0.2ppb(設定亜鉛濃度)になるように、給水配管36への炭酸水溶液24の注入量を制御する。110万kWのBWRプラントでは給水流量が6400t/hであるので、制御装置23は、注入する炭酸水溶液24の亜鉛濃度、給水流量及び設定亜鉛濃度に基づいて、亜鉛濃度350ppmの炭酸水溶液24の注入量を3.5kg/hと算出し、炭酸水溶液24の注入量がこの値になるように注入ポンプ20の回転速度を制御する。炭酸水溶液24中では、亜鉛はイオン状になっている。
【0058】
給水配管36内に注入された亜鉛イオンを含む炭酸水溶液24は給水配管36内で給水に混合され、この亜鉛イオンを含む給水が、RPV27に供給される。給水に含まれた亜鉛イオンはRPV27内で炉水に混入される。亜鉛イオンを含む炉水が、RPV27内を循環し、RPV27に接続された配管(例えば、再循環系配管31及び浄化系配管43等)内を流れる。亜鉛イオンを含む炭酸水溶液24の給水配管36への注入が継続して行われると、炭酸ガス溶解槽4内の水位が低下する。このため、補給水源17から炭酸ガス溶解槽4内に水が補給される。例えば、水位計10で計測された、炭酸ガス溶解槽4の水位を入力した制御装置23は、この水位に基づいて、炭酸ガス溶解槽4の水位が炭酸ガス溶解槽4の保有水量200kgのうち一割が給水配管36に注入された状態における炭酸ガス溶解槽4の下限設定水位まで低下したと判定したとき、ポンプ18の起動信号を出力する。ポンプ18が起動され、補給水源17の水が補給水配管19を通して炭酸ガス溶解槽4に供給される。制御装置23は、補給水の供給により、水位計10で計測された水位が満水状態を示す上限設定水位に達したと判定したとき、ポンプ1の停止信号を出力する。このとき、ポンプ18の駆動が停止される。
【0059】
補給水の炭酸ガス溶解槽4への供給により、炭酸ガス溶解槽4内の炭酸水溶液24の亜鉛濃度が下がり、炭酸水溶液24の導電率も低下する。制御装置23は、導電率計11で計測した導電率に基づいて求めた、炭酸ガス溶解槽4内の炭酸水溶液24の亜鉛濃度が、亜鉛の飽和濃度の、例えば、20%減の280ppmを下回ったと判定したとき、循環ポンプ6の回転速度を増加させる。亜鉛溶解槽2内を上昇する炭酸水溶液24の線流速が5500cm/hに速められ、炭酸水溶液24の亜鉛イオン濃度が亜鉛の飽和濃度に到達するまでに要する時間が短縮される。炭酸水溶液24の亜鉛濃度が亜鉛の飽和濃度よりも低い期間では、給水に注入される炭酸水溶液24の亜鉛濃度を0.2ppbに維持できるように、制御装置23が注入ポンプ20の駆動を制御し、注入速度を上げて炭酸水溶液24の注入量を増やすことで対応する。例えば、炭酸水溶液24の亜鉛濃度が280ppmの場合には、制御装置23は、給水配管36への炭酸水溶液24の注入量を4.6kg/hと算出し、炭酸水溶液24の注入量がこの値になるように注入ポンプ20の駆動を制御する。
【0060】
なお、流量計12で計測された、亜鉛溶解槽2に供給される炭酸水溶液24の流量は、制御装置23に入力される。制御装置23は、炭酸水溶液24の亜鉛の飽和濃度に対応した、亜鉛溶解槽2に供給される炭酸水溶液24の流量(設定流量)を記憶しており、流量計12から入力した流量に基づいて亜鉛溶解槽2に供給される炭酸水溶液24の流量が設定流量になったかを確認する。また、流量計22で計測された流量も制御装置23に入力される。制御装置23は、流量計22から入力した流量、及び導電率計11で計測した導電率を用いて求めた炭酸水溶液24の亜鉛濃度に基づいて、注入ポンプ20の回転速度を調節し、給水配管36に注入する亜鉛を含む炭酸水溶液の注入量を制御する。
【0061】
このように、本実施例では炭酸ガス溶解槽4内での炭酸ガスの溶解、亜鉛溶解槽2内での炭酸水溶液24による亜鉛の溶解、及び亜鉛イオンを溶解した炭酸水溶液24の炭酸ガス溶解槽4及び亜鉛溶解槽2への再循環により、亜鉛濃度が亜鉛の飽和濃度に近い、亜鉛を含む炭酸水溶液24を作成し、この亜鉛含有炭酸水溶液を給水に注入し、この注入によって減少した水量を補うため水を炭酸ガス溶解槽4に補給するという亜鉛注入装置1の運転が、BWRプラントの1つの運転サイクルにおいて繰り返されることで、亜鉛イオンを含む給水がRPV27に供給される。
【0062】
本実施例では、350ppmの亜鉛イオンを含む炭酸水溶液24を3.5kg/hで給水に注入しているが、これは1.2g/hの亜鉛イオンの供給速度に相当する。1つの運転サイクルを10000hとすると、亜鉛を含む固体物質の消費量は、亜鉛で12kg、酸化亜鉛では15kgとなる。本実施例では30kgの酸化亜鉛ペレット3がBWRプラント起動前の定期検査中に亜鉛溶解槽2へ供給されているので、プラント運転中は亜鉛イオンの原料を補給する必要はなく、プラント運転中は亜鉛注入装置1を連続して運転することが可能である。
【0063】
本実施例は、亜鉛注入装置1で上記したように生成された亜鉛イオンを含む炭酸水溶液24を給水配管36に注入し、亜鉛イオンを含む給水をRPV27内の炉水に供給するので、再循環系配管31及び浄化系配管43等の炉水の流れる配管の内面への放射性コバルトの付着量を低減することができる。このため、定期検査の作業時における従事者の放射線被ばくを低減することができる。
【0064】
本実施例によれば、炭酸ガス溶解槽4内の炭酸水溶液24を、酸化亜鉛ペレット3を充填した亜鉛溶解槽2及び炭酸ガス溶解槽4を含む閉ループ内で循環させるので、亜鉛イオンを含みRPV27に注入される炭酸水溶液(注入水)24の亜鉛イオン濃度を高くすることができる。このため、RPV27内の炉水の亜鉛イオン濃度をより短時間で増加させることができる。
【0065】
本実施例では、炭酸ガス溶解槽4から配管7を通して亜鉛溶解槽2に供給する炭酸水溶液24の流速を調節することができるので、炭酸水溶液24の亜鉛イオン濃度を設定亜鉛イオン濃度まで高めるのに要する時間を短くすることができる。また、炭酸水溶液24の亜鉛イオン濃度が設定亜鉛イオン濃度に増加した後では、亜鉛溶解槽2内の炭酸水溶液24の流速が遅くなるように調節することができる。これによって、炭酸ガス溶解槽4から亜鉛溶解槽2に炭酸水溶液24を供給する循環ポンプ6の負荷を低減することができ、循環ポンプ6で消費する電力を少なくすることができる。
【0066】
本実施例では、炭酸ガスの溶解と亜鉛の溶解を別々の溶解槽で行っているので、すなわち、炭酸ガス溶解槽4において炭酸ガスの溶解により炭酸水溶液24を生成し、亜鉛溶解槽2においてこの炭酸水溶液24を用いて亜鉛を溶解するので、炭酸ガスの溶解により生成される炭酸水溶液24の炭酸濃度の調節を容易に行うことができ、所定濃度の亜鉛イオンを含む炭酸水溶液24の生成を容易に行うことができる。
【0067】
本実施例は、炭酸ガス溶解槽4に導電率計11を設置しているので、導電率計11の導電率計測値に基づいて炭酸ガス溶解槽4内で生成された炭酸水溶液24の炭酸濃度を容易に確認することができる。設定炭酸濃度になった炭酸水溶液24を酸化亜鉛ペレット3が充填された亜鉛溶解槽2に供給することができ、亜鉛溶解槽2内での亜鉛の溶解を効率良く行うことができる。また、本実施例では、その導電率計11の導電率計測値に基づいて炭酸水溶液24の亜鉛イオン濃度を求めるので、炭酸水溶液24の亜鉛イオン濃度を精度良く求めることができる。このため、RPV27内の炉水に注入する亜鉛イオン濃度を所定濃度に調節することができる。導電率計11の計測値は、炭酸水溶液24の炭酸濃度及び亜鉛濃度の算出に利用することができる。
【0068】
所定濃度の亜鉛イオンを含む炭酸水溶液24を給水に注水しながら、炭酸ガス溶解槽4に補給水を供給して炭酸水溶液24を亜鉛溶解槽2に供給するので、亜鉛イオンを含む炭酸水溶液24の給水への注水を、継続して行いことができる。
【0069】
本実施例では、炭酸ガスの炭酸ガス溶解槽4への注入、停止の判定、炭酸水溶液の亜鉛濃度の判定、亜鉛溶解槽2に供給される炭酸水溶液24の流速の調節、及び給水配管36への亜鉛イオンを含む炭酸水溶液24の注入量の制御、補給水の供給及び停止の制御、及びバルブ16の制御を制御装置23で行っていたが、これらの制御操作の一部または全てを運転員が行うことも可能である。しかし、運転員の負担軽減の観点からは出来るだけ制御装置23を用いて行うことが望ましい。
【0070】
亜鉛注入装置1を給水配管36ではなく浄化装置48よりも下流で浄化系配管43に接続し、亜鉛注入装置1で生成された亜鉛イオンを含む炭酸水溶液24を浄化装置48よりも下流の浄化系配管43に注入しても良い。浄化装置48よりも下流の浄化系配管43に注入された、亜鉛イオンを含む炭酸水溶液24は、給水配管36を経てRPV27内に供給される。
【実施例2】
【0071】
本発明の他の好適な実施例である実施例2の亜鉛注入方法を、図7を用いて説明する。本実施例の亜鉛注入方法は、沸騰水型原子力プラント(以下、BWRプラントという)に適用される。
【0072】
本実施例の亜鉛注入方法に用いられる亜鉛注入装置1Aを、図2を用いて説明する。亜鉛注入装置1Aは、本質的には、実施例1に用いられる亜鉛注入装置1において亜鉛溶解槽2及び炭酸ガス溶解槽4を一体化した溶解槽25を有している。循環ポンプ6及び流量計12が設けられた配管7の一端部が溶解槽25の底部に接続され、配管7の他端部が溶解槽25の頂部に接続される。溶解槽25は亜鉛溶解槽2と炭酸ガス溶解槽4を一体化した構成を有し、溶解槽25内には酸化亜鉛ペレット3が充填される亜鉛溶解領域52、及び亜鉛溶解領域52の下方に位置する溶液貯留領域50が形成される。配管7の他端部は亜鉛溶解領域52の上方で溶解槽25に接続される。補給水配管19が亜鉛溶解領域52の上方で溶解槽25に連絡される。圧力計51が排気バルブ(図示せず)を設けた配管により溶解槽25に接続される。炭酸ガス供給装置13の替りに設置した炭酸ガス供給装置13Aは、散気管5を有していなく、炭酸ガス供給配管15及び炭酸ガスボンベ14を有する。亜鉛注入装置1Aの他の構成は前述の亜鉛注入装置1と同じである。溶液貯留領域50が実施例1における炭酸ガス溶解槽4に該当し、亜鉛溶解領域52が実施例1における亜鉛溶解槽2に該当する。炭酸ガス供給配管15は、溶解槽25に接続され、溶解槽25内で溶液貯留領域50と亜鉛溶解領域52の間に形成される空間に連絡される。
【0073】
亜鉛注入装置1Aを用いた本実施例の亜鉛注入方法を以下に説明する。制御装置23Aがバルブ16の開信号を出力する。この開信号の出力によってバルブ16が開いて炭酸ガスボンベ14内の炭酸ガスが炭酸ガス供給配管15を通して溶解槽25内に注入される。この炭酸ガスは、溶解槽25内において亜鉛溶解領域52内の酸化亜鉛ペレット3相互間にも充填される。炭酸ガスの溶解槽25内への充填後、上記の排気バルブは制御装置23Aから出力された閉信号によって閉じられる。制御装置23Aは、圧力計51で計測した溶解槽25内の圧力が、設定圧力である大気圧よりも高い値、例えば1.5気圧になったとき、閉信号の出力によりバルブ16を閉める。バルブ16を閉めた時点では溶液貯留領域50に水が存在しないので、注入された1.5気圧の炭酸ガスは、溶液貯留領域50及び亜鉛溶解領域52を含む溶解槽25内の全域に存在する。
【0074】
バルブ16が閉じられた後、制御装置23Aがポンプ18に起動信号を出力する。ポンプ18が駆動し、補給水源17から水が補給水配管19を通して溶解槽25内に供給される。補給水配管19から供給された水は、溶解槽25内で頂部に設けられて補給水配管19に接続された噴射ノズル(図示せず)から亜鉛溶解領域52に向かってシャワー状に噴射される。噴射された水は、亜鉛溶解領域52内の酸化亜鉛ペレット3に降り注がれ、亜鉛溶解領域52の上端部に存在する各酸化亜鉛ペレット3の表面に水膜を形成する。溶解槽25内に先に充填した炭酸ガスがそれらの酸化亜鉛ペレット3の表面に形成された水膜に溶解し、各水膜のpHが低下する。水膜のpHの低下により酸化亜鉛ペレット3の表面が溶解し始める。噴射ノズルから水の噴射が継続されている関係上、この水膜は、気相中の炭酸ガス及び酸化亜鉛ペレット3に含まれる亜鉛を溶解しながら、各酸化亜鉛ペレット3の表面を伝って亜鉛溶解領域52の下端に向かって流下する。やがて、炭酸ガス及び亜鉛を溶解した水膜が、亜鉛イオンを含む炭酸水溶液24となって、亜鉛溶解領域52から溶液貯留領域50に落下する。循環ポンプ及び注入ポンプ20が駆動されていないため、落下した亜鉛イオンを含む炭酸水溶液24は、溶液貯留領域50に蓄えられる。
【0075】
水位計10で計測された溶液貯留領域50内の水位が制御装置23Aに入力され、制御装置23Aがその計測された水位が溶液貯留領域50における満水状態の上限設定水位になったと判定したとき、制御装置23Aが、ポンプ18を停止させ、補給水配管19から溶解槽25への水の供給を停止させる。溶液貯留領域50において満水状態になったとき、溶液貯留領域50に形成される、亜鉛イオンを含む炭酸水溶液24の液面と亜鉛溶解領域52の下端の間に空間が形成される。
【0076】
溶解槽25内の、亜鉛イオンを含む炭酸水溶液24の液面が上限設定水位になったとき、制御装置23は循環ポンプ6を起動する。溶液貯留領域50内の亜鉛イオンを含む炭酸水溶液24が、循環ポンプ6の起動によって昇圧され、配管7を通って溶解槽25の頂部の噴射ノズルに導かれる。亜鉛イオンを含む炭酸水溶液24が、噴射ノズルから、亜鉛溶解領域52の上端に位置している各酸化亜鉛ペレット3に向かってシャワー状に噴射される。噴射された亜鉛イオンを含む炭酸水溶液24が、亜鉛溶解領域52内の各酸化亜鉛ペレット3の表面を伝わって下降しながら、亜鉛溶解領域52の気相部に存在する炭酸ガスを溶解し、酸化亜鉛ペレット3に含まれる亜鉛を溶解する。炭酸及び亜鉛のそれぞれの濃度が増加しながら各酸化亜鉛ペレット3の表面を伝わって下降する亜鉛イオンを含む炭酸水溶液24は、亜鉛溶解領域52から溶液貯留領域50に向かって落下する。溶液貯留領域50に落下する亜鉛イオンを含む炭酸水溶液24の亜鉛濃度は、噴射ノズルから噴射される亜鉛イオンを含む炭酸水溶液24の亜鉛濃度よりも増加している。
【0077】
溶液貯留領域50内の亜鉛イオンを含む炭酸水溶液24は、循環ポンプ6によって配管7内での線流速が5500cm/hになるように流れる。このため、噴射ノズルから噴射されて各酸化亜鉛ペレット3の表面に沿って亜鉛溶解領域52内を下降する亜鉛イオンを含む炭酸水溶液24の下降速度も増加し、それだけ、酸化亜鉛ペレット3から亜鉛イオンを含む炭酸水溶液24への亜鉛の溶解速度が増加する。
【0078】
亜鉛イオンを含む炭酸水溶液24は、循環ポンプ6の駆動により、溶解槽25内の溶液貯留領域50、配管7、溶解槽25内の亜鉛溶解領域52及び溶解槽25内の溶液貯留領域50を含む閉ループ内を循環する。亜鉛イオンを含む炭酸水溶液24のそのような循環が継続されることによって、亜鉛イオンを含む炭酸水溶液24の亜鉛濃度が増加する。その炭酸水溶液24の循環が継続されると、上記したように溶解槽25内の炭酸ガスが亜鉛イオンを含む炭酸水溶液24に溶解するため、溶解槽25内の圧力が徐々に低下する。
【0079】
制御装置23は、入力する、圧力計51で計測した圧力が例えば1.2気圧になったときに、バルブ16を開く。炭酸ガスが炭酸ガスボンベ14から炭酸ガス供給配管15を通って溶解槽25内に供給され、制御装置23は溶解槽25内の圧力が1.5気圧に維持されるように、バルブ16の開度を制御する。
【0080】
上記の閉ループ内での亜鉛を含む炭酸水溶液24の循環が継続して行われると、溶液貯留領域50内に存在する亜鉛を含む炭酸水溶液24の亜鉛濃度が増加し、この炭酸水溶液24の導電率が上昇する。炭酸水溶液24の導電率の計測は導電率計11で行われ、計測された導電率が制御装置23に入力される。制御装置23は、入力した導電率を用いて溶液貯留領域50内の炭酸水溶液24の亜鉛濃度を求め、この亜鉛濃度が飽和濃度、例えば350ppmに到達したとき、循環ポンプ6の回転速度を低下させる。これにより、配管7内を流れる炭酸水溶液24の流速が例えば124cm/hまで低下され、亜鉛溶解領域52内で酸化亜鉛ペレット3の表面に沿って下降する亜鉛イオンを含む炭酸水溶液24の流速が遅くなる。それだけ、酸化亜鉛ペレット3から亜鉛イオンを含む炭酸水溶液24への亜鉛の溶解速度が減少する。
【0081】
さらに、溶液貯留領域50内の炭酸水溶液24の亜鉛濃度が350ppmになったとき、制御装置23は、注入ポンプ20を起動する。亜鉛濃度が350ppmになっている、溶液貯留領域50内の炭酸水溶液24は、注入ポンプ20で昇圧され、亜鉛注入配管21を通って給水配管36内を流れる給水に注入される。亜鉛イオンを含む給水が給水配管36よりRPV27内に供給される。制御装置23は、実施例1と同様に、注入する炭酸水溶液24の亜鉛濃度、給水流量及び設定亜鉛濃度に基づいて、亜鉛濃度350ppmの炭酸水溶液24の給水配管36への注入量を算出し、炭酸水溶液24の注入量が算出した値になるように注入ポンプ20の回転速度を制御する。
【0082】
溶液貯留領域50内の亜鉛イオンを含む炭酸水溶液24の給水配管36への注入によって、溶液貯留領域50内の水位が下限設定水位まで低下したときには、実施例1と同様に、補給水を補給水配管19を通して溶解槽25内に供給することにより、溶液貯留領域50内の水位が上限設定水位まで回復される。
【0083】
本実施例は実施例1で生じる効果のうち、炭酸ガスの溶解と亜鉛の溶解を別々の溶解槽で行っていることにより得られる効果を除いて、残りの各効果を得ることができる。実施例1における各効果の説明における、炭酸ガス溶解槽4は本実施例では溶液貯留領域50に相当し、亜鉛溶解槽2は亜鉛溶解領域52に相当している。
【0084】
本実施例では、亜鉛溶解領域52及び溶液貯留領域50を溶解槽25内に配置しているので、実施例1において亜鉛溶解槽2と炭酸ガス溶解槽4を連絡する配管8が不要になる。さらに、本実施例では、炭酸ガスの溶解槽25への注入口が気相になっており、散気管5が設置されていない。本実施例では、炭酸ガスを水中に吹き込んでいないので、炭酸ガスの水への溶解効率が低くなるが、亜鉛溶解領域52に充填した酸化亜鉛ペレット3をラヒシリングの代わりとして使用することができ、気液接触面積を拡大することができる。このため、炭酸ガスの水への溶解効率の低下を抑制することができる。
【実施例3】
【0085】
本発明の他の好適な実施例である実施例3の亜鉛注入方法を、図8を用いて説明する。本実施例の亜鉛注入方法は、沸騰水型原子力プラント(以下、BWRプラントという)に適用される。
【0086】
本実施例の亜鉛注入方法に用いられる亜鉛注入装置1Bを、図8を用いて説明する。亜鉛注入装置1Bは、実施例2で用いられる亜鉛注入装置1Aに実施例1で用いられる亜鉛注入装置1における散気管5を溶液貯留領域50内の底部に配置し、この散気管5に炭酸ガス供給装置13Aの炭酸ガス供給配管15を接続した構成を有する。亜鉛注入装置1Bの他の構成は亜鉛注入装置1Aと同じである。溶解槽(第3溶解槽)25は実施例1における亜鉛溶解槽2及び炭酸ガス溶解槽4を一体化した構成である。
【0087】
本実施例では、実施例1と同様に、炭酸ガスを散気管5から炭酸水溶液24にバブリングさせて炭酸ガスを炭酸水溶液24に溶解させる。本実施例では、散気管5から放出した炭酸ガスの炭酸水溶液24への溶解は溶液貯留領域50内で行われる。本実施例における溶液貯留領域50は、炭酸水溶液24への炭酸ガスの溶解を行う炭酸ガス溶解領域である。実施例2の亜鉛注入方法で生じる各作用は、本実施例でも生じる。本実施例では、散気管5から放出されて溶液貯留領域50内の炭酸水溶液24に溶解しきれなかった炭酸ガスは、溶液貯留領域50の液面上方まで上昇し、亜鉛溶解領域52内で各酸化亜鉛ペレット3の表面を伝って下降する炭酸水溶液24に溶解される。
【0088】
溶液貯留領域50内の亜鉛濃度350ppmの炭酸水溶液24は、注入ポンプ20の駆動によって給水配管36内を流れる給水に注入され、RPV27内の炉水に混入される。
【0089】
本実施例は、実施例2で生じる各効果を得ることができる。
【0090】
実施例1ないし3は、加圧水型原子力プラントに適用することができる。
【符号の説明】
【0091】
1,1A,1B…亜鉛注入装置、2…亜鉛溶解槽、3…酸化亜鉛ペレット、4…炭酸ガス溶解槽、5…散気管、6…循環ポンプ、7,8…配管、10…水位計、11…導電率計、13…炭酸ガス供給装置、14…炭酸ガスボンベ、19…補給水配管、20…注入ポンプ、21…亜鉛注入配管、23,23A…制御装置、26…原子炉、27…原子炉圧力容器、28…炉心、31…再循環系配管、33…主蒸気配管、34…タービン、35…復水器、36…給水配管、39…給水ポンプ、49…水素注入装置、50…溶液貯留領域、51…圧力計、52…亜鉛溶解領域。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8