特許第6144484号(P6144484)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6144484
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】ドアクローザ
(51)【国際特許分類】
   E05F 3/00 20060101AFI20170529BHJP
   E05F 5/02 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
   E05F3/00 Z
   E05F5/02 Z
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-276184(P2012-276184)
(22)【出願日】2012年12月18日
(65)【公開番号】特開2014-118778(P2014-118778A)
(43)【公開日】2014年6月30日
【審査請求日】2015年12月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000104630
【氏名又は名称】キヤノンプレシジョン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110412
【弁理士】
【氏名又は名称】藤元 亮輔
(74)【代理人】
【識別番号】100104628
【弁理士】
【氏名又は名称】水本 敦也
(72)【発明者】
【氏名】福岡 竜成
【審査官】 佐々木 崇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−130005(JP,A)
【文献】 実開平2−2981(JP,U)
【文献】 特開平9−273353(JP,A)
【文献】 特開2009−62673(JP,A)
【文献】 特開平1−187281(JP,A)
【文献】 特開平2−200985(JP,A)
【文献】 特開2008−95322(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05F 1/00− 13/04、17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドアに閉じる方向の力を加えるドアクローザであって、
前記ドアの開き動作および閉じ動作に伴って回転する回転部材と、
少なくとも前記ドアの閉じ動作時において前記回転部材から伝達される回転を増速する増速手段と、
該増速手段により増速された回転によって発電を行う発電手段と、
前記回転部材から前記増速手段に所定トルクを超えるトルクが伝達されることを制限するトルク制限手段と
前記ドアの開き動作に伴って弾性変形することにより前記ドアを閉じ動作させるよう駆動するための弾性力を発生する弾性部材とを有し、
該弾性部材の内側に、少なくとも前記増速手段と前記トルク制限手段が配置されていることを特徴とするドアクローザ。
【請求項2】
前記トルク制限手段は、摩擦部材と弾性部材とを有し、前記回転部材の端面に前記摩擦部材が前記弾性部材の弾性力によって押し付けられており、前記回転部材によって所定の摩擦力を超えた回転力が発生すると前記回転部材が前記摩擦部材と滑り、前記増速手段への前記所定トルクを超えた回転力の伝達を遮断することを特徴とする請求項1に記載のドアクローザ。
【請求項3】
前記増速手段は、遊星歯車機構を用いて構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のドアクローザ。
【請求項4】
前記ドアの閉じ動作時において前記回転部材の回転を前記増速手段に伝達し、前記ドアの開き動作時において前記回転部材の回転を前記増速手段に伝達しない一方向回転伝達手段を有することを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載のドアクローザ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドアクローザに関し、少なくともドアを閉じる動作を利用して発電を行うドアクローザに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なドアクローザは、ドアの開き動作によって弾性変形した弾性部材(ばね)の弾性力によってドアの閉じ駆動力を発生させる。そして、特許文献1にて開示されているように作動油の流体抵抗を利用してドアの閉じ速度を減速したり、特許文献2にて開示されているように電動ブレーキ機構を用いてドアの閉じ速度を制御したりする。特許文献1および特許文献2には、閉じ駆動に伴って回転されることにより発電を行う発電機を備えたドアクローザが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−062673号公報
【特許文献2】特開2000−130005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1および特許文献2にて開示された発電機付き(および増速機付き)ドアクローザでは、ドアに強い風圧が作用したり人がドアに強い外力を加えたりしてドアが強い力または高速で閉じられると、増速機に過大なトルクが入力されるおそれがある。このように発電機の回転数が想定より高くなる現象が生じた場合には、発電機からの騒音や振動が発生するおそれがある。
【0005】
本発明は、ドアが強い力や高速で閉じられた(および開かれた)場合でも、増速手段に想定よりも大きなトルクが入力されたり、発電手段の回転数が想定よりも高くなったりしないようにすることができるドアクローザを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のドアクローザは、ドアに閉じる方向の力を加える。該ドアクローザは、ドアの開き動作および閉じ動作に伴って回転する回転部材と、少なくともドアの閉じ動作時において回転部材から伝達される回転を増速する増速手段と、該増速手段により増速された回転によって発電を行う発電手段と、回転部材から増速手段に所定トルクを超えるトルクが伝達されることを制限するトルク制限手段と、ドアの開き動作に伴って弾性変形することによりドアを閉じ動作させるよう駆動するための弾性力を発生する弾性部材とを有し、該弾性部材の内側に、少なくとも増速手段とトルク制限手段が配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ドアが強い力または高速で閉じられた(および開かれた)場合でも増速手段に想定よりも大きなトルクが入力されたり、発電手段が想定よりも高回転で回転されたりすることを防止することができる。さらに、ドアクローザの小型化を図ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施例1であるドアクローザの軸方向断面図。
図2】実施例1のドアクローザの分解斜視図。
図3】実施例1のドアクローザのドアへの取付状態を示した斜視図。
図4】本発明の実施例2であるドアクローザの透視図。
図5】実施例2のドアクローザの軸方向断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0010】
図1には、本発明の実施例1であるドアクローザの構成を示している。ドアクローザは、ドア21に閉じる方向の力を加えるものである。図2には、該ドアクローザを分解して示している。図3には、該ドアクローザのドア21への取付け状態を示している。これらの図において、23はリンク機構(リンク手段)である。リンク機構23の一端はドア21の枠体22に取り付けられ、他端はドアクローザ本体20の主軸(回転部材)1に取り付けられている。リンク機構23は、ドアの開閉角度を回転に変換して主軸1を回転させる。主軸1は、ドア21の開き動作および閉じ動作に伴って回転する。
【0011】
リンク機構23に連結された主軸1は、軸受け3を介して上蓋2に対して回転可能に取り付けられている。また、主軸1には、ハブ4が圧入もしくはスプライン結合によって固定されている。なお、主軸1とハブ4は一体に設けられてもよい。
【0012】
さらに、主軸1には、ねじ9によりクラッチベース8が回転可能に取り付けられている。押付具6は、クラッチベース8に対して回転はできないが、軸方向には移動可能となっており、圧縮コイルばね(弾性部材)7の弾性力によってハブ4に向けて付勢され、ハブ4との間に摩擦リング(摩擦部材)5を挟み込んでいる。
【0013】
ハブ4および押付具6における摩擦リング5の摩擦面と接する面を、以下の説明では被摩擦面という。本実施例では、摩擦リング5をハブ4および押付具6とは別部材としているが、摩擦リング5をハブ4および押付具6のうち一方と一体に設けてもよい。すなわち、ハブ4および押付具6に少なくとも1面の被摩擦面が構成され、摩擦面との相対的な回転が可能であればよい。
【0014】
被摩擦面と摩擦面との相対的な回転が可能か否かは、摩擦リング5の摩擦面とハブ4または押付具6の被摩擦面との間の摩擦係数に圧縮コイルばね7により発生する付勢力(弾性力)を乗じた静止摩擦力によって決まる。このため、摩擦面の摩擦係数と圧縮コイルばね(弾性部材)7の付勢力とを調整することによって、任意の空転トルク(所定トルク)を設定することができる。このように、ハブ4、摩擦リング5、押付具6、圧縮コイルばね7およびクラッチベース8により、所定トルクを超えるトルクの伝達を遮断するトルクリミッタ(トルク制限手段)41が構成される。
【0015】
本実施例では、ハブ4を後述する捩りコイルばね12により発生された駆動力を主軸1を介してリンク機構23に伝達する中間構造部品としてだけでなく、トルクリミッタ41の構成要素として兼用している。これにより、ドアクローザの部品点数を削減することができ、小型化を図ることもできる。
【0016】
捩りコイルばね(弾性部材)12は、ドア21の開き動作に伴って撓み(弾性変形し)、その撓みにより発生した弾性力を、ドア21を閉じ動作させるよう駆動する(以下、閉じ駆動するという)ための駆動力としてハブ4を介して主軸1に伝達する。捩りコイルばね12は、その内側に、それぞれ同軸に配置されたハブ4の一部、摩擦リング5、押付具6、圧縮コイルばね7、クラッチベース8および後述する増速機(増速手段)11を収容可能な内径を有するコイル状のばねである。つまり、本来はデッドスペースになる捩りコイルばね12の内側のスペース内にトルクリミッタ41や増速機11を配置することにより、ドアクローザの小型化を図っている。すなわち、ばね12は、ドア21の開き動作に伴って弾性変形することによりドア21を閉じ動作させるよう駆動するための弾性力を発生する。そして、ばね12の内側に、少なくとも増速機11とトルクリミッタ41が配置されている。なお、増速機11は、複数の歯車で構成され、主軸1の回転速度を発電機13による発電に適した回転速度まで高めるために設けられている。すなわち、増速機11は、少なくともドア21の閉じ動作時において、主軸1から伝達される回転を増速する。発電機13も、増速機11と同軸に設けられている。発電機13は、増速機11により増速された回転によって発電を行う。
【0017】
また、主軸1と直結された(又は一体に設けられた)ハブ4に被摩擦面(ハブ4を一体に設けた場合の摩擦面)を設けることにより、被摩擦面や摩擦面の垂直度や平面度といった精度を容易に向上させることができる。これにより、摩擦力が安定するため、上述した空転トルクを安定的に一定に管理し易い。
【0018】
クラッチベース8の内径部には、一方向クラッチ(一方向回転伝達手段)10の外輪が圧入または接着により固定されている。また、一方向クラッチ10の内輪には、増速機11の入力軸11aが挿入されている。一方向クラッチ10は、ドア21の閉じ動作時のクラッチベース8の回転は増速機11の入力軸11aに伝達するが、ドア21の開き動作時のクラッチベース8の回転は増速機11の入力軸11aに伝達しない。
【0019】
このように、主軸1と増速機11との間には、クラッチベース8の回転を伝達する方向を一方向のみに制限する一方向クラッチ10と、所定トルクを超えるトルクが作用すると空転するトルクリミッタ41とが挿入されている。トルクリミッタ41を設けることにより、気圧差や風圧や人による外力がドア21に作用した場合に、所定トルクを超える過大なトルク(回転力)が増速機11に入力されることが阻止され、さらに増速機11を介して発電機13に所定速度を超える回転が入力されることも阻止できる。また、増速機11自体に対しても過大なトルクの入力が阻止される。このため、増速機11は、捩りコイルばね12が発生するトルクに耐えるように設計すればよいので、増速機11の小型化を図ることができる。
【0020】
さらに、一方向クラッチ(一方向回転伝達手段)10を設けることにより、ドア21の閉じ駆動に際しては増速機11にトルク伝達が行われるが、ドア21の開き動作に際しては増速機11にトルク伝達が行われない。このため、操作者は、ドア21を軽い力で開き操作することができる。
【0021】
増速機11は、前述したように、本来は、主軸1の回転速度を発電機13による発電に適した回転速度まで高めるために設けられている。通常のドア21の閉じ駆動時の主軸1の回転速度は数rpm程度であり、この程度の回転速度で発電機13を駆動しても、発電機13の出力端子間に発生する起電力はわずかであり、電力として取り出すことは難しい。仮にそのような低い回転速度で必要な電力を得るためには、大型の発電機が必要となり、ドアクローザの大型化が避けられない。
【0022】
そこで、本実施例では、例えば、主軸1の数rpm程度の回転速度を発電機13の入力回転速度として1000rpm程度まで高めるために増速機11を設けている。ただし、この場合には、増速機11として、500:1程度のきわめて大きな増速比が必要となってくる。また、ドア21の閉じ駆動時における主軸1のトルクは一般に10N・m以上と大きく、このような大トルクと大増速比とを両立してドアクローザとしての大型化を避けるためには、増速機11として、複数の歯車の同時噛み合いによって応力集中を緩和できる遊星歯車機構を含むことが望ましい。本実施例では、増速機11を多段の遊星歯車機構を用いて構成している。
【0023】
また、増速比を500:1程度と大きくすることで、増速機11の入力換算イナーシャは発電機13のイナーシャの500倍以上と大きくなる。これにより、増速機11に入力されるトルクが急激に変化したとしても、発電機13の回転速度は変化しにくくなる。つまり、増速機11は、トルク変化を緩和するダンパーのように機能する。したがって、ドア21の閉じ動作を速度変化の小さな高品位なものとすることができる。
【0024】
本実施例では、増速機11を多段の遊星歯車機構を用いて構成しているが、それほど強度が必要にならない発電機13に近い側の歯車列は、平歯車により構成される歯車列に置き換えてもよい。
【0025】
増速機11は、ハウジング16に対してねじ(図示せず)により固定されている。また、発電機13もハウジング16にねじ(図示せず)により固定されている。増速機11の出力側歯車11bには、発電機13の入力部を構成するピニオンギア13aが噛み合っている。発電機13の出力端子13bには、回路基板14がリード線を介して電気的に接続されている。
【0026】
回路基板14には、整流回路、充電回路および各種アプリケーションの駆動回路が含まれている。また、回路基板14には、そこからの出力電力を蓄える二次電池15が接続されている。二次電池15は、回路基板14に設けられたセンサーライト(移動物体を検出して照明を行うライト)やドアチャイム、ドア21の開閉記録等のセキュリティー関連機能といった各種アプリケーションの駆動回路に接続されて、これらのアプリケーションの電源として利用される。
【0027】
増速機11の外周に配置され、ドア21を閉じ方向に付勢する捩りコイルばね12の一端部は、ハブ4の外周部に設けられた穴に挿入される。これにより、ハブ4は捩りコイルばね12の一端部を保持する。捩りコイルばね12の他端部は、ハウジング16に保持される。したがって、捩りコイルばね12は、ドア21の開き動作に伴うハブ4のハウジング16に対する回転によって周方向に撓み、ドア21の閉じ方向への駆動力となる弾性力(付勢力)を発生する。
【0028】
増速機11に連結された発電機13は、その内部損失トルクに増速機11の増速比を乗じた値に相当するトルクを定常的にブレーキ力として作用させる。すなわち、増速機11の増速比が大きくなるほど、発電機13内部のわずかな機械的損失や、固定子と回転子との間に作用する磁気吸引力が、大きなブレーキ力を発生させる。したがって、発電機13においては、機械的損失はもちろん、磁気吸引力も発生しない方がスムーズなドア21の閉じ駆動を始動しやすい。このため、発電機13としては、コアレス巻線のように電機子に鉄心を含まない構成であることが望ましい。
【0029】
なお、ドアクローザ本体20は、図3に示すようにドア21に取り付けられ、ドア21を囲む枠体22とドアクローザ本体20との間はリンク機構23で連結される。
【0030】
このように構成されたドアクローザ本体20の寸法は、例えば直径78mm×高さ210mm程度に収まり、十分に実用的なサイズを実現することができる。
【0031】
次に、上述した構成を有するドアクローザの動作について説明する。ドア21が開かれると、リンク機構23を介して主軸1およびハブ4が第1の方向(例えば反時計回り方向)に回転し、これにより捩りコイルばね12が巻き上げられて撓む。このとき、トルクリミッタ41を介して外輪に回転が伝達された一方向クラッチ10は空転し、増速機11および発電機13には回転は伝わらない。したがって、ドア21を開ける人は捩りコイルばね12の反力のみを感じ、軽い力でドア21を開けることができる。一方向クラッチ10は、ドア21の閉じ動作時において、主軸1の回転を増速機11に伝達し、ドア21の開き動作時において、主軸1の回転を増速機11には伝達しない。
【0032】
開かれたドア21から操作者の手が離れると、捩りコイルばね12の付勢力がハブ4および主軸1を第2の方向(例えば時計回り方向)に回転させる。そして、この回転力がリンク機構23を介してドア21に伝達されることによりドア21の閉じ駆動が開始される。また、ハブ4が回転すると、摩擦リング5、押付具6およびクラッチベース8を介して一方向クラッチ10の外輪に回転が伝わる。このとき、一方向クラッチ10は空転せず、外輪の回転はそのまま内輪を介して増速機11の入力軸11aに伝わる。増速機11の入力軸11aの回転は増速機11によって増速され、この増速された回転が発電機13に入力される。これにより、発電機13による十分な電力の発電が行われる。
【0033】
このため、発電機13の出力端子13bからは入力された回転の速度に応じた電圧が出力され、回路基板14上の清流回路に含まれる全波整流および平滑コンデンサによって直流電圧に変換される。このとき、3端子レギュレータもしくはDC−DCコンバータを利用して直流電圧を一定に保つようにすると、発電機13の回転数は一定の速度で安定するようになり、つまりはドア21の閉じ速度も一定の速度で安定する。また、この直流電圧を決定する抵抗を可変抵抗として直流電圧の調整を可能とすることで、ドア21の閉じ速度を容易に制御することができる。なお、ロータリーエンコーダ等の回転速度検出器を用いて発電機13の回転速度を検出し、検出した回転速度に応じて発電量を制御することで、発電機13の回転速度の制御を通じてドア21の閉じ速度を制御することもできる。
【0034】
また、前述したようにドア21の閉じ動作時において気圧差や風圧や人による外力がドア21の閉じ方向に作用してハブ4から増速機11に伝達されるトルクが所定トルクを超えると、それよりも低いトルクでは摩擦リング5を介して押付圧6と一体回転していたハブ4が摩擦リング5に対して滑り、ハブ4から増速機11への回転の伝達が遮断される。このため、発電機13による発電も行われないようになる。
【0035】
これに対して、本実施例では、主軸1と増速機11との間にトルクリミッタ41を設け、所定トルクを超える過大なトルクが増速機11に入力されたり、発電機13が過度の高回転で回転されたりすることを防止することができる。これにより、増速機11の破損や発電機13からの騒音や振動の発生を防止することができる。このように、本実施例では、トルクリミッタ41を設けることにより、ハブ4から増速機11に過大なトルクが入力されて増速機11の破損を招いたり、発電機13の入力軸の回転速度が過度に増大して発電機13からの騒音や振動を発生させたりすることを防止(抑制)することができる。
【0036】
なお、本実施例にて説明した一方向クラッチ10を取り除き、クラッチベース8と増速機11の入力軸11aとを直結することで、ドア21の開き動作時においても発電機13に発電を行わせるようにしてもよい。この場合、ドア21の開き動作時には捩りコイルばね12を巻き上げる力に加え、増速機11を介して発電機13を駆動させる力が必要となるが、より多くの電力を得たい場合に有効である。
【実施例2】
【0037】
図4には、本発明の実施例2であるドアクローザのうちドアクローザ本体の構成を示している。また、図5には該ドアクローザ本体の断面を示している。なお、本実施例において、実施例1と共通する構成要素については実施例1と同符号を付して詳しい説明は省略する。
【0038】
実施例1では、ドア21を閉じ駆動するための付勢力を捩りコイルばね12により発生し、かつ捩りコイルばね12の内側にトルクリミッタ41および増速機11を同軸に配置する場合について説明した。これに対して、本実施例では、ドア21を閉じ駆動するための付勢力を圧縮コイルばね(弾性部材)24により発生し、かつ増速機11、トルクリミッタ41および発電機13が、圧縮コイルばね24の外側にて該圧縮コイルばね24に沿った方向に同軸に配置されている。
【0039】
図4には示していないリンク機構23に連結される主軸1は、ピニオン26を有する。ピニオン26は、主軸1から発電機13までが同軸に配置されている方向(以下、同軸配置方向という)に対して直交する方向に延びる軸回りで回転が可能であり、さらに同軸配置方向に平行に移動可能なラック25と噛み合っている。ラック25は、同軸配置方向に平行に延びる圧縮コイルばね24の弾性力によってドア21の閉じ方向に付勢されている。また、主軸1のピニオン26は、同軸配置方向に(平行に)延びる軸回りで回転が可能なねじ歯車27とも噛み合っている。
【0040】
本実施例では、図4および図5に示すように、主軸1のピニオン26を斜歯歯車とするとともに、ラック25も斜歯ラックとしている。これにより、ねじ歯車27は、ピニオン26と同じねじれ方向を有し、かつピニオン26のねじれ角をaとし、ねじ歯車27のねじれ角をbとした場合にa+b=90°となる、いわゆる直交ギア機構が構成される。また、主軸1のピニオン26が、ラック25とねじ歯車27とに同時に噛み合うようにするために、ピニオン26、ラック25およびねじ歯車27のすべてを斜歯構成としたが、主軸1にラック25と噛み合う第1のピニオンとねじ歯車27と噛み合う第2のピニオンとを独立して設けることで、ラックアンドピニオン機構と直交ギア機構とを分割した構成としてもよい。直交ギア機構の部分については、ねじ歯車以外でも、ウォームギアとウォームホイールの組み合わせや、かさ歯車の組み合わせであってもよい。
【0041】
ねじ歯車27の先には、実施例1と同様に、摩擦リング5、押付具6、圧縮コイルばね7およびクラッチベース8により構成されるトルクリミッタ41が設けられている。
【0042】
ねじ歯車27および押付具6の摩擦リング5と接する面は、被摩擦面である。ただし、摩擦リング5をねじ歯車27または押付具6と一体に構成してもよい。
【0043】
ねじ歯車27および押付具6における摩擦リング5の摩擦面と接する面を、以下の説明では被摩擦面という。本実施例では、摩擦リング5をねじ歯車27および押付具6とは別部材としているが、摩擦リング5をねじ歯車27および押付具6のうち一方と一体に設けてもよい。すなわち、ねじ歯車27および押付具6に少なくとも1面の被摩擦面が構成され、摩擦面との相対的な回転が可能であればよい。
【0044】
被摩擦面と摩擦面との相対的な回転が可能か否かは、摩擦リング5の摩擦面とねじ歯車27または押付具6の被摩擦面との間の摩擦係数に圧縮コイルばね7により発生する付勢力を乗じた静止摩擦力によって決まる。このため、摩擦面の摩擦係数と圧縮コイルばね7の付勢力とを調整することによって、任意の空転トルク(所定トルク)を設定することができる。このように、ねじ歯車27、摩擦リング5、押付具6、圧縮コイルばね7およびクラッチベース8により、所定トルクを超えるトルクの伝達を遮断するトルクリミッタ41が構成される。
【0045】
本実施例では、ねじ歯車27を、圧縮コイルばね24により発生された駆動力を増速機11に伝達する中間構造部品としてだけでなく、トルクリミッタ41の構成要素として兼用している。これにより、ドアクローザの部品点数を削減することができ、小型化を図ることもできる。すなわち、ばね24は、ドア21の開き動作に伴って弾性変形することによりドア21を閉じ動作させるよう駆動するための弾性力を発生する。そして、ばね24の外側にて、ばね24に沿った方向に増速機11、トルクリミッタ41および発電機13が配置されている。
【0046】
本実施例では、ドアクローザ本体の同軸配置方向での長さは、圧縮コイルばね24の全長とラック25の可動範囲とによって概ね決定されるが、圧縮コイルばね24の全長とラック25の可動範囲のスペース内にトルクリミッタ41を収めることができるので、ドアクローザ本体が著しく大型化することがない。また、ねじ歯車27の端面に被摩擦面(もしくはこれと一体に形成された摩擦リング5の摩擦面)を設けるので、被摩擦面や摩擦面の垂直度や平面度といった精度を容易に向上させることができる。これにより、摩擦力が安定するため、上述した空転トルクを安定的に一定に管理し易い。
【0047】
以下、実施例1と同様に、クラッチベース8の内径部には、一方向クラッチ(一方向回転伝達機構)10の外輪が圧入または接着により固定されている。また、一方向クラッチ10の内輪には、多段の遊星歯車機構を用いて構成された増速機11の入力軸11aが挿入されている。一方向クラッチ10は、ドア21を閉じ駆動する際のクラッチベース8の回転は増速機11の入力軸11aに伝達するが、ドア21が開き動作する際のクラッチベース8の回転は増速機11の入力軸11aに伝達しない。
【0048】
このように、主軸1と増速機11との間には、クラッチベース8の回転を伝達する方向を一方向のみに制限する一方向クラッチ10と、所定トルクを超えるトルクが作用すると空転するトルクリミッタ41とが挿入されている。トルクリミッタ41を設けることにより、気圧差や風圧や人による外力がドア21に作用した場合に、所定トルクを超える過大なトルク(回転力)が増速機11に入力されることが阻止され、さらに増速機11を介して発電機13に所定速度を超える回転が入力されることも阻止できる。また、増速機11自体に対しても過大なトルクの入力が阻止される。このため、増速機11は、圧縮コイルばね24が発生するトルクに耐えるように設計すればよいので、増速機11の小型化を図ることができる。トルクリミッタ41は、主軸1から増速機11に所定トルクを超えるトルク(想定を超えたトルク)が伝達されることを制限する。
【0049】
さらに、一方向クラッチ10を設けることにより、ドア21の開き動作時には増速機11にトルク伝達が行われるが、ドア21の開き動作時には増速機11にトルク伝達が行われない。このため、操作者は、ドア21を軽い力で開き操作することができる。増速機11の出力側歯車11bには、コアレス巻線のように電機子に鉄心を含まない構成を有する発電機13の入力部を構成するピニオンギア13aが噛み合っている。発電機13の出力端子13bには、回路基板14がリード線を介して電気的に接続されている。
【0050】
このように構成されたドアクローザ本体20の寸法は、例えば長さが260mm×高さ60mm×奥行75mm程度に収まり、十分に実用的なサイズを実現することができる。
【0051】
次に、上述した構成を有するドアクローザの動作について説明する。ドア21が開かれると、リンク機構23を介して主軸1が第1の方向(例えば反時計回り方向)に回転し、これに伴って移動したラック25によって圧縮コイルばね24が圧縮される。このとき、ねじ歯車27およびトルクリミッタ41を介して外輪に回転が伝達された一方向クラッチ10は空転し、増速機11および発電機13には回転は伝わらない。したがって、ドア21を開ける人は捩りコイルばね12の反力のみを感じ、軽い力でドア21を開けることができる。
【0052】
開かれたドア21から人の手が離れると、圧縮コイルばね24の付勢力(弾性力)がラック25を移動させて主軸1を第2の方向(例えば時計回り方向)に回転させ、この回転力がリンク機構23を介してドア21に伝達される。これによりドア21の閉じ駆動が開始される。また、主軸1が回転すると、ねじ歯車27、摩擦リング5、押付具6およびクラッチベース8を介して一方向クラッチ10の外輪に回転が伝わる。このとき、一方向クラッチ10は空転せず、外輪の回転はそのまま内輪を介して増速機11の入力軸11aに伝わる。増速機11の入力軸11aの回転は増速機11によって増速され、この増速された回転が発電機13に入力される。これにより、発電機13による十分な電力の発電が行われる。
【0053】
本実施例でも、実施例1と同様に、主軸1と増速機11との間にトルクリミッタ41を設けたので、ドア21の閉じ動作時において気圧差や風圧や人による外力がドア21の閉じ方向に作用しても、所定トルクを超える過大なトルクが増速機11に入力されたり、発電機13が過度の高回転で回転されたりすることを防止することができる。これにより、増速機11の破損や発電機13からの騒音や振動の発生を防止することができる。
【0054】
なお、本実施例にて説明した一方向クラッチ10を取り除き、クラッチベース8と増速機11の入力軸とを直結することで、ドア21の開き動作時においても発電機13に発電を行わせるようにしてもよい。この場合、ドア21の開き動作時には捩りコイルばね12を巻き上げる力に加え、増速機11を介して発電機13を駆動させる力が必要となるが、より多くの電力を得たい場合に有効である。
【0055】
また、上記各実施例では、トルク制限手段としていわゆる機械式のトルクリミッタ41を用いる場合について説明したが、電磁クラッチ等のマグネット式トルクリミッタを用いてもよい。すなわち、トルク制限手段は、過負荷がかかると接続を切り、トルク伝達を遮断するものであれば、機械式でもマグネット式等でもよい。
【0056】
また、上記各実施例では、発電手段として発電機13を用いる場合について説明したが、発電用モータやロータ誘起電力発生コイル等を用いてもよい。
【0057】
以上説明した各実施例は代表的な例にすぎず、本発明の実施に際しては、各実施例に対して種々の変形や変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
スムーズなドアの閉じ駆動機能と良好な発電機能を有するドアクローザを提供できる。
【符号の説明】
【0059】
1 主軸(回転部材)
4 ハブ
5 摩擦リング(摩擦部材)
6 押付具
7 圧縮コイルばね(弾性部材)
8 クラッチベース
10 一方向クラッチ
11 増速機(増速手段)
12 捩りコイルばね(弾性部材)
13 発電機(発電手段)
21 ドア
23 リンク機構
24 圧縮コイルばね(弾性部材)
41 トルクリミッタ(トルク制限手段)
図1
図2
図3
図4
図5