(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6144490
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】自動車のパワーステアリングシステムにおいて、ステアリングホイールのトルク設定値を決定するための方法
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20170529BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20170529BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20170529BHJP
B62D 103/00 20060101ALN20170529BHJP
B62D 111/00 20060101ALN20170529BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20170529BHJP
B62D 117/00 20060101ALN20170529BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20170529BHJP
B62D 137/00 20060101ALN20170529BHJP
【FI】
B62D6/00ZYW
B62D5/04
B62D101:00
B62D103:00
B62D111:00
B62D113:00
B62D117:00
B62D119:00
B62D137:00
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-521083(P2012-521083)
(86)(22)【出願日】2010年7月20日
(65)【公表番号】特表2012-533473(P2012-533473A)
(43)【公表日】2012年12月27日
(86)【国際出願番号】FR2010051522
(87)【国際公開番号】WO2011010058
(87)【国際公開日】20110127
【審査請求日】2013年4月26日
【審判番号】不服2015-5618(P2015-5618/J1)
【審判請求日】2015年3月25日
(31)【優先権主張番号】09/55103
(32)【優先日】2009年7月22日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】511110625
【氏名又は名称】ジェイテクト ユーロップ
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アンドレ ミシェリ
(72)【発明者】
【氏名】ピエール ピラ
(72)【発明者】
【氏名】パスカル ムレール
(72)【発明者】
【氏名】セルジュ ゴダン
【合議体】
【審判長】
和田 雄二
【審判官】
氏原 康宏
【審判官】
尾崎 和寛
(56)【参考文献】
【文献】
欧州特許出願公開第1234746(EP,A1)
【文献】
特開2007−55452(JP,A)
【文献】
特開2006−160005(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00-6/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラックピニオン方式を採用し、ステアリングホイールが接続されたステアリングコラムと、上記ステアリンホイールから離間する側の上記ステアリングコラムの端部に支持されたステアリングピニオンと、上記ステアリングピニオンに係合し、両端にホイールが接続されているラックと、上記ステアリングコラム、上記ステアリングピニオン、及び上記ラックのいずれかに連結されていて両方向に回転可能な電子補助モータと、上記ステアリングホイールの角度センサと、車速センサと、これらセンサからの信号を受信して上記電子補助モータを制御するコンピュータと、を備え、上記ステアリングホイールに付与される手動の荷重を補助するために、上記コンピュータが、予め定められた法則に基づいて、補助荷重を発生するように上記電子補助モータを駆動する自動車のパワーステアリングシステムにおいて、上記コンピュータが、上記ステアリングホイールのトルク又は荷重の設定値を決定するための方法であって、
上記電子補助モータのデータに基づいて推定される上記ラックに作用する荷重と、上記自動車の縦方向の速度と、に基づいて上記自動車の第1の横加速度を算出する第1ステップと、
上記自動車のヨーレイトを決定し、当該ヨーレイトと、上記自動車の縦方向の速度と、に基づいて上記自動車の第2の横加速度を算出する第2ステップ、
上記ステアリングホイールの角度位置と、上記自動車の縦方向の速度と、に基づいて上記自動車の第3の横加速度を算出する第3ステップ、
ジャイロスコープセンサで上記自動車の第4の横加速度を測定する第4ステップ、
同軸に配置された上記自動車の車輪の速度差の関数として第5の横加速度を決定する第5ステップからなる第2〜第5のステップのうち、少なくともいずれか1つのステップと、を含み、
上記第1の横加速度と、上記第2〜第5の横加速度の少なくともいずれか1つの横加速度とを、これらの横加速度自体に依存した重み係数を割り当てた重み付けを行って合成することにより、上記設定値を決定することを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、
上記設定値は、最後に、ステアリングホイールの角速度と上記自動車の縦方向の速度とを考慮して決定されることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のパワーステアリングシステム、特に、自動車に搭載された電子コンピュータにより駆動される電子パワーステアリングシステムに関する。特に、自動車のパワーステアリングシステムにおいて、如何なる状況においてもドライバに快適な乗り心地を提供することができるようにステアリングホイールのトルク設定値又は荷重設定値を決定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景は、
図1の線図によって説明することができる。この図には、パワーステアリングシステムの主要な機械要素及び他の要素が示されている。この種のステアリングシステムは、ステアリングコラム3に接続されたステアリングホイール2を有する機械部品を備え、ステアリングコラム3におけるステアリングホイール2から離間する側の端部には、ステアリングギヤボックスにスライド可能に固定されたラック4に係合するステアリングピニオンが支持されている。ラック4における相対向する2つの端部は、コネクティングロッド6及び7を介して自動車の左右のホイール(図示省略)に接続されている。ステアリングシステムは、自動車のドライバによってステアリングホイール2に付与される手動の力を補助するために、両方向に回転可能な電子補助モータ8を備えている。電子補助モータ8の出力軸は、エンジントルク(同様に抵抗トルク)をステアリングシステムに伝達するために、円筒状のウォームホイール又はギヤトレイン(歯車列)を有するウォーム減速ギヤ9を介してステアリングコラム3若しくはステアリングピニオンに連結されるか、又は直接ラック4に連結される。電子補助モータ8は、自動車に搭載され且つ各種センサからの様々な信号を受信して処理する電子コンピュータ10により制御される。
【0003】
一つの実施例として、電子コンピュータ10は、ステアリングコラム3に設置されたトルクセンサ11からの電気信号、及び、ステアリングホイール2の角度センサ12からの電気信号を受信する。センサ11は、ドライバによってホイール2に付与されるトルクを測定する。電子コンピュータ10は、自動車の車速センサ(図示省略)からの電気信号、及び、電子補助モータ8の角度位置センサ13からの電気信号を受信することができる。
【0004】
電子コンピュータ10は、ドライバによりステアリングホイール2に付与される手動の変位(荷重)を補助するべく、上記受信した信号に基づいて、上記電子補助モータ8が、ドライバによりステアリングホイールに付与される荷重を増幅するか又は補償する方法で補助トルク又は補助荷重を常に発生するように、予め定めた補助法則に基づいて該モータ8を駆動する。
【0005】
しかしながら、自動車の使用状態によっては、必ずしもこのような補助が、ドライバに対して期待通りの乗り心地やステアリングホイール荷重を付与しない場合がある。この点、ステアリングホイールのトルク、より正確にはステアリングホイールの荷重は、自動車の乗り心地及びドライバが受ける動的な感覚を支配する重要な要素となる。
【0006】
特許文献1には、請求項1の序文と同じ構成が記載されていて、自動車の電子パワーステアリングシステムが記載されている。このものでは、ステアリングホイールのためのトルク設定値は、横加速度を含む様々な測定パラメータに基づいて計算される。このパラメータは、もっぱら横方向の加速度センサによって測定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許出願第1234746号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上述した欠点を解決することであり、その主な目的は、如何なる状況においても快適な乗り心地を提供することにある。すなわち、自動車の動的な状態に応じてステアリングホイールのトルク又は荷重を設定することで、如何なる運転状況においても快適な乗り心地を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、この発明では、ラックピニオン方式を採用した自動車のパワーステアリングシステムにおいて、各種のパラメータ及び/又は情報の関数として定まるステアリングホイール2のトルク設定値又は荷重設定値を決定するための方法に関連し、上記ステアリングホイール2のトルク設定値又は荷重設定値は、自動車の横方向加速度に基づいて決定され、上記自動車の横方向加速度は、上記ステアリングシステムのラック4に作用する荷重の推定に基づいて決定される。
【0010】
このように、本発明の基礎となる考え方では、ステアリングホイールのトルク設定値又は荷重設定値は横加速度(横方向の加速度)に基づいて決定され、該加速度は、ステアリングシステムのラックに作用する荷重を推定することにより決定される。自動車の横加速度は、自動車の重心位置の軌跡の加速度として定義される。
【0011】
上記ステアリングホイール2のトルク設定値又は荷重設定値の決定に際しては、以下の4つの方法により得られる横加速度のうちの少なくとも一つを重み付けして考慮に入れることがより好ましい。上記ステアリングホイールの角度位置及び上記自動車の縦方向の速度から得られる横加速度、ジャイロスコープセンサを使用して測定される横加速度、上記自動車のヨーレイト及び縦方向の速度に基づいて決定される横加速度、及び、上記自動車のホイールの速度の関数(特に、同軸に配置されたホイールの速度差の関数)として決定される横加速度。
【0012】
このようにステアリングホイールの角度位置及び自動車の縦方向(長手方向)の速度から得られる横加速度を考慮に入れることで、ステアリングシステムを介して、路面からドライバの手に伝わる摩擦の影響を補償することができる。また、横加速度を決定するための他の3つうち少なくとも一つを考慮に入れることで、自動車及び/又は車外の状況に応じた修正を踏まえて、ステアリングホイールのトルク設定値(又は荷重設定値)のロバスト性を向上させることができる。
【0013】
ラック4に作用する荷重は、電子パワーステアリングシステム内のデータ(例えば、電子モータの補助トルク、又は、該モータを流れる電流、該モータの回転速度、荷重推定から横加速度推定に至るまでのモデル計算中にドライバにより付与されるトルク)から推定される。
【0014】
横加速度を決定するための他の方法では、前述した4つの中からの組み合せによる方法が好ましい。これらは、センサ、データ、関数機能を必要とするが、最近の自動車では、特に、これらは、”ESP”と呼ばれる電子安定性プラグラムに備えられているため、発明の実施にはさらに特別の機器を追加する必要もない。
【0015】
上記各横加速度の決定に際して実行される重み付けは、各横加速度値に”重み係数”を割り当てることで実行され、上記重み係数は、理論的な横加速度を得るために、横加速度自体に依存しており、そうして得られる理論的な横加速度は、ステアリングホイール2のトルク設定値又は荷重設定値を出力(決定)するメインデータテーブルへの入力として利用される。
【0016】
もう一つの方法は、先ず、横加速度を基にステアリングホイールの理論設定荷重又は理論設定トルクを決定し、それから、横加速度を直接重み付けするのではなく、該理論設定荷重又は理論設定トルクを重み関数によって重み付けする方法である。
【0017】
さらにステアリングホイールの回転速度が実質的に増加する際に、ステアリングホイール2が固定された場合のトルク又は荷重の一定性を向上させるために、又は、ステアリングホイール2が解放された場合にその回転方向において交互に生じる変位運動を減衰するために、上記ステアリングホイールのトルク設定値又は荷重設定値はステアリングホイール2の回転速度の関数として決定されることが好ましい。このステアリングホイールの回転速度は、ステアリングシステムの電気補助モータの瞬間的な速度を基に計算によって決定することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によると、自動車の動的な状態に応じてステアリングホイールのトルク又は荷重を設定することで、如何なる運転状況においても快適な乗り心地を提供することができる。
【0019】
本発明は、添付の図面と共に以下の詳細な説明を参照することで、より一層容易に理解することができる。この詳細な説明は、ステアリングホイールのトルク設定値の決定方法に係る一実施例を例示的に示したものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の方法が適用される電子パワーステアリングシステムを示す斜視図である。
【
図2】本発明の方法を簡潔にまとめたブロック線図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図2の特に左側の部分を参照すると、本発明の方法において考慮される様々なパラメータがシンボル化されて示されている。
【0022】
すなわち、A:ステアリングホイール2の角速度
B:自動車の縦方向速度
C:自動車のヨーレイト
D:ステアリングホイール2の角度位置
E:自動車の横加速度
【0023】
ブロック14では、電子パワーステアリングシステムの電子コンピュータ10により計算されるラック4に作用する理論荷重、及び、自動車の縦方向の速度Bを基に、横加速度を理論的に(理論横加速度を)算出する。
【0024】
もう一つのブロック15では、自動車の縦方向の速度と、ジャイロスコープにより測定されるヨーレイトCとに基づいて、横加速度を理論的に算出する。
【0025】
さらにもう一つのブロック16では、自動車の縦方向の速度B及びステアリングホイールの角度位置Dを基に、横加速度を理論的に算出する。
【0026】
Eは、ジャイロスコープにより測定される自動車の横加速度を表しており、この測定された横加速度は、ブロック17でローパスフィルターを介して処理される。
【0027】
不図示の方法では、さらなるブロックを設けて、このブロックにおいて、同軸に配置された車輪の速度偏差と、車軸の幅(すなわち、2つの車輪間の距離)と、自動車の縦方向の速度とを基に横加速度を理論的に算出するようにしてもよい。
【0028】
ブロック18では、自動車の縦方向の速度を受信するとともに、上述した各ブロックからの出力を合成して、ステアリングホイールのトルク設定値の決定が実行される。この決定は、特に、ブロック14〜17から供給される様々な横加速度を、適切な重み付けを行った上で合成することで実行される。
【0029】
最後のブロック19では、ステアリングホイールAの角速度を基に自動車の縦方向の速度を考慮に入れることで、減衰機能を発揮する。
【0030】
ブロック18及び19の出力の合成が最終的に、ステアリングホイールのトルク設定値CCを提供する。この設定値はパワーステアリングシステムによって利用される。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、自動車のパワーステアリングシステムに有用である。
【符号の説明】
【0032】
2 ステアリングホイール
3 ステアリングコラム
4 ラック
8 電子モータ