【実施例】
【0025】
先ずVベルト式無段変速機10の概略構成を説明し、本発明については
図5に基づいて説明する。以下に説明するVベルト式無段変速機10は、スクータ型車両に好適である。ただし、二輪車の他、三輪車、四輪車に適用することは差し支えない。
【0026】
図1に示すように、Vベルト式無段変速機10は、クランク軸11の一端に形成されプーリ軸12と、このプーリ軸12に支持される駆動プーリ20と、図示しない従動プーリ(図示せず)と、これら駆動プーリ20及び従動プーリに掛け渡されるVベルト22を有している。さらに、駆動プーリ20は、プーリ軸12に固定される固定シーブ15と、プーリ軸12に支持され固定シーブ15に対して移動可能な可動シーブ21からなり、これら両シーブ15,21間にVベルト22が巻き掛けられている。
【0027】
可動シーブ21の背後には、ランププレート13がプーリ軸12に固定されており、これら可動シーブ21とランププレート13との間に複数の遠心ウエイト19が保持されている。プーリ軸12が回転し、その回転速度に応じた遠心力が遠心ウエイト19に作用すると、遠心ウエイト19が可動シーブ21のカム面17に沿って径外方へ移動し、可動シーブ21を固定シーブ15側へ移動させる(
図4参照)。結果、固定シーブ15と可動シーブ21との間隔が狭くなり、Vベルト22の巻き掛け半径が大きくなる。
【0028】
また、可動シーブ21は、Vベルト22の摺動面とカム面17とが別部品で構成されており、両面間のボス部23には、ベアリング24を介してアーム26が連結されている。さらに、アーム26の先端には、遠心ウエイト19と協働して可動シーブ21を移動させるアクチュエータ30の出力ロッド46が連結されている。
【0029】
アクチュエータ30は、駆動源となるモータ32と、このモータ32の出力を減速する減速ギヤ群33と、この減速ギヤ群33を介してモータ32により回転駆動されるナット部材34を有している。
【0030】
減速ギヤ群33は6つのギヤで構成され、最終段のギヤ42は、ナット部材34に一体形成されている。ナット部材34は、ギヤ42を挟むようにして、一対の玉軸受35、35によりアクチュエータケース31に回転可能に支持されるため、ギヤ42が受ける力を玉軸受35、35でアクチュエータケース31へ効果的に伝えることができる。
【0031】
本実施例では、ナット部材34等が収容されるアクチュエータケース31を変速機ケース28と別体としたので、ナット部材34を支持する「ケース」は、アクチュエータケース31となる。
しかし、アクチュエータケース31を変速機ケース28と一体化しても良く、この場合は、ナット部材34を支持する「ケース」は、変速機ケース28となる。
【0032】
図2に示すように、アクチュエータ30は、さらに、ナット部材34の内周に形成された台形めねじ44に噛み合う台形おねじ45が形成された出力ロッド46を有している。出力ロッド46の一端側49は、アクチュエータケース31を貫通して外部に突出しており、その先端54には、アーム26(
図1参照)が連結されるU溝55が設けられている。
【0033】
また、出力ロッド46の一端側49は、アクチュエータケース31に配設された第1軸受48により支持され、一方、台形おねじ45を挟んで一端側49の反対側となる出力ロッド46の他端側52は、ナット部材34に配設された第2軸受53により支持されている。なお、出力ロッド46の一端側49が貫通するアクチュエータケース31の開口部は、合成ゴム製のシール51で密封されている。
【0034】
出力ロッド46は、一端側49と他端側52のほぼ中間に台形おねじ45が形成されており、一端側49の外形よりも台形おねじ45の外径が小径であって、台形おねじ45の外径よりも他端部52の外径が小径の多段軸構造となっている。
【0035】
そして、出力ロッド46の一端側49と第1軸受48との間には、径方向に片側でc1の隙間が設けられ、出力ロッド46の他端側52と第2軸受53との間には、径方向に片側でc2の隙間が設けられている。
【0036】
図3に示すように、出力ロッド46に形成される台形おねじ45と、ナット部材34に形成される台形めねじ44は、文字通り台形断面の歯で構成され、台形めねじ44と台形おねじ45の軸方向の隙間であるバックラッシュbと、台形めねじ44の谷底44aと台形おねじ45の山頂45aとの径方向の隙間である頂げきc3と、台形めねじ44の山頂44bと台形おねじ45の谷底45bとの径方向の隙間である頂げきc4が設けられている。
【0037】
図2に示す隙間c1及び隙間c2は、出力ロッド46が径方向に片寄って第1軸受48又は第2軸受53の少なくとも一方に接した状態でも、バックラッシュbが確保され且つ頂げきc3及び頂げきc4が確保される間隔に設定されている。
【0038】
以上の構成からなるアクチュエータ30の作用を次に説明する。
【0039】
出力ロッド46は、アーム26によってその軸心周りの回転が規制されるため、モータ32を駆動し、減速ギヤ群33を介してナット部材34を回転駆動すると、ナット部材34の回転運動が出力ロッド46の直線運動に変換され、出力ロッド46が軸方向に移動する。出力ロッド46が移動すると、アーム26も出力ロッド46と一体的に移動し、可動シーブ21を固定シーブ15に対して移動させる(
図1及び
図4参照)。結果、固定シーブ15と可動シーブ21との間隔、即ちVベルト22の巻き掛け半径が変化する。
【0040】
つまり、
図1に示すように出力ロッド46が右方向へ移動すると、固定シーブ15と可動シーブ21との間隔が広くなり、Vベルト22の巻き掛け半径が小さくなる。一方、
図4に示すように出力ロッド46が左方向へ移動すると、固定シーブ15と可動シーブ21との間隔が狭くなり、Vベルト22の巻き掛け半径が大きくなる。
【0041】
図1及び
図4に示すように、モータ32は制御部80により制御され、制御部80による制御は、センサ60により検出されたアーム26の変位量に基づいて行われる。即ち、アーム26の変位量をフィードバック情報として可動シーブ21の移動が制御される。
【0042】
次に、制御部80によるモータ32の制御方法について
図5に基づいて説明する。
図5(a)は、第1の変速モードであるエコモード時の車速と推力の相関を示すグラフであり、
図5(b)は、第2の変速モードであるスポーツモード時の車速と推力の相関を示すグラフである。なお、CM1はアクチュエータ30により可動シーブ21を固定シーブ15側へ付勢する推力、CM2は遠心ウエイト19により可動シーブ21を固定シーブ15側へ付勢する推力、CM1+CM2はそれらの合計推力である。
【0043】
図5(a)に示すように、エコモードでは、シフトアップ時(車速S以下のシフトアップ領域)にアクチュエータ30の推力CM1を0より大きくする。即ち、遠心ウエイト19の推力CM2に付加する付加推力をアクチュエータ30が発生するようにモータ32を制御する。これにより、可動シーブ21を積極的に固定シーブ15側(ハイレシオ側)へ付勢し、速やかなシフトアップを図る。結果、燃費向上が図れる。
【0044】
一方、
図5(b)に示すように、スポーツモードでは、シフトアップ時(車速S以下のシフトアップ領域)にアクチュエータ30の推力CM1を0より小さくする。即ち、遠心ウエイト19の推力CM2に抵抗する抵抗推力をアクチュエータ30が発生するようにモータ32を制御する。これにより、可動シーブ21を反固定シーブ15側(ローレシオ側)へ付勢し、エコモードよりもシフトアップを抑制する。結果、加速性能が向上し、スポーツ走行が可能となる。
【0045】
このように、モータ32をアシスト手段としてのみでなくブレーキ手段としても機能させ、両変速モードでアクチュエータ30を有効に利用することで、モータ容量を小さくでき、モータ32の小型化が図れる。また、モータ32が小型化されれば、軽量化やコストダウンも図れ、さらに、燃費向上も図れる。
【0046】
ところで、遠心ウエイト19の推力CM2は、遠心ウエイト19に作用する遠心力の水平分力であるため、遠心ウエイト19の質量を増減することで、推力CM2の大きさを任意に変更できる。
【0047】
本実施例では、アクチュエータ30で付加推力の最大値Mpaを発生させるためのモータ32の必要トルクと、抵抗推力の最大値Mpbを発生させるためのモータ32の必要トルクとがほぼ等しくなるように遠心ウエイト19の質量を設定した。但し、アクチュエータ30の推力CM1は、単にモータ32の出力のみに依存するものでなく、出力ロッド46とナット部材34の送りねじ機構にも影響を受けるため、送りねじ機構のねじ効率に基づいて遠心ウエイト19の質量を設定した。
【0048】
ここで、送りねじ機構のねじ効率について説明する。
一般に、送りねじ機構により回転運動を直線運動に変換するときのねじ効率は「正効率」と呼ばれ、逆に、直線運動を回転運動に変換するときのねじ効率は「逆効率」と呼ばれる。
【0049】
これら正効率と逆効率は、次式を用いて計算できる。
【0050】
【数1】
【0051】
なお、μは摩擦係数で、ボールねじでは0.003程度、台形ねじでは0.1程度である。また、θはリード角である。
【0052】
【表1】
【0053】
表1に示すように、仮にリード角θを10°としてボールねじと台形ねじのねじ効率を計算すると、ボールねじでは、摩擦係数μが極めて小さいため、正効率と逆効率がほぼ等しくなる。一方、台形ねじの場合、摩擦係数μが大きい影響により、逆効率が正効率よりも小さくなる。
【0054】
本実施例では、送りねじ機構として、ねじ効率の逆効率が正効率よりも小さな台形ねじを採用しているため、外部からナット部材34を回転させにくく、スポーツモードにおいて、台形ねじの逆効率を利用して遠心ウエイト19の推力CM2に抵抗させることができる。結果、抵抗推力の最大値Mpbを発生させるためのモータ32の必要トルクを小さくできる。このため、スポーツモードにおいてモータ32の負担が軽減できる分、遠心ウエイト19の質量を大きくしてエコモードでのモータ32の負担軽減を図ることで、モータ32の小型化が図れる。
【0055】
さらに、エコモードでのモータ32の必要トルクと、スポーツモードでのモータ32の必要トルクがほぼ等しくなるように遠心ウエイト19の質量を設定することで、両変速モードでのモータ32の必要トルクをバランス良く小さくでき、モータ32のさらなる小型化が図れる。
【0056】
なお、台形ねじに代えてボールねじを送りねじ機構に採用する場合は、ねじ効率の正効率と逆効率がほぼ等しいため、付加推力の最大値Mpaと抵抗推力の最大値Mpbがほぼ等しくなるように遠心ウエイト19の質量を設定する。これにより、エコモードでのモータ32の必要トルクと、スポーツモードでのモータ32の必要トルクをバランス良く小さくでき、本実施例同様、モータ32のさらなる小型化が図れる。また、ボールねじはねじ効率の正効率と逆効率が共に大きいため、モータ32の一層の小型化が図れる。
【0057】
次に、センサ60について、
図6に基づいて説明する。
図6に示すように、センサ60は、回転型のポテンショメータ61と、このポテンショメータ61の回転軸に取付けられるレバー62と、このレバー62を付勢する付勢部材としてのトーションばね63で構成されている。
【0058】
トーションばね63は、一端がポテンショメータ61のケースに取り付けられると共に他端がレバー62に取り付けられており、レバー62を矢印(1)方向へ付勢している。
【0059】
なお、トーションばね63に相当する付勢部材がポテンショメータ61に内蔵されている場合は、トーションばね63を省略しても良い。
また、付勢部材はトーションばねの他、圧縮ばね、引張りばね、ゴム、弾性プラスチックでもよい。
【0060】
レバー62は、トーションばね63で矢印(1)方向へ付勢されることにより、その先端73が、アーム26の変速機ケース28への組み付け方向と反対方向からアーム26に当接している(
図1及び
図4参照)。すなわち、アーム26は、可動シーブ21と共に反矢印(1)方向から変速ケース28内に組み付けられるのに対し、レバー62は、その反対方向からアーム26に当接している。
【0061】
これにより、センサ60及びアーム26の変速機ケース28への組み付け時には、先ずセンサ60を組み付け、その後アーム26を組み付けるだけで、レバー62とアーム26の接続作業が不要になる。結果、組立性やメンテナンス性を向上できる。さらに、レバー62とアーム26の接続構造が不要なため、コストダウンも図れる。
【0062】
以上の構成からなるセンサ60は、
図1に示すように、アクチュエータ30とは別体で変速機ケース28内に収容配置されている。これにより、アクチュエータ30の小型化が図れる。さらに、センサ60は、Vベルト22を挟んでアクチュエータ30の反対側に配置されているため、変速機ケース28内のデッドスペースを有効に利用することができる。
【0063】
また、この種の装置では、アクチュエータ30にセンサ60が取り付けられることが多い。この場合、可動シーブ21の位置は、出力ロッド46のU溝55とアーム26との隙間などの影響から検出精度が悪くなる。
この点、本実施例では、可動シーブ21と一体的に移動するアーム26の変位量をセンサ60で検出するため、可動シーブ21までの各要素の寸法誤差や組付誤差の影響を受けにくく、可動シーブ21の位置を精度良く検出できる。結果、可動シーブ21の移動を高精度に制御することができ、Vベルト式無段変速機10の燃費向上が図れる。
【0064】
また、アーム26の変位量をセンサ60で検出するため、アーム26の形状に応じて変速機ケース28内へのセンサ60の配置を自由に設計でき、変速機ケース28内のデッドスペースを有効に利用することができる。
【0065】
図6に示すように、センサ60は、ボルト71、71によりブラケット65に取り付けられ、ブラケット65を介してボルト72、72により変速機ケース28に固定されている。さらに、ブラケット65には、出力ロッド46の先端54が当接することで、可動シーブ21が常用範囲を超えて移動することを防止するストッパ69が一体形成されている。これにより、ストッパ69を別途設ける場合に比べて部品点数を削減でき、コストダウンが図れる。
【0066】
また、ブラケット65には、アーム26が当接することで、アーム26が所定範囲を超えてベアリング24周りに回動することを防止する回り止め68が一体形成されている。これにより、アーム26とアクチュエータ30の出力ロッド46の組み付けが容易になり、組立性やメンテナンス性を向上できる。さらに、回り止め68を別途設ける場合に比べて部品点数を削減でき、コストダウンが図れる。
【0067】
次に、Vベルト式無段変速機10のさらなる燃費向上のための対策を
図7から
図10に基づいて説明する。
図7及び
図8に示すように、燃費向上のための変形例としては、付勢手段としてのゼンマイばね75をアクチュエータ30に配設する。
【0068】
図8から
図10に示すように、ゼンマイばね75は、一端がピン76を介してアクチュエータケース31に取り付けられると共に他端がナット部材34に取り付けられており、
図10に示すようにモータ32によりナット部材34が時計回りに回転駆動されることで、弾性復帰力によりナット部材34に反時計回りの回転力を付与する。
【0069】
ゼンマイばね75によりナット部材34に回転力が付与されると、アクチュエータ30の出力ロッド46が軸方向に付勢され、固定シーブ15と可動シーブ21との間隔を広げるように可動シーブ21が反固定シーブ15側(ローレシオ側)へ付勢される。
【0070】
本実施例では、出力ロッド46とナット部材34の送りねじ機構を台形ねじで構成したため、ねじ効率がボールねじよりも小さい分、ボールねじの場合よりもモータ32の必要トルクが大きくなり、アクチュエータ30の消費電力が増加する。これに対し、ゼンマイばね75により可動シーブ21を反固定シーブ15側(ローレシオ側)へ付勢することで、シフトダウン時におけるモータ32の必要トルクを小さくでき、アクチュエータ30の省電力化が図れる。結果、Vベルト式無段変速機10の燃費向上が図れる。
【0071】
また、台形ねじのねじ効率は、逆効率が正効率よりも小さいため、出力ロッド46に外力を直接加えて軸方向に付勢するよりも、ナット部材34に回転力を加えて出力ロッド46を軸方向に付勢する方が、ゼンマイばね75の必要荷重が小さくてすむ。結果、ゼンマイばね75がコンパクトになり、アクチュエータ30の小型化が図れる。
【0072】
なお、実施例では送りねじ機構に台形ねじを採用したが、他の通常ねじを採用しても良い。但し、通常ねじとは、三角ねじ、角ねじなど、ボールねじ以外のねじを指す。
ただし、三角ねじはリードが小さいため、相対的にナット部材34の回転駆動量が増え、モータ32の消費電力が増加してしまう。
【0073】
また、角ねじは、リードを大きくすることができるが、フランク面が軸と直交しているため、ナット部材34に対して出力ロッド46が作動時に振れ易くなる。
この点、台形ねじは、リードを大きくすることができると共に、フランク面が傾斜しているため、ナット部材34に対して出力ロッド46が作動時に振れにくくなり、出力ロッド46の作動がより円滑になる。よって、台形ねじが推奨される。
【0074】
また、実施例ではクランク軸11の一端にプーリ軸12を形成したが、プーリ軸12をクランク軸11と別体とし、クランク軸11とプーリ軸12とをベルトやギヤなどの伝動部材で繋いでも良い。