【実施例1】
【0029】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、位置決めシステム1は、マシニングセンタ(数値制御式工作機械)のテーブルであるベース部材2に対して可動部材であるワークパレット(これがワーク に相当する)を水平方向に正確に位置決めするための装置である。
【0030】
図1は、ベース部材2と、そこに装備した複数の位置決め装置3,4,5の平面図である。
図1に示すように、ベース部材1には、その上方近傍にセットされるワークW(
図4、
図5参照)を水平面内におけるX,Y方向(全方向)に位置決めする第1位置決め装置3と、ワークWをZ方向(鉛直方向)に位置決めする3組の高さ方向位置決め装置4と、ワークWを第1位置決め装置3を中心とする水平回動方向(θ方向)へ位置決めする第2位置決め装置5とが装備されている。
【0031】
第1位置決め装置3と第2位置決め装置5とにより、ワークWを水平方向の全方向に位置決めされる。尚、前記の第1位置決め装置3と高さ方向位置決め装置4についての説明は省略し、第2位置決め装置5について以下に説明する。
【0032】
次に、本願の位置決め装置である第2位置決め装置5について、
図1〜
図9に基づいて説明する。尚、
図4、
図5は、油圧シリンダ16のピストン部材22を上限位置にした状態を示し、
図6、
図7は、油圧シリンダ16のピストン部材22がフルストロークして下限位置に達した状態を示す。
図9は正常に位置決めした状態を示し、この状態において油圧シリンダ16のピストン部材22が上限位置と下限位置の間の途中位置にある。
【0033】
図1〜
図5に示すように、この第2位置決め装置は、基準側のベース部材2に固定される本体部材6と、プラグ部材7と、テーパスリーブ8と、駆動ロッド9と、係合リング10と、駆動力出力部材11と、筒部材12と、固定リング13と、スクレーパ14と、案内機構15と、油圧シリンダ16と、可動連結機構17と、位置決め不良検知手段18と、エアブロー機構19などを備えている。
【0034】
プラグ部材7のプラグ部7aをテーパスリーブ8を介してワークWの底部の円筒穴Hに下方から挿入後、テーパスリーブ8を拡径させて円筒穴Hに密着させることにより、ワークWの円筒穴HをX方向と直交するY方向へ位置決めする装置である。尚、Y方向がプラグ部7aの軸心と直交する水平な第1方向に相当し、X方向がプラグ部7aの軸心及び第1方向と直交する水平な第2方向に相当する。
【0035】
本体部材6は、固定用フランジ部6aと筒状部6bとを有し、フランジ部6aの下面は水平基準面に形成されている。筒状部6bをベース部材2に形成された円筒穴2aに軸心を鉛直姿勢にして装着し、フランジ部6aの下面をベース部材2の上面に当接させた状態で、3つのボルト穴6cに夫々挿通させた固定ボルト6dにより、本体部材6がベース部材2に高精度に位置決めして固定される。
【0036】
前記プラグ部材7は本体部材6にX方向に可動に装着され、このプラグ部材7の上半部にプラグ部7aが形成され、プラグ部7aは本体部材6の中心部分から上方へ突出している。プラグ部7aの外周面は上方程小径化するテーパ部として形成されている。プラグ部材7は、下端部のフランジ部7cと、フランジ部7cから上方へ延びる円筒部7bと、前記プラグ部7aを備え、プラグ部材7の中心側部分にはロッド孔7dが形成されている。
【0037】
前記テーパスリーブ8は、外周面が円筒面に形成されると共に内周面がテーパ面に形成され、テーパスリーブ8の下半部がプラグ部7aのテーパ部に密着状に外嵌され、径拡大方向へ弾性変形可能に構成されている。
図3に示すように、前記弾性変形を可能とするため、テーパスリーブ8の周方向の1カ所には1本の縦スリット8aが形成され、テーパスリーブ8はこの縦スリット8aにより分断されている。
【0038】
この縦スリット8aに対応する位置において、プラグ部7aのテーパ部に1つの小径のピン部材7eが突出状に装着され、ピン部材7eの先端部が縦スリット8aに係合している。こうして、プラグ部7aに対してテーパスリーブ8がプラグ部7aの軸心の回りに回動しないように規制されている。
【0039】
駆動ロッド9は、テーパスリーブ8を昇降駆動するものであり、駆動ロッド9はプラグ部7aと同心状であり、駆動ロッド9はプラグ部材7のロッド孔7dに密着状に挿通し、テーパスリーブ8をも挿通している。この駆動ロッド9は、上端部に形成された頭部9aと、この頭部9aと一体形成されて下方へ延びるロッド本体部9bを有する。前記頭部9aにはプラグ部材7に上方から対向する鍔部9cが形成されている。頭部9aは側面視にて台形状で、テーパ外周面9dを有し、このテーパ外周面9dが、頭部9aとプラグ部7aとテーパスリーブ8をワークWの円筒穴Hに挿入する際の案内面として機能する。
【0040】
前記テーパスリーブ8の上端部には内側へ張り出す内鍔部8bが形成され、係合リング10はロッド本体部8bの上端部に焼き嵌め又は圧入にて固着されている。
この頭部9aと係合リング10とで環状溝10aが形成され、この環状溝10aにテーパスリーブ8の上端部の内鍔部8bが緊密に係合されている。こうして、テーパスリーブ8の上端部が駆動ロッド9の上端近傍部に一体的に連結され、油圧シリンダ16の昇降駆動力を駆動力出力部材11を介してテーパスリーブ8に伝達可能に連結されている。
【0041】
駆動ロッド9の上昇時にはテーパスリーブ8がプラグ部7aに対して相対的に数mmだけ上昇し、駆動ロッド9の下降時にはテーパスリーブ8がプラグ部7aに対して相対的に数mmだけ下降する。
【0042】
前記筒部材12は本体部材6の一部に相当するものであり、この筒部材12は本体部材6に形成された嵌合穴20に緊密に装着されている。
筒部材12の外周の一箇所には回り止めピン12dが装着され、この回り止めピン12dを本体部材6の嵌合穴20の外周の一箇所に形成した半円筒溝(図示略)に係合させることにより、筒部材12が回転しないように規制されている。
【0043】
この嵌合穴20の上側において本体部材6の上端部には嵌合穴20よりも大径の装着穴21が形成されている。この装着穴21に断面L形の固定リング13が焼き嵌め又は圧入にて固定され、筒部材12の1対の突出部12bの上端に当接している。そのため、筒部材12が脱落することはない。軟質合成樹脂等の弾性材料製の環状のスクレーパ14がプラグ部材7に密着状に外嵌されて固定リング13に装着されて固定されている。
【0044】
前記案内機構15は、プラグ部材7を本体部材6に対してY方向へ移動不能で且つX方向へ移動可能に案内するものである。この案内機構15は、プラグ部材7の下端部にX方向と平行に形成され且つ下方程互いに接近するように傾斜した1対の傾斜面15aと、これら傾斜面15aが密着状に夫々係合するように筒部材12に形成された1対の支持傾斜面15bとを備えている。1対の傾斜面15aは、プラグ部材7のフランジ部7cの両側部を部分的に切除した切断面に形成されている。
【0045】
前記筒部材12の中央孔12aには駆動力出力部材11の大径部11aが密着状に装着され、筒部材12のY方向の両側部分には中央孔12aよりも高く突出する平面視にて弓形の突出部12bが形成されている。前記1対の支持傾斜面15bは、1対の突出部12bの内側面に形成されている。尚、
図3〜
図5に示すように、筒部材12の1対の円弧面12cは、1対の支持傾斜面15bの下端よりも数mmだけ低い位置にある。
【0046】
駆動ロッド9を昇降駆動する駆動手段としての油圧シリンダ16が本体部材6の下部に設けられている。油圧シリンダ16は、本体部材6の筒状部6bに形成された縦向きのシリンダ穴21と、このシリンダ穴21に昇降可能に装着されたピストン部22aを含むピストン部材22とを有し、シリンダ穴21のうちのピストン部22aの上側には駆動ロッド9を下降駆動する為の第1油室21aが形成され且つピストン部22aの下側には駆動ロッド9を上昇駆動する為の第2油室21bが形成されている。
【0047】
第1油室21aは、本体部材6内の油圧通路23aとベース部材2内の油圧通路23bと外部油圧通路23cを介して油圧供給源24に接続されている。第2油室21bはベース部材2内の油圧通路25aと外部油圧通路(図示略)を介して油圧供給源24に接続されている。 尚、第1,第2油室21a,21bの油圧をシールする為のシール部材26〜28及びその他のシール部材29が設けられている。
【0048】
駆動力出力部材11は、筒部材12の中央穴12aに装着された大径部11aと、この大径部11aの下端の中央部かち下方へ延びる脚部11bとを備えている。この脚部11bはボルト状に形成され、この脚部11bが油圧シリンダ16のピストン部材22のロッド部22bに螺合にて連結されている。
【0049】
前記可動連結機構17は、駆動ロッド9の下端部を油圧シリンダ16の駆動力を出力する駆動力出力部材11に対して前記Y方向へは移動不能で且つ前記X方向へ移動可能に連結するものである。この可動連結機構17は、駆動ロッド9の下端部に形成された係合部17aと、この係合部17aがX方向の片側から係合可能で且つ上下方向に相対移動不能に駆動力出力部材11の大径部11aに形成された係合穴17bとを備えている。
【0050】
前記係合部17aは、駆動ロッド9の下端近傍部に形成された環状溝30aと、この環状溝30aの下側のフランジ部30bとを有する。前記係合穴17bは、第1位置決め装置3側に開口した平面視U形の穴であり、環状溝30aに係合する平面視U形の突条部31aと、フランジ部30bの通過を許す平面視U形の案内溝31bとを備えている。
ここで、駆動力出力部材11に対する駆動ロッド9のX方向への移動を許容するため、ピストン部材22の軸心と駆動ロッド9の軸心を一致させた状態において、係合部17aと係合穴17bの壁面の間には、僅かな隙間(例えば、0.3〜0.5mm)が形成されている。
【0051】
図4、
図5は、油圧シリンダ16のピストン部材22を上限位置にした状態を示し、この状態において、係合リング10の下面とプラグ部7aの上端面との間には、数mmの環状隙間aがあり、プラグ部材7の下端面の一部に駆動力出力部材11の上端面の一部が当接し、駆動力出力部材11の大径部11aの下端面と、嵌合穴20の底面との間には数mmの環状隙間bがある。プラグ部材7のフランジ部7cの円弧状外周面7fと嵌合穴20の周壁面との間にも隙間cがある。また、プラグ部材7の外周面と固定リング13との間にも環状隙間dがある。
【0052】
次に、位置決め不良検知手段18について説明する。
ワークWの円筒穴Hの穴径が、拡径状態のテーパスリーブ8の外径よりも大きい場合など、駆動ロッド9を下降駆動しても正常に位置決めできずに、ピストン部材22と駆動力出力部材11が下限位置まで下降する。この位置決め不良を検出する位置決め不良検知手段18は、嵌合穴20の底壁部に形成された弁孔34と、駆動力出力部材11に形成された弁面部35とを備えている。
【0053】
本体部材6には、弁孔34に接続された加圧エア供給通路36が設けられ、この加圧エア供給通路36はベース部材2内に形成されたエア通路37と外部エア通路38により加圧エア供給源39に接続され、外部エア通路38には圧力スイッチ40(又は圧力センサ)が接続されている。加圧エア供給源39と圧力スイッチ40は制御ユニット41に電気的に接続されている。尚、加圧エア供給通路36の端部はシール部材32でシールされている。
【0054】
弁面部35は、駆動力出力部材11が下限位置に達した際に弁孔34を閉塞するように形成されている。
図9に示すように、駆動ロッド9を下降駆動し、テーパスリーブ8が拡径して円筒穴Hに密着して正常な位置決め状態になると、駆動力出力部材11が下限位置に達しない。この場合には、加圧エア供給通路36に供給される加圧エアは駆動力出力部材11と筒部材12の間の隙間を通って上方へリークするため、圧力スイッチ40でエア圧「低」が検出される。
【0055】
図6に示すように、駆動力出力部材11が下限位置に達した位置決め不良の場合には、弁面部35で弁孔34が閉塞されるため、圧力スイッチ40でエア圧「高」が検出されるため、加圧エア供給通路36の加圧エアのエア圧を介して駆動力出力部材11が下限位置に達した位置決め不良状態を検知することができる。
【0056】
次に、プラグ部材7の外周面とスクレーパ14の間の隙間42(これは、スクレーパ14の弾性変形により形成される)から加圧エアをブローするエアブロー機構19について説明する。
図5に示すように、本体部材6に、加圧エア供給通路43と、この加圧エア供給通路43に連なり且つ固定リング13の下面側に加圧エアを導入可能なエア導入通路44とを設け、加圧エア供給通路43からエア導入通路44に供給する加圧エアをプラグ部材7の外周面とスクレーパ14の間の隙間から噴出させることで切粉などの異物の侵入を防止するように構成してある。
【0057】
前記エア供給通路43は、傾斜エア通路43aと、嵌合穴20の外周側に形成した縦溝43bとを有する。エア供給通路43は、ベース部材2内のエア通路45と外部エア通路を介してエア供給源39に接続されている。
エア導入通路44は、筒部材12の円弧面12cとプラグ部材7の下面との間の隙間eと、環状隙間cと、プラグ部材7のフランジ部7cと固定リング13との間の隙間と、環状隙間dと、スクレーパ14の内側の環状隙間fなどで構成されている。尚、傾斜エア通路43aの端部はシール部材33でシールされている。
【0058】
次に、上記の第2位置決め装置5の作用効果について説明する。
第1,第2位置決め装置3,5によってワークWを位置決めする際に、第2位置決め装置5のプラグ部7aとテーパスリーブ8を円筒穴Hに挿入するとき、第1位置決め装置3に対応する円筒穴と第2位置決め装置3に対応する円筒穴H間にピッチ間誤差がある場合、駆動ロッド9の頭部9aのテーパ外周面9dの案内作用で案内しながら挿入する。
【0059】
このとき、可動連結機構17を介して駆動ロッド9が駆動力出力部材11に対して相対的にX方向に移動すると共に、案内機構15を介してプラグ部材7とテーパスリーブ8とが駆動力出力部材11と筒部材12に対してX方向へ相対的に移動して前記ピッチ間誤差を吸収する。
【0060】
しかも、油圧シリンダ16の第1油室21aに油圧を供給して駆動ロッド9を下降駆動すると、1対の傾斜面15aが1対の支持傾斜面15bに密着状に夫々係合して、プラグ部材7が下方移動しないように支持された状態で、駆動ロッド9の頭部9aでテーパスリーブ8をプラグ部7aに対して相対的に下方へ移動駆動し、テーパスリーブ8を拡径させて円筒穴Hに密着状に内嵌させる。こうして、ワークWの円筒穴HをY方向に精度よく位置決めすることができる。
【0061】
しかも、この位置決め状態のとき、1対の傾斜面15aが1対の支持傾斜面15bに常に密着状に係合するため、プラグ部材7とテーパスリーブ8とがY方向にガタつくことがないから、Y方向位置決め精度を高く維持することができる。また、1対の傾斜面15aと1対の支持傾斜面15bがプラグ部材7をセンタリングする機能を有するため、Y方向位置決め精度を高く維持できる。しかも、長期間使用している間に、傾斜面15aと支持傾斜面15bが摩耗したとしても、1対の傾斜面15aが1対の支持傾斜面15bに常に密着状に係合するため、Y方向位置決め精度が低下することがない。
【0062】
しかも、駆動ロッド9を上昇させて非位置決め状態にするとき、駆動力出力部材11がプラグ部材7を押し上げることで1対の傾斜面15aと1対の支持傾斜面15bのテーパロックが解除されるため、プラグ部材7とテーパスリーブ8とが容易に摺動可能になる。 1対の支持傾斜面15bを本体部材6とは別体の筒部材12に形成するため、1対の支持傾斜面15bを精度よく形成できる。
【0063】
弁孔34と弁面部35とを有する簡単な構成の位置決め不良検出手段18により、位置決め不良を確実に検知することができるため信頼性に優れる。
しかも、エアブロー機構19を設け、スクレーパ14の内周側隙間から加圧エアを噴出させるため、第2位置決め装置5の内部(スクレーパ14より内側)へ切粉等の異物が侵入するのを確実に防止することができる。しかも、このスクレーパ14の弾性力により、駆動ロッド9を上昇させた非位置決め状態のときプラグ部材7とテーパスリーブ8と駆動ロッド9をセンタリングすることができる。
【0064】
次に、前記実施例を部分的に変更する例について説明する。
(1)駆動手段は、油圧シリンダで限定されるものではなく、油圧シリンダやエアシリンダ等の流体圧シリンダで構成してもよい。
(2)筒部材12は、本体部材6と一体の部材として構成してもよい。
(3)本体部材6の形状、構造は図示のものに限定されず、種々の形状、構造に構成することができる。
【0065】
(4)油圧通路23b、エア通路37,45などは本体部材6に形成することもできる。(5)その他、当業者ならば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施例に種々の変更を付加した形態で実施することができる。