(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基材層上に、炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウムおよび炭化タンタルから選択されるいずれかの炭化物層を形成する工程と、
前記炭化物層を窒化する工程と、
前記窒化された炭化物層上に、III族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる工程と、
前記基材層、前記炭化物層およびエピタキシャル成長後の前記III族窒化物半導体層を前記エピタキシャル成長の成長温度よりも高い温度で熱処理し、
前記III族窒化物半導体層と前記基材層とを剥離して、前記III族窒化物半導体層を含むIII族窒化物半導体の下地基板を得る工程とを含み、
III族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる前記工程では、厚さ600μm以下の前記III族窒化物半導体層を形成する下地基板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同一符号を付し、その詳細な説明は重複しないように適宜省略される。
(下地基板の製造工程)
はじめに、
図1及び
図4を参照して、本実施形態の下地基板の製造工程の概要について説明する。
本実施形態の下地基板10の製造方法は、
基材層11上に、炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウムおよび炭化タンタルから選択されるいずれか1種以上で構成される炭化物層12を形成する工程と、
前記炭化物層12を窒化する工程と、
前記窒化された炭化物層12上に、III族窒化物半導体層15をエピタキシャル成長させる工程と、
基材層11、前記窒化された炭化物層12およびIII族窒化物半導体層15を熱処理し、熱処理中に、III族窒化物半導体層15から基材層11を剥離して、III族窒化物半導体層15を含むIII族窒化物半導体の下地基板10を得る工程とを含む。
【0011】
次に、
図1〜4を参照して、本実施形態の下地基板10の製造工程について詳細に説明する。
はじめに、基材層11を用意する。基材層11としては、下地基板10とは異なる異種基板であることが好ましく、たとえば、サファイア基板、スピネル基板、SiC基板、ZnO基板、シリコン基板、GaAs基板、GaP基板等から選択される基板を使用することができる。なかでも、市販品の結晶品質およびコストの観点からサファイア基板が好ましい。
【0012】
(炭化物層12の形成)
次に、
図1(a)に示すように、この基材層11上に、炭化物層12を形成する。
炭化物層12としては、炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウムおよび炭化タンタルから選択されるいずれか1種以上からなる層とすることができる。たとえば、炭化物層12が炭化アルミニウム層、炭化チタン層、炭化ジルコニウム層、炭化ハフニウム層、炭化バナジウム層、炭化タンタル層のいずれかである場合、炭化アルミニウム層、炭化チタン層、炭化ジルコニウム層、炭化ハフニウム層、炭化バナジウム層、炭化タンタル層は、それぞれAl
4C
3、TiC、ZrC、HfC、VC、TaCが主成分となる。
ただしIII族窒化物半導体層15を構成するIII族原子のうちの少なくとも1種と、炭化物層12を構成する金属原子とは異なるものであることが好ましい。III族窒化物半導体層15が、In
xAl
yGa
zN(x+y+z=1、0≦x≦1、0<y≦1、0≦z≦1)層である場合、すなわち、Alを含む場合には、炭化物層12は、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウムおよび炭化タンタルのいずれかの層であることが好ましい。
【0013】
炭化物層12は、有機金属気相成長法(MOVPE法)や、スパッタリング法により形成することができる。
たとえば、トリメチルアルミニウムを使用して、MOVPE法により、炭化アルミニウム層を形成してもよい。また、たとえば、ターゲットをTiとし、スパッタガスとしてArガスを使用し、反応性ガスとしてメタンガスを使用した反応性スパッタリングにより、炭化チタン層を形成してもよい。
炭化物層12の厚みはたとえば、20〜500nmである。20nm以上とすることで、炭化物層12の結晶性を向上することができ、また、500nm以下とすることで炭化物層12と基材層11とを剥離しやすくすることができる。
【0014】
(炭化物層12の窒化)
次に、
図1(b)に示すように、炭化物層12を窒化して、窒化された炭化物層12(符号120で示す)を形成する。窒化された炭化物層12は、基材層11に接する炭化物層12Aと、この炭化物層12A上に形成され、炭化物層12Aの結晶情報を引き継いだ窒化物層13とを有することとなる。ただし、窒化物層13は、完全に炭化物層12Aを被覆しておらず、炭化物層12Aの一部が露出していてもよい。また、詳しくは後述するが、窒化物層13および炭化物層12Aの結晶性によっては、窒化物層13が炭化物層12Aを完全に被覆していてもよい。
【0015】
たとえば、炭化物層12を以下の条件で窒化することができる。
窒化ガス:アンモニア(NH
3)ガス、H
2ガス、N
2ガス
窒化温度:300℃〜900℃
窒化時間:5分〜60分
なお、窒化温度は500℃以上700℃以下であることがより好ましく、特に好ましくは550℃以下である。
この工程では、炭化物層12の表面において、以下の反応(1)あるいは(2)が起こる。
Al
4C
3+4NH
3→4AlN+3CH
4・・・(1)式
2MC+2NH
3+H
2→2MN+2CH
4・・・(2)式
(2)式において、Mは、Ti、Zr、Hf、V、Taのいずれかである。
【0016】
このとき、窒化温度を550℃以下とすることで、CH
4が分解してCが析出し、Cが窒化物層に混入することを抑制できる。これにより、III族窒化物半導体層の結晶性の低下を防止できる。Cの析出を抑制するには、水素の導入やアンモニア分圧を高めるのが有効である。
なお、300℃から900℃に昇温しながら炭化物層12を窒化してもよい。このようにすることで、窒化工程において、後述するIII族窒化物半導体層15の成膜温度付近まで、温度を近づけることができ、製造時間の短縮を図ることができる。
また、この工程で形成する窒化物層13の厚みは50nm以下であることが好ましい。
このように、窒化物層13の厚みを薄くしておくことで、基材層11を容易に剥離することができる。
【0017】
なお、炭化物層12を窒化する際の反応ガスとしては、アンモニアが好ましい。反応ガスとしてアンモニア以外に窒素を使用しても窒化物を形成できるが、Cが生成し、Cが窒化物層13に混入した場合にはIII族窒化物半導体層の結晶品質に影響を与える可能性がある。
【0018】
ここで、Al
4C
3からAlN、TiCからTiN、ZrCからZrN、HfCからHfN、VCからVNまたはTaCからTaNへの結晶情報の引継ぎは、これら炭化物と窒化物の結晶構造が同一で、格子不整合が小さいため極めて良好である。かつこれらすべての化合物の結晶構造が、六方晶あるいは面心立方晶に属するため、III族窒化物半導体層をエピタキシャル成長するのに適している。
【0019】
(III族窒化物半導体層15のエピタキシャル成長)
次に、窒化された炭化物層12上に、III族窒化物半導体層15をエピタキシャル成長させる。
本実施形態では、III族窒化物半導体層が、GaN半導体層である場合、成長条件は、たとえば、以下のようにすることができる。
【0020】
成膜方法:HVPE(hydride vapor phase epitaxy)法
成膜温度:1000℃〜1050℃
成膜時間:30分〜270分
膜厚:100μm〜500μm
これにより、
図1(c)に示すように、III族窒化物半導体層15が設けられることとなる。
なお、前記成膜温度よりも低温で、III族窒化物半導体の低温成長バッファ層を形成した後、上記成長条件で、III族窒化物半導体のエピタキシャル成長を実施してもよい。
また、III族窒化物半導体のファセットを形成した後、上記成長条件で、III族窒化物半導体のエピタキシャル成長を実施して、平坦膜であるIII族窒化物半導体層15を得てもよい。
【0021】
ここで、
図2を参照して、ハイドライド気相成長(HVPE)装置3について簡単に説明しておく。
図2は、HVPE装置3の模式図である。
【0022】
HVPE装置3は、反応管31と、反応管31内に設けられている基板ホルダ32とを備える。また、HVPE装置3は、III族原料ガスを反応管31内に供給するIII族原料ガス供給部33と、窒素原料ガスを反応管31内に供給する窒素原料ガス供給部34とを備える。さらに、HVPE装置3は、ガス排出管35と、ヒータ36、37とを備える。
【0023】
基板ホルダ32は、反応管31の下流側に回転軸41により回転自在に設けられている。ガス排出管35は、反応管31のうち基板ホルダ32の下流側に設けられている。
【0024】
III族原料ガス供給部33は、ガス供給管311とソースボート312とIII族(Ga)原料313と反応管31のうち遮蔽板38の下の層とを含む。
【0025】
窒素原料ガス供給部34は、ガス供給管341と反応管31のうち遮蔽板38の上の層とを含む。
【0026】
III族原料ガス供給部33は、III族原子のハロゲン化物(たとえば、GaCl)を生成し、これを基板ホルダ32上の窒化された炭化物層12の表面に供給する。なお、
図2においては、基材層11および窒化された炭化物層12で構成される積層体を符号Aで示している。
【0027】
ガス供給管311の供給口は、III族原料ガス供給部33内の上流側に配置されている。このため、供給されたハロゲン化水素ガス(たとえば、HClガス)は、III族原料ガス供給部33内でソースボート312中のIII族原料313と接触するようになっている。
【0028】
これにより、ガス供給管311から供給されるハロゲン含有ガスは、ソースボート312中のIII族原料313の表面または揮発したIII族分子と接触し、III族分子をハロゲン化してIII族のハロゲン化物を含むIII族原料ガスを生成する。なお、このIII族原料ガス供給部33の周囲にはヒータ36が配置され、III族原料ガス供給部33内は、たとえば800〜900℃程度の温度に維持される。
【0029】
反応管31の上流側は、遮蔽板38により2つの層に区画されている。図中の遮蔽板38の上側に位置する窒素原料ガス供給部34中を、ガス供給管341から供給されたアンモニアが通過し、熱により分解が促進される。なお、この窒素原料ガス供給部34の周囲にはヒータ36が配置され、窒素原料ガス供給部34内は、たとえば800〜900℃程度の温度に維持される。
【0030】
図中の右側に位置する成長領域39には、基板ホルダ32が配置され、この成長領域39内でGaN等のIII族窒化物半導体の成長が行われる。この成長領域39の周囲にはヒータ37が配置され、成長領域39内は、たとえば1000℃〜1050℃程度の温度に維持される。
【0031】
III族窒化物半導体層15を形成する工程の初期においては、窒素原料ガスにより、窒化された炭化物層12の表面がさらに窒化されてもよい。
そして、III族窒化物半導体層15を形成する工程の初期においては、窒化された炭化物層12の表面に露出した炭化物と、III族窒化物半導体とが以下のように反応すると考えられる。ここでは、III族窒化物半導体がGaNである場合を例にあげて説明する。
Al
4C
3+4GaN→4AlN+4Ga+3C・・・(3)式
MC+GaN→MN+Ga+C・・・(4)式
(4)式において、Mは、Ti、Zr、Hf、V、Taのいずれかである。
また、窒化物層13および炭化物層12Aの結晶性によっては、以下のような反応が生じる場合もある。III族窒化物半導体が熱分解して、窒素原子と、III族原子とになる。この熱分解により生じた窒素原子が、窒化物層13中の隙間(たとえば、結晶粒界あるいは微小クラック)を通じて炭化物層12Aの表面、場合によっては、炭化物層12Aの表面層内の隙間(たとえば、結晶粒界あるいは微小クラック)に達し、炭化物層12A表面および表面層の炭化物が窒化物となる反応が生じることもある。
【0032】
なお、上記記載から理解できるように、III族窒化物半導体層15を形成する工程の初期において、窒化物層13の厚みは厚くなって、窒化物層13Aとなる(
図1(c)参照)。また、上記記載からも理解できるように、III族窒化物半導体層15を形成する工程の初期において、炭化物層12Aの厚みは薄くなり、炭化物層12Bとなる。
また、上記(3)、(4)の反応や、III族窒化物半導体の熱分解により、析出したIII族原子は、III族窒化物半導体層15と、窒化物層13Aとの間に位置することとなり、III族元素析出層14が形成される。
【0033】
III族窒化物半導体層15の厚みは、基材層11およびIII族窒化物半導体層15の線膨張係数差により発生してしまう応力を小さくするという観点から、たとえば、600μm以下であることが好ましく、特には450μm以下であることが好ましく、なかでも300μm以下であることが好ましい。さらに、III族窒化物半導体層15の厚みは、取り扱い性の観点から50μm以上であることが好ましい。
【0034】
次に、III族原料ガス供給部33からの原料ガスの供給、窒素原料ガス供給部34からのガスの供給を停止し、III族窒化物半導体の成長を停止する。HVPE装置3のヒータ36,37による加熱を停止し、基材層11、炭化物層12B、窒化物層13A、III族元素析出層14およびIII族窒化物半導体層15からなる積層体Bを常温(たとえば、25℃)まで冷却した後、HVPE装置3から取り出す。なお、この冷却過程において、基材層11と、III族窒化物半導体層15とが剥離してしまうことはない。
そして、以上の工程を繰り返して、複数の積層体Bを用意する。
【0035】
(剥離工程)
次に、複数の積層体Bをエピタキシャル成長温度よりも高い温度で加熱して熱処理する。熱処理する際には、たとえば、HVPE装置3を使用し、積層体Bを、たとえば、ヒータ37で取り囲まれている領域内(たとえば、配管40の下流側であり、成長領域39内)に配置し、積層体Bをヒータ36、37で加熱する。
たとえば、
図3に示すような治具51を用意し、複数の積層体BをHVPE装置3内に配置する。表面に凹部511が形成された治具51の凹部511に、積層体Bを挿入する。
そして、ヒータ36、37を駆動して、複数の積層体Bを同時に加熱処理する。なお、この熱処理工程においては、III族窒化物半導体層15の成長は停止した状態である。また、HVPE装置3とは別に熱処理装置を用意し、積層体Bを加熱処理してもよい。
【0036】
熱処理工程において、III族窒化物半導体層15から、基材層11が剥離することとなる。III族窒化物半導体層15と基材層11との剥離は、たとえば、炭化物層12Bと基材層11との界面付近で起こる。熱処理過程において、前記積層体に外力を物理的に加えることなく、III族窒化物半導体層15と基材層11との剥離が生じる。
熱処理過程において、III族窒化物半導体層15と基材層11との剥離が生じていることは、以下の点から推測できる。
熱処理中にIII族窒化物半導体層15と基材層11との固着力が十分に低減されていない場合には、III族窒化物半導体層15と基材層11との固着力が強い部分と弱い部分とが混在することとなる。そして、冷却工程において、III族窒化物半導体層15と基材層11との線膨張係数差に起因して発生する応力分布が不均一となり、III族窒化物半導体層15の割れを誘発すると考えられる。これに対し、本実施形態では、後述する冷却工程後のIII族窒化物半導体層15に割れが生じないことから、冷却工程に入る前段の、熱処理工程において、III族窒化物半導体層15と、基材層11との間の固着力が低減されて固着力がほとんど失われ、熱処理工程中で、III族窒化物半導体層15と基材層11との剥離が生じていると考えられる。
本実施形態においては、複数の積層体Bを同時に加熱するので、一つの加熱処理工程において、複数の積層体BのIII族窒化物半導体層15と基材層11とを剥離することができる。
【0037】
III族窒化物半導体層15と基材層11との剥離が生じるメカニズムは明らかではないが、以下のようであると推測される。
前述したIII族元素析出層14には、III族原子が存在している。さらには、熱処理により、III族窒化物半導体層15を構成するIII族窒化物が分解して、III族原子が形成されることとなる。
III族原子は、融点が低いため、熱処理過程では液状となる。そして、III族原子は、
図4(a)に示すように、窒化物層13Aを通り、炭化物層12Bに達することとなる。
図4(a)の矢印は、III族原子が窒化物層13Aを通過する様子を示している。
そして、炭化物層12Bでは、以下の反応が生じると考えられる。ここでは、III族窒化物半導体がGaである例をあげて説明する。
Al
4C
3+4Ga(l)→4Al−Ga(l)+3C・・・(5)式
MC+Ga(l)→M−Ga(l)+C・・・(6)式
(6)式において、Mは、Ti、Zr、Hf、V、Taのいずれかである。
なお、式(5)や(6)の反応を進行させる観点から、III族窒化物半導体層のIII族原子と、炭化物層12Bを構成する金属原子とは異なるものであることが好ましい。
【0038】
これにより、炭化物層12Bの炭化物の結晶構造が破壊され、炭化物層12Bと基材層11との密着性が悪化する。そして、III族窒化物半導体層15と基材層11との剥離が生じる(
図4(b)参照)。III族窒化物半導体層15と基材層11との剥離が生じる箇所は、特に限定されないが、炭化物層12Bと基材層11との界面で剥離が起り、III族窒化物半導体層15と基材層11との分離が生じる場合や、炭化物層12B中に亀裂が生じて炭化物層12Bが2つに分離され、III族窒化物半導体層15と基材層11との分離が生じる場合が多い。
【0039】
熱処理温度は、III族窒化物半導体層15の成長温度よりも高い。III族窒化物半導体層15の成長温度よりも高い温度で熱処理することで、式(5)や(6)の反応が進行しやすくなり、III族窒化物半導体層15と基材層11とを剥離できる。
なかでも、1100℃以上、1300℃以下であることが好ましい。さらには、1150℃以上1250℃以下であることが好ましい。1100℃以上で熱処理することで、Gaの浸透速度が適度に高まり、外力を加えることなく、熱処理中にスムーズに基材層11をIII族窒化物半導体層15から剥離することができる。1300℃以下とすることで、III族窒化物半導体層15の過剰な分解を抑制することができる。
また、上述した熱処理温度で加熱する時間(熱処理時間)は、たとえば、5時間〜15時間であることが好ましく、なかでも、6〜10時間であることが好ましい。このように、5時間以上の加熱を行なうことで、III族原子が炭化物層12Bに達し、炭化物層12Bの炭化物の結晶構造を剥離が可能な程度に壊すことができる。
【0040】
このように、本実施形態においては、熱処理中に上述したようなメカニズムでIII族窒化物半導体層15と基材層11との剥離が生じると考えられる。そして、基材層11とIII族窒化物半導体層15との線膨張係数差による応力にほとんど依存せずに、基材層11とIII族窒化物半導体層15とを剥離することができる。そのため、基材層11とIII族窒化物半導体層15との剥離形状に大きなばらつきが生じにくく、所望の下地基板10を生産性良く得ることができる。
また、上述したメカニズムでIII族窒化物半導体層15と基材層11とを分離するので、基材層11およびこの基材層11上に形成されるIII族窒化物半導体層15の径が大きい場合でも、基材層11とIII族窒化物半導体層15との剥離形状に大きなばらつきが生じにくく、所望の下地基板10を生産性良く得ることができる。
たとえば、基材層11およびIII族窒化物半導体層15の径(下地基板10の径に該当)は、10mm以上200mm以下とすることができる。
【0041】
ここで、基材層11、炭化物層12B、窒化物層13A、III族元素析出層14、III族窒化物半導体層15で構成される積層体を、非酸化性ガス中で熱処理することが好ましい。たとえば、窒素原料ガス供給部34から窒素ガスを供給してもよく、また、配管40から非酸化性ガスを供給して、成長領域39を非酸化性ガス雰囲気としてもよい。
非酸化性ガスとしては、Arガス等の希ガスおよびN
2ガスのいずれかから1種以上を選択することができる。非酸化性ガス雰囲気下で熱処理を行なうことで、III族窒化物半導体層15の酸化を抑制することができる。
なかでも、非酸化性ガスとして、N
2ガスを使用することが好ましい。窒素は、アンモニアに比べて窒化力が低いため、N
2ガスを使用することで、III族窒化物半導体層15表面のN原子の脱離を一定程度抑制できる一方で、適度にIII族窒化物の分解が起こり、III族原子を生成することができる。
そして、生成したIII族原子により、上述した反応(5)あるいは(6)を生じさせて、基材層11とIII族窒化物半導体層15との分離を促進させることができる。
【0042】
その後、HVPE装置3のヒータ36,37による加熱を停止し、基材層11とIII族窒化物半導体層15とが分離した状態となった前記積層体を常温(たとえば、25℃)まで冷却する。そして、基材層11とIII族窒化物半導体層15とが分離した状態となった前記積層体BをHVPE装置3から取り出す。
III族元素析出層14からのIII族原子が、炭化物層12B中に達して、剥離を起こすため、III族窒化物半導体層15と基材層11との分離界面、たとえば、III族窒化物半導体層15を含む側の構造体の表面には、III族元素で構成される液滴あるいは液滴が固化したもの(たとえば、Gaの液滴)が点在して存在する。
【0043】
また、得られたIII族窒化物半導体層15の表面(ここでは、基材層11側に位置していた面と反対側の表面、たとえばGa面)にピットが形成されてもよい。前述したように、熱処理中には、III族窒化物半導体層15の表面においてIII族窒化物半導体の分解が起こり、窒素がN
2となって揮発するとともに、III族原子は炭化物層12B側に移動するのでピットが形成されることがある。このピットは、III族窒化物半導体層15の厚さ方向に沿った断面が断面三角形状(V字状)であり、III族窒化物半導体層15の前記表面側から厚さ方向に沿って縮径している構造となることが好ましい。たとえば、六角錐形状となる。
このようにV字のピットが形成される場合には、転位がV字のピットの斜めファセット面に突き当たり、延伸方向を変え、たとえば、成長方向と垂直な方向(成長方向がc軸である場合には、m軸やa軸)方向に延伸することになる。これにより、III族窒化物半導体層15表面の転位密度を低減させることができる。
【0044】
その後、III族窒化物半導体層15を含む側の構造体を酸(たとえば、塩酸水溶液あるいは、リン酸と硫酸の混合液)で洗浄して、III族元素の液滴あるいは液滴が固化したものを除去する。また、この工程において、III族窒化物半導体層15と基材層11との分離界面に存在するIII族元素の液滴あるいは液滴が固化したものだけではなく、炭化物層12B、窒化物層13A、さらには、III族元素析出層14もエッチングしてもよい。
さらに、必要に応じて、前記構造体を研磨して、炭化物層12B、窒化物層13A、さらには、III族元素析出層14を除去し、
図4(c)に示すように、III族窒化物半導体層15からなる単結晶の下地基板10を得る。この下地基板10は自立基板である。
【0045】
ここで、本実施形態では、基材層11とIII族窒化物半導体層15との線膨張係数差による応力にほとんど依存せずに、基材層11とIII族窒化物半導体層15とを剥離することができる。基材層11には、基材層11とIII族窒化物半導体層15との線膨張係数差による応力がほとんどかからない。そのため、基材層11をリサイクルして、再度、上述した工程を実施することができる。すなわち、基材層11上に再度、炭化物層12を形成し、窒化し、III族窒化物半導体層15を形成し、基材層11とIII族窒化物半導体層15とを分離する工程を実施することができる。これにより、下地基板10の生産コストを低減できる。
【0046】
(半導体基板の製造工程)
次に、
図5(a)および(b)に示すように、下地基板10を用いて、III族窒化物半導体層21の厚膜成長を行い、半導体基板2を製造する。
このとき、あらかじめ下地基板10の選別を行ってもよい。たとえば、複数の下地基板10を製造した後、下地基板10の結晶欠陥密度を基準に、複数の下地基板10を選別して、基準値以上の下地基板10上にIII族窒化物半導体層21を形成してもよい。
本実施形態では、厚みの薄い下地基板10を形成した後、この下地基板上にIII族窒化物半導体層21の厚膜成長を行なうので、下地基板10に欠陥がある場合には、III族窒化物半導体層21の厚膜成長前に下地基板10を予め選別し、除去しておくことができる。これにより、半導体基板の製造コストの低減を図ることができる。
【0047】
ここで、III族窒化物半導体層21は、下地基板10の2倍以上の厚さであることが好ましい。
III族窒化物半導体層21の成長条件は、たとえば、以下のようにすることができる。III族窒化物半導体層21は、下地基板10と同じ組成のIII族窒化物で構成されていることが好ましい。
【0048】
成膜方法:HVPE(hydride vapor phase epitaxy)法
成膜温度:1000℃〜1050℃
成膜時間:30分〜270分
膜厚:500μm〜900μm
前述したHVPE装置3を使用してIII族窒化物半導体層21を製造することができる。
これにより、下地基板10と、III族窒化物半導体層21とを有する基板2を得ることができる。
ここで、III族窒化物半導体層21は、下地基板10の表面のうち、基材層11側に位置していた面と反対側の表面から成長させることが好ましい。
なお、
図6に示すように下地基板10の表裏面それぞれから、III族窒化物半導体層21,22を成長させて基板2を得てもよい。なお、III族窒化物半導体層22も下地基板10と同じ組成のIII族窒化物で構成されていることが好ましい。
【0049】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
たとえば、前記実施形態では、HVPE装置3から、基材層11、炭化物層12B、窒化物層13A、III族元素析出層14、III族窒化物半導体層15で構成される積層体Bを取り出した後、熱処理を行なったが、これに限られるものではない。たとえば、III族窒化物半導体層15の成長を行なった後、連続して、HVPE装置3内で積層体Bの熱処理を実施してもよい。
【0050】
また、本実施形態では、HVPE装置3内には、基板ホルダ32が一つであったが、これに限らず、複数あってもよい。この場合には、複数の基材層11上に、III族窒化物半導体層15を形成して複数の積層体Bを構成し、その後、成長工程に連続して、複数の積層体Bを熱処理することができる。
【0051】
また、下地基板10(III族窒化物半導体層15)のIII族窒化物半導体およびIII族窒化物半導体層21,22は、In
xAl
yGa
zN(x+y+z=1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1)であればよい。
【実施例】
【0052】
次に、本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
前記実施形態と同様の方法で、下地基板10を作製し、その後、下地基板10上に、III族窒化物半導体層21を形成して、基板2を得た。
【0053】
炭化物層12として炭化チタン層を形成した。基材層11としては60mmφサファイア基板を使用した。
【0054】
(炭化チタン層の形成工程)
成膜方法:反応性スパッタリング
成膜温度:800℃
圧力:0.4Pa
スパッタガス:Arガス
反応性ガス:CH
4
ターゲット:Ti
反応性ガス流量:5sccm
膜厚:120nm
【0055】
(炭化チタン層を窒化する工程)
窒化温度:300℃から900℃への昇温過程(昇温速度20℃/分)
窒化時間:30分
窒化ガス:NH
3ガス
【0056】
その後、III族窒化物半導体層15として窒化ガリウム(GaN)半導体層を成長させた。はじめに、バッファ層を形成し、その後、続けてGaNの主成長を行なった。条件は以下の通りである。
(GaN半導体層をエピタキシャル成長させる工程)
(GaNバッファ層)
成膜方法:HVPE
成膜温度:970℃
成膜ガス:GaClガス 180cc/min、NH
3ガス 3300cc/min
厚さ:5μm
【0057】
(主成長層)
成膜方法:HVPE
成膜温度:1040℃
成膜ガス:GaClガス 180cc/min、NH
3ガス 1800cc/min
厚さ:450μm
【0058】
主成長層の成長が終わった後、HVPE装置を冷却し、基材層、窒化された炭化物層、GaN半導体層が積層された積層体Bを取り出した。
以上の工程を実施して、基材層、窒化された炭化物層、GaN半導体層が積層された積層体Bを20枚用意した。
【0059】
(剥離工程)
次に、前記実施形態と同様、熱処理を行なった。前記実施形態と同様に、HVPE装置中に20枚の積層体Bを配置した。
そして、窒素ガス中で、以下の熱処理を行なった。
(熱処理)
温度:1200℃
雰囲気:N
2ガス
処理時間:8時間
1200℃で8時間熱処理した後、常温まで冷却した。GaN半導体層は非常に薄いため、冷却過程で、GaN半導体層と基材層11との線膨張係数差による力でGaN半導体層と基材層11とが剥離した場合には、GaN半導体層には亀裂が生じる。これに対し、本実施例では、GaN半導体層には亀裂が生じていないことから、GaN半導体層と基材層11との固着力は熱処理中に失われ、熱処理中に、GaN半導体層と基材層11との剥離が生じていると考えられる。
【0060】
その後、GaN半導体層と基材層11との剥離により得られたGaN半導体層側の構造体を洗浄した。GaN半導体層側の構造体を、洗浄液に浸漬した。具体的な洗浄条件は以下のようである。なお、この工程において、III族窒化物半導体層15と基材層11との分離界面に存在するGaだけではなく、炭化物層12B、窒化物層13A、さらには、III族元素析出層14が除去された。
(洗浄工程)
洗浄液:リン酸+硫酸混合液
温度:150℃
時間:1時間
以上の工程により、厚さ350μmのGaN半導体層からなる自立した下地基板10を20枚得た。
その後、得られた下地基板10を用いて、GaN層の厚膜成長を行った。成長条件は以下の通りである。
(厚膜成長工程)
成膜方法:HVPE
成膜温度:1040℃
成膜ガス:GaClガス 180cc/min、NH
3ガス 1800cc/min
ドーピング:Siドープ
含有量3000ppmのジクロロシラン(Si
2H
2Cl
2)3cc/minにHCl 3cc/minを混合し、HVPE装置に導入した。
厚さ:1100μm
【0061】
(比較例1)
実施例1の剥離工程を実施せずに、基材層付きのGaN半導体層を形成した後、実施例1と同様に、HVPE装置を冷却してHVPE装置から取り出した。その後、再度、基材層付きのGaN半導体層をHVPE装置に入れて、実施例1と同様の厚膜成長を行なった。厚膜成長後の冷却過程で熱応力を利用してGaN層と基材層とを分離した。他の点は、実施例1と同様である。厚さ1000μmのGaN自立基板を得た。
【0062】
(実施例1および比較例1の結果)
比較例1では、20枚中5枚のGaN自立基板にクラックが発生してしまったのに対し、実施例1では、熱処理工程で20枚中20枚とも、クラックを発生させずに、GaN半導体層と基材層とを剥離することができた。そのため、20枚のクラックのないGaN自立基板を得ることができた。
【0063】
また、
図7に、実施例1の熱処理工程において、下地基板表面(基材層と反対側の表面)に多数のピットが形成された例を示す。
図7は、下地基板表面付近の断面SEM(走査型電子顕微鏡)像である。この基板上に成長した厚膜GaN結晶の転位密度(面密度)は、1×10
6cm
−2であった。比較例1で得られた厚膜GaN結晶は、転位密度2×10
6cm
−2であり、比較例1よりも、転位密度が改善されていた。
以下、参考形態の例を付記する。
1. 基材層上に、炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウムおよび炭化タンタルから選択されるいずれかの炭化物層を形成する工程と、
前記炭化物層を窒化する工程と、
前記窒化された炭化物層上に、III族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる工程と、
前記基材層、前記炭化物層およびエピタキシャル成長後の前記III族窒化物半導体層を前記エピタキシャル成長の成長温度よりも高い温度で熱処理し、
前記III族窒化物半導体層と前記基材層とを剥離して、前記III族窒化物半導体層を含むIII族窒化物半導体の下地基板を得る工程とを含む下地基板の製造方法。
2. 1に記載の下地基板の製造方法において、
前記熱処理をする際には、前記基材層、前記炭化物層および前記III族窒化物半導体層を1100℃以上、1300℃以下で加熱する下地基板の製造方法。
3. 1または2に記載の下地基板の製造方法において、
前記熱処理する際には、5時間以上、前記基材層、前記炭化物層およびエピタキシャル成長後の前記III族窒化物半導体層を熱処理し、前記熱処理中に前記III族窒化物半導体層および前記基材層間の固着力を低減する下地基板の製造方法。
4. 1に記載の下地基板の製造方法において、
前記熱処理中に、前記III族窒化物半導体層と前記基材層間とが剥離する下地基板の製造方法。
5. 1乃至4のいずれかに記載の下地基板の製造方法において、
前記熱処理をする際には、前記基材層、前記炭化物層および前記III族窒化物半導体層を非酸化性ガス中で加熱する下地基板の製造方法。
6. 1乃至5のいずれかに記載の下地基板の製造方法において、
前記熱処理をすることで、前記III族窒化物半導体層表面にピットが形成される下地基板の製造方法。
7. 1乃至6のいずれかに記載の下地基板の製造方法において、
III族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる前記工程では、厚さ600μm以下の前記III族窒化物半導体層を形成する下地基板の製造方法。
8. 1乃至7のいずれかに記載の下地基板の製造方法を含むIII族窒化物半導体基板の製造方法であり、
前記下地基板の製造方法により、製造された前記下地基板上に、さらにIII族窒化物半導体層を成長させる工程を含むIII族窒化物半導体基板の製造方法。
9. 8に記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法において、
さらにIII族窒化物半導体層を成長させる前記工程では、前記下地基板の表裏面それぞれにIII族窒化物半導体層を成長させるIII族窒化物半導体基板の製造方法。